タイトル:ドン・キホーテに道標をマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/13 15:48

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 鳥が飛ぶ。ラ・マンチャ――乾いた大地の、暗い空を。
 深夜以降、早朝以前。深く暗い藍が、鳥を覆い隠す。
 眼下には1台の車。アルバセテから、ゆっくりと慎重に北上していた。車はそのまましばらく走ると、現れた森を迂回し、北からそこへ入っていく。鳥がその森を改めて注視してみる。中央やや薄く、多少拓けた場所がある。
 そこまで見るや、鳥は元の方角へと帰っていった。

「‥‥当該地区を早期に占領する‥‥‥‥」
 キメラと人間を前に男が呟く。
『ずっと北にある森近辺で暴れろ』
 そんな単純な命令を遵守すべく動き出すキメラ達と、怯えた様子で従う数人の人間。
 それを見届け、男は暗く狭い部屋へ戻っていく。鼻筋に手をやって視界を直す。
 隣には、1羽の鳥が控えていた‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 村長宅。いつもの、会議室と言うにはみすぼらしい部屋で、アロンソ・ビエル(gz0061)が自らの備忘録をめくり、これまでの情報を整理する。
 ハエン、アルバセテなどの都市と、それ以南のどこかで人間の移動が見られる事。
 洗脳された者か、ヨリシロとなった者か、あるいは人間そっくりのキメラなのか。とにかくヒト型の何者かが、おそらく小規模ながら自身の隊を持ち、支配活動を行っている事。
「傭兵の皆が言っていたが‥‥やはり、グラナダも怪しい‥‥?」
 大規模作戦の影響か何なのか、今のところ、諸都市を占領した敵戦力はスペイン全土を蹂躙し尽す、といった様子ではなく、文字通り野に放たれたキメラや哨戒ワームが跋扈するだけの状況。そんな中である程度組織立って村に来ているという事は、以前から動きの活発な例の要塞に居を構え、その指示で全土に緩く支配を拡げていこうとしている部隊の一つ、と考えるのが自然であろう。
 また、対グラナダのUPC軍士官の1人に様子を尋ねたところ、確かに人は数多く集められているとの情報を渋々教えてくれた。他にも何かありそうだったが、それは結局聞かずじまい。そこでULTの報告書の方を読んでみたいところだが、村からあまり離れられない今、やはり個人では限界があった。
 だが、それでも。
「‥‥近いうちに向こうの部隊で動く事があれば‥‥便乗させてもらうか‥‥!」
 向こうは向こうの目的を、こっちは因縁のある直接の敵を。慎重にやれると信用してもらえれば、囮ともなる露払いの実働部隊が増えるのは向こうにとっても得だろう。
 そこまで考え、アロンソは疲れたように顔を上げ、真新しい木の柱を見る。
 嵐の前の静けさ。そんな表現の合いそうな、耳が痛くなる昼下がりの空白。その空間を無残に切り裂いたのは、
 ピ――――‥‥!!
「アロンソ、来てくれ!」
 呼笛と、緊急事態を告げる声だった。

「ッどうした!?」
 男に連れられ、南西の櫓へ一気に駆け上がる。息が切れるが、緊急である以上気にしていられない。見張りの方を見、返事を待つ。が、何故か妙に身体が強張っているような、どこかいつもと違う空気を感じ取る。
「何だ、敵か‥‥?! ULTに連絡はしてるな‥‥?」
 再びアロンソが、敢えて冷静に問いかける。見張りは双眼鏡を彼に手渡し、促した。
 南を向き、覗く。瞬間、ない交ぜの感情が吐き気すら催させた。
 陸に色素が薄く背景に溶けそうな魔女と、いかにも砲弾でも撃ち出しそうな巨砲の巨体、大鎌を担いだピエロ。空には全てを間違ったような、純白と漆黒の翼の生えたロバ2頭。
 そしてさらにその前、盾のように横列で前進してくる、4人の震えた人間――――!
「ッ‥‥あれは『人間』か‥‥‥‥!?」
「多分‥‥」
「何故解る!!」
 答える見張りと自分も同じ顔をしているだろうとどこかで思いながら、全ての感情を奥歯に閉じ込め声を出す。
「さ、さっき‥‥逃げようとしたみたいな人が‥‥」
 言いかけ、急にえずきだした見張りの背をさすり、櫓から下ろす。

 ――逃げようとした人が、殺された‥‥ッ、

「ぁぁぁああああアアアアクソ野郎――――‥‥!!!!」
 櫓柱を殴りつけた拳が軽く裂ける。
 どこまで逆撫ですれば気が済む。村を襲い、子供を使い、人を盾にし。
 頭が沸騰しそうで涙が出る。どうしようもなく赦せない。どうしようもなくやるせない。どうしようもなく抑えきれない。喉がイガイガして堪らない。
 全てを投げ捨て飛び出そうとした刹那、今まで触れてきた仲間の姿が、言葉が、アロンソの身体を縛り付けた。
 絶対に死んではならないと。生きて守りきってこそ完全勝利だと。初心を忘れ、感情に完全に囚われてはならないと。
 アロンソが柱を右の掌で思い切り掴む。そして飛び出しそうになる心臓を押さえつけるように目を瞑り、途切れ途切れに、深く息を吐いた。
 スペインから、完全に奴らを追い出す。その1歩を踏み出す為に。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ケイン・ノリト(ga4461
30歳・♂・FT
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

 ヘリがその村の上空で静止する。幾度となく見た景色。8人が素早く降下した。
「すまない、俺だけでは‥‥もっと俺がッ!」
 肩を震わせるアロンソ。しかし、今ここで態勢を整えている。それだけでも成長だった。
「いよいよ敵もマジ、か‥‥でも安心せい!」
 翠の肥満(ga2348)が秘蔵のフルーツ牛乳を半分飲み干し、
「僕も本気なんだぜ!!」
「これが連中の本気か。なら、自分達がどんな選択をしたか思い知らせてやるだけだろう」
 揺らぐ闘気を纏い、龍深城・我斬(ga8283)。
 早速、翠は余分に持ってきた無線を地下に避難する村長へ渡しに行く。避難状況を知るに留まらず、防衛状況の連絡という点まで配慮していた。
 その背を見ながら、勇姫 凛(ga5063)は小さくごめん、と口を開いた。
「凛達が村をもっと危険にしちゃったかもしれなくて‥‥でも、責任、取るから。絶対、護るから!」
「国中敵だらけの現状、仕方ない。俺は凛サン達がいてくれて助かってる」
「がんばろ、ヒメ。俺達が元を断てばいいんだよっ」
 凛と長い付き合いになる諫早 清見(ga4915)が笑顔で励ます。この明るさこそ世界に必要ではないか。そんな力があった。
「‥‥うん。凛、この事件を操ってる奴、絶対赦せない」
「同感、ね。何処までも神経逆撫でしてくれて」
 ――愚かな外道には葬送曲を。
 背に顕現した翼に包まれ、智久 百合歌(ga4980)は氷蒼の瞳で南を見据える。
「Prestissimo――雑魚に構う暇はないわ。行きましょう」
 百合歌が、戻ってくる翠の足音で感じ。大きく6人と3人に分かれた。
「アロンソさん‥‥南が陽動の可能性もありますから‥‥村も気をつけて下さいねぇ‥‥?」
 冬の匂いも強くなってきたこの時期に、白衣をなびかせて幸臼・小鳥(ga0067)が上目に声をかける。
「‥‥きっと、大丈夫」ロッテ・ヴァステル(ga0066)がアロンソに向き直り「貴方も成長してる‥‥任せたわよ」
「必ず」
「皆さん、死ぬ気――いえ、生きる気で守り抜きましょう‥‥!」
 ほのぼのは無しだと、ケイン・ノリト(ga4461)が鋭く南を「視る」。これで何が戻るわけではない。遥かな過去も、消えた命も。それでも、進む為に。
「初手から全開。報いを受けてもらうわ」
 南へ歩くにつれ蒼髪が濃く染まり、ロッテも芯が熱くなる。
 守り抜き、そして決着を。6人が静かに森へ消えていった。

迎撃:ロッテ、清見、百合歌、凛(小鳥、我斬)
防衛:翠、ケイン、アロンソ

●刹那の攻防
 砲弾が木々を穿ち、鎌が自然を刈り取る。魔女の前方に冷気が吹き荒れ、木漏れ日が煌く。そうして広くなった隘路を、驢馬が低空ではばたく。人間達は辛うじて退避していた。
 6人は村に程近い森に潜み、耐える。まだ引き付けねば。今出ても、調子を変えるであろう敵攻撃から人質が逃げられるか解らない。
「暴虐の限りを‥‥!」
 スキルによってほぼ瞬間的に辿り着ける位置でなければ。殺されていく木々の悲鳴に、ロッテは必死に自制する。が。
『あぁぁあ!!』
 遂に2人が凶刃の餌食となる。肩から斜めに両断される男達。それに駆け寄ろうとしたもう1人が、迂闊にも魔女正面に姿を晒してしまった。
「人質が‥‥あんなぁ‥‥!」
「こりゃ拙いな‥‥どう見ても普通の‥‥!」
 魔女は止まらない。さらに歩みを進め、人間の至近から極寒を‥‥!
「いきますぅ!」
「単発銃にしたのは正解、だな!」
 小鳥は人に接近していない巨体、我斬が魔女を狙い、銃声。銃声。銃声。同時に4つの神速の影が木々から飛び出した。
「貴方達には過ぎたモノよ。私達に任せて」
 百合歌が魔女の元へ瞬時に到達、男の銃を叩き落しつつ敵に目を向ける。
 横、人を超える速さの中で清見は臓腑に響く声と共に跳躍、頭上の枝を大量に落としながらピエロに肉薄する。着地の勢いままに、爪で敵を弾く。
「大いなる自然よ、私に力を‥‥」
 銃撃で体勢を崩した巨体にはロッテが対応し、非実体剣で砲身を斬り上げる。その後ろで凛が残る1人の銃だけを棍棒で叩き
「凛、お前達の好きにさせないんだからなっ!」
 その背に庇って前方低空の驢馬を見据えた。
 電光石火。一瞬でキメラと人質の間に割り込む。直後、4人を吹雪が襲う。
「大事な手掛り‥‥壊させない!」
 百合歌が真後ろの男を軽く突き飛ばす。ロッテ、清見、凛も同様、少しでも人間に被害が及ばぬよう、その身を絶対零度に晒す。
 氷粒が舞う。しかし怯まない。勢いが衰えるや、眼前の敵へ猛攻を開始した。
「気をつけて! 洗脳装置とか!」
 ピエロの鎌を避け、清見が後ろに叫ぶ。
「っけぃ! こいつ等もらってくからな!」
「身体検査‥‥了解ですぅ!」
 丸腰となった2人の男を、我斬と小鳥が後方へ連れ出す。より早く接敵していれば全員助けられたかもしれない。だが村を狙われる可能性も高い。これが最良。戦争する上で、そう考えていくしかなかった。

●戦火再び
『こっちゃわんさと来てます。ご注意を!』
 雑音混じりに翠の声が届き、ケインはホール地下で神経を張りつめる。村民は北の間道から脱出しており、その入口も椅子等で塞いだ。伏兵に土竜がいたとして、もし蛇行して北へ向かうならここで張る意味はない。だが敵も何かしら気配を読む術を持っている筈。ならば、逃げる人に対して一直線に迫るのが普通だろう。
 ――守り抜く。それこそが私の道。
 壁際を歩き、明確な殺意を発する。少しでも気を引くように。そして、
 振動。遅れて横壁から敵が飛び出してきた。案の定、土竜。顔の真横からの敵が凶悪な牙を突きたてる。捻って致命傷を避けるケイン。さらに周囲の壁から数匹が現れる。
「意外に‥‥!」
『大丈夫か?!』
「アロンソくん、おっさんだって、なめないで下さい?」
 左手で右肩から引き剥がし、壁に叩きつける。それが地に着く前にケインは居合を放つ。紅蓮輝く剣筋が土竜を両断した。無形の位に剣先を下ろす。
「この先には進ませません」
 突進してきた4匹の土竜を相手に、ケインの蛍火が剣呑に光った。

 2度目の戦場となった村内でも銃声が間断なく続いていた。森の戦闘開始と前後するように南西から飛来した敵。南東の櫓から翠が撃ち続ける。アロンソも村長宅の陰に隠れて射撃する。数匹が墜ち、数匹が変わらず襲来する。それを櫓でなんとか受ける翠。
「そっちがマジでも、僕がマジになった方が怖いぜェェェッ!」
 一直線の強烈な弾幕が怪鳥の動きを先読みして展開される。軌道を変えようとする敵だが、なす術もなく自ら突っ込み地上へ落下した。翠はそれを見届ける事なく次の標的へ。
 上下左右。広範に渡る不詳の眼は、縦横から村へ接近する敵を牽制する。腕が痺れてきた。薬莢がバラバラと落ち、硝煙に包まれる。弾着が上がってきたところで停止、状況を観察する。
 翠の迎撃のおかげで無傷の敵は殆どいない。だが約10羽のキメラを相手に1人では重すぎる。アロンソも移動して応戦するが、手数と攻撃力が足りない。やられる危険は別にして、今必要なのは村を守る事。その意味で彼らは押されていた。
「アロンソくん、ホールにゃ入れてないだろうな!」
「ああ! だが拙い、人質班も来た。援ご‥‥」
 アロンソの視界に、森からやって来る小鳥と我斬の姿。後ろには翠の貸した手錠を嵌めた「2人の男」。それに気付いた瞬間、アロンソは急激に目前が白くなるのを感じた。勝手に動き出す足。掩蔽物のない中央まで進み、目の合った敵に銃を向け
 ガガガ、ァン‥‥!
「こうなると思ったよ! このばかちん! 君がヒートしすぎると僕の出番なくなるだろが! 協調性を保て!」
 櫓から駆け下りてきた翠が、その鳥を撃ち落とした。
「‥‥すまない」今度はすぐ我に返ったアロンソが南の物陰へ走りこみ「そっちも無事か?」
 人質の方を見る。怯えと救い。両方の感情の混じった表情をしているが、怪我はなさそうだった。
「すみません‥‥こんな事してぇ‥‥でも安全の為なのでぇ‥‥」
 依然手錠をさせたまま小鳥が引き、家に入る。外では移動を援護すべく翠が扉前に陣取り、次いでアロンソも加わった。
 屋内。男達を落ち着かせ、服の上から触って調べる我斬。口腔まで確かめ、爆弾等の存在すら疑う。
「そこまでしなくてもぉ」
「‥‥ま、解りやすい所に仕掛けてはないな。後は監視と援護か」
「村と森‥‥どちらにしましょうかぁ‥‥?」
 念の為に柱に括り付け、外を覗く。狙撃手2人が空の侵入者に合せて銃口を激しく動かしている。と、そこに
「皆、驢馬に注意して!」
 凛が駆け込んできた。

●クワドラプル・バトル
 真昼に響く蒼狼の咆哮。それが味方を鼓舞し、敵を怯ませる。絶対の意志を以て不可視の力に、清見はピエロをルベウスで押し込んでいく。
 大鎌と爪が金属音を発し、互いの肉体を掠める。跳躍。頭上の太い枝を利用して避け、回し蹴りから両爪を叩きつける。ハットがふわりと地に落ちた。
「道化なら人を怖がらせないでちゃんと楽しい事しないと!」
 崩れた敵を攻め立てる。鎌が体毛を削り、幹に突き刺さった。すかさず連撃を叩き込む。清見は獣さながらの跳ねる動きで、次第に敵を圧倒しだしていた。

 超出力が砲身を見事に断ち、巨体が傾ぐ。2mを優に超える巨体は覚束ない足を確かめるように数歩後退し、前を見据える。が、その時には既に
「吼える間も与えないっ!!」
 真上からの奇襲を敢行するロッテ。大上段からの機械剣がFFにぶち当たる。
 ズズ、と敵体内へ潜り込む剣。一瞬の限界まで刃を出し、直後に左手を敵の肩につくと、そこを支点に伸身前転する!
「耐えられるかしら?」
 耳元で告げるロッテ。左踵に装着した足爪を、遠心力たっぷりに振り下ろす。だが敵も素直にやられるわけはない。重い自身を後ろに倒し、巴投げのように飛ばしたのである。
 紙一重で爪は届かず、地に叩きつけられるロッテ。息が漏れた。巨大な拳に横腹を抉られる。
 しかし敵も完全な体勢ではない。ロッテはその苦痛にやや顔を歪め、それでも即座に反撃に出た‥‥!

「身分相応。解る?」
 光の屈折が少ないのか、妙に見辛い魔女。外套に包まれたその体に、百合歌の斬撃が炸裂した。次いで布斬逆刃によって性質を変えた袈裟斬り。とにかく接近し、迅速な撃破を。
 右斜前方に清見が敵を押し、隘路の同列右端にはロッテ。百合歌は左端に圧迫して魔女を追い詰める。
「凛さん、片付けたら私も援護できるから無理はしないで」
「うん、凛、みんなを信じてるから!」
 道の真ん中を通り、凛が後方に控える驢馬に向かう。
 それを見届ける間もなく魔女が短剣を突き出す。鬼蛍で受け、返す刃を振り下ろし。寸前、再度魔女が絶対零度を展開させる。まともに浴びる百合歌。だが剣筋は止まらない。深い踏み込みから脚を薙ぎ、伸び上がる勢いで中心線を斬り裂いた。物理の方が有効か。
 外套で実体を隠し辛うじて致命傷を避けた魔女は、至近から手首だけで短剣を投擲し後退する。ところが。
「Fine‥‥元には戻れないわ」
 足捌きによるまくり。短剣を避けながら魔女の背後へ回り、腕を横に払った。

 銃声。銃声。凛のS−01が空の敵の羽を穿つ。片方がバランスを崩した。好機とばかり凛の射撃が勢いを増す。
「降りてこないなら、凛が蜂の巣にするだけだ!」
 喰らっていない方が急降下してくる。姿勢低く回避を試みる凛。その時。
 敵の口から伸びる触手。敵は咄嗟に転がった凛を捕え、空へ戻る。
 骨が軋む、不吉な音。苦悶の声が漏れる。幸い棍棒を持つ腕は自由。とはいえ刻一刻と状況は悪くなる。だったら。
 息を止め、凛が乾坤一擲の突きを脇から後ろへ繰り出した。
『――■■!』
 触手が緩んだ隙に左腕を出し、S−01を間近から敵顔面へ放った。
 完全に解放される凛。突然の浮遊感。
 一瞬肝を冷やすが、敵は村に向かっていたらしい。空の旅もほんの数秒。低空から森の木々へ突っ込んだ。
「ッ‥‥た」
 衝撃に思考を停止させられるが、
 ――もう1匹がまだいた筈!
 即座に立ち上がり、すぐそこの村へ走った。

●辛勝
「近付かれても‥‥対応できるんですよぉ‥‥っいにゃ」
 滑空してきた鳥を蹴り返す小鳥。1つの家屋の周りに小鳥、翠、我斬、アロンソが拠り、数を減らしてきた鳥を迎撃する。他の家々まで時折攻撃され、真新しかった村が再び壊されていく。
 そこに全速力で飛び込んでくる凛。ほぼ同時に、南の空から驢馬が急襲してきた。
「やらせないから!」
 凛の放つ衝撃波が勢いを削る。合せて4人が集中砲火。見る間に驢馬は高度を下げ、そのまま力を失った。家の壁にぶち当たる。
 5人となり、主導権を握る傭兵。残る鳥達を1羽ずつ確実に仕留めていく。そして。
「これで‥‥締めですぅ!」
 誰の物かも判らぬ弾雨の中、最後の鳥が地に堕ちた。
 ホールも硝子が割れ、他の家も傷ついた。しかし、地上は半壊程度で撃退に成功していた。

 ガァン!
 隅に置かれたタルに土竜が激突し、果てる。攻撃したのはケイン。流石に息が上がるが、敵は個々では強敵ではない。地道に削る。
『無事、だな?』
「‥‥皆さん、逃げ果せてる筈ですよ」
 自らでなく、村人を第一に報告するケイン。重心を低く、揺らめくような体運び。不退転の覚悟で薙ぎ払う。左からの突進を腕で受ける。追撃してくる敵と交差気味に反転、勢いを乗せ袈裟に斬り捨てた。残り1。
「死ぬわけにはいかないんです!」
 牽制からの流し斬り。唐竹の一太刀が、戦闘の終了を合図した。

 森の3人が最後の一撃を放った。
 百合歌の刀が魔女の首筋を撫で、すぐに致死量の血が噴出す。次いで清見の爪が道化を屠り、最後に
「無に帰せ‥‥ラ・ソメイユ・ぺジーブル」
 巨体に対するロッテ。斬撃から右足刀蹴りで崩し、流れるような左回し蹴りを繰り出した。手応え。胸部を貫かれ、巨体はようやく地に伏した。
 強力な3体を正面、その隙に伏兵で村を。その戦術は、寡兵ながら一騎当千の傭兵達に破られたのである。
「村は‥‥無事みたいね」
 百合歌が無線の声を聞き、独りごちた。

●道標から決着へ
「貴方達は何処から来たのかしら? 操ってるのは何者か、教えてくれない?」
 百合歌が拘束を解かれた2人の肩に手を乗せ、柔らかく微笑んだ。澄んだ声が心を揺さぶる。
「助けたいの。皆を」
 目を潤ませ、嗚咽を漏らす2人。しばらくして口を開いた。
 曰く、グラナダの中央施設より外れた場所で、眼鏡の男に従っていた。普段は基地の土木作業等に従事していた、等。
「これから色々詳細も聞きたいな」
「人質がいるなら‥‥助ける必要もぉ‥‥?」
 呟く我斬と小鳥。が
「そういえば‥‥アロンソさん、成長してるんですねぇ」
 思考がくるくる変わる小鳥である。そんな小鳥に突っ込み、ロッテは南を見据える。
「待っていなさい‥‥必ず、私達は其処に行く」
 大詰めを予感させる声が、秋空に溶けていった‥‥。

<了>