タイトル:刹那に生きる夢マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/01/13 06:35

●オープニング本文


「ッネタぁぁああぁあぁぁあぁぁぁ!!!!」
 気だるい昼下がり。LHの一角にひっそりと存在する公園に、そんな絶叫が轟いた。
「なんなのこのマンネリ! 私なんか悪い事した? 年明け早々働いてんだよ?! むしろ褒められて然るべきじゃないの!!?」
 ‥‥働かないといけない程、お金がないんだけど。
 脳内でもう1人の自分が突っ込んでいるが、そんな事は考えないようにして彼女はベンチに寝転んだ。
 ――大体、何で事件が起こらないの? 全財産はたいて来た意味なくない?
 OL辞めてLH来て。安アパートに住んでカメラ持って。全ては世に情報をもたらし、少しでも人々に希望の光を見てもらう為。なのに。
 ――やっぱいきなり殆どコネもなくフリーとか、無茶だったよねぇ‥‥。
 今さらながらに彼女――ブリジットは盛大なため息をついた。
 見上げる空はひたすら遠く、矮小な自分にうんざりする。と、その時、遥か向こうからこちらに墜ちてくる戦闘機が見えた。いや正確には、墜ちてきたようにすら思える程に大迫力の着陸態勢の戦闘機が、だった。
 その戦闘機は一瞬にして視界を通りすぎると、どこかで轟音を発し、そして消える。
 ‥‥‥‥。そ、そか。事件じゃなくても‥‥。
 彼女は閃いてしまっていた。多少、人騒がせな方法を。
「き、キタぁ――――――――!!!! さ、早速叔父さんに電話して‥‥!」
 野望を全く隠しもしない声が、公園に響いた‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 本部。新年早々、今日も今日とて膨大な情報の流れ続けるモニタの一つに、新たな依頼が舞い込んだ。
 曰く。
『イタリア、シチリア北東部。
 未だ小競り合いの止まぬこの町郊外において、河川を挟んで北東にUPC軍、南西にバグア軍の対陣が続いている。しかし数時間前、敵陣へ大型飛行キメラ約10、ゴーレム3の増援が観測された。傭兵諸氏にはこの増援を叩いてもらいたい。
 正面には横幅20m程の橋が架かっており、ゴーレムはこれを渡ってくると思われる。諸君が増援を相手にしている間は正規軍が対岸に砲爆撃を加え、それ以外の敵を引き付けておく。攻撃の他にも何か必要な物などあれば、出来る限りフォローしよう。
 長期対陣によってこちら側のKVの損耗が激しい。‥‥宜しく、頼む』
 ここまでは極めて普通の依頼である。が、この依頼には、その後の備考欄になにやら面倒そうな注意書きが付け加えられていた。
『※こちらの依頼は急遽強引に申し込んできたカメラマンが同行します。断る事もできましたが、カメラマンはUPC軍大佐の姪である事が確認され、また軍やKV等の宣伝を考え、この申し出を受ける事になりました。取材コメント等は取り立てて必要ありませんが、良い宣伝となるよう夢のある行動や、見栄えの良いKV機動を心がけて下さい』
 と。
「‥‥KVにラメ塗装でもしてみるか?」
「ハインツが目立ってくれるなら、私はこれから常に貴方の近くで戦うわよ?」
「わり、塗装してお前の身代わりになるんならやらねぇわ」
 会話する男女のうち、男が足早に本部を後にした。

●参加者一覧

雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT

●リプレイ本文

 高速艇が敵勢力の間を潜るように飛翔する。雲を抜け、次第に高度を落とし。長靴先端近くへ。
 遥か先に暗黒大陸。そしてすぐ下には対峙する陣。敵陣を見たところでは、やはり新鮮な増援部隊で橋の確保に動きそうな気配があった。
「全く。新年早々大変なものですな」
 着陸。簡易格納庫が開いていくのを眺めつつ飯島 修司(ga7951)が独りごちると、雪野 氷冥(ga0216)はカラカラと反応する。
「私達も一緒でしょ。寂しくオシゴト」
「‥‥同じ穴の狢、と」
 苦い顔で修司。
 そんな2人の背後で突然
「っしゃ元OLの意地見せたるッ!」
 大音声が響き渡った。件の「備考欄」ブリジットだ。
「お願いね、私の野望の為に!」
「‥‥まぁ、無理をしない範囲であれば別に構わないが」
「さっすが傭兵さん!」
 太っ腹ぁ、と騒ぐ彼女に途轍もない不安を抱く八神零(ga7992)である。
「適当にやっちゃっていいですよ。水中機の宣伝になるし。迷惑かけなきゃね」
「‥‥独りで撮られる趣味もないけど、特に断る理由もないわ」
 次いで鈴葉・シロウ(ga4772)と緋室 神音(ga3576)が同調した。
「でも、えっと」夕凪 春花(ga3152)はおずおずと上目使いにブリジットの様子を窺い「くれぐれも流れ弾には気をつけて下さいね?」
「おけおけ。独身女のしぶとさは特級!」
 あっけらかんと返答する彼女。その考えの無さに僅かに眉を顰め、瓜生 巴(ga5119)が。
「多少言いたい事もありますが、撮影は別に構いません。どうぞ、ご自由に」
 ‥‥。KV最終点検を進める整備士の声が妙に大きかった。
 大して強い皮肉でもないが、一部の極めて純粋な心の持ち主には辛かったらしい。「撮影の為に私、KVを白と赤で衣替えしたんですっ」などと春花が話を変える。
「そ、それと、岩龍にカメラがあるんですけど、要りますか‥‥?」
「ん、くれるの?」
 もし撮れたら、と言った上で、明星 那由他(ga4081)は首肯した。
「私の名前で出版社持ってっていい?」
 こく。
「じゃお願い!」
「っ、はいぃ。あとあと、僕本体の姿は写さない方が‥‥倫理的に」
「りょーかい」
「ああ、私も撮るのは機体だけでお願いします。魂抜かれますからな」
 渋い声でお茶目をのたまう修司である。
「ん、では私も1つ。変身途中、途中だけは撮らないで! これは大事な人だけ‥‥」
「さ〜って、こっちもお仕事に集中しないとね!」
 流れに乗りかけるシロウだったが、無情にも氷冥が手を叩き、強制的に出撃の雰囲気を作ってしまっていた。
「ええー‥‥」
 シロウの恨みがましい声が聞こえた気がするが、気にせず7人は分かれ、各々の分身に乗り込んでいく。
「少し休みを取っていたからな‥‥鈍ってないといいが」
 零の呟いた一言が、ディアブロの起動音に掻き消えた。

陸:春花、神音、那由他、シロウ
陸挟撃:氷冥、巴
空:修司、零

●強襲
 4機が飛ぶ。挑発するように河の上空を横切るかと思えば、下部を晒して急旋回する。UPC側のこの新たなKVに敵が対する為には、向こうも増援を出すしかない。敵としては遅れを取ったが故の増援の非効率的な使用。こちらの迅速な対応が多少の余裕を作っていた。
「と。来る、ね」
 敵陣をつぶさに観測していた氷冥が警戒を促す。下方には小さめの橋が架かり、その両端で数機ずつが様子を窺っている。早めに合流せねば。
「やりますか」
「速攻で終らせる‥‥!」
 上昇中の敵をモニタが捉える。集団は10匹弱。先頭の翼竜が翼を広げ口を開く。
 直後反転。修司と零、2機のディアブロがロールしながら高度を落とす。速度充分。翼竜から吐かれた巨大な炎弾を2機は分かれて回避。同時に敵集団へ突っ込みそうな勢いままに2種のミサイルをぶっ放した。
「鈍った腕‥‥取り戻させてもらう!」
「ブレイク。各個巴戦です」
 爆炎。翼竜が傾ぐ。脇を一瞬で翔け、集団を抜けて上昇する。釣られる敵。何条もの光線が2機を襲う。引きつけ、空へ誘い出し。敵が本能的に危険を察知した瞬間には
「愚かなものですね。視野狭窄とは」
 巴機雷電の重機、次いで氷冥機ミカガミのバルカンが、集団の横腹を貫いていた。別角度から、交差するように。
 俄かに集団が色めき立つ。結果として。敵は修司機、零機を追う一団と、氷冥機、巴機に目を向ける少数に分かれてしまったのである。
「ふむ。バグアも新年のサービスですかね」
 機首を上げターン、上から一直線に落ちるが如く。修司はすれ違い様リニア砲の引鉄を引いた。衝撃。怪鳥の翼が散る。
 一方で触手持ちに張り付かれた氷冥は、懸命に機体を振って落としにかかる。右。左。下。このままでは着陸もままならない。
「面倒‥‥!」
 錐揉み状となってプッシュオーバー、無理矢理敵を引き剥がす!
「私の娘に触れるなッ!」
 一閃。翼を翻し、敵の体に滑り込ませた。不快な体液が風防にこびり付くが、まだ敵は後方で浮遊したまま。氷冥が止めを刺そうと旋回しかけたその時
「私達は降りましょう。空戦班、あとはよろしく」
 横合いから巴機の重機が炸裂し、触手持ちが木端微塵に霧散した。
「‥‥了解」
 空は残り8匹程か。橋の方をモニタで拡大してみると、粒子砲らしき軌跡の残滓が。
 低空ではUPC軍の砲撃が続いている。その中を、氷冥機、巴機は速度を上げて突き抜けた。

「シロウさん、どうですか?」
「良好ですよ。すぐ河中央に着きます」
「さすが、やらしーですねっ」
 妙に和む春花だが、視線は前方を見据えたまま。ゴーレムも身動ぎせず、唐突に始まりそうな予感が募る。
 春花機シュテルン、神音機ディアブロ、那由他機岩龍が正面から橋を押さえ、シロウ機KF−11が水中から秘かに回り込む。橋という狭い戦場で別角度から攻撃を加える、上手い戦法だった。
 ‥‥正面を押さえきる事ができれば、である。
「フ。今日はいやらしいじゃなくて戦上手とでも呼んで下さい。と言ううちに所定の位‥‥」
 無線からシロウの声が聞こえた時、地上3機の前で突如敵が動いた‥‥!
「雑談は終り。迎撃よ」
 驚異的な急加速で突進してくる赤塗装。神音が操縦桿を細かく操り、敵の刃を剣で受けようとする。が、突如。
 敵後方につく黄塗装の放った煙幕弾が、付近を覆いつくした。
「っ‥‥!」
「観測はっ?!」
「難しいです、一度立て直しを‥‥!」
 自らもスラスターによって無理矢理機体を引く神音。最後尾に位置し、まだ余裕のある那由他にも春花の声は届くが、彼の岩龍でも捉えられない。神音機はバックステップしながら機関銃を煙に撃ちこむ。
 それが幸いしたのか。
 白煙の塊から突如出現した赤は僅かにブレながら春花機に肉薄、その刃を振り下ろした。
 火花。反応しきれない春花機の右手から肩にかけての装甲が抉り取られる。不十分な体勢からグングニルで反撃する春花。激しい剣戟。
 ジャミングを最大展開、那由他がレーザーを放って援護に勤める。合わせて神音はヒートディフェンダーで薙ぎ払うが、それすら受けながら赤が煙へ舞い戻る。と思えば、その白煙の向こうから数条の光線が飛来してきた。
 煙に突入し、勝負に出る場面ではない。だがこのまま橋頭堡を築かれる訳にもいかない。
 ‥‥だからこその、
「っシロウさぁん!」
 埋伏の計――!

「ここにいるぞー!」
 激しい水飛沫が河から立ち上る。白い幕の隙間から、シロウ機の銃口が煌く。
 鳴り止まぬ銃声。弾丸が満遍なく橋へ降り注ぎ、跳躍と共に瞬時に把握した敵の姿勢を崩していく。
「‥‥馬?」
「毛並みの綺麗な白熊です」
 やや後退、橋と距離を取る。着水。肩にまで届く水量を物ともせず、シロウ機は銃を水面へ。即座に煙へ撃ち込んだ。
「フフン。狙い撃つぜって武器じゃないですが、脇腹からくるにゃヘビーですよ?」
 その時、シロウは反動で泡立つ飛沫の向こうで、ゴーレム背後に強行着陸を果たす2機の姿を見た‥‥!

●三位一体
 赤い翼が軌跡を残し、キメラの群を縦横に飛び回る。波打つ零機は敵を撥ね、斬り、鬼神の如き活躍を見せる。翼竜の炎をロールして弾き、爪を潜り、逆に斬りつける。
 が、さらに物理的限界に迫る機動力で空を制しているのが
「見たところ残り6体のようですが、間違いないでしょうか?」
 確認を取る修司。言葉を発しながらも機動は揺るがない。前方に色の鮮やかな巨大鳥、後方に翼竜。修司は機首を上げるや、その高度を一気に解放、一瞬にして速度を増した修司機が鳥にAAM2発をお見舞いする。鳥が墜ちるのを見届ける間もなく即座にスライスバック、しかけた時
「1体撃破」エネルギー充填、斜め後方から突っ込んできた零が、輝く翼で翼竜を両断した。「これで4体だ」
「っと、ありがとうございます。そちらのKVはヤンチャですな」
「さっさと終らせたいんでね」
 僅かな交錯。アンチジャミングによって鮮明なレーダーと通信。2機は2つの流星が争うように右と左、各々の機動で敵を囲んでいく。
「同感、です‥‥!」
 修司が色の違う引鉄に指をかけ、浮遊する無機物を正面に捉える。
 ソレから霧らしき物が噴射されたかと思うと、瞬く間にそこへ突っ込んでいた。どこかから外気が入り込む。だが構わず指に力を込める。関節が軋む。強烈な反動が体を硬直させる。無事放たれたリニア砲は、ほぼ時間差なく無機的な敵を爆発させた。
「3体。一気呵成にいきましょう」
 修司機の動きを視界端に見ながら、零もブースターを全開にして飛び続ける。漆黒の機体が赤い軌跡を描き、群青の空を斬り裂いていく。
「――当然だ」
 ロールして爪を絶妙にかわし、勢いのままに凶悪な翼を煌かせる。血潮が飛散し、それすら避けるが如く翔け抜けて。機首を強引に曲げ、誘導弾をレーダー光点の方へ発射する。
「とはいえ。この程度じゃ準備運動にもならないな‥‥」
 コクピットで嘆息する零。もはや敵は1体、妙に丸い翼竜のみ。零が狙いを定めようとした時。
 敵を挟んで135度向こう。一足早く、修司機が2発のAAMを放っていた。
 着弾。と同時に大爆発。体内に爆弾でも仕込んでいたのか。偶然ながら修司機が先に中距離から攻撃した事により、近接できなかった零機に被害が及ぶ事はなかったのである。
「さて。橋の方は」
 2人が視線を転じると、そこには――。

「まずは黄を」
「了か‥‥!」
 ゴーレム背後、敵陣との間という危険地帯に降り立った氷冥と巴の2機が即座に行動を開始しようとした矢先。
 それを察知した黄が、焦ったように春花らの方へ粒子砲を解き放った。

「「粒子砲、来ます!」」
 シロウ、さらに岸に戻り様子を探る那由他の警告が機内に響き渡る。衝撃に備える春花と神音。その時、薄れ始めていた眼前の煙幕が唐突に霧散し、
 大気を貫く質量が、春花の構える機盾に直撃した‥‥!
「攻勢にっ!」
「――アイテール、カートリッジロード!」
 威力に圧されながら振り絞った春花の声に、神音機の刀身が輝く。
 春花機がよろめいた。ラダーを踏み込み必死に制御。2。3秒。ぶつかった粒子が四方に飛び散る。そしてビームが勢いを失い。
 間髪入れず3機が前に出た‥‥!

 舌打ちしたのはどちらだったか。それも意識せぬ程に、2機は瞬間的に動いていた。
「ナイトフォーゲルXF−08Aミカガミに機槍ロンゴミニアト‥‥」
 氷冥が操縦桿を強く握り、橋を滑るように黄へ突進する。腰溜めに構えた得物の先端が敵を見据える!
「共に私の意志汲む愛しい娘、止められるものなら止めてみよ!!」
 神槍の一突きが炸裂する。小爆発。敵の膝部から下にかけて。合わせて巴は対戦車砲の引鉄を引く。重い音、着弾。もう1発。黄の左肩が弾け飛んだ。
「雪野さん‥‥!」
 黄の機関銃が火を噴く。機体の塗装が剥れるが、氷冥は気にする事なく踏み込む。左半回転、火花を散らせて側面へ回るや、遠心力たっぷりに左腕を振るって剣翼の刃を突き立てる。
 と、氷冥、巴から逃れようと敵が「後ろ」へ跳ぶ。つまり、UPC軍側へ。
「‥‥私1人に気を取られちゃだめよ?」
 その着地点には。
「――アイテール【アグレッシブ・フォース】起動」
 超加速で突き抜けてきた神音が、高熱の剣を下段に構えて。
「夢幻の如く、血桜と散れ」
 斬。
 重い感触と共に一閃した刃は、半ば以上胴を切断していた。
 だが敵もさるもの。漏電激しい機体で機関銃を構えかける。僅かに不機嫌そうに神音はそれを斬り捨てると、改めて青の方へ向き直った。

「お願いします‥‥!」
 煙が晴れ露わとなった赤に、那由他のレーザーが向かう。敵は腕を掲げて衝撃を受け止めるが、それだけで良かった。狙いは、少しでも崩す事にあったのだから。
「避けられるものなら避けてみなさいっ!」
 グングニルを構え突撃する春花機。那由他は急いでカメラのシャッターに手を伸ばす。
 赤は半月刀で捌こうとするが間に合わない。神音機が抜けた直後の隙を突き、青が春花に光線を放つ。衝撃。肩で受けるが春花は止まらない。そのまま赤に正面から突っ込む!
 ガァン‥‥!
 鈍い金属の摩擦音。春花機の動きが止まる。ゴーレムの懐で包まれるように。が。
 大上段から振り下ろされる剣。受けきれない。装甲が削られる。春花はスラスターを噴かせ緊急退避。そこに横からの射撃が入った。
「私は青やっちゃいますから、後頼みますね」
 盛大に水飛沫を上げ跳んでくるシロウを、春花と那由他が視界の端に捉える。
「今です‥‥っ」
 再度突撃を敢行する。今度は敵が近い。再び那由他の援護を受け、春花は機槍を突き刺す。
「もう一撃っ!」
 練力を注ぎ込む。左の超出力の短剣を、一瞬にして左袈裟から斬り下ろした。
 刀身が短く両断とはいかない。しかし完全に中枢部まで届く亀裂は熱を帯び、直後爆散した。

 青が欄干際に追い詰められる。氷冥、神音が前衛、巴が後衛。巧みに青が抗戦する。さらに時折敵陣からの射撃が届き、詰め方を誤ると脱出されそうな気配さえする。が、その均衡を破ったのは。
 轟音を上げて急降下してくる2機のディアブロ。
「‥‥援護する」
 橋と交差するように。先頭、零の機体が猛烈にバルカンを撃ちつけた。水面を、橋を叩く銃弾。それが敵の注意を散漫にし、氷冥、神音が突っ込む隙を作った。
 槍と剣。2つの軌跡が敵に吸い込まれる。潤滑油を噴き出す敵。巴が追撃しようとした刹那。
「妙才、止めです」
 敵の背後、河の方から跳躍してきたKVが。自由落下に任せてツインブレイドを掲げるや、着地点で背を晒す敵を貫いた‥‥!
 剣を抜き、降り立つ。そして、爆発。
「弓じゃないのはご愛嬌ですよ」
 最近読んだ遠き時代の登場人物に成りきったが如く、黒煙を背にシロウが独りごちた――――。

<了>

 後日。
・空で飛び回る2機とキメラ(ピンボケ)
・粒子砲を盾で防ぐKV
・河から飛び出し銃を撃つKV
 の3枚の写真を、イタリアの地方新聞で見た能力者がいたとかいなかったとか‥‥。