●オープニング本文
前回のリプレイを見る バレンシア。キメラの闊歩するその街並みを上空から見下ろし、男が嘆息する。
とはいえ彼が自力飛行しているわけではない。巨大な「乗り物」に乗っているだけだ。古から蘇ったかの如く神聖で、それでいて邪悪なる「乗り物」に。
――命令あるまで保持、か。
保持とは、どの程度まで積極的防衛を許されるのか。専守に徹するより、時に打って出た方が楽ではある。が、それで独断専行などと処罰されてはたまらない。
「‥‥ったく。めんどくせェが、仕方ないかねェ」
乗り物を操ってビルの屋上に降り立つ。彼が振り返って見上げると、ソレは戦意を漲らせるようにグル、と喉を鳴らした。
「だよなァ、お前もそう思うよな」
全長15m程のその「乗り物」に語りかける。ソレは一層猛り、咆哮を上げた。
「ん、挨拶にでも行きてェのか? ‥‥文句言われたときァ‥‥まァ、いいか!」
いっそ無邪気な笑顔で彼が言うと、ソレは翼を大げさに広げて喜ぶ。そしてその翼を上下に動かし、大空へと飛び立っていった。
なんとも見事で、雄大な光景だろう。
彼は、次第に離れていくその後姿を、ずっと眺め続けていた。
遥かなる憧憬の念を以て、その――幼き古代竜の姿を‥‥。
◆◆◆◆◆
「まずは礼を言おう。諸君らの尽力もあって、無傷に近い形で空港の大部分を奪取する事ができた‥‥しかし、だ」
アントニオ・トーレス大将は滑走路に指揮装甲車を進め、先にあるターミナルビルを見はるかした。内部にはまだキメラが残っているらしく、事実、功を焦って突入した一部隊には死傷者が出たらしい。
大将が使い古したカール・ツァイス社製双眼鏡でビルを覗くと、竜牙兵や触手のようなものが蠢いているのが判る。
屋内戦。一度に交戦できる人数が少ない戦場となる以上、大兵力で押し潰す事は難しい。慎重に、それでいて迅速に、少数で以て敵を惑わし、初撃を与えねばならないという事になる。であるならば、打てる策は限られてくるだろう。
傭兵、である。
「非常に心苦しいが、再び諸君に先陣を切ってもらわねばならんようだ‥‥」
「俺は構わないです。このスペインに生を受けた同胞ですから。‥‥と言っても、俺だけでもどうしようもないですが」
ラ・マンチャの傭兵――アロンソ・ビエル(gz0061)が応え、周りの傭兵を見回す。彼自身もこれまでの戦闘や大規模作戦に参加して成長してきた自覚はある。だが、それでも世界中を飛び回る歴戦の傭兵とは格段の違いがあった。
傭兵仲間と協力し、その強さを学びながら、スペインを守る為に戦う。全てをこなすのは難しいかもしれないが、それでもやらねばならないのだ。
その時、双眼鏡を覗いていた傭兵の1人が声を発した。
「‥‥人?」
「うむ? 何かあったかね?」
「ビル上方‥‥管制塔? 付近の窓から人‥‥らしき影が」
大将に答える傭兵。慌ててほぼ全員がそちらの方を見てみるが、残念ながら既にその影は消えていた。大将が疲れたように息を吐き、告げる。
「ともあれ、だ。軍の先鋒も諸君の後に続き突入する。適宜指示してくれてもいいし、彼らに任せてくれてもいい。打撃を与えたのち、その区域を完全制圧するのに必要になるだろう」
「滑走路から逃げた敵がいる以上、迅速にここを整え、バレンシアへの構えを見せる必要がありますね‥‥」
「うむ。何やらキナ臭くなってきておるが‥‥」
大将は一度言葉を切ると、指揮車から降りて頭を下げた。
「どうか、よろしく、頼む」
●リプレイ本文
「ね、見て、あれあれー」
葵 宙華(
ga4067)が双眼鏡片手にアロンソを呼ぶと、いきなり肩を寄せ双眼鏡を差し出した。
「な、何だ?」
「ほら、やっぱり管制塔は何かあるっぽい」
「ぁ、た、確かに」
棒キャンディーを咥えた艶やかな唇。柔らかい前髪から覗く勝気な瞳。飴と硝煙の不思議な香りが鼻腔を擽り、妙に動揺してしまうアロンソだが、それが強ばった筋肉をほぐしてくれた。のだが。
「‥‥。早く乗りなさい!」「あぅ‥‥そ、そうですぅーっ」
SK後部座席から乗り出し叫ぶロッテ・ヴァステル(
ga0066)と幸臼・小鳥(
ga0067)。彼女らを横目に捉え、宙華は悪戯猫のように目を細めた。
「また後で。これ、あたしだと思ってー」
「な‥‥アロンソ、遅い!!」
嗜虐的な微笑を浮かべ、飴をアロンソの懐に入れる。ロッテの声を聞いて宙華は益々楽しげに口角を上げた。
「何でもいいから本当に早く行くぞ」
操縦手の龍深城・我斬(
ga8283)が声をかけ、漸くアロンソもSKに乗り込む。我斬が操縦席から横長のビル屋上を見上げた。同様に1階から制圧作戦を展開する者もビルを睨む。ファブニール(
gb4785)はS‐01H内から、佐賀十蔵(
gb5442)は椅子代りにしていた瓦礫から立ち上がり。
「さっさと片付けて街に行きてぇなぁ。ま、バレンシアもすぐ観光はできそうにないが」
「油断禁物です。KVでフォローしきれない状況になるかもしれませんし」
「そだねー‥‥こっちも調子悪いみたいだし。でも!」
宙華がもう1人の傭兵の方を向きながら寂しげに呟くが、それを打ち消す勢いでKVをパァンと叩いた。
「ここ踏ん張れば一息つけるよ♪ いこいこ!」
元気に振舞う宙華。近くにいた兵達までなんとなく活力をもらえた気がした。
「まぁ僕達が突破口を開かなかったら何ができるって話だしね。踏ん張るしかない」
秋月 九蔵(
gb1711)が銃に装填しながら後ろの大将を斜に眺める。
「僕達は爆弾、一瞬しか戦えない事にこそ価値がある。だから気にする事ないよ。爆弾と違って戻ってこれるし」
「‥‥そう言ってくれると、助かる」
若ければ、あるいは適性があれば自分も。苦々しげな大将に「適材適所だろ」と小声で毒を吐き、九蔵はビルに向き直る。
SKのローターが回り始めた。KVを先頭に地上班も正面口へ。迅速さを重視した2班編成。故に個人負担が大きくなる。
誰かが、唾を飲む音が聞こえた。
「行きます!」
SKが舞い上がると同時に、ファブニールのバルカンが盛大に正面口をぶち壊した!
●突入
夥しい銃声が木霊する。ある程度の広さがある筈の1階フロアは、蜘蛛の巣の如き触手によって視界の半分を遮られるような状態だった。
突然の闖入者に、それらの数本が絡まりながら伸びてくる。バルカンが2本を細切れにし、潜り抜けてきた1本を九蔵が叩き斬る。
「前衛なんて初めてだね‥‥まぁ」
巣全体が蠢き、解かれた触手が左右から襲いくる。腰を据え、宙華が機関銃を左にぶっ放す。十蔵は右。そしてファブニール機と九蔵が前へ突っ込んだ。
「骨の髄まで前衛が大切なのを体感する、かな」
「埒が明きませんね‥‥!」
「群には親玉が付き物だって」
「大将首だけ取りゃ勝ち、じゃな」
「了・解♪ ちょーっと殺意高めで撃ちまくるんで」宙華の瞳が剣呑に光り、重厚な機関銃を前へ差し向ける。「よろしくね、っと!!」
轟音轟音轟音!
耳を聾する大攻勢。恐ろしい数の銃弾が乱れ飛び、傭兵4人と1機が触手の只中を突き進む!
前、右、左、上、前、前。硝煙が一行を覆い隠す。その煙から飛び出すが如く駆け抜ける。売店が見えた気がした。九蔵の腹を触手が打ちつける。息ができない。薙ぎ払った。縺れかける脚。無理矢理踏ん張って次の脚を出す。そこを幾本か連なった太い触手が狙う。KVと十蔵の火力が数本を弾いた。3本が九蔵と宙華に飛来する。右踏み込みと同時に発砲!
「裏奥儀・馬賊回転斬り」
「何ソレっ」
「ネーミングセンスは自覚してるさ!」
反動を右に逃がすや、右脚を軸に回転しての薙ぎ払い。宙華も茶化しながら前方の血路を拓く。荷物受取所らしきコンベアを越える。抉じ開けられていく触手の檻。バルカンがダメを押した。そして。
「トイレ前、本体らしき物見えました!」
「てめぇの味は何味だ、キャベツか蕪か小松菜か! わしは今猛烈に腹ァ減っとるんじゃ!」
「飴、いる? 今忙しいから何味になるか解んないけど」
「んな小物いらん! わしは、奴を喰うんじゃあぁああああ!!」
「アレも味の保障はしないけど、ね!」
息の合った飛び出しを見せる十蔵と宙華。ファブニールが本体と天井を繋ぐ何かを撃ち払った。九蔵の銃弾が2人の間を抜け、さらに蠢く玉の如き本体の隙間に入り込む!
再装填、連射連射。反動が脳を揺さぶる。
「トゥゥリガァァァハァァアッッピィィイイイ!!!」
加えて宙華の機関銃が火を噴いた。十蔵は飛び乗るようにして銃口を押し付ける。触手が一行を背後から襲う。背を酸が焼いた。構わず撃つ撃つ撃つ撃つ!
『――■■!』
どこから発した怨嗟の声か。数百の鉛を叩き込まれた本体は、丁度機関銃が薬莢を落し終えた頃、動かなくなった。同時に周囲の触手が灰になっていく。
「‥‥ひとまず。1階をお願いします」
『了解』
不気味な沈黙の中、ファブニールは無線で入口の兵に連絡した。
「どうして私が‥‥そこなんですかぁ‥‥!?」
特有の浮遊感で上昇していくSK。狭い後部座席で小鳥とロッテがもぞもぞと動く。
「貴女の体格だと急制動かけたら潰れるでしょ‥‥いいから」
「あわ!?」
必死に逃れんとする小鳥の服をロッテが引っ張り、強引に膝上に座らせる。拍子にワンピの肩紐がずれ、控え目すぎな胸元がお目見えしかけた。
「ひぁあぁあ! み、み‥‥!!?」
「いや全く」
「‥‥小鳥。まさかそれ色」「家・で・や・れ」
呆れた我斬が強制介入し、隣のアロンソに射撃指示を出す。ラダー調整、我斬が操縦桿とピッチレバーを動かして上昇しつつ機首を正面に向けるや、アロンソが引鉄を引いた。機関砲が窓を突き破り、2階発券フロアの触手を次々食い破っていく。
「Ouverture‥‥派手にやってあげなさい」
「了解」
低速で上昇するSK。次いで3階。廊下で蠢く触手を断ち切っていく。
「にしても滑走路の残骸の腐食は何だったんだろうな。ひとまず攻撃は下手に受けない方がよさそうだが」
「ああ。溶かされるのは流石に勘弁願いたいな」
我斬とアロンソが話すうち、屋上が見えてくる。が、そこには。
「ここからが本番、ね」
「先に私達が‥‥行きますぅ!」
竜牙兵1体の姿。
慎重にSKを屋上に寄せる我斬。手に汗が滲む。ロッテが扉を開け、小鳥がロープを下ろす。機関砲弾が敵足元に炸裂した。直後、2人が降下する!
「角に追い込むわよ!」
降下速度を殆ど落とさずロッテが着地、即座に敵懐に飛び込む。低姿勢から急停止、敵の剣が目前の空間を裂いた。その隙に前方伸身宙返りで脇を抜ける。跳躍に合せツインブレイドを払った。
「小鳥!」
「目さえ‥‥潰せばぁ!」
敵肩を抉りつつロッテは膝を脱力させる。刹那、特殊銃の連射が敵顔面を穿った。間隙を突きロッテが屋上の金網に蹴り飛ばす。
それを待っていたようにSKが強行着陸する。むしろ不時着と言っていいそれはしかし、4人を無事屋上に運ぶという役割は果たしていた。我斬とアロンソもSKを降り、各々の引鉄を力の限り引く。
「黙って沈みなさい」
剣先を前に突進するロッテ。刃が深々と突き抜け、金網に敵を押し付けた。引き抜くと屍が転がった。
「素早く3階を制圧して管制塔、だな」
「急ぎながら‥‥注意ですぅー」
今の戦闘はSKが援護できた分、一気に主導権を握れた。だがこの先は‥‥。
●制圧
1階フロア、エスカレーターを一足で跳び越え、ファブニール機が2階に着地する。右左と敵影確認、腰部を捻ってバルカンを掃射した。
「触手は下が1番根付いていたようですね‥‥皆さん、どうぞ」
それでも断続的に襲いくる触手を牽制するファブニール。
九蔵と先頭を競うように駆け上がってきた宙華の胸元から、下の売店で拝借したのか、コンロ用ガスボンベ缶とウイスキー瓶数本が覗いている。
「ざぁんねん。ばら撒こうと思ったのに」
「そうでもない。アレ」
十蔵が腹を揺らせて上りきった時、九蔵が荷物検査場の先を指差した。天井も低くなり空間が狭まる分、敵の密度は濃くなる。その上KVが奥まで行けないとなれば必要かもしれない。
「そっちか。わしらの後ろは任せたぞ」
「必ず、守り抜きます! そちらも無理せず‥‥」
「ふん、死ぬ気なぞないわ」
乱れた息を整え、十蔵がKVの装甲を叩いた。
「さて。行っちゃおっか!」
やはり宙華と九蔵が真先に駆け出す。次いで十蔵ともう1人の傭兵。ファブニールは検査場前に陣取ると、反転してぶっ放す。
‥‥割れた一面の窓から、灰がかった嫌な雲が見えた。
「制御室は?」
「次の次を右に行ってすぐ!」
「覚悟はいいかしら? ‥‥速攻!」
ロッテが廊下を走る。我斬はすぐ後ろにつき、地図片手に発砲した。逸れた触手へ、伸身前転からロッテの左踵落しが炸裂する。弾け飛ぶ触手。止まらず右へ。追いついた小鳥が、曲がり角から飛び出しながら右に散弾を解き放った。2、3発。再装填、破裂する銃声。
その背後をカバーしてアロンソは直線方向を警戒する。
「援護は私達に任せて‥‥本体をぉ‥‥!」
「我斬!」「おお!」
小鳥の散弾で動きが鈍った4本の太い触手を躱し、跳び、撃ち、銃剣代りの凶器で払い、抉じ開ける!
ガァン!
触手に貫かれ外れかけていた扉を蹴破る。我斬の散弾が眼前の本体にぶち込まれた。声無き絶叫。ロッテが剣を袈裟に下ろし、流れるままに反転、裏拳の要領で後刃を突きたてる。
「上下お願い!」「了解」
狭い制御室で助走して跳躍する我斬。銃身に取り付けた小型鎖鋸を思いきり一閃した。着地、モニタに注意しつつ足元にも振り下ろす。
そこに小鳥が扉外から敵中心を狙い――かけ、ロッテの脇を抜けた触手に絡め取られた。腕を取られ、さらに首に伸びてくる。刹那、アロンソの貫通弾が触手を貫いた。
「頼む!」
小鳥の銃弾が本体にめり込む。そしてその穿たれた隙間へロッテが剣を突き入れた!
「‥‥Conquest。このまま管制塔に向かうわよ」
灰になりゆく植物を尻目に、急ぎ4人は制御室を後にする――。
奥へ進むにつれ、触手が多く太くなっていく。九蔵は待合スペースの椅子に隠れ触手を躱し、右から来たもう1本を斬り飛ばした。そのまま背もたれを切断するや、それを前に投擲する。
飛来物に喰いつく触手群。そこに宙華と十蔵も撃ちまくる。
「キリがない‥‥」
「もうやっちゃうよん♪」
返事を聞く間もなく胸元から瓶を取り、宙華が次々放り投げた。触手の向こうで割れる音。今度はボンベ缶を転がす。機関銃を構えた。
「退避!」
3人が椅子の陰に飛び込むと同時に宙華が引鉄を引いた。触手を貫く10数発の銃弾が床のアルコールとボンベに吸い込まれ――
爆発‥‥!
爆炎が触手を吹き飛ばす。敵にFFがあるとはいえ、触手という形状、本体から離れた末端。その炎と爆風は密集していた触手を追いやるのに充分すぎた。
九蔵が駆け出す。十蔵は通り抜け様に焦げた欠片を口に含み、即座に吐いた。
「食えたもんじゃねぇ、糞!」
口直しの飴を投げ渡し、宙華も走る。ちろちろと床を舐める炎と、爆風で左右に開かれた触手の道。40m先には繭の如き本体があり
「ぶち抜かれるのとぶった斬られるの」銃身が焼ける程に宙華が撃つ!「どっちが好み?」
「同じ形状は飽きるんだよ」
4人の銃撃が中央――弱点に集中する。5、10秒。散水機は壊れているのか、火が消える気配はない。
撃ち続け、漸く断末魔が響いた、瞬間。
「ッ!?」
九蔵の胸に、牙の如き投擲物が刺さった。
●疑惑
「そーいや『人影』とかいうの見ねえな。どこぞの強化人間でも隠れてるのかね」
「屋上のと同じ‥‥竜牙兵ならまだいいですがぁ‥‥」
階段を駆け上がる。腕の血を拭い、ひたすら上へ。灰らしき跡が続いているのを見るに、管制塔の触手も3階の本体から伸びた物だったのか。扉が見えた。
ロッテが速度を上げる。
「中に入れば解る事よ」
最後尾、アロンソがついてきているのを確認し、突入する!
「観念なさい!」
ロッテと我斬が部屋に踏み込んだ瞬間、煌く何かが見えた気がした。直後胸に熱い痛み。鮮血が散った。
「ロッテさ‥‥!?」
「ッ、迎撃!」
血が抜ける感覚に耐え、ロッテが刺突を繰り出す。我斬は彼女を庇うように前へ出て敵――竜牙兵と対峙した。さらに見回すと、奥で立ち竦んだような人間がいる。
「一応保護するぞ!」「了解」
小鳥とアロンソが撃つ。合間を縫って我斬が鎖鋸で薙いだ。中途で無理矢理停止、敵体内で刃を解き放つ。反撃。骨片の散弾が4人に降り注ぐ。脂汗を滲ませロッテが沈んだ。剣を薙ぐ。敵の脚を抉った。勢いのままに左回し蹴りを当てる。
「さっきの頼む!」
我斬の声に反応し、アロンソが貫通弾を撃ち込んだ。敵が崩れる。同時に小鳥の連射が顔を潰し、我斬の鎖鋸が鮮やかに敵の首を飛ばした‥‥!
「‥‥一旦拘束させてもらうわ」
ロッテは深く息を吐き、隅で固まる男に告げた。
九蔵が膝をつく。剣が手から滑り、甲高い音を立て床に落ちた。
「そこッ!」
「後はわしらに任せい!」
幾度目になるか。種々の弾幕が一所に集中する。薄い煙の中、敵の体へ過たず。足元に薬莢の山が築かれていく。弾丸の如き投擲物が十蔵の腹を襲う。直後、煙から敵が飛び出す!
空気を裂く音。宙華が機関銃で受けた。袈裟、突き、斬り上げ。弾いて45口径を零距離から放つ。敵腰部が破裂した。それでも諦めぬ敵。唐竹に最期の豪腕が唸る。銃把で受け――速い!
銃声。
「わしもまだ死んどらんわ!」
十蔵の射撃が軌道を逸らし。宙華の連射が敵頭部を破壊した。
「制圧、完了?」
九蔵を抱き起こしつつ無線連絡しようとした矢先。
窓から熱波が襲って――!
「間に合、え‥‥ぇぇええええ!!」
発券フロアから外に下り、東側へ急行したファブニールが跳ぶ!
間一髪。
両腕を広げ灼熱を受ける。機内温度急上昇。眼が沸騰しそうだ。焼けそうな指で引鉄を引く。目標は超低空の竜、炎の元凶。対空砲が外れた。着地。粒子砲を構える。乾いた眼を無理矢理見開く。発射。また炎。跳んで2階を庇う。ビル表面が溶けた。息も出来ない。だが退かない。
――絶対。絶対、絶対!
「絶対通さない!!!!」
発射発射。そして4度目の引鉄を引こうとし――漸く気付いた。既に幼竜の姿が遠ざかっている事に。
『危なかったねー。後少しあたし達が時間使ってたら喰らってたかも』
「‥‥無事で、すか」
ファブニールは灼熱篭る機内で全身を弛緩させた。
保護した人物。幼竜。統率された敵行動。
不安材料が増す中、舞台はバレンシアへ移る――。