タイトル:【CO】連絡線上の戦いマスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/29 01:03

●オープニング本文


 アフリカ大陸には大地溝帯と呼ばれる巨大な峡谷が、全部で三つある。
 そのうちの一つが、エチオピアから遥か南、タンザニアへ至る東リフト・バレーである。

「どうにも、あの狸オヤジを追い詰める為にはこいつを越える必要がありそうなんだよ」
 ディロロ、ナミビアの転戦を経て、既に拠点化しているスーダン・ジュバに到着したジークルーネ。
 その艦長にして欧州軍軍団長、ウルシ・サンズ中将は、その『作戦』の為に集った傭兵たちを前にして言う。
 彼女の言葉を合図とするように、傍らに立った副官、朝澄・アスナ中尉はディスプレイのコンソールを叩いた。
 ディスプレイに映し出されたのはアフリカの地図。
 その中に三本のラインが入っている。それは東リフト・バレーを含む大地溝帯を示すものだった。
 三本のラインは途中で一つへ収束する。そして北からタンザニアまで下ってきた東リフト・バレーと、その収束地点を起点にモザンビーク方面へ下るニアサ・リフト・バレーを繋ぐと――。
 大陸の東側に、断崖絶壁に挟まれた孤立地帯が出来るのだ。
 孤立、と言っても、逆に言えば簡単に要塞化出来る環境ではある。
 これをピエトロ・バリウス――の知識を持つバグアが利用しない手はない。

「だから、まだ南まで攻めきってない今のうちに、侵攻しやすい環境が出来てる北の方からその孤立環境を奪ってやろうって話だ」
「今はどこに拠点を構えているかわからないけれど、いずれにせよ移動してくる可能性はありますから‥‥」
 一つ宜しく頼むぜ野郎共、とサンズが言い。
 その後、それぞれへの指示が下され始めた――。

 ◆◆◆◆◆

 キメラの群とワームの群。
 眼下では敵が波のように蠢き、大地の裂け目を挟んで向こうに布陣する人類側へどうすれば飛んでいけるかと考えているかのよう。空の敵は多くがジークルーネや友軍に引き付けられており、その間隙を衝いた一行は超低空を這うようにして裂け目を飛び越え、敵中枢を一気に叩くべく電撃的に敵上空へ突っ込んでいた。
「この敵布陣、どこかに指揮官がいる筈。どこにいる‥‥?」
 ジークルーネが敵航空戦力を引き付け、その間に敵軍頂点を討つ。その為に放たれた幾つかの槍の1つが、彼らだった。
 目的は1つ。敵指揮官を直接叩く討伐班の後方援護、つまり連絡線の確保だ。
「こち――!?」
 通信せんとした傭兵のKVの右翼を地上からの敵光線が掠めた。咄嗟にロールを打ってやや左へ。傭兵がロケランを放つ。大量の白煙を曳いて弾頭が地に吸い込まれた――その時、無線に1つの報告が入った。
 すなわち、敵司令部と思しき掩体壕を発見した、と。
 半地下に作られたその掩体壕は、パッと見では周囲の大地と全く変わらない掩蔽が施されていた。だが偶然にも傭兵の1人が、その『大地』が僅かに開き、中からワームが飛び出していくのを目撃した。
 そこで彼らは掩体壕付近へ強行着陸を果たしたのだが――。
「堅いな‥‥」
 10機や20機程度のKVでは短時間のうちに破壊できそうにない。ならばワームが射出された瞬間にKVごと侵入したいところだが、弁のような構造、敵の射出とのタイミング、物理的問題等から、突入班は生身で行く事となった。
「KVの方、頼んだ」
「了解」
 かくして外に残る友軍に自らの相棒を託し、一行は生身で掩体壕へ侵入した‥‥。

 薄暗い内部。埃っぽい臭い。機械の駆動音が低く響き、地下かどこかからワームが次々地表へ運搬されていく。
 討伐班が指揮官を目指してさらに奥へ突き進んでいく一方、援護班はひとまず侵入してすぐの地点で簡単にベースキャンプを築いていた。
 すぐ脇にはワームの射出口に繋がるぽっかり空いた待機場所が広がり、その隅の物陰に隠れた形だ。この待機場所から通路を出て少し行くと分岐点があり、地下へ続く道も見えた。その分岐点をさらに進んでいったのが討伐班だ。
「連絡線の確保、か‥‥」
 じきに内部の敵が押し寄せ、また外からも射出口が開いた時に救援が来るだろう。またじっとして不気味に地表へ運ばれていくワームもいつ内部で活動を開始するか分からない。
 どこまで確保するか。
 傭兵が思案した時、不意に待機場所に掠れた声が響き渡った。
「た、助けて‥‥!」
 物陰からワームの方を窺うと、何やらみすぼらしい装束を身につけた2人の男が転がるようにこちらへ駆け寄ってくる。
 戯れに拉致され、強制労働に従事させられているのか。あるいは強化人間の演技か、改造された自覚すらない哀れな犠牲者か?
 ――いずれにせよ、その掠れ声がワームの注意を引き、内部の敵を呼び寄せる事となったのは間違いない。
 通路の方から近付いてくる敵の激しい足音を聞きながら、傭兵達は各々の得物を構えた‥‥!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
エレナ・ミッシェル(gc7490
12歳・♀・JG
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
黒木 霧香(gc8759
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

「其処で止まりなさい!」
 こちらへ駆け寄ってくる正体不明の2人を制止したのは、彼らに砲口を定めたロッテ・ヴァステル(ga0066)だった。
 内容を理解したというより声に気圧されて足を止めた2人。鐘依 透(ga6282)は物陰から飛び出し、ごめんなさいと繰り返し頭を下げる。
「僕らは仲間の命運を背負っています。絶対に失敗できない‥‥だから、ただ一度だけ‥‥そしたら助けます、助けられますから‥‥」
「え、え?」
「僕らを信じてくれるなら‥‥必ず、助けます!」
 無条件に両手を広げたいのに、それを許さぬ状況だとも解っている。だから透は、彼らを一度だけ傷つける決意をした。
 ロッテが目配せし、幸臼・小鳥(ga0067)がその辺の小石を手に取る。杠葉 凛生(gb6638)が何一つ見逃すまいと目を細めた。ムーグ・リード(gc0402)は2人と視線を交し、頷いた。大丈夫だと、少しでも気持ちが伝わるように。村雨 紫狼(gc7632)が「クソ、インベーダーどもが」と毒づくと、その脇でエレナ・ミッシェル(gc7490)は静かに銃に手をかけた。それを、黒木 霧香(gc8759)が注視する。
「すみません‥‥少し痛くても‥‥我慢して‥‥下さいねぇーっ」
 未だよく解らないといった2人に、小鳥がふわと石を投げる。それが体に当れば人で、弾かれれば強化人間だ。
 8人が息を呑む瞬間。やや放物線を描いて飛んだ石はしかし、
「ひい!?」
 咄嗟に2人が屈んだ事で外れてしまった。直後、
「ミッシェルさん!?」
 ガァン!
 霧香の声と銃声。
 一瞬の発火炎と沈黙の後、2人と襲撃者――エレナの間に立っていたのは、凛生とムーグだった。凛生が2人を庇い、ムーグが射線上でエレナに銃を向け。
「マダ、早計、デス‥‥」
「ちょま、ちょっと待ってもいいんじゃねーかな? ほら人間ならいきなり石投げられたら普通避けるぜ!?」
 銃を向け合うムーグとエレナ。エレナを宥める形で紫狼が間に入り、その隙に凛生が2人に石の意味を説明する。
 そうして再びFF確認が行われ、結果は――白だった。
「念の為に訊くが、ドゥアーギ、ノエルという名に心当りはないな?」
「な、ない‥‥だから助けてくれ‥‥」
 2人の瞳は恐怖に揺れていた。凛生が肩に手を置き、7人に向き直る。
「俺は信じていいと思うが‥‥まあ後は任せる。何処から逃げたのか、他に人はいないかだけ訊いておいてくれ」
 凛生が奥へ続く通路に目を向ける。ここで時間を食った為、次の瞬間には敵が来そうな程に足音が近い。すぐさま押し返さねば分岐路に辿り着くのもままならない。
「‥‥まぁどーでもいーけど。私に迷惑はかけないで下さいねー」
「此処は任せたわ‥‥」
 不承不承といった様子で通路へ走るエレナとロッテ。小鳥がロッテに続くと、凛生とムーグは透達に2人を預け、やはり通路奥へ急いだのだった。

●バリケード
「退きなさい!」
 迸る力の奔流が通路を貫き、青白い光が辺りを照らす。その光を追うようにロッテが駆け、小鳥、凛生、エレナが撃ち、ムーグが討ち漏らした敵を討っていく。5人の圧倒的な弾幕は分岐路からキャンプ地に向かいつつあった敵群をみるみる押し戻す。
「ここから先は‥‥通せんぼなのですよぉー。蜂の巣になりたくなければ‥‥下がるのですぅ!」
「弾幕ゲーだよー!!」
 ただしこちらが大量の弾を吐き出す側だ。
 小鳥が機関砲のとんでもない反動を抑える事なく通路全面にばら撒けば、エレナのSMGは適度な指向性を以て多脚ワームを穿つ。凛生とムーグが3点バーストで竜牙兵を崩し、その死骸を持って行く。
 先頭のロッテが再び大質量の光を放つ。巻き込まれる敵と辛うじて避ける敵。一直線に道が拓かれ、遂に分岐路が見えた。ロッテが加速して突っ込む!
「分岐路を確保‥‥! さぁ、これからが本番ね」
 分かれ道に着くやロッテが2方向へ牽制射。次いで瞬天速で辿り着いたムーグが敵の残骸を放り、土嚢代りとした。
「コレ、ヲ、積ミ重ネ、バリケード、ヲ‥‥!」
 今は僅か数cmだが、すぐに腰以上の高さになる筈だ。何故なら、真正面と右手から押し寄せる波濤の如く敵が湧いてくるから。
「うにゃぁー‥‥固定砲台‥‥ですぅー!」
 分岐路に飛び込み伏せた小鳥が真正面に撃ちまくると、薄暗い通路が発火炎でコマ送りの如く明滅した。

 正面方向をロッテ、小鳥が食い止め、地下方向を凛生とムーグが進む。エレナは中央で遊撃的に多脚ワーム狙いだ。
 ムーグが竜牙兵の剣を銃把で受け、払って懐から撃ち上げると、敵が抱きついてくる。その顔面を凛生の銃弾が貫き、骸骨のような体が離れた――と思えば地を這うハイエナが2人を襲う!
「チィ‥‥!」
 退る凛生。ムーグが無理矢理敵を蹴り上げ、銃撃で敵を殺す。2人が地下の暗闇を見通さんとさらに階段を下りかけた時、無線が鳴った。
『‥‥杠葉さ‥‥ムー‥‥地下に人‥‥気配‥‥さっきの人もそこ‥‥れないです』
「了解」
 地下に人がいる可能性を告げる霧香の推測。2人は頷き合い、さらに進む。が。
「敵ガ、多イ‥‥!」
「クソ!」
 やや進んだ先。踊り場のような空間には、敵が犇き合っていた‥‥。

●矜持
 霧香は2人の男のボディチェックをしながら凛生に頼まれた質問を投げかけた。
「それが無我夢中で‥‥」
 が、どこかはっきりしない。おそらく地下からワーム運搬機を上ってきたとは判るが、どうも記憶が途切れ途切れらしく、気付けばここにいたそうだ。
 ――何らかの細工は施されている‥‥でもそれは洗脳ではない?
「では壁際で伏せ‥‥いえ、眠っていただいても?」
「え?」
「起きていても怖いだけでしょう。次に目を覚ます時は、きっと病院ですから」
 疑ってはいる。だが言葉にした事も霧香の本音だ。本心から助けたい。だから眠らせる。100%は人を信じられないけれど、助けを求めてきた人は絶対に救う。騙されたならそれまでの事。それこそが職業軍人の家に生まれた自分の義務ではないか。
 紫狼が射出口側を警戒する。透が下から上へ流れゆくワームを注視しつつ、肩越しに振り返った。
「来るのが遅れてごめんなさい。後でお見舞い、行きます。だから‥‥」
 若さを恥じる事なく、持っていよう。透の思いを示すように右腕が青く輝く。
「ゆっくり力を抜いて」
 凛とした霧香の歌声が響き、壁に背を預けて座っていた2人は無抵抗で意識を失った。
 それを確かめると、霧香は壁に手を当てセンサーを発動した。目を瞑り、集中して。
「敵さんのお出ましだ! 飛竜型4にライオン型3、初戦はのんびり行こうぜ!」
 紫狼の警告も右から左。霧香の意識は壁の奥のさらに向こう。冷たい空間が広がるそこに――数滴の波紋が、広がった。
「見えた‥‥杠葉さん、ムーグさん、地下に人――」

「行くぜ、獣猛装! 紫電騎士‥‥ゼオン!!」
 薄暗い洞穴も何のその、紫狼は大仰に振り被った天照を大上段から振り下した。地を這う獣を両断するや、彼はそのまま飛び上がって飛竜に襲い掛かる。が、僅かに足らず着地。直後横へ跳ぶと、そこに敵の吐いた液体が飛散した。
 紫狼と逆に動く形で透が肉薄、飛竜の翼を撃つと高度を下げた敵へ一閃を放った。断末魔を上げて墜落する敵。透が残るキメラを素早く見回す。
「ぬぅあぁ! 俺も負けてらんねーぜ!」
「村雨さん、もう少し静かに‥‥」
「何言ってんだ。ただでさえ暗い壕、気持ちだけは切らす訳にいかねえ! だからこそ声掛けすんだよ」
「な、成程!」
 2人は次々敵を倒す。その死骸を霧香が秘かに要救助者の周囲に積み、バリケードとしていたが、そのうち再び射出口が徐に開かれた。
 流入してくる敵群。霧香も2人に近付き緊密な連携で対処せんとしたその時、無線が嫌な報せを拾った。
『こちら分‥‥ちらに3体抜け‥‥!』
 通路側を振り返ると、暗闇からハイエナ3体が飛び出してきた。唸りを上げて距離を詰める敵。霧香が咄嗟に機械剣で受けるが勢いを殺しきれない。弾かれる霧香。敵の牙が霧香の首を狙う。透が素早く間に入るや、十字に敵を刻む!
「大丈夫ですか!?」
「っ‥‥はい」
 フラつく頭に鞭打ち霧香が錫杖を振るうと、合せて紫狼の斬撃が煌く。返す刀でハイエナを殺し、射出口へ向き直った――瞬間。
 おおおおおおおぉおぉぉおんん!
 耳を劈く遠吠えが鳴り響き、それを合図にしたように今まで微動だにしなかったワームの口から、拡散フェザー砲が迸った‥‥!

●防衛戦
 銃声銃声銃声。敵の密度のせいで銃声すら若干くぐもって聞こえる踊り場で、凛生とムーグは一進一退を繰り広げる。
 地を這う獣が足元を襲えば、多脚ワームが正面から圧してくる。隙を埋めるように竜牙兵が巧みに戦えば、再び獣が突っかかる。2人はじりじり下りつつ銃撃で押し戻すや、そこにムーグが突っ込んで山刀による十字撃を放つ!
「何、トカ、シテ‥‥!」
 四方へ膨れ上がる衝撃波。びしゃあと両壁に獣が叩き付けられ、むせ返る血臭が広がった。が、それでも次から次に階下から敵は補充される。
「‥‥無理か。クソ‥‥」
「退キ、マス、カ?」
「仕方ない。指揮官を倒せば人を収容する間もなく撤退すると信じるしか‥‥」
 凛生は銃を敵群に向けたままゆっくり退き、ふと自らの言葉に笑いが込み上げてきた。
 ――いつから俺はこんな正義の味方サマになったんだ?
 堪え切れず喉元から笑みが零れた。それは自嘲と苦笑がない交ぜになったもので、けれど不思議と快い。そんな妙な感覚だった。
「‥‥ハ、俺も随分甘くなったものだ」
 引鉄を引く。ムーグに飛び掛らんとした敵が吹っ飛んだ。ムーグが山刀で敵を払い、後退する。肩が触れそうな距離。2人の男が一瞬、視線を交した。
 久しぶりに再会したような、そんな何かが、溢れた。
「‥‥距離、ヲ、置コウト、シテイル、ノカト」
「‥‥、さあな。それより俺は、こいつらと距離を置きたい」
 凛生が銃撃してはぐらかすと、ムーグもそれに従った。

「此処から先は‥‥通す訳にいかない!」
 機関砲のけたたましい轟音が通路を支配する中、ロッテはひたすらEキャノンを撃ちまくる。機械光が敵群に吸い込まれ、敵が弾ける。その屍を踏み越えて敵は押し寄せるが、そこを狙ったエレナの射撃が敵を崩し、小鳥の機関砲が止めを差した。
 三者三様の銃砲火が敵を押し返し、バリケードも増えていく。しかし。
「速い‥‥!」
 一瞬の隙を衝いたハイエナ3体が3人の間を抜けていった。それを見、敵は一気に圧力をかけてくる!
「小鳥!」「にゃっ!?」
 ロッテが伏せ撃ちする小鳥ともども横っ飛びで敵光線を躱さんとするが、2人が避けるには通路は狭すぎた。光線、闇弾と続き、酸が2人に浴びせられる。エレナがその穴を塞がんと銃身が焼け付く程撃ち続けるが、敵は積み重なった屍を遂に崩し、押し寄せてきた。2歩退くエレナの胸に一条の光が刺さり、辛うじて堪えたエレナの脚にハイエナが牙を剥く。
「っい‥‥!」
「エレナ、動かないで!」
 虎視眈々と止めを狙う竜牙兵をロッテはツインブレイドの一方で払い、頭上でぶん回してハイエナに大上段から突き刺す。半身返してワームを薙ぎ払うや、小鳥の機関砲がやや敵を押し戻した。ロッテが砲撃を加えて牽制する。
 辛うじて保持できたもののまた崩壊しかければ拙い。そこに地下へ敵を押し込める目的で進んでいた凛生とムーグが戻ってくる。
「人、ガ、居ル、可能性、ハ、アリマス、ガ、突破、デキ、マセン、デシタ‥‥」
「だがある程度積極的に敵群は痛めつけた。進攻は遅らせられただろう」
 本当は他の出入口を探しておきたかった凛生だが、この状況では無理そうだ。
 5人に戻った班は即座に地下側にもバリケードを築いた。その作業中にも敵味方の銃砲火が入り乱れ、聴力は麻痺しつつある。埃が充満して視界は暗く、そこにガチャガチャと敵が来る。それでも5人は撃ち、払い、体で敵を止め、
「待って‥‥下さぃー!?」
 そして伏せ撃ちする小鳥の耳に。
 敵群の向こうで別の誰かの交戦音が聞こえた‥‥!

●1つの結末
 吹き荒れる暴虐の嵐。許容量を超える轟音。
 傍若無人に空間を引き裂く数多の光が壁を、天井を、床を、そして壁際に積まれた屍をなぞっていく。壁等はやはり頑丈なのだろう、崩れなかった。しかしバリケードは、
「っ‥‥ぅ‥‥あつい‥‥あつ‥‥た、たす‥‥」
 悲鳴を上げる事すら許さぬ致命傷。眠っていた1人が、苦悶の声と共に這い出てくる。
 透が光線を見事に躱し、振り返る。床には紅い跡。要救助者の右半身は、ほぼ消し飛んでいた。息を呑む透。動きが止まった瞬間を狙われ、しかし紫狼が透ごと地に伏せた。必死に這う男の目は透を見ていて、透はどうする事もできず、ただ男の方に手を伸ばし――
「ッ危ねえ!!」「!?」
 直後。その男から白い光が溢れ、爆発した。
 辺り一面に飛び散る肉片や血潮。2人の体にまでそれが届く。
 ――爆、弾‥‥?
「やっぱか‥‥やっぱ仕込んでやがった‥‥クソ! もう1人は無事なのか!?」
 怒りを露わにする紫狼。その問いに、光線を浴びつつも何とか壁際へ退避していた霧香が崩れたバリケードへ向かう。そしてその奥に横たわる男の首に手を当て、生存を確認した。
「‥‥おそらく後催眠のように何らかのきっかけで無意識下の命令が発動し、自爆する仕掛けだったのでは? 彼の場合は体が甚大な衝撃を受けた事で催眠状態になるまでもなく爆弾が誤作動した」
 霧香が推測するが、真実かは判らない。それより、今は。
「つまりあのデカブツが悪いって事か。だったら‥‥叩き潰す!」
 紫狼が呆然としていた透の背を叩き、サイ型ワームへ走る。透は拳を握り締め敵を見据えた。
「ごめんなさい‥‥仇、なんてきっと意味がないけど、でもせめて‥‥!」
 透の斬撃が乱れ飛ぶ。運搬機のベルトが寸断され、敵の脚まで吹っ飛んだ。紫狼がベルトに跳び移り、一気に敵へ肉薄する。透が敵の口――砲口に銃弾を叩き込むと、猛威を振るっていた光線が漸く息を潜めた。
 霧香の錫杖から放たれた電磁波が敵の目を焼く。敵が体を揺すって動き始めるが、巨体が充分動ける余地は少ない。思うように動けずにいる敵の背を駆け上り、紫狼が小跳躍から刀を首に突き立てる!
「侵略者は大人しくしてろォ!」
 その後も3人の集中攻撃が続き、遂に1体のワームの撃破に成功する。
 とはいえ運搬機を破壊した事で地下の敵が自力で動き出す可能性も否めない。できるだけ早く撤収したいところだったが、それは数分と置かず果たされる事となった。というのも、
『討伐班を確認、脱出準備‥‥!』
 無線から、待望の報が届いたのである‥‥。

<了>

 脱出、直前。
 透は生き残った1人の要救助者に手を貸しながら、肩越しに壕の中を振り返る。
 ――ごめんなさい‥‥助けられなくて。迷惑かもしれないけれど、僕は貴方を忘れないから‥‥。
 亡骸も収容できなかった名も知らぬ彼に、せめてもの祈りを捧げた‥‥。