タイトル:ドン・キホーテに捧ぐ夢マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/31 02:27

●オープニング本文


 スペイン。ラ・マンチャ地方某所。
 侵略者との激戦が日々繰り広げられているこの国の、ほぼ中央の一地方。この村はその地方でも森に囲まれ、さらにひっそりと目立たない位置にあった。これまで奇跡的にバグア勢力からは見つからず、あるいは大した戦力を持たない村として優先順位が低すぎただけか、この時代に誰一人欠ける事無く暮らしていた。
 30戸程度の小集団で、毎日を怯えながら懸命に生きてきた。男衆は当番で日夜警備に立ち、頼りになる武装もなく付近を巡回する。女衆も警備に割かれる数人の分を補うように農作業に精一杯従事した。日曜には村の中心からやや西の拓けた場所に建つ教会へみんなが赴き、神に祈りを捧げる。
 激変してしまったこの世界を、一生懸命に生きる。比較的安全な国に移り住む資金もない。いや、資金があったとしても、生まれ育ったこのラ・マンチャで生きたい。
 能力者のように直接侵略者に抗う事はできずとも、この村はここで、戦線に巻き込まれたこの地で、耐えて生き残る戦いをしていた。
 村の大人達は未来を信じ、そしてこんな世界でも時折漏れる子ども達の笑顔の為に、戦っていた。

 しかし。

 ガァァン‥‥!!!
 突如響く、けたたましい音。
 村の全員がそちらを向く。その音は東からしていた。まだ遠いものの、その音はそれからずっと間断なく響いてきた。
 隠れ住んでいた森の木々が薙ぎ倒されている音ではないか。
 村の猟師が村長宅の緊急会議で推測した。最初にその侵攻が始まって即座に会議を開いたのだが、音は既にかなりの距離近づいているように思えた。
「村長、今回は確実に我々の村に向かっているのではないでしょうか‥‥!?」
「うむ‥‥」
「もはや隠れてやり過ごす事もできません! 一刻も早く逃げねば!」
「何を言っている! まだ一度も当たった事もない段階で化け物野郎に背中を向けるというのか!?」
「お前こそ何を抜かしてるんだ! あんな怪物と正面からまともにやり合えるのは能力者だけに決まってるだろう! 俺達は逃げ‥‥」
「それで俺達の地をタダでくれてやるのかよ腰抜けが!」
「なんだと!!」
 働き盛りの20代後半の男達が各々に怒鳴る。会議は踊る。ラテンダンスの如く激しい攻防。そして村長が口を開きかけたその時。
「――――――――ッ!!!!」
 地獄を思わせる高い悲鳴。
「今度はなんじゃ‥‥!?」
 戸口に近かった1人が軽く玄関を開いて窺うと、そこには北に逃げ惑う村人達と、南からゆっくり羽ばたいてくる異形の姿があった。
 会議に出席していた者達も一斉に息を呑む。こんなにも絶対的な脅威が接近したのは初めてだったからだ。
「ッ‥‥村長!」
 皆の命を優先して逃亡する事を主張していた男が村長に詰め寄る。可及的速やかに統率して北へ逃げるべきだと。先程まで息巻いていた主戦派の男は扉に近づいてこっそりと外を覗いた瞬間に、その手に持っていたドラグノフをガシャリと落としていた。それは近くに駐留する軍から内密に購入したものだった。それを使ってなんとか一矢報いるのだと。そんな話を、そんな夢を、語っていたのだ。そして今、凶悪なキメラの姿を直にその目に映し、それが夢物語だったのだと、彼は悟ってしまっていた。
 口は半開きのままに扉に手をかけて立ち尽くし、双眸には熱い涙が溜まっていた。
「‥‥アロンソ」
 いまや90にも届きそうな村長が、立ち上がってその男に言う。
「お前の覚悟はわしも承知しておる。じゃが」
 アロンソと呼ばれた男は堪えきれない感情に、様々な悔しさに嗚咽がこぼれそうになるのを我慢して振り向く。
「蛮勇を振るって無駄に命を散らすと勇敢に脅威に立ち向かうは違うぞ」
 その言葉には、これまで大きな戦争を何度も経験しながらも生きてきた男の覚悟があった。
 アロンソは腕を震わせて黙っていたが、しばらくして僅かに頷くとじっと俯いたまま静かに会議の席に戻った。
 厭戦派だった男が名前を呼ぶ。アロンソがそちらを向くと、言葉を続けた。
「一度能力者の適正検査でも受けてみたらどうだ。なぁに心配はいらん! 旅費は俺達が用意してやるし、お前が行って帰ってくる間ぐらい、残った俺達だけで警戒できる!」
 男が笑いかける。それを見て、アロンソにも微かに白い歯が見えた。
「では、みなを集めて逃げるとするかの。集合場所は北のB、ルートは4じゃ!」
 それで村民皆が無事逃げおおせていればなんの問題もなかった。ところが。


 ――――自分の子どもとはぐれた事を、母親が訴えかけてきた。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ケイン・ノリト(ga4461
30歳・♂・FT
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
FC(ga6241
13歳・♀・ST

●リプレイ本文

「では姉弟を最後に見たのは集合場所に集まる途中、という事ですね」
 北の村に避難している村長に、勇姫 凛(ga5063)が尋ねる。錯乱する母親から事前に話を聞いていたらしい。
「他に村で何かお知りになりたい事はありますかの」
「いえ、ありがとうございました。村の略図も把握しましたし、あとは私達にお任せください」
 アイロン・ブラッドリィ(ga1067)は長い銀髪をやや押さえつつ深々と頭を下げる。そこにケイン・ノリト(ga4461)が「一刻も早く保護しなければいけませんから〜」と間延びした口調で付け加えた。
 そして足早に向かおうとする8人。しかし未だ顔色が優れない村民と、目を腫らした村の子ども。やや立ち止まり、彼らを安心させるように、
「‥‥凛達が必ず助けるから」
「大丈夫‥‥私達は絶対にやり遂げる」
 凛とロッテ・ヴァステル(ga0066)が言う。根拠なく信じられるような立ち姿だった。
 村人が頭を下げる。ただ1人、アロンソを除いて。アイロンはそれに気付く。下唇が真っ赤だった。
 その無念‥‥。
「痛い程に解ります‥‥」
 白い指のリングに視線を落として。
 しかし今はその後悔を奥に仕舞う。現在出来る事をやるのだと。
 幼い姉弟――ミシェルとフアンを助け、村を取り返す為に。

●村、潜入
 ある程度深く、しかも日光をそこまで妨げない。ラ・マンチャ某所、そんな快適な森の中にその村はあった。
「ロッテさんと‥‥久しぶりに一緒の依頼‥‥ですねぇー。とりあえずこれ‥‥ロッテさんにお貸ししますぅー」
 村を窺える森の中で。幸臼・小鳥(ga0067)がショットガンをロッテに手渡した。
 村はかなりの家屋が壊されていた。北の方はまだいいが、中心らしき広場以南にはまともな形を残した建物がなかったのである。そして。
「巨人のように腕を振り回す風車型キメラ‥‥こんな所でドン・キホーテ役を演じたくなかったな」
 凛が、原形を留めた家の屋根から突き出ているキメラの禿げ上がった頭を眺めて。
「あれが東の木を倒していた奴か」
「赦せない‥‥!」
 崎森 玲於奈(ga2010)の推測に反応するように、ロッテが静かに憤った。
「うー‥‥落ち着きましょぅー‥‥」
「解ってるわ。大丈夫。戦闘では私が引き付けなければならないしね」
 仲間を見渡して。小鳥の頭に手を置きつつ。
「あなたも。慣れないかもしれないけど頑張りましょう、フェイ」
「フェイ‥‥ですか‥‥えふしー、みなさんについていきます‥‥」
 FC(ga6241)が虚ろに返す。
「ともあれ探す手間が少しでも省けたのはいい事です。早速行きますか!」
 翠の肥満(ga2348)の一声で突入が決まる。覚醒する。
「こちらでなんとか‥‥引き付けておきますから‥‥姉弟の救出、お願いしますぅー」
「ええ。そちらも、くれぐれもご無理をなさらぬように」
「発見次第無線で連絡する」
「攻撃方法や総数がまだ不明ですので〜、気をつけてくださ〜い」
 そして巨人が南を向いた隙に走り出す。突然拓ける視界。眩い光。村の家を横目に、荒れた地面を物ともせず。50Mの縦道をほんの数秒で。
 広場に着く。素早く左右の班に散開。その場で上に向けて一発。
 パァン!
「さあ、こっちだ頭の悪いバケモノ共! お前らの相手はこの僕、能天気諸々不詳、翠の肥満様だぜ!」
 翠の宣戦布告が、村中に響き渡った。

●東のフアン――玲於奈・凛
 東の方は全てが蹂躙されていた。家屋は倒壊し小さな畑は踏み潰され。料理中だったのか、燃え燻っているものもあった。
「これじゃ‥‥」
「潰れた民家の中などに後から隠れたかもしれない」
「そう‥‥だね」
 最悪の可能性が胸を過る凛だが、玲於奈の言葉で再び気合を入れ直す。小声で姉弟の名前を呼ぶ。気配はない。
 凛はそのローラーブレードを活かして広範に注意深く捜索する。逆に玲於奈は少しずつ瓦礫を除けたりして慎重に。
「助けに来た、居場所を教えて‥‥凛が迎えに行くから」
 そんな呼び掛けをしていたその時。後ろで盛大な音。そして刀の鍔鳴り。
「敵か!」
 凛が戻る。そこでは玲於奈が2匹のスライムを相手に勇戦していた。
 静かなステップからの横払い。そこから唐竹に十文字。そして正面から横に流れるように体を入れ替え胴薙ぎ。一方を神速で撃破した玲於奈。もう1匹が玲於奈に迫る。そこに凛が槍を構えて突撃する。吹っ飛ぶ敵。それを猛追する玲於奈。パソドブレのように激しい剣舞。
 最後に。玲於奈は一気に踏み込んで敵を突き刺し、後ろの木材ごと現世から葬った。
 刀を空で振り、納める。凛も一息吐く。そして疑問に思う。
「スライムがいたにしては移動してきた跡がない‥‥?」
「ああ。それで多少虚を突かれた」
 東から来たのはあの巨人の他にいるのか。だが。この「どこかから不意に落ちてきたかのようなスライム」は何だ。2人は戦闘班の安否を考える。いや無事に違いない。そう言い聞かせる2人。
 しかし不安は一向に消えなかった。
 そこに無線が入った。

●西のフアン――アイロン・ケイン
 パァン!
 翠の銃声を聞きながら2人が西に走る。もちろん気配には細心の注意を。
「こちらの方はまだ被害が少ないみたいですし、教会は後回しにいたしませんか?」
「う〜ん。信仰に篤いみたいだから教会が怪しいけど〜、民家から見ていった方が見落としがなくなるかもね〜。それに」
 子どもが教会を飛び出して行く所といったら、親しんだ村に戻るしかない。そんな推測を立てるケイン。村から捜索する事にする。
 と、頭上を飛び越える影。蝶のような羽を持つ巨大蜘蛛と言えばいいのか。見ていて気持ち良いものではない。それが脇目も振らず広場に飛んでいった。
「それにしても」
 アイロンが瓦礫を懸命に除けながら。
「無為な破壊を繰り返すだけのキメラを放っていくバグア‥‥何が目的か解りませんが、赦せないのは確かです」
「そうだね〜‥‥子ども達にまで恐怖を振りまく‥‥」
「私達が出来る事を全力でいたしましょう‥‥戦い、護り抜く事を」
 静かに、アイロンが。ケインはそれを聞き、心なしか表情を引き締めて僅かに頷いた。
「いないみたいだね〜。南の可能性は殆どないとして‥‥」
 2人が教会に駆ける。途中は森の小道を通る。至近の木々に道なりにロープを張っている為、迷いようがない。50M程抜けた先の拓けた場所。古めかしい聖堂が鎮座していた。
 歩く。正面から、左右を警戒して。アイロンが銃、ケインが刀。両開きの扉を開ける。
 キィ‥‥
 高い天窓。木漏れ日の透けるステンドグラス。磨かれた天使像。鄙びた匂い。聖母像と。
 果たしてそこに姉弟はいた。怯えた表情がその『戦い』の壮絶さを物語る。それでも弟を守るように前に立つ姉。土と血にまみれたその足が微かに震えていた事に気付かない2人ではなかった。その荘厳な雰囲気の中、
「救出に来ました〜。キメラじゃありませ〜ん」
 得物を納めたケインのふやけた声が響いた。
「られれすか‥‥!」
 警戒を解かず。しかし自らの光に違いないと。姉が嗚咽を漏らす。
「お母様方にお願いされて、ミシェルちゃん達を捜しにきたんです。さあ、帰りましょう?」
 出来るだけ優しく。娘を愛するように。ケインもゆっくりと近づく。
 抱擁。
 アイロンが姉弟を抱き締めケインが2人の頭を撫でる、その最後まで2人は戦い続けた。そして無事、帰還したのである。あとは大人、傭兵がきっちりとやる領域だった。
「こちら捜索班、姉弟無事保護しました〜」
 ケインが無線で連絡する。
『――良かった‥‥怪我は?』
「擦りむいてるけど大丈夫〜。戦闘班は‥‥」
『――戦闘班‥‥目立つバケモノは僕らの所にいる奴だけだと‥‥これなら殲滅できます‥‥!』
 翠の荒い声が聞こえる。なかなかに激戦のようだった。それだけにそこに全て集まっている可能性が高い。
「なら教会で少し落ち着かせてから脱出するよ〜」
『――了解。私達は戦闘援護に向かう』
 ケインは無線を腰に戻し、さてと、と聖堂の長椅子に座った。
「フアン君、少しお話しようか〜」
「早くお母様の許へ届けた方がいいのでしょうけれど‥‥」
 アイロンが困ったように笑うとケインは「こんな状態の子どもに無理させられないからいいんじゃないかな〜」と、先程からアイロンにしがみついて泣きじゃくるミシェルを見て言った。

●風車の冒険――ロッテ・小鳥・翠・FC
 連続する銃声。ばら撒かれる銃弾。小鳥がその雰囲気にやや不釣合いな短機関銃で巨人足元付近に撃つ。全長5Mにも及ばん巨人がたたらを踏んだ隙に、ロッテが腹部、翠が左胸あるいは中心を狙い撃つ。FCもしばしば知覚攻撃を試みるが、あまり効いた様子はない。
 しかし戦いは始まってさえいなかった。巨人は不気味に辺りを見晴るかし、時折蹴りを繰り出す。一方でこちらも不用意には近づけず、結果銃で牽制するのみ。それもまだ大して効果はなかったのである。
「キメラの攻撃が‥‥解らないと下手に‥‥向かっていけないですねぇ‥‥」
 間延びしている割に立ち位置を変えつつ引鉄を引き続けている。しかしロッテが時間を気にして焦れてきた頃。突然巨人の動きが変わる。
 やおら右腕を掲げると、一気にロッテの方へ叩き込む。さらにその腕を払う。自慢の足で咄嗟に避け、受け流すロッテ。が。そこに背後上空から突撃する影。昆虫のような長い足でロッテを引っ掻く。ジャケット肩口が少し裂ける。再び上昇する時に後衛3人の方へ白い何かを吐き出した。何事もなく地面に落ちる白い物。
「‥‥糸か?」
「べたべた‥‥してそうですねぇー」
 ダララララ。ガシャコ。
「皆無事‥‥死んでない‥‥? 誰も死にたくない‥‥!」
「大丈夫よフェイ! 簡単にやられたりしないわ」
 ロッテが瞬足で翻弄させつつ後衛の様子を見る。
「飛んでやがるのは‥‥蜘蛛?」
「成る程‥‥そういう事ね」
 巨人に牽制を加える。やや北へ後退。
「巨人の方はまだ解らないけど、飛行型はおそらくその糸と足、あとはそれらしく牙に注意ってところだと思う」
「ですねぇー」
「お空の奴は僕らがやりましょう。‥‥フフン、スナイパーの腕を試すにはもってこいだ」
「その間は私が巨人の相手ね。アレには恨みもある‥‥」
「え、えふしーは‥‥ロッテさんの援護‥‥」
 短い打ち合わせが終わる。そして本格的に始まる戦い。
 ロッテが動き回って巨人に銃撃し、FCはリロードの隙を埋めるように超機械を遠距離で。
 蝶蜘蛛にはスナイパー2人の異なる銃撃。小鳥が高速で移動する敵の飛翔ルートを先読みした空間に薄い弾幕を張り、翠は敵の旋回を狙う。それでも余程気に入ったのか、蜘蛛はしきりにロッテに突っかかり、彼女はショットガンで牽制する。
「うー‥‥あなたの相手は‥‥こちらですよぉ‥‥!」
 結果としての十字砲火。蜘蛛が怯む。翠がそこに渾身の弾丸を見舞う。
「落ちろバケモノ!」
「止めですぅ‥‥!」
 小銃が本体を穿ち、短機関銃が羽を穴だらけにする。落ちる敵。間際、例の糸を吐こうとするが、力もなく自身の身体に垂れるだけだった。接地。動かなくなった。
 そこに無線が入る。ケインの声。無事保護できた報告。翠がやや昂奮したまま応じて終了する。
「さあ次は‥‥!」
 巨人に向かいかけたその時。巨人が両手を振り上げ足元の土に振り下ろした。地響き。全員が片膝を突く。さらに巨人は砕けた地面の塊を握り締めると――。
「フェイ!」
 ロッテが驚くべき速度で投擲された礫弾とFCの斜線上に飛び込む。爪でガードする余裕もない。せめてと自動小銃の銃把で砕こうとするが当たらない。まともに喰らうロッテ。小鳥とFCの悲鳴。翠が連続攻撃を防ごうと銃撃する。
「‥‥大丈夫」
 明らかに嘘。FCが震えて近づく。小鳥が援護射撃。
「痛い‥‥足手まとい‥‥ロッテさん死ぬ‥‥死なない‥‥嫌‥‥えふしー誰も死なせたくない‥‥!!」
 柔らかい空気がロッテを包む。
「‥‥大丈夫。あなたは役立たずじゃない。‥‥ふふ、後で可愛がってあげるわ」
 敵は銃撃を無視するように北上していた。ロッテはFCの頭を撫で、ふらつく身体に鞭打ち敵の前に回る。
「この先は通行止めよ」
 ルベウスを装備する。一気にケリをつけようとする。だがそのぶ厚い筋肉を前になかなか有効打を与えられない。顔面への銃弾は腕で防がれ、ロッテが跳び上がっても払われる。前衛が欲しかった。強烈な攻撃で隙を作れるような。退がる。中心から20M追いやられていた。
 一時立て直しを図るか‥‥。
 経験豊富な3人が考え始めた時だ。
 巨人の背後、4人の逆から2つの人影が走ってくるのを見たのは。

 玲於奈の咆哮。刀を脇構えに走る。その後ろに凛。勢いのままに敵左足首を玲於奈が右から薙ぎ払う。同時に右足首には凛が突撃。
「貫けエクスプロード‥‥凛の想いを炎に変えて!」
 両足首を狙われてはどうしようもない。巨体が傾ぐ。正面ロッテが跳ぶ。
「木々の恨み‥‥!」
 だが首に跳び付こうとする彼女に、敵の右肩から細い触手を伸ばすスライム。
 張り付いていたのか!? 左爪で捌こうとし。
「援護しますぅ‥‥!」
 スナイパーの精密射撃。ロッテが改めて巨人に集中して。
 斬。深々と切り裂く。
 降り注ぐ血潮の中、ロッテが着地する。
「‥‥ラ・ソメイユ・ぺジーブル」
 その言葉とは裏腹に、おそらく巨人は安らかならざる眠りを余儀なくされた。それが彼らの業だと言わんばかりに‥‥。

●能力者
「――ッ!‥‥がとっ‥‥ござ‥‥!!」
 喋られない程に昂ぶり、走ってきて強く姉弟を抱き締める母親。このような場面を目の当たりにするとやはり心が洗われる。
「村を代表してお礼申します‥‥」
「いえ、間に合わず村の大部分が破壊されてしまった事を考えると‥‥」
「よいのです。ただ命さえ無事ならば」
「この村のお子様はお強いですね」
 アイロンと、懐いたようなFCを後ろに従えたロッテが村長と話す間、他の5人は姉弟のもとにいた。
「2人とも‥‥良く頑張りましたねぇ‥‥」「ほんとだよ〜。偉かったね〜」「うん、良かった‥‥」
 2人の頭は大人気である。
「だが弟は姉を助け、単独でも戦えるよう精進せねばならんな‥‥」
 その辺りでロッテが帰還の合図を送ると、翠が特に話しかけるわけでもなく姉弟の近くにいて、そのまま戻る。改めて礼をして北の村を後にする。ふとロッテの目に留まる男。アロンソだった。大分落ち着いているが赤い目でじっと見つめていた。
「誰にでも可能性はある‥‥また逢いましょ」
 ‥‥戦友として。
 敢えて聞こえないように。
 予感がした。
 きっと本部で会う日が来ると。

<了>

「あら? なあにミシェル、フードの中に入ってるの‥‥カード?」
「ふえ?」
「と‥‥」

『無事でなにより。ホットミルクでも飲んでゆっくりお休み――ばーい、翠のお兄さん』

「誰?」
「わかんない」
 実ははっきりと名前を紹介していない翠であった‥‥。