タイトル:【決戦】戦うおっかさんマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/02 02:50

●オープニング本文


 地球と月の重力拮抗点――5つのL点。そのうちL1とL2、そしてL4は対バグア戦において重要な人類側後方拠点であった。
 L点――月周辺にあるポイントがL1とL2で、地球を挟んだ反対側にはL3がある。また両天体を結んだ線を底辺とした三角形の頂点にあるのがL4とL5だ。
 重力がほぼ拮抗するという事は宇宙における他の宙域と比べれば慣性制御装置の負担が減るという事である。となればそこに人類施設を建設するのは当然の成り行きとなり、約半年程前にはL1にドックが、L2に物資集積地が建設された。が、先日のゲバウ騒動の際に後者は完膚なきまでに破壊されてしまい、そちらは現在もまだ再建途上であった。
 またL4は同じく約半年前にバグアとの激しい戦闘が行われた結果、何とか人類側の保持する宙域となっていた。そこで人類は地球や月から(他拠点と比べれば)やや離れたこの宙域にも、物資集積地を置いておく事にしたのだ。保険は多ければ多い程良い、というわけである。
 とはいえ集積地自体が出来ても中身が空っぽでは意味がない。
 となれば、タイミングよくカンパネラから月まで物資を輸送してきていた輸送艦とその護衛艦にL4まで足を伸ばしてもらうのは、これもやはり当然の成り行きと言えるのだった‥‥。

 ◆◆◆◆◆

「諸君、状況は?」
 エクスカリバー級巡洋艦、カリブルヌス。装甲を過度に追加した結果でっぷり太った田舎のおっかさんのような外観となってしまった彼女の艦橋で、艦長――ゲイリー・ジョーンズ中佐が尋ねる。
 じっとレーダーに集中していた男性士官が振り返り、
「異常ありません」
「よし」
「エスコートしているレディの様子はどうだ」
「センサーによる数値は正常です」
「通信でも異常なしとの報告を受けています」
 女性通信士アーシア・フレーニ少尉がまさに仕事に忠実にキリッと報告した。うむ、と艦長が一息つき――かけたそこに、少尉が声をかけた。
「うむ‥‥って何ですか艦長似合ってないですよぅ♪ ていうかレディとか無理して言われると笑いそうになるのでやめてほしいですっ!」
 先程の真面目くさった口調が嘘だったかのように、跳ねる声で。
 艦長がアーシア少尉を精一杯睨みつけるが、少尉の方はどこ吹く風で鼻歌なんぞ歌っていたりする。そのくせ艦内の通信は次々こなしている為、どうにも叱責しづらい。そのうち艦長は泣き寝入りして前面モニタに向き直り、肘をついてため息をついた。盛大に。
 L4集積地への到着予定時間はあと4時間。その間ずっと少尉の無邪気な口撃は続くわけだ。
 カウンセラーとして艦に乗り込んでいたリィカ・トローレ(gz0201)――ヒメは艦橋後方から艦長の後姿を見て、後で胃薬でも持って愚痴を聞いてやろうと考える。一方で少尉の口撃に対する囮がいてよかったと安堵すると共に、少し同情したのだった。
 ――その4時間後、今度はカリブルヌスがバグアの囮に引っ掛かってしまうとは、知る由もなく‥‥。

 その敵艦反応をレーダーが捕捉したのは、割と早い段階だった。
 L4集積地へ肉薄しつつある小さな光点。おそらく小型艦か。アーシア少尉が集積地に通信で呼びかけるが、反応はない。ひとまず輸送艦に停止してもらい、カリブルヌスだけが加速する。
 数時間ぶりに感じる加速のG。それが艦長の精神を丁度よく落ち着かせてくれる。
「各員戦闘準備に入れ! KV隊、どうかよろしく頼む。主砲、期待しているぞ」
『了解』「1発で仕留めてみせましょう!」
「カウンセラー、座りたまえ。今から医療室に戻るのも手間だろう」
「ありがとうございます」
 逸る気持ちを抑え、ヒメが艦橋後方の椅子に座った。
 警報がけたたましく艦内に響き、否が応にも緊張感が高まる。というのももしも敵が小型とはいえ艦船だった場合、カリブルヌスにとって初の艦対艦戦となるのだ。やはり宇宙キメラ相手との遭遇戦とは感覚が違った。
 とはいえ過度に意識しすぎる必要はない。小型艦とL4集積地の間に割り込む形で急行させる操舵士。光点との距離がみるみる詰まり、前面モニタで集積地と敵を確認できる程に接近した。
 どうやら敵はビッグフィッシュ(BF)のようだ。艦長は戦闘艦が相手でなかった事に胸を撫で下ろし、同時に心のどこかで残念にも思う。
「KV隊、発艦せよ」
 4機が艦の前面に展開していく間に彼我の距離は指呼の間に迫り、敵の対空砲がパラパラと散発的に降り注いだ。軽い振動が艦を揺らす。ヒメは初めての宇宙における戦闘に、秘かに瞳を輝かせた。
 ――不謹慎かもしれないけれど。
 医療士官扱いの自分が直接戦闘に関わる可能性は殆どないが、それでも自分が乗り込んでいる艦が決定的な打撃力を持っているというのは、非能力者にとって抗いきれぬ魅力があった。
 そんなヒメの感動をよそに、戦闘は静かに始まっている。KV隊が遠巻きに牽制して敵の様子を窺うが、敵は対空砲を適当に撃つだけでひたすら集積地へ向かっている。それならばと大胆に艦が詰め寄ると、
「主砲、いけるか?」
「後は有効射程範囲に入るだけです」
「よし。射程に入り次第、君のタイミングで発射してくれ!」
「了解。G光線ブラスター砲発射シークエンス‥‥」
 息を呑んで前面パネルを見続ける艦橋要員達。そして長いようで短い10秒と少しの時間が過ぎたところで、強烈な振動と共に主砲が放たれた。
 暗黒に伸びる一条の光。それがBFに突き刺さり、爆散した――いや。
「生き残ったのか‥‥?」
 激しい閃光の後、そこには大破してはいるものの一応形は残しているBFの姿があった。とにかく生存性のみを高めていたのだろうか。とりあえずKV隊に介錯させてやろうと艦長が命令する。
 そこで4機がBFに接近し、止めを差さんとしたその時だった。
「っ!? れ、レーダーに感あり! 対象‥‥本艦より4時方向、マーク3‐3‐0、距離1000! 巡洋艦クラスです!」
「何だと!? 何故気付かなかった!」
「ステルス性に優れていた、妨害電波か何かを発していた、集積地の陰から忍び寄った。どの答えがお好みです?」
「くっ‥‥巡洋艦‥‥我が艦初の対艦戦がこんな事になるとは‥‥」
 少尉の推測に奥歯を噛み締める艦長。そんな事より、とヒメが諫める。
「ともかく対処が先かと。敵に対する恨みつらみでしたら私が後で聞きますけれど、その『後』がなくなるのは困ります」
「分かっている! い、いや、すまない‥‥よし、存分に愚痴らせてもらう為にも態勢を整えねば!」
 警報が鳴り響き、赤い照明が艦内を照らす。
 操舵士が艦を緊急停止させるや、一気に右へ舵を切った‥‥!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

 無音の世界が眼前に広がる。艦が簡易ブーストでBFから遠ざかりつつ回頭するに従い右から左へ流れる星々を見つめ、赤宮 リア(ga9958)は綺麗と呟いた。
 今度あの人と‥‥と場違いな考えが浮かび、慌てて首を振る。
「おっかさん、守りませんとね」
「セニョーラに対する狼藉は許せないからね。ヤンチャな悪党には灸を据えてやらねば」
 いち早く自機に向かうドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)。植松・カルマ(ga8288)が激しく同調した。
「当然っしょ! ここにゃ俺のフィアンセもいるし! ねーねー聞いて下さいよ皆サン俺のフィアンセも乗」『フィアンセじゃないし早く出なさいよばかうるさい!』
「うィース!」
 無線に割り込んでまで突っ込むヒメである。幸臼・小鳥(ga0067)は幸せのお裾分けをもらったように微笑んだ。
「カルマさんは‥‥無茶しないで下さいねぇー。怒らせたり‥‥泣かせたりは‥‥よくないですよぉー?」
「わーってるッスよぉ」
『何で私が植松さんに泣かされな‥‥』何やら咳払いの音がし、『傭兵隊、発艦お願いします。艦との回線は――』
 と突然業務連絡になった。艦橋で生暖かい視線を浴びせられたヒメを想像し、小鳥が苦笑に変る。舞 冥華(gb4521)の「いぬもたべない?」などという平坦なツッコミが耳に残る。
 BEATRICE(gc6758)がロングボウに乗り込み、
 ――艦をおっかさんと呼ぶ通り‥‥随分所帯じみたクルーのようで‥‥。
 システムを立ち上げ嘆息した。
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)は小鳥や月影・透夜(ga1806)ら魔弾仲間の肩を軽く叩き、
「黒星を付けさせる訳にはいかないわね‥‥此処にいる誰もが、次世代を生きなければならないのだから」
「巡洋艦の方は任せろ。ロッテ、BFの‥‥」
「承知しているわ。G光線にも耐えた奴の装甲‥‥」
 透夜に応えるロッテ。BEATRICEが話に加わる。
「何らかの特殊技術の可能性もありますので‥‥詳細なデータを取得する必要が‥‥」
「ん、冥華のやくめ? あっちの忍じゃー艦のほーがたのしそだけどこっちもなぞぎじゅつある?」
「判りません、が‥‥」
 俄然やる気の冥華が赤いピュアホワイトの出力を一気に上げる。それを待っていたように発艦許可が下り、各自飛び立っていく。ロッテは最後に艦を離れ、振り返った。
「イェラン達も宜しく頼むわね‥‥」
『貴女達との共同戦闘は初めてですから。頑張らせてもらいますよ』

●陰陽
「CW‥‥ジャミング‥‥集積地の陰から出てきたのも嫌な雰囲気だ。慎重にいかねば」
「且つ大胆に、ですよね」
 ドゥ機タマモとリア機アンジェリカ、そして艦載機。4機が緩く敵右舷へ進路を取る。噴炎を曳く姿は目にも鮮やかだ。
「俺のイケメン愛もといEYEがきっちり見定めてやるんで皆サン安心して突っ込んでオナシャス!」
 カリブルヌスの傍で虎視眈々と観測を続けるカルマ機。そんな観測も何のその、敵艦はみるみる加速しているようだ。彼我の距離が気付けば600mとなり、堪えきれぬように敵艦から中身が溢れ出た。
 大型キメラの群。それらが敵艦前面に展開するや、射程外にも拘らず砲撃してきた。案の定すぐに霧散する光線の幕。4機が編隊を組んで肉薄する。
「雑魚はこの子達で充分ですっ!」
「だったら俺も展開しておくとするか‥‥頼んだ、異星人さん‥‥!」
 2機から次々小型機が射出され、入り乱れて敵群へ突っ込んでいく。どこか幾何学的な機動のそれらは敵群へ到達すると、各自粒子砲をばら撒き始めた。一角が僅かに乱れる。4機がその穴へ急ぐ!
「チャンスは私達が必ず作ってきます! 主砲の準備、お願いしますね」
『了解。幸運を』
「いきま‥‥」
 リアが景気よく突入せんとしたその時、敵艦が蠢くや無音の光が暗黒を切り裂いた。
 キメラすら巻き添えにした敵主砲。それは果たして、おっかさん右舷を掠めて宙を駆け上った。
「っ、被害は!?」
『――軽――迅速に態勢――』
 無事らしい。リアが唾を飲む。エンハンサー起動、出力最大。リア機熾天姫を先頭とした一団が、燐光を散らして突き進む!

 光が交互に瞬き消える。そんな正面の戦闘を遠く眺め、小鳥機吼天と透夜機ディアブロ及び艦載2機が右から大回りに敵左舷へ忍び寄る。
 敵が展開するキメラ群を逆に遮蔽物として考えた迂回だ。
「カルマ。こっちは俺達だけで最悪生き残るくらいはできる。集積地側の探査を重点的に頼む」
『了解。着弾観測はするッスけどね』
「小鳥、手加減も周辺警戒もいらん。全力でブチ込んでやれよ?」
「護衛‥‥お願いしますねぇー」
 戦闘機というより巨大な野砲を動かしている感覚。小鳥がコンソールを叩いて自機を映すと、一際目に付くのは粒子砲と補助装置だ。オールグリーン。小鳥の胸が高鳴った。
 敵艦はおっかさんより『下』。4機は秘かに敵艦へにじり寄っていく。が、そこにキメラ群からはぐれたのか偵察か、数体が接近してきた。敵艦との距離は450を切った程度。
 透夜が引鉄に指をかける。
「小鳥、一気に肉薄して敵艦を下から突き上げるぞ!」
「イェランさんも‥‥お願いしますぅー!」
 透夜機の銃口が瞬く。先頭のキメラが弾けた。4機がブースト加速する!

●主客一体
「すきゃんーすきゃにんぐー」
 冥華機から放たれる不可視の光が敵を捉え、返ってきた反応が次々データとして表示されていく。目まぐるしく変動する値は世界そのもの。冥華はBFを注視する。
「ん、ろっくできた。いつでもはじめれー」
「了解!」
 冥華機の遥か前方。ロッテとBEATRICEは見る間にBFとの距離を詰めていく。スレイヤーにロングボウ。共に本来地上機だけにそれが必然であり、且つ、
「敵左舷後方‥‥損傷箇所発見。遠距離より制圧します‥‥」
 作戦意図と合致しても、いた。
 誘導及び投射システム作動。内に滾る奔流がBEATRICE機ミサイルキャリアを包む。充填完了。敵対空砲の射程外から、一方的な暴虐が迸った。
 1発が2発、2発が4発。連綿と続く螺旋弾頭の嵐が、尾を曳き敵左舷へ殺到する!
「観測を‥‥」
「う、まってくれないと冥華ぐるぐるするー」
 連続して小爆発を起こすBF。その合間に板のような何かが、見えた。そして数値に表れる僅かな弾着誤差。
「ん、そーこーを前にしゃしゅつしてるかも? にじゅーばりあー?」
「‥‥新技術ではない、と」
「たぶん?」
「でしたら」「それで充分、ね‥‥!」
 さらにミサイルを放つBEATRICEと、接近するロッテ。対空レーザーが彼女等を襲う。が、露骨に数が少ない。ロールを打って躱すや、頭を押える衝突コースを取った。
「艦載機の皆‥‥この死に損ないを一気に潰すわよ!」
『了解!』
 敵はどうやら随伴機もいないようだ。BEATRICEがパーリィを切り上げロッテ達の支援に移る。ロッテ機が衝突寸前に力場形成、人型となって艦橋らしき突起物へ目標を定めた。艦載KVがBFと集積地の間に入って撃ちまくる。敵が装甲を展開できず艦橋を曝け出した。
 ロッテ機が右の神槍を前に突き出し、勢いのまま機体ごと突っ込む!
「此の闇に沈みなさい!」
 ロッテ自身すら一瞬意識を飛ばす圧倒的突進。根元まで突き刺さった槍を引き抜き、跳躍。そして再変形に入った、その時。
「ん、てきの中で何か‥‥」
 BFから白い閃光が漏れるや、母機を食い破るように光が溢れた。

 敵艦から迸った光がおっかさんを掠め、消えていく。それを間近で見たカルマは逆上――しかけて唇を噛んだ。
「ッ‥‥ふぅ、こんな時こそイケメンは『KOOL』にこなすんだぜェ」
 艦橋を庇う位置に移動して敵を見据えるカルマ。
 リア達4機が敵群の穴に突っ込んでいく。突入口を維持せんと4つの遠隔機が縦横無尽に動き回る。カルマが大型キメラをロックし機動予測を送り、ついで集積地に目を向けた。異常はないがどうにも怪しい。回り込んで精査したいが、それより己にとって大切なのは艦を守る事だ。何しろ、あの人がいるんだから。
「冥華ちゃん、そっちで余裕あったら集積地‥‥」
 直後、左後方――BFの方で大爆発が起った。光が溢れ、衝撃波が艦まで届く。爆炎のせいで中の状況も判らない。無線も不通。舌打ちしておっかさんと連絡した――その時だった。敵2射目が、暗黒を駆け抜けたのは。
 弾着修正され、正確に艦橋を狙ってきた敵主砲。それはカルマ機を簡単に呑み込み、おっかさんを直撃した。
「ッ、が、あ‥‥!?」
 熱さも痛みも感じず、ただ光に包まれたかの如き感覚。それが一瞬でKVと体に破壊を齎した。
 一撃にして機内は赤色光と警告音の嵐。それでもカルマは無線に叫ぶ。
「カリブルヌス、無事かよぉ!?」
『――ちら――辺装甲23%融――人的被――小――』
「っし!」流れる血を拭い、カルマが檄を飛ばす。「KV各機、おっかさんは無事ッス。なんで、横っ面ぶん殴られた借りぃ返してやれや!」

 予想以上に早い敵2射目。敵艦は速攻仕様か。ドゥは目を細めて推測し、リアに告げた。
「一刻も早く敵艦を。俺達3機が――道を切り拓く」
 ドゥ機から迸る誘導弾の雨。虹を描いて周囲のキメラに向かったそれがほぼ同時に炸裂した。僅かな空白。艦載機がそこに撃ちまくり、リアが入り込む!
「では私は、敵主砲を叩き斬ってきますねっ!」
 真紅のリア機が燐光振り撒き群の奥へ消えていくのを見届け、ドゥは嘆息した。
 見回す限り、キメラの群。展開された群に完全に捕まったと言えた。が。
「やれるだろう、イーノクス。それに艦載の――アイザックさんと言ったか」
『‥‥うむ。任せておけ』
 同時に、3機のKVからミサイルが放たれた。

「充填‥‥入りますぅー」
 迂回しつつ敵艦腹側まで『高度』を落した小鳥機吼天が停止、超大な粒子砲を固定した。敵艦は急速におっかさんに肉薄している。腹を、こちらに向けたまま。
 吼天の前が透夜機で艦載2機が左右を固めた4機1体。1個のユニットと化した彼らがキメラを屠り、小鳥を促す。天鏡射出、力場固定。弾けそうなエネルギーが見る間に膨らんでいく。
 透夜機が右のキメラを体当りで止めた。接射が敵を穿つ。イェラン機が透夜の穴を塞ぐように弾幕を巡らせた。
 限界出力に悲鳴を上げる小鳥機。計器の1つが不意に赤くなった。座標計算――敵艦機関部、11時から10時方向ロック完了。充填70%、80、90、そして。
「チャージ完了‥‥はじめますぅー‥‥『全力全壊』‥‥私の本気ぃー!!」
 小鳥がそれを解放した刹那。空間が、凍りついた。
 黒白の世界。静寂の瞬間。一瞬が永遠に引き伸ばされたフィルムが、次の瞬間に色を取り戻す。
 五感をも麻痺させる衝撃。真空を切り裂く一条の光が、視認できた時には既に敵艦後部を貫き、遥か彼方まで突き抜けていた。遅れて敵艦に爆発が起る。
「砲撃完了‥‥ですよぉー」
『ビュリホー小鳥ちゃん! 敵速度が露骨に鈍ってきたッス!』
「‥‥、よし、よくやった小鳥。後は俺達の仕事だ!」
 1秒を惜しみ、あるいは小鳥の戦果に対抗するようにブーストして敵艦へ向かう透夜。イェランが続く。一仕事終えた小鳥は残された相方に言った。
「私達は‥‥艦の護衛に戻りましょぅー」

●選択
 閃光と激しい衝撃に包まれた。そう思った次の瞬間、気付けばロッテは暗黒をモニタに映していた。
「これは‥‥っ」
 頭が割れるようだ。が、自身機体共に大爆発に巻き込まれたにしては損傷が少ない。近くをBEATRICE機が翼を振って飛ぶ。
「大丈――ですか」
「えぇ、何とか」
 反射的に回避行動でも取ったか、威力が小さかったか。ロッテは疑問を呑み込み、辺りを見た。
 BFは多少の残骸が残るだけ。艦載機は小破といった程度で、BEATRICE、冥華も衝撃波を受け損傷しているが無事だ。集積地は――BFの残骸が突き刺さっているが、遠かったおかげで修理可能なレベルだった。
「ん、冥華あた――らくら。かえりた――」
「賛成です、が‥‥申し訳あ――せんがしていただきたい事――」
 雑音激しい無線で説明するBEATRICE。
 それは集積地裏への進入。自身ができればいいのだが、残り練力の関係で不可能。だが裏を実際目で見ないのも気になる、という訳だ。
 そこでロッテ、冥華、艦載2機で急行してみたところ、それは、居た。黒く平べったい、エイの如き異形。明らかに隠密性を重視した敵が。
「かくれんぼ艦がにんじゃー出してた?」
「おそらく、ね」
 囮兼自爆のBFと本命の巡洋艦、そして単騎の隠密。単純ながら宇宙空間では面倒な戦法と言えた。
「早々に撃破して周辺偵察しましょう」「ん」
 言うや、彼女達の銃砲火が集中した。

「張り付いてしまえば敵も手出しし辛いハズです!」
 紅の一矢となって群を抜けたリア機熾天姫が敵艦右舷から肉薄する。敵迎撃弾頭が数本飛来するもロールして右滑りで被害を抑え、対空砲を正面装甲で受け、リアはソレに向かう。
『敵は小鳥ちゃんの砲撃で速度減少、左舷側の迎撃システムに異常っぽいッス!』
「了解です」
 強行着艦してソレ、敵主砲を破壊せんとリア機は敵艦の腹へ捻りこむように突っ込む。
 一方で敵右舷、下方より一心不乱に突入してきたのが、
「俺は艦橋へ一点集中して敵指揮官を、殺る!」
『了解』
 横撃をかける形になった透夜機影狼とイェラン機。彼らは逆に敵艦上部へ。イェランが対空砲を潰さんと弾幕をばら撒く。影狼が敵艦を掠めて急上昇するや、一転、前部へ急降下をかける!
「おおぉぉおおぉおおおおお!!」
 ブーストして牽制程度に銃撃、そして変形。敵副砲が装甲を削るが委細構わず敢行するや、人型となった影狼が腰部を捻り右腕を引き、衝突するように機剣を突き刺した‥‥!
 ほぼ、時を同じく。
「主砲さえ使えなくすればっ!」
 敵艦の裏へ潜り込んだ熾天姫が砲身の根元へ突っ込むと、出力最大、大上段に振り被った雪村を一閃した‥‥!
 熾天姫が素早く飛び立つ。直後、大爆発。その衝撃は彼女すら巻き込み宇宙を駆け抜ける。姿勢を崩す熾天姫。リアがバーを踏み抜き立て直すと、無線に叫ぶ。
「今です! Gブラスター砲を!!」
『――う解。カウント開――』
 蜘蛛の子を散らすように退避する透夜、リア、イェラン。雑音交じりにカウントが聞こえ、3機は集積地方面へ。そして、
『――発射』
 徐に、おっかさんの主砲が轟いた。悪さをした近所の子を、叱るように‥‥。

<了>

 眼前で繰り広げられるスペクタクル。ヒメはそれを艦橋後方で見学し、感動を禁じ得なかった。
 雷神の矛か雷帝の霆か。ここに己が居合せている幸運に感謝し、同時にこの力が少し恐ろしくもなる。
 きっとこの感覚は大切なのではないか。ヒメは何となく考える。と、
『ヒメさんは怪我ないッスか?』
「カウンセラーは軽傷です。敵主砲の衝撃でコンソールにぶつか」「怪我してない!」
 カルマに答える少尉を妨げ、慌てて無線に叫ぶヒメである。
「よし、戦闘態勢解除。周辺警戒を密にし、その後輸送艦に連絡しろ。それと」
 艦長が溜めて、言った。
「我らのカウンセラー殿を治療して差し上げろ」