タイトル:【PN】藍の防衛戦マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/30 07:01

●オープニング本文


『なぁ、ジャン』
「何でありましょうか、少佐」
『俺‥‥この任務が終わったら告白するんだ‥‥』
 フランス北西周辺の夕焼け空を哨戒中だった小隊のエースが、突然暗い未来を予感させる台詞をのたまった。
「や、止めてくださいよ‥‥」
 少佐の真後ろにつけるジャンが、心底嫌そうな声を通信に乗せる。
『ハハ。冗談だよ。さすがに俺もフィクションのお約束ぐらい解ってるさ』
「‥‥だったらその台詞も、じきに襟元の飾りが増える台詞だと解りますよね」
 ジャンがきつく忠告する。それも当然だった。こんな大西洋上の何もない空で、単なる警戒機のたかが1小隊がバグア軍と接触でもすれば、ものの数分で全滅は確実である。
『嘘だっつってんだろ?』
「その話はもう無しで」
 ジャンはキャノピー越しに遠くの空を見やり、その後で役に立つかもあまり解らないレーダーに視線を移す。
『今度女紹介してやるよ』
「異常無し」
『おいおいジャンくーん‥‥と‥‥ッ?!』
 少佐は言いながら、不意に旋回し、速度を上げつつ南東に戻り始めた。わけもわからず追従する僚機。
「どうかしま‥‥」
『なんつーか、空に何か丸いのが見えた気がする。あと海面にも。‥‥まだお前にはわかんねーか』
 ある種の確信を感じさせる口調。上等とは言えないレーダーも特に反応はなく、未だに呑み込めないジャンだったが、KVでの直接戦闘が主ではないとはいえ今まで空で戦ってきた少佐のカン。従う他なかった。
「Hワームでしょうか」
『多分な。海の影はサメみたいな感じか。少ない気がする。ま、俺らは無理する必要はない。急いで司令部に‥‥』
 少佐が言い差したその時。
 目の前の画面に、突如赤い点が現れた。真後ろのずっと向こう。端にあったはずのその点はしかし、見る間に中心に近付いてくる。高度を下げつつ全力で大陸側に戻っていた小隊だが簡単に指呼の間にまで迫られ、もはやその空気が感じとれるまでになった。
『ッ――!!』
 1番後ろにつけていた機体が、即座に鉄屑となって海に消える。もう1機。さらに。悲鳴など殆ど聞こえない。それすら許されず、あまりにも簡単に生命が終わっていく。
『ッジャン‥‥! 解ってんな‥‥!!?』
「は‥‥? え、待‥‥」
 止める暇もなく。前にいた隊長機は急旋回するや、一瞬にしてジャンの機体とすれ違った。それに従おうとするジャン。が。
『ついてくんなよ? お前は管制機の役目を果たせ』
 無線から、少佐の声。
「ッ‥‥命令ですか‥‥」
『そうだ』
「‥‥了解‥‥!」
 歯を喰いしばる。そうだ。今、すべき事は。情報を、大陸に届ける事。たとえ自分以外が全滅しても。
 操縦桿を握り潰しそうな両手は真っ白に変色し、口端からは紅いものが流れる。南東に逃げ帰る自分の背には、時間稼ぎの為だけに立ち向かう仲間。
 ――――ああ、そうだ。俺の女には絶対手出すなよ?
 盛大な爆発音と共に、そんな通信が届いた気がした。


 ほぼ、同時刻。
『ッ‥‥こち‥‥UP‥‥‥‥ーム、‥‥』
 フランス北西部、港湾都市サン・マロに程近い軍事施設において、激しい雑音混じりに重大な情報を受信した。
『‥‥ちら‥‥隊、小型ヘルメ‥‥4機と交戦中‥‥! 至急迎‥‥。また海ち‥‥ワームの影が見え‥‥。繰り返‥‥‥‥!』
 それは、紛れも無くジャン中尉の声だった。

●参加者一覧

幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ゼシュト・ユラファス(ga8555
30歳・♂・DF

●リプレイ本文

『スクランブル!』
 アラートが基地に響く。
「必ず、助けるわ」
 戦闘機型で海沿いの見晴らしの良い地点に待機するワイバーンの中で、智久 百合歌(ga4980)が独りごちた。一つの節目として近い将来の幸せを思い、その為にも守らねばならないと。
「は、はい‥‥行きましょう‥‥!」
 同じくワイバーンを駆る藤宮紅緒(ga5157)が同調する。その2機が2本の滑走路の端で、今にも飛び立たんとしており、各々の横にはさらにディスタン、ディアブロが控えていた。
 発進許可。
 同時に火を噴くや速度を上げ、轟音と共に離陸。
『すぐに‥‥追いつきますぅー』
 幸臼・小鳥(ga0067)の通信に1機が翼を振る。その小鳥、そして勇姫 凛(ga5063)の両機が滑走路に入る。
「みなさん‥‥無事だといいのですけどぉ‥‥い、急がないとですねぇっ」
 小鳥が早くも慌てているのに対し、凛は視線の先、水中キットが運ばれKVに取り付けられるのを眺め「可愛いかも‥‥」と思わず呟いていた。
「可愛いー‥‥?」
「ぁ、り、凛別に阿修羅とかの犬かきなんて想像してないんだからなっ!」
「それはいいかも‥‥ですねぇー」
 墓穴を掘る凛と、ふわふわ喋る小鳥である。
「でも‥‥そんな趣‥‥」
 発進許可。凛機が一足先に動き出す。
「い、行くから!」
「あぅ‥‥ディスタンも‥‥頑張ってくださぃー‥‥!」
 ともかく空の4機が進発した。

 一方で同基地、港湾部。既に海上に浮かぶ2つの水中機と、それらに繋がれてまさに海中へと侵入していく人型KV2機。
「全滅を覚悟してまで警告してくれた彼らに報いる為。後は私達の仕事ですね」
 真白なディアブロに搭乗するのはレイアーティ(ga7618)。彼を戦場まで牽く夕凪 春花(ga3152)が、
「はい、頑張りましょうっ」
 海の密室に明るい花を咲かせる。もう一組が風羽・シン(ga8190)・ゼシュト・ユラファス(ga8555)の同じ小隊組。
「初めての水中戦な訳だが‥‥ま、何とかなるだろ」
 シンがテンタクルスの操縦桿を軽く握り、挙動をイメージする。そんなシン機に牽かれるゼシュトもまた、KVで水に入る閉塞感を肌で感じていた。
「‥‥だが」
 ある種の安らぎも存在する。ゼシュトが夕闇に溶ける海を味わっていた時、ようやくクレーンも離れ進発準備が整う。
「お願いします!」
 レイアーティが偵察隊の安否を心配して急かし、空の第2波に先駆けて発進した。

●空と海
 2機の翼竜が西北西に駆ける。夕焼けのオレンジがコクピットを支配し、永遠の時間を感じさせる。が、竜は確かに音速で飛んでいたようで、太陽を背景に4つの黒点が見えた。さらに海面には戦闘機らしき残骸。丁度撃ち落したという事か。
「っああもう太陽なんか背負ってるんじゃ、ない‥‥!」
 百合歌が目を細めてD−02のトリガーを引く。多少遅れて紅緒機が敵機付近に放電攻撃。ブレつつ接近する両者。HWは1機が急加速、正面からフェザー砲を放つ!
「わわ‥‥危ない、危ない‥‥」
「あら。そんな単調な攻‥‥」
 百合歌が左に旋回してかわしたところ、ふと海面からの光に目がいった。見るとそこには警戒機の円盤らしき破片と人のような塊。
 そのまま急上昇して斜めに照明の合図を打ち上げる。そこを狙いHWが巨大な砲を突き出す。が、発射寸前。
「す、直ぐに行きますから‥‥!」
 紅緒が巧みに操り再び放電で敵の挙動を乱した。黒煙が上がる。百合歌機が機首を翻し背面飛行。止めを刺さんと接近するが、残り2機の援護射撃、1機の超接近の為にレーザーのみの攻撃に留まる。煙を上げる敵機とすれ違い紅緒機の近くへ。それを追いかけようとするHWを紅緒機の電磁結界が牽制し、百合歌が眩しさに耐えつつD−02を撃つ。
 一進一退。不良品が多いのかこちらの技術が向上しているのか、2対4の数的不利はさほど感じないが、手数で押され決定打を与えられない。
3度目の交錯が行われようとした時、真下――海からの弾丸が紅緒の機体下部にぶち当たった。もう1発が飛来。外れる。
「わ‥‥うぅー酔います‥‥」
 揺さぶられる機体。何故か3撃目はない。が、それを好機とHW4機が一斉に攻勢に出た。紅と紫の光線が2機に伸びる。シザーズ。コクピット付近、尾翼に喰らう百合歌機。
 さすがに一気に来られると危険か。攻勢でなく維持に切り替えようとした時、
「ランスの如く、敵を貫け!」
 水柱が噴き上がり、そして南東からは小鳥と凛の弾丸が唸りを上げて飛来した。

 海底を秘かに進む4機。日射しも少なく、敵に見つかり難い反面、危険でもあった。
「水中キットの調子はどうだ、ゼシュト」
「行動を制限される感覚は否めん」
 シンに憮然と答える。
「互いに初体験。慎重に行くか」
「‥‥それなりに巧くやるさ。それでこそプロだ」
 柔らかい水の抵抗感を掻き分ける。と、頭上に大きい影。残骸か。さらに遠くに動く物が見えた気がした。
「お喋りはこれまでです。上空のHWが海中まで完璧にジャミングできるような正規品か解りませんが、経験は連携でカバーで」
「切り離しますっ」
 春花、シンが鋼鉄線を破棄、各機戦闘行動に入る。
 慎重に。暗い水底で先制機会を窺う。
「出来るだけ引き付けて‥‥」
 春花が魚雷のスイッチに触れる。しかし突然敵影の1つが閃光を発する。
「なんだ?」
 誰ともなく疑問が漏れた時、銃声が聞こえた。水面が不自然に揺れる。間を置かず2つ目。
「ッ対空攻撃!? 行きます!」
 レイアーティがFOX2コールと共に熱探査ミサイルを撃つ。次いで春花が重々しい魚雷を解放した。数秒の空白。激しい閃光。ミサイルが過たず光っていた影に命中し、爆発の泡の中を魚雷も敵を穿った。
 大爆発。
 水泡が敵付近を包む。その隙を逃さずシン、ゼシュトが急接近する。向こうも水中とは思えぬ速度で影が動く。小型の鮫型、メガロワーム。だがいくら速くとも体当たり。ゼシュトが徐にミサイルを発射した。
 避けられぬ鮫。より至近で命中し体勢を崩した敵に、シン機が人型へと姿を変えつつ接近、スラスターで微調整してエラに高出力爪を振るった。バヂュ、と爆ぜる音。1匹が気絶したように腹を上に機動を止めた。ところが、
「チェックシックス!」
 レイアーティが回りこんできたもう1匹を報せる。彼と春花機はまだ届かない。
 ガァン! やや突出したシン機に強烈な体当たり。飛ばされる。さらに腕を噛み砕こうとするが、ゼシュトがガウスガンで援護して引き離す。1。2発。
 その間隙を突いて鮫に向かうは戦闘機形態、KF−14、春花機。水中用機体の面目躍如、直前で人型になると、
「こういう戦い方もあるんですっ」
 普段の春花本体とは正反対の積極性で突撃、氷雨を横腹から突き刺した! ゴボ、と溶液らしき物を吐き出す。春花が操縦桿を引いて刀を抜くと沈んでいった。その間にレイアーティは気絶して浮かんでいた方を両断、残るはゴーレム2体となる。
 ゴーレム達は鮫を捨て駒と見ていたか魚雷が効いたか、泰然と構えたまま。武装は大剣野郎と砲野郎。こちらは2・2で1組1殺。海中戦は2ラウンド目に突入した‥‥!

●一瞬の交錯
 4機のKVが四方に散らばる。
「眩しい‥‥ですけど‥‥援護しますから‥‥散開してくださぃー!」
 聞こえはしないがディスタンに乗る小鳥が叫びつつ追いすがるHWにトリガーを引き、新たな2・2の組み合わせとなる時間を稼ぐ。海面では波と別の気泡が立ち上り、海の同胞も戦闘している事が解る。
「この空の平和も、凛達の手で守るから!」
 合わせて右翼下のライフルを撃つ凛。敵尾部を穿つ。新鮮な戦力が敵を止め仕切りなおす。近距離と遠距離を1組とする2・2、小鳥・百合歌と凛・紅緒のシュヴァルム戦法。数的には同じ敵味方。こちらは連携、敵は機体性能を頼りに、大規模な接近戦へと突入した。
「『私、来月結婚するの』‥‥不吉な台詞?」
 百合歌がロールしながら目に付いた敵コースを遮る形で飛行、上から下へ主翼で深々と斬りつける!
「つまり帰れたらずっと幸せになれるって事よね?」
 思い切り操縦桿を引き上げスレスレから急上昇する。その後ろを狙うHWを小鳥が巧みにフォローして撃つ。小鳥と凛。遠距離武装の2機は低速で円を描き援護し、自らに敵が向かってきたら基本マニューバで落ちる木の葉のようにやり過ごす。敵は慣性制御できるとはいえこちらを捉えなければ攻撃できない。低速を活かした機動だった。
 右。左。下。上。目まぐるしいドッグファイト。一方が接近すれば他方が側背を補強する。見事な連携で少しずつ攻撃を加えていく。
「うー‥‥これ以上‥‥侵攻させないのですぅ‥‥!」
「わ、わっ‥‥絶対、倒します‥‥!」
 多少の損害覚悟で紅緒が一直線に1機の真後ろに付きレーザーを放つ! ガガ、と目前の敵が機動を乱すと同時に、紅緒機もフェザー砲を直に喰らう。再び光線のトリガーに指をかける。被弾の衝撃。
「やらせない、凛の前では、誰も傷つけさせないんだからなっ!」
 吶喊。凛機が線の動きで紅緒機の後ろにいるHWへ横から突撃、機体能力で強まった弾丸を敵に叩き込んだ。
「そ、それ‥‥!」
 かちりとトリガーを引き、収束砲をお見舞いする紅緒。
 爆散。
 残り3機。凛の攻撃でフラフラとするHWに百合歌が突っ込む。ガガガガ。翼で斬り裂く抵抗感。旋回の為に機体を傾けた時に突き抜けた。直後に爆発音。残り2機。
と、不意に百合歌が海面に突き出た砲身を見付ける。微笑する天使。余裕が出来たおかげで援護も可能となっていた。
「ついでにそちらにも葬送の調べを聴かせてあげるわ」
「智久さぁん‥‥!?」

 シンとゼシュトが2体の敵にミサイルを発射する。互いの熱源が誤射を生まぬよう絶妙の角度、時間差。水中戦は初めてながら共に戦ってきた経験の呼吸だった。
「突っ込むぞ」
 2機が1体に向かう。敵は大剣持ち。先に間合いに入ったシンが人型のまま爪を振るう。が、鮫への攻撃を見ていたのか、敵は覚悟を決めたように受け、即座に剣を薙いできた。辛うじて左腕で上方へ逸らすが喰らう衝撃は大きい。シン機が体勢を崩す。足下のペダルでコントロールしようとするが回転は止まらない。さらに敵が追撃。
 グァン‥‥! ゼシュト機が無理矢理入り込みディフェンダーで受ける。間髪入れずレバーを激しく操作。嗜虐的な笑み。返す刃でゴーレムの腹を薙ぐ! よろけて離れる敵。まさに格闘戦。水中のくぐもった空気が心音すら響かせる。再び2人が構える。
 一方、春花とレイアーティが対するは砲持ち。形状から狙撃銃と短銃。ならば接近戦を。
「仕掛けましょう。早く捜索しなければ!」
 動く2機。春花機が戦闘機形態でガウスガンを撃ちつつ攪乱する。釣られる敵。その間に人型のレイアーティ機が敵の横を取る。
「それにしても水中にゴーレムがいるなんてっ」
 ずるいです! と春花が水を裂くように機首を上げターン、すれ違い様に肩を撃つ。が、敵も発砲、コクピット横に喰らう。次いでレイアーティ機が下から氷雨で突き上げる。めり込む。ぐぐ、とそのまま斬り裂こうとするが敵は上手く体をずらし抜け出る。海面。高度を取られる。俯角。
 敵は背中の狙撃銃を取ろうと腕を回した時‥‥

 斬。一閃。空の友軍が左腕を肘から落とした!

●掃討戦
「今ですっ」
 春花機が突撃、人型変形、氷雨を握り締める。敵ガウスガンの衝撃。その右腕を斬り落とす。続くレイアーティが敵胸部を貫いた! ジジ、と漏電。が爆発しない。隙を突いて敵ゴーレムが最期の足掻きとレイアーティ機を蹴り上げる。離れる2機。14m。来るか。身構えた時、敵は一気に離脱していった。
 レイアーティがミサイルを撃つが、下半身を切り捨てたか、本体には届かず爆発。海底移動。今度は武装がなく空からも攻撃できない。
 だがあのゴーレムもおそらく廃棄となる。さしたる情報もなかろう。2人は遭難者を優先してこの場に残る敵に意識を向けた。
 そちらではシンとゼシュトが息の合った攻撃で敵を削っていた。シンが水中機体らしい身軽さで右に左に翻弄しつつ最低限の損害で交戦し、ゼシュトは隙を突いて『主武装』で突っかかる。
「やり辛そうだな」
 シン機が人型、両腕を胸の前にして大剣を受け止める。
「‥‥だが食わず嫌いとはいくまい‥‥!」
 飛び上がるようにゴーレムに向かいディフェンダーを振るう。弾かれる。あからさまな装甲強化。ゼシュト機が反撃に押される。追撃。追撃。脇に敵の剣が入り込む。衝撃と軽い漏電。危険信号。が、
「やれ‥‥!」
「ッ!」
 シンが殴るように爪を突き刺し、裂く。だが浅い。あと一撃。敵が抜いた大剣を大きく振りかぶる。その瞬間、ゼシュトの邪悪な笑み。かちりとスイッチ。
「終わりだ‥‥沈め!」
 主武装を放って副武装レーザークローの爪を出現させるや、敵の首を刈り取った! 物理攻撃ならばあと少しは耐えられる。そんな敵AIを騙す一撃。慣れない海だからこそより機会を大事に。海底にゆっくりと首が沈んでいった。

「Maledizione――忌まわしき者に呪いあれ」
 右旋回。思い切り操縦桿を引き上げ急上昇。ピンポイントに腕を斬った確かな感覚と共に百合歌機が空に戻る。
 4対2。均衡した段階から一気に流れがこちらに傾く。
 乾坤一擲。急上昇で速度が落ちている百合歌機へ攻撃が殺到する。バチバチと紫の光線が集中し、それを左へ急旋回。ガガァン。機首、次いで下部に被弾。
 小鳥が別方向から敵に接近する。レーザー照射。1条、2条。敵機から黒煙。一瞬の空白そして。爆発、四散。カンカンと破片が当たる。
「残り1き‥‥っきゃぅ!?」
 小鳥が視線を上げ周囲確認をしようとした矢先の横からの一撃。しかしその攻撃もただそれだけだった。
「負けられない‥‥凛達は、背負ってるモノあるから!!」
 一息で間を詰めたディアブロが、敵に突撃しながら弾丸を放つ。アグレッシブフォースを乗せたその大口径銃弾は、見事に敵中心を貫き、最後の敵を鉄屑へと変えていた‥‥。

●戦争
 基地。滑走路。
「ありがとう‥‥ございました」
 夕陽が沈む。ジャンは管制機の破片に掴まって漂っていたところを傭兵達に救助された。しかし少佐を始め他の隊員は、おそらく。
「皆さん、必ず」
 必ず、勝って、帰ってきてくれと。その為なら自分のようなしがない一般パイロットでも出来るだけの事をすると。
「はぃ‥‥これ以上悲劇が‥‥生まれないようにぃー‥‥」
「私達がもっと早く片付けていれば‥‥」
「いえ。立ち向かってすぐの、爆発で‥‥。ですが仇を取ってくれて、少佐の彼女もきっと‥‥」
 静かに俯くレイアーティに、ジャン。
「‥‥手向けの調べを。私には、それしかできないから」
 百合歌の声が風に乗る。
 戦争は、続く。いつの日か、以前の日々を取り戻す為に。幾億の犠牲を乗り越えて‥‥。

<了>