タイトル:バレンシアの分水嶺マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/22 23:59

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


「ハ、ハハ! いいな、いい‥‥!」
 抑えきれない快楽を隠そうともせず、彼は笑う。鈍痛を、緊張感を、戦場の息遣いを心から楽しむように。
 とりあえずここを保持していてくれ、などと言われ、思いがけずバレンシアの責任者のようなものになってしまったのが、グラナダの敗北直後。それからガラにもなく後方でやってきたのだ。
 耐えて、耐えて、耐えて。敵軍の散発的な攻撃をちまちまと退け、いざ強敵が現れたらしいと解っても、できる限り手痛い損耗を防ぐべく色々と画策し。
 だが、もはや、ダメだった。
 ヴァンパイアとかいう化物が1滴の血を口にした時の如く。
 ルー・ガルーとかいう化物が真円の月を目にした時の如く。
 どうしようもない誘惑が、彼を呑み込んだ。
「ハハ!! やっぱこっちのが俺らしい」
 ――これが本当に『俺本来の俺』か、解らなくても、な。
 彼は余りある時間を使ってカスタマイズしたゴーレム機内で独りごちる。先程敵にやられた腰部の駆動が芳しくないが、そんなものは楽しみを先延ばしにする理由にすらならない。
 狭苦しい街を抜け、港湾部に入る。倉庫が林立するそこをさらに通り、海の見える位置にまで駆けていく。
「‥‥さて。港でデートと洒落込むか」
 重力波によって残存するキメラに指示を与え、彼が機内から空を見上げる。そこに愛しい幼竜の翼はなく、おそらく港湾のどこかに身を隠していると思われた。
「遅刻は嫌われるってのによ」
 ダメな我が子を慈しむように彼は苦笑する。
 だが次の瞬間には、その未完成な部分がいいのだと、飽きる事なく『幼竜』の素晴らしさに酔いしれた。

 ◆◆◆◆◆

 指揮装甲車に備え付けられた簡易ベッドに横になったアントニオ・トーレス大将が、苦しげに息を吐く。周囲では途切れる事なく慌しい通信が行き来し、広げられた市街地図には進捗状況が赤で記されていく。
「む、う‥‥どうだ、状況は‥‥」
「は。市街中央部の主な道路は押さえましたが、浸透状況はあまりよくありません」
「‥‥可及的速やかに、支配地域を拡げ‥‥」
 咳き込む大将の言葉を、任せてくれと言わんばかりに幕僚が継いで復唱する。
 そこにアロンソ・ビエル(gz0061)が周辺偵察から戻ってくると、走り書きで地図に書き足していく。
 南部のマグナムキャットをはじめとしたキメラは自軍側背に回り込まんとしており、また依然として南部にいると思われるタートルも怖いと言えば怖い。
 市街中央から細長い自然区域を挟んだ東と北にはゴーレムや陸戦ワームが姿を覗かせ、さらに東の奥には港湾部がある。敵が徹底抗戦する場合はそちらに篭って海上から来るかもしれない援軍を待つだろう。
「空港戦で見たビッグフィッシュが市街にいないとなると、港にまとめて置いてる可能性もある」
「HWは?」
「北と東に何機か見えたが、突っ込んではこないみたいだな。機を見て乾坤一擲で仕掛けてきそうだ。敵指揮官と幼竜は見えないが‥‥先程の後退方向からすると港だな」
 報告するアロンソ。そして態勢を整える傭兵達に向かって大将が半分体を起こした。
「‥‥傭兵諸君。諸君らにいくらかの‥‥部隊を預けよう。諸君なら有効に使ってくれると信じている」
 苦しげに眉を顰める大将。爆発を至近で受けてこれだけならばむしろ僥倖と言えるが、指揮への影響は当然大きかった。
 歩兵2個大隊と戦車2個小隊、KV隊8機という数が述べられ、アロンソが重々しく頷いた。
「‥‥我が本隊は能力者が少ない故、無理攻めせず‥‥このまま中央で市街に浸透しながら港湾に睨みを利かせておきたい」
 満足したように大将が微笑すると、再び横になる。幕僚達は司令部爆発直後の衝撃から立ち直りつつあった。少なくとも新たな戦術展開がないうちは上手く機能しそうではあると傭兵達は感じる。
 南からは大小のキメラに側背を脅かされ、北と東はHWを含めた敵ワーム部隊が迫りつつある。さらに東の奥――港湾部にはおそらくビッグフィッシュか何かの駐屯地があり、そして敵指揮官と幼竜が備えている。全てにおいて中途半端が最も拙い。何をどうするか、優先順位を決めてかからねばならないだろう。
 ――ここをきっちり押さえ‥‥生きて、戦い抜く。フリオの為にも、俺自身の為にも! そうしなければ俺はきっと、進めない‥‥!
 逸る心を抑え、アロンソが小さく独りごちる。脳裏にラ・マンチャの故郷が思い浮かびかけ、流石にそんなベタな事は洒落にならないと急いで振り払う。
 バレンシア攻略戦は、佳境に入ろうとしていた。

▼敵状況
           北

           HW、陸戦ワーム、ゴーレム等


        U P C 軍        HW、陸戦ワーム、ゴーレム等   →港湾:BF駐屯地? エース、幼竜


  キメラ群、タートル(僅少)

           南

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG

●リプレイ本文

「ん、いー感じ。行くわよ我斬兄っ!」
 葵 宙華(ga4067)が『計器を確認、操縦桿を握って』呼びかけると、即座に龍深城・我斬(ga8283)がツッこんだ。
「いー感じ、じゃねぇよ!」
 そして宙華を『自分のディアブロ機内から』追い出し座るが、既に暖機状態。買い戻して初搭乗だけに虚しくなった。
「‥‥鬼畜」
「あは。つい」
「はぁ。解ってんのか? この先が正真正銘‥‥」
「ん。解ってるよ。あたしは。絶対。だからここにいるの」
 俯きがちな宙華に我斬も言葉が続かない。横から智久 百合歌(ga4980)が明るく声をかける。
「ほら、敵に後悔させてあげましょ? 私達に手を出した事」
「ふん、早うせい。貴様らと違ってわしはフラメンコのリズムを思い出さんといかんのだ」
 続いて佐賀十蔵(gb5442)がN・ロジーナを躍動させた。

 翔幻搭乗直前に舞 冥華(gb4521)が発したその言葉は鋭利すぎた。
「ん? あろんそなにげにしぼーふらぐ?」
「い、言うなぁっ」
 岩龍から滑り落ちるアロンソである。幸臼・小鳥(ga0067)が駆け寄る。
「だ、大丈夫‥‥ですぅ! 絶対無理‥‥しなければぁ」
「‥‥魔弾各員、墜ちたら地獄の特訓だから。足腰立たないくらいやるからね‥‥蛮勇厳禁、気張っていくわよ」
「手料理も振舞ってくれるそうだ、ロッテが。‥‥ロッテが」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)と月影・透夜(ga1806)が各々アヌビスとリヴァイアサン内から話しかける。
「‥‥強調して何が言いたいのかしら」
「気負いすぎるなという事だ。1人じゃない、共に進むんだ」
 ロッテも見ながら助言する透夜。アロンソが頷いて搭乗する。
「『こんなこともあろーかと』っていえば回避できるって冥華きいた。でもむりするなー」
「秘技の伝授、アリガタイな。是非言わないようにしたい」
 軍KV8機も待機する中、敢えて会話する傭兵。
 解っているのだ。今出撃すれば、敵指揮官をどうにかしない限り休息はないと。後戻りできない。
 多くの犠牲を出し進んできた戦いは、分水嶺を越える。

●南北の揺さぶり
 破壊音が轟く。ビルの窓から砲猫がぶっ放せば、すぐ後には3門の砲が集中して瓦礫を作る。歩兵の曳光弾は次々キメラに吸い込まれ、戦車主砲は敵を吹っ飛ばす。
 耳を聾する地道な戦場。
 その戦場の先頭を切り拓くのが
「うおぉおどけどけぇえぇぇ!」
「雑魚に興味はないわ。龍深城さんは右120度を、私は左から‥‥」
 百合歌機シュテルンから放たれる光の嵐が蜥蜴人を灼き尽す。同時に赤い影が疾走し実弾を巻き散らした。交差点近辺10mが完全な空白となるが、そこに横合いから飛来する砲弾。刀身で防ぐ。
「ッまだるっこしい!」
 ペダルを踏みつける我斬。24m跳躍。砲弾が我斬に集中する。直撃。だがその中でも我斬は敵配置を把握していた。
「百合歌さん、11時方向2体、この道突っ切って左!」
 その報を聞きブーストする百合歌機。合せて中空の我斬機も動く。落ちながら空を駆ける我斬。陸を滑る百合歌。キメラを蹴散らしその角を曲がる。途端、
 砲撃!
 極太光線が百合歌を襲う。その間に我斬が壁を蹴って側面に肉薄、光線が敵――亀の甲羅をぶち抜いた。我斬機本体が突っ込む!
「先ずは全力で1体! それでバランスが崩れ‥‥!」
 十字交差させた双剣を同箇所に突き入れる。敵が甲羅ごと蠕動した時、さらに向こうの亀からプロトン砲が放たれた。咄嗟に操縦桿を捻る我斬。まともに受けた。敵2体が我斬を向く。そこに百合歌が飛び込む!
「大好きな知覚兵器よ。とくと味わいなさい」
 至近からレーザーが砲塔根元に集中する。小爆発する砲塔。首を引っ込めかけた亀の隙を衝き剣翼を刺し入れた。定まらぬ敵の光が周囲を瓦礫に変える。だが次の瞬間に2人の光線が直撃し。
 大爆発。2人は留まる事なくもう1体へ銃口を向ける!

「Aller――Aller a la chasse! 宙華、アロンソ!」
 パッと2機が左右に分かれるや、ロッテ機から北にK‐02の花火が咲き乱れた。多くはない敵HW。その半数以上に白煙が向かい、四方で爆発する。
 爆煙を貫くように宙華機イビルアイズが舞う。
「雑魚は此処で舞台を去りなさい。石とならないなら‥‥撃ち砕くっ!」
 空を操るが如き挙動で敵を斬り裂く。1、2。異質な黒翼は彼女の想い。それが宙華機を躍動させる!
「ちょ、待っ」
「アロンソ兄、遅い!」
 アロンソ機の弾幕が1時の白煙に向かう。そこへロッテと宙華2方向から大口径が叩き込まれた。爆散。漸く敵反撃。ロールして躱す宙華とロッテ。直撃する岩龍。
「こんな事もあ‥‥いや無理!」「全く‥‥」
 集積砲で応射してロッテがふと陸を見た。が。
 予想外に押し込めていない。対地ミサイルでも持ってくれば良かったか。北空の残りは小〜中破HW3機。ならば。
「陸に向かうわ。援護お願い」
 ロッテ自身も再度K‐02をぶっ放してHWを牽制し、高度を下げる。宙華の弾幕が避けようとした敵を阻害する。紛れてアヌビスのブースターを猛烈に噴射した。
 暗くなる視界。近付くビル。対空砲が両翼を襲う。アロンソが遠めから掃射するが効果は薄い。ロッテ機の損傷が跳ね上がる。道が見えた。ワームだらけの中にロッテが突っ込む!

「機体を弄ってみたが‥‥」十蔵が素早く照準を合せるや引鉄を引く。「ほう、まあまあだ」
 ワームの双眸を肩の砲で潰し、即座に重機を撃ちまくる。断末魔を上げて倒れる敵の後ろからさらに溢れるワームの群。腕部ランチャーを発射すると爆風で吹っ飛んだ。が。
「糞蟲が!」
 それも意に介さず前進してくる敵群。不意に中空から榴弾が飛来する。破片を重機で受けた。じりと退く。圧されている。
 無論北の陸は十蔵と共に軍KV4機も奮戦していた。バディを組み、ワームに当る。だがそれだけ。具体的な戦術目標がなければ兵卒の勇戦も意味が薄れがちになる。
 左に爆発音を聞いた十蔵が操縦桿を倒した。駆け抜けざまに弾幕を張り横に弾痕を刻む。脚をやられたらしい軍KVを庇う形で立ち塞がってゴーレムに当身、僅かな隙に砲撃する。同時に敵の槍に貫かれた。
「ぐぅッ‥‥未だだ、未だ戦うぞ!」
 退いて撃つ。ワームから放たれた酸の雨が降り注ぐ。連綿と続くと思われたソレはしかし。
「傾注! 3機1組で立て直す! 必ず、生きなさい!」
 敵群内部から声を張り上げるロッテ機が、本体をぶち破った‥‥!

●東南の風
 華奢な機体がゴーレムと渡り合い、返す刀で建御雷を一閃する。爆散。黒煙止まぬ路上の一角で透夜は一気に操縦桿を倒す!
「ゴーレムは任せろ! お前達はワームだ、囲まれないよう警戒して当れ」
『了解!』
「ッ甘い、その程度‥‥!」
 ビルを貫通して放たれる粒子砲。それを透夜は直感だけで受け、踏み止まる。弾幕応射。落ちる瓦礫越しに対峙する2機。横合いから肉薄したワーム2体を軍KV2機が押し込める。
 直後動く透夜。ブースター全開、一瞬にして神速に達したリヴァイアサンが瓦礫を弾き翼を煌かせる!
 衝撃。大剣で中途半端に受ける敵。そこを支点に透夜が回り込み薙ぎ払う。浅い。腕から伸びてきた鋼糸に絡め取られた。
 反転して糸を解く。だがそれより早く敵光線が炸裂した。にも、拘らず。
「水中機とて舐めるな!」
 さらに反転。計1回転の遠心力を加えた刀が敵機を斬り上げた。次いで袈裟、流れのまま肩の砲の引鉄を引く!
 爆散。しかしこの間に軍KVはワームに圧され、西に退きつつある。視界に広がる敵群。透夜が空に連絡しかけた、その時。
 数多のロケランが少し東に着弾した。透夜が刀を振りかざす!
「行くぞ! 俺達には空の仲間がついている!」

「小鳥、うしろー」
「交差‥‥でぇーっ」
 猫耳同士、妙な連携を見せる2機。小鳥機バイパーがロケランを解き放ったばかりの冥華機と交錯し、冥華背後のHWへ大口径をぶっ放す。紫色光が右翼直撃、体勢を崩すもそのままHWを翼で削った。
「この子だって‥‥まだやれるのですよぉ!」
「小鳥ちょっとこわい」
 一方の冥華が小鳥機背後のHWへAAM発射。爆煙に紛れ大口径を撃ちまくる。
 瞬間で計4機が入り乱れる。前後に広がる2人。その中心でHWがプロトン砲を連射してくる。尾翼を掠める光線。冥華が地上掩護直前に撃墜したHWの黒煙を視界に入れ、操縦桿を右前へ倒した。光線が上部を削る。AAM連射。1秒で着弾。同時に急降下する。
 相前後して小鳥機の突撃。別角度からの突入が決定的な損害を1機に与えた。墜ちる1機。もう1機が小鳥を追撃する。ロールして空を滑るも被弾。
「戦力は今のうちに‥‥減らすのですぅ!」
「ん、これでおわり。にゃんこみさ‥‥じゃなかった‥‥」
 何故か悲しげな冥華の声。真下からHWに迫った翔幻がAAMを発射した。3本の白煙がHWを追う。回避しかけたHWだが1発目の爆風に煽られ、直後被弾した。
 爆発。降り注ぐ破片の雨を冥華が抜ける。
「しょーかふりょー」
「いつもの黒猫ミサイル‥‥じゃないから‥‥ですかぁ?」
「‥‥小鳥にまでけどられた」
 冥華の心を表すようにふらつく翔幻に小鳥は「うぅー」と抗議しかけ、東――港湾を見た。
 蠢く影と倉庫群。遠目に駐屯地は見えないが、掩蔽などバグアならいくらでもできる。近付かねば。
「私は向こうを‥‥偵察してきますぅー」
 言うなり、翼端に水蒸気を曳き小鳥機が進発した‥‥。

 ディアブロが跳び、シュテルンが沈む。2機1組となった我斬と百合歌の演舞が亀を翻弄する。百合歌がレーザーの引鉄を引けば、融解した部位に我斬が双剣を叩き込む。敵が砲身で薙ぐようにぶん回し、衝撃に後ろ滑りするや光線を放った。
「下手に回避できないのが辛いけど‥‥潰される前に潰せばいいのよ!」
「この感触、漸く思い出してきた‥‥!」
 自らを盾に歩兵と戦車を守る2機。光が薄らいだ刹那、我斬が一気に飛び出す!
「百合歌さん、頼む!」
「ふふっ、お断り」
「は?」
 間を置かずやはり亀へ突っ込む百合歌。小振りな光が3条4条と突き刺さる。肉薄する2機。右に百合歌、左に我斬。一気に懐へ潜る!
「一緒に、やるの」
「ハ。ッ砕けろおぉおおお!!!」
 斬‥‥!
 双剣と剣翼。煌く刃が亀を刻んだ。爆散。
 直後、キメラの怒声と兵の歓声が銃砲火に混じり木霊する。百合歌機がすぐさま戦闘機へと移行すると、バーニアを噴かせ浮き上がった。
「多分南は他に亀がいたとしても1体‥‥お願いね」
「了解。俺はこいつらと戯れるとするか」
 通信途中にビル内から砲撃を喰らう我斬。その方向に光線を連射し、グレネードを放った。
「行くぜ同胞! 無理に突っ込まなくていい、敵を削ぎ落とすんだ! なんてな」
 崩れるビルを背に、我斬は指揮官っぽく命令を下した。

●北東の行方
「後少しでバレンシアも私達の許に還る‥‥必ず自分の目で見届けなさい!」
「無茶するのがわしらの流儀。使い潰すつもりで指示をくれ。その代り」
 地を滑り壁を蹴り敵群を突き破ってきたロッテ機の右を撃ちまくる十蔵。迫るワームを正面からドリルで貫いた。
「飯はたらふく用意してくれよ?」
 轟音と共に爆発。反転してロッテが剣翼を翻す。HW成り損ないの如き敵が2枚に下ろされた。
 多少息を吹き返す軍KV4機。計6機が左右の通りをひた走る。
 遮蔽物を利用し射撃、間隙を衝きロッテと十蔵が打って出る。一時的に敵一角を崩す2人だが、周囲に迫るワーム群に抗し切れず退く。
 一進一退。そのうち遠めから半包囲されるだろう。空爆か物量がなければ押し返せない。だがそれでも。
「要は指揮官撃破まで本能的に躊躇させられればいいのよ‥‥!」
「恐怖、か」
 建物を覆う勢いで増えていく蟲に十蔵がランチャーを撃ち込んだ時、無線が雑音混じりの言葉を伝える。
『――れより――上掃射――俺達――るだけ――!』
 同時に前方50mで舞い上がる一直線の砂塵。それが敵群の算を乱し、圧力を緩めた。
「Aller!」
 乾坤一擲。6機の嚆矢が蟲のカーテンを刺し穿つ‥‥!

 降下間際のK‐02によって中破したHW3機を宙華の黒翼が斬り裂くや、背後からのフェザー砲を右旋回で躱す。2射目、後部直撃。3射目より早くアロンソ機のAAMが敵を襲う。爆発。
 爆風に煽られる残り2機。操縦桿を倒す宙華。スライスバック、ロールして制御し駆け抜けた。両翼による連続斬り。一瞬で舞い終えた宙華機がふわと高度を取った時、2機が計ったように爆発した。
「幻影でも視てなさい」
「宙華サン、地上を!」
 アロンソに言われるまでもなく宙華は急降下、数十mの所で一気に引き上げ撃ちまくる。
 その姿はまさに、獲物を貪る鷹そのものだった。

「もう少し奥まで行っておきたいが‥‥!」
 軽く舌打ちして透夜が弾幕を張る。軍KVが左右から弾幕を合せ、十字砲火が止む瞬間に今度は透夜機が飛び出す。ワームを斬り捨てゴーレムを貫く。左肩で受け半身退き、距離を取るや斬り下ろした。
 右腕を両断され退避する敵機。周囲の蟲にじりじりと軍が攻撃していく。
 ロケランとスムーズな連携のおかげで僅かに圧してはいる。が、少なくともこの状況で陸路港湾に入るのは自殺行為と言えた。
「‥‥無理して‥‥!」
 単機狙うのも面白そうだと微かに過った瞬間、上空に何かが見えた‥‥!

「小鳥、むりするなー」
「大丈夫‥‥ですぅ。ふぇ‥‥あれは‥‥」
 高空から東進した小鳥は超低速となって眼下を見やる。すると林立する倉庫群の中央付近は屋根がなく、曲線的な異質さを醸し出しているのが判った。さらにじっと注視せんとした、刹那。
『――■■!』
 丁度その辺りから舞い上がってきた幼竜が灼熱を吐き出した。直に下から熱せられる装甲。見る間に一部融解し、警報が鳴り響く。操縦桿を全力で横に倒し滑る小鳥。あわよくば敵拠点に投下せんとしていたフレア弾を即座に切り離す。倉庫と市街東部の間の地に燃え広がった。
「うぅ‥‥この子でも‥‥バカにしないで下さぃー!」
「今はにゃんこみさいるないからむり。早くりだつするー」
 幼竜出現に合せ小鳥に接近した冥華機が幻霧を作り出す。真白の中で西へ機首を向ける2機。が。
 さらに炎が襲い掛かる!
 尾翼を舐めるように迫る紅。がく、と冥華機が高度を下げた。逃げ切れるか。逃げ切れなくても自分のせいで人が墜ちるよりましかもしれない。冥華の脳裏に浮かんだ、その時。
『ブレイク!』
 霧の外から突撃してくる機影。銃声銃声。咄嗟に左右に分かれた小鳥と冥華の間を銃弾が抜け、竜の腹にぶち当たる!
 咆哮。機影はそのまま霧内を滑空する。沈み込み左旋回、光線乱射。
『――■■!!』
 苦しげな悲鳴を上げ竜が退いた。その隙に機影もターン、小鳥達に並ぶ。
「大丈夫? VTOL様々ね」
 機影――百合歌機が翼を振って合図を送った。

<了>

 南を撃退、北を足止め。東をやや押し上げてある程度情報も得られた現状。敵指揮官の動向は解らず爆撃も叶わなかったが、まずまずだろう。
「承知した。‥‥傭兵諸君。頼む‥‥!」
 かくして、戦闘は最終局面へ移行する‥‥。