タイトル:バレンシアの道は険しくマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/24 00:41

●オープニング本文


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「様子はどうだ」
「予想よりは敵の数は少ないですね。しかし時間をかければかける程、街から増援が来ると考えられますので、楽観はできません」
 空港を前に、司令部は慌しく情報を交換していた。幕舎を張る余裕もなく、大将の乗る指揮装甲車に必要な人間が集まる形である。
 幕僚達は無線や地図を相手に頭を捻り、アントニオ・トーレス大将がじっと腕を組んで眺めながら耳を傾ける。そして幕僚達は次第に作戦地図の周りに集合し、そのまま作戦立案に入っていく。
「確かに敵の数は少ない。が、こちらも負傷者が全体の3割です。死者が少なかったのが幸いとはいえ、戦闘を継続できない者と合わせて1割。この際、空港を再利用する事は諦め、一気に空爆してしまうべきでは?」
「利用できるかは分からん、だがそれでもあるに越した事はないではないか!」
「それでこちらの兵達の半分を失っていいのか!?」
 傭兵達も見守る中で、白熱していく幕僚。
 ここに来るまでに損害がなければ、出来る限り無傷で空港を奪取するという方針で問題なかったのだろうが、実際には戦闘継続不可能な者達が出てしまった。それだけ敵が手強いという事でもある為、慎重に空から爆破すべきという意見も当然だろう。逆に、やはり予定通り滑走路等を使える形で手に入れたいというのも、理解できるが。
 大将が徐に口を開く。
「そこは臨機応変にやるしかないところだな。一応こちらでも爆撃の準備はしておくとして‥‥諸君らはどう思う?」
 装甲車から顔を出し、傭兵達に尋ねる大将。アロンソ・ビエル(gz0061)は上を向き、その後空港の方を見やった。
 爆破等で豪快に攻撃すれば、比較的楽にここは突破できるかもしれない。だが、この次。いざバレンシア市街の戦闘に入った場合、補給が大変になる可能性が出てくる。一方で利用できる形で空港を奪取した場合は今後の展開が楽になるだろうが、肝心の「空港奪取」で戦力を失いすぎるかもしれない。
 さらに、どちらの場合でも敵を万一取り逃がせば、具体的にこちらの対策をされた上で今後増援が来るだろう。どちらの大方針も、一長一短だった。
 ――軍が消耗すればスペインの回復は遠のく‥‥俺には‥‥。
「やはり臨機応変としか‥‥」
 そうアロンソが言い差した時、観測から新たな脅威となる情報が入った。
『こちらから見て滑走路奥、ターミナルビルに近い位置にビッグフィッシュが着陸しています‥‥中に中型程度のキメラが詰まっている模様!』
 と。
 それを機に、大将が装甲車の内壁を叩いて決断を下した。
「我らは空爆要請と大規模な迫撃砲による攻撃準備に取り掛かる。そして傭兵諸君」
 言葉を区切り、傭兵達を見つめる。アロンソは大将の襟元に燦然と輝く階級章に目をやり、唾を飲んだ。
「諸君は先行して制圧行動に入ってくれ。空爆等の最終的な判断は諸君に任せる」

▼空港略地図
                     北
  飛竜1                                  
 ゴーレム2                         ビッグ           タ
                                   フィッシュ1     |
                         竜牙兵1                 ミ
                            飛竜1               ナ
       10体程度で                                ル
        中型未満のキメラ(主に蟲系)が                   ビ
          うろついている                            ル



                         飛行機数機の残骸
                      (比較的胴体部の形を保っている)  雷牙犬3
                     南

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
三田 好子(ga4192
24歳・♀・ST
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
ファブニール(gb4785
25歳・♂・GD
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG

●リプレイ本文

 軍付きの整備士が駆け回り、簡易格納庫内に雑多な大声が響き渡る。金属音は自然の和音を形成し、そこが職人の戦争する場なのだと感じさせる。
 6機の人型が格納庫から出ると、今回唯一生身出撃の佐賀十蔵(gb5442)が盾の上で胡坐をかいて出迎えた。一方でもう1機――葵 宙華(ga4067)は、前回乗ったワイバーンの前でロジーナを止める。コクピットから降り、相棒に触れた。
「今は前に進むね‥‥でも」
 また一緒に飛ぼう。
 短い口づけ。KVは分身。相棒。仲間。愛情に応えてくれるのだから。
 そうして再びロジーナに乗り込み格納庫を出る宙華。それを秋月 九蔵(gb1711)は見、ふと思いついた。
「そうだな、僕もあんな‥‥。いやTACもまだ決めてなかった。‥‥ふむ。ドリーマー、なんてね。そうすれば大それた事にこいつも付き合ってくれるかな」
「きっと‥‥応えてくれますぅー」
 何故か自信満々な幸臼・小鳥(ga0067)である。そこまで世の中を信じきった小鳥に一瞬呆気に取られ、九蔵は笑みを漏らした。
 そうするうちにコンソールに空港のデータが送られてくる。
 装輪準備。操縦桿に力を込め、動き出す。
 見上げて声援を送ってくれる兵の中には、痛々しく包帯を巻いた者も見える。
「彼らの為にも‥‥必ず、進む」
 秘かに奥歯を噛み締めるロッテ・ヴァステル(ga0066)に、三田 好子(ga4192)が悲しげに同調する。
「この負傷率なら退いてもおかしくないですが、バグア相手となるとそうも言ってられませんから‥‥」
「はい。僕達の明日は自分で掴むしかありません。それが命に繋がるんですから!」
「ふん、青臭い言葉だが」
 勢いよく話すファブニール(gb4785)に、十蔵はニヤリと口角を上げた。
「だが、それがいい」
 空港方向を見据える。対空砲等がない事を考えると、敵にとっては保持しなくともいい地なのかもしれない。だがこの1点から、崩していくのだ。
 龍深城・我斬(ga8283)はビーストソウルのモニタを拡大し、データと合せる。
「しかしCWもEQも見えないのが気になるなあ‥‥杞憂ならそれでいいんだが」
「そう、ね」
 小鳥、デカブツは任せたわよ。ロッテがアヌビスの計器を点検しながら。今回は各班の連絡とタイミングが重要となる。小鳥は逸る心を抑え、返す。
「にゃ‥‥任せて下さぃー!」
 つい。小鳥機が僅かにアロンソのバイパーへ向いたのを、ロッテが見逃す訳がない。すかさず左手でガッと小鳥機コクピットを鷲掴みする。
「アロンソ以外で。あれは、私が鍛えてるんだから‥‥」
「ひぃあぁ?! そそうですねぇーっ」
「漫才はその辺にしとけ」
「そうそう。アロンソ兄の事は後。切り拓くんだから、ここを‥‥!」
 窘める我斬と宙華。準備完了。ファブニール、十蔵と我斬が左に並ぶと、ロッテと好子は右に、残る4人が中央に陣取った。
「皆‥‥必ず、最善の結果を示すわよ!」

「出撃!!」

●陽動
「ゴーレムを引き付けて下さい! 僕が一気にやります!」
 滑走路を2機と1人が滑る。目前に展開された大小様々な蟲達を掠め、彼らは北へ。目標は北西。快いGを感じながら我斬機が動く。
「ひとまずこいつで気勢を削いでおけば‥‥!」
 徐にグレネードを放つ我斬。ポンと場にそぐわぬ微音がし、数秒後、蟲のど真ん中に炸裂した。算を乱す敵。その時、生身の十蔵は突如足を止めた。敵の方を向きつつ叫ぶ。
「キメラとはいえ背後で動き回られては集中できまい」
「な、まさか1人残っ‥‥」
「このわしが抑える言うとんじゃ、さっさと行ってこい!」
 滑走路中央北西寄り。遮蔽物も殆どないそこに立ちはだかる十蔵。異論を唱えんとするファブニールを我斬が止めた。
「これ、土産。後で料金請求するかもしれないからな」
「ふん、領収書でも切っとけ」
 もう1発グレネードをぶち込むや、即座に北西へ進路を取る。これは時間が最も重要になるのだ。己のやるべき事を。止まる事は許されない。
 待ち受けるかの如くこちらを向くゴーレム2機。敵の肩砲口に真正面から捉えられた。
「俺が気を引く。ファブニール、ちゃんと当てろよ!」
「ッ‥‥、了解!」
 2人が散開する。直後、我斬機を極太の光線が襲った‥‥!

「速攻よ!」
 景色が流れる。装輪が唸る。ブーストして操縦桿を倒し、まさに風となって突撃するロッテ。背後には兵員輸送車に乗った1個小隊が続き、さらにやや離れた位置に好子。広大な滑走路を邪魔もなく驀進する。左手にはビッグフィッシュ――BFが離陸準備もなく鎮座し、周辺にキメラ達。ならば今のうちに空港外縁を固める!
 ロッテが一直線に空港南東へ進む一方、
「優しくしてあげる♪」
 我斬と時を同じく、グレネードを発射する好子。放物線を描いたそれが中央寄りに落ち、数匹の蟲が逃げ惑った。それらの敵の遥か向こう、好子は1つの影を見る。
 十蔵だ。
 KVの先制攻撃で浮き足立つ敵を1体ずつ撃っていく彼の姿。好子は重機の引鉄を引いた。轟音が轟き、蟲達が混乱に拍車をかける。
「リッジウェイの安定性も良いけど、この子の軽快さも悪くないわね。癖になりそう♪」
 弾幕が尽きかけた頃、ようやく好子は北東に進路を取った。残骸とビルの隙間に機体を躍らせるように。と同時に。
「Chien――同じ犬でも貴方達とは違うのよ‥‥!」
 ロッテ機アヌビスが跳ぶ。腰部噴射。空中軌道を曲げ、急加速から雷牙犬1体に大剣を突き立てる!
 間髪入れず輝く大剣の柄を押さえ剣先を持ち上げるや、横薙ぎに転換した。1体が完全に両断され、残る2体もその強力な剣を前に後ずさる。
「好子、中央は‥‥!?」
「程よく」
「アロンソ!」『了解!』
 好子とロッテが雷牙犬を葬らんと動く。が、その瞬間、犬は東――バレンシア市街方面へ逃げ出した‥‥!

●Ready
 格納庫近辺。敵から隠れて4機はひたすら合図を待ち続ける。
 痛い程の沈黙。まだか。
 心臓は激しく拍動し、その度に脳が、体が活性化する感覚。宙華は深く息を吐く。
「風よ‥‥あたし達に力を‥‥」
 自分の言葉が妙に大きく聞こえた。
 ――たとえ地を這おうとも。あたしは進む‥‥ソラへ帰る為に。
 コクピットに熱気が篭る。汗が頬を伝った。僅かな先からは銃声と敵の鳴き声。準備万端。早く、早く!
「ぇ、とぉ‥‥空港への被害は‥‥気をつけましょぅー」
「この程度の緊張感は維持し‥‥!?」
 小鳥に九蔵がツッこみかけた、刹那。
 ロッテの合図が、来た‥‥!
「っ出撃ですぅ!!」

●3つの戦闘
「っカーテンフォールよ、端役は退場なさい‥‥!」
 強引に操縦桿を倒しながらペダルを踏み込むロッテ。腰部ベアリングが軋みを上げる。逃げる犬に小跳躍から狙いを定める。オイルが跳ねた。同時に遠心力たっぷりの大剣を大上段から振り下ろす!
 敵の悲鳴。が、突然強烈な光が風防越しにロッテの網膜を刺激した。堪らず目を閉じる。敵攻撃らしき衝撃が機体を震わす。
 ――獲物を、感じればいいだけ‥‥。
「其処!」
 アヌビスの右脚が鋭く振り抜かれる!
 敵の腹を抉った感触。即死だろう。
 だが後1頭いる。1秒すら惜しんで通信しようかという時、重機を再装填していた好子機がそれを東に向けた。連射。滑走路端のコンクリが弾け、白煙が敵を隠す。
「命中?」
「いえ、ヤンチャが過ぎるようですね」
 次第に視力が回復してきたロッテは、東の方をモニタで見てみる。敵影はなし。逃がすべきでないが、このまま2機で進んで大丈夫とも思えない。
「‥‥仕方ないわ。皆、ここは任せるから‥‥」
「了解」
 軍から連れてきた小隊に告げて北――残骸とビルの間を覗くと、そこには‥‥。

 ガァン‥‥!
 連続する銃声。十蔵はでっぷり突き出た腹を盾に隠しながら撃ち続ける。羽蟲を叩き落した。巨大芋虫の体当りを盾に体重を預けて受け、撃ち下ろす。緑の体液が飛散した。
「ぐ、む‥‥!」
 立ち直りつつある敵が、次々押し寄せてくる。6体。グレネードで負傷した敵だが、それでも生身1人には骨の折れる数だ。急降下してきた蜻蛉を盾で弾き反撃する。さらに氷弾を横っ飛びで躱し、そちらに引鉄を引いた。
 ‥‥弾切れ!?
 即座に再装填する十蔵だが、飛びついてきた大蟷螂の鎌に左肩を斬り裂かれる。素早い動きで転がって反撃する十蔵。立ち上がろうとし、膝が笑った。
「ぬう‥‥無理したのがいかんかったか‥‥!」
 あの2人はまだゴーレムをやれんのか。
 十蔵は多くのキメラに見据えられながら、我斬らの方を見た。

「ハ。お前らの相手は健在だぞ」光線を喰らい、それでも不動でゴーレムを挑発する我斬。「今度はこっちから行くからな!」
 水陸機らしい他機と異なる機動で左前方に我斬機が跳ぶ。そのまま機関銃をばら撒いて敵の目を引きながら自らも回りこんでいく。レーザーが右肩部に直撃した。
「それだけか? さっきの撃ってみろ!」
 心なしか我斬の挑発に激昂した様子でもう1体が砲を構えるや、極太の光線が放たれる。断末魔の如き轟音が木霊し、同時に光線が我斬を包んだ。大剣を前にガードする。一部装甲の剥れる音。だが。
「ファブニール!」
「行きます!!」
 その瞬間。
 反対側に回り込んだファブニールが、荷電粒子砲を解き放った‥‥!
 一閃。ゴーレムの腕が消し飛ぶ。
「皆の笑顔を守る‥‥ロビン、力を貸してくれ!!」
 連射。重厚な反動がファブニールを襲うが構わず撃ち続ける。二射三射。光はゴーレム1体を背後から捉え、腕を、腰部を「持っていく」!
「お願いします!」「上出来だ、任せろ」
 守勢に回っていた我斬が駆ける。
 大破した1体を一刀の下に斬り捨てるや、煽りを喰らいファブニールに向きかけたもう1体へ敢然と斬りかかる。ビーストソウルが輝く。陸でも戦える。そう叫ぶが如く、灼熱剣に力を伝える!
 袈裟、次いで薙ぎ。ゴーレムがよろめきながら光線を放つ。コクピット直撃。衝撃が脳を揺さぶる。操縦桿を握る左手の紋章が強く輝いた。護るべき者と繋がる、紋章の想い。我斬は敵の向こうからファブニールが接近するのを視界に捉え、切先を敵に向け剣を引いた。
「こんな所で時間かける訳にいかないんだ!」
「終りです!」
 渾身の刺突を繰り出す我斬。敵が肩で受ける。漏電。我斬の真正面に砲口が来た。光が集まる。拙い。
 その刹那。敵背後に滑り込んだファブニール機の爪が、敵を両側から引き裂いた。
 漏電、爆発。息をつく2人。
「助かった。しかし飛竜もいると聞いたが。逃げられたか?」
「まぁ敵がいなければ他班の援護に‥‥」
 言い差したその時、滑走路中央を抉る一陣の風を彼らは見た‥‥!

 GO――!
 疾ぶが如く、疾ぶが如く、疾ぶが如く!
 装輪が回る。滑走路を滑る。景色を一瞬で置いていく!
「まだ敵がのさばってる!」「無視しかないだろう!」
 ガガ、と凹凸に振動する。だが操縦桿は強く倒したまま。宙華と小鳥を先頭に、止まる事ない電撃戦。目が追いつかない。
「目標はBFのみですぅっ」「それが妥当だね」
 他班に両断された敵群。その中央を穿ち、さらに進む。十蔵の姿が見えた気がした。進む。敵の間を抜けた。進む。一気にBFが大きくなってきた。進む!
「粒子砲射程な‥‥!?」
 小鳥の指が引鉄にかかった瞬間、目前に現れる竜牙兵。それが何かを投擲してきた。宙華機左腕に命中。九蔵の足元が抉れた。咄嗟に跳ぶ九蔵。そこをまた投擲物が襲う。
「これは煩いね」
 機関銃を差し向ける九蔵。が、その耳に、
『皆はBFを早く‥‥!』『私も間に合った事なので♪』
 横合いから竜牙兵に突撃するロッテと、風に合流する好子の声が。奔流は止めるべくもなく流れ続ける。
「はぃー‥‥改めて‥‥粒子砲発射ですぅ!」
 逆噴射。脚がコンクリを削る。そしてその慣性すら相殺しかねない反動を以て、粒子砲が放たれた‥‥!

●制圧
 銃身が焼け付く勢いで撃ち続ける十蔵。迫りくる4体のキメラを前に彼が焦りを感じたその時、敵の背後を1つの奔流が駆け抜けた。少なくとも役目は果たした満足感がこみ上げ、笑みが零れる。
「遅い。馬鹿どもが‥‥」
 再装填の動作すら億劫になる。どれ程受け、移動し、撃ったか。縁の下で十蔵が戦ったからこそゴーレムの早期撃破と本隊の流れる突破があり、
「大丈夫ですか!?」
 敵を早期撃破できたからこそ、ファブニールの支援が間に合ったのだ。
「年寄り扱いするな、若造」
「‥‥はい、すみませんっ」
 ファブニール機から光線が放たれ、次々蟲が蒸発していく。最後の一踏ん張りだと十蔵も銃口を敵に向け、確実に撃つ。
 そうして20秒。蟲達は完全に空港から姿を消していた。

 ロッテ機が前蹴り、さらに突きから間髪入れずその刃を振り上げる。それを中型ながら辛うじて受ける竜牙兵だが、流石にKV相手では分が悪すぎるらしい。衝撃を殺しきれず敵の体液が散った。
『――■■!』
「悪夢を孕んで消えなさい」圧倒的な力で大剣をかざす。「‥‥ラ・ソメイユ・ぺジーブル」
 大上段からの必殺の一撃。交差法気味に敵が一か八かの投擲を敢行する。
 斬‥‥!
 くずおれる敵。ふと横を見ると、アヌビスの風防脇に牙のような物が突き刺さっていた。

 粒子砲がBFを両断せんと放たれる。敵上部が小爆発を繰り返し、直に粒子を喰らっていく。その間にも分岐した風が舞う。
 攻撃システムによって弾幕をばら撒きながら右へ駆ける宙華と、ハッチを探してBFの周りを奔走する九蔵。好子は粒子の残滓が消える間もなく正面からブーストを噴かせて飛び込むや、ドリルを大胆に突っ込んだ。
「お注射の時間ですよ♪」
「‥‥」
 見た目にエグイ光景を前に言葉を失うアロンソだが、重機の調整は間違えない。小鳥の攻撃で損傷を負った箇所へ弾幕を送り込む。その横に並び立ち、重機を同じ場所に向ける小鳥。再度爆発が起こった。
「無駄にしぶとい‥‥!」
「ま、逃げる力もないだけ楽でしょう。ほらお魚さん、逃げないと鳥に啄まれるぞ?」
 言いつつ、九蔵が正反対にあったハッチを見つけた。近距離用の光線が猛烈に襲い掛かってくる。紙一重で躱し、あるいは喰らいながらグレネードを放った。
「親切に火葬してやるから」それが過たず内部に入り、くぐもった音を立て爆発する。「本星に帰って埋めてもらえ」
「おまけよ!」
 エンジンが唸りを上げる。慣れぬ大剣を前に突き出しブーストする宙華機ロジーナ!
 決定的な感触が操縦桿から伝う。
 沈黙。宙華が横薙ぎに剣を抜いた瞬間、BFが大爆発を起こした‥‥!
「あたし達の空を返してもらうから」
 飛ぶ素振りもなかったのはこちらの攻撃速度故か初めから損傷していたか。
 ともあれ、こうして傭兵の活躍により大部分の空港奪取に成功したのである。

<了>

「ん?」
 独り我斬が飛行機の残骸に触れる。EQもCWも罠もない。ただ、噛み千切られたような、そんな場違いな跡が残るばかり。
「この先、これを仕出かした奴がいるってか? ヤな予感がするなあ」
 歪に千切られ、腐蝕した胴体を眺め、我斬は独りごちた‥‥。