タイトル:【CO】敵前渡河マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2012/08/04 23:40

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウスはモザンビークにいる。
 その情報を得たのは、UPCアフリカ軍が中央アフリカで東と南に分かれ、暫く進軍した後の事だった。東へ向かった半数がエチオピアの南――東リフト・バレーを何とか突破してインド洋への連絡路をまさに確立せんとしていた時で、また南へ向かった半数がメタとその一味を追ってややアフリカ西岸寄りから南アフリカ共和国へ向かわんとしていた時である。
 そしてそのバリウス情報は、戦場を実際に俯瞰して見れば限りなく正解に近いと判断できる程度の信憑性を有していた。
「戦略的後退、か‥‥」
 軍の能力者がKVを駆って空から確かめる。その目には、敵軍が秩序立った後退をしようとしているのが映っていた。無論全軍に徹底できているわけでもなく、進攻するUPC軍に完全に呑まれている戦場や頑迷に戦い続ける戦場もある。が、全体的にはアフリカ南東部――モザンビークに向かって後退しつつあるのが明確だったのだ。
「閣下、もといバリウスらしい戦略だが‥‥」
 となるとこの先どこかで乾坤一擲の大攻勢が行われる可能性があるだけに、万全の態勢を整えて進むか、敵が戦略レベルの整然とした後退をする余裕もない程に付かず離れずで一気にモザンビークに進攻するかのどちらかにならざるを得ない。
 そこでUPCは南方軍集団をさらに分割、一部を転進させる事にした。彼らは僅かな道路を主進攻ルートとし、モザンビークの隣国――ジンバブエに進攻する。そして彼らがブラワヨをほぼ手中に収めた時、南アフリカへ進軍していた者達も北上を開始した。
 つまり、アフリカ大陸南東のモザンビークに後退したバグア・アフリカ軍に対し、UPCは北・西・南の3方から圧力をかける事に成功したのである。
 漸く辿り着いた最後の地。
 バグアの、バリウスの戦略は未だ不透明とはいえ、ここまできてしまえば後は絶対的な意志の力を以て突き進むしかない。多大なる損害を覚悟してでも、だ。
「こちら――」
 順調にアフリカの大地を踏破し、包囲を狭めていくUPC軍。遥か遠くの空では、何やら敵軍らしき影が蠢いているのが見える。どこかにラインを定めて応戦するつもりのようだ。
 長きに渡ってこの広大な大地を駆け抜けてきた反攻作戦。The Counterattack of Observed people――【CO】作戦も今や佳境に入りつつある。だが終盤こそたった1つのミスが全てを崩壊させる要因となりかねない難しい局面とも言える。
 だからこそ慎重且つ大胆に。
 敵の戦略を挫いて人類誕生の地を取り戻し、人類再誕の日を手繰り寄せるのだ。

 ◆◆◆◆◆

 モザンビーク中部を流れる大河――ザンベジ川。その上流には大瀑布ヴィクトリア滝やチルンド、テテの橋等、複数の橋が架かっていた。UPC軍としては架橋工事を行うよりも時間と資源を短縮できるこれらを利用するのは自然ではあった。
 そこで彼らはザンベジ川を上流で渡り、川沿いにモザンビークへ進攻する計画を立てる。
 が。
 破壊されずに残っていた橋を渡らんとしていた軍に突如として水中や掩体壕から襲い掛かってきたのは、タロスや強化型HWを中心とした敵迎撃部隊だった。完全な罠だったわけだ。
 そこで軍は一旦退き、モザンビークの町カイア近郊での渡河を考えた。またさらに時を待ち、南から艦船を呼び、海から回って北上するのもありかもしれないと思案する。後者は他方面軍との歩調が完全に乱れる事を意味していたが。
「‥‥やるしかあるまい」
 南方軍司令官がごくと唾を飲む。
 おそらく敵は川を利用してくる。南方軍という役割を担う以上、その守備を抜くしか道はない。
 司令官は無線を手に取ると、思いきり息を吸い込んで渾身の檄を飛ばした。
「――全軍に告げる! これより我々は渡河を敢行し、バリウスめを追い詰める! 敵は昼夜関係なく戦えるファッキンバグアだ。真昼間、堂々と、我々は歴史に残る渡河作戦を成功させようではないか!!」

 砲声が轟き、水柱が噴き上がる。黒煙と共にKVが爆発すれば、空のHWが落ちてくる。
 川の向こうや空中で戦線を整えた敵軍が右から左へ次々破壊の光を発射すると、UPC軍側から怒りを表すように榴弾の雨が敵へ降り注ぐ。
 約500mの川を挟んだ砲撃戦。橋は既存のものが1本で、架橋中のものが2本。陸軍はその作業が終わるまで砲撃戦を続ける事になるが、空では既に多くのKVが直接戦闘を繰り広げていた。
 HW編隊に対して4機が一撃離脱で突っ込めば、その4機の背後をタロスが襲う。ロールを打って散開すると、今度は友軍を襲っていた敵の背後を取る。
 両軍入り乱れた空戦。時に余裕のある者が川向こうまで突っ切ってフレア弾を投下する等の戦果もあるが、逆に地上掃射されて架橋工事が中断される事もある。
 そして、そんな状況でも既存の橋を破壊しない敵。確実に罠がある。しかしどこを渡ろうとしたところで機動力のある敵なのだから大した差はないのだ。となればここに複数架橋した方が少しはマシだろう。
「勇気を、もっと勇気を!」
「俺が突っ込む、あんたは掩護してくれ!」
 ララ・ブラント少尉率いる計6機のKVが縦横に動いて各隊をフォローし、傭兵アロンソ・ビエル(gz0061)は己の経験を活かして敵を翻弄する。その間に少しずつ、しかし着実に工事は進む。
 と、そこに。
『もう少しで増援が来るぞ! 僅か10名前後ではあるが、猛者揃いの能力者だ!』
 司令官じきじきの無線が兵達を喜ばせる。
「架橋を待って共に突っ込むか、その前に何かやっておくか。これからが本番だ‥‥!」
 何をするにせよ、軍属でない能力者が増えればそれだけ実行できる戦術に幅が出てくる。
 シラヌイ機内、アロンソはぐっと操縦桿を握り締めると、眼前の敵へミサイルをぶち込んだ。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
カタリーナ・フィリオ(gb6086
29歳・♀・GD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

「ふぉっくすつー。軍の人はかってによけろー」
 舌足らずな警告が届いたのは、アロンソが敵機を追っている時だった。咄嗟に操縦桿を倒すアロンソ。同時に上空で夥しい白煙が広がり、無数のミサイルが敵を襲った。
 空を覆う白黒の煙。それを切り裂き8機が飛来するや、それぞれ間近の敵を攻撃する。そのうち赤いピュアホワイトが高度を上げ、戦場を見晴かした。
『傭兵か!?』
「ん、冥華はかんせーたんとーだからいっぱいまもれ」
 翼を振ると雪うさぎ――舞 冥華(gb4521)のマークが燦然と輝くのが見えた。
 そこにHWが次々光線を放つ。ロッテ・ヴァステル(ga0066)機スレイヤー、La mer bleueの自動攻撃装置が火を噴き、合せて幸臼・小鳥(ga0067)が引鉄を引いた。HWが弾幕を嫌って高度を下げると、智久 百合歌(ga4980)機ワイバーンが瞬く間に距離を詰め斬り裂いていく。
「精鋭部隊かどうか解らないけれど精一杯やってやろうじゃない!」
「待たせたわね‥‥早速、やらせてもらうわ!」
 翻ってHWを追うロッテ機。その背後にタロスがつき、そのタロスを小鳥機破暁が横合いから狙い撃つ。
「今からここの制空権は‥‥私達で確保しますぅっ! アロンソさん‥‥地上はお願いしますねぇー!」
『り、了解!』
 月影・透夜(ga1806)始め傭兵4機とアロンソ、ララ小隊が飛び交う銃砲火の中で陸へ降りていく。
 それを見届け、空に残った4機は軍の12機と共に敵へ向かった。
「冥華、管制しっかりね‥‥」
「まかされろー」
 と冥華が返答した途端雑音が激しくなってくる。CWだ。見るとCWが猛スピードで肉薄してきている。そしてCWがやって来た方に目を動かしてみると、宙で投球姿勢を保つタロス。百合歌機が素早く旋回しD‐02をぶっ放した。
 銃声。パッと青い立方体が弾ける。
「‥‥投げたの? ねぇ投げたの? 何あれ。何なのあれっ」
 妙に生理的嫌悪感を催す百合歌である。
 ともあれ面倒である事に変りはない。冥華が敵陣後方のBFを捉え、そこからCWが排出されるのを確認した。ロッテがHWと交錯して言う。
「早いうちに潰したいわね‥‥」
「行くしかないかしら」
「勿論よ‥‥」
 誰か、もとい己が突撃するしかない。

●前哨戦
 陸軍後方に投下されたカタリーナ・フィリオ(gb6086)は、徐に最前線へ出向くとゼカリアを降りた。眼前には幅広い川が横たわる。緩やかな流れが実に気持ち良さそうだ。
「煩い砲撃がなければ、ですけれど」
 砲爆撃の下、生身で川縁に近付くカタリーナ。探査の眼を通して川面を視る。
 異常――発見できない。敵はいないように思えるが、巧妙に隠れている可能性は否定できなかった。また中央の橋桁に爆弾等はなさそうだ。
「あからさまな罠ですわよね。でも橋桁や欄干に仕掛けはない、となると‥‥」
 そこまで観察した時、空から傭兵4機が降りてくる。同時に敵プロトン砲が偶然を伴ってゼカリアに着弾した。地響きを立て姿勢を崩す機体。カタリーナは舞い戻ると、素早く機内に体を滑り込ませた。
『無事か?』
「えぇ」
 土煙を上げて着陸するや、透夜機ディアブロ――影狼のD‐02が火を噴いた。

 右から左、左から右。プロトン砲のカーテンによってUPC軍は少しずつ損害を被っていく。それに対し榴弾等をぶっ放す軍。その前面に傭兵達は立ち、敵を狙っていく。
「邪魔しやがるんじゃねぇですよ」
 架橋工事の傍にシーヴ・王(ga5638)機岩龍。鋼龍と名付けられる程に堅く厚い装甲が工兵達を守る。
 上流では透夜、アロンソとララ小隊の3機が撃ちまくり、下流ではドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)機リンクスとララ少尉を含む3機が狙い澄ました銃撃を加える。
 そんな、ともすれば時を忘れそうな砲撃戦がひたすら続く。が、いつまでもそのままでは傭兵の意味がない。下流、愛梨(gb5765)とドゥが中州への進出を主張した。
「あたし達が先に渡って前哨点を築くから」
 煙幕の下、完成済の橋が中州に架けられた。愛梨とドゥが橋を駆け抜ける。
 途端に橋からやや離れた川面に着弾するプロトン砲。が、その砲撃で逆に「橋を壊す気がない」と愛梨は確信する。中州に足を踏み入れた愛梨機。ドゥ機が続こうとし――愛梨が引き止めた。一旦下がり、地を銃撃する。
 横一文字に舞う砂塵。異常なし。ドゥ機が改めて中州に入る。機敏な動きでポイントにつき、敵前線を狙い撃つ。敵応射が激しい。素早く移動するドゥだが、その足元を敵光線が貫いた。続く光線が左肩部を直撃する。
「っ、気持ち良く散歩もさせてくれないのか‥‥なぁ、ファミリアレ」
 自機を労り、伏臥させるドゥ。
 一方で愛梨は水中にソナーを投下し、少しの異常も見逃すまいと計器に集中していた。
 渡河作戦の折、もし水中に敵がいれば水上だけでは時間がかかる。だからこそ愛梨は万が一を潰すべくリヴァイアサンで参戦していたのだが、
「異常なし」
 その心配は杞憂に終りそうだった。が、1つの不安を消した事は確実に兵の勇気に繋がるのだから、無駄ではないと言えた。

 そんな前哨戦を繰り広げるうち、時は刻一刻と過ぎていく。そして、
「さて、と。大仕事といきましょうか!」
 徐に、空のロッテ機と百合歌機が急加速した。目標は敵陣中央。狙いは――BF。

●航空劣勢と重心攻撃
「わなわなー、わなわなー」
 HWの合間を縫って冥華機が川へ向かうと、機体カメラを活かし橋を撮影した。そこにRCの砲撃。慌てて冥華は舞い戻らんとし――タロスに進路を塞がれた。
 右に滑る冥華機。紫色光が後を追う。被弾。操縦桿を倒し急降下で敵の下を抜ける。振り向き様に放たれた敵光線が機体後部を直撃した。黒煙を噴く冥華機。情報の奔流の中、冥華が逆に助けを求める。直後、小鳥機が横からタロスを撃ちまくった。
「冥華さんは退いて‥‥情報整理お願い‥‥しますぅー!」
「ん、いまがぞーみる」
 タロスが一旦退く。弾幕が敵を追う。冥華は高高度へ向かい、先程の画像を確かめた。
 中央の橋に細工はなさそうだ。対岸の空白地は‥‥一見何もないが‥‥。
「むむ。冥華のしんがんがきかない」
「何ですか‥‥その凄そうなのぉーっ」
 小鳥が思わずツッこんだ時、川向こうを窺っていたロッテ達が遂に突撃を決意する。
 2機が1つの生物の如く絡み、急加速した。小鳥が援護すべくそちらに機首を向ける。集積砲充填。そして、
「援護は‥‥任せて下さいねぇー。BFへの道を‥‥拓きますぅー!」
 一瞬の空白の後、解き放たれた。
 断末魔の如き雷鳴が轟く。あるいは避け、あるいは直撃して敵が蒸発した為にできた1本の回廊が、小鳥の眼前に広がった。そこをロッテと百合歌が悠然と駆け抜ける!
「ありがと。産地直送はいつでも主婦の味方ね♪」
 敵陣後方――BF近くまで空いた回廊を塞がんとHWが突っ込んでくる。それを百合歌は小気味よく撃ち払った。

 川向こうで2機を出迎えたのは対空砲とティターンの光線だった。
 ロールを打って躱さんとする2人だが、少しずつ装甲を削られていく。それでもBFへ肉薄する方が、早かった。
「覚悟‥‥!」
 急降下して一気呵成にBFを攻める2人。その射線にティターンが割り込んだ。
「退きなさい!」
 ブースト及びシステム起動。ロッテ機直下に不可視の力場が形成され、ブルーが人型を取り戻した。燐光迸るブルー。降下の勢いに反転した遠心力を加え、ティターンに渾身の斬撃をお見舞いする!
 耳を劈く金属音。敵は腕部に仕込んだ強化装甲で受けるも完全には流せない。敵がバランスを崩した。再変形したロッテ機が剣翼で吹っ飛ばす。その隙に百合歌がBFへ突っ込んだ。
「頭痛の種はさっさと消えなさいなっ」
 すれ違い様にロケラン連射。転じて敵腹部に機首を向け、撃ちまくりながら一気に突き抜ける!
 溢れる黒煙。連続する爆発。百合歌が旋回して戦果確認した――その時、吹っ飛ばされたティターンが一瞬紅に瞬いた。と思った時には百合歌機は貫かれていた。
 強烈なプロトン砲連射。百合歌がそれを認識するのと機体が悲鳴を上げるのはほぼ同時だった。コクピットが裂け、煙たい風が入り込む。懸命に姿勢制御する百合歌機。BFはまだ落ちていない。ロッテが再度突っ込んだ。
 システム起動。先程の再現の如き最大の一撃がBF艦橋を破壊する。爆発を繰り返して高度を下げていくBF。ロッテは素早くティターンに向かうや、煙幕と機関砲をばら撒いた。
『――ぅ、小癪な‥‥』
「小癪な? 当然の戦法よ!」
 ロッテ機が踵を返して自陣へ戻る。
 満身創痍の百合歌機が前、ロッテ機が後方。さらに自陣から小鳥機の狙撃が2人を援護した。
 おかげで自陣への帰還を果たす。が、その損害は大きかった。2機の損耗は酷く、さらに自陣上空の戦況が一時的に敵側へ傾いたせいで陸軍に被害が出ている。
「ごめんなさい、もう大丈夫。私のわんこはそう簡単に墜ちないわ」
 意気消沈どころか今すぐリベンジしそうな百合歌。
 フラフラ漂う機体から下に目を向けると、そこでは架橋工事が大詰めを迎えていた。

●渡河と罠
 敵砲撃に加えて空の攻撃が陸軍を削っていく。火山の如く対空砲が火を噴くが、やはり不利であるのは否めない。だが橋の方はシーヴやアロンソ等が体を張ったおかげで完成しつつあった。
『架橋を開始する』
 工作車輌が橋を持ち上げ川へ向かう。軍が対岸へ煙幕を落した。透夜、ララの狙撃が付近のタートルを穿つ。薄まる敵光線。重々しい音を立て橋が架かっていく。そして橋が対岸へ届く直前、
「これより中央を進撃する。あからさまだが俺達が行かない訳にもいかんからな」
「誘いに乗ってみなければ詳しいところは判りませんもの」
 敵が敢えて破壊しなかった中央の橋に、透夜とカタリーナは突っ込んだ。

『――ぅ、小癪な‥‥』
 空でティターンが発したその言葉は、中州の愛梨にも届いた。それを聞いた瞬間、愛梨は敵の名を呟いていた。
 ドゥアーギ。
 同僚の故郷とかちょっとした罪悪感とか、そんな理由でアフリカ戦線に踏み込んだ愛梨に色々と押し付けてくれた、敵だ。
 改造された子供。血飛沫を上げ倒れる子供達。自己満足で作った小さな墓。殺した感触。様々なものが脳裏に蘇る。
「ドゥアーギ‥‥!」
 奥歯を噛み締め機関砲の引鉄を引く。タートルが勢いに押され後退した。敵光線が腰部を直撃する。
 愛梨はペダルを踏んで横に動き空を仰ぐ。黒煙を上げ墜ちていくBFと、その脇で迎撃に徹するティターン。突撃したい誘惑に駆られ、しかし愛梨は深呼吸した。
 ――今、あたしにできる事を‥‥。
 気付けば中央では透夜達がブーストして突っ切ろうとしている。傍ではドゥ機が様子を窺いつつ冷徹な狙撃を続けていた。
「‥‥渡河後、あたしは遮蔽物の裏を重点的に狙う。あなたは見える敵を撃ちまくって」
「了解。散歩道は自力で切り拓けって事か‥‥」
 中州から敵陣への橋も遂に架かる。煙幕が少しずつ晴れていく。ドゥ機が中州の端から砲弾をばら撒いた。さらにドゥの狙撃がRCの顔面を射抜く。それを合図に、2機は一気に対岸へ進出した。

「おぉおおぉぉおおぉおぉ!!」
 先陣を切って橋を抜ける透夜。カタリーナが左右の川面を警戒するが、敵影はない。対岸が近付いてきた。敵が直接狙ってくる。正面装甲で受け、構わず前進する。そして対岸へ後1歩という時、突如透夜が空白地帯の地面を撃ちまくった。
 朦々と立ち上る砂塵。カタリーナがそれを目晦ましに渡り切ろうとした。直後。
『――■■!』
 庭を荒らされた怒りを表すように、土中から巨体が飛び出してきた。
「EQ!?」
「やはりか。カタリーナは邪魔な周辺を片付けて橋の確保を、俺はこいつを――」
 心躍らせるようにEQへ肉薄する透夜機影狼。飛来する棘は装甲に任せ小跳躍、渾身の斬撃を大上段から振り下す!
「ぶっ潰す!」
『――■■!』
 土中に潜らんと蠕動する敵。透夜機はややバーニアを噴かして宙に留まるや袈裟斬り、反転して斬り上げと続け、
「罠なら食い破ればいい、それだけだ!」
 建御雷の刃を深々とEQへ突き刺した‥‥!

「エスペランサの名が貴方がたにとって絶望となる事、その身に刻んで差し上げますわ!」
 カタリーナ機エスペランサ――希望。彼女は空白地帯に進入し、初っ端に散弾をぶっ放す。キメラ群の一部がパッと弾け飛んだ。自動給弾、同時に主砲が再び火を噴いた。
 臓腑に響く衝撃。1秒と経たずRC胸部へ着弾。仰け反った敵に止めとばかりもう1発が吸い込まれる。
 至近のタートルは対岸にて撃破済。つまり橋頭堡を築く為には、
「中央軍へ、戦車を進ませて宜しいですわよ!」
 左右遠距離からの光線とRCの進出に気を付ければいいだけだ。
 カタリーナが散弾をキメラに撃ちまくる。群を掻き分けRC5体が集中してきた。敵光線が足元を抉る。盾で受けたゼカリアだが姿勢が崩れ左腕、左脚と被弾した。前進して5体と正対し、滑空砲を放つやツインブレイドで払った。
 RCの残忍な瞳が輝き、3体がカタリーナに肉薄、凶悪な牙で次々襲い掛かる。その時背後でけたたましい音がした。カタリーナ機が20m程跳躍して撃ち下そうとした。その真下を。
「待たせた。こいつらを押し戻せばいいんだな」
 透夜機がRCに突っ込む!
 着地。カタリーナは透夜機に並び立ち、剣と盾で押していく。左右の光線が6度飛来したが、それ以降はなくなった。何故なら、
『我これより橋頭堡の拡大に移る!』
 戦車が陸続と渡河してきたからである‥‥。

 それは上下流でも同様だった。だが上流はララ小隊3機の健闘空しく渡河中に砲撃され、先陣が川へ落されてしまう。限界を迎えていた彼らが陸に戻る事は2度となかった。
 一方下流。中央より遅れて対岸へ移った2人は右に左に機関砲を撃ちまくり、敵を牽制した。すかさず愛梨が地殻計測器を設置し、ドゥは前進して弾幕を巡らせる。
 だが如何せん火力不足だった。RC5体が川に落さんと面で押してきた。後退どころか被弾が重なり、遂に装甲が溶けてきた。愛梨機をプロトン砲が射抜く。風防が割れ、体に突き刺さった。失敗かと覚悟した次の瞬間。
「持ち堪えやがるです、後ろはシーヴ達がいますので」
「ろけらんどかーん。とかはりくぐんのはなってじっちゃがいってた」
 中州のシーヴ、ララ少尉と空の冥華、百合歌の支援砲撃が、RCに降り注いだ。
「もうひと頑張りか‥‥全く人遣いが荒い」
 ドゥも愛梨も中州で頑張った為、損耗が早い。異常を示す赤い光が機内を満たす中、支援を頼りに立ち回っていく。そして20秒後、戦車が到着したのだった。

 かくして渡河に成功した軍は地歩を固めていく。それに従い空の戦場も川向こうに移るが、ティターンは遂に前線へ出る事はなかった。おかげで空の損害は意外とない。
 が。
 途中、航空優勢を失った事、渡河に際して航空支援が殆どなかった事が陸軍の被害を増やす結果となった。とはいえ渡河成功に変りはない。彼らはアフリカの全てを取り戻すべく進軍する‥‥。

<了>