タイトル:【CO】戦乙女の灯【QA】マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/08 23:46

●オープニング本文


「KV隊まだか――!」
 停戦が破られて以降、押されつつも奮闘を続ける中央アフリカ戦線。
 カール・クライバー少尉が部下にM1戦車の陰から使い捨てロケット弾を放たせながら懸命に呼びかけるが、頼みの救援はまだない。白煙を曳いてロケット弾が直撃するが、敵ゴーレムはさらに前進してくる。
 敵が戦車ごと粉砕せんと機関砲を構えた。少尉が対物ライフルの引鉄を引く。SMGが敵足元を叩いた。ついで戦車主砲が敵胸部を直撃。敵はたたらを踏んで後退するも、遂に機関砲が火を噴いた。
 凶悪な嵐を浴び、一瞬のちに爆発する車体。爆風に煽られダイブするように辛うじて退避した兵のすぐ傍に、天高く舞い上がっていた主砲がドスと突き刺さった。
「ッく‥‥ぬぁああああああ!」
「奴の足を止めろ! とにかく撃ちまくれ!」
 ゴーレム足元に集中する銃砲火。敵機付近にいたライオンの如きキメラが断末魔の声を上げる。敵機が膝をついた。その隙に近隣部隊へ応援要請する。
 すると1分経たず、遥か高空から急降下してくる機影。日差しに目を細めながら確かめた少尉が「グロームか!」と歓声を上げると、直後、その機が何かを投下した。300m程離れた地点で炸裂したそれは、近辺のキメラを徹底的に灼き尽くす。さらにそのグロームが自身の戦果を確認する間もなくこちらへ機首を転じ、すぐさま対地ロケランをばら撒いた。
『――すまん、警告するのが遅れた。退避してくれ』
「お、おいぃいぃっ!?」
 周囲360度で次々爆発と土煙。轟音で耳が一時的に機能不全に陥る。咳込みながら少尉が前を見ると、もの言わぬ鉄塊となったゴーレムの姿。少尉が礼を言わんと空を見上げるが、その時には件のグロームは既に空の敵と交戦中だった。
 翼を翻して砲弾を撃ちまくるKV。その姿に勇気付けられたように、陸の部下達が雄叫びを吼えた――ように見えた。少尉は部下をまとめ、ついでに近隣部隊から逸れた分隊を吸収してライフルを天へ掲げる。
「Aa、アー、あー。‥‥あの空の愉快な野郎に一発くれてやるまで俺達は死ぬわけにいかなくなった! いいか。ちょっと危ねぇオンナを見つけたら、隣の野郎と一緒にてめぇのそいつをぶち込んじまえ! 前戯はなしだクソ野郎!!」
 ジークルーネとはやや距離がある。あれは決戦兵器なのだ。ずっとこんな最前線で頑張らせるわけにはいかない。
 クライバー少尉は銃口をキメラに向けるや、重い引鉄を絞った。

 空飛ぶ戦乙女から無数の白煙が放射状に広がっていく。それら1つ1つがそれぞれの目標近辺で爆発し、自身を中心とした大輪を空に咲かせた。
 ヴァルキリー級飛行空母、ジークルーネ。
 彼女は今、中央アフリカ西北部ブアル近辺で弾薬を節約しながらも孤軍奮闘していた。眼下にはなだらかな草原と灌木。砂漠と熱帯林の間の休憩場所のような台地。ここから大陸を横断するように東進すれば前線を支援する事もできるし、縦断するように南進すれば電撃的に敵を混乱させる事もできる。まさにこれから、といった地点なのだ。
 が、敵もこんな強大な戦力を見過ごす筈がない。
 タロスや強化型ヘルメットワーム(HW)に加え、いつ頃からかユダ増殖体の姿も見えていた。
 今のところジークルーネの観測では中型が数体だけだが、いつ増えないとも限らない。ただでさえ補給物資が定期的に届く保証がない現状で、それは結構な不安要素だった。
 艦載のKV部隊がタロスを囲んで撃破するや翼を翻し、その身を挺してプロトン砲から艦を守る。衝撃に耐え、2機がシザーズしながら機関砲の応射。HWを撃墜すると、素早く艦上空へ舞い戻る。
 本格的な反攻に出る前に、どうしても補給がいる。
 それはクルー全員の共通認識だった。
 後方との連絡線の確保もままならない今、いくら恰好の場所だからとてこの場で粘り続けるのは拙いかもしれない。だが、ここで退くのは総崩れになる可能性すら秘めていた。
 そんな不安をよそに派手な戦闘は続く。
 戦乙女は天罰を下すようにミサイルを吐き出す‥‥!

 ◆◆◆◆◆

 砂漠南端、中継基地。
 弾薬やKVの予備武装等、物資が満載の輸送車が前線に向けて次々と出発する。一方、砂漠仕様で巧妙に掩蔽された滑走路ではKD‐022Aクノスペ8機と一般輸送機C‐130ハーキュリーズ2機が積載量いっぱいまで物資を詰め込み、離陸の時を待っていた。
 非効率極まりないというのは上層部も現地の兵も重々承知している。が、非効率だろうがまずは少しでも物資を送ってやらねば始まらない。
「周囲に敵影なし。――幸運を祈る」
『了解』
 1機ずつ飛び立っていく輸送機。傭兵達は計10機が無事空へ上がるのを見届け、自らも離陸した。
 目標はジークルーネ。片道約1000kmの鈍足飛行。
 タフな旅になりそうだと、傭兵が呟いた‥‥。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 先行班、クノスペA班、同B班、ハーキュリーズ。
 4つの集団に分かれた縦隊が大空をひたすら南下する。
 一面の青に幾条もの雲を曳いて飛ぶのは快く、このまま地球1周すれば楽しそうだなと、クノスペを護衛する愛梨(gb5765)が空を眺めた。
 同じく護衛の明星 那由他(ga4081)もまた久々の飛行を味わいながら操縦桿を握る。
「腹が減っては‥‥」
「戦はできぬ、と」
 我知らず呟いた那由他の言葉を榊 兵衛(ga0388)が継いだ。那由他が恥ずかしげに口を噤む一方、兵衛は続ける。
「補給なしで戦闘を継続できる程甘くないからな。腹を空かせた友軍に馳走を届けてやらねば」
「ん、おべんとー運ぶかんたんなお仕事? じきゅー安いけど冥華おとどけするー」
 と舞 冥華(gb4521)。フェイルノートに描かれた雪うさぎが陽光を反射して輝く。幸臼・小鳥(ga0067)はふとそれが目に入り、弁当という単語と相俟って餅にしか見えなかった。
 怒られそうなので当然口外しない。
「ごくり‥‥じゃなくて‥‥頑張って‥‥露払いしましょうねぇー」
「ああ。制空権とまでは言えないかもしれないが、少しは掃除しないと落ち着いて食べさせる事もできないからな」
 月影・透夜(ga1806)が言い、操縦桿を前に倒して引鉄を引く。機首から伸びた弾幕が鷲型キメラに吸い込まれ、敵が墜ちた。
 さらに兵衛機雷電忠勝とロッテ・ヴァステル(ga0066)機スレイヤーLa mer bleuから左右へ銃弾が吐き出され、各々キメラを落とす。ロッテは輸送隊に影響ない事を確認した。
「輸送隊へ。大船に乗った心算でいて‥‥私達が護ってみせるわ」
「僕も‥‥皆さんの目になって必ず任務を達成してみせます!」
 この黄色いマフラーに賭けて。
 流 星之丞(ga1928)は骸龍機内で何一つ見逃さないとばかり計器を睨む。ECCMのおかげで感度は良好。特に一般機ハーキュリーズにとってそれだけで安心感が違った。
『‥‥ああ。期待している』
 傭兵に思うところがあるらしき機長が複雑な声色で言う。
 愛梨はそれを聴き「あぁ、あたしもこんな感じなのかな‥‥」なんて、不意に思った。ぐるぐるしてまっすぐになれない。そのくせまっすぐにどこか憧れる捻くれ者。
 ――でも仕方ないよ。世の中きっと、まっすぐな方が少ないんだから。
 愛梨の脳裏を過るのは燃えるような髪のバカ男。まっすぐすぎて痛いくらいのそいつの顔が浮かび、愛梨は操縦桿を握り締めた。
 ――あー、もう!
 片手で髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。
 せめてもの救いは、周り一面が赤でなく青である事だった。
 が、それも長く続かない。前線に近付くにつれ、加速度的に敵の数が増えてきたからである。

●敵中突破
「進路上で敵機と遭遇。後続は足を緩めて警戒してくれ」
『了解』
 前線でUPC軍と交戦する敵軍と遂にぶつかった。まずはここを抜け、次にジークルーネ周辺を掃討する必要がありそうだ。
 ブーストする透夜機とぴったり編隊を維持するロッテ機、小鳥機。兵衛機、冥華機も一団となって黒い群に突っ込む。
「わーむいっぱいでめんどそー。冥華のついんぶーすとにゃんこあたーけ? でどかーん」
「切り拓くぞ!」
 冥華機から迸るK‐02の花火。機体能力によって数値以上の破壊力を持ったそれが全方位にばら撒かれ、直後ロッテ、小鳥、透夜の魔弾3機が突入した。
 ロケランを放つ小鳥機。白と黒の煙が入り混じる混沌で、ロッテと透夜が先頭を争うように飛ぶ。四方八方から敵光線が飛来し、3機はやや左へ。兵衛機忠勝が魔弾後方に忍び寄っていたタロスを弾幕で引き摺り下し、冥華はAAMで右のHWを牽制した。
 戦線に穿たれた穴を修正すべく、敵は愚かにも近隣からここへ集まってくる。
 所詮は無人機か。
 兵衛が誘導弾でタロスの体勢を崩すや、翻って遠くの青い敵へバルカンを連射した。乱れ飛ぶ敵の間を縫って進んだそれは、正確にCWを貫く。兵衛がバーを踏んでロールしながら横滑り、AAMのスイッチを押す。
「輸送隊はこの乱戦によって薄くなった部分を抜けた方がいいかもしれんな」
『了解。僕がルートを選定します』
「おー、かっこいー。冥華よくわからないけど」
 星之丞を脱力させつつ、兵衛と共にAAMを放つ冥華。次いで冥華の相棒黒猫ミサイルがタロスに直撃する。
 機内にいて尚、耳を聾する轟音が臓腑を震わせた――!

 先頭を翔る魔弾3機。前方を覆う敵群と、のべつ幕無しに過る敵光線。小鳥機の粒子砲が群中心を貫くと、透夜機影狼が粒子の残滓を隠れ蓑に敵へ肉薄。黒煙を噴くHWに剣翼で引導を渡すや、透夜は機首を上に向けた。
 逆に小鳥は低空へロケランを撃ちまくる。
「地上の協力を‥‥仰いだ方がよさそうですぅー」
「解ってる」ロッテが周波数を合わせて操縦桿を倒す。「聞いてるかしら? 少し舞い降りるわ――そのまま伏せていて!」
 陸の友軍に警告し、瞬く間に下へ抜けるロッテ機ブルー。
 黒煙を越え、キメラを両断し、地を見る。高度計が0に近付く。激突直前に安定装置起動、白い力場に守られたロッテ機が急制動からダンスの如く変形する。軋むベアリング。唸るAI。スラスターを全開に、ロッテが目を見開いた。
「さぁ‥‥行くわよ!」
 地を舐めるように滑空する人型機。キメラを吹っ飛ばし、砲口を空に向けたRCを斬りつける。アテナイがゴーレムを縫い付けると、ロッテは大剣を前に突き出してその機に突っ込む!
 漏電、爆発。爆風に煽られるようにロッテ機は跳躍、再変形した。直後、
「「おぉおおぉぉおおおお!!」」
 ロッテ自身思いも寄らぬ程の歓声が聞こえた。見栄えの良すぎる機動に勇気付けられたのか。
 ――いつまで経っても男は子供という事かしら‥‥。
 ロッテは機を捉えて外部出力に声を乗せる。
「私達はジークルーネに物資を届けに行く。成功すれば貴方達も格段に楽になるわ。だから力を貸して‥‥」

「ルート入力完了。皆さん注意して下さい。ここからは強行軍です‥‥!」
 輸送隊最後尾、ハーキュリーズに従う星之丞機。応、と返答があるや、3つの小集団は乱戦――の僅か外へ突っ込んだ。
 乱戦内では透夜機が上昇しつつ敵を引き付け、小鳥機はロッテと共に地上援護。兵衛と冥華が代って先陣を切っている。その推進力は凄まじく、だからこそ、
「ジークルーネ、見えました‥‥蜜に群がる蜂もいます、けど‥‥」
「元々綺麗な空なんて期待してなかったしね。ノンストップで作戦を果たすしかない!」
 乱戦の外は、薄くなる。
 那由他と愛梨が1kmを隔てて戦乙女を確認した。引鉄を引く。AAMを放つ。フェザー砲がクノスペ2機を直撃するも損傷軽微。応射でHWを落とした。爆煙の中を那由他機、輸送隊が駆け抜ける。
 が、突如横合いから光線の雨が降り注いだ。避けきれない。次々被弾する一行。どこかで爆発が起った。星之丞と愛梨が当て推量で射撃し、煙を一気に突破する!
 そして眼前に広がったのは、豊かな青だった。
「前線を抜けた‥‥」
「被害は!?」
 那由他班、損傷軽微。
 愛梨班、同上。
 星之丞班、ハーキュリーズ――被撃墜1。

●投下作戦
 輸送隊が待つまでもなく、兵衛機忠勝を先頭とした5機も乱戦を抜けてきた。とはいえ、
「とても制空権を確保などと言ってられんな」
「少しでも周囲を掃討しながら‥‥やるしかない‥‥ですぅー」
 前にはジークルーネを攻撃する敵。後ろには前線から追ってくるであろう一部の敵。一刻の猶予もない。
「投下準備をお願いします。僕が、僕が必ず‥‥!」
 星之丞は忸怩たる思いで奥歯を噛み締める。
 直掩の傭兵各機こそ損傷は意外に激しい。だが悠長に迷ってはいられないのだ。
「1秒でも先行し、1機でも多くの敵を引き剥がす!」
 透夜機影狼が飢えた獣の如く炎を噴いて邁進する‥‥!

 雑音だらけの通信で戦乙女と連絡を取る星之丞。速度等の打合せが済むと、その通信に冥華が割り込んだ。
「いまK‐02むそーしてもよさげ?」
『こちらで直掩各機に通達します。どうぞ』
「ん、これいじょーおべんとーだめにするともったいないお化けでちゃうー」
 妙な怯えを胸に、えいやとスイッチを押す冥華。
 フェイルノートの面目躍如、250発ものミサイルが敵群へ吸い込まれた。大気震わす連続爆発。そこへ先行班が突撃した。
 煌く剣翼を敵へ叩きつけるロッテ。兵衛は右左と弾幕を張って周囲を牽制し、透夜機が間隙を衝きロケランをばら撒く。小鳥が戦乙女上空へ粒子砲を解き放つと、呼応して直掩数機が上空のキメラを落としていく。
 冥華の黒猫ミサイルが艦尾側へ向かうと、兵衛は合わせて機首をそちらへ、有りっ丈の砲弾を叩き込んだ。爆発。兵衛が主翼の裏で爆風を受け、ひらりと進路を変える。それを見た冥華は意地になったが如く黒猫を連発した。
「にゃんこせんせーさえいればまけないのにー」
「勝ち負けの問題か‥‥?」
 兵衛が言い差したその時、視界左下に、周囲と毛色の違う何かが見えた気がした。
 何か――その正体にいち早く気付いた透夜が、間髪入れず旋回する。
「ユダ増殖体‥‥あっちは俺が対処する!」
 高空から一息に増殖体の見えた艦の真下へ潜り込む透夜機。そこで漸く気付いた。増殖体が2体いる事に。だが止まれない。止まらない!
「やらせん‥‥この艦はアフリカの希望で、あの物資はこの先の道標なんでな!」
 透夜機が砲弾をばら撒き、1体へ文字通り体当りする‥‥!

 一方ロッテは小鳥のロケランを頼りに再度地上へ舞い降り、先程の再現の如き破壊を陸のRCへ見舞った。そして素早く空へ戻ると、直後、小鳥機の砲口へ集束された光が一気に迸る。
「大きいの‥‥いきますからねぇー!」
 尾を引く絶叫と共に滅ぶキメラ。小鳥機がロッテ機と同高度まで下がる。
 が、その時。
『これ以上は‥‥作戦を敢行するしかありません‥‥っ』
 時間切れだと言うように輸送隊が高空からやって来た。隊後方にはHWの群、もはやどうしようもないのは明白だった。
「救援に‥‥行きますぅー!」
 速度と高度を上げて合流する小鳥機。ロッテは先程の周波数に合わせ、
「――陸の友軍へ。その場からでいいからジークルーネに向けて煙幕を‥‥ASAP!!」
 号令をかけると同時に、自らも艦の右舷下方に煙幕を焚いた。

 陸の友軍の煙幕は完全には艦に届かない。だが彼ら自身も手一杯の中で協力してくれたそれらは、艦底の半分程を覆う事に成功した。
 大量の白煙の上に乗り上げたような恰好の戦乙女。対空砲火を少しでも緩和できればそれだけ危険は少なくなる。
「撃たせません‥‥絶対に送り届けると決めたから! お願いします!」
 星之丞が覆いきれなかった部分に煙幕展開。那由他機の妨害装置がフル稼働、HWの機動を阻害する。那由他はその手応えを感じつつ大小2種のロケランを相次いで放った。爆発がジークルーネ上空を彩る。
 次いで愛梨機から放たれたフェザーミサイルが空を支配した。200の弾頭がほぼ同時に炸裂し、大気どころかそれを見る愛梨の心すら震わせる。
 それは、一瞬靄が晴れたようなそんな錯覚。
『お前がそんなんだと調子が狂う』
 何も考えてなさそうなくせに何かを貫き通せる、大キライな男のムカつく台詞。それが、一瞬だけ無防備になった心をそっと撫でた。
 ――ッ、そんなんとか、言うな!
「突入!」
 那由他機を先頭とした輸送隊が戦乙女上空へ進入する‥‥!

 艦底。
 巨大な艦に覆われ影になったそこで、透夜機影狼はユダ増殖体2体を圧倒する。
 弾幕で敵の動きを止め、同時に剣翼で敵を斬りつける。翔け抜けた影狼に2体の光線が降り注ぐが、透夜は意に介さず宙返り、時を惜しんで天地を逆さにしたまま集積砲を解き放った。
 雷鳴の如き砲声。一条の光が敵を瞬時に蒸発させる。
 透夜がもう1体へ同様の連撃を加えんとした時、残る敵は突如影狼に肉薄してきた。撥ね飛ばさんとする透夜だが、敵は剣翼に斬り裂かれながらもしがみ付いてくる。上下左右と機を揺らす透夜。敵が翼を伝って風防へ迫る。透夜がペダルを踏み込みブースト、急降下した――と思った直後、唐突に急制動をかけた。勢い余った敵が剥がれる。
「終りだ!」
 再装填された集積砲が、体勢の崩れた敵を灼き尽す!
「‥‥HWどもと連携していれば苦戦したかもしれんが」
 たった2体にやられる訳にはいかない。
 透夜は驕る事なく高空へ戻る。

 南へ一定速度で徐行する戦乙女の後部甲板に、4機のクノスペがアプローチする。
 緊張の瞬間だが、それは大量のミサイルで生まれた隙を衝いた為、何事もなく成功した。が、相前後して物資を投下せんとしたハーキュリーズは、
「しまっ‥‥!?」
 煙が溢れ返る戦場だからこそ接近も許してしまう。いつの間にか右翼から迫っていたHWのプロトン砲が、星之丞機ごとハーキュリーズを直撃した。
 爆散する機体。星之丞機からも夥しい量の黒煙。彼の無念を表すように最後の銃弾がHWを貫き、敵応射が骸龍を破壊した。だが気遣う余裕もない。冥華が愛梨班を急襲せんとしていたタロスにAAMを放つ。
「おべんとーのじゃまするなー」
「多少甲板が混乱しても構わん、一刻も早く収容させねば!」
 兵衛機、さらに小鳥機が援護に回り、遠めにロッテ機も集まってくる。敵は右翼にHW2、前方にタロス1。左下方からキメラ群も迫りつつある。第二陣が逆噴射と補助翼制御で垂直着艦に移行した。
 HWから光線の嵐。小鳥機が射線に入って庇おうとするが物量が違う。幾条もの奔流が輸送隊を襲い、1機が爆散した。さらに無理が祟ったか、小鳥機も黒煙を噴き高度を下げる。
「っ‥‥ロッテ‥‥さんー‥‥」
「必ず目的は果たすわ‥‥!」
 入れ違いに直掩に入るロッテ機ブルー。兵衛機が弾幕でHWを分断すると、那由他、ロッテと合わせてHWを落とす。前方、タロスが艦に砲口を向けた。冥華が咄嗟に艦首へ急行して最後の黒猫ミサイルを放つ。
「いじめっこはあっちいけー」
 それは過たずタロスを直撃するが、標的を冥華に変えた敵光線が逆に冥華機に致命的損害を与えた。墜ちゆく冥華機。しかし冥華はその中で、1つの通信を聞いた。
 今、第二陣が着艦した、と。
 計7機が着艦した事になる。焼け石に水かもしれないが、それなら元々保有していた分と合わせて少なくとも今日明日は保つ筈だ。
『FOX2、艦載機及び傭兵各機は急ぎ退避せよ』
 ジークルーネからの通信。
 各機が慌てて艦の真下等に避難すると、彼らの眼前で戦乙女が一斉に圧倒的な量のミサイルを吐き出した。全周に広がる破壊が敵を落とし、あるいは遠ざける。
 そして戦場に訪れた奇妙な空白。その、ここしかないというタイミングを活かし、
『全速前進! ここを突破する!』
 ジークルーネが再始動した。満身創痍の傭兵達も、戦乙女に先導されるように加速する。
 そうして暫く。依頼を果たした彼らは這う這うの体で着艦して初めて一息ついたのだった。

 かくして包囲を突破したジークルーネ。彼女は休む間もなく剣を掲げ、南進する‥‥。