タイトル:vsチーム・キメラ?!マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/19 03:53

●オープニング本文


 ピ――――!
 オォォオォオオォォ!!
「ピエトロ様ぁ――!!」「リヨンの皇帝ェ!」「クソ野郎出てくんなァ!!!」
 白熱する試合。大合唱響く屋外会場。コートを所狭しと駆け抜ける選手達。昔から変わらぬあのボールが右へ左へ飛んでいき、それに従って何人もの人がテクニカルに動いていく。
『おぉっとグロッソが立ち塞がり取――いやルーレットです! 足裏の見事なコントロールでキープします皇帝!! 素晴らしい身体能力! さあ、ゴールを見据え――』
 実況が周りの観客を盛り上げていく。単なるフランス一地方のフットサル大会とはいえイタリア戦勝記念の久々の大会。ハメを外さない方がおかしかった。
『シュート、弾いた!! いやしかしここに詰めるのがピカールだッ!! ヘディングで落とす、そして――――やはりこの人、最後は皇帝が走りこんでボレー!!!』

 ゴ――――――――ル!!!!

 湧き上がる轟音。地響きが会場を揺り動かし、まるで以前のW杯決勝のような雰囲気である。観客が小刻みに跳ね、それに応えるべく皇帝が右手を挙げる。青空をかち割らんとするように、大熱狂。
 そうしたアウェイの空気をひしひしと感じつつ、わざわざイタリアから遠征してきた相手チームがボールを中央に置き再開の笛を待つ。ピッ。即座に蹴りだす。が、しかし。
 終了の笛が鳴り渡る。試合終了。4−3。チーム【マルシャン・ド・ガトー】がイタリアチームを破り、準決勝へと駒を進めた。選手達が互いに握手し、草サッカー場を改造した会場の控え室へと戻っていく。
 健全すぎる風景。
 しかし、その様子を秘かに遠目から観察する者達がいた。
 彼らは球が左右の端に飛ぶのをじっと見つめ、不思議そうにそれを眺めていた。そして反対側の端っこにより多くボールを持っていった方の人間どもが騒いでいるのを見、ようやく納得したように飛び跳ねる。手を大きく挙げる人間の姿は、彼らが今まで戦ってきた中で、同胞が殺された際に人間がやっていた事だったからである。
 つまり。あの球を相手側に多く叩き込む事が、ここでの「戦闘」なのだと。彼ら――化け猫や猿、鳥人等の姿をした醜悪な怪物達は、本能的にそう理解してしまっていた‥‥。

 ◆◆◆◆◆

『それでは準決勝1組、スターティングメンバーの紹介からいきましょう。まずはお馴染み――』
 実況が資料を読み上げ、再び【マルシャン・ド・ガトー】の面々がコートに入ってくる。今度の相手は同じくリヨンのフットサルチーム。因縁の相手というやつだった。先程まで一体感すら感じた観客達は、早くもほぼ半数ずつに分かれ罵りあう。
 選手達は冷静に握手を交わし、軽く会話。先攻は相手チームとなり、今まさに試合開始となったその時。
『――――■■ッ!!!!』
 轟く咆哮と共に、8匹の獣達が降ってきた!
 彼らは中央に割って入ると、相手チームを何故か殺す事なくコート外に追い出し【マルシャン・ド・ガトー】と対峙した。8匹全員がコートで『戦闘』の開始を待っている。
『あー‥‥と皆さん落ち付いて下さい! 現在スタッフがUPCに連絡致しております。さらに只今乱入しましたキメラ? は現在の所暴れる様子はないようです。というよりまるで我らが【マルシャン・ド・ガトー】を挑発しているような‥‥?』
 実況の冷静な言葉が、パニックになりかけた観客達をなんとか押しとどめた。振り返ってコートを見ると、8匹のキメラがボールを凝視し、対する選手達もその挑戦を受けようとしている。
「皆さん、ご安心を。敵にしてはスポーツに理解のある面白い彼らが、フットサルで我々に挑もうとしているようだ。ならば私は受けて立ち、見事勝利してみせよう」
 皇帝が高らかに言い放ち、観客のボルテージが再び高まる。主審まで興に乗り、皇帝のチームが先攻で笛が吹かれた。
 ところが。
「ぐあッ‥‥!」
 ラフプレーにつぐラフプレー。獣らしい動きでボールを奪い、蹴りだし、強烈なシュート。やっていられないとコートから出ようとした選手は体当たりによって虫の息となった。
 そうしてボロボロの試合は終わり、膝をついた皇帝が拳を人工床に叩きつけようとした瞬間、彼の身体は獣達によって無残に食いちぎられた。
 ここにきてようやく、観客達は理解していた。誰かが試合に勝つまで、この命を賭けたフットサルから抜け出す事はできないのだと‥‥。

※設定していただく独自能力値について※
 設定した独自能力値をプレイング初めに、簡単に数値のみお書き下さい。割振ポイント合計は体力/器用/俊敏/直感/知力/精神/幸運のそれぞれを10で割った数値(小数点以下切上)を足した数です。
 それを、フィジカル/テクニック/スピード/空間把握/戦術理解/メンタル/統率の順に再配分して下さい。各上限は20ポイント。高い程良いという事です(便宜上ゲーム的に面白くやりやすいというだけであって、その項目の点が少なければ全然ダメ、というわけではありません。普段上手い人でもその日は体調が悪かった、などのような解釈です)。

体力64器用80俊敏100直感95知力70精神70幸運50→総ポイント54

総ポイント54→フィジカル15テク10スピード20空間把握5戦術2メンタル2統率0

●参加者一覧

ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

「キメラをスポーツでねじ伏せる‥‥いい、俺の出番だ!」
 高速艇で乗りつけ、草サッカー場に満を持して降り立ったのは8人の蹴球野郎とお嬢さん。鈍名 レイジ(ga8428)が先頭で拳を鳴らす。続いてアンドレアス・ラーセン(ga6523)と御崎緋音(ga8646)は後ろで長髪をまとめながら歩き、各々の横に佐竹 優理(ga4607)、レイアーティ(ga7618)が寄り添う。
「久しぶりに張り切っちゃおうかな♪ 見てて下さい、レイさんっ」
「はしゃぎすぎないように‥‥問答無用でくる事はないかもしれませんが、相手はキメラですから」
 緋音が自然とレイアーティに腕を絡める。それを横目に、
「頑張ろうねっラーセン!」
「はしゃぎすぎない‥‥じゃねぇよッ」
 優理に腕を取られそうになり、慌てて引っ込めるアンドレアスである。
 そんな彼らが来るのに観客が気付き始めた。波紋の如く広がり、静まり返る。中には傭兵に違いないと駆け出そうとする者もおり、このままでは敵を刺激しそう。が、そこで勢いよく実況席へ走っていったのが草壁 賢之(ga7033)。
「あの、俺にくれる心意気でマイク貸して下さい」
 生返事で渡す実況係に「あぃどーも」と賢之が礼を述べ、客に呼びかける。
『ぁー、聞こえますか。我々はULTより派遣された傭兵です』
 騒然とする会場。7人もその演出にやや驚く。
『お静かにー。本来なら圧倒的武力を以て即時殲滅を行う所ですが、敵は見ての通り。そこで我々は、奴らに臆せずスポーツマンとして戦い、惜しくも敗れた皇帝の意志を継いでフットサルで打ち砕いたのちに、完膚なきまでに殲滅し、仇討と勝利を叩きつけたいと思っておりますッ!』
 刹那の沈黙と、次第に地から湧き上がる大歓声。ピッチ付近に到着していた7人、特にハルカ(ga0640)が飛び跳ねて戦意を示す。
「ぅーがんばろー、おー!」
「傭兵のチームワーク、思い知らせてやりましょう!」
 その外見と裏腹に、ティーダ(ga7172)も意外とノっている。幸いだったのは、彼女らが走った際に主張する部分を凝視しそうな仲間がいなかった事だった。
『腕利きの面子――レイアーティさん命名【ホープ・リベリ】です。どうか慌てずご協力を。なに、ワインでも飲んでご覧下さい。それではッ』
 賢之がマイクを返し、嘆息。
 勘弁してくれ。ま、サッカーは経験あるし、まだいいけどね。独りごちて仲間の方へ。
「やるからには勝つ! 魅せる! 盛り上げる! やってやる!」
 レイジが中空に手をかざす。全員がそれに倣い手を重ね声を掛け、感情を高める。
「みんな頑張れ〜! すーぱーさぶの私がついてるのだ!」
 ハルカがベンチに腰掛ける。各々の武器はここや服に隠し持ち、敵退治に備える。そしてピッチに入らんとした時。ふとアンドレアスの目に先刻敗れた面々が見えた。皇帝は人の形を保っておらず、他選手も血だらけ。仰向けで呼吸の浅い選手までいた。
「‥‥お前ら、これでもないよりマシだろ。弔い合戦だ。お前らの魂も俺達が届けてやる」
 救急セットを渡し、自ゴール前に布陣。
「獣のクセに上等だ。‥‥本物のマリーシア、見せてやる」
「獣か‥‥猿も居るねぇ。奴ぁきっと神出鬼没だね。フットサルだけにね、フッとサル‥‥」
 ‥‥‥‥。妙に冷静になれた気がした。
「あー、確かに、猿はシャドーだな。人狼はフィジカル注意。化猫は連携‥‥」
「ああん、せめてラーセンだけは‥‥」
「審判、始めて下さい」
 今にも飛び掛りそうなキメラを見据え、ティーダが遮った。

▼ホープ・リベリ
            ティーダ
       優理
アンドレアス       緋音 レイアーティ →
        賢之
            レイジ
▼敵位置?
   化猫
      鳥人
← 化猫    人狼   熊
    猿     熊
   猿

●前半――駆け巡るダイアモンド
『さぁ、開始の笛を待つ我らがホープ・リベリ、審判が近付き‥‥』
 覚醒。笛。試合、開始!
 ピヴォの2人が軽く蹴りだす。緋音がティーダに戻し、開始早々怒涛のパス回しで攻める。敵は球の方へ大半が集まり、ゴレイロも真似で置いているだけ。全員が蹴球好きな傭兵の攻めについてこられる筈がない。
 ティーダが出来るだけ前に仕掛け、猫と鳥が殺到したと見るや優理に戻す。それを敵が追いかける。瞬間!
『おおっとフィクソ佐竹、逆サイ展開! そこで待つのは――鈍名だ!』
「っし絶妙! いいパスさんきゅ!」
 実況が調子よく言葉を紡ぎ、客もノリを取り戻していく。命がかかるだけに応援も必死だ。
 そうこうするうちにレイジが右45度へ侵入する!
「まずはド派手に!」
『鈍名、右足でシュート!』
 圧力で潰れた形状の球が熊の横を抜ける。同時に中央ではレイアーティが敵を振り切りゴール前へ。ゴレイロはもう1匹の熊。空気を裂く球は巨大な手に叩き落される。しかし!
「ミサキくん、行きますよ!」
「ふぇ、う、うん翼くん?」
『詰めるのはレイアーティ! 後ろには御崎も来ているが‥‥き、きたァ!!』
 一閃。フィクソ熊は全く反応できない。転がる球に走りこんで直近から放ったレイアーティのグラウンダーがネットに突き刺さる!
『ゴ――ル! 先制はホープ・リベリ!‥‥ぅ我々は生き残れるぞォォ!!』
「やったぁ! レイさんナイスシュート♪」
 私情交じりの実況を背に緋音が駆け寄ると、そのまま首に腕を回して体重を預けた。
「まだ、これからです」
 軽く抱きとめ、自陣に戻る。審判が代わりに恐る恐る球を中央に持っていく。笛が鳴った。――開始4分。1−0。

 化猫が軽快に走る。チェックは賢之。化猫が強引に抜こうとしかけ、後ろから、足元の球をまさに奪ってスイッチする猿。他も来る!
「ッキャプテン!」
 舌打ちして賢之。敵の数が多すぎる。
「当たれ! つかキャプテンやめろ!」
「了解ラー‥‥キャプテン」
「ッだー! ガラじゃねぇっての!」
 優理が猿に向かう。
『危険だ! 誰か‥‥っと猿が佐竹の勢いに球をこぼした! が、あぁ!』
 実況の絶叫と共にゴール前に球を蹴り出す鳥人。アンドレアスが睨みつける。瞬間!
『シュー‥‥ト、がない? 空振り!』
 鳥が目を押えふらつく。同時にマークしていたティーダが背後からさもギリギリとばかり体をぶつけるや、袖に隠し持った爪を一瞬だけ突き出す!
『――■■!』
「あぁら、どうかしましたか? 早く『戦闘』に戻りましょう」
 爪を隠し、嗜虐的な笑みで見下すティーダ。鳥の右翼が無残に折れていた。一方でアンドレアスは球を取りつつ周囲を見ると、何故かベンチでハルカが鏡を出している。その反射の先には‥‥。
「カウンターいくのだ〜!」
「‥‥お前ら意外に黒いな。ともかく速攻!」
 スローで中央緋音へ。トラップ前に顔を上げ一度見回し、脳内マップに姿を描く。
「部活みたいだよねっ」
 胸で落とす、と思われた瞬間反転、足下へ来た球を直で真正面へ送る!
「レイさん!」
『短く前線へ、だがレイアーティの前には熊が立ち塞がる! これをどう‥‥と左サイド、自陣から駆け上がってきたのはティーダ!』
 緋音に戻す。意図を察した緋音が即座に左へ振る。これをティーダが速度の乗ったまま受け取るや、敵陣深くを抉る変態的ドリブル!
「遅い!」
 熊がティーダに釣られるが、それでも間に合わない。ゴールラインで切り返し中を見据えた。
「お願いします!」
 戻りかけた猿を秘かに緋音がブロック。その隙に地上際の強いパスを送る。詰めるレイアーティ。2人の間で鈍重に右往左往する熊。冷静に歩幅を合わせる。驚異的な振り抜きでゴール右上隅を狙い打つ!
『きたぁ!! これは楽勝か、我らの希望だ!』
 ――8分。2−0。

 その後試合は拮抗する。キメラが『敵戦士』の強さに、守備的キープを選択したのだ。人狼、熊、猿を中心に回し、片翼損傷の鳥がブロック、化猫は時に戻る。傭兵達は無理に球へ行かず、機会があれば隠し持った爪、敵が気付きもしなかった熊手で削る。それにひたすら耐え、視る敵。そしてハーフタイムを迎えた。

●後半――目覚める「セクシー」
「仕掛けてくるかもしれねぇな‥‥ハルカ、準備しといてくれ」
「万端なのだ!」
 ベンチ下には種々の武器。自身の身体も疼いて既に体操済みである。
「ゴールは俺が必ず護る‥‥攻めやがれ!」
「「オォオ!!」」
 新たなLH体育会系蹴球小隊誕生の瞬間だった。

 後半開始。直後、敵が速攻で攻め立ててきた。しかも‥‥
『あっと敵チームがパス、パスを回します! まさか技術を見て学習しているのか! なんという本能!』
 人狼から鳥へ。攻撃性を隠しもせず、数と体当たりを頼りに中央線を越える!
「奴らがフットサルという戦闘を即座に学び対応したのを考慮すべきでしたね‥‥!」
 ティーダが戻りつつ鳥の前に立つ。
「抜けますか?」
 片足を引き腰を落とす。速度なら負けない。不用意に仕掛けるなら取れる。ティーダが計算したその時、鳥の横を越える人狼。右腕で阻もうとするがフィズが違う!
 抜かれる!
 鳥が球を蹴る。だがただではやらせない。人狼の体当たりに右肩を痛めつつもティーダは鳥に体を寄せ、残る右翼に爪を突き立てた!
 鳥の悲鳴が響く。しかし球は止まらない。人狼がバイタルエリアに近付く。チェックに行く賢之。優理は下がり前線の化猫をマーク。右サイはレイジが下がりケアする。
「1点もやれないねッ」
 賢之が激しく当たる。怯む人狼。強引に抜く! が、
「残念。フィクソは1人じゃないんだよねぇ」
 2人1組。優理が一気に接近、球を蹴りだした。
「ミサキくーん!」
「な、何か違う人の気がっ」
 受けようとした緋音だが、大質量の熊がラインを上げてきた!
『あああ御崎が倒される! が敵はそれに構わずシュー‥‥とォ?!』
 実況まで妙な声を上げる。というのも
「キャプテン、あとは頼‥‥!」
 賢之が熊の真正面へ特攻したのである。迫りくる弾丸。体を広げ向かう賢之。スロー再生の如き光景。そして。
 ゴボグ‥‥生々しい音と共に、賢之が地に沈んだ。
「草壁くん、オイシイよ‥‥」
 優理の場違いな台詞はよそに、球はまだ上空で生きている。偶然クロスの形でゴール前へ。アンドレアスが飛び出す!
「漢の魂を無駄にするかよ!」
 跳躍。パンチングの構え。ところが!
『ここで影から何かが飛んできた! 味方か‥‥あああ違う猿です! まさか、ああ戻ってぇぇ!』
 アンドレアスの拳が球に触れるのと猿の本能的オーバーヘッドが放たれるのは同時だった。
 数瞬の沈黙。客も息を呑み球の行方を探す。誰かの悲鳴。そう。そこは。
『ッ、ゴール、してしまいました‥‥敵の、怒涛の攻撃が遂に‥‥』
 アンドレアスの後ろへ、転がっていた。――25分。2−1。

「賢之くんの死は無駄にはしないッ!」
 明後日の空に拳を突き出すハルカである。
「死んでません‥‥とはいえ、石頭な坊主の人並に根性出すとこの後が辛そうなのでお願いします」
「任せるのだ!」
「悪ィ‥‥同点にはさせねぇ。行こうぜ‥‥!」
 笛が吹かれる。27分。
 今度はこっちの番。誰もがそう思い、緋音からレイジ、突っかけ戻し、再び緋音へとチーム方針で組み立てようとしたその時。
『球を回し‥‥な、影から何かが! 猿だ、またも猿が邪魔をする!!』
 緋音に集まると読んだかその球をカット、低姿勢、高速で前線へ走る。
『両サイド懸命に戻る! 頼む守ってくれ!』
 ティーダが化猫2匹につき、レイジが猿に当たる。フィクソ優理とハルカが流動的にケアする構え。猿が球を戻す。後ろからは人狼。鳥はもはや動けそうにない。チェックするハルカ! 攻防が続く。2分。3分。数とフィズで敵も粘る。さらに時が過ぎる。次第にエリアに入ってくる。
 押し込まれる!
「ハルカ、ユーリ、ボールチェック!」
 アンドレアスが乾坤一擲の勝負に出る。丁度中央の人狼へ球が渡った時、2人が挟んで足を、腹を熊手等で削る!
 敵はふん張りパス先を探す。敵右翼、化猫が1匹ティーダを振り切った。優理が横から圧力をかける。合わせてアンドレアスが出る!
「ッ――!」
 咆哮。一瞬ステージを思い出し、走りこむ。交錯。
「ッきやがれ――!!!」
 パントキック。天高く上がったそれは、前線で張るレイアーティの許へ。時間をも稼ぐその弾道の間に、守備陣が駆け上がる。
「ん、と眼鏡眼鏡‥‥」
「気にせず私達も上がるのだっ」
 ハルカが引っ張り全員攻撃。レイアーティが頭で落とす。反応するのは右のレイジ。右奥まで上がりクロス。敵フィクソ熊が中央線へ跳ね返す。そこに走りこむハルカが再び前へ。敵が懸命に戻る。
『流れるような攻撃‥‥美しい!』
「私達を止めようなんて、10年早いんだからっ!」
 緋音がレイアーティに。左からティーダが切り込んで中央に来た!
『スイッ‥‥いや! デコイに熊が引き付けられる! 中央が開いた! 行け、行け!!』
「レイさん!」「何を‥‥」
 並んできた緋音が目で訴える。私達ならやれる筈だと。頷く。エリアに入る。敵ゴレイロが出る。球を横に出す。2人同時に踏み込む。
『こ、これは伝説の!』
「ぁ、あいのツインシュートですっ」それが炸裂する!
 固唾を呑んで。敵ゴレイロまで目を瞑る。球はどこに。その時。
「いただきなのだ」
 今さら響く、ポスト音。最後尾から駆けてきたハルカが、一直線に跳ねてきた球を右ボレー。緋音らの真横をすり抜けた球がネットを揺らした!
「流石能力者、超プレイの連続だな」
 大歓声の中、苦笑のレイジ。38分。
 ‥‥3−1。
 敵、呆然。もはや試合は決まっていた。笛が鳴るも敵は全く動かず。あまりの魂に、動物的畏怖を覚えていたのだ。そして。
 ピッ‥‥試合、終了。客の波がうねる。ホープ・リベリの見事な勝利だった。

●ロスタイム?
 傭兵達は勝利の美酒の前に、即座にベンチ下から得物を取り、作戦通り中央に固まるキメラを鶴翼的に半包囲。格闘士2人が両翼から背後に回り、観客を守る動き。
 が、敵に動きはない。余程試合を本気で『戦闘』と思っていたか。こちらの暗躍で体力等が半分削られてはいるが鳥以外五体満足の筈。にも拘らず活力を失ったよう。
「‥‥自業自得だな」
「敵に容赦は無用です」
 アンドレアスが強化、賢之が銃撃。次いで格闘士が削り、万能者らが息を合わせ側面攻撃。同時に戦士が正面から甚大な損害を与えていく。
「ラーセンは私が守らないとねぇ」
「‥‥いや、チラ見されてもきゅん、とはしねぇけどな?」
 そうして。
「試合に勝って勝負にも勝つ。完璧だな」
 両手剣を背に戻し、レイジが水を口に含む。眼前には屍となった敵。客、感涙。
 かくして、異種族蹴球大会は幕を閉じたのだった――――。

<了>

 控え室。髭の主催者が訪れ、
「最高にエキサイティングだった。ありがとう!」
 秘かにお小遣いをくれたのは、ULTには内緒である。