タイトル:【AW】港湾急襲マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/19 23:15

●オープニング本文


 古代の海がざわめく。
 遥か昔から続いてきた戦乱の舞台。名も無き民。圧倒的な王。中継点。様々な国がこの海の周りで争い、散っていった。血なまぐさい、その全てを見届け、今なお美しい太陽の海として知られる大自然。
 エーゲ海。
 その海が再び戦火に包まれた。
 バグア・ギリシア軍。
 彼らは海を越え、バルカン半島に襲い掛かった。文字通り死を以て戦線を維持するUPC軍。無限の如く暗黒大陸から飛来する種々の敵。人類は美しき海を失った。
 そして。
 今度は、東の地へと矛先を向けたのである‥‥。

「観測急げ!」「司令部、こちら第5大隊‥‥」
『こち‥‥第1小‥‥、敵増援につき我ッ‥‥ァァアアアア‥‥‥‥』
「お願いします、一時撤退を!!」
「何を言うか貴様! 私に真っ先に逃げろと!!?」
 情報の奔流が前線を襲う。敵は未確認ながら大型。今までキメラ、あるいは小型HW程度を相手に辛うじてこのイズミル近辺の海岸線を保持できていた前線にとって、今回の敵の勢いはどうしようもなかった。
「で、ですがこのままでは我が大隊どころか師団全体が飲み込まれます!」
「まだ言うか! 貴様は3階級‥‥」
「ッ敵が判明しました!!」
 副官に打擲を加えようとした瞬間、有力な情報がもたらされる。
「敵は水中から直接上陸してきたゴーレム2機と土色のゴーレム1機、‥‥それに、アースクエイク1体です‥‥!!」
「ッこの狭い戦域に‥‥クソ野郎!」
 万全の体制で、陸の丘の向こうから堂々とやって来たならば、能力者のKVがいなくともまだ師団全体は耐えられたかもしれない。だが今回は。
 本来水中用らしきゴーレムに前線を崩され、海面をEQか水中用に曳かれてきたであろう土色に突破され、EQに立て直そうとした部隊を奇襲される。せいぜいM1戦車程度しか大火力を持っていなかったここにどうしてそれらを止められよう。
 一刻も早く師団司令部へ報せなければ‥‥!
 大隊長自らが、雑音激しい無線に必死に叫ぶ。
「敵が来ます! こちらへ!」
「そっちに行って何がある! 我らは最期の時まで‥‥」
「ッああクソ! 命あっての戦争なんだよオッサン!! こっちにまだ頑丈そうなでけぇシェルターがあったっつってんだ愚図!!!!」
 部下がキレたように罵声を浴びせて手を引いていく。
 直後。
 轟音。のち、無音。
 地の底からの使者が、すぐそこに現れた。

 ◆◆◆◆◆

「すまない。緊急出動だ。前線の救援に行ってくれ。敵は――」
 丁度偶然にも師団に拠っていた傭兵の前で、師団長が努めて冷静に告げる。普段は人の良さそうな老人であろうその相貌は、日も傾き始めた戦場で深い皺を刻んでいた。
「場所は真西、イズミル港湾部の郊外。おそらく建造物は半分以上が倒壊している。‥‥我が同胞達は、多分‥‥いや」
 目を伏せた後、何かを言いかけ。しかしその報告に言葉を遮られた。
「中将閣下、同方向上空よりヘルメットワームらしき影が少数ありとの報告、4分弱で上陸します!」
「‥‥少数、か‥‥普通‥‥‥‥、いや。それもこれを凌いでからか」
 傭兵に向き直ると、気丈に言い放った。
「聞いての通りだ。可及的速やかに現場へ急行して敵陸上戦力を駆逐してくれ。敵先行部隊が全滅すれば、ヘルメットワーム、またその後ろに続くであろう敵増援も一旦引き返す筈だ。‥‥仮に増援が止まらなかった場合、撤退して構わない。その時には軍司令部から援軍が来ているだろうからな」
 僅かに逡巡した後、言い難そうに言葉を続ける。
「‥‥もし。もし生き残りがいたら‥‥助けてやってほしい」
 頼む。師団長が頭を下げる。傭兵達は敬礼してそれに応え、自らのKVの許へ走っていった。

●参加者一覧

ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
大和・美月姫(ga8994
18歳・♀・BM

●リプレイ本文

「お任せ下さい。必ず生存者救援を成功させます」
 コクピット横で大和・美月姫(ga8994)は振り返り、見送るUPC軍人に微笑む。たおやかに黒へ変わりゆく髪と相まって、その姿は脳髄に染み渡る。
「はいっ! 何としてでも食い止めて助けましょうね、大和さんっ」
 と夕凪 春花(ga3152)。アイドル傭兵としても絶賛活躍中の2人の清涼な声が、戦場を一瞬忘れさせる。だがそれも極僅か。今も敵は港湾を荒らしているのだ。
「食い止める‥‥少しでも悲しみを減らせるように‥‥」
 流 星之丞(ga1928)が自分に言い聞かせる。
「うん。ここの占拠を許しては、中東どころか欧州の厚みもなくなってくるからね。必ず撤退させよう」
「その為にも、敵援軍が来る前に確実に陸上部隊を叩くべきだな」
「ええ、可能な限り‥‥。そうする事で、生き残りも救える筈ですから」
 国谷 真彼(ga2331)が言うと、月影・透夜(ga1806)、如月・由梨(ga1805)が同意する。後ろ2人のディアブロが、頼もしく簡易格納庫の光を反射する。
「生存者か。いてくれればよいが‥‥」
「います。‥‥きっと、絶対に」
 それを信じるのが自分達の役目だと言わんばかりに、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)へ由梨が、強い口調。
 藍紗は「そうじゃな」と苦笑し、アンジェリカに乗り込む。
「できる事なら観光としてそこの海見たかったけど‥‥そうも言ってられないかぁ」
 ミア・エルミナール(ga0741)が初め残念そうに、しかし自ら決意するように頷くと、軽い身のこなしで機内に滑り込む。
「奴らをやっつける! んで助ける!! その後で大規模前に皆で観光だかんね! ‥‥だから、皆も、軍人さんも、死んじゃダメ」
 ミアらしい激励。表情を隠すように風防を閉じ、出力を上げる。モニタにいつもの画面が映る。KVの轟音が鳴り響く。
『行くぞ』
 いち早く計器を点検し終えた透夜機が、風を切り裂いて空に溶けた。

●見えざる敵味方
 短時間の空。すぐ向こうにあるエーゲ海。8機が夕陽に映える一方、西日が目に痛い。一応機体に対策はあるが、やはり万全の環境より、やり辛い。
「アンチジャミング開始‥‥戦場データ転送。さぁ、行きましょう‥‥!」
 星之丞機ウーフーが強力な支援を開始する。各機のレーダーが普段よりクリアになった。赤い点が明確に輝く。すぐ、そこ。低速低空から変形、7機の人型と1機の四足獣が瓦礫の港に盛大に降り立った。
 敵は港湾部中央。ゴーレム3機がUPC軍の乗り捨てた兵員輸送車を叩き斬り、EQは倉庫を傍若無人に蹂躙していた。
「1人でも多く、無事でいて下さい‥‥」
 星之丞の呟きが聞こえたわけではないだろうが、こちらに気付くゴーレム達。土色が機関砲で遠距離から牽制してくる。お互いまだ遠い。
「できれば分散設置の方が精度は良さそうですが、仕方ありません」
 真彼の声が通信に乗る。それに伴い、今のうちに由梨機、真彼機、美月姫機が地殻計測器を付近に設置、急ぎ美月姫機へデータをリンクさせた。透夜機、春花機、藍紗機が最前に出る。
 一方で星之丞は必死に無線、レーダーと格闘して生存者の捜索をしていた。ゴーレムが瓦礫を越え、こちらに向かってきた。真彼機S−01改が膝をつきD−02の銃弾を放つ。装填、2発目。命中。EQもこちらに気付く。遠距離から中距離へ。そこに雑音まじりだがオープンチャンネルで無線が入る。
『‥‥誰か、い‥‥々は第5倉庫脇シェルタ‥‥‥‥救‥‥』
「良かった‥‥! 助かった方がいます‥‥皆さん、中間点より進攻されないよう注意して下さい!」
 星之丞が第5倉庫の位置を送信する。丁度、敵との間。ミア機、由梨機、透夜機、星之丞機、藍紗機の対ゴーレム班が即座に前進する。
「そこの生存者、そのまま隠れててくれ。護衛できる程の余裕はない。自力で撤退はするな。絶対に‥‥」
「絶対に死なせぬぞ。貴殿らにはまだやるべき事が残っておる。我らを信じてそこを動くなよ‥‥!」
 透夜、次いで藍紗が伝える。近付くと、瓦礫に埋もれた灰色の立方体が解る。が、先にそこに到達したのはゴーレム。粒子斧を振りかぶる。同時にミア機阿修羅が四足を活かして跳ぶ!
「やらせない!」
 衝撃。機体を盾に。斧が半ばまで機体に刺さる。潤滑油が流れ出る。追撃しようとした土色に由梨機と藍紗機が急接近した。
「敵を分散しましょう‥‥!」
 由梨が繊細に操縦桿を操り、土色に斬撃を繰り出した。

「僕達はEQの気を引いて戦域を離しましょう」
 真彼機、春花機、美月姫機の対EQ班は左――南にずれつつ狙撃銃で奥のEQを狙う。
 引鉄を引く。引く。春花機ナイチンゲール改のマシンガンも火を噴く。思惑通りEQがこちらを向いた。と思うや、潜った。
 来る!
「EQ感知、お願いします!」
 真彼機が姿を晒させるべく後ろに飛び出す。そうして目立ち、直前に飛んでしまえばEQに決定的な隙を見出せる筈だと。春花機、美月姫機は左右に分かれる。だがEQの速度が予想以上に速い。
「EQ、一直線にそちらへ‥‥っぎりぎりです!」
 美月姫の通信。真彼の真後ろが盛り上がる。離陸速度と前方空間は充分か。跳ぶ。EQが瓦礫を吹き上げて真彼機に襲い掛かる。機体変形。機体後部に巨大な瓦礫がぶち当たる。EQ自体は速さを優先した為か、届いていない。出力が落ちる。しかし真彼が巧みにスラスターを使い持ち直す。
「機体も僕も老いてはいるが、若い人にはない良さがある。――なんてね」
 EQが地上に胴体着地。凶悪な地響きが戦域を伝う。
 真彼機は速度を上げてやや進むと、無理矢理機首を上げ反転する。途中でロールしつつ機体調整、地に横たわり、だらしなく口を開けたEQを視界に捉える。と認識する間もなく。機首を地に向け豪快に8連ロケランを発射する。
「機体も乗り手の信頼が1番だよ」
 幾筋もの白煙をたなびかせ、EQ付近に炸裂する曳光弾。次々撃ち込まれるロケット弾。1発口内に入り込んだかどうか。直撃があるかは解らない。だがそれでよかった。対EQ班近くに敵を露出させ、怯ませる事が目的だったのだから。
「今です!」
「了解っ」
 地上、退避していた春花機がブーストで土煙に突入する。
「いっけ――っ!!」
 春花が試作雪村の出力を高める。刀身が灯る。EQに急接近する。交差気味に回転して薙ぎ払う!
『――■■!』
 膨大なエネルギーがEQの体表を一瞬で突破し、肉を焼き斬る。だがまだ全く鈍る気配もない。即座に春花機が一旦中距離へ。レーザーを射出して追撃。それに呼応するように美月姫機は遠距離から狙撃銃で削る。
「これは‥‥やはり3機では足止めが精一杯でしょうか‥‥っ」
 美月姫が強く操縦桿を握り締めた。

●猛攻
「ディアブロに大鎌‥‥ベタだが、その首狩らせてもらうぞ」
 透夜機が近い方の水色に肉薄する。もう一方の水中用には、横腹に斧の跡が残るミア機が向かう。1番シェルターに近い位置で、3機が土色を抑える。
 水中用は流石に陸上では動きが遅い。チャンスとばかり、透夜が一気呵成に攻め立てる。突撃しながら重機で敵を牽制、間合いに入るや大鎌に持ち替え振りかぶる。
 斬。鋭い一閃。敵が大剣で受けつつ踏み込み左腕で透夜機を突き、返す刃を振り下ろす。鎌の柄、腕を操り最低限防御する透夜。今度は透夜の番。モニタで敵各部を同時に見据え、
「俺が迅速に撃破できれば楽になる‥‥」
 腹を括り、ブースト起動。鎌で剣を抑えつつ驚異的な機動で背後に回りこんだ。連撃。さらに機体能力を開放して気合を入れる。
「決める‥‥ッ!」
 敵が向きを変え剣で突く。絶妙に胴体を捻って急所を外す透夜。ガガ。衝撃が伝う。間髪入れずに鎌を振るう!
 ギィン‥‥。むしろ感触も少ない。しかし目の前の敵は、透夜機によって宣言通り首を跳ね飛ばされていた。
「土色は‥‥無事だな」
 ミアの援護に行くか。重機を持ちなおす透夜機の後ろに、敵機の頭部がガシャリと落ちた。

 由梨機、藍紗機が土色を押し返す。その後ろには星之丞機が立ちはだかり、傍のシェルターを守る。
「ここは絶対に抜かせません‥‥」
 3門搭載してきたレーザーを連続して放つ星之丞機。前衛2機の間を抜け、敵を穿つ。
「挙動が向上しているわけではない‥‥攻撃の安定性か稼働時間を伸ばしている‥‥?」
 敵武装を慎重に予測しつつ向かって左に由梨機。右は藍紗機。左右から挟む2人。
「往くぞ如月殿! 袴ストリームアタックじゃ!」
「って、わ、私は着物ですが‥‥」「細かい事を気にするでない!」「は、はい‥‥!」
 流されながらも、藍紗機のワイヤー射出に合わせて由梨機が腰溜めから敵を薙いで気を引く。藍紗が腕を左右に振ってワイヤーを絡ませる。同時にスイッチを押して敵の駆動に僅かに損傷を与えた。
 だが土色は力任せに前進、左腕を振って藍紗機を揺さぶる。斧を片手に回転して鎖を緩ませ、さらに2機を引き剥がす。
「っやりますが‥‥所詮1機‥‥!」
 由梨機が再接近。脇構えから刀を斬り上げる。瞬間。何かが飛んでくる。それは土色に当ると。
 眼前が、一気に白く包まれた。
 煙幕!
 由梨機の刀が急所を外れる。即座に操縦桿を引く。急後退。固定ベルトが由梨の体を締め付ける。
 そこに一閃。粒子の斧が目前を通り過ぎた。一瞬のちに軽い衝撃と右腕に火花。まだ軽微。
 その時、逆方向から藍紗機が突撃してきた。
「流殿、援護を! 如月殿、我は頭を撃ち抜く! 腕を頼む!」
「っ‥‥今です!」
 星之丞の放った数条の光が敵の体勢を崩す。それを逃さず、アンジェリカが低姿勢から敵に飛び掛る。背後から左腕で頭部に取り付いた。エンハンサー起動、そのまま右のレーザー射出口を敵頭部に押し当てる。同時に由梨機が見事敵の右腕を斬り飛ばす。斧ごとシェルター近くに飛んでいく。
「今回はお譲りします」
「ふむ、任された」
 ――無事では済まさん!
 発射。発射。鈍く敵が痙攣する。漏電。蹴り倒すように離れる藍紗機。のち。盛大に土色が爆散した。

「あんたはこっち! 四足を甘く見るなよぉ〜!」
 ミア機が水色に弾幕を張って引きつける。自身は同時に土色から離れ、しかしシェルターをケアできる位置を保つ。
 向かってくる敵。それを俊敏な動きでいなし、弾数で圧倒し、すれ違う。足場は悪く、機体は損傷した中、見事に翻弄するミア機。右。左。後。前。獣型の安定性を活かして攻撃をかわし、削っていく。
「どしたの? 調子悪いかな!?」
 跳躍。高角度から敵頭部に弾雨を見舞う。中距離からの圧倒。為す術もなく穴が開いていく敵機体。大剣をかざして一旦退こうとするが、ミアがそれを許さない。
 楽勝。このまま押せる。思ったミアだが、彼女は敵の煙幕の存在を失念していた。損傷覚悟で敵はそれを構え、撃ち出す。
 咄嗟にサンダーホーンで狂わせようとするミア。だが予想に反してそれは、土色の方に放たれていた。白煙展開。それをモニタで確認する。
「‥‥よくも。生意気!」
 ミアが激しく重機の引鉄を絞る。2秒。3秒。再装填。
『加勢しよう』
 側面からいつの間にか透夜機が。十字砲火になる。5秒。6秒。振動がコクピットまで伝わり続ける。いつ終わるとも知れぬ嵐。その暴力を前に敵はどうする事もできなかった。次の装填をする事なく、爆発していたのである。

●本領
 5機が息をつく。未だ白煙が漂い、悠然と集まるKVを仄かに隠す。
「あとはEQですね‥‥」
 由梨機、巨大刀の鍔が鳴る。EQ班の方に向き直った。が、休息も束の間。そこにその巨体が無い事に気付くと同時に。
『っゴーレム班、EQがそちらに行きました、気を付‥‥!!』
 美月姫の警告も遅い。計測器は美月姫機にリンクさせている。微かな悪寒のみで感付いた5人は、足を踏みブースト、一気に跳躍させようと試みる。足元の瓦礫が不自然に盛り上がった。KVが跳ぶ。EQの頭が突き破ってくる。
「っ僕は皆の為に‥‥!」「しまっ‥‥我が遅れ‥‥!」
 必殺の闇に星之丞機、藍紗機が呑み込まれ‥‥!

「やらせませんっ」

 美月姫機、さらにロケランの後再び地上に降り中距離から援護していた真彼機が猛烈に射撃を加えて接近する。EQの牙が僅かにずれる。
 轟音‥‥!
 口が閉じられ、周囲の瓦礫が一瞬にして呑み込まれる。EQの姿が完全に地に現れる。だが瓦礫の崩れる音もない。全ては巨体の闇に吸い込まれたのだ。
 EQに脚部を丸々持っていかれた星之丞機、至近の瓦礫と巨体に巻き込まれた藍紗機が自力活動もままならず、2機のディアブロに曳かれ退避する。
「近くの3機より遠い5機の餌、か‥‥戦闘中に、よく気付く‥‥」
 独りごちる真彼。
 改めてその恐ろしさを目の当たりにし、しかし黙っている傭兵達ではなかった。
 EQ班2機の射撃で作った隙に、即座に春花機が肉薄し、
「うー、いい加減に倒れなさいっ!」
 今度は雪村を、先程の損傷に重ねるように突進、突き刺した。
『――■■ッ!!』
 ようやく敵絶叫の質が変わる。
 ミア機が素早く接近して直接攻撃を打ち込む。その離脱を援護するように由梨機がレーザー、透夜機が重機でEQを縫い付ける。
 巨体をうねらせトゲのような物を飛ばしてくるEQ。刀で弾き、あるいは体捌きで回避する由梨。攻撃後の間隙を突かれた形の春花機を、真彼機が庇う。左上腕部に突き刺さった。
 果敢に懐へ入り込む由梨機、透夜機、春花機。火花散る星之丞機、藍紗機と、シェルターを守りつつ外から削っていくミア機、真彼機、美月姫機。一丸となって攻め立てる。潜る間など与えない。そうして四方からひたすら削り続け、
「皆さん退避して下さい。これで滅します‥‥!」
 美月姫がリニア砲の重い引鉄に指をかけ、力を込める。強烈な反動と引き換えに、巨体へ向かう凶悪な質量。その砲弾は巨体を半ばから抉り取った。
 瓦礫に堕ちる、敵上部。爆発。
 2分半。敵援軍が見える事なく、戦闘は終結していた。

●真意?
 ――歩き出そう 希望抱いて

 美月姫の歌声が戦場に舞う。先程まで自らもそこにいた、元戦場。急襲された港湾部は、粛々と復興作業が進められていた。

 ――明日をこの手に Catch the Hope

 美月姫らしい、柔らかいアレンジで。
 結局「敵援軍が少数である」意味は解らなかった。FRがいた場合に備えてUPC軍にも少しエーゲ海を警戒してもらったが、追い返した今となっては正しいのかも不明。だが準備しておくに越した事はないだろう。

 ――ミライを守り抜こう ココロに 明日信じて

 不意に春花がハモってくる。美月姫の金糸が風に踊る。
 アジア決戦。俄かに動き出した敵軍を、今回も撃退できるのか。そんな不安を掻き消すように、彼女らの歌は夜空に響いた。

<了>

 急襲に失敗したバグア軍。しかし中東を、対インドを見た時、彼らは多少の戦略的成功を収めていた。今、それに気付く者は、少ない‥‥。