タイトル:【AL】野生の王国マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/28 03:06

●オープニング本文


 満天の星空。遠くから雷鳴の如く響く砲声。地平の先まで続きそうな、広大な草原。
 ヒメ――リィカ・トローレ(gz0201)は潅木の下で停車したカブト虫の中でブランケットを羽織り、ゆっくりと瞼を閉じた。
 あと3日でどれくらい保護できるのか。
 どこかから聞こえる、肉食獣の遠吠え。ヒメは強がりのような、慟哭のようなそれを聴きながら、ため息をついた。
 ――ライオン、かな。‥‥なんていうか。アレが思い浮かぶ自分が嫌だ‥‥。
 それにしても、とヒメは思う。
 良い土産話になるかもしれない。こんな、ドキュメンタリーでよく観るようなレンジャーの仕事を少しだけでも手伝っているなんて。

 ――中央アフリカ北部、サバンナ。
 かつてそこの支配者だった野生動物達は、生き延びる為に支配者の地位を人類と異星人に譲り、蹂躙者達から逃れるように細々と日々を暮らしていた。
 前線は人類側が懸命に押し返した為にサバンナよりやや南まで進んだものの、今もなお動物達にとって危険である事に変わりはない。人類が構築した連絡線に動物達が近寄る事はなく、そのせいで彼らの生活圏は分断された。また人類の討ち漏らしたキメラから逃げ続ける必要があるせいで、本来の狩りを満足に遂行する事すらままならないという事情もある。
 そうしたあれこれによって、野生動物達はぎりぎりの生活を耐え忍んでいた。
 そんな現状を憂えたのが野生動物保護協会や地元の動物管理官等で、彼らがある時ピエトロ・バリウス要塞に直訴に来たのだ。
 そこでUPCはその願いを聞き届け、保護に動く事となった。それについてきたのが、ヒメなのである。
 レンジャーだけではキメラを相手できない。能力者だけではレンジャーと連携しづらいかもしれない。普段よく傭兵と接する一般人たる自分なら円滑にできる、という名目で‥‥。

 ヒメはこの数日を思い返す。
 1週間の契約のうち、ここ5日程はどちらかと言えばキメラ退治に精を出した為、実際に保護、移送した動物の数は割と少ない。だからこそ最後の2日間が大切になる。
 今までに遭遇した敵キメラはキリン、アフリカ象、ダチョウ、ハイエナ、ヌーを模したものがほとんどで、遠目に一瞬では見分けがつかなかった。とはいえ遠くとも少し観察すれば判るし、近付いても判る程度ではあったのでそこまで面倒ではなかったのだが。
 また、本来は捕食される側のヌーが殺戮本能に従って逆にライオンを狩っていたのは、そのヌーがキメラであると理解してはいてもなかなか衝撃的だった。
 自然の摂理というか、生命の神秘というか、そういうものを考えさせられた、気がした。
「お嬢様」
 運転席に座る老執事が声をかけてくる。
 ヒメは目を開け、身を起こす。足元に転がる対物ライフルに足が当たり、ガシャと音を立てた。
「なに?」
「野営中の傭兵達が何かを見つけたようです。戦闘準備をしております」
「ん、了解。私達は管理官の‥‥コンテナの所で待機」
「連絡を密にしておきましょう」
 エンジンに火を入れ、付近の輸送用コンテナを積んだトラックの方へ向かう。そこではレンジャー達が慌ただしくいざという時の為の避難準備等をしていた。
 ヒメは、要塞で出会った綺麗な少尉を思い浮かべ、彼女が部下に訓示を垂れる時の態度を意識して言う。余裕たっぷりの冷笑で。
「貴方達、レンジャーでしょう。5日もやってるのだからいい加減慣れなさい。アフリカのそれは優秀って聞いた事があるけれど、それは嘘?」
「ッ‥‥」
「嘘じゃないでしょ。野生動物のスペシャリストなら、地球の生物を模したキメラくらい手懐けてみせて。‥‥まあ、そんな事になる前に傭兵の何人かがこちらをフォローできる位置についてると思うけれどね。要はそれくらいの気概でいなさい」
 言っている事は滅茶苦茶だが、どこか反論しづらい雰囲気がある。
 老執事が苦笑してそのやり取りを見ていると、無線から「戦闘終了」の声が聞こえてきた。
 残り2日間。
 退屈しない2日になりそうだった。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
ジェーン・ドゥ(gc6727
15歳・♀・HA

●リプレイ本文

 0600時。
 朝の光がサバンナを照らし、大自然の目覚めを祝福する。杠葉 凛生(gb6638)はジーザリオのハンドルに両腕をつき、地図を広げた。懐から煙草を取ろうとし――持ち込まなかった事を思い出す。
「動物保護、か」
 ジッポを開閉する凛生。ロッテ・ヴァステル(ga0066)はバイクを停め、足元の土を迷彩服に擦りつける。
「1頭でも多く保護する為‥‥頑張らないとね」
「奴らにとっては屈辱だろうがな」
 凛生が双眼鏡で遥か前方の茂みを見やると、暗闇で爛々と輝く目があった。
 凛生も車を降り、大地を踏み締める。ロッテは深呼吸して地平の先まで続く草原を味わった。
「地球の摂理に従って淘汰されるならまだしも、異物に犯されるのは赦せないわ」
 ロッテが無線越しに別班へ「おはよう」と声をかけるが、有効範囲を外れすぎて雑音しか返ってこない。凛生は何かの符丁のような挨拶に顔を顰め、地図を畳んで言った。
「やめてくれ。キナ臭い作戦の合図みたいだ」

 広大な大地を輸送隊はゆっくり走る。まずは北区画の水場近辺、次いで範囲を拡げつつ12時間で東へ向かい、同様に12時間して西。ラウル・カミーユ(ga7242)や植松・カルマ(ga8288)らが煮詰めたその計画は、この上なく効率的なやり方と言えた。
 が、思い通りに運ばないのが大自然というもので、
「みつけたっ‥‥クラリア、いきます!」
 荷台で周囲を見張っていたクラリア・レスタント(gb4258)がトラックから飛び降り、右後方で動いた影を追わんとした。だが彼女が走るより早く、なんとその影は物凄い勢いで近付いてくる。
 土煙を上げ、ドドドドと書き文字が見えそうな勢いで。
「ちょ、何スかあれぇ!?」「にゃにゃ、早く‥‥進路上から避けましょぅー!」
 焦るカルマと幸臼・小鳥(ga0067)。ヒメがレンジャーに指示する。クラリアが地に伏せ、トラックが右へ曲がった。荷台で仮眠していたA班の面々が車内で悲惨な事になるも、運転手とて余裕はない。
 そんな人間達を差し置き、件の影――ダチョウは我が物顔で瞬く間に輸送隊の真横を通り過ぎると、そのままどこかへ去ってしまった。
 後に残るのは何とも言えない徒労感。輸送隊が疲れたように停車した。
「‥‥」
「ってあれキメラっしょ! さっさとぶちのめし‥‥」
 思い出したようにカルマが飛び出て弓を絞るが、後の祭り。ダチョウは既に遥か彼方の小さな影となっていた。
 その時、荷台からエイミー・H・メイヤー(gb5994)が顔を出してきた。猫のような四つん這いで大きな瞳に涙を浮かべ、右手で頭を押えて。
「いたい」
「うー。僕も色んなトコ打ったヨ‥‥」
 腰に手を当て、ラウル。ジェーン・ドゥ(gc6727)は眉を歪めて車内の崩れた荷を元に戻す。
「まぁ、安全運転なんて無理な相談だろうけどねー」
 一同ため息である。ともあれ彼らは水場へ急ぐ。

●水場の攻防
 0900時。水場を拠点に探索に乗り出さんとした一行は、幸先よくその水場でプカプカ漂う動物を発見した。
「カバさん‥‥ですぅー! キメラでは‥‥なさそうですかねぇー」
 小鳥が目を輝かせる。ヒメ、クラリア、カルマが周囲を警戒する傍ら、レンジャーに判断を委ねた。独特の臭いが鼻をつき、それに慣れる程度の時間を費やして出した結論は、本物。
 彼らが麻酔銃で水面にぽっかり浮かぶ首筋を狙う。が、その時。
「キリン発見。5時方向‥‥大股で近付いてきますっ」
「紛らわしいキメラは‥‥早めに退場お願いなのですよぉ!」
 一直線に突進してくる敵足元に小鳥の魔矢が1、2と突き刺さる。よろめく敵。示し合せたようにカルマとクラリアが左右から長大な敵――キリンに襲い掛かった。
「ズが高ェんだよウルァ! ‥‥ズーだけに!」
「サファリですけどっ」
 無慈悲に脚を両断するカルマ。首を垂れて倒れてきた敵をクラリアが待ち受ける。そして、
「‥‥おやすみ。土に還れば、皆同じだから」
 目を伏せ、魔剣で首を撥ねた。
 地響きと共に地に落ちる敵。クラリアは血が流れ出る断面をそっと撫でた。と、はたと気付く。これだけ豪快に地響きを立てられたらカバは‥‥。
 3人が水場を振り返ると、そこには果たして、
「大丈夫よ。もう1発撃って眠ったら引き上げるらしいから」
 微動だにしないカバと、息を潜めるレンジャー達。
 小鳥が安堵して小さな胸に手を当て、それにしてもと興味津々呟く。
「TVとか動物園で‥‥見るのと‥‥やっぱり迫力が違いますよねぇー」
 程良い緊張感の中、投網で岸へ引き寄せる作業を見つめた。

「あの象は‥‥放置、しかないかしら」
 東区画。先行して動物の動向を探るロッテと凛生だが、当然キメラとも出遭う。排除できそうな敵は倒すが、流石に2人で無理はできない。
 50m先をのそのそ歩く象を観察し、ロッテが判別できぬまま嘆息した。凛生が地図に印をつける。
「ああ。そして付近の茂みにも何かしらいるようだ」
「了解。じゃあ移動しましょう」
 次第に水場から離れる2人。凛生の地図には既に5つ大きな○が記され、4つ×印と時刻が打たれていた。○が動物の塒で、×がキメラ発見場所だ。
 静かに車輌まで戻り、徐行で移動する。
 広大な視界。風を切って思いきり走りたい欲望が鎌首を擡げ、ここの支配者だった動物達が羨ましくなった。ロッテが自然を味わっていると、凛生の舌打ちが無線に乗った。
「‥‥つきぬけて天上の紺曼珠沙華、いやバオバブか。面倒な天気だ」
「気持ち良い快晴だけど‥‥?」
「‥‥、偵察するには面倒だろう」
 車が落葉したバオバブの横を過ぎる。凛生が敢えて外れた返答をすると、ロッテは正面から「それは確かにね」と受け取った。
 それきり、自然だけが耳を慰める。
「小鳥、転んでないかしら」
 風に暴れる銀糸をそのままに、ロッテが不安げに独りごちる。無線はやはり不通だった。

●サバンナの夕日
 午後から奇跡的にキメラと遭遇する事なく順調に動物を保護してきたA班だが、日も傾いてきた時、それは現れた。
「キメラ、カナ? んー、微妙だネ」
 何やら潅木と戯れている象。ラウルが距離を置いて慎重に象背後へ回り込み、麻酔銃に筒を込める。弓自体初めて扱うエイミーが「‥‥大丈夫かな」と覚束無い手付きで矢を番えた。
 だがその時。
「判らないなら確かめるしかないよ」
「な、なりません!」
 老執事の制止も間に合ず、ジェーンは足元の小石を拾い上げ、素早いステップからそれを投擲した。能力者の力で放たれた小石は過たず象の尻に直撃し、同時に象が鼻を掲げて声を上げた。
 鈍重なようでいてなかなかの速度で走り去る象。A班、そして後方のレンジャーは為す術も無くそれを見送る。ラウルが鋭い双眸をジェーンに向け、直後、へにゃっと顔を崩してデコピンした。
「判別ナラ麻酔銃で撃つだけでできるヨネ。次はしちゃダメだヨ?」
 北区画での活動はこれが最後となる。それだけに不安な幕引きだった。
 とはいえ。
「あれだけ素早ければきっとキメラにもやられないよ。こんな大自然に生きてるんだ、大丈夫だよ」
 思わぬ出来事にエイミーが控えめに声を漏らして笑う。深呼吸するように空を仰ぐと、茜色のパノラマが広がっていた。

●移動、そして
 6時間もの移動を経て東区画へ入った一行。昔使われていた詰所に寄ってロッテと凛生がチェックした地図を手に入れると、やはり水場から攻めるべくそちらへ向かう。
 最寄の水場に到着早々鰐を捕獲した彼らは、山盛りの肉を岸に放置して離れた。釣り作戦である。
「この間に僕ラもオヤツにしよーヨ。オナカ減ってイクサできないからネ!」
 ラウルが車内で済ませようとすると、エイミーは折角だからと外に座り込んだ。荷からサプリを砕いて混ぜたショートブレッドを取り、口に運ぶ。もそもそと嚥下されるそれは味気なかったが、満天の星空が寂しいオヤツに彩りを与えてくれた。
「ナイトサファリなんて初めてだ。動物園では見られない姿だよな」
「サファリ、か」
 ジェーンが潅木の幹に体を預け、呟く。野生動物にとって過酷な環境。種の保全という意味では保護は確実に正しい。でも。
「あの子達は安全なトコにまた放すのカナ。そーじゃナイとご飯とか大変だヨネ、動物うじゃうじゃデ! でもそれも観たいカモ」
 ラウルが適当に笑いつつ、火を起こそうか考える。火の周りを石で囲えば目立つ事もないし、何か料理できれば――瞬間。
『餌にライオンが食いついた。今群れの仲間を呼び寄せてる‥‥キメラの警戒を頼む』
 レンジャーから連絡。A班が素早く四方を見回して現場へ向かう。
 ライオンは1頭が肉の間近で南東を見ており、その南東からは3頭がさらにやって来ていた。エイミーは暗視装置で慎重に距離を見、大回りで南東を塞ぐように位置する。ラウル他3人がレンジャーに合流した。
 風はなし。距離80、70、65‥‥。
「僕も手伝うヨ」
「1頭に2発撃ち込む。あんたは左を」
「了解」
 装填。暗視装置をかけ、正確に対象を見据える。匍匐前進でじりじり接近し、射程に入ると銃を肩付けした。指揮官の腕が上がり、カウントされる。息を止め、引鉄に指をかけ、3、2、1――発砲!
 控えめの発砲音が連続する。確かめると、暗闇の中でフラフラ肉に倒れ掛かるライオン4頭の姿があった。
 レンジャーが運搬用の檻へ運び入れんと駆け寄る。エイミーも手伝う為に近付き、恐る恐るライオンに触れてみた。
「わ、ぁ‥‥」
 鬣はなく女の子っぽい。柔らかくて温かくて、どくどくと力強い命の奔流が感じられる。そして気付けば、彼女はライオンに頬擦りしていた。が。
「‥‥ぅ」
 恐ろしく、獣くさかった。

 深夜の活動は続く。
 樹上で眠るチーターがいれば、茂みで小動物を狩るジャッカルにも出会う。腹から血を流したヌーを保護すれば、夜目に目立つキリン型を足元から切り崩して倒す。騒々しい夜のサバンナを走り回ったA班は、早朝、漸く交代の時間を迎えたのだった。
「慣れない得物で疲れたよ‥‥やっぱりコツを聞いただけじゃ難しいね」
 車内に戻るなりこてんと毛布に包まるエイミーである。
 東区画を徐行で回る一行。仮眠明けのB班が荷台から周囲を見晴かす。
「さ、皆サンにイケメンから朝の気遣いッスよぉ」
 朝日が目に染みる中、カルマが飲料を女性陣に渡す。小鳥はココア、クラリアが葡萄ジュースでヒメが野菜ジュース。カルマ自身はラムネを飲み、くーっなどと首を振ってヒメの隣に腰掛けた。
「やー、サファリデートしかもお泊り! 次はご両親に挨拶しかなくね!? マジ婚前旅行パネェ!」
「‥‥悩みなんてなさそうで羨ましい限りね」
 ジト目で返すヒメ。その視線をカルマは斜め上に受け取った。
「‥‥フフッ、いいんだぜ?」
「貴方を餌に動物を誘き寄せればいいと。了解、じゃあ頑張って」
「ちょまサーセンマジ調子乗ってサーセンっしたぁ!」
 ぐりぐり蹴落さんとするヒメに土下座するカルマである。クラリアがくすと笑い、自らのネックレスに触れた。
「私もあんな風にしたら‥‥あの人は喜ぶのかな‥‥」
「私はできそうに‥‥ないですぅー」
 苦笑する小鳥。ヒメが「まるで私が普段からこんな姿みたいに言わないで」と言い差した、その時。
 遠く前方で、何かの群れを発見した。土煙が邪魔して見難いが、それは――
「襲われてる!?」
 一瞬で切り替える4人。カルマとクラリアが飛び出し、小鳥とヒメが続く。近付くにつれ状況が見えてきた。
 塒にいたシマウマの小集団をヌーが襲っているのだ。シマウマも抵抗しているが敵う筈もない。逃亡せんとしたメスがヌーの角に貫かれる。オスが後ろ脚で反撃するが、ヌーは意に介さずオスを吹っ飛ばす。
 もはや時を置かず蹂躙されるのが明白だった。そこに、
「弱い者虐めは‥‥だめですぅー!」
 小鳥の矢が突き刺さる。直後、カルマとクラリアが乱入した。
「乱闘なら俺も交ぜろや!」
 カルマの豪剣が一撃でヌーを屠る。溢れる血潮。断末魔と警戒の咆哮が響き、合せてシマウマが四方へ逃げ惑う。クラリアが合間を縫ってヌーに迫るや、伸び上がるように剣を振り上げた。返して袈裟斬り。倒れる敵を踏み台に、別のヌーに上から刺突を繰り出した。
 カルマが盛大に暴れ、小鳥が逃げる敵を縫い止め、漏らした敵をクラリアが仕留める。その連携を前に敵は次々数を減らし、そして間もなく最後の敵をカルマが両断したのだった。
「犠牲、出ちまったスね」
 腹を貫かれて息絶えたシマウマを見下し、カルマ。四方に散ったシマウマは何故かやや離れてこちらを見つめており、逃げる様子もなかった。
 レンジャー達がそれを保護する一方、クラリアは骸に祈りを捧げる。
「魂は空を巡り星に還る。星はまた、貴方を生むでしょう」
 願わくは、来世が貴方にとって優しい世界でありますように。
 倒れ伏した体を撫でるクラリア。ヌーも含めて埋葬せんとしたが、瞬間、遠くからこちらを観察する気配に気付いた。
 3人が作業中の者を守る形で警戒する。そのおかげか、敵が襲ってくる事はなかった。
「同じ動物なのに‥‥何でこんなになるんだろうね‥‥」
 そうやって追い払わねばならない事さえ、クラリアの心を締め付けた。

●活動は続く
 1830時。
 西区画のロッテと凛生は潅木の下に各々の車輌を停め、本隊との合流を待っていた。
 凛生が糧食のチキンにかぶりつき、咀嚼する。香辛料の濃い風味が鼻に抜けた。
 ――俺がこんな事をやるとは、な。
 助手席に広げた地図の書き込みを眺め、自嘲する。
 ちっぽけな街で色々やらかしていた過去。最愛の者が届かぬ所へ逝き、過去が現在と未来を塗り潰していた。そんな自分を新たな光で照らしたのが、この遥かなる大地で生まれ、今を足掻き未来を描く男だった。
 だから、取り戻す。元には戻せない、今と未来のアフリカを。
「それだけでいい。それしか望まない、俺は。他に何も、望むべくもない‥‥」
 ただそれだけの幸せを。
 橙の光が潅木の陰を伸ばす。凛生は懐に手を入れ、煙草が無い事に眉を歪めて舌打ちした。

『‥‥テさん、ロッテさん聞こえ‥‥かぁー?』
「久しぶり、小鳥‥‥」
 漸く通じた無線で、ロッテと小鳥は言葉を交す。地平線には輸送隊らしき影が見え、ロッテはなんとなく安堵した。
「残り12時間、ラストスパートね」
 1頭でも多くの命を繋ぎ、何時の日か此処に帰してやれるように。

 合流した一行は、最後の力を振り絞って夜の西区画を駆けずり回る。
 保護した数は予測を上回る事はなかったが、地道にキメラを倒しつつ活動したおかげで一定の成果を上げる事はできた。
「今回はありがとう。私達も戦えればいいんだがね」
「オッサンは素直にここで頑張ってりゃいいんス」
「はは、そうだな。君達の無事と勝利を、祈ってるよ」
 寂しげに笑うレンジャー。カルマはその肩を叩き「イケメンがやってやんよ」とドヤ顔で恩を売った。
 ともあれ1週間のレンジャー体験はこうして幕を閉じたのだった。

<了>