●オープニング本文
前回のリプレイを見る「トレントは失敗、と。さて、どうすっかねェ」
言葉とは裏腹に、愉快そうに独りごちる『男』。屋上でポケットに手を突っ込み、突き抜ける空を見上げる。突っ込んだ指に触れる金属の感触。その金属を取り出し、空からそちらに目を移す。
ロケット。中の写真には笑顔で密着した男と女が写っており、写真の男の姿は今の自分と寸分違わぬ、いや同一の肉体だった。その写真を、物憂げなフリをして見つめる。
それが、彼の楽しみだった。流儀と言ってもいい。
そこの種族を取り込み、知識と文化を得て、出来る限りその種族そのものに成りきって戦う。なんという快楽か。お上の難しい事など知らない。ただこの為だけに生きる。しかも今回は、ニンゲンの知識から竜なるものを作る事もできた。様々な神話や物語で活躍する様がど真ん中にストライクだ。
その時、幼竜が待ちきれぬように上空で咆哮を上げた。男が苦笑する。
「解ってるって。あちらさんの軍も結構消耗してきてるだろうし、そろそろ出るさ。それに」
男は屋上の金網越しに西――UPC軍の方を見晴るかして。
「迂回は失敗したが、感付かれてなけりゃあっちの結果が出る頃合いだからな」
◆◆◆◆◆
バレンシア郊外を突き抜け、素早く渡河準備に入る軍。元からの道路もあるとはいえ、それだけではやはり心許ない。工兵達が急造の橋を造っていく一方で、歩兵達を偵察に出していく。
作業中、河向こうから散発的にプロトン砲等が飛来するものの、それはこれまでの攻撃と比べればむしろ少ない方だった。
「つまり我々を引き入れて、叩く、という事だろうな。もしくは街をあまり壊さぬよう命令されているか‥‥ここの奴らはそう頻繁に補給できているわけではないのか‥‥」
指揮装甲車上からアントニオ・トーレス大将。
アロンソ・ビエル(gz0061)が仲間の傭兵達と共に地上から双眼鏡で河向こうを眺め、言う。
「しかしここまで来たからにはもはや前進か死か、しかありません。幸いここ郊外の敵はキメラも含めてかなり駆逐できましたし、先に空から援護は‥‥」
「‥‥マドリードも未だごたついているらしいからな。仮に爆撃機を出せても少数だろう。それに‥‥敵に破壊されているならともかく、できれば我々自身の手でこの街を廃墟にしたくはない‥‥」
地元の軍人らしい感傷を垣間見せる大将。また街にいる人間が全て市街中央のカテドラルに集められているのか解らない現状、率先して爆弾を落としまくるのは軍への不信にも繋がりかねなかった。
大将が心底疲労したような息を吐き、保護した洗脳者――フリオを呼び寄せる。そして自らも指揮車を降り、傍の兵に新たな情報が聞き出せたか尋ねんとした。まさに、その時。
「ッ! ‥‥ア、ガ‥‥逃、ゲ‥‥!!」
突如として苦しみだすフリオ。体内で暴れそうな何かを鎮めんとするかのように四つん這いとなって首を押さえた。大将が一歩下がる。兵が肩に手をかける。フリオの目玉が飛び出そうな程に見開かれた。涙と唾液が道を濡らす。そして。
「‥‥おれ‥‥ん、じ‥‥ッあああああああああああああああああああああああああ■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」
橙色の飴が彼のポケットから落ちた瞬間。
彼自身が、爆発した‥‥!
肉片が飛び散る。爆発音が耳を聾する。爆煙によって視界は灰色だらけとなり、奇妙な静寂ののち、司令部は恐慌状態に陥った。
「あ、た、大将! 大将閣下!!」「ば、爆発っ‥‥敵、敵は敵はどこだ早く迎撃しろ、早く撃てえええええ!!!」
困惑。恐怖。不快感。参謀畑出身と思しき幕僚が大声で喚く。が、戦場は待ってくれない。指揮車の通信からは敵進攻の報が鳴り響く。幕僚の1人がそれを受けて何とか指示するが、周囲の歩兵達の動きは鈍い。
ずっとフリオの近くにいれば解ったかもしれない。それか簡易的な持物等の検査に留まらなければ。傭兵達が表情を歪めた時、煙の中から口元に手を当てた大将が姿を現した。
「‥‥みな、落ち着け。敵の反撃だ。我々も出るぞ」
大将が咳き込みつつ、傭兵達の方を向く。腹と言わず肩と言わず、火傷や骨の散弾によって血が滲み、しかし目は強い光を宿したまま。
「諸君も、頼む。多少なりとも彼に自我が戻っていたおかげで私も命拾いした。敵はもっと我々が混乱していると思っている筈。であるからこそ、今が好機なのだ‥‥!」
「了解!」
満身創痍といった大将を見て、アロンソは力強く応えた‥‥!
●リプレイ本文
「‥‥お」
エース機内で男が目を見開く。計器には敵が市街中央を進まんとする反応があり、南で張っていた彼としては恥ずかしい。
「そっちがその気なら」
彼は唇を舐めると、徐に機体を動かした。
●戦力集中
口腔は血の味。
操縦桿と共に握る1つの骨片が葵 宙華(
ga4067)の心を抉る。
「‥‥フリオ‥‥っ■■!」
激痛が彼女を蝕む。握った掌から生々しい血が垂れ、それが宙華を過去に押し戻した。
――手を伸ばした先から溶けてく■■。そこであたしは■■の■■――!
『妙な事考‥‥ゃない‥‥うな、宙華』
「‥‥我斬兄?」
途切れがちな無線から龍深城・我斬(
ga8283)の声。宙華は頭を振って前を見る。今はこの空を取り戻す。それだけを。
「人の命を弄ぶ愚行、絶対許せないわよね。その気持ちをぶつけてやりましょ」
「戦って守るしかありません。例えそれが、自己満足でも‥‥」
智久 百合歌(
ga4980)はワイバーンをメンテ無しに操り、その横をファブニール(
gb4785)機ロビンが飛ぶ。後方に軍KV4機が位置し、中間にアロンソ機バイパー。
計8機が空を進む。前には遠目にも判る幼竜とHW2機。
『彼の死を後悔している暇は、ないわ‥‥』
ロッテ・ヴァステル(
ga0066)の声が聞こえた時、遂にHWが動いた。2機が前後して来る。前に出る百合歌と軍4機。2条の光が伸びてきた。百合歌が小型ブーストで無理矢理ロールしてD‐02の引鉄を引く。
「後ろの1機をお願いします。相互援護は崩さずに」
「了解」
4機と百合歌機が左右に分かれHWに迫る。敵2機が百合歌にフェザー砲を放った。操縦桿を倒すが反応は悪い。右翼直撃。その隙に軍KVが後ろのHWに一斉砲火する。百合歌が前の1機に機首を向けた。
「Requiem――開演よ」
AAEM発射に合せるように竜も出てきた。前面で戦う百合歌達に目を向けたその時。
「お前の相手は僕達だ!」
ファブニールの粒子砲3連射が竜の左翼を貫いた‥‥!
「空は始まったか」
「今は目の前の事に集中しなくては、ね」
市街を東へ進み、我斬機。幸臼・小鳥(
ga0067)機ウーフーに同乗したロッテが拳を握り締める。勢い込んで振り向く小鳥。
ゴシュ。
「今回こそ‥‥被害をなくせるように‥‥気合ですぅ!」
「‥‥。貴女自慢の頭で早くも被害が出そうよ。あと前‥‥右のビル2階!」
「あ、ぁぅーっ」
小鳥機が舞 冥華(
gb4521)機ゼカリアと並び先頭を行く。冥華機主砲が火を噴いた。
轟音。脇の車ごと大蜘蛛を吹っ飛ばす。車、爆発。んー、と冥華なりに困ってみた。
「せんしゃーは地上さいきょー。でもひがいでそう」
「ある程度は構わんだろう。それより罠や奇襲に注意してくれよ。作戦の成功は小鳥と冥華にかかってる」
「ん、じごほーこくで許可もらっとこ」
月影・透夜(
ga1806)に返しつつ、冥華は操縦桿を倒す。
小鳥と冥華の後ろをM1戦車数輌が進む。その後に歩兵数千が左右の建物と道を警戒して走り、後尾南寄りで透夜と我斬が援護に徹する。行軍をほぼ大通り周辺にした事で縦長となったが、割り切るしかない。
「アロンソ、この先もやる事はあるんだ。用心しろよ」
「ですぅ。空は大変かもですけど‥‥気をつけて下さいねぇ?」
『ああ、解ってる』
透夜は交差点の陰の敵を撃ち、小鳥は公園入口にグレネードを放つ。さらに冥華機から夥しい銃弾が園内に吐き出された。一気に公園横を通過。
「墜ちる事は許さないわ‥‥」
ロッテが独りごちた言葉を小鳥は聞こえない振りで引鉄に力を込めた。敵の礫弾が装甲に当る。冥華の弾幕で敵が怯んだ瞬間。
「これ以上‥‥兵隊さんに怪我‥‥させないのですぅ!」
断末魔の如き砲声が轟き、街路を粒子砲が駆け抜けた。
「冥華ちゃん‥‥頑張りましょうねぇー‥‥」
「ん、冥華におまかせ。ぜかりあはがまんできる子」
無限軌道で瓦礫転がる道を踏破する冥華機。取り付いてきた敵を轢き、弾をばら撒く。圧倒的な手数で冥華は進路を切り拓いていく。
その行軍を生身で偵察していた男は、娯楽を前にした子供のような笑みを浮かべた。
●翼
「竜とはここで決着といきたいですが」
「誰の知識で、こんな物を‥‥!」
突っ込みそうになる心を抑え、宙華が竜の周囲を旋回して観察する。ファブニールが右からAAEMを放ち、アロンソは誘導弾をぶっ放した。
白煙。その煙を振り払うが如く、竜の炎が迸る!
竜の戦闘を横に見ながら百合歌がHWと交錯する。
斬。翼が軋みを上げる。HWが背後で小爆発し、それでも光線を放った。機首を上げる。尾翼を掠った。ラダー制御。紫色光を気合で躱す。
「本来の力を出せなくても‥‥腕でカバーできてよ!」
強引にループして背面のまま銃撃する。HWが傾いだ。一気にロールしながら突き抜ける!
刹那の重い感触。硬い物質を裂く嫌な音が耳に残り、直後、敵が黒煙と共に市街へ不時着していった。
「軍は‥‥」
周囲を見る。右前方、竜の真下で4機が縦列となり、あるいは2機1組が絡み合い1個の生物の如くHWを攻撃していた。決め手に欠けるといえ彼らもKV乗りなのだ。百合歌が螺旋ミサイルのスイッチを押す。
警告符丁を発すると同時に白煙を曳いていくミサイル。4機がパッと離れるや、ミサイルがHWを追い、爆発した。
そのまま竜に向かう百合歌。その横腹に、南からのプロトン砲が突き刺さった‥‥!
獄炎がファブニールらを襲い、宙華にまで炎を吐き出す。至る所の装甲が溶け始め、機内の空気さえ熱せられる。焼け付く鼻腔に顔を顰め、宙華が機関銃でけしかける。
一切の防御を捨てた機動力勝負。宙華機ミカガミが竜の真横をすれ違った。
「大丈夫ですか!? もっと遠めで‥‥」
「独りで倒せるなんて、思わない。でも少しでも近くから見れば‥‥!」
ファブニールの心配をよそに至近で旋回する宙華。敵挙動を注視していたが故に爪を躱せた。
「最悪時間稼ぎでいいといえ、俺達ももっと前に‥‥!?」
アロンソがロケランを撃ちまくる。白煙に紛れ突撃したファブニールが粒子砲を解き放つ!
「く、ぅう‥‥ッ!」
竜の首へ集中する粒子。敵が怒り狂って咆哮を上げる。ファブニールが下を潜らんとした時、敵は連続して翼を羽ばたかせ、
『――■■!』
灼熱を吐き出した。
●市街蠢動
「何があるか判りませんから‥‥無理しないで‥‥下さいねぇ?」
グレネードを放って言う小鳥。ロッテは首を横に振り
「私も身体張らないとね‥‥細心の注意は払うから安心なさい」
銃弾飛び交う最前線に素早く降りた。
「徹甲散弾‥‥みんなまとめてどかーんでぐしゃぐしゃー」
くぐもった音が響き、前方100mの交差点に死が降り注ぐ。
地上から見ると冥華の銃砲撃が改めて心強い。ロッテは小鳥機の陰から横の路地へ駆け込んだ。
途端、後方で大爆発。無線から透夜達の声が聞こえた。南にいたというエースと接触したか。だが今は。
「疾く、迅く‥‥!」
陰から陰へ。路地を抜けるロッテ。銃声が遠ざかる。中央市場に行き当たった。角から首を出す。キメラが多い。別の道は‥‥。後ろを向くと建物の庇が目に映った。
それに手をかけ屋根まで上る。ロッテは市場で蠢く敵を一瞥して北東に目を向けた。一際目立つカテドラルの塔。直線距離で300m程か。
深呼吸し、ロッテは屋根を走り始めた。
ガァン‥‥!
粛々と前進していた透夜と我斬に突如浴びせられる砲弾。いつの間に来たのか、南への道に並んだ砲猫6体が次々撃ってくる。剣を立て受ける2人。透夜が合間を縫って突進する!
「想定済だ。群を成す前に潰す」
チェーンガンで撃ちまくる透夜。瞬く間に猫2体が倒れ伏す。が。
ふとした予感に視線を上げる我斬。その先、ビル屋上で榴弾砲を構えるエースの姿が見え――!
砲声、砲声。コマ送りで落ちる榴弾。軍の後尾中央に、吸い込まれ、破裂した。
「ッき‥‥!」
阿鼻叫喚。僅か2発で混沌が生まれた。
「さまぁあぁぁあああああああ!!」
ブースト全開。我斬機ビーストソウルが跳ぶ。10m15m。みるみる近付く。20m。銃弾をばら撒く。壁が崩れ敵機が露出した。双剣を振りかざす。26m。辛うじて届いた敵足元を斬りつける!
「お前が指揮官か! よくもまぁやってくれたな薄汚い寄生虫‥‥己が所業を悔いやがれ! 地獄の底より深い虚無でな!!」
敵の脚に刃がめり込む。体勢を崩す我斬。上から叩き落すような衝撃が走った。
『そりゃ悪かった、これも仕事なんだ』
高速で落ちる我斬機。必死に立て直さんとしたその上に敵機が迫った。拳の一撃。小爆発。瞬間、地に激突する!
「ッガ‥‥!」
機体は半壊。黒い血が口から溢れた。それでも立ち上がる我斬。悠然と降り立つ敵を見据えた。キメラを片付けた透夜も並ぶ。
「人間爆弾の報いは受けてもらう!」
「挟み込むぞ!」
透夜が真正面、我斬が右から攻める。道を滑って銃撃。敵が両腕で防いだ瞬間透夜が一気に距離を詰める。大上段から剣を振り下ろす。敵が受けた。拳が迫る。柄で関節を殴打し緩和、間隙を突き左へ回る!
「遠慮はいらん、全て持っていけ!」
至近からの弾雨が敵を縫い止める。我斬の双剣が下と上同時に煌いた。敵が嵐の如く回り、剛拳が唸る。それを喰らいながら腰部を捻る我斬。透夜の杭が振り向いた敵に弾かれる。
「これがフリオの分だ愚物が!!!!」
辛うじて左腕がついた状態の我斬機。しかし右の機杭は輝きを失わない。捻られた腰部が軋みを上げ回転する。連動する右肩、肘、手首。そして杭が敵を貫く!
衝撃。
充分な手応え。それでも尚敵は余裕で拳を振り上げる。咄嗟に杭を捨てた我斬がその穴に拳を突き入れ電撃を放つ。直後敵の拳。ビルに叩きつけられる我斬。
その僅かな間隙に透夜の剣が煌く。受けんとした敵の腕を掻い潜る斬り上げ。姿勢を崩した敵に杭を突き刺す!
「終りだ!」
『む‥‥』
肩の砲口を0距離から敵に向けた瞬間、敵が重力を無視した機動で跳び退った。空しく飛ぶ砲弾。敵は薄く黒煙を上げ、角の向こうに逃げていく。
『また今度、落ち着いた所でやろうぜ。ここじゃ勿体ねェ』
「逃がすと思うか!?」
漏電止まぬ機体でブーストする我斬。だが角を曲がった先にはもう、エースの姿はなかった。
とはいえ。強敵を退けた事は朗報だった。
「全く、祈りを捧げる暇も無いわ」
カテドラルの高窓に取り付いたロッテは中を覗く。広い身廊には黒翼の者が立つだけで人影はなく、他に敵の気配もない。人がいるなら内部東端か。
ロッテは空の爆音を聞きつつ降り、侵入口を探る。翼廊一角に崩れた壁穴を見つけ、忍び込んだ。静謐な空気。逸る心を鎮めて回廊を進む。そして内陣の隅にあった避難壕のような所を下ると、そこには拘束された100未満の人々がいた。
「無事? 他の人は?」
「いえ」
身振りで静かに、と注意し縄を解いていく。縄で縛るというある種丁重な扱いからして、強化人間か何かにするつもりだったのか。とすればここの人は既に選定された後。他は近隣の街に逃げられたと信じたいが‥‥。
「とにかく、出るわよ」
ロッテを先頭に階段を上る一行。が、内陣に出た刹那。
黒翼が、羽ばたいた。
「ッ‥‥!」
咄嗟にロッテが受ける。後ろには一般人。自らが盾となり撃破するしかない。
低空を舞う敵に飛び込むロッテ。椅子を足場に跳躍して巻き込むような左蹴り。
傾ぐ敵。黒翼が刃となって体を裂いた。鮮血が聖堂を濡らす。着地、前宙気味に踵の爪を引っ掛けるや、床に引き摺り下ろした。
飛来する羽。腹と顔を腕で守る。黒羽が左腕に刺さった。前に崩れる。迫る敵。刃に変えた翼がロッテの視界に広がり――
「永久の闇に堕ちなさい!」
紙一重で体を捻るロッテ。流れそのままに鞭の如き左脚を繰り出した!
まさにカウンター。そして瀕死の敵に止めを刺した時、その報が入った。
エースを退けた、と。
●進む戦況
空を嘗める炎。ファブニール機が至近で包まれ、アロンソも余波で制御を失う。その間に竜はボロボロの翼で方向転換。銃弾をばら撒き観察していた宙華に爪を振るう。
「あたしが墜ちちゃいけないんだから‥‥!」
骨片を握る左手で操縦桿を横に。左翼を削られた。敵の翼がまた羽ばたく。1秒後、竜の口から溢れる炎。その瞬間を、はっきり捉えた。
「保って‥‥!」
急降下する宙華。が、炎は宙華機を呑み込み、焼き尽――
「遅刻してごめんなさい。でも。易々と墜とさせない!」
刹那、横撃をかける1機!
AAEMが竜を襲う。次いで螺旋ミサイルが爆発した。炎がずれる。黒煙を上げ墜落直前で持ち直す宙華機。代って竜に突っ込むワイバーン!
「僕もまだいけます! とにかく‥‥こいつを倒すしかないんだ!」
百合歌機と十字砲火の形でファブニールがループしてくる。粒子報が腹を直撃した。吼える竜。その背の翼を斬り落さんと百合歌の剣翼が煌く。交錯。浅い。再度。
が、再び仕掛けた百合歌に迫る竜の顎。辛うじて右に躱すが、畳み掛ける機会を逸してしまう。ファブニールが右上方に旋回した。
『――■■!』
甲高く吼える竜。その時、無線からエース撤退の報が入ってきた。それを感じ取ったかの如く羽ばたいた竜は、そのまま港湾方面へ逃げ始めた。百合歌とファブニールの銃砲火が竜を追うが、そのうち竜はジグザグに降下し、遂には建物の群に消えた。
「仕方ないわね‥‥」
南からやってきたHWまで処理し、休む間もなく突撃した百合歌。だが彼女の機とて警報は真っ赤に鳴り響いていたのである。
「せんせー、いく」
「大きいの‥‥いきますよぉー!」
小鳥のM‐12粒子砲がコロン通りを一直線に貫く。間髪入れず冥華機主砲が火を噴き、闘牛型が爆散した。
通りに出たくないとすら思える戦力集中。2機の前に空白地帯ができた。
「びるの中、きめらいる?」
「たぶ‥‥」「おまかせ。冥華がんがんつきすすむー」「‥‥」
小鳥の返答も待たず車を潰して進む戦車。小鳥が付近敵情報を軍に流しつつ3階窓に機関砲を叩き込んだ。軍の砲が横道の敵に吸い込まれ、爆煙を上げる。
そんな小鳥達の作業をよそに冥華は突っ走る。左右から飛来する弾を弾き、敵を撥ね。主砲と粒子砲で狼狽した敵にもはや冥華の独走を止める力は、ない。
「ん、前に木がみえた。まちおわり? ならおまけに撃っとこ」
散弾が装填され、前方の広場中央に放たれる。臓腑震わす砲声とほぼ同時に着弾。破壊の嵐が広場を蹂躙した。
「おおぉ」「抜けた‥‥?」「警戒!」「周辺制圧に移れ!」
俄かに活気付く兵。それも当然だろう。困難な市街戦を殆ど被害なく抜けたのだから。無論実際の市街制圧はこれからだが、先が見えた事で士気は上がる。
「抜け‥‥ましたぁ!」
『了解。こちらも敵を蹴散らして合流する』
透夜とのやり取りを小鳥が敢えて外部出力に乗せる。
沸き起る鬨の声。次第に軍全体へ広がった兵の雄叫びは遥か空にも届く。
戦力はともかく意気は軒昂な軍。人のうねりがバグアに襲い掛からんとしていた――。