タイトル:【初夢2】巡る交響曲マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/16 03:48

●オープニング本文


※このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません。

 夜の帳が街を覆う。
 煌びやかなネオンは夜の黒に押され気味で、オフィス街の窓から漏れる光も心細げに彷徨うばかり。行き交う人々が傍若無人に街を蹂躙すれば、過ぎる車は街から目を背けるように家路を急ぐ。
 絶える事のない筈の街の雑音。それを頻繁に切り裂いていく、けたたましい警察車両のサイレン。
 人々は熱に浮かされた語り口で噂する。
 やはり使徒が舞い降りたのだ、と。

 ◆◆◆◆◆

「またか」
 オフィス街の一角、高層ビル屋上の壁面を見て柊刑事が独りごちる。視線の先にはスプレーで走り書きされた文が残されており、今噂の『使徒』関連である事が判る。これまでの『使徒』関連事件で情報統制して非公開にしている文章が、一字一句間違いなくここにも再現されているのだ。

『外敵を屠るを第一とし

 番を差し出すを第二とせよ

 金色の魔王は贄を喰らい

 憂き世に途を示される』

『使徒はタクトを振るう。変革を望む者、我を讃え楽譜を刻め。さすれば時の鐘は鳴り響かん』

 と。
 文章自体も意味不明だが、『使徒』とやらが独りでこれを方々に書いていっているのかも判らない。時とはいつなのか。何をやらかすつもりなのか。柊刑事は疲れたように紫煙を燻らせた。
 煙は夜風に乗ってオフィス街の空に消える。遥か地上では、コートに身を包んだ一般市民――善良であるかは甚だ疑問ではあるが、そんな彼らが足早に街を陵辱していく。
 コンクリートの森を抜ける風が、寒々しい音を上げて啼いた。

 その、悲鳴を聞き。
『使徒』は静かに目を見開く。時は、満ちた。
「さあ。宴を始めよう」

▼簡易マップ
                   北

                 洋 上
                   |
         軍施設―――港 湾―――空 港
                   |
ホール―――美術館―――繁華街―――オフィス街―――タワー
           |       |       |
       総合体育館――学 校――― 住 宅 街
                   |
                 旧市街

                   南

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

「タクトを振るう、か」
 夕暮の雑踏を抜ける。漏れそうな笑みを噛み殺し、男――使徒は呟く。
「我ながら妙なものだ。大願を前に遊びすぎだな‥‥まぁいいさ。参ろうか。我が理想郷へ」
 そうして懐から通信機を取り出すと、男は言葉を紡ぎ始めた。使徒の噂を楽しむ人々を掌握する、魔性の言葉を‥‥。

●夜の帳
「日直、何かありますか?」
「ありませんわ」
「では号令」
 きりーつ、れい!
 下校の挨拶が教室を満たす。外は橙に染まり、途端に授業で疲労した精神を実感させられた。
 生徒1人ずつをファブニール(gb4785)は教壇から見送る。そのうち制服を着崩した鷹司 小雛(ga1008)とトンガリ帽の白蓮(gb8102)が話しながら通り過ぎていく。
「あ、ちょっと」
「はいっ? 今すごく忙しいので早めにお願いしますっ」
 帽子のツバをぴこぴこさせ、白蓮。ファブニールが制服を押し上げてやまない小雛の胸を見ないようにして訊く。
「今『使徒』って言ったかな。君達は何か知ってるのかい?」
「‥‥確か先生もヴァステル様をご存知と思いますが。わたくし達もそのようなものですわ」
「事件を止めたい?」
「ですっ! 楽しい噂ならいいですけど、この世に仇なす脅威は許せませんっ」
 反使徒の2人に安心し、気をつけるよう注意してファブニールは2人と別れる。
 ――僕だけでは街全ては守れない。でも、この学校は。必ず守る。
 夕闇の入り込む教室で独り、彼はステッキを握り締めた。

 2人の女子高生は繁華街を歩く。時計の針は6時を指し、肌寒さが不吉なものを予感させる。
「だからですね、敵の秘密基地とかっ」
「ええ」
「資金源とかっ」
「そう」
「あると思ったのにっ、のにっ!」
「それでバンソコだらけなのですわね」
 煌びやかなネオンに、擦り剥いた白蓮の膝が照らされる。住宅街にオフィス街にと駆け回った白蓮の苦労が窺い知れた。
 うぅ〜と涙目な白蓮を小雛が慰める。その時
「今のは‥‥。でしたらわたくしは‥‥」
 人波を抜けて北へ向かう知己の姿を捉えたのだった。

 港湾部。潮騒が暗くなりゆく街に吼え、海の匂いが昼と夜を隔絶する。
「うー‥‥何ですかぁロッテさん‥‥今日こそ私が華麗に‥‥事件を解決してぇ‥‥」
「いいじゃないの。どうせ塀を壊しながら彷徨ってたんだから。猫の手も借りたかったのよ」
「こ、壊してない‥‥ですぅ!」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)に首根っこ掴まれたままの幸臼・小鳥(ga0067)が「亀裂だけですぅ」と小声で付け足す。無視してロッテは立ち並ぶ倉庫に街灯、左右の道を見やる。左に軍施設、右に空港。港湾自体も重要施設と考えると、街全体の壊滅等を狙う場合の要衝となり得た。
「街と外界を繋ぐ場所‥‥押さえておくに越した事はないわ」
「確かに‥‥今日の昼にも犯行声明が出ましたし‥‥って、だからそれは私がぁ」
「なら判るの? へっぽこ探偵サマ」
 やはり引き摺られたままの小鳥が上目遣いにロッテを見て唸る。同時にロッテに首を放され、後頭部を打ち付けた。
「にゃぁ‥‥っ」
「遊んでないで、小鳥は左手を見張って。街を守る武器で街を壊されたら‥‥堪らないから」
 どこまでも鬼畜である。
 涙目で詰め寄る小鳥の頭を往なしつつ、ロッテが懐から携帯を取り出す。そして方々に連絡を取っていた、その時。
 けたたましい爆発音が轟いた‥‥!

●使徒、鳴動
「ガイテキを屠り、ツガイを差し出せ」
 嗤って男は歩く。すれ違う若者に声を掛けると、若者は目を見開き、そして光を失う。その光景、まさに『魔王』。
「コンジキの魔王は贄を喰らい、ウキヨに途を示す」
 男は歩く。悠然と。泰然と。
 男は歩く。月明りに浮かぶ、屋上へ‥‥。

 ファブニールは部活を終えグラウンドから引き上げる生徒達に声をかける。使徒の情報が少しでもないか。何か危ない事をしていないか。
 ――ここは、僕達の学び舎なんだ!
 その想いが彼を駆り立てる。
 と、目の前をまた生徒が歩いていく。何気なく別れの挨拶を交わし、直後気付いた。生徒の覚束ない足取りに。
「き、君、保健室へ行きましょう!」
「‥‥りそう、きょう‥‥」
「?」
 ファブニールが疑問を覚えかけた、その瞬間。
 ドォ‥‥ン‥‥!!
 背後の特別教室棟が、吹っ飛んだ‥‥!
「――!」
 恐ろしい爆風に体を持って行かれる。僅かな浮遊感の後、背中から地に叩きつけられた。
「ぁぐッ!?」
 痛い。痛い痛い痛い息ができない視界が薄い音が無い。生徒は学校は自分は。意識が回らない。だが彼は、至近から聞こえた呻き声を頼りに無理矢理頭を叩き起こした。
 同じく爆風を喰らったらしい虚ろな生徒を起こし、携帯を取る。救急――不通。警察――不通。
「く、頼む!」
 一縷の望みを賭け『彼女達』の番号を押した。緊張して待つ。4、5秒。のち、念願の呼出音。向こうが出たと思うや、迸るようにファブニールは口にした。
「学校がやられました、応援お願いします! 僕は、必ず使徒を捕まえます!」

『我が命に従え。さすれば君達は自由になれる。何をしてもいい、我らの国を創るのだ!』
 ある種の言霊を伴った放送が繁華街に流れる。小雛と白蓮がそれを聴いたのは、丁度喫茶店で休憩していた時だった。
「何ですの、この趣味の悪い勧誘は」
「で、でもっ、周り見て下さいっ!?」
 眉を顰める小雛に白蓮だが、店内の客は違う感覚を受信したらしい。若者を中心にカップを投げ落とすや、焦点の合わない瞳で突如殴り合いを始めたのである。
 2人がそれを避け外に出る。するとそこには。
「「「――■■■■!!!!」」」
「‥‥暴、動?」
 街の方々で。硝子は砕け、商品が引き摺り出され。女が髪を引っ張られれば、全裸の男は背後から別の男に刺される。
 怒号は反響して耳を聾する。血潮が2人の足元に飛び散り、顔も判別のつかぬ何かが倒れてきた。
「‥‥ぁ」
 呆然と見つめる白蓮。その何かは僅かに口を開閉した瞬間、振り下ろされたバットに止めを刺された。
「と、止めましょうっ、操られる市民に罪は‥‥っ!」
 咄嗟に飛び退いた白蓮の真横をバットが過る。同時に小雛の右腕が蛇の如く伸び、バットの主の首へ吸い込まれた。左の拳打が水月を貫く。血反吐も吐けない苦痛。白目を剥いた敵を小雛が放る。
 その時、携帯が鳴り響いた。画面には先生の名前。詳細を聞き、2人は足を動かす。
「わたくしは先に面倒な放送を止めますわ。だからこそ放送局の近くにいたのですし」
「このお店にそんな意味が‥‥!」打ちひしがれる白蓮だが、一転して元気に「な、なら私は使徒を成敗しますっ! こんな、こんな‥‥正義の鉄槌ですっ!!」
 2人は走る。喧嘩していた男3人が直線に入る。沈み込むや一足で懐に潜る白蓮。掌底打ち上げ、前宙蹴りで打ち下ろし。別の男が殴りかかる。それを白蓮が体を入れ替え躱した刹那、交差法で小雛の手刀が入った。残る1人の腕を掴んで引き倒し、首にかけて絞め落す。
 露になった小雛の太腿と胸元に気を取られかけ、白蓮が自らの頬を叩いた。
「魔女っ子どりるんと武闘天使くりぃみーこひなんに、敵はないっ!」
 謎の口上を聞きつつ小雛は放送局へ、決めポーズから動き出した白蓮は学校へ――!

●理想郷
 キィ。
 大爆発が起こった事も忘れそうな静寂の中、軋む扉をファブニールは開いた。
 夜風が吹き荒び、コートの裾が舞う。そして目を向けたそこ――屋上の淵に、男はいた。
「使徒‥‥!」
 ゆらりと振り返る男。紳士然とした帽子の奥に双眸が光る。男とファブニール。奇しくも似た服装で、しかし正反対の2人が相対する。
「ほう。溺れぬ者が辿り着いたか。優秀だな。それでいて趣すら解するようだ」
「‥‥。何故、特別棟を」
「催眠・洗脳の切欠のようなものだよ。爆弾などなくとも、学校は物騒な物も多い。いやガツコウ、か」
「?」
 胡乱げなファブニールに驚く男。徐に両腕を広げ哄笑する。
「君はお遊びを解く事なく学校にいたのかね?」
「‥‥ここは、僕達の城です!」
 呆れた教師だと呟くと、使徒は文章の答えと言うのもおこがましい答え合せを始めた。
 曰く。
 詩の頭を繋げればガツコウ。文の内容は起こす事件――つまり学校と隣接地を占拠し独立区を創るのだ、と。
「私自身、思う。馬鹿げた遊びだ」
「あ、貴方は‥‥!」
 歯軋りが響き、心臓が早鐘を打ちまくる。脳が、沸騰した。
「貴方は戯れに人を弄ぶのか!!?」
 我知らず足が動く。右手のステッキに力を込める。駆け出――!?
「残念だ。共に歩めないのは」
 詰め寄らんとしたファブニールに左右から肉薄する虚ろな生徒。10人を超える彼らがファブニールを縁の金網に押し付ける。金網が脆くも曲がり、諸共に――!
「喰らえっ! どりるだいなまいとぉおぉぉおおっ!!」
 転落直前。そんな掛け声と共に床の一部が吹っ飛ぶと、瓦礫に紛れて人影が飛び上がってきた。それは華麗に着地するや、呆然とする使徒と生徒を指差す!
「ある時は女子高生っ、またある時は睡眠まにあっ、しかしてその正体はっ」
 あいつは何を。ファブニールが我が生徒の正気を疑った時、ばーんと正体が明かされた。
「魔女っ子どりるんっ!」
「‥‥。や、白れ‥‥」
「神の名の下に成敗ですっ! 行きますよ見ず知らずの先生っ!」
「ぁ、はい」
 空気を読まぬ力が使徒達を圧倒する‥‥!

「残念ですが、放送をお止めなさいな。拒否なさるのでしたら‥‥」
 小雛がブースに押し入ったのは、白蓮が学校に着く前後の事だった。
 立ち塞がるADを投げ飛ばし、局員を無手の一撃で沈めていく。黒髪が翻る度に人が倒れ、遂には何やら無線機をマイクの前に置いた責任者のみとなる。
「ソレから流れているのですわね?」
「‥‥我ら‥‥理想郷‥‥」
 嘆息する小雛。無造作に間合いへ踏み込む。
「お話になりませんわね」
 一閃!
 強烈なビンタで傾いだ敵を左半身に、そのまま体重をかけ払い腰を繰り出した。
 衝撃。後頭部を打ち付けた敵の目が反転したのを確認すると、小雛は机上の機械を叩き潰す。
「少しは落ち着けばいいのですけれど」
 使徒の命脈を絶った小雛は事も無げに独りごちた。

「酷い惨状ね」
「にゃぁ! こここ怖ぁ‥‥え、えと‥‥ロッテさん、がんばって‥‥下さいですぅー。市民を‥‥守りましょぅー」
「暴徒の方を市民と見做してもいいのだけどね」
「はぅー!?」
 何だかんだで小鳥を背に守り南下するロッテ。港湾から繁華街に下っても尚放送は聞こえ、暴徒は膨れ上がる。随所にバリケードが作られ、まさに外敵を拒むよう。その一角にロッテが飛び込むや、重い足刀蹴りをお見舞いする。吹っ飛ぶ男の体。それがパイプ等で作られた封鎖をぶち破った。
 豪快な、音を立てて。
「‥‥早く、抜けるわよ」
「ろ、ロッテさ‥‥っ」
 涙目な小鳥が言い差した瞬間、暴徒達の視線が一挙に集中し、僅かな沈黙の後。
「ぁあぁーんっ!?」
 殺到した。
 逃げる2人。怒号が2人を追いかける。鉄棒が後ろから飛んできた。躱し、曲がる。が、そこも封鎖。小鳥が頭まで物理的に使って押す。破れない。拙い。後ろから暴徒が距離を詰める。振り返るロッテ。
「やってやろうじゃないの‥‥!」
 そしてロッテが呼気鋭く体を沈めた刹那。
『おやめなさい! 貴方達を縛る‥‥いえ自由にする言葉はもうありませんわ』
 街中のラジオから小雛の叱責が轟き、糸が切れたように暴徒が動きを止めた。
「今のうち‥‥ですぅ!」
 群集の間を縫って学校へ向かう小鳥。ロッテは追従しつつ声の主――同僚刑事の娘に礼を述べた。

●道徳の系譜
「どりるえくせりおーん!」
 徒手空拳が炸裂し、同級生が吹っ飛ぶ。だがその身に傷はない。寸止めされた白r‥‥どりるんの拳圧が猛烈な風を巻き起こすのだ。虚ろな生徒達に動揺が走る。
 それを見逃すファブニールではない。何故なら。
「使徒‥‥僕達の城に手を出した事、後悔してもらいます!」
「ぬぅ!」
 それが教師! 教師故に生徒を想い、戦えるのだから!
 どりるんに感化されそんな事が頭を過った彼は、ステッキを棒術の如く操る。左突き、払って反転、右で振り下ろし。使徒は時に生徒を盾に、時に腕に仕込んだトンファーで弾く。
「くく‥‥実に惜しい。君ならば、いやそこな娘でも。私に成り代る事すらできたであろう!」
「そんなのになんかなりたくないっ! 自分がなりたいのは、平和を愛するヒーローですっ!」
「使徒となればその平和を自らの膝元に創り出せるとしても、かね」
「え‥‥」
 ファブニールのステッキを辛うじて捌き、どりるんを揺さぶる使徒。言い澱んだ隙に生徒を殺到させた。ファブニールがどりるんを助けるべく杖のボタンを押すと、先端から電流が迸る。生徒半数が気を失う。
「白r‥‥どりるん、惑わされてはダメです。そんな切り取られた箱庭の平和に、何の価値があるんですか!!」
「先生‥‥」
「君という男は。つくづく残念だ」
 どりるんに注意を逸らすうち、生徒達がファブニールを包囲した。拙い。内蔵スタンガンの出力は未回復。攻め手が足りない。どうする。
 ふとファブニールはどりるんの方を見やった。交錯する視線。瞳が、語っていた。
 ――命を賭しても。ここで巨悪を逃す訳にいかない。
「先生っ!」「よし!」
 ファブニールがステッキを振り回す。怯む生徒。使徒が生徒を指導する。その命令と実行の僅かな間隙にどり――白蓮が、突っ込んだ!
「どりる‥‥ぶれいか――っ!」
「ぐぅッ!?」
 地を這うタックルが使徒に炸裂する。敵の体が浮き、金網にぶち当たる。が、まだ止まらない。金網がひしゃげ、落ちていく。一蓮托生。死んでも離すまいとした白蓮の捨て身はしかし、敵の膝蹴りで緩んでしまう。
 屋上の縁に倒れる白蓮。敵は中空に身を躍らせ、何と小型パラシュートで降下を始めた。悔しげな白蓮とファブニールに敵が嗤う。
「今宵は遊びすぎた。また出直すとし――」

「次があると思ってるのかしら」

 使徒の笑みが、固まった。視線を下に転じると、そこには。
 警官数人を引き連れ校門の囲いを突破したロッテと小鳥の姿‥‥!
 纏わりつく生徒達を確実に叩きのめす方針は状況を単純にし、使徒が逃げる隙すら生まれない。降下してきた敵にロッテが正対する。小鳥はロッテに渡されたP226を恐々構えた。
「貴方が使徒ね‥‥現行犯逮捕よ」
「私は、私は理想郷を創らねばならんのだ!」
 肉薄する敵。半身ずらし、ロッテが遠心力を込めた後ろ回し蹴りを叩き込む。使徒がくずおれた瞬間、敵トンファーが掠めていたのだろう、ロッテの胸が露になりかけた。慌てて小鳥が抱きついて隠す。
「理想、の‥‥」
「理想なんて妄想より‥‥最高の現実を‥‥創り上げたいですぅー」
 小鳥の言葉を聞き届けぬうちに気を失う使徒。同時に生徒達ががくりと倒れ伏した。
「全く。こんな事件は二度と御免だわ」
 ロッテの嘆息が妙に響く。
 夜の街は変わらず蠢く。第2の使徒を待ち望むかの如く。