タイトル:【北伐】白の剣舞マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/30 23:22

●オープニング本文


「攻撃は最大の防御なり。時を逸し、座して死を待つは用兵の愚である」
 UPC東アジア軍中将、椿・治三郎(gz0196)の決断により、極東ロシア開発を脅かすバグア軍新兵器「雷公石」の発射基地を擁する中国東北部のバグア一大拠点・瀋陽攻略作戦は発令された。
 だが瀋陽はそれ自体が重武装要塞都市へと改造された難攻不落の牙城である。これを陥落させるには過去のあらゆる大規模作戦をも上回る困難が伴うであろう。しかも中国内陸部から侵攻するには、北京包囲軍を始め障害となるバグア支配都市が多いため時間がかかりすぎる。
 そこでUPC軍が選んだのは遼東半島経由の北上ルートによる攻略だが、同時に陽動作戦として黒竜江省、吉林省を経由したロシア側からの侵攻も実施される事になった。その足がかりとして重要なのが中国東北部の要衝・ハルビンの攻略だ。
 これはまた、中国方面から極東ロシアへの再侵攻を図るバグア軍と正面から激突し、その意図を挫くという重要な戦略目的も兼ねている。
 ハルビン攻撃の主力を担うのは極東ロシア軍だが、そのための侵攻ルートは2つ。
 ウラジオストックから綏芬河市(中露国境の町)で中露国境を越えてハルビンに向かい、バグア軍の側面を衝くルート。そしてアムール川(黒竜江)をさかのぼってハバスロフクで中露国境を越えハルビンに向かい、正面からバグア軍を阻むルートである。
 しかしバグア側もかつて大敗した極東ロシア戦での屈辱を晴らすべく、並々ならぬ決意で挑んでくるであろう。陸空を舞台に激戦が予想される。
 傭兵諸君は遊撃戦力として極東ロシア軍を適宜支援して欲しい。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥

「おおぉおおおおおおおぉぉおぉぁあぁああああああ!!!!」
「撃ちまくれェ――! 貴様が撃った数だけ仲間が助かるッ!! とにかく敵陣を抉れぇぇええええ!!!」
 喚声が耳を聾し、脳を麻痺させていく。最前線の兵はひたすら前の敵を撃ち、掻き分け、踏み出す。一歩とて歩みを止めてはならない。たとえ自分が死のうとも、後ろの味方の道を作り続ける。
 側面からの奇襲は、敵中枢を狙うのと同時に敵陣を混乱の坩堝に叩き落し、正面から敵軍と対峙する味方まで間接的に援護せねばならないのだ。だから、止まれない。自分達が生きる為に。味方が生きる為に。
「真ん中の奴ァ前へ進め! 左右は穴を押し広げろ!!」
「ぐあぁああ!」「10時方向にゴーレム!!」「後方退避ィ!!」「迫撃砲が――!」
 銃声銃声銃声。砲声砲声。弾雨が敵味方に降り注ぎ、大隊の外縁の者から順に倒れていく。その屍を乗り越え、兵が進む。白煙が戦場に漂う。空には無数の銃砲撃によってできた雷雲のような煙。
 まごうことなき混沌の戦場が展開される。
「傭兵どの! どうか敵を、奴らを――!!」
 様々な雑音に紛れ、戦場のどこかから不意に大隊副官の声が聞こえた。傭兵達は各々の位置で大隊を生かすべく、あるいは南北に伸びる敵軍を東から西に突き破るべく、引鉄を引く。
 同大隊が先の偵察で傭兵に頼み、慎重に前進を続け、そして秘密裏に敵索敵部隊を処理できたからこそ、今、東に突出してきた敵の群を横撃する事ができている。突出したのは、ここの敵が遊撃部隊としてUPC軍のどこかを奇襲せんとしていたからかもしれない。であるならば、慎重な準備が反攻の目を摘む事になったとも言える。
 その時頼んだ傭兵からは多少危うかったかもしれないとの報告もあったが、副官からすれば充分な戦果に見えた。
 彼らなら、自分がどうなるかはともかく、何かやってくれる。
 そんな信頼が少しでも届くようにと副官が声を張り上げる。
「傭兵ど‥‥! ‥‥武運‥‥‥‥!!」
 全幅の信頼を背に、傭兵達は操縦桿を倒す――――!


▼現在の位置状況
            ↑北の前線へ
       □□□□□□□□□□□□□□□□□□□
    □□□□□□□□□□□□□□□□□▲□□□
  □□□□□□□■□□□□□□□□□□□□□□
 □□□◆◆□□□□□□□□□□□□□5□□□
 □□□□□●□□□□□□□□□□3□□6
 □□□□●□□□□□□□□□1□←大 隊
 □□□□□□□□□□□□□□□2□□□□8  □
 □□□□□□□□□□□□□■□□□□□7□□□□
  □□□□□□□□□□□◆□■□4□□□□□□□
 ビッグ   □□□□□□□□□□□□□□□□
  フィッシュ◆□□□□□□□□□□□□□
            ↓南の部隊等へ

□:中〜大型程度までの獣型を中心としたキメラが雑多に群れていたりいなかったり
■:ゴーレム
●:タートル
◆:キューブ
▲:レックス
数字:傭兵のKV初期配置(便宜上の数字であって、コールサインでも危険度でも何でもありません)

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
刃金 仁(ga3052
55歳・♂・ST
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
シフォン・ノワール(gb1531
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

「うおおおおお!」「左拡げるぞ、何人かついてこい!」
 360度から鳴り響く銃砲火。小隊ごとに果敢に突撃する声が聞こえれば、けたたましい咆哮が轟く。煙は空に、血は土に。天地に体を引き裂かれそうな錯覚。大隊はひたすら進む。
 まだ敵群を抜けるまで先は長い。敵態勢整わぬうちに遮二無二切り拓いていくしか、ない。
「わらわらと鬱陶しい‥‥俺に続いてくれ! 切り拓くぞ!」
 先頭に立ちスラスター銃を撃ちまくる月影・透夜(ga1806)機ディアブロ。虎が倒れるのが見える。止まらず透夜は大隊を率いるが如く群の中に踏み込み、突っ込まんとした熊猫を一閃した。
「‥‥見てるだけで嫌になる量‥‥」
「辺り一面、ですね」
 大隊右翼を守るシフォン・ノワール(gb1531)機アヌビスと夕凪 春花(ga3152)機シュテルン。
 右翼後方、クリア・サーレク(ga4864)機フェニックスの弾幕に合せシフォンもばら撒き、レックスへの道を拓いた。
 同時に西から放たれる大質量。極太の光が透夜と春花を呑み込む!
「ッ、少しでも逸らせば‥‥!」
 網膜まで焼けそうな中で剣を斜めに耐える透夜だが、大口径光線は無情に後ろの大隊へ降り注ぐ。先頭10人程の頭が消し飛んだ。
「ひっ!」「怯むな! なァ傭兵さんよ、俺らとてタダじゃ死なん、さっさと暴れてこい!」
「それはできないわね」
「何言ってやがる、早く行‥‥」「黙りなさい」
 気を吐く兵に、左翼後方のロッテ・ヴァステル(ga0066)はアヌビスから大量の鉛をばら撒きながら。数秒にして200もの機関砲弾が浴びせられ南の群全体が怯んだ。ロッテが駆ける。
「貴方達も無駄に死ぬんじゃないわよ‥‥!」
「あ、あぁ」
「護衛は我輩が引き受けた。随伴歩兵との連動はゼカリアの本領じゃ」
 刃金 仁(ga3052)機のアテナイが恐ろしい弾幕を群に撃ちこむ。さらに主砲脇の対空砲が角度0未満となって敵を襲った。弾幕を跳んで躱した虎を蜂の巣にする。
「お願いっ! まだまだ地獄の戦場が待ってるんだから。当然待ってる人だって。だからこんな所で死んでられないよ? 皆、生きるんだから‥‥全力で!」
 ――皆を救うなんてできないって解ってる。でも、だからボクは!
 右翼クリア機がブーストするや、キメラ群を蹴散らしてRCへ突進する。続くシフォン。RCのプロトン砲を2機が庇い気味に受けるが、大隊後尾の分隊が直に喰らって蒸発した。
「た、ただできる事を‥‥やる、しかないよ。そして、僕ができるのは‥‥」
 明星 那由他(ga4081)機イビルアイズが左翼目前のゴーレムに銃口を向け、淡々と引鉄を引いた。ゴーレム2機が応射して那由他機へ殺到する。その脇を獣さながらに抜けるミア・エルミナール(ga0741)機阿修羅――王虎!
「いっくぞー! 邪魔するやーつはスイッチ1つで‥‥」走りながら炎を吐く!「消毒だー!」
 急転直下の勢いで戦場が動く――!

      □□□□□□□□□□□□□□□□□
   □□□□□□□□□□□□□□□▲□□□□□
 □□□□□□■□□□□□□□□□□クリア□□□
□□□◆□□□□□□□□□□□□□□ シフォン□
□□□◆□●□□□□□□□春花□ □□□
□□□□●□□□□□□ 透夜□←大 隊
□□□□□□□□□□□□□□ □□ 仁 □□□
□□□□□□□□□□□□ミア■□□□ロッテ □
 □□□□□□□□□□□◆□□■那由他 □□□
ビッグ   ◆□□□□□□□□□□□□□□
 フィッシュ□□□□□□□□□□□□□□

●左翼掃討
「ぅサイコロステーキにしてくれる〜!」
 一瞬の飛び出しでCWに張り付いたミアが、頭痛の憂さを晴らすように火炎を解き放つ。が、CWの生死を見る間もなく足元からKVを登ってきた猿に風防を塞がれた。ロデオの如く振り落とすや、宙の猿を角で貫く。
「CWはっと‥‥」
 蠢く群が青い粘液を被っているのを確認。ミアは那由他に向かうゴーレムの背へ頭から突っ込んだ!
「あぁんまり無防備なモンだからさー♪」
「大隊に行かない‥‥よう。引き付けるだけで‥‥いい、から」
 那由他が正面で弾雨を受ける。何とか盾で弾くも、2機がかりの弾幕が手足を削っていく。確実にこちらの数を減らすつもりか。さらに忍び寄った熊猫に脚を殴られ姿勢を崩す那由他。そこに飛来したレーザーが風防を貫いた!
「っ」
「うー‥‥阿修羅だからって舐めんなよ!」
 無視された形のミアが敵右腕を噛み砕くが、やはり敵は那由他へ、そしてその後ろの大隊へ撃ちまくる。
 ミア機王虎が炎を吐いた、瞬間――

「多いのう。だがこいつに敵う道理はないの」
 止まらぬ反動。大隊間近から仁が撃ちまくる。ばら撒かれる銃弾は敵群を虫のように払っていく。直後群から飛んでくる砲弾。仁機が直にそれを受けた。
 大爆発。大量の黒煙が生じる。が。装甲が欠ける事は、ない。
「残念だの。こいつは無茶が出来るよう作っとるんじゃ!」
 兵と共に応射しまくる仁。群が動きを止めた、刹那。
「魔弾隊長の名はね」アヌビスが突っ込む!「伊達じゃないのよ!」
 血潮の道でただ1機、全力のロッテがそこを駆ける。群れた獣は首を垂れるが如く。迎撃出来ぬ僅かな間隙を突き一直線にゴーレムへ。肩口で水平に、剣先を左の敵に定める!
「私達の勢い、止められるかしら?」
 激突‥‥!
 根元まで刺さった剣を引き抜きながら左の剣を一閃する。敵胸部漏電。至近からの銃撃を刀身で受け、返す刀で斬り上げる。
「ミア、那由他!」
「今度こそこっち見やがれ〜!」
 迸る炎。紛れて那由他の弾幕が敵を縛る。間髪入れずミアとロッテが懐に入り込むや、右と左、各々の敵を渾身の力で貫いた‥‥!

●右翼進攻
 銃撃がRCの体に吸い込まれると、その表皮が緑へ変わる。それを確認してシフォンが鬼火を発射するや、クリア機の速度が最高に達した。
「まずは『皆』にとって厄介なお前をっ!」
 飛び込んだクリア機が、溜めに溜めた出力を爆発させるが如く白雪を振り下ろし、薙ぎ払う!
 連撃。
 RCが苦しみつつクリア機の肩に爪を立てる。敵はクリアを南に吹っ飛ばすと、赤くなって巨砲を放った。少しでも兵を守るべく腕を広げて受けるクリア。灼熱に顔を顰め、しかし彼女は笑みを漏らした。
「あは。尻尾を巻いて逃げればよかったのにね」
 何故ならその瞳に。
「‥‥撃ち抜く‥‥止めてみろ‥‥ッ!」
 横腹に潜り込んだシフォン機が、勢いよく機杭を解き放つ姿が‥‥!
『――■■!』
 断末魔を上げながら巨体が倒れ伏す。すぐ傍にシフォンが着地し、見回した。キメラは未だ絨毯のよう。ならばやる事は。
「‥‥私は、前」
「じゃボク、このまま大隊についてくね!」
 2人は周囲に盲撃ちしながら駆け出した。

●中央猛攻
「敵を倒せ! 仲間を信じて駆け抜けろ!」
「「おおおぉぉおおおおおお!!」」
 透夜が深い踏み込みから一閃する。両断される人馬と怖気づく猿。それらを踏み潰すように尚進む。その透夜を追い越し対戦車砲が白煙を曳いていき、前方で着弾した。群の圧力が弱まった隙に駆け抜ける。
「一気に行‥‥」
 瞬間、白煙を突き破って2条の光が襲いくる。再度何とかせんと透夜が庇うが、光線はどうしようもなく兵の命を奪っていく。
「やはり一刻も早く接近するしか‥‥!」
「私が右から行きます。ウイングセット」返答を聞くより早く春花が「突撃!」
 飛び出す。両腕を機体前部で交差させ、風そのものとなって群を抜ける!
 目標は亀の横。装輪が火花を散らす。ゴーレムが立ち塞がる。飛んできた銃弾を回転して躱す春花。威嚇の如く立ち上がった熊猫を一瞬で斬り飛ばす。
「遅いです!」
 撃ちまくるゴーレム。反動で僅かに開いた懐に滑り込んだ春花が、勢いままに貫いた!
 潤滑油を撒き散らして逃れる敵。頭部に振り下ろしてきた銃把を春花が咄嗟に退いて躱す。銃口と至近で見つめ合った。ペダルべた踏み。敵機関銃が火を噴いた直後、敵機を軸に春花機は回転、めくるように敵側面に滑り出た。輝く翼で斬り裂く!
 小爆発。周囲の敵の注意が春花に向いた。瞬間。
「月影さんっ」
「CWを先に叩く。亀は挟撃で行くぞ!」
 中央ど真ん中、白煙の中を突っ切ってきた透夜が引鉄を引く!
 大量の銃弾が亀を怯ませ、その後ろのCWに当る。同時にポンと気の抜ける、しかし戦場に不可欠な音がするや、透夜機の放ったグレネードがCWに飛んでいった。
 爆発。青い断片を確認したその時、光条が唸りを上げて飛来した。1本は春花へ。もう1本は、3度目となる透夜と大隊の方へ‥‥。

●中央右翼、戦果と――
 前面掃射。
 歩き場所も覚束ない群の中、返り血を浴びてシフォンが動く。突出部最北を薄皮一枚残して削るように、辺境を蹂躙し。
「‥‥夕凪‥‥先に亀を‥‥」
「はぇっ? り、了解です!」
 プロトン砲を喰らいながらもゴーレムを圧倒していた春花だが、倒す時間すら惜しい。春花が透夜と共に亀に仕掛けるのに合せ、シフォンが猛烈に回り込んでいく。
 目前には黒煙を上げるも戦意失わぬ敵機。蜥蜴人を蹴り飛ばすと同時に機杭を構えた。そのシフォン機の周りに弾着が生じる。
「雑魚は任せてっ!」
 大隊につきながら銃弾をばら撒くクリア。兵達も喚声を上げてぶっ放す。ついでとばかりクリアがグレネードを放ち、シフォンの左に完全な空白ができた。
 刹那そこに飛び込みゴーレムを貫く――と見せかけて右から敵背後へ回ったシフォンが、巨大杭を打ち込んだ!
 爆発。立ち上る炎。右翼全ての視線が炎とシフォン機に集まる。それを受けて尚、シフォンは平然とヘッドドレスの位置を直した。
「‥‥残りは雑魚‥‥蹴散らす!」
「ん! やっちゃうよー!」

 前衛の兵達が怨嗟の声もなく蒸発していく。歴戦の透夜機にとって耐えうる光線はしかし、後ろの仲間にとって圧倒的な死の光に他ならない。キメラすら巻き込んで直線に放たれる力を1機で遮断する事は、物理的に難しかった。
 より人数をかけ突撃力を増していればあるいは。だが今は。
「俺が必ず奴を殺す! お前達は行け!!」
「「おおおお!!」」
 亀を一刻も早く殺す!
 透夜が一気に接近するや、こちらを向く亀の砲身に砲弾をぶち込んだ。内部爆発。続いてもう1匹。さらに爆発が起こった時、亀背後から春花機が光線を放つ。体勢を崩す敵。1匹が甲羅に篭り、1匹が巨体を揺らし重い爪を振るう。
 剣で受ける透夜。返す刀で砲身を斬り落とす。怒り狂い体当りしてくる敵。正面で透夜が受けた時、春花機の輝く翼が甲羅ごと亀本体を斬り裂いた!
「1匹‥‥わとと」
「砲さえ封じればただの木偶だ。早く片付けるぞ」
 立ち上った爆炎に巻き込まれかける春花機だが、素早く噴射して退避、そのまま篭った亀に槍をぶちかました。不利を悟ったのだろう、敵は甲羅から飛び出すなり春花機の脚を掴み引き倒した。踏み潰し。鈍足ながら大質量のそれを春花機が腕で受ける。
 ガァン!
 重い。が、折れそうな操縦桿を押えて春花がペダルを踏む。
 放つ。敵の腹を貫通する光。呻いた瞬間、透夜が敵頭部の穴を貫いた!
「存外手間取ったな‥‥急いで大隊の前に行こう」
 周囲を見て舌打ちする透夜。やや南後方に、プロトン砲で勢いを失った大隊が何とか西に抜けんとしているのが見える。
 大隊先頭から西の終りまで約40m。兵損耗は3割弱か。最後の一押しが必要だった。

●左翼突破
「次から次へと‥‥Cafard、其れともRatかしら!? 仁!」
 ゴーレム2機とCWを倒し勢いに乗る左翼。ロッテ機が跳躍からの撃ち下ろしで広範にばら撒くと、羽虫の透明な膜が散った。着地点にいた砲猫を両断する。
 瞬間、仁の弾幕が群を削る。戦車型の安定感。銃身が焼け付きそうな程のフルオートで尚、正確に地上50cmを弾丸が過ぎていく。心強い支援。飛び散る血潮の中、ミア機が火を噴いて跳ぶ!
「ぅ阿修羅様のお通りだ〜!」
「ッ、見えた。届かんか? いや、届く。こいつならやれるわ!」
 対空砲を水平にして掃討に従事していた仁機が、遂にその主砲を動かした。重々しい音が戦場に響く。敵光線で出鼻を挫かれながらも戦い続ける兵達が救いを求めて主砲を見た。無論それが群全てを吹き飛ばす訳でないのは知っている。だが、だがそれでも。
 そんな視線を集めた筒が徐に南西へ向くと、臓腑震わす砲声を伴い鉛を吐き出した!
 直後着弾。督戦するように陸に根を下ろしていたビッグフィッシュにぶち込まれる。さらに1発!
「「うおおおおぉおおぉおおお!!!」」
「420mmじゃ、その巨体でも効くじゃろう」
「隊の人達‥‥今のうちに行って‥‥」
 那由他が言うと一気に動き出す大隊。ロッテと仁が撃ちまくり進路を切り拓く。大魚前面を掠めて進んでいく。
 その隙にミアと那由他は南に駆ける。那由他の銃弾が虎を貫いた。自らの炎が消える間もなく走る王虎。大魚に隠れて大隊へ迫らんとしていたCWに飛び掛る!
「鼻は利く方なんだよね!」
「大魚が‥‥動きました‥‥早く」
「好都合♪」
 CWを噛み千切り、北西に振り返りながらミア。丁度腹を見せた大魚を下から角で突き上げる。砲をぶっ放す那由他。敵が機関銃で撃ち下ろしてきた。装甲が削れる音。逃げる2機。猿と熊猫の群が立ち塞がる。2匹倒すが、背後から弾雨が襲う。
 拙い。嫌な汗が出た、その時。
「早く抜けるぞ!」「無茶も程々にせんか‥‥!」
 射程一杯から放った透夜のグレネードと仁の散弾砲が、群を薙ぎ倒した‥‥!
「ここで転んだら承知しないわよ!」
 跳んで2機の後ろに撃ちまくるロッテ。大隊は春花、クリア、シフォンが守り、駆け続ける。援護に助けられ何とかミアと那由他が味方機の許へ辿り着いた。それを見て大魚は黒煙を上げつつ南西へ退避していく。
「西へ!」
 主だった脅威は退け、大隊周りにはKV8機。もはや40mの距離など無いも同然だった。

●後退
 西へ駆け抜けた一行。振り返ると蹂躙された敵の群と、3割強程減ったような大隊の姿があった。
 ――俺達だけなら再攻撃もやれん事はないが。
 だがこの群はキメラだけになったといえ、敵拠点が近いだけに何があるか解らない。透夜が思案する横で仁。
「再攻撃は止めた方がいいじゃろうな」
「‥‥ん、そろそろ引き際‥‥」
 同意するシフォン。時間を見る。突入から35分。一瞬と永遠が溶けたかの如き時間経過だった。
「はい、中止がいいです!」
 勢い込んで言うクリア。大隊の方を向き風防を開けた。
「後退でいいかな。今玉砕より、生きてまた戦場で会った方がいいし‥‥や、その、ホントはまた戦場ってのもヤだけど‥‥」
 次第に小さくなる言葉。右肩と頭から血を流していた副官が少佐を盗み見た。上官とて無傷ではない。2人はクリアにゆっくり頷き、退却する事を決定する。
「よかった‥‥」
「でもまだ、これからです‥‥」
 安堵の息を吐くクリアと、不安げな春花。
 そうして再攻撃を中止した一行。
 彼らは奇襲直後という混乱の隙を突き、その後南東への脱出を果たしたのだった‥‥。

<了>