タイトル:【CO】仄暗き戦マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/28 14:03

●オープニング本文


 薄暗く、奇妙な鳥や虫のざわめきが支配する自然の楽園。
 逞しい木々がこれでもかとばかり無秩序に枝葉を伸ばし、地上に降り注ぐ陽光の大半を遮っている。歩くたびに腐葉土が沈み、その拍子に落葉の影で何かの幼虫が蠢いた。
 熱帯雨林特有のジメジメどころではない暑さが、刻一刻と体力を奪っていく。
「この‥‥この我が今なお‥‥」
 禿げ上がった頭を樹の幹に打ちつけん勢いで、黒人――ガンボ・ドグサは毒づいた。生来の豪放磊落な性格は鳴りを潜め、落ち窪んだ瞳が異様に輝いている。
 右腕は既になく、右脚も自由がきかない。それもこれも人間どものせいだ。4ヶ月程前、人類側の拠点を急襲した際に失敗したのだ。その時は限定突破するという屈辱を甘んじて受け入れ、這う這うの体で逃げてきた。が、その自らの決断にすら、ガンボは苛立っていた。
 何故こんな、無駄に生き長らえようとしたのか。自分のふとした油断とはいえ、負けたのだからその場で死ねばよかったのだ。なのに、何故、今もこんな所に戻ってきてまで生きているのか。
 最低だ。
 そして最低と言えば、今、無言で後ろに付き従う――、
「おい」
「‥‥」
「おい!」
「‥‥は。何か」
 顔見知りが特別に調整したとかいう、紛い物のニンゲン4体。こちら側の手を加えすぎたせいで、少なくともガンボにとってはキメラのようなものだった。こんな玩具よりは、生身の人間どもの方がまだマシだろう。
 が、嫌がるガンボにこれを押し付けてきた顔見知りは以前この肉体の獲得に協力してくれただけに、断る事もできなかった。
「‥‥ふん。面白みも何もない返事をしおって」
 何もかもが最低だ。
 せめて少しくらいこの死に体を楽しませてくれ。
 ガンボは舌打ちすると、深き熱帯雨林を彷徨い始めた‥‥。

 ◆◆◆◆◆

 アロンソ・ビエル(gz0061)は眼前に広がる森を見上げ、なんとなく懐かしいような寂しいような、そんな郷愁を感じていた。
 ――といっても、うちの森はこんな深いもんじゃないが。
 故郷の森が子供の遊び場と思える程に広大な、中部アフリカの熱帯雨林。そこに今から踏み込むのだ。
 熱帯林となると戦車やそういった大型兵器を前面に展開するなどして物量で攻めるのが難しくなる。だからとて中部アフリカの各所に点在、あるいは一続きとなって広がる熱帯雨林を手付かずのままスルーしてしまうと、中にバグアが潜んでいた場合にそいつらを増長させてしまう。
 つまり完全に制圧するというわけではなく、威嚇の意味を込めてある程度痛めつける。それで耐え切れずに敵が打って出てくれば御の字だし、引き篭もったならそれはそれでありがたい。
 アロンソが今から参加するのは、そんな意図が込められた作戦だった。
「これより状況を開始する。各チームは定時報告と――」
 下士官の話を聞きながらアロンソは深く息を吸う。
 するとニコチンの強烈な臭いが鼻を突き、彼は思わず顔を顰めた。

 粘っこい暑さが絡みつき、傍若無人な枝葉が衣服を擦る。
 肌はできるだけ露出しない出で立ちではあるが、ふとした時に茂みが顔を撫でる事もあって気は抜けない。遠く木々の先、極彩色の鳥がぎゃあぎゃあと騒いで飛び立っていった。
 腰に吊るした水筒を取り、少しだけ水を口に含む。
 周囲を見やると、同じく傭兵としてこの作戦に参加している者達が、あるいは顔を顰め、あるいは平然と、また別の男は何故か陽気に、落葉を踏み締め前へ進んでいる。アロンソが樹上を警戒し、ゆっくりと踏み出す。
 この厳しい自然の中ではともすれば勘違いしそうになるが、敵は自然ではなくバグアだ。ただでさえ面倒な地形なのだから、確実に敵より先に相手を発見し、何としてでも有利に事を運ばねば。
 ライフルを構えて周辺に厳しく目を向けるアロンソのそんな願いは、直後、儚く散る事となった。何故ならば。
「はっはぁ、我の庭へよくぞ参った人間ども! ゆっくり楽しもうではないかぁ!!」
 どこからともなく大音声が轟くや、前方180度から銃弾の嵐が降り注いできたのである‥‥!

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
黒木 霧香(gc8759
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

「ふにゃぁあぁっ!?」
 か細い悲鳴と銃声が重なって密林に反響する!
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)が咄嗟に悲鳴の主――幸臼・小鳥(ga0067)を小脇に抱え、アロンソを巻き込んで地に伏せると、僅かに顔を上げた。
「いきなり手荒い歓迎をしてくれるわね‥‥!」
「ひん‥‥目が‥‥目がぁー‥‥」
 顔面から腐葉土に突っ込んだ小鳥が呻く。そこに、銃声に劣らぬ大音声が響いた。
「ロッテ、無事だな!?」
 月影・透夜(ga1806)だ。
「当然!」
「よし‥‥しかし、待ち構えていたというより互いに遭遇してしまったようだ」
 先制できなかったのは痛いな、と透夜。木陰から前を覗いてみるが、途端に銃弾の嵐が頬を掠め、素直に顔を引っ込めた。
 透夜が頬の血を拭い皆に「今は動くな」と警告する。龍深城・我斬(ga8283)と舞 冥華(gb4521)がやはり咄嗟に隠れた物陰で首肯した。
「後手に回ったか‥‥待ち伏せられてたんなら罠の1つや2つ‥‥」
「いや、それならより周到に奇襲する筈だ。回避できない程な」
「それもそうか。っかし、あの声‥‥」
「ん、へんなおっさんいきてた? あんなずたぼろーにしたのにちょっとすごいかも。むむ、冥華のぜかりあーといーしょーぶ?」
「知らん知らん」
 我斬も冥華も先程の声に覚えがあった。
 ガンボ・ドグサ。PB要塞を急襲してきた1人だ。
「まず態勢を立て直したいが」
 我斬が暗闇の向こうを見据えSMGを構えた時、再び前方から男――ガンボの声が聞こえてきた。
「人間ども、せいぜい我を愉しませろ! どうした、来んのなら我からゆくぞぉ!」
「悠長な事は言ってられないな」透夜が決意するように、「仕掛けるぞロッテ。小鳥、アロンソ、援護頼んだ!」
 言うや、低姿勢のまま木陰から躍り出た‥‥!

●思い巡る
 耳を聾する銃声と、降り注ぐ弾雨。
 ムーグ・リード(gc0402)は巨躯を誇るが如く胸を張り、徐に無骨な盾をドンと構えた。
「怪我ハ、アリ、マセン、カ」
「‥‥悪い」
 背後には杠葉 凛生(gb6638)と黒木 霧香(gc8759)。ムーグが肩越しに後ろを見ると片膝ついた凛生と不意に目が合い、すぐに背けた。敵の方を向くのだと自らに言い聞かせながら。
「‥‥『戦友』、トシテ、当然、デス‥‥」
 空虚な言葉が密林に溶ける。
 霧香は違和感を覚えるも、礼を言ってムーグに微笑した。
「さっきの声。敵、でしょうか」
「‥‥破天荒、ナ、武人、デス。トテモ、一本気デ‥‥トテモ、響く、声ノ‥‥」
 踏み出す勇気も、どこに踏み出すのかも定まらぬ自分とは違う、ただ欲望に忠実な、敵。
 無言でムーグは敵のいるらしき闇の奥を見晴かす。そんな彼に、霧香は疑問を覚えた。何で好意的なのかと。
「え、と。敵ですよね?」
「ソウ、デス」
「好きなんですか?」
 閃光弾のピンを抜き、探査の眼を発動させていた凛生が数瞬動きを止める。ただの会話にすら神経質になる己に、反吐が出た。
 ムーグが目を瞑り、深呼吸する。
「‥‥嫌いニハ、ナレナイ、デス」
「嫌いじゃなくて戦って、殺すんですか?」
「敵、デス、カラ」
「‥‥強い、ですね」
 認め、受け入れた上で戦う。それは何かを異物としてただ排除するより、きっと強い。
 霧香がムーグの大きな背を見つめる。ムーグはその視線を感じつつ、自ら囮となるべく前へ踏み出した。
「‥‥ムーグ」
 凛生は百万言より尊いたった1つの言葉を掬い取れず、ただ目先の作戦を口にする。
「閃光弾を合図に突っ込む。少しの間、頼んだ」

●駆け引き
「久しいわね、ガンボ。此方も不完全燃焼だったのよ‥‥!」
「ここで会ったが‥‥100年目‥‥ですぅー。決着を‥‥つけましょぅー!」
 ロッテが跳び、透夜が駆ける。小鳥とアロンソが一拍遅れて続き、鬱蒼とした密林を見通さんとする。左右からはリズムよく銃弾が放たれ、その度に足元で埃が舞った。
 抑えた弾道。が、構わず4人は走る。暗い視界。ロッテ、透夜を先頭とした四角形を保ったまま。気付けば銃撃はなくなっていた。
 そして10秒経った頃か。樹の上部を警戒していた透夜が、間一髪それを発見した。
「ッ上だ!」「ぬぅあぁああああああぁ!!」
 考えるより先に動く体。透夜を除く3人が横っ飛びし、当の透夜は上――ガンボがボディプレスの如く飛び掛ってくるのを、両手の槍で受け止めた!
「おぉおおおぉおぉおお!」
「ぬぅうん!!」
 ズゥン‥‥!
 体が悲鳴を上げ、踏ん張った足が土に沈む。透夜は左右の槍を無理矢理払うと、素早く間合いを取った。
「相変らず堅いな‥‥だが!」
 透夜とロッテが同時に地を蹴り、小鳥とアロンソが各々の得物を放つ!

 ガンボがいるらしき正面奥へ4人が向かうのと相前後し、ムーグは盾を構えて前進した。敵銃撃は次第にムーグに移り、彼の目論見通りとなる。が。盾で受ける衝撃を鑑みるに、左右の銃撃がなくなってきていた。どうやら敵は前へ集合しているようだ。
 背後からの凛生の狙撃が闇の奥へ消える。と、射線の先がパッと光に照らされた。日光を遮る枝を撃ったのだ。慌てて敵が右へ跳んだ。ムーグがさらに歩を進める。
 その時、遥か前方で閃光弾が炸裂した。
「っし行くぜ!!」「ん? 冥華もいくー」
 同時に飛び出す我斬と冥華。我斬は敵右翼、冥華はムーグと共に真正面へ。3人は瞬く間に森を駆けるや、40m先の茂みで突撃銃を構えていた敵の懐へ飛び込んだ。
 3人が、3体へ。
 我斬が混血の爪で引き裂く。ムーグが地獄の番犬を轟かせる。冥華が竜殺しの斧を振り抜く。
 その、直後。
「――――っ!?」
 甲高い声と銃声が『背後から』鳴り響いた。

 凛生が長距離狙撃でムーグを援護する一方、霧香は凛生の傍で盾を突き立て、それに触れたまま瞑目して振動を感じ取っていた。
 敵の位置を少しでも正確に把握する為。霧香の頬に一筋の汗が流れ、腐葉土へ垂れる。その些細な音すら邪魔な程、霧香は集中する。
「1時方向に‥‥複数‥‥距離60‥‥いえ、50‥‥?」
『おまかせー』
「別に‥‥10時から12時方向へ移動中の敵‥‥」
『応!』
「それと‥‥」
 霧香がさらに読み解こうとした、刹那。
 ガサ、と音がした。すぐ、真後ろで。
「杠葉さ‥‥――っ!?」
 凛生が振り返る間もなく体を捻って発砲。同時に敵の銃が火を噴いた‥‥!

●機械体
 魔矢がガンボに突き立ち、ロッテの短剣が腹を削る。間髪入れず左脚を蹴り上げ土諸共敵の腹を抉ると体を捻り、巻き込み気味の右ハイで敵を地に倒さんとした。が、強靭な肉体がロッテの右脚を受け、敵はその脚に手を伸ばす。
 咄嗟に体を丸めて躱すロッテ。透夜が敵の右から神速の刺突を繰り出す。2、3、4と連続する刺突に、流石のガンボも受けざるを得ない。その間にロッテが退避し、代りとばかりアロンソが銃を連射した。それは跳弾となって頭上から敵を襲う。
「月影サン!」
「KVの攻撃も耐える奴だ、遠慮どころかオーバーキルでいくぞ!」
 小鳥の一矢が脚を貫き敵体勢を崩す。透夜の左右の連翹が煌き、目にも映らぬ斬撃が敵へ叩き込まれた。
 が。
「やるのう小僧!」
「お前を愉しませる為にやったんじゃないがな」
「そう言わずに愉しませてあげましょう、透夜」ロッテが敵頭上から渾身の踵落しを繰り出す! 「永遠に忘れられない、死の悦びを‥‥!」

 ガァン‥‥!
 ほぼ同時に放たれた銃弾は各々の標的へ過たず吸い込まれる。機械体の弾は霧香へ、凛生のそれは敵へ。
 一瞬の静寂。直後、両者の後ろに血煙がパッと弾けた。
「っ!」「下がれ!」
 横転しながら連射する凛生。敵は後ろへ跳んで霧香を狙い、1発が首を掠める。霧香は茂みに転がり込んでオーブを構えるが、その時には既に凛生と敵が至近距離の銃撃戦を繰り広げていた。
「前衛を引き付けて迂回。随分頭が回るじゃねえか」
「‥‥」
 飛び交う銃弾。紙一重で躱し、あるいは致命傷を避ける両者。凛生が元の位置まで走り銃撃する。タタタンと敵は3点バーストで狙ってきた。爆ぜる足元。凛生は盾に隠れ、銃口だけ出して適当に応射した。敵が右へ回り込む。追って凛生が撃つ。霧香が予想進路へ闇弾を放ったが、敵は突如跳ねるように曲がった。
 ――野性の勘とかいうあれですか。
 霧香が僅かに眉を顰めたその時、凛生が敵の着地点を狙い撃った。連射連射連射!
「ぐ‥‥!?」
 敵が体勢を崩しつつ腕を振ると、不意に殺気が溢れた。迷いなく伏せる凛生。真上スレスレを何かが過り、幹に刺さった。凛生が敵に向き直る――寸前、その樹の上から、野良の蛇キメラが落ちてきた。
 舌打ちして撃ち殺す凛生。が、その間に機械体は闇の奥へ逃亡していた。
「ムー‥‥」凛生が言い直す。「前衛に追いつく。走れるな」
「はい!」
 打てば響く反応が心地良い。霧香は痛みを物ともせず駆け出した。

 冥華は竜の咆哮で強引に弾いて敵陣形を崩し、自身も前進して斧をぶん回す。短い銃剣で辛うじて受ける敵。がくんと腰を落した敵へ冥華が大上段から振り下す!
「じばーくとか、する?」
「‥‥」
「わかんなーいだと冥華どっかーんってしないとだから、お助けしてあげたいけどだめで、でもいってくれたら冥華かんしゃのお歌うたう」
「‥‥」
「‥‥ん、冥華なむなむする。だから」
 無言で交戦し続ける敵を、冥華が思いきり薙ぎ払う。が、敵は倒れないばかりか左へ逃げ、我斬と戦う機械体と合流せんとした。
 一方我斬は、
「まーた人っぽい何かか。流石に今回は殺し方を選択できる余裕ないぞ!」
 などと言いつつ押していた。豪腕が振るわれる度に紅が散り、同様に敵の斬撃が我斬の体を刻む。攻撃しては離れるを繰り返す両者だが、それはヒット&アウェイと言うより居合い同士の刹那の衝突のようだ。
 そこに冥華達が乱入してきたのだ。戦いは一瞬で2vs2の乱戦へ激変した。
 我斬が敵2体の間を駆け抜け撹乱する。冥華が正面から斧を叩きつける。敵は前後衛に分かれ、巧みに我斬達を削っていく。戦いは長期戦の様相を呈し始めた。
 その時だった。凛生達から逃れた敵が、冥華の背後に現れたのは。
「冥華!」
「能力者‥‥排除‥‥」
 虚ろな台詞と共に突き出された敵の銃剣が、冥華の体を装甲ごと貫く。
 ごぽ、とどす黒い血を吐き出してくずおれる冥華。だが我斬に冥華の安否を気遣う余裕はない。1vs3。流石に我斬が頬を歪めた、次の瞬間。
「今、行き、マス‥‥!」
 自らの敵を単独で撃破したムーグが、横の茂みから敵へ飛びかかった‥‥!
 我斬が合せて敵へ突っ込む。と、どこかからの銃弾が敵を穿った。さらに闇弾の追撃。凛生と霧香だ。これで4vs3。
「霧香、冥華を頼む!」「はい」
 勝利を確信して我斬がムーグに並び立つ。そしてその確信は、20秒と経たぬうち現実となったのである。

●ガンボ・ドグサ
「それが貴様らの本気かぁ!? 全力で我を殺してみせい!!」
 ガンボがラリアットの如く体当りしてくると、ロッテは宙を蹴って頭上へ躱した。枝を掴んで回転、撓りを利用して踵落しを狙うが、ガンボは首を逸らして肩で受ける。すぐさま足首を掴み、膂力に任せて大樹へロッテを叩きつけた。
「ッ、‥‥!」
 強烈な衝撃と、骨の砕ける嫌な音。ガンボがそのままロッテを弄ばんとした時、透夜が敵の右から猛然と突きかかった。
 1本が2本、2本が4本、それ以上にすら見える神速の槍術。影が実体を持って襲うが如き刺突は、敵を次第に死へ近づける。だが鋼の肉体に致命傷を与えられない。透夜がロッテを救い出して一息つくと、小鳥とアロンソが容赦ない射撃を加えた。
「クソ、こうなれば俺が正面から敵を縫い止め‥‥」
「それは、私の役目よ」
 命すら賭してガンボに決定的な隙を作らんとするアロンソを、ロッテが射抜くように睨めつけた。
「魔弾隊長たる私の‥‥!」
「いいや。俺と、お前の役目だ」
 悠然とこちらを待ち構えているガンボを見据え、透夜。
 彼とて満身創痍に近い。だからこそ、一気呵成に終らせる。ジリ貧で死ぬなど以ての外だ。
「ロッテ、奴の後ろへ。一気にやるぞ」
「死点射で‥‥決めますぅー!」
 4人がガンボと正対する。
 ジリと左に動くロッテ。敵がロッテを注視し、腰を落す。小鳥が4本の矢を番えた。アロンソの銃口が敵の心臓を狙い、透夜が半身で構えて槍を隠す。
 木々が風にざわめいた。瞬間。

「疾ク、鎮メ、同胞‥‥! 貴方、ニ、魂、在ル、ナラバ!!」

 ガンボと4人、両者の死角から巨漢の戦士が飛び出すと、一瞬でガンボへ肉薄して裂帛の気合と共に腹を蹴り上げた!
 が。
「ぬぅう!? 見事なり、狩人! 正も邪も栄誉も恥辱もない、これぞ剥き出しの戦よ!!」
 不意打ちで天地撃を喰らい、宙へ打ち上げられて尚、敵は笑っていた。ムーグはその姿に、どこか心が湧き上がる感覚を覚える。だがそれを確かめる余裕はない。
 ロッテ、透夜が一気に詰める。小鳥が渾身の死点射を放ち、アロンソが宙の敵へ撃ちまくる。我斬まで駆けつけ6人となった力が、宙のガンボへ集中する。
 一心不乱に、ただ眼前の敵を殺す為。そして、
「此の森で土に還りなさい‥‥ラ・ソメイユ・ペジーブル」
 誰の一撃が致命傷となったのか。それすら判らぬ一斉攻撃が、敵を仕留めた‥‥。

 ‥‥‥‥
 ‥‥
 ‥

「は、‥‥それが貴様ら‥‥全力か‥‥!」
 横たわったガンボが弱々しく口端を吊り上げる。血に塗れ右半身を失った姿は、薄暗い密林と相俟って酷く無残に見えた。
 微かに上下する胸を見つめ、我斬が舌打ちする。
「それしか言えんのか、お前さんは。戦いしか楽しみがねえのかよ」
「『しか』か‥‥は、ははは、しか! しかか!」
「な、何だよ!?」
 我斬の詰問には答えぬガンボ。我斬は苛立たしげに土を蹴った。
「クソ、もう知らん! さっさと此処でのたれ死ね、憶えててなんかやらねえよ!」
 興味失せたとばかり周辺警戒に出る我斬。
 刻一刻と死の影は濃くなっていく。ムーグは両膝をつくと、頭を垂れて瞑目した。
「‥‥楽しカッタ、デス、カ」
「‥‥、‥‥あのいちげ‥‥きさ‥‥たま‥‥‥‥」
 同化して未知を学ぶバグアが何かを伝えんと口にした言葉は、けれどムーグの耳に届かず雲散霧消する。そして次の瞬間、ガンボは呆気なく永劫の無へ旅立った。
 霧香が冥華を治療しながらムーグの横顔を見つめる。そこには、憧憬のような色が浮かんでいた。
 付近の警戒から戻ってきた凛生が、丸まった背に声をかける。
「行くぞ。日が暮れる前に探索を終えねばならん」
「‥‥。一歩ズツ、進んデ、イル、ノ、デショウ、カ。アフリカ、ノ、解放、ハ‥‥」
「‥‥確実に、な。そして‥‥」
 その先は凛生も、ムーグも口に出せなかった。
 出せば、それが確定された未来になるから‥‥。

「アロンソさん‥‥怪我はない‥‥ですかぁ?」
「ああ、何とかな」
 小鳥が微笑し天を仰ぐと、密林の間から茜色の空が垣間見えた。
 ガンボは死に、人類圏の確立も少しずつ進んでいく。
 アフリカの戦局は、終盤へ移行しようとしていた‥‥。