タイトル:【AL】要塞の未来マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/02 03:47

●オープニング本文


 北アフリカ、ピエトロ・バリウス要塞――もとい。
「産業府、か」
 長くこの要塞に滞在してきたアロンソ・ビエル(gz0061)が、基地内で配布された資料を見ながら、サロンの椅子に腰掛けて感慨深げに呟く。
 戦争は、終わった。各地に残る火種はまだ完全に消え去ってはいないし、諸々の事まで考えればおそらく10年程度では済まないくらいの『戦後』が待っているだろう。が、ともかくとして戦争は、終わったのだ。それはすなわち、対アフリカ・バグア戦線における本部として発展してきたこのPB要塞の、要塞としての終わりを意味する。
 が、初めは橋頭堡、前線の仮拠点に過ぎなかったこの場所が次第に大きくなり、せっかく一大拠点となったのだ。それを完全に手放してしまうのはあまりにも惜しい。またアフリカにおける火種を迅速に鎮圧する、そしてアフリカをいち早く復興させる為にも、やはりこの拠点を利用するのが最も効率的だった。
 そこでこの要塞をそっくりそのまま利用しつつ街、いやむしろ一定の分野に特化した産業府として新生させるという計画が立ち上がるのは、自然の流れと言えた。
 ピエトロ・バリウス要塞ならぬ、産業府ピエトロ・バリウス。
 ――なんとなくこう、クるものがあるな。ただ名前が変わるだけで‥‥。
 独り脳内で反芻して噛み締めるアロンソである。
 アロンソは何故かサロンに大量に置かれている菓子を頬張り、珈琲で流し込む。そして資料をめくると、バーンとでかく広告が打たれていた。

『戦勝記念モニュメントのデザイン公募中!!』

 アロンソが目を細め、渋い顔で読み進める。
 曰く、産業府として新生するに伴い、ついでに象徴になるような戦勝記念の何かも作ってしまおうという事らしい。
 パリの凱旋門やベルリンのブランデンブルク門、また偉人の銅像や謎の彫刻、古くはピラミッドやオベリスクなど、モニュメントというのは世界各地に枚挙の暇がない程に建てられている。またそのモニュメントの下に一致団結して1つの街を創り上げるという意味でも、割とありがちな話ではある、のだが‥‥。
 ――真面目な資料の途中でキラキラした広告を出すなよ‥‥目が痛い‥‥。
 そもそも基地内部で配布する資料に載せたとして良いデザインが出てくるのだろうか。いや未来の大彫刻家が従軍しているのかもしれないが!
 などとアロンソが適当に考えていた――その時。
 緊急を示す警報が、突如鳴り響いた‥‥!

 ◆◆◆◆◆

「左舷正面固めろ! いいか、絶対に抜かれんなよ!」「了解!」
『こちら第3――艦、右舷後方に敵影2――!』
「チィ‥‥」艦載KV隊の小隊長――ウィル・ピアース少尉が舌打ちするや、通信に怒鳴る。「チャーリー分隊、行け!」
「了解」
 海中を潜行して輸送艦隊の右舷側へ向かう分隊を見送りつつ、本隊は左舷側の海中でじっと敵の動きを見定める。
 敵はトビウオのように飛び跳ねながら欲望に任せて縦横へ遊弋している。まるでこちらの隙を窺うように。
 ウィル機が腕を振って合図、一斉に敵群へ夥しい銃弾が放たれる。敵群は左右に分かれてそれを回避するや、うち2体が一直線に突っ込んできた。ウィル自ら撃ちまくると、2体は突撃を中止して群へ戻っていく。
 雑魚のくせに小賢しい、とウィルは口角を歪めてもう一度舌打ちした。
「ったく、よりによってこんな時に出やがって‥‥!」
 ウィルが僅かに後ろを見やる。輸送艦隊はPB要塞直近の港湾施設へ接岸を開始しようかというところで作業を中断し、再び海へ舞い戻る準備をしている。
 輸送艦隊――輸送している物資の多くは、これから要塞が未来へ向けて歩き出す為の資材だ。要塞から産業府へ。一介の下士官に過ぎない自分にはよく分からないが、きっと最高の事なのだろう。そしてそれを成し遂げる為に必要な物を守るのも、きっと名誉な事なのだ。
 だからこそ自分達だけで防衛に成功したいところではあるのだが‥‥。
「クソ、ちまちましやがって! 切り身にして揚げたらさぞ美味いだろうよ!」
「隊長、トビウオのフィッシュアンドチップスってなぁ美味いんですかい?」
「さあな。ラードで揚げて酢と塩振っときゃ何でも一緒だ!」
 ヤケクソ気味に答えるや、ウィルは敵を見据えたまま無線に言った。
「クソ、こっちだけじゃ埒が明かん! そっちからも掩護を頼む!」

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

『頼むぜ、そち――よ。――敵――速く――艦を守りながらじゃまとも――』
 オープン回線から絶え間なく水中の様子が流れ、否が応でも緊張感は高まる。
「拙いな。この戦況の1分は痛い」
『心配しないで‥‥』
 奥歯を噛み締めた月影・透夜(ga1806)の耳にロッテ・ヴァステル(ga0066)の声が届く。魔弾――戦争初期からずっと小隊を組み続けた片翼の、頼もしい声が。
『私達が引っ掻き回す‥‥生身でもそれならできるわ』
『ロッテさんの水責め‥‥ではなく水練が‥‥奏功しましたねぇー』
 無線の向こうで幸臼・小鳥(ga0067)がふにゃっと笑うのが目に浮かんだ。透夜が「悪い。任せた」と返す。
 そこに格納庫へ駆け込んできたのは何故か水着のアロンソだった。
「‥‥アロンソ」
「はぁ、はぁ、俺も一緒に出」
 アロンソを遮り、透夜が苦虫を噛み潰して、
「こっちに寄越されたのは解る。だがその恰好で荒い息を吐くのはやめろ」

「皆でいくぞ! せぇーの!」
 機械任せでのんびりKVの装備変更している余裕はない。夢守 ルキア(gb9436)機オロチ、オイジュスは整備兵に囲まれ急ピッチで作業が進む。
 ルキア自身も機内でコンソールを確認し、無線に呼びかける。
「水中の人、聞こえるかな? 直ぐに行くからちょっと持ち堪えて! 弾幕トカで騙し騙しって感じで」
『――了解。――てる間に援――って何だありゃ、水着の女――』
 どうやら生身班が戦闘を開始したようだ。こっちも早くせねば、とルキアの指が目まぐるしく盤上で踊る。その時、
「んー、そこのいかにきーめた」
 格納庫に響いたのは舌足らずな少女の声だった。
 少女――舞 冥華(gb4521)は夕飯を決めるノリでKVの1つを差すや「ちょーせーよろー」といそいそ上って機内に潜り込んでしまった。
「おかねは冥華のほごしゃとあろんそがだす。あぱーむ、まにゅあるもってこーい」
「お、おう」
 呆然とした整備兵だが、動かせる人間なら誰でもいい状況ではあると納得し、慌しく準備に入る。
 冥華が機内で適当にこれかなと起動。なんとなくレバーを引くと、クラーケンから触手がうねうね飛び出した。
「おー。手がいっぱいふえた。これでろってもこわくないかも」
 不穏な台詞を吐きつつ操作してみる冥華である。
 ともあれ。格納庫という戦場を整備兵が駆け回る――!

●人の戦い
「面倒な‥‥」
 舌打ちして埠頭の端まで走る杠葉 凛生(gb6638)。その彼を追い越しムーグ・リード(gc0402)が桟橋まで進むや、全力で大跳躍した。
「ッ‥‥ヌ、ゥウ!」
「ムーグ!」
「‥‥凛生サン、ハ、岸カラ、フォロー、ヲ‥‥!」
 艦の傍へ盛大に着水するのを凛生は銃を構えて見つめる。するとすぐムーグが海面へ顔を出し、凛生は秘かに安堵した。
 舷側から艦を上っていくムーグ。一方で凛生が周りを見回すと、
「もうっ‥‥うちの人以外にあまり肌は晒したくないんだけど」
「タイミングが良いというか悪いというか‥‥」
 智久 百合歌(ga4980)、ロッテ、小鳥が到着した。
「敵は海中。陽動や撹乱に気をつけてくれ」
「了解。人の考え事を邪魔してくれちゃったお礼はしてあげなくちゃね!」
 百合歌が勢いよく服を脱いで水着を披露する。さり気なく凛生が視線を外した時、ロッテと小鳥が右舷側に駆け出した。
「待っていても仕方ないですし‥‥私達が‥‥打って出ますぅー」
「KVが来るまで‥‥何をしてでも守りきるわよ‥‥!」
 気合を入れて海へ飛び込む2人。百合歌は屈伸して左舷側を見やり、やはり躊躇なく飛び込んだ。
「全く、最近の若い奴は‥‥」
『‥‥凛生サン、モ、若イ、デス、ヨ』
「うるせえよ。基本はお前が左舷、俺が右でいこう」
『‥‥了解』
 凛生とムーグは畝る波間に目を向け、息を殺して待ち続ける。

 水中は薄暗く、静寂――もとい水を伝う鈍い音で溢れていた。
 付かず離れずで動き回る敵群。時折斉射で牽制するKV。その合間に飛び込んだ3人は迷う事なく敵群へ突撃した。
 ――水中は奴等の土俵ね‥‥でも‥‥!
 ロッテが小鳥と合せ右舷後方へ。敵は共に大型。横合いから小鳥が適当に弾をばら撒くと、敵がこちらに気付いた。KVからの銃撃を躱し1体が突進してくる。槍を構えたロッテがタイミングを合せ、
「ッ‥‥!」
 刺突――躱された。と思う間もなく敵がロッテを撥ね飛ばす!
 咄嗟に身を捻るロッテだが脇腹を深く削られた。周りを回って再度突進してくる敵をロッテが眉を歪めて見据える。小鳥が下から撃ち上げるがやはり躱された。1方向からの射撃ではどうしようもない機動力に、小鳥も唇を尖らせる。
 ――魚は‥‥水揚げしてあげないと‥‥ですねぇー!
 小鳥が剣に持ち替えた時、ロッテと敵が再度ぶつかる――寸前、ロッテが槍を引いた。
 敵の体躯が水を切り裂く。それを見定めるロッテ。敵の巻き起す水流が肌に触れた――刹那、ロッテが筋肉を引き絞り水を無理矢理蹴る!
 ――小鳥‥‥お願い!
 一瞬を制し、突進を躱したロッテが上から敵を突く。敵が身を捩って速度を緩めた。下から突き上げる小鳥。ロッテも下へ回るや、2人で敵を押し上げる。そして――。

 ごぽごぽと水泡激しいそれを、凛生が見逃す筈はなかった。
「あいつらか? 水着でよくやる‥‥」
 右手をやや曲げ、左手は銃床に。力を抜き、ただ人差し指を引鉄に添える。深呼吸、長く息を吐き――水面下に、影が見えた。ざぁんと水を押し退け飛び上がったそれを、
「お疲れさん」
 銃撃、連射連射!
 完膚なきまでに狙い撃つと、水面に紅が咲いた。

 ――トビウオ、ね。
 ワンピ型の水着に身を包んだ百合歌は敵群へ邁進するや、横からちょっかいをかけた。パラパラと撃ちまくって気を引き、やや潜って仰角に敵を見る。こちらの敵はどうにも余裕がありそうだ。
 KVからの弾幕が敵群を切り裂くも損傷は与えられない。百合歌が身振りでKV隊と時間を合せ、1人静かに接近していく。
 エアを吸う音が妙に大きく聞こえる。遊弋する敵の数体が百合歌を流し見た気がした。腕を振ってカウント。5、4‥‥。
 ――トビウオはトビウオらしく飛んでなさい!
 KV隊からの斉射、同時に百合歌が突っ込む!
 小型2体が百合歌を向いた。槍を繰り出す百合歌だが敵は難なく躱し、突進してくる。柄で横面を叩いて弾く。回り込んだもう1体がまともに百合歌の脇腹を抉った。ごぽ、と漏れる血と空気。絶対に逃がさないと百合歌が脇を締めて敵を掴むや、咄嗟に逆手に持った槍を突き刺した。
 ――1匹!
 もう1体が水泡を吐き出すや、泡に紛れて突っ込んでくる。正面から受け、振り払うように海面へ打ち上げた。
 残る6体が完全に百合歌を向いた。百合歌が覚悟を決めた時、KV隊の援護が敵群を縫い止める。が、でっぷり太った1体が抜け出してきた。銃撃、躱される。立ち泳ぎとなって完全に待ち受ける百合歌。心臓が早鐘を打つ。
 敵が速度を上げた。百合歌が先回りするように槍を突き出す――失敗。水を蹴って後退するも巨躯の割に小回りのきく敵に食いつかれた。柄で往なして連続刺突。敵は怯まない。百合歌が膝で蹴り上げて構え直すが、それより早く敵が腹にめり込んだ。
 ――くっ‥‥!?
 視界が暗転する。大型が百合歌を抜け艦へ向かった。KV隊も群を止めるだけで精一杯で間に合わない。
 鈍い衝撃。艦首側の船腹、喫水線付近に一撃加えられた艦がやや傾いた。KV2機が敵に向き直り――その時、海上から何かが舞い降りた。

「‥‥拙イ、デス、ネ‥‥」
 百合歌が途中で打ち上げた小型を屠った以外はじっと、ただじっと獲物を待ち続けていたムーグが、動いた。
 艦へ直進してくる大型の影。地獄の番犬から幾つもの鉛が吐き出されるが、影はそれをぬるぬる躱す。ムーグが番天印に持ち替えた。が、
 ――速イ‥‥!
 阻止するより早く、敵が艦へ体当りした。大きく揺れる艦。ムーグが海へ跳躍、宙で真下――船腹に突き刺さった敵を撃つ撃つ撃つ。
「‥‥ソレ以上、サセマ、セン‥‥!」
 敵の背に飛び乗るや、銃口を接してさらに撃ちまくる!
 感情の乗ったその攻撃に、敵は抗し切れなかった。力を失って船腹から抜ける敵。水が艦内へ流入し始めた。ムーグがそこから艦内に入り、応急を頼んで甲板に上がる。そこで目にしたのは――待望の、増援だった。

●KVの戦い
 格納庫を真っ先に飛び出したのは透夜機影狼だった。
 人型のままブーストして跳躍、一気に低空を突っ切っていく。それに何とか喰らいつくアロンソ機。見る間に2機が艦上と岸に降り立つと、機体能力に任せて水中へ撃ちまくる。
「友軍へ、とにかく敵を打ち上げて数を減らせ。上に来た奴から狙い撃つ!」
『OK、Bro』
「アロンソ、お前は岸から全体的にフォロー頼む」「了解」
 透夜機が膝をついて狙撃銃を肩当て、左舷正面の水泡激しい地点を狙う。少ししてムーグも並び立った。2mの巨体とKVの並ぶ姿は、妙に様になる。
 5秒、10秒。じっと待機せねばならぬ苦痛に耐え、そして、
『Bro、あんたにそろそろ頼りそうだ』
「任せろ」
 言った直後、水面の一部が盛り上がった。同時に引鉄を引く。再装填、発砲!
 青と紅の飛沫に彩られた魚が息絶えたまま宙を跳び、沈む。が、それを喜ぶ暇はない。水中で敵味方が正面からぶつかり、2体が抜け出した。そこに――。

「いかーのしょくしゅーはいったーいかも? いかすみたべれー」

 格納庫から遥々運ばれ、遅れてエントリーした冥華機クラーケンが右舷より回り込んで敵と艦の間に入り込む。そして冥華が触手を展開させるや、閃光を解き放った。
 2条の光が敵を貫く。敵が傾いだ。直後ルキア機オロチが横合いから機関砲を叩き込む!
「待たせた分、暴れないとね!」
 ソナー投下、周囲を撮影して各機とリンクし、ルキアが索敵――発見。敵は4体が輪形陣となって混乱を治めると、そのまま突撃してきた。
 冥華機、ルキア機から魚雷が次々放たれ、敵群手前で爆発。激しい気泡で視界が白くなる。泡の幕を2体が抜けてくるや、友軍の隊に突っ込んだ。
 入り乱れた格闘戦。百合歌が万一に備え艦の傍まで戻り、代って冥華機が加わる。ルキア機は百合歌と共にラインを作り遠距離で仕留める形だ。
「とりあえず敵を弾き出してほしいかな?」
「ん、がんばるー」
 冥華が警告して友軍機を引かせると、機関砲をばら撒き敵を追い立てる。意図を察した友軍が弾幕を重ね、そこから逃れんと敵が上下に散った。瞬間。
 ガァン‥‥!
 水中に鈍い音が反響し、ルキアと水上、2つの火線が敵を穿った。

●産業府へ
「アリガトウ、ゴザイ、マス‥‥」
 最小限の浸水に抑えた艦が接岸し、積荷の搬出が始まる。ほっと息をついてそれを眺め、ムーグはKV隊や作業員に頭を下げた。
 まだこの地は助けがなければ生きていけない。いつか、この恩を返せる日まで絶対に覚えておこうと。
 そこに、寒さを堪えて基地へ走っていく百合歌が通りかかる。
「あぁもう外は寒いし敵の突進は痛いし早く戻りましょ‥‥それに私は資料読んでたのよ!」
 なんて愚痴っている彼女に、ムーグも苦笑を隠せない。凛生が煙草に火をつける。
「資料ってえと、あれか。産業府の」口に出そうか逡巡したように間を空け、「‥‥産業府、なぁ」
「何カ、問題、ガ‥‥?」
「‥‥いや」
 メガコーポの如き巨大産業を目指せば、労働の場を生むと同時に社会の闇も生まれる。既存の軍産複合体、あるいはそういった何かが食い込んでくるかもしれない。となればここは利用されてしまう。現代社会の波に呑まれるかもしれないのだ。
「‥‥まあ、何でもねえよ」
 隣の純粋すぎる男を見つめ、首を振る。
 そんな危惧をしてしまう己が寂しくもある。が、勘繰ってしまう己だからこそ最後の防波堤になろうとも思う。ムーグや、この地の為に。
「それより資料にモニュメントの話があったが、お前は何か考えたのか?」
「‥‥ソレ、ガ‥‥難シイ、デス、ネ‥‥」
 思いはそれこそ溢れる程ある。
 この地を取り戻す為に戦ってくれた、そして散った人々を忘れぬよう。でもそんな彼らに心配させてしまう事にならぬよう。過去と未来の繋ぎ目。そんな抽象的な何かだ。
「コウイウ、モノハ、苦手、デス‥‥スミマセン」
 眉尻を下げて謝るムーグ。凛生は苦笑し、
「いい加減すみませんは止せ。それが続けば、いつか言う方も聞く方も虚しくなっちまう」
「‥‥スミ‥‥ハイ」
「‥‥しかし」
 ムーグの言葉を軸に考える。慰霊、それでいて希望。
「階段状の何か‥‥それで道程でも示してみるか? 俺達や兵士や、この地の住人が瓦礫を1つ1つ積み上げてな」
「成程‥‥確カニ、近イ、カモ、シレマセン‥‥スm‥‥アリガトウ、ゴザイ、マス」
 早速謝りそうになったムーグを見、凛生が笑った。

 シャワーを浴びてサロンに寄ったロッテと小鳥は、そこで透夜とアロンソを見かけた。お疲れと透夜が手を挙げる。
「まだまだ残存勢力のせいでゆっくりできそうにないな」
「統制されてない小物が多いから気楽だけどね‥‥」
「でも‥‥この時期の水泳は‥‥疲r」
 自分の足に引っ掛かって前のめりに倒れゆく小鳥。両手をバンザイにして見事な放物線を描く彼女は、何故かコマ送りのように見えた。
「あっ」
 エコーして聞こえる悲鳴。次の瞬間、小鳥は顔面着地した。
 ずざー。
「エクストリーム・ドゲザか」「いや違う」
 ツッこむ透夜も慣れたものである。
 ロッテが小鳥を介抱して椅子に座り、懐から紙を出す。
「デザインだけど‥‥こんなのはどうかしら」
 そこには兵と動物が入り混じって並び歩く絵が描かれていた。まさに未来を目指すイメージだ。
 アロンソが感心していると、紙がめくられた。もう1枚には歓喜する兵と鳩が描かれている。
「いいな。なんとなく纏まりすぎてる気もするが」
「となると‥‥アフリカらしさ全開でキリマンジャロとかか?」
 透夜が言う。慰霊碑としての台座と、その上に聳える霊峰。絵になりそうだ。
 そこにとててと冥華が入ってくる。
「もにょれんろのおはなし? なら冥華もかんがえた。水ぎの女神ぞー。もでるはろってと小鳥と百合歌。さーびすで」
「何を言ってるのかしらねぇ、この子は」
 冥華がびくぅと振り返ると、微笑の女神がいた。芸達者なルキアが咄嗟におどろおどろしい文字で「ドドドドド」と背後にフキダシをつける。
「私がサービスするのはあの人だけよ!」
「惚気か」
「惚気よ? とまぁそれはともかく、私はやっぱり音楽かしら。土着の楽器を演ってる人の像とか。No music No lifeってね」
「ん、そういう明るいのがいいよね。こんなのトカさ」
 ルキアがフキダシを片付け、絵を描いていく。向かい合った人が握手して、満開の花が咲いて。幸せを前面に押し出す形だ。
 アロンソがそれにも唸る。軍の企画者の悩む姿が目に浮かぶようだ。
 ともあれ何が選ばれようと込められた思いは変らない。アロンソは結果公表を楽しみにして、デザイン談義に花を咲かせた。