タイトル:【Gr】彼の名に決着をマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/10 01:07

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


「しかしだな」
「お願いします‥‥! 正面戦線にも貢献します。ですから、ある程度戦闘したのちに俺も要塞に突入させて下さい!」
 マドリード、司令部。森の能力者――アロンソ・ビエル(gz0061)が少将相手に必死に食い下がる。要求はただひとつ。要塞突入、である。
「自分の道は自分で切り拓きます。正規軍の手は煩わせません‥‥!」
 頭を下げ続けるアロンソを、少将は思案顔で見つめる。
「君と同じ傭兵達が、施設爆破の為に突入している。成功すれば、中心施設に程近い地下施設もまた倒壊するだろう。それでは駄目なのかね?」
「‥‥はい。たとえ当事者以外にとってそこまで意味のない行為であったとしても、これは、自分達でやらなければならないんです」
 俺に付き合って、今まで森を守ってくれた仲間にも示しがつかない、と。
 要塞の大元たるカッシングには自分達だけでは届かない。しかし、直接苦しめられてきた指揮官には相応の報復を。
 もはやこの決意は揺るがないとばかり、無音の怒りをその眼にアロンソが顔を上げる。いち傭兵がそのような鋭い視線を軍人、ましてや少将に叩きつけなどしたら、下手をすればなんらかの処分も下されかねない。しかし、それでもアロンソは譲らなかった。これは、自分が傭兵となるきっかけであり、最初の戦いなのだ。
 その瞳を見返す少将。そのまま数秒沈黙していると、少将は突然僅かに口角を上げ言い放った。
「‥‥その意気やよし! 漢を見せてこい!」
 アロンソの肩を叩き、腹から響く声で。少将にも昔何かあったに違いない。なかなか話の分かる粋な親父である。
「‥‥が、爆破を止める事はできん。地下へ入り込む時は時間に気をつけろよ」
 礼を述べて退出するアロンソに、少将は最後、そう付け足した。

 マドリード戦力増強に乗じて、自らのKVも輸送してもらっていたアロンソは、その足で格納庫へ急ぐ。備忘録には先日保護した人の証言が新たに書き足されていた。曰く。
 最も中心の施設に近い対空砲施設付近で土木作業をしていた。
 時折その施設から眼鏡の男が出てきては、自分達に命令していた。
 内部にも作業の為に入った事はあるが、男の部屋などは解らない。
 初めの十字路を直進し、何度か右に曲がった場所には行ったが、男の私室らしいものは見ていない。
 前回そこから森に進撃した際は、心なしか東から回るように北へ向かっていった。
 これらの情報、また今までの戦闘を頭で反芻しながら、アロンソがKVを見上げていると、不意に村長の姿が思い起こされた。
 外敵が侵攻し始めた時から村の指揮を執り森に隠れ、皆を守ってきた、偉大な人物。その人を少しでも助ける為にも、そして利用されてきた一般人の借りを返す為にも。
 一度目を瞑り、深呼吸する。
 自分達の手でケリをつけ、爆破してもらう。
 絶対的なその思いを胸に、彼はKVに手を置いた――――!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ケイン・ノリト(ga4461
30歳・♂・FT
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 胸がざわめく。足が震える。
 だがそれも無理からぬ事だった。彼にとっての一大決戦がすぐそこに迫っているのだから。
「上に掛け合ってくれてありがとうアロンソ。凛も、自分で決着つけたかったから」
 感情を無理矢理抑えつけるように、勇姫 凛(ga5063)。龍深城・我斬(ga8283)も声をかける。
「いっちょ前に吼えたらしいじゃん。少しは気概も出てきたか?」
「これは俺の最初の戦いなんだ」
「ああそうだ、これは俺達の喧嘩だ。他人任せになんかしてやるもんかよ!」
 我斬がアロンソの肩を叩く。
「一緒に漢を見せてやろうよ! これ以上悲しみを拡げない為に‥‥凛達は夢を届けるんだからっ」
「軍に直訴してでも信念を貫く。特訓の成果か?」
 急ピッチで作業が行われ、金属音と命令で溢れかえる。その中で月影・透夜(ga1806)が薄く笑う。
「そ、そう、だな」
「力を抜いて参りましょう。顛末は聞き及んだだけですが、私もお手伝いさせていただきますから」
 緊張するアロンソを、緩やかな声で包むアイロン・ブラッドリィ(ga1067)。依頼の中で会うのは久方振りだった。
「でも敵の目的は何なんだろう。能力者、エミタ?」
「関係ないわ。もはや赦される事はないんだから」
「‥‥うん。それは、絶対に。ヒトの未来の為に」
 未だ不透明な敵の意図を読もうとする諫早 清見(ga4915)と、早くも翼を顕現させる智久 百合歌(ga4980)。
「泣いても笑っても正念場。散った命の数だけ、苦しんだ分だけ、鉄槌を下しましょう」
 続いてケイン・ノリト(ga4461)。敵への強い憤りが、百合歌とケイン、2人の普段の柔らかさを押し隠す。
「決着をつけましょう」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)はアロンソに近付くと、じっと見つめ、くしゃりと頭を乱暴に撫でた。
「貴方の――私達の宿敵との、決着を」
「アロンソさん、頑張って‥‥行きましょうねぇ‥‥私もおとこぎを‥‥見せてあげますぅ!」
 幸薄い胸の前で両手に力を込め、ずれた事を口走る幸臼・小鳥(ga0067)である。
「全く。皆さん熱いったらありゃしない」
 と翠の肥満(ga2348)。彼はそのまま『秘蔵のフルーツ牛乳』を口に含んだ。
「さァて、クールに行きましょうや!」
「自分も熱」「突っ込まないであげましょ」
 無慈悲な百合歌である。
 その時、南から激しい砲声が轟いてきた。正面軍が開戦したらしい。スペインの趨勢を決める戦いが始まったのだ。再び彼らの顔に緊張感が戻った。
「アロンソさん」各々のKVに走る間際、百合歌が言葉をかける。「ステージに上がる準備はよくて?」
「覚悟を決めるしかない。俺が持ちかけたんだから‥‥!」
 翼を広げた百合歌が微笑した。
「FinaleまでPrestissimoで――ぶっちぎるわよ!」

中央:翠、ケイン、清見
左翼:アイロン、百合歌、凛、我斬
右翼:ロッテ、小鳥、透夜、アロンソ

●強行突破
「右翼異常なし」
 報告する彼の声は、やはり落ち着かない。
 風の如く。3つの編隊が南西へ一直線に空を切る。グングニルの槍が敵装甲にぶつかる頃、その脇をこじ開けんとするように。
「心配すんな、アロンソくん」
 中央先頭の翠が白い軌跡を残して通信する。
「確かに君1人じゃアレだが、僕らが加勢して失敗した事があったか?」
 急速に集団へ接近する11機。手前に同胞、奥に敵軍。光線と曳光弾が迸り、遠雷の如き轟音が伝わってきた。
「45度後方から一気に突破するわよ」
「高高度から参りましょう」
 計器を駆使して辛うじて戦場を把握するロッテとアイロン。
「大船に乗ったつもりでいけ。‥‥正確には機上の人だけどさ」
 翠機GJr3が速度を上げる。
「時間はかけられない。多少無理にでもこじ開けるぞ」
 透夜が当然のように言い放つと同時に、一団は軍勢へ突入した。

「当たらなくてもいいんだ。ビビッて道さえ空けてくれりゃこっちの勝ちだ!」
 我斬機雷電から螺旋ミサイルが発射され、白煙を残して機械化キメラ群に消える。爆発。他班からも幾筋もの白煙が伸び、敵前衛に少しでも綻びを作らんとする。
 この謎の友軍に、グングニル左翼UPC軍が多少混乱しかけた。が
『今だ、続けェェ!!』
 傭兵ばかりに見せ場は取らせない。隊長の一声と共に戦闘機が攻勢をかけ、一気に混戦となった。一般傭兵機もシュヴァルム編隊となって敵に当たり、様々な煙が戦場を覆っていく。プロトン砲が我斬機を掠めた。
 空を埋め尽くさんばかりに敵味方が入り乱れる。黒煙を上げ墜落する機体。複数で壮絶な格闘戦を仕掛ける者。その中を1つの奔流となって駆け抜ける。
 D−02の引鉄に力を込める百合歌。さらに凛機ディアブロから銃弾が放たれ、前に移動してきたHWの壁を少しでも穿つ。アイロン機ウーフーは2時方向へG放電、中央との間隙を埋める。HW群が乱れた。
 HWがばらばらにフェザー砲を発射してきた。乱したが故の各個射撃。それが絶え間ない攻撃を生み出してしまう。
 補助翼を細かく動かす我斬。主翼を掠めた衝撃が視界を揺さぶる。ロールして百合歌が回避する。
 群に突っ込む!
 右。左。下。上。縦横に隙間を抜ける。キメラを跳ね飛ばす鈍い音。アイロン、凛が百合歌機を守るように機体を寄せるが、その途端百合歌の声が通信に流れた。
「私1人を守るより全員で辿り着く方が大事ではなくて? 私も機体も、そんなにヤワじゃないわ」
 怒ったように。が、それも効率良く目的を果たす為。自分を、皆を信頼しての言葉なのだ。
「‥‥はい。欠ける事なく」とアイロンが弾幕を張る。
「ん、行こ!」
 最左翼、凛が機首を左に向け、トリガーを握り締めた。僅かな感触と共に放たれるリニア砲。HWを一撃で中破に追い込む。
「今の凛達は」
 元より攻撃特化の凛機。想いに呼応したように機体が軽い!
「誰にも止められないんだからなっ!」

 白銀の瞳がコクピットを駆け巡り、ロッテの経験と感覚によって算出された道が脳内に描き出される。
「皆、あの壁を穿つわよ!」
 HWが塞ぐより速く駆け抜ける。編隊全体が1つの生物のように、四方からのプロトン砲すら意に介さず。いや、損耗率は徐々に上がりつつある。だが。
 止まれない理由があるのだ。崩壊までにケリをつける。それだけの積み重ねが。
 付近の部隊までがその突撃に勇気づけられ、奮い立つ。実弾と光線が飛び交う。その中で苛烈に飛び続ける。
「私達の‥‥邪魔をしないで‥‥くださぃ!」
 小鳥機ウーフーの狙撃銃が火を噴き、飛び掛かるキメラの片翼を撃ち落す。その後ろで待ち受けるHWの壁が斉射してきた。紫色光の幕となって4機を襲う。
「ぐ、‥‥!」
 経験の劣るアロンソの被弾が大きい。辛うじて致命的損傷を避ける彼と、上手く負担を分散する3機。僅かに楔形が崩れた。
「落ち着きなさい」
「魔弾のいつもの‥‥強行突破ですからぁ‥‥私達もいますしぃー‥‥」
 咄嗟にロッテが機関銃を回転させ敵機動を乱す。4機はその隙をついて持ち直すと、一気にHWの脇を擦り抜ける!
「悪いがここのHWを頼む。要塞でやる事があるんでな」
『――了解。健闘を祈る』
 軽く翼を振って応えてくれる同胞。
 少しでも攪乱できれば彼らの助けにもなる。すれ違い様、透夜の螺旋ミサイルがHW中心にぶち込まれた。

「すみません、急いでま〜す」
 ほぼ1本の槍と化した3機が中央を穿つ。壁を越え、機雷を避けるが如く。ケイン機雷電の螺旋ミサイルが友軍機と交戦していたHWを横合いから吹っ飛ばした。爆煙やまぬその中心を一瞬で駆け抜ける。
「飛んでも飛んでも敵ばっかりだよねっ」
 清見が操縦桿を右に切る。機体下部を淡紅光が削った。越えてきたHW壁一部が淡く輝き、猛烈に追尾してくる。モニタにそれを映しつつ、それでも応戦はできない。ひたすら前へ。
 前進か死か。極限の敵中突破。
 機首を下げた。翠機GJr3から恐ろしく先鋭化した螺旋ミサイルが飛ぶ。前方大型HWの姿勢が一撃で傾いだ。だが簡単にはいかない。大型から同時に数条の光が乱れ飛ぶ。機体を貫く嫌な音が耳に響き、カンカンと爆散した友軍の破片が当たる。その中を急速に大型へ接近する3機。
 機動力すら強化されたGJr3が躍動する。さらにミサイルを発射、数秒の間に大型を半壊にまで追い込むと、清見のデルタレイが追い討ちをかける。
「友軍部隊、こちらアロンソ一味」
 翠が先頭となって通過。斜めに空を滑り体当りを潜り抜けた。真後ろから一直線にプロトン砲が飛来する。衝撃。軽微。前へ、前へ!
「ワケあってこれより敵陣へ先行・潜入する。防空網に穴ァ開けるのに手ェ貸してくれい!」
『おいおい、タダ働きかよ?』
「フムン、では今度僕の牛乳をご馳走しましょう」
 ここまで前線から吶喊すると友軍機も少なくなってくる。同じく突き抜けてきた爆撃掩護隊の勇姿を視界に捉え、翠が率先して要塞の方へ突っかかる。
『ハ。誰が野郎のミルクなんざ飲むかよ!』
 それでも同調してくれる友軍機。キメラの群を跳ね飛ばす!
 どれ程の波を越えてきたか。約3割の損傷を負いながら、本命の山脈に差し掛かった。地表が急速に近付いてくる。とその時。
 山肌が煌くと同時に、未だ生きる対空砲が彼らを襲った。

●嵐、のち静寂
 弾雨の洗礼が11機を襲う。下手に回避した方が当たりそうな気さえしてくる。
「ここで墜とされる訳にいかないわ。気を引き締めて行きましょ」
 間断ない砲撃に晒されながら、百合歌。
「少し高度を上げるか?」
「もしくは高速で超低空を駆け抜けるか。中途半端は拙いわ」
 我斬にロッテの声。高度を取ればこちらから避けやすく、超低空ならばスティンガー等のない限り対地速度の差によって普通は当たり難い。バグア要塞に「普通」が通じれば、だ。
「高空から急降下致しますか?」
「そう‥‥」
 アイロンに我斬が頷きかけた時。空を破る音が聞こえたと思うや、突如レーダーに現れた光点が急速接近してきた。光点がもう1つ。悠長にしている暇はない。高度を一気に上げる。ところが光点はさらに勢いを増してきた。小鳥が後方を確認する。
「ミサイル‥‥すごい機動で来てますぅ?!」
 こちらに向かう数はこれ以上ないようだが、このままでは着陸に差し支える。
思いきってループする我斬機。機首がやや後方の地表を向いた刹那にアクチュエータ機動、誘導弾を発射した。真っ向からミサイル同士が衝突する。
 爆煙を撒き散らす。それに乗じて翠がラージフレアを、次いで小鳥が煙幕を散布。
「今のうちに‥‥!」
 眼下を山が流れていく。タートルの対空砲が十数m先を貫いた。
 山頂からやや下った辺り。
 証言の物らしき施設をなんとか発見する一行。すぐさま高度を下げようとし、
「しつこい‥‥もう一度叩く必要があるわね」
 ロッテの感覚、そして小鳥、アイロン機ウーフーが、なお生きるミサイルキメラの存在を探知した。
「無へ帰りなさい‥‥!」
 ケイン機が方向を変える。ロックオン。発射。一方に命中。だが止まらない。
 加速する敵。
 今度はほんの数m先をプロトン砲が通過した。
 このままでは。誰もがそう感じた時、2機のディアブロが動いていた。
「ミサイルは俺が引きつける。その隙に着陸しろ!」
「成る程。僕もご一緒しましょう」
 動翼展開。透夜と翠の機体が編隊最後尾へ回った‥‥!

「ッおぉおぉぉぉおおお!!!!」
 急降下。
 ケインと我斬、両雷電から放たれるロケラン。ここぞとばかりアロンソも煙幕散布後、ロケランで付近の地表を一掃する。さらにアイロンが着陸地点へ煙幕を放った。
 真正面からすれ違う対空砲。大質量の衝撃が機体を揺さぶる。
 シートに押し付けられる。進入角度が急すぎる。
「ギリギリまで‥‥!」
 百合歌の声が妙に響く。ロケランを受けた施設の黒煙が一瞬見えた。露出した地面が近付く。
 激突‥‥瞬間。
「逆噴射!」
 ベルトに体が締め付けられる。再びロッテの合図と共に、各機は変形を敢行した。

 2基が2機を追尾する。たった2機で遠く離れるわけにいかず、敵の方が遥かに速度に勝る。突っ込んでくる敵を横滑りしてかわす翠。透夜は速度差を活かし落葉の如くやり過ごす。
 敵が方向転換する前に引鉄を引く透夜。弾雨に晒される1基だが、その程度では誘爆しないらしい。急激に旋回すると再度接近してくる。1基は直進、1基は大きく回って。
 翠が誘導弾を放つ。狙うは我斬のそれが命中し、透夜に反撃された方。白煙を曳くミサイル。直進する敵がその上を通り、
 大爆発。爆散する残骸を煙幕代わりにもう1基を回避。その時ようやく、逆噴射とスポイラーの音が2人の耳に届いた。
「ッ俺達も降下するぞ!」
 地表を拡大して、透夜。時間が惜しい。背後の生体ミサイルを意識しながら降下に入る2機。
 直後。着陸体勢に入る翠機を、激しい衝撃が襲った‥‥!

●小休止――内部へ
 静寂が辺りを包み、靴の音が洞窟に反響する。地響きのように爆音が伝わり、多少猶予がある事が解った。とはいえ限られた時間には違いない。
「翠さん、大丈夫だった?」
「舐めてもらっちゃ困りますな。ああいう場面こそ僕のGJr3が輝く時でしょう。にしても」
 ワイバーンで前方を進む清見が訊くと、翠は誇らしげに言い放つ。が。
「入口に置いといて持ち逃げされないだろうかね‥‥」
「まあ、敵も余裕ないんじゃないか?」
 打って変って狼狽する翠に、適当に答える我斬である。アイロンにも思わず笑みが零れる。それ程までの、妙な静けさ。
 先頭にロッテ、清見。殿を百合歌。この3機のワイバーンが、随伴する生身の8人を守る。通路にいる限りはこちらが圧倒的に有利だろう。問題は、KVを使えない状況となった時。
「透夜さんも‥‥お疲れ様で、ですぅー‥‥」
 声をかけようとした小鳥が途中で躓いたのを、透夜は見なかった事にした。
「多少の無茶はやれるよう鍛えてるからな。そんな事より」時計を見やり、「この場所に爆撃が届くまで15、いや10分と見ていいだろう」
「それに動力炉の爆破もあるわ。直接地下で繋がってたらここもただじゃ済まない」
「ああ。もう潜入どころではない。発見優先で迅速に」
 透夜と百合歌が言葉を繋ぐ。
「絶対、見つける。高みの見物をしてきた奴に、凛の想いをぶつけてやるから!」
「そう。まだ此処からが本番よ。私達の生き様を見せつける‥‥!」
 ロッテが前方を凝視しながら同調した。しばらくすると道に変化が訪れた。薄暗い中に十字路が現れ、横の壁も次第に均されてきている。
「落ち合う場所はまたここに。‥‥必ず、生きて」
 アイロンの切々たる願いが通路に響く。
 11人は僅かな静寂を終え、寸暇を惜しんで駆け出した。

●3つの行方――10分
 駆動音が低く鳴り、数条の光が洞窟を一瞬照らす。50cmに満たない鼠が小爆発を起こした。口を開けて破裂音に耐えると、透夜がKVの陰から飛び出した。
 勢いに乗ってセリアティスを突き出す透夜。鼠は体液を撒き散らしながら、口腔の小型突撃銃で反撃を企てる。突然残る3匹も突っ込んできた。
 ――ッこいつら全て‥‥!
 危険を察知した透夜が槍を引くと同時に、瀕死の鼠が爆発した。
「伏せて‥‥くださぃー!」
 放たれる小鳥の銃弾。それは近寄る3匹を縫いとめ、次いでアロンソの攻撃が1匹を仕留めた。さらに爆発。
「退避!」
 ロッテの声より早くステップで戻る透夜。見届ける間もなく、ロッテ機のレーザーが2匹を爆散させていた。
「思いやられるな」
「‥‥行きましょう」
 密閉空間において面倒な物がありそうだと焦れる透夜に、ロッテ。彼女は慎重に前進を再開させると、無言で後方をモニタに映した。そこには透夜と小鳥、それに。
 じっと画面越しに眺める。年上のくせに全くらしくない彼を。
 少しは、頼もしく‥‥。
 気付いた時には外部出力のスイッチを押していた。
 無音。
 ――貴方は。
 開きかけた唇から漏れるのは吐息ばかり。
 確かな想いは時に言葉を紡いでくれなくなる。
 その瞬間はきっと最初の試練で。不親切なそれだから、もどかしく、愛おしい。
「‥‥貴方達、怪我したら訓練合宿だから」
 今は、まだ。
 ロッテは気合を入れ直すように無造作にモニタを切り替えた。

「延々続く常備灯と例の証言。連想されるのは」
 翠が細かい部分、下部から壁面を警戒する。と、前方左壁に両開きの扉が見えた。心なしか奥へ行く程通路が広がっている気がする。
 微かに刀の鍔を上げ、ケインが手をかける。
「先手必勝で」「俺のKVにも気をつけてねっ」
 一気に押し開けるケイン。扉がけたたましい音を上げると共に、清見が機首を向け照準を室内へ合わせる。
 異常無し。熱源無し。倉庫か。何かが積まれている。慎重に翠とケインが至近の物に近寄ると。
「弾薬‥‥」
「リスト発見。極一般的な物のようですな」
 通路に出て翠がその紙を見る。20ミリ弾等から果ては食材まで。ラットか何かのケージのような物もあった。
「研究所の1つがここにあるんでしょうかねぇ」
「そうなると、やはりこの道は通用路、搬入口、非常口。どうもアタリではなさそうだ」
「まぁ一応奥まで行ってみましょう」
「そうだよっ、重大な物があるかもしれないし」
 落胆の色を隠せない翠を、ケインと清見が励ます。
 とはいえ彼らも同様の想いなのだ。子供を使い、人をはき捨ててきた敵に自らの手で一矢報いたい。それでも、最低限の大局を見誤ってはいけない。
「それに」
 清見がふと思いついたように、その単語を口にした。
「途中の右への曲がり角、あれ、十字路の右の道からの脱出路もあるんじゃないかな」

 暗い道を一筋の光とランタンが仄かに照らし、それだけを頼りに1機と3人が進む。足下は凹凸が激しく、壁も急に歪に戻っていた。
「この臭いの上に下り。水路‥‥? 一応水中の備えは持ってきたけど」
 ガーゼを鼻に当てる我斬。生臭さと刺激臭。2つの臭いが脳を侵食する。
「施設のゴミ捨て場とかキメラ実験場とか、あと飼育場とか? ‥‥凛、この臭い嫌いだ」
「帰ってお風呂の後、お茶にいたしましょう」
 整った相貌を歪ませる凛に、アイロンが言う。何気ない、しかし無事を願う強い想いを込めて。
「大変そうね。それにしても」
 百合歌がコクピットから、一定区間毎にIRSTによる映像に切り替えつつ。
「人らしき影も全くないわ」
「民間人か」
「もしかして、全員‥‥!」
 我斬に凛が反応する。
 目の前でキメラに殺された人。弄ばれ人生を終えた少年。この依頼に関るだけで何人もの人間が死んだ。これ以上の死があるのか。
 世界が死に包まれているのは解っている。だがそれでも、手の届く範囲で足掻き続ける。そうしてこれまで生きて、これからも戦うのだから。
「そういえば、あの子も既に‥‥」
 北の村での救出劇で、アイロンも見た少年の姿を思い出しかけた時、
「止まって」
 百合歌機の熱源探査が、四足獣の存在を捉えた‥‥!

「この先に何があるのかぁ。鬼が出るか‥‥蛇が出るか‥‥ですねぇ」
 小鳥が銃を構えて進む。眼前には幾つかの扉。
「左奥の扉。複数反応があるわ」
「全て調べる時間もない。突入しよう」
 ロッテ機が熱源を感知、透夜が意気込む。慎重に移動する4人。
「狂想曲に結末を‥‥!」
 ロッテは機関銃の引鉄に力を込めた。

 ガァン!

 百合歌機の重機が5mはある両扉を微塵に吹き飛ばし、強引に入口をこじ開けた。凛と我斬が雪崩れ込み、アイロンが入口から見える黒い剣牙虎に一矢を放つ。
「何をしているか解りませんが、調べさせていただきます」
 3人が入っていく。
「研究所、か」
 小動物を中心とした素体と小火器、そしてやはり何かの実験なのか、数人の死体があった。
 我斬が黒虎に発砲する。金属音。めり込んではいるが効率が悪い。機械剣に持ち替える。
 注意が逸れた隙に凛が駆ける。回り込むように動くと、
「精一杯生きてる人は物じゃない‥‥! 貫けエクスプロード‥‥凛達の想いに変えて!」
 勢い充分。懐に入り込んだ凛が、左で踏み込むと同時に槍を突き出した!
 小爆発。苦しみながら爪で払う黒虎。受け流す。
「何が出てこようがやる事は一つさ。俺の目の前で民間人を惨殺してくれた礼はたっぷりさせて貰う!」
 踏み込みから薙ぎ払い。我斬の機械剣が敵の前足を通過する。辛うじて切断を免れた敵は左前足を不自然に曲げると、仕込んだ大口径をぶっ放した。
 咄嗟に横転する凛。腕を交差して致命傷を避けた我斬が振り下ろす。が、突如虎は逃げ出した。2人が追う。
 脇から飛び出してくる人型の敵。砲口に様変りした腕を伸ばした瞬間、レーザーがそれを貫いた。
「過ぎた玩具は身を滅ぼすの。与えた主を恨んでね」
 部屋の外を警戒していた百合歌が片手間に敵顔面を穿ち、完全に絶命させた。
 一方で大きめの研究室右手前、積み重ねられた体の傍に歩を進めたアイロンは、彼らを綺麗に横たえ祈りを捧げた。そして戦闘の援護をしようとした、その時。
 ドォ‥‥ン‥‥!
 奥で、爆発が起こった。凛と我斬が黒虎を仕留める寸前、敵が自爆したのである。
 爆風が部屋に巻き起こる。硝子は飛散し、資料は舞う。爆炎に近い物は既に消し炭となり、どうしようもない。
 少しでも何かあれば。紙片をアイロンが集めようとする。だがそこに緊急無線が入った。
『男』を発見した、と‥‥!

●決着――5分
「動くな!」
 透夜、小鳥、次いでアロンソが突入し、ロッテは無理矢理扉を破壊しながら機体前部まで捻じ込んだ。
 途端に左右からの十字砲火が4人を襲う!
「悪足掻きを‥‥!」「魔弾‥‥連携の力‥‥見せてあげるのですぅ!」
 ロッテ機から左に光線が放たれる。直撃。だが委細構わず腕を変形させた重機を操るメイド達。
 透夜が右の弾雨を受けながら近付く。その間に小鳥、アロンソが応射してようやく重機の嵐が止む。速度を上げる透夜。遠心力たっぷりに紅く輝く刃で薙ぎ払った。
 奇声を上げて退く敵。破れた本が舞う。部屋の奥と手前。メイド型3人を従えた眼鏡の男と正対する形で4人が構える。
「首謀者だな? なぜあの村に拘った? 子供まで使って‥‥」
「能力者4名確認。確保」
 言葉が通じないのか、聞こうとしないのか。重機のメイドが再び凶弾を撒き散らす。
「あなたは‥‥何であんなことぉ‥‥」
「確保」
 小鳥の声も届かない。機関銃弾が左腕を貫通する。
「最早語る口はない‥‥砕け散りなさい」
 ロッテが男にレーザーを放つが、男は大剣のメイドを呼び寄せ盾として防いだ。それでも倒れない。強い。アロンソが警告と共に閃光弾のピンを抜いた。
 右の敵に肉薄する透夜。間合いに入るや、下から振り上げる。至近からの反撃が透夜を襲う。
 苛烈な攻撃が4人に降り注ぐ。部屋を壊さんばかりの銃弾。大剣の敵が透夜を牽制する。
 ――ッ時間がない‥‥!
「ロッテ! こっちも撃ち尽くせ!」
「蹴散らすわ、全員伏せて!」
 一面にばら撒かれる銃弾。やはりKVの方が威力は高い。圧倒的質量が敵を押し戻す。駆ける透夜!
「透夜さん‥‥お願いしますぅ!」
 立ち塞がる大剣に小鳥の銃が炸裂する。脇を透夜が抜ける。懐に入り込み。
 鈍い音。
 多少の加減と共に、男を殴り飛ばしていた。机を転がり、奥に落ちる男。メイドが瞬間的に動きを止めた。男がふらりと立ち上がる。そこに眼鏡は、ない。
「答えろ。お前は洗‥‥」
「早く能力者を捕えろ愚図!」
 洗脳されていたのか。そう詰問しかけた透夜を遮って『眼鏡の外れた男』が叫んだ。メイドが再び動きを取り戻す。
「眠りなさい!」
 ロッテ機の光線が1人を絶命させた。さらに閃光弾が炸裂する。目と耳を覆う4人。まともに喰らった敵が照準を狂わせた。形勢逆転、一気呵成に攻め立てようとした次の瞬間、
「糞!!」
 口から血を流す男が、ローブを翻した。止める間もなく壁に触れるや、突然開いた穴から男が滑り落ち、メイド2人も追従していった。3人が追う。
「逃がすと思うか。今まで行ってきた報いを受けてもらう!」
「私は通路から戻って先回りするわ‥‥! 位置をお願い」
「お気をつけてぇ‥‥!」
 舌打ちしてロッテは即座に機首を転じ、ブーストを起動させた。

「どうしますか‥‥!」
「ひとまず手筈通り戻りましょう」
 無線を受けた中央班3人が踵を返す。が、清見の推測が頭から離れない。もしも上からの脱出路があり、この先に抜け道があれば。だがそんな博打をする余裕がないのも確か。
 そうした迷いながらの後退が、結果的に敵の脱出を打ち砕く事となった。
 清見機を殿に十字路へ向かっていた3人の眼前で、男とメイド2人が脇道から飛び出してきたのである‥‥!
「な、あ、敵?!」「それ以外ないでしょう!」
 瞬時に切り替える翠。ライフルを女に放つ。敵は姿に似合わぬ速度でそれを受け、引鉄を引く。
 銃弾の嵐と交差するように接近したケインは、抜刀する勢いままに薙いだ。満身創痍だった重機持ちが膝をつく。
「‥‥あなたは『誰』ですか?」
 女を牽制しながら、ケイン。男の顔に眼鏡はなく、自分の意思か洗脳か、はたまた強化人間かヨリシロなのかも解らない。
「何で村を襲ってたの? 支配活動しろって命令? 誘ってたよね?」
 やはり無言。
 そこに、脇道から右翼の3人が姿を現した。じきロッテも、左翼の4人も来る。圧倒的優位の中、敵を見据える。
 未だに敵は戦意を失う事なく、重機持ちを右翼、大剣を中央側に配し頑強に抵抗し続ける。
「眼鏡なんかじゃなくて、完全に洗脳されてるんだ‥‥!」
 清見のレーザーが、一旦退避したケインに迫る大剣に突き刺さる。
「ああ、最早語る口はない。奇しくもロッテの言う通り、な‥‥!」
 透夜が駆ける。引導を渡すべく。重機の女が回避しようとした時、アロンソの銃弾がその動きを縫い止めた。次いで小鳥が得物を持つ腕を狙い撃つ。
 斬。透夜の槍が1人を両断する。勢いに乗って翠、ケインも肉薄するが、大剣の敵が巧みに捌いて徐々に後退していく。先に十字路が見えた。
「捕まえる事はできないかな‥‥」
「難しいでしょうな。我々の時間も危うい。こんなの相手に瓦礫に埋まるのはつまらん」
 非情な一面を見せる翠。先程から地響きが急激に近付きつつあった。
 剣戟が続く。逆袈裟から伸びる大剣がケインを捉える。飛散する血潮。合流した透夜が加勢に入る。
 右。左。押してはいる。ただ決定的一撃が入らず、反撃に遭う。清見が機会を窺うが、敵はケインらの影となるよう動く。その様を観察していた男が、不意に手駒すら見捨てて駆け出した。
 拙い。間に合うか。
 が。その状況を、
「終りよ」
 ロッテの超出力が唐突に引き裂いた。

●脱出――1分
 生身の3人に合わせ、僅かに遅れて百合歌達が到着したのは、まさに男が体の半分を失って呆気なく上半身から落ちる所だった。
「Requiemさえ奏でないわ、貴方には」
 百合歌が未だ立つメイドの足下にレーザーを発射して体勢を崩す。直後、小鳥、翠、ケイン、3人の攻撃が直撃し、倒れ伏した。
「‥‥消えた命の贖いは、己の命を以てなさい」
 無論、私も。ケインが独りごちる。
 結局最後まで敵の口から全てを語られる事はなかった。捕えたとして洗脳を解く方法があったのかすら、今となっては解らない。それでも、今まで苦しめられた敵を、殺したのだ。
 その重さを噛み締める間もなく、いよいよ爆撃が至近になってきた。砂埃が舞い落ちる。
「‥‥脱出致しましょう」
 犠牲者を運び出せなかった悔恨を滲ませるアイロン。
 走る。走る。埃が激しくなった。前方、光が射してくる。
 轟音。
 遂に直撃した衝撃が脳を揺さぶる。光を隠すように崩落が起こる。先頭を行くロッテと清見の機関銃が火を噴いた。懸命に駆け出す。
 そして朦々と漂う砂塵の中、辛うじて各々のKVの影を視界に捉えた‥‥!
「ラ・ソメイユ・ぺジーブル‥‥」
 暖機状態から急速発進させる仲間達の横で、ロッテは爆撃に晒される施設を眺めていた。

‥‥‥‥
‥‥‥
‥‥

<了>

 帰投する途中、アロンソに請われて村に立ち寄った一行がKVから降りる。
「終り、ましたねぇ‥‥」
「‥‥ああ」
 小鳥に複雑な表情で頷くと、アロンソは少し待っててくれと村長宅へ走って行く。寄ってきたミシェルにアイロンとケインがしばらく話しかけていると、手に何かを持って彼が戻ってきた。
「‥‥俺は洗脳されただけの人間を、私怨で殺したのかもしれない」
 勿論洗脳だからと赦される訳ではないが。付け加えると、さらに続ける。
「1人の男を切って村を取った。俺はその咎を、ずっと背負うと思う」
 その手の紅い石を1人ずつに手渡していく。
「話が通じなかったのは残念だったが‥‥馬鹿げた事に付き合ってくれて、ありがとう。こんな礼しかできないが」
「ドン・キホーテ。風車に向かった道化。だが未知の存在に恐れず立ち向かった騎士。アロンソ、お前は0からここまで来た。それは誇っていい事だぞ」
「そ、そか。月影サンにそんな事言われるとは‥‥」
 照れるアロンソ。そんな2人に
「新しい戦いは待ってるのよ」
 ロッテが心なしか不機嫌そうに。
「これで村に落ち着けますね‥‥きっと」
 アイロンが伏目がちに言うと、翠がわざとらしく。
「そうだ。僕からも至高の牛乳を贈‥‥いや、取りにLHに来なさい。解ったかね?」
 生返事するアロンソ。
「うん、今度一緒にバンドでもやろっか?」
「なら私も伴奏させてもらうわ」
「じゃあ凛、歌うから」
 舞台に縁の深い3人からの怒涛の攻撃である。凛の荷物から飛び出たぬいぐるみの尻尾が揺れる。
「待って。何言ってるの‥‥アロンソは今から訓練よ」
 ロッテが強引に割り込むと、引き摺ってKVへ放り込んだ。
「骨は拾ってやるぞー」
 我斬の台詞が余りにも虚しく響く。
 呆然とする9人の前で、ロッテの機体が夕空に飛んでいった――――。