タイトル:【MN】大正浪漫の嵐マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/08 22:21

●オープニング本文


※このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません。申し訳ございませんが、相談期間中の拘束は通常通りに発生します。事前にご了承のうえご参加ください。

●帝都の妖魔
 時は大しょ――もといTAISHO。帝都は、激動の渦に呑み込まれていた。
 新と旧、夢と現、魔と人間。
 相反するそれらが複雑に絡み合い、その全てを蒸気が覆い隠す。混沌が混沌を呼ぶ街。終わりのない街。国内随一の魔の都。それこそが、帝都だった。
 そしてそんな都を今一番賑わせているのが――。

「号外〜、号外だよ〜」
「あら、またアレが出たのかしら?」
「全くその通りで、お嬢さん。おっと、悪いねぇ、手伝ってくれんのかい」
「ええ?! そんな事言ってません! けれど‥‥」
 西洋の服を着込んだ男と着物ブーツなハイカラ少女が、共に号外をばら撒き通りを歩いていく。
 そのうちの1枚が風に乗り、新しくできたカフエ――店内で珈琲を飲む社交場に入っていった。白髪を蓄えた老人がそれを手に取ると、あからさまに嘆息して悪態をつき始める。
「ふん。若いもんが妖魔だなんだと騒ぎおって。妖怪などわしらの時代からすぐ傍におったわ」
「あんなに大きくて建物を壊す妖怪はおりませんでしたよ、あなた」
「関係ないわ! わしが若ければすぐに刀の錆にしてやるものを。大体最近の若いもんは貧弱すぎる! 何だあの格好は。姿かたちばかりか魂まで西洋に売り渡しおって!!」
 ラジヲから流れる流行歌を吹き飛ばす勢いである。
「はいはい。それよりこれから野球を教えてあげるんでしょう?」
「‥‥お、おおそうだ、孫が待っとる。今は何時だ、はよう行ってやらんとな」
 慌しく席を立ち、店を出て行く老夫婦。
 卓に残された号外には、20m程の背丈の武士らしき妖魔が最新の活動写真館を壊さんとしている絵が描かれていた。

●帝都の守護者
 この帝都には2つの守護者達がいた。
 1つは警察。
「警部! 先日の被害報告、それに本日の配置状況であります!」
「むぅ‥‥警察の威信にかけて都を守るのだ!」
「しかし警部、妖魔どもが暴れ始めて3年、いつ終わるとも知れぬ戦いで我らも‥‥」
「終わる?! 元より人々の安寧を守る我々に終わりなどないわ!」
「は、は! 申し訳ありません!」
 拳銃とサーベルという貧弱な武装とはいえ、正義をもって日々治安を守る帝都警察は、人々の信頼を十二分に集めていた。
 そしてもう1つは、霊力を糧に魔と戦う者達。
「新たな霊力者の情報はありますか?」
「残念ながら」
「そうですか‥‥。個々の戦力では限界があります。この帝都を守る為には、可及的速やかに霊力者の組織を整えねばならないというのに」
 彼らに特定の組織は存在しない。いや、組織を作り、効率的に帝都を守ろうとする一派もあるが、基本的には個々の守護者だった。
 貞淑な女学生。野球少年。窓際新聞記者。舞台女優。普段は普通の生活を送る者達が、妖魔の出現と同時に守護者となる。そのような霊力を持つ者達は今、人々の羨望の的となっていた。
 妖魔。警察。霊力者。これらの争いが混沌の一部を成している事は言うまでもない。


 ――そして今日もまた、蒸気の内より妖魔は現れる‥‥。

●参加者一覧

智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
霞倉 彩(ga8231
26歳・♀・DF
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
天宮(gb4665
22歳・♂・HD
アーシュ・オブライエン(gb5460
21歳・♀・FC
千早・K・ラムゼイ(gb5872
18歳・♀・FC

●リプレイ本文

 麗かな昼時。霞倉 彩(ga8231)は書斎で頁を捲る。芥川何某とかいう、二年以上の眠りを甘受する間に有名になった新進作家の本だった。
 書斎の空気は暖かく、目まぐるしい外界からうら若き当主を守るかのよう。背凭れに寄りかかる。
 近くの女学校の鐘が聴こえてきた。魔の香りの含まれた、外界の風に乗って。
 ――世界は、何処へ向かうのか。
 彩の疑問に答えるが如く、背凭れが気だるげに音を立てた。

「へぁ〜」
 学舎から出るや、神代千早(gb5872)が脱力した。千早の横で微笑を浮かべた異邦人――アーシュ・オブライエン(gb5460)は自身の銀髪を押えて訊く。
「試験。結果は?」
「ええ? き、聞こえません聞こえません〜」
 着物の袖を振り乱して耳を塞ぐ千早に、アーシュが朗らかに笑う。が、その淑女足り得ぬ瞬間を見咎めた先生が注意してきた。謝る二人。
 そして校門を出ると同時に
「紅茶の美味しいお店‥‥」「最近新しいお店を見‥‥」
 息の合う二人である。顔を合せて苦笑し、千早が続ける。
「紅茶だけでなくあんみつも絶品でして。よろしければ御一緒しませんか?」
「喜んで。折角今日は昼、ど、ん? 迄なんだから」
 言い終わらぬうちに千早がアーシュの腕を取り、編み上げブーツで駆けていく。
 その笑顔は、戦も魔も感じさせぬ新時代の希望に溢れていた。

●TAISHO的帝都遊戯・昼
 日差しは力強く、停留場で待つ人は各々に汗を拭う。喫茶店から漏れる流行歌に合せ、二人は軽く口ずさむ。
「そう、その前に帝劇は如何? 今月は神代さんの好きな女優劇をやってるとか」
「本当っ?」
 言った時、路面電車が来た。蒸気にアーシュの銀糸とリボンが煽られ、千早の頬をくすぐる。
 自分と全く違う髪。しかも仄かに良い匂いがして、千早は妙にどきどきするような!
「これがきっと倫敦の匂いです‥‥」
「?」
「いぃえ、その、あ、あの人! 綺麗ですねっ」
 他愛無い会話をしながら電車に乗り込む二人。彼女らとすれ違う形で降りたのは、誰もが振り返るような少女だった。
 流行のはいから衣装が小柄な身を包み、つば広帽子は男の視線から顔を隠すが。黒髪を結い上げたそこから華奢なうなじが見え隠れし、静々とした振舞いは古き良き大和撫子そのもので。
「長いこと住んどるけど、来るたびにちゃう顔を見せてくれはるから飽きへんわぁ」
「おぉ‥‥」
 彼女――エレノア・ハーベスト(ga8856)が青空を見上げるのを周りは魅了されたかの如く眺めるが、彼女は気に留めず歩き出す。
「いつもの『ぱあらあ』‥‥また植松はんはおなごはん口説いてはるんやろなぁ」
 エレノアは手堅い想像をし、嘆息した。
 空高く、人々は賑やか。霊力を持たぬ者にとってはそれだけの景色。ただ、霊力者にとっては。
 エレノアが魔の気配を感じると同時に、喫茶店の屋外客席で文庫本に目を落としていた天宮(gb4665)が顔を上げた。
「今宵も、ですか」
 エレノアと天宮。奇しくも同じ言葉を呟いたのだった。

「いらっしゃ‥‥って、植松さんですか」
 新機軸のような、奇抜すぎるような。そんな英国風(?)女中の様相で智久 百合歌(ga4980)は頭を下げると、注文より早くいつものアイスクリィムを器に盛り始めた。
「百合歌サン、その笑顔は今夜こそ俺だけのモノッス!」
「あら、明日なら空いてましたのに。でも長居してると警部さんに怒られちゃいますよ?」
 警部なんざ、と軽口を交わしながら奥に座る植松・カルマ(ga8288)。その彼を追い蛇穴・シュウ(ga8426)が入店するや、私もいつもの、などと注文しつつ同じ卓に座った。
「シュウサンもよく来るんスか?」
「いえ三度目ですがね。それより植松巡査」
 しゃあしゃあとのたまうシュウ。彼女は卓に乗り出し彼を見据え、これ見よがしに備忘録をちらつかせた。
「半年前新たに現れた霊力者について。警察と霊力者の折衝役なら解りますよね」
「シュウサンに射抜かれるなら、雰囲気のある所がいいスねェ」
「何でも手並みは鮮やか、市民に姿も見せないとか。しかしですね。見た人がいるんですよ‥‥三年前、警察が隠匿した事件に似た紫炎をね」
 はぐらかすカルマにシュウは切り込む。と思いきや「ま、噂ですが」と予防線を張る。取材は駆け引きだ。ハンチング帽の下の双眸が剣呑に光る姿は老獪な探偵さながらだが、それを受けて尚カルマは視線を外さない。
「‥‥私の右目は伊達じゃないんですよ」
 シュウが睨みを利かせようとした時、音を立ててアイスが卓に置かれた。百合歌である。
「お待たせしました。記者さんは物語が大好きなご様子。いっそ白樺とかいったところに入られては?」
 笑顔が怖い。シュウと百合歌の間に火花が散り二秒三秒‥‥空気を読まぬカルマがアイスを含み、言い放つ。
「うめェ。次は本気で百合歌サンを注文しちゃっていいスかね。なんつって!」
 ‥‥。
 百合歌が視線を外した。
「活動写真なら‥‥あぁでももうお店が忙しくなりそう、残念だわ」
「あーさっき本気出すべきだったスかー」
 空気を無理にでも変える彼ら。シュウはやり甲斐ある仕事に凶暴な笑みを見せる。その時、店内に快い京言葉が響いた。
「毎度申し訳ありまへんなぁ植松はん。協力関係といえ堂々そちらはんの敷居は跨げへんよって」
 三人が顔を向けると、一人の少女が入店していた。カルマが手を振る。
「やーまた、やっぱ俺エレノアサンの一番の漢になるッス!」
「妄想は夜見ておくんなはれ。軟派な殿方は好かんてずっと言うとります」
 鼻の下を伸ばすカルマを、間髪入れず打ち砕くエレノアだった。

●TAISHO的帝都遊戯・大禍時
 午後五時一九分。
 魔の香は次第に濃くなりゆく。然るに気付くは霊力者、それも感覚の優れた者だけだった。
「何度も言っている‥‥人違いだよ。この二年、私は欧州を巡っていたからね」
 英、蘭、仏、墺。順に語ろうかと彩は『予め考えていた台本』をすらすら述べる。喫茶店の屋外客席は満員で、彼女ら――彩とシュウも一見、一般人に紛れ珈琲を楽しんでいた。
「ですがね霞倉さん。右目がね、疼いたんですよ。貴女を見た瞬間」
「‥‥私は、此処で夕陽を見ながら珈琲を飲むのが楽しみの落ちぶれた成金だよ」
「冗談」
 そうしてシュウの鋭い視線を悠然と受け止めていた彩が、その刹那、弾かれたように丑寅の方角を見た。
 ――来る。
 彩が立ち上がる。同時に奥で席を立った着物の男が急ぎ足に去っていった。
 何かが起きる。
 シュウは逸る心を抑え、そっと姿を消す――!

「こちら天宮。私の『式』が噴き出す魔を捉えました。すぐ来ます‥‥!」
 喫茶店を抜け出た天宮は、街の柱に手をつき、ソレに話しかける。
『了解。ですが先日の被害で今動ける一線級は貴方だけです』
「解ってますよ。華族として、元よりこれは私の仕事です」
 それは伝声管だった。帝都の地下に巡らされた、通信の要。
「では」
『無理をさせて、ごめんなさい』
 地下本部の司令の辛そうな声が届いた瞬間、丑寅からの轟音が響いた‥‥!

「はぁ‥‥ありす様‥‥」
 舞台を観終え、余韻に浸る千早から情報を聞き出し、件の喫茶店に辿り着いたアーシュ。紅茶がきても未だ現実に戻らぬ千早に、困ったように息を吐いた。
 ありすなる女優への情熱がこれ程だったとは。
「って、ああそこ、違‥‥」
「え?」
 カップを持とうとして目測を誤ったのだろう。千早の指がいかにも熱そうな紅茶の中に入り
「ひぁあっ!?」
 悲鳴を上げた。
 アーシュはお絞りを持つと、強引に千早の腕を引き寄せ患部を冷す。
「大丈夫?」
「うぅぅ」
 火傷したせいなのか何なのか。千早の胸が早鐘を打つ。
 掴まれた腕から視線を上げると端正なアーシュの顔があり、艶やかな唇、蒼玉の瞳。
 ――綺麗で、可愛くて‥‥。
 千早が妙な事を思いかけた刹那。
 帝都の何処かから、轟音が伝わってきた。

●妖魔
 数年前の大火から復興を果たしたこの街が、再び災禍に見舞われていた。
 鬼が何事か呟くと札が闇色に輝き、次に腕を振るや、闇は一直線に伸び家屋を呑み込んだ。
『――■牙唖唖■■!』
 丁度帝都の鬼門に位置するこの街。やはり早急な霊的補強が必要だった。いち早く駆けつけた百合歌、カルマ、エレノアは同様に痛感する。
「バカでけェ刀もやべーッスけど、及びもつかん陰陽の技も嫌ッスねェ」
「植松はん、はよう避難誘導頼みます。うちらが引き付ける間に」
「了解ッス!」
 正面から鬼を見据えるエレノアと百合歌。カルマは付近を見回し、大声で誘導を始める。途端、鬼が三人を睨みつけた。
「さて。今日の妖魔の見立ては如何かしら?」
 百合歌は懐から取り出した西洋笛――フルートを口元へやると、短い音波を発した。合せてエレノアが走る。
「いきますえ」
「気をつけて」
 フルートから発した音は不可視の塊に圧縮され、それが弾丸のように飛んでいく。鬼の胸へ当る、と思った瞬間、振り払った腕にかき消された。単調な攻撃では拙い。百合歌がさらに笛を奏で、小音塊で腕を狙う。敵は右の札で次々相殺していく。
 その隙にエレノアは足元へ潜り込む。両手を合せ呪を唱え、左手からソレを引き抜いた!
「お覚悟!」
 抜刀の勢いで薙ぎ払う。刃の色は黄。陰陽に通じる『金』の力が敵右脚を削った。次いで上段に振りかぶり――
「――ん、母ちゃぁん」
 視界端に、横の家から出てきた少年の姿を捉えた‥‥!
「後でオシオキやねぇ、植松はんっ」
 横っ飛びでエレノアが少年の許へ。好機と見たか、鬼は足元の二人を踏み潰さんと足を上げる。刹那。
 澄んだ音が、爆発した。
「feroce――猛る音よ、彼の者を滅せ!」
 大音波。百合歌が一気に送り込んだ空気が大砲となり敵を貫く。同時に下ろされる敵の足。エレノアの左肩を掠めた。

 その光景を、最新の建物に隠れて眺めるカルマ。嫌な汗が体を伝う。だが、しかし。
「お、俺は市民の安全‥‥安全をよォ‥‥!」
 霊力者といえ女性二人。カルマは堂々巡りの思考のまま足を動かす――。

「で、でけええ?! てか何、デカ鬼陰陽師!?」
 別の建物に隠れていたシュウが、間近で見る妖魔の迫力に声を上げた。備忘録を捲り素早く特徴を記録していく。
「ん?」
 陰から顔を出し、敵の右脇から肩へ目をやった時、鬼が中空で何かを結んだ。そして指で刀印を作り、切った瞬間、爆風が鬼の前方で吹き荒れる。家屋は飛び、運動場の砂が舞う。百合歌達の吹っ飛ばされる姿が見えた。
 さらに彼女達の体勢整わぬうちに鬼が走る!
「こいつは‥‥!」
 咄嗟にシュウは敵背後へ飛び出す。ペンで空を切った。特注のペン先が礫の如く飛んでいく。敵の膝裏に刺さった。だが鬼は一瞬速度を緩めただけ。
 自分ではどうにもならない。シュウが周りを見回した時、二つの光景が目に入った。
 一つは後ろから女学生と巫女、着物の男がやって来る光景。そしてもう一つは‥‥!

「う、おおおおおおお!!」
 カルマが跳ぶ。サーベルを大上段に、五階建ての屋上から。走りこんでくる敵を見据え、文字通り身を投げ出し!
「おおおおおおおおおおらァ!!!」
 それは敵には羽虫の如きものだったろう。だから避けない。そう、避けないと解っていた。故に跳べた。外れれば落ちて死ぬ。しかし何もせねば百合歌達が死ぬかもしれない。だが、外れないのだ。敵は避けないのだから!
 そして。
 刃が敵首筋を捉えた‥‥!
 衝撃衝撃衝撃。必死に柄を握る。刃は敵を斬り裂き、重力に従い地上へ落下する。肩、背、臀部。カルマの手が遂に離れ、数間の高さから落ちた。強か腰を打つ。立ち止まった敵を思いきり睨みつけた。
「ハ、ハ! どうだオラァ! 帝国男児ナメんじゃねーぞゴルァ!」
『――■■!』
 激昂したらしい敵がカルマに向き直った、その時。
「後は霊力者にお任せを」
 三人が、カルマの前に躍り出た。

「お二方、共闘しましょう」
「ええ。‥‥ふふふふふっ」
 天宮が式を繰り出しながら千早達とエレノア側にも声をかける。喫茶店で巫女装束へと変身を遂げていた千早は妖しげに嗤うが、アーシュがそれを問い質す時間はない。
「異国といえ、友とこの地の為。行きます」
「く、ふふふふ。アーシュさんと肩を並べて戦うなんてねぇ!」
 二人が走る。アーシュは細剣、千早は薙刀。足元に取りつくや、薙刀が豪快に払われた。裾が靡く。それに隠れ、アーシュは敵の腱を突いた。
「氷霧、来なさい!」
 霊力開放。貫いたままの刃が内側から敵の腱を凍らせる。
 が、突如敵が無数の小札をばら撒いた。それが腕に触れると、炎と化して二人を覆う。
「下がりなさい」
 天宮は言うや、一瞬で自身の式を造り変え、二人に霊水を浴びせた。
 化蛇。中空漂う式が、天宮の呪に従い敵の顔へ突撃する。札で迎撃する敵。瞬間、逆側からエレノアと百合歌が踏み込んだ。
「帝都に現れし妖魔は全て消してあげる!」
 フルートと大剣。圧縮された霊力が各々の得物を輝かせる。斬、斬斬。左右の足をひたすら削る。敵が膝をついた。同時に天宮の化蛇が首へ巻きつき姿を変える!
「天火!」
 蛇から炎となった式は敵の顔を焼き、体を引き倒しながら天宮の許へ舞い戻る。式を回収する天宮。その手には冥き大鎌。天宮、アーシュ、千早が跳んだ。
「黄泉へ還りなさい」
 連撃。傾ぐ敵を支えるように、刃を背に突き立てた。
「終‥‥!?」
 安堵しかけた一行に呪が聞こえた。吐血する敵の最期の術。それが今完成し――!

「手緩い‥‥」
 彩が奔る。紫炎を纏い、百合歌の脇を抜け。印を切る敵を睨め付けた。途端に視える死の黒点。胸、腰、頭蓋。それらを見据え彩が跳ぶ。墺産ライターを点火するや、紫炎を「翔ばした」。敵に刻まれる紫聖痕。最期の呪が紡がれる!
 刹那、彩の短刀が煌いた!
「此れが終り‥‥」
 斬ったのでなく『切り離した』。
 着地して彩が短刀を納めると、背後で鬼だったものが一七の肉塊となって崩れた。
「‥‥あ。貴女、アイスクリィムでも如何? 少し話‥‥」
「馴れ合う気は」咄嗟に呼び止める百合歌を遮り、彩が背を向け「無い」
 それが、この騒動の終りとなったのだった。

●刻まれる想い
 ――七名が妖魔を葬ったのである。年端行かぬ少女が肌を曝し危険に向かう。彼らを突き動かすのは何か。帝都を想う心なのか。

 シュウがタイプを叩く音が響く。妖魔との戦いを直接見た者は少ない。ならばせめて忘れぬようにしよう。記事に書き。記憶に刻み。

 ――血臭漂う現場に立つ少女。なんと儚き光景か。だが我ら帝都臣民は記事となったそれを読み、事件として愉しむだけなのか。否。霊力なくともやれる事はある。國を愁い、帝都を想うならば。それでも娯楽小説の如く愉しみたい者は私の許へ来て頂きたい。妖魔との戦いの最前線へ招待しよう。

 目を瞑る。何故か意識が霞んできた。
 ――霞倉を記事‥‥いや、じっくり追えば確実な‥‥時間は沢山‥‥。
 シュウはそこまで考え、意識を手放した。

<了>