タイトル:インテンス・ブルーマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/17 00:18

●オープニング本文


「はい、ええ、はい、それはまた‥‥。ええ、ええ、なるほどー」
 瓦礫の積もった町で、若いUPC職員が本日何十度目か数えるのも止めたくらいの適当な相槌を打ち、分かりました近日中に対処致しますーと個別相談の列を消化していく。
 イタリア、半島南部。
 バグア軍に一時蹂躙され、欧州軍が力で奪い返した地。だからこそ、敵が引き上げ、軍が戦線を再び敷いたその後に残ったのは、なかなか悲惨な町の姿だった。住民は「キメラ、地中海より上陸!」「戦線後退!」「イタリアの終焉‥‥!!」と新聞に文字が躍る度に次々退避していき、大半は無事奪還後に戻ってきたのだが、以前の穏やかな町の姿は戻らなかった。その破壊の半分以上が人間側の攻撃によるものというのが、また複雑な心境にさせるのだが。
 そしてそのような住民に手を差し伸べようと、UPC軍も戦災復興を称して作戦終了と同時に各地に人員を派遣していた。
「次の方どうぞ〜」
 仮設テントで職員が気のない声を発すると、今度は老婦人がやって来る。いや、職員にとっては「今日もまた」やって来た。一昨日この仕事で町に着いて以来、3日連続。前の日など朝昼晩と来ていた。
「‥‥お願いしますお願いします、私の指輪を探してください‥‥」
 上品な、まさに大事にされて育ち、良い家庭を築き、本来ならばあとは孫の人生を楽しみに幸せな余生を過ごすだけ、というような婦人が泣きそうに嘆願する。職員は呆れたように息を吐くと、
「あのねおばあちゃん、我々にはそれよりも今しなければならない事があるんですよ。指輪はご家族で探せるでしょ?」
「でも‥‥」
「大体そんなに大事なら、どうして持って行かなかったんですか」
「それは、娘がいきなり、用意もさせてもらえなくて‥‥」
 しゅん、と。きちんと立てば曲がっていない背中が、非常に小さくなる。それに職員も激しく良心が痛むが、そのような些細すぎる事を彼の独断で手伝うわけにも、上に話を持っていくわけにもいかず。結局今日も断るしかない。そして断ると婦人は泣きそうな顔のくせに涙も流さず、とぼとぼと仮設住宅に帰るのが常だった。
「‥‥‥‥、‥‥どんな指輪?」
「探して、くださるの‥‥?」
「‥‥いえ、私自身は動けないので、傭兵に。最近別の街では突然残っていた敵が襲ってきたと報告もありますし、警戒ついでに頼んでみましょう。ところで」
 お金、いくら持ってますか。職員が尋ねる。
「? 外国の銀行に数億と、瓦礫の中に壊れていないものがあれば‥‥」
「ちょッ‥‥どっかでまた買え! てかここ引っ越せ!」
 事も無げにのたまう婦人に、気付けば職員は突っ込んでいた。
「いえ、離れるわけには‥‥」
「ッ‥‥何で、ですか?」
 気を持ち直して尋ねる。
「ここは夫が、家族が戦ってきた地ですから」
「‥‥指輪も、旦那さんに?」
「はい。‥‥生涯でたった一度、私の誕生日に貰った‥‥」
 その時を思い出すように柔らかい微笑み。目尻に雫が光る。祖父母を思い出し、不覚にも職員まで泣きそうになった。
「‥‥それで、どんな指輪?」
 はぁ、と心なしか先程より優しく、職員。
「はい‥‥」
 婦人は既に用意してきていたらしい、絵まで描いてある画用紙を取り出して詳細を伝える。
 それは青いダイヤ。小さいながらもファンシーインテンスとランク付けされた、透き通った美しい青のダイヤが乗った指輪だった。
「なるほど‥‥どの辺にあるか分かりますか?」
「全く‥‥一応、本館の東側の衣裳部屋に保管していたのですけれど」
 ぽかん、と職員。何か、自分と随分かけ離れた単語が聞こえた気がした。
「‥‥‥‥えっと。お宅があったのは、どの辺ですか?」
「その辺の瓦礫全てですが‥‥」
「‥‥‥‥‥‥、今、ウズ高ク瓦礫ガ積モッテル、ソコ一帯デスカ?」
「はあ」
 ふらり。自らの矮小さを知ると同時に、傭兵に同情せざるをえない職員だった。

 ◆◆◆◆◆

 元、邸宅。
 瓦礫が強風に煽られ砂埃が舞う。ぱらぱらと山から小石が落ち、山の隙間から暗い奥に消えた。
 カン、カン。小石が何かに当たる。
 ヴ――‥‥‥‥。
 低い再起動音と共に、瓦礫の奥で何かが光った――――。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 傭兵の8人がその町へ警戒の為に派遣されてきた時、思いがけない緊急依頼を受けた。
『指輪を探して!』
 正式にULTを通したわけではないが、依頼人の報酬もある。これも戦災復興の一環。こうして8人は山に挑む事になったのである。

――――おばあちゃんの思い出みっしょん、スタート!――――

●クランブル・ストーン
「思い出の品ならばちゃんと届けてあげたいわね‥‥」
 緋室 神音(ga3576)が向こうの瓦礫を見て。その隣で黒髪を押さえつつ御山・アキラ(ga0532)が、
「手間はかかりそうだが、時間をかければそのうち見つかるだろう」
 と萎える事もなく述べる。
「それにしてもここ一帯とは‥‥重労働だな」
 リュイン・カミーユ(ga3871)が独りごちる。
「良いトレーニングよ。ジムで無意味にやってるより断然、ね」
 鯨井昼寝(ga0488)の前向きな発言に「頑張るとしよう」とリュインが返した。
「だがこりゃちょっとした宝探しだ。‥‥ばーちゃんの為なら構わねぇけどな」
 近くの石を拾い、後ろに投げる鈍名 レイジ(ga8428)。
「ああ。まさに、宝探しだ。青のインテンスだからな」
「ふむ、レアモノに弱い日本人ですが、何か問題でも」
「‥‥? 全く問題はないのだけど」
 伊達眼鏡をくいっとのたまう鈴葉・シロウ(ga4772)に真面目に突っ込む神音である。一方で、
「思い出の指輪探し、か。レディの頼みは聞くのが紳士ってもんだ」
 にへらとエミール・ゲイジ(ga0181)が言うと、何気なく並んでいた伊佐美 希明(ga0214)がやや口を尖らせ押し黙った。
「ん、どうかしたか?」
「‥‥別に。なんでもない!」
 じゃあ始めよーぜ! と他の仲間に声をかけ走っていく希明。なんだかんだで皆に優しいエミールを誇りに思うと同時に、自分だけの紳士であって欲しいとも感じてしまう女心。だが先の欧州戦等で彼には弱い所を見せすぎた事もあり、こんな時にまで言えない。複雑だった。

 8人はまず、倒壊を警戒して周囲を立入禁止にしてもらう。他の街の事もあり、受理される。また、
「疑いたくないが‥‥指輪に限らずこの邸から盗もうとする奴も出てくるだろうかもしれない」
 とのレイジの経験に基づく言葉も、UPCの小隊を動かすに十分な情報だった。
 そうして周囲から人を遠ざけた後、8人で邸宅東エリアへとやって来た。
 唖然。そこに立つと改めて広さが解る。ひとまず邸宅を地図上で北、中央、南に分け、さらにそれをA、B、Cブロックに分ける。それでも広い。が、
「さあ、ちゃきちゃき動いて、早いトコロ見つけちゃうわよ!」
「ええ、キバって指輪の物語・失せ物探し編です。私は女性の期待には応えますからね、全力で」
 昼寝とシロウが早速張り切る。それぞれ
「単純作業はダメ。速度、正確性‥‥ベストの為に考え続けないと」
「あの絵でも美しかった。ふふ、見るのが楽しみですねぇ」
 と目的は違っていたが。
「じゃ私は全体警戒しとくよ。瓦礫の中に敵がいる事も考えられるしね」
 希明が南に向かう。それを見送りつつエミールが
「なら俺は北から見て回るか。仮にもスナイパーだしな。目は良い方だろ」
 と北へ歩いていった。
「では私達も始めようか」
 アキラがパンと手を叩く。それで近くの山に手をつけようとした時、
「ん‥‥気のせい、か?」
 リュインが何かを感じ取る。気配のような、直感。だがこの膨大な山の前ではどこが怪しいかも判然としない。気に留めながらも、普通に中央Cでの作業が開始された。

●ブリリアント・ジュエル
 かくして2時間。1番巨大だった中央Cの瓦礫を大体調べ終える。横に進むとどうしようもなくなる為、ひとまず衣裳部屋のあった辺り幅20mの縦のライン。次いで南下班と北上班に分かれて探索開始。だが。
「‥‥見つからんかったら呪う」
 南班の昼寝、神音、リュインのうち、早くもダレてくるリュイン。元々豪快なだけに、長時間の単純作業は嫌いだった。
「確かにね。指輪に注意して瓦礫を動かし続けるって、意外と精神面も鍛えられそうだわ」
「ダウジングとか、できれば良かったかも‥‥」
 訓練として充実そうな昼寝と、科学的と言えなくもない提案をする神音。だが3人共に口と同時に身体も動かし続ける。
「というか、そういうモノは保管せず身に着けておかんか!」
 妙な方向に矛先がずれていくリュイン。
「あいつも‥‥」
「アイツ?」
 聴きつけた、と昼寝が擦り寄る。目が泳ぐリュイン。
「んあ、な、なんでもないぞ全く以てな」
「体温上昇、挙動不審‥‥」
 じー。神音まで視線はリュインに向く。1、2秒‥‥。
「ッええい我を弄るな汝らは働け!!」
 耐えられなくなったリュインが銃を抜いた所で、昼寝は嗜虐的な笑みと共に離れていく。再び作業効率が戻る。と、その時。
 ガァン‥‥!!
「あの光‥‥」
 神音の手元と背後、同時に何かが起こった‥‥!

 北班のアキラ、シロウ、レイジは、案外ほのぼのと瓦礫に向かっていた。現在は中央A。南も同程度進んでいるとして、それでもまだ半分近く探索箇所は残っているのだが。
「‥‥‥‥」
 じと、とアキラ。相手は、
「大丈夫ですよ? スマートにこなす時はこなしますので。エロスなんてとんでもない!」
 大好きですけれども! 何故か覚醒、白熊となって主張するシロウである。
「その割に御山さんの方をよく見てるな」
「ま、まさか男に裏切られるとは‥‥男ならッ、男なら――!」
「そこ。うるさいぞ」
「「こいつが!」」
 アキラのツッコミにハモる2人。あからさまにアキラが嘆息し、
「名古屋では墜落したワームが再起動した事がある」
 気を抜くな。言いかけたまさにその瞬間。
 ガァン‥‥!! 背後、中央Cで盛大な音が響いた。

「つーかでかすぎだろ‥‥家」
 瓦礫の山に腰掛け、エミールが周囲を見晴るかす。にしても。とりとめもなく考える。
 指輪、か。そのうち俺も買ってやりたいな。ま、その為にも。
 彼が立ち上がった時、轟音と、そして見慣れた姿が映った‥‥!

●ランニング・メタル
「思い出の指輪か‥‥」
 ぶらりと南から北へ警戒しつつ、希明が独りごちる。
「私だって、どんなに危険でも、難しくても‥‥」
 って食べ物しか貰ってない?! 希明が改めて思い返した時、突如すぐ傍で瓦礫が盛り上がった。耳を劈く大音声。砂煙が舞い、瞬間的に希明と外界を遮断する。身構える希明。腕を翳して見る。それは‥‥、
「こんな事もあろうかと‥‥ってね!」
 その傷だらけのゴーレムを前に、生身の希明が立ちはだかる。仲間はおそらく2ブロック上下。つまり。
「こっちだウスノロッ!」
 信じて独りで引きつける!
 希明が敵の足下を潜って瓦礫から離れる。敵の腕が叩きつけられる。でかい。交差した腕で辛うじて致命傷を避ける。肺の息が漏れる。倒れるように離脱。片膝で弾頭矢を番える。
「ッ、邪魔なんだよデカブツ!」
 対キメラ以上に引き絞った弦で強力な矢を放つ。敵膝関節に爆発。連射。敵がよろめく。その隙に近くの瓦礫に隠れる。がそれを見ていたのか、瓦礫ごと蹴り上げてきた。横跳びに逃げる。両脚に瓦礫がぶち当たる。それでも再び2連射。敵右腕、顔面で小爆発が起こるが、勢いは止められない。
 やば‥‥ッ!
 紅く染まった脚を動かす。しかし機動力はどうしようもない。ゴーレムが怒りに任せて両腕を振り下ろす!
 ガァン!
「くたばれ化物!!」
 突然の銃弾が敵頭部を穿った!

 その光景を遠めに見た瞬間、エミールは走り出していた。すぐそこで作業していた北班の3人とも合流、2ブロック先を目指す。
「先行します!」
 まるで変身したシロウが一気に速度を上げる。中央Cでは砂煙が薄く漂い判然としない。敵の足下で影が動いた気がした。
「1人かッ!? やべェな」
「希明が簡単にやられるか!」
 レイジに思わずエミールが声を荒げる。だが途中で無意味さに気付き両手に小銃を持った。
「まだ無事のようだ。ゲイジ、お前は後方から射げ‥‥」
 アキラが敢えて忠告するが、ああ解ってるさと彼は乱暴に応じた。そしてアキラ、レイジが再度全力移動に移る。
「解ってるっつーの。俺の、体力の無さくらい‥‥!」
 エミールが大きめの瓦礫に跳び乗って両腕を構える。
「大盤振る舞いだ‥‥大人しく全弾喰らいやがれ!!」
 2つの銃が同時に火を噴いた!

「ンで早速ってわけね‥‥ッ!」
 昼寝が白煙の上がる北を向いて不敵に笑う。同時に、
「発見したわ」
 と神音が少なくとも表情には感慨など出さず、報告する。その手にあるのは砂を被った指輪。神音が拭くと青い「征服されざる」アダマスが姿を現した。残念ながらリング部分が一部欠けてはいるが‥‥。
「ふむ。命は消えていないという‥‥」
「リュインそれ持って退避ッ! さあ、行くわよ!!」
 褐色肌となった昼寝が言う。リュインは眉がぴくりと動くが、それに従った。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
「我が戻ってくるまで獲物は殺さんようにな」
 昼寝はさあね、と答えるや、神音と共に駆けていく。
 贈り物、か。リュインは2人を見届ける事なく、瞬天速で別方向に跳んでいった。

●グレイ・ジャンク
「白熊の参戦ですよ!」
 銃弾が敵の気を引くと同時に、シロウが横合いから足首に槍を突き刺す。その隙に敵正面にいた希明が北へ後退した。シロウはさらに槍を回し、
「必殺、今日の必殺技。ケイブルク!!」
 布斬逆刃を付した槍で突き上げる。が大して違いはないように見える。背後からの攻撃に移る。
 その間にアキラ、レイジも到着。アキラが超機械で敵AIに損傷を与え続ける。レイジは付近の瓦礫に上りつつ、
「来いR−01! なんて、な‥‥!」
 やるしかねェか! 少しでも高さを合わせ、両手剣を振りかぶる。紅く輝く。敵が身体を回して腕を振る。しかしレイジは、
「イっちまえ!!」
 音速の衝撃波が飛ぶ。それが敵に届くのと腕がレイジを打ちつけるのは同時だった。吹っ飛ぶレイジ。だが身体を弓なりに飛び起きるや、再び向かう。アキラも着実に移動しつつ動きを鈍らせていく。やや離れた北では満身創痍で退避してきた希明を庇うように前に立ったエミールがSESを酷使していた。
「レディの扱いには気を付けやがれ!!」
「まだ私も‥‥」
「たまには俺に――」
 カッコつけさせろ! 2丁から強烈な弾丸が次々飛び出す。流石にこの状態で狙い撃ちは出来ないが、胴体付近を撃つ事でカバーする。その勢いを脅威と見たか、こちらに急接近、腕を叩きつけてくる。一瞬後ろを見、エミールがそれを真正面で受け止めた。恐ろしい膂力で叩き潰さんとする敵。
 そこに南から文字通り跳んできたのは2つの影!
「花弁の如く散れ――剣技・桜花幻影・散」
 神音が抜刀で敵の右腕を両断する。両足を斬りつけたのは昼寝の爪。
「ぶちまけなさいッ!」
 容赦無く削る昼寝。打ち上げ気味に膝関節へ刺しこんだ。ガギン! 膝がイカれる。片膝つく。残る左腕を振り回す敵。ギリギリかわす。が、直後の頭突きで飛ばされる。空中でトンボを切って着地する。
「そうこなくちゃ‥‥」
 昼寝は上唇をてらりと舐めて向かう。
 時間を貰う間に、神音は月詠2刀を構え腕から肩口に跳ぶ。
「余所見していていいの?」
 首筋を袈裟に。回転。黒髪が遅れて揺れる。勢いのままに薙いだ。連撃。敵の目らしき箇所を斬りつけ飛び降りる。敵は落ちた右腕を左で持つや、それを振り回し始めた。アキラがすかさず外から電磁波で援護、僅かにぶれた攻撃を神音は刀で受け流す。
 が、敵は現在の最大脅威と見做したか、攻撃を集中してくる。避けられない。全てを刀で受ける神音。押される。さらに彼女に向けて自らの重量を活かしボディプレスを敢行した。同時に動く影!
「ふふ、きっとその全身を走る衝撃は恋の兆しですよ?」
「‥‥違う。それとその告白方法は吊りば‥‥」
 神音を突き飛ばし敵の身体を受けるシロウ。だが黙っている仲間ではない。動きを制限された敵を四方から削っていく。シロウが抜け出す。そこに、
「ゴミは大人しく黙ってろ」
 黄金の美貌が参戦した。
 瞬天速からの連続攻撃。疾風の脚で脇下へ入り込み、ゴーレムの急所らしき所へ鬼蛍を突き刺す! ジジ。漏電し始める。あと少し。
 一気呵成。時に同時、時に連撃。8人が総攻撃で畳み掛ける。響く剣戟。崩れる瓦礫。そして。
「‥‥漆黒に沈め」
 アキラの知覚攻撃がクリティカルに炸裂した。内部から小破裂するゴーレム。黒煙を上げると、数秒後にボフ、と大小のガラクタとなって爆散した。

●メモリアル・ブルー
「お、おおお。神秘的いや、もはや魔性の微笑みが透けて見えるような色よ輝きよ‥‥」
 老婦人に渡す段階で初めて目の当たりにしたシロウが、つい預けていた職員からもぎ取り掲げて見る。その光景を前に、レイジが少しでも早くばーちゃんに渡すんだよとさらに奪い取り、婦人に手渡した。
「永遠の絆、だっけ。石言葉。‥‥もう、無くさないようにな」
 レイジが言うと、婦人は「お優しいのね」と微笑んだ。
「‥‥よ、弱いんだよこーゆーのッ」
「だが一部欠損しているな‥‥」
「まあ、修理できるわよきっと。‥‥パーフェクトじゃなかったのが悔しいけど!」
 アキラに、昼寝が自分にやや苛立ちつつ答える。
「いいえ、本当にありがとうございます‥‥倒壊した時に欠けてしまったのですから、仕方がありません」
「それに石の方は全く割れておらん。ずっと汝を守る、という精神が宿っている‥‥なんて、な」
 珍しく幻想的な事を語るリュイン。
「参考までに‥‥LHに名うての職人がいますが」
 素早く軍の端末から調べていた神音が提案するが、考えてみますと婦人は返事を濁した。
「これを直してしまうと、先に‥‥てしまったあの方の贈り物ではなくなってしまうかもしれなくて‥‥」
 その言葉を聞き、可憐な乙女心とは一見縁遠そうなリュインが1番に、
「好きな人から貰ったモノは、何よりも大事であるからな‥‥だが」
 これからは肌から離すでない。若干目を細めて言い聞かせた。
「うん。もうなくさない事。‥‥でも本当によかった。お婆さんの嬉しさ、伝わってくる」
 希明が勝気な瞳を彷徨わせる。それに気付いてか気付かずか、独りごちるエミール。
「あのレベルは100万‥‥じゃ足んないよな‥‥」
「ぁ‥‥別に、どんなでもいいのに‥‥」
 小声で。きっと聴こえてはいない。だからこそ、いいのだ。
「すんませーん、こっちも探し物があるとかで――!」
 突き抜ける青空。
 調子に乗った職員が、空気も読めずにそんな事を叫んできた――――。

<みっしょん・クリアー>