●オープニング本文
前回のリプレイを見る 青年が狙撃眼、隠密潜行を発動させ、森の南側の境界へ歩を進める。右手にはいつもの得物、懐には西欧中心の見慣れた世界地図と国内地図。そして左手には、現在入手している敵情報の備忘録。
「‥‥少なくともここより南のどこか、か‥‥」
先日傭兵仲間に依頼し、追跡してもらった情報によると、モグラ穴は確実にラ・マンチャ南東都市アルバセテから伸びており、もう1つのルートの方は最期、不確かながらハエン方面に向かっていたのではないか、との事。
スペイン南部はここ以上にバグアの動きが活発らしい事をふまえると、どちらに『ここを狙う敵本陣』があっても不思議ではない。綿密に相互連携ができていないところを見ると、おそらく本陣出発後に偶然相手キメラを発見し、作戦に組み込んだのではないだろうか。
「‥‥俺にバグアを殲滅させる事はできなくとも、せめてこの影だけは‥‥!」
地平線の向こうを見晴かしながら、手元の備忘録に再び目を落とす。そこには先日の聞き込み結果と、それから新しく入ってきた情報も多少書かれていた。
『件の少年が上空に小鳥を伴なって北の村、南南東の公園に頻繁にいた』
『パンをやっても反応は薄く、親の顔も印象に残らない』
『言葉は南訛り、ムスリムではないか』
『PN作戦に至る事になった直前の敵侵攻の為、地中海方面から避難民が流入していた』
『この辺はアルバセテ、アリカンテから北北西に逃げてきた人間が多く、付近の町で情報交換したのちにさらに移動していった(アリカンテから一旦真西へ逃げた知人と連絡が取れず心配だとしきりに嘆いていたらしい)』
『アルバセテには10m程の人型の機械がある』
『アンダルシア地方から北上してきたという眼鏡の聖職者が、住民は逃げたか捕まったかでハエン全体が閑散として、聖堂や砦に敵が入った、と言っていた』
これらの情報も、先日襲撃された際に諦めず再度じっくり少年について尋ねようとした傭兵仲間の機転のおかげだった。感謝しつつ、考えを巡らせていく。
まずこの2都市。可能性を限定しすぎるのは拙いが、ハエンならば証言に出た場所、あるいは宮殿等だろうか。アルバセテなら聖堂等と、その人型か。さらにはこの2つの街以外に本陣、という場合もある。が、その場合もきっとどちらかに手がかりはある筈‥‥。
とはいえ、この情報だけでは反攻作戦骨子にするには弱い。
「‥‥あとは仲間が来てから、か」
頼りになる先輩が少しでもいれば、実際に偵察に行く事だってできる。
一度双眼鏡で東から南、そして西の彼方を見渡す。しかし何も発見する事はできず、そのまま森の奥へ入っていった。
村へ戻ると、まず報告の為に村長宅を訪れる。以前半壊した村長宅は既に直り、その新たな家の形ももはや見慣れつつあった。扉に手を掛ける。そして引こうとした瞬間、中から声が聞こえてきた。思わず手を離してしまい、扉も開いていない。意図せずして中の声を漏れ聞く形になってしまう。
『早く、落ち着きたいものじゃな』
『村長、お身体に障ります。無闇に出歩かない方が‥‥』
咳き込む音。
何故か、足が動かなかった。早く入ってさえいれば、自分も村長の身体について訊くなりできる筈なのに。
『勝手に老人扱いするでない。みな戦っておる。それにじきアロンソらが何かやってくれるに違いない』
『だからこそ、本当に大事な時の為にも今は‥‥』
『‥‥村にとって、ここが胸突き八丁じゃ。わしが姿を見せんでどう‥‥』
話の途中で、扉から離れる。
この森に隠れ潜むようになってどれ程経ったか。その頃から村長をやり続けているのだ。精神的にも肉体的にも、ずっと続けられるわけがない。
――直接的な脅威を少しでも取り除き、早く今より安心させてやる‥‥!
青年――アロンソ・ビエル(gz0061)は傭兵の到着を迎えに行った。
●リプレイ本文
「ハエンの周りはほぼ敵の‥‥それでキメラは‥‥うん、ありがとうございます」
諫早 清見(
ga4915)が雑音激しい通信を切る。
「少しは安全そうなルートは解ったよ。あの鳥型はあまり聞かないみたいだから、指標にはなるかな。それとやっぱりハエン周辺は完全に敵地みたい」
清見が車に乗り込む。
「アロンソ、この間は手伝えなくてごめん。凛、その分も頑張るから!」
「凛サン自身の戦いだって大事だ。応援してる」
別々の車へ乗車際、勇姫 凛(
ga5063)が。そして出発した。
大平原。ラ・マンチャを2方向へ2台の車が走る。憎めない主従像に見送られ、2台は慎重に南下する。途中HWが高高度を哨戒していたが、停車しているとそのまま通り過ぎた。KVに優先順位があるのか。
地図と見比べ程よい位置に停車。木々が茂り斜面の窪んだ場所に、迷彩ネットを被せ車を隠して準備完了。
かくして少年を直接使い村に目を付けた黒幕を探すべく、ハエン・アルバセテ両方に接近したのである。
ハエンA:ロッテ、小鳥 B:透夜、清見、アロンソ
アルバセテA:翠、凛 B:百合歌、我斬
「お尻が‥‥痛くなりましたぁ」
偵察の始まりにしては気の抜けた声。不安定に歩く幸臼・小鳥(
ga0067)に、同乗の4人は苦笑せざるをえない。
「何をやってる‥‥行くぞ」
月影・透夜(
ga1806)が小鳥の後ろ襟を掴んで持ち上げる。
「私達が探す敵‥‥さて何処に潜んでるのかしらね」
「‥‥黒幕、早く見つけなきゃね。それに違う敵だとしてもスペインの損にはならないし」
小鳥の着衣を整えつつ言うロッテ・ヴァステル(
ga0066)に、清見が前向きに答える。
「今日明日はハエン周辺調査と夜の状態把握、ね」
「了解」
アロンソが緊張したように言うと、班に分かれ、オリーブを横目に情報収集を始めた。
ほぼ同時刻。
「ここに、あの子を利用した奴がいるかもしれない‥‥絶対許さないから!」
アルバセテ郊外、稜線に隠れる形。僅かに覗く街の姿を見、凛が気を吐く。
「ま、今から力入れても明日の夜までは無理はできない。適度にいきましょうや」
それが、敵地に潜る上である程度必要になる。翠の肥満(
ga2348)が普段と違う携帯銃を懐から取り、器用に指で遊ぶ。そんな2人の後ろを、智久 百合歌(
ga4980)は地図片手に歩き、脳に焼き付ける。一旦顔を上げ、日射しを浴びた。
「信じましょう。自分達の力を。何かが掴めると」
百合歌が歌うように言うと、何故か頭が軽くなるから不思議だ。
「顔とか少し汚した方が避難民っぽく見えるかな」
横で龍深城・我斬(
ga8283)も地図に目を落としつつ考え込む。
「しないよりはした方がいい、わよね」
「マスク代りは土、か」
翠がやや寂しげに。と、凛が率先して乾いた砂を取り、頬に擦り付け、
「いこ。凛は10mの人型って奴の痕跡とか、見てみるから」
夢を与えたい。だからこそ子供を駒にする敵は許せない。凛が秘かに闘志を燃やす。
「それが本当にゴーレムなら、会いたくないわね‥‥気をつけて。ひとまず1800時に――」
別班の無事を、信じる。二手に分かれる。調査開始。
「避難民が情報を振りまいているようにも感じなくはないけど‥‥百聞は一見に如かず!」
飛び込まなくては始まらない。百合歌は我斬と共に西回りを目指した。
●初日
「聖堂は気になるけど‥‥街外からじゃ少し辛いわね」
双眼鏡を覗き、百合歌。郊外に点在する建物は大半が倒壊していた。それらを警戒し、利用して見ていく。少しは街中より高さがあり、まだ見やすい。
「一般人の通行もないな。逃げたか捕まってるか、家を出られないのか」
我斬は人の動きを調べようとする。市内は見える範囲では誰もいない。だが荒廃していない点で人自体はいるようだ。空も警戒し、視線を戻す。が、ふと。
「‥‥百合歌。南」
反射的に屈む。2人がそちらを見やる。郊外、南方向には山があり、街道は標高を増していく。ハエン方向への道と、地中海への道。
「人‥‥避難民、いえ」
「強制労働、て事も‥‥?」
主に地中海への道を、疎らながら人が歩く。アルバセテから出る方が多い。ハエンには稀に出る者がいる程度。遠目では自我の有無については解らない。百合歌が顎に手を当てる。
「あの人達の見張りがいるかもしれない。ここで様子を見ましょう」
ほぼ山に囲まれたハエン。すぐ傍に丘が隆起し、そこに屹立するサンタ・カタリーナ城。多少崩れているが、特に壊す意図はないらしい。歴史を感じる城に日没間際の朱が差し、一旦拠点に集合した5人の目にも遠く映る。
「さっき貸した弓‥‥今のうちに少し‥‥練習しましょうかぁ?」
夕食兼報告に入る前に小鳥がアロンソに申し出る。偵察する上で、少しでも隠密性の高い小型弓を使えた方がいい。断る理由もなく、集合した直後に訓練しようとしたのだが。
「狙う時はそこの‥‥っひぁあぅ?!」
何故か、小鳥が躓いた。指導すべく近付こうとした瞬間。丁度アロンソの腹部にしがみ付く形で。
「ひん‥‥って痛くな、い‥‥っはぅ!? すすすみま‥‥っ」
気付くと同時にロッテの方へ一目散の小鳥。
「何してるの‥‥」
呆れ顔のロッテである。
「いや、弓を‥‥」「全く‥‥」
と、ロッテが思い出したように消臭スプレーを数本荷物から出して透夜に渡した。感心して頷く透夜。
「警戒しすぎる事はないしな」
「夜の様子を見て、明日昼間にもう一度調査したら‥‥」
「頑張ろうねっ」
火も点けられず暗くなりがちな気持ちを、清見が盛り上げる。
本番は、30時間後だった。
●2日目・潜入――ハエン
さらなる調査で、時折北西から人が来ている事を発見した。彼らはどこへ向かうのか。昨夜の様子見で巡回する敵の動きは多少解っている。ならば虎の穴に入るのみ。
「皆無事で、無理はするなよ。村でまた会おう。‥‥ミッション開始だ」と透夜。
0130時。2班は目標に接近した。
「小鳥、今日は絶対に転ばないようにね」
「が、頑張りますぅー‥‥」
市内へ。早速躓きかけ、ロッテが体で受け止める。
「へむ‥‥ぁ、怪しそうなもの‥‥キメラ‥‥何かぁ‥‥」
隠密潜行して誤魔化す。
ロッテが暗視装置越しに警戒し、陰から陰に素早く動く。足元の小石には気をつけ、左右確認、左腕を振り小鳥を呼び寄せる。暗い。闇夜の街を駆け抜ける。小鳥は静かに走り、空を警戒。村で見た鳥型がいれば、ここが有力になる反面、発見されやすくもなる。
「何か‥‥決定的な証拠が‥‥あるといいのですがぁ‥‥」
気配はすれども影はなし。上空からけたたましい鳴声が響き、陰に伏せる。2。3。鼓動がやけに大きい。
「まずは聖堂に‥‥」
「公園は‥‥逆に危険かもですねぇ‥‥」
街路を抜ける。石造り。閑散とした冷たさが、敵地だと認識させられる。分かれ道をさらに越える。獣型らしき遠吠えが辺りに木霊した。
0335時。あっという間に感じる。
と、眼前。曲がった道が暗視装置に真白く映る。光源。
「人影は‥‥ありますかねぇ‥‥」
ロッテが装置を上げ、肉眼で角へ。屈み、低い位置から覗く。
「聖堂‥‥南口へ回ってみましょう」
細い道から、暗殺者の如く。再び、角。小鳥が空を警戒するうちにロッテが意を決して顔を出す。
「鏡騎士に、人の集団。聖堂からではないようだけど‥‥昼に流入した人と関係が‥‥?」
それが、光を通り過ぎ南に向かう。次第に闇に呑まれていく。一塊の黒となった。
「どっちを調べますかぁ?」
「外。追うわよ」
事前準備が効いたか、すんなり事態が進む。街路をどんどん南下する。が。
エンジン音。光がこちらに近付いてきた。
「隠れて‥‥!」
ロッテが小鳥を押し倒すようにして看板の裏へ入り込む。人工音が付近を通過、やや先で停止した。体を起こして観察してみる。
それはトラック。人がそれに乗せられる。洗脳済か否か。車に詰められ、発進した。これも南。
――この状況。敵本営があるとは思えない。つまり‥‥。
「脱出時間を考えると‥‥潮時でしょうかぁ‥‥」
0355時。確かに、深入りは危険だった。
丘の城に向かう3人。透夜が先頭、清見が後ろを警戒し、真ん中でアロンソが暗視装置越しに広範に様子を探る。一旦街に入り、丘に近付く。角では隠密に徹したアロンソがまず覗く。
「解ってると思うが、ここで何を見ても今は耐えろ。ぶつけるのは」
――もう少し後だ。息を殺し、透夜。いつもの槍から夏落に替え、潜入を優先する。指の紅玉が僅かな光を吸収する。
「宮殿も行けるといいけど‥‥難しいかな」清見が何か思案するように「にしても眼鏡の聖職者さん、か。少し気になるかも」
丘に差し掛かる。これからは遮蔽物も限られてくる。中世的な石畳を月明りが照らす。
「どうしようか。正面だと危険かも‥‥」
「まず丘を回ってみるか。今夜の警備状況でどうするか決める」
透夜に従い、崇めるように周囲を移動する。意外と険しい。見上げると神々しく城が夜空に突き刺さり、その付近を鳥が舞っている。遠目に判り辛いが、一般的な鷹のようにも見える。
「城内は流石に無理だろうな。出入りする者だけでも把握しておくか」
1時間かけて周囲を調べる。人影はない。どこかに集められているのか、自主的に家を出ないのか。と言って家を調べるのは危険すぎる。
「厳しいのはやはり城か。街全体を広く支配してるなら警備といってもこの程度かもな」
透夜の視線の先には城の正門。砦だけに接近し辛い。
「赤虎とか巨人とか見えたらいいんだけど」
清見が月夜に似合う雄々しい腕を翳し、空を見る。
「俺が隠密潜行で少し大胆に行っ‥‥」
「馬鹿やめろ‥‥!」
透夜がアロンソを組み伏せたところで、何かが近付いてきた。張り詰める空気。そのまま窺う。
「車、かな」
街中から来ると、登り始める手前で停車した。しばらく待つ。誰かが城から下りてくる。毅然とした姿が虐げられた人らしくない。その影が車に乗り込む。顔に何かが光った。と思うや、確かめる間もなく車が出発していた。
「‥‥洗脳兵?」
「だが偉そうだったな」
もしや洗脳者を多少なりとも従える人間だろうか。車が消えていった南に目をやる。それに従うように、空の鳴声が動いていった。
●同・潜入――アルバセテ
「暗い中、明り無しの潜入調査は辛いよな。徐々に目を慣らしていくしかないか‥‥」
我斬が腰に佩いた菖蒲に触れ、次いで懐の短剣3本を点検する。百合歌は時計を見、リングをひと撫で。自然と安らげた。
「ルートも練った。大胆に行きましょ」
「‥‥ほんと、ギャップだよな」
クスと微笑む百合歌に呆れつつも、周囲に気を配る我斬。
街は静まり返り、虫の音もない。暗黙的に音を出してはいけないような雰囲気。そんな中を2人が駆け抜ける。角から角へ。生温い風が頬を撫でる。すぐ傍にも敵がいそうな気配が、脳をじわりと締め上げる。
「流石にあからさまに怪しい建物とかは無いか。いっそキメラが街中を巡回してれば尾行する手もあるのに」
嘆息する我斬。だが足と意識は止めず公園を見ながら、細道へ。中腰で走る。聖堂が見えた。
「さて」
目を細めた時、中からすすり泣くような声が聞こえてきた。
「――向こうにどれ‥‥送れば‥‥!」
「‥‥送る?」
やや反響して聴き辛い。もう少し集中しようとした、その時。
パァン!
東から、渇いた銃声が鳴り響いた。同時に周りの気配が膨らむ!
「警告はもう少し早くしてほしかったわね‥‥!」
百合歌と我斬が示し合わせた道を駆け戻る。目前に飛び出す土竜。百合歌が鬼蛍を振るって衝撃波を放つ。すれ違い様に斬りつけ撃破。続々と集結してくる敵。
「そりゃ地中にこんだけいたら気配も散漫になるッ!」
左右から迫る土竜を我斬が両手の刃で牽制する。角を曲がる。直接北でなく、一旦西へ。まずは街を出ねば。さらに後ろから来た気配。菖蒲を逆手に、回転して薙ぐ。ついでに懐の短剣を投擲して後続の動きを僅かでも躊躇させる。
「邪魔よ。退きなさい!」
闇を散らすが如き疾駆。百合歌が突破口を拓き、我斬が後ろ240度をフォローする。2人きりの敵陣突破。腕を、脚を敵の爪が抉る。肉の露出が火傷のように痛い。だが構っていられない。まずは広い郊外へ。敵は穴を掘る分、移動が遅くなるのだから、前から現れさえしなければ撒ける。
「資材か何かを送る為の前線基地。おそらくここに大物はいないわ!」
百合歌が走りながら考えを披露する。そしてようやく、建物の森が途切れた‥‥!
人型の正体は案の定ゴーレムだった。それを中心に調査に出たのが翠と凛。昼のうちに、郊外に足跡がないか辿っていたのだが、微かに南東から街に入ったような跡があるのみだった。
「虎穴に入らずんば、と言いますからね。僕にぴったりだ」
「うん。凛、絶対見つけるから‥‥!」
2人は先に郊外から南東に移動する。疎らな建物を目標にして前進。翠が隠密潜行。昼間見た景色をなぞる。足跡発見。なんとか街に入り込む。
「人型の近くの建物とか気になる‥‥誰かいないかな」
凛が進みつつ呟く。
「この時間に出歩くバカは話しかけていいものか迷いますがね」
「あの子の怒られる、て言葉。一瞬家族の事思い出したのなら、捕まってる人の中に似た人がいないかと思って」
「フムン、あり得ない話じゃない」
そういう思考を広げるのは面白いな。返す翠は、真綿で絞められるような空気を敏感に感じていた。
「と‥‥そこら中に敵がいそうなこの快い鈍痛。懐かしいな」
言うや、袖仕掛から牛乳を取り出し一口。これが翠流の本気だった。
「待って」
凛が制止する。人型に近い街路。件の巨体はすぐ先に見えたのだが、それより付近の道に転がっていた塊に目がいく。
「らぁによ、きめらとかいっれさ」
酔っているのか、声が高い。
「返して‥‥私の! 私の子らのッ!! 何で連れっ」
女がむせび泣く。聞き込みしたいところだが、流石にこれは拙い。
「一旦別の所から回って行きましょう」
翠が提案した刹那。土が女の周囲に隆起した。そこから土竜が現れ爪を‥‥いや、女を睨付けるだけ。無闇に人を殺さない支配なのか。だが安心できない。彼らはさらに辺りを見回し索敵しだす。勘付かれたか。
「これは偵察どころじゃない、か‥‥!」
急いで引き返す。南東へ。女のせいで俄かに騒がしくなる。
「凛が蹴散らすから!」
割れた石畳が盛り上がった瞬間、獣突でこじ開ける。後ろからも追ってきた。
こうなれば別班にも早く報せた方がいい。翠が振り向き様、敵に発砲する。2発。だがこれ以上は自らが注目されすぎる事を考え短剣に替えた。走る。走る。
「子供を連れていくって言ってた‥‥!」
どこに。南?
凛が怒りをぶつけるが如く突き、無事に街を抜ける。
いよいよ敵正体に近付いてきた実感。2人は車に戻るべく、速度を上げた。
上空、闇に飛ぶ狩人に気付かぬまま‥‥。