タイトル:【AL】要塞の胎動マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/19 01:11

●オープニング本文


「そっち、お前のそいつでバラしてくれー」
「りょうかーい!」
 アフリカ北岸、ピエトロ・バリウス要塞、南に面した外縁部。
 生身の兵卒が腕を掲げて言うと、軍の能力者はロジーナを操って慎重に不要な瓦礫や中途半端に残った外壁を崩し始める。
 重機や人の声や、様々な騒音がひしめく現場。
 今もなお前線では敵との一進一退の攻防が続いているだろう。なればこそ一刻も早く、少なくとも外見上だけでもUPCアフリカ軍の象徴を元通りにせねばならない。
「ォライッ、ォライッ! うぇいうぇーい!」
 妙なテンションの整備兵が不思議な掛け声を上げる。
 ララ・ブラント少尉はそれを斜に見る。大型プロトン砲によって掘り返された滑走路の一部に砂やコンクリや何やかんやを流し込んでいるところだった。嘆息しながら小隊の部下に話しかけた。
「ああはならないよう、我々は粛々と作業を進めましょう」
「うぇーい!」
「‥‥」
「了解です! これだからパスタ野郎は‥‥」
「同僚への差別的発言は禁止です」
 ヤンチャな部下に肩を竦め、ララは自機へと向かった‥‥。

 一方で爆撃された中央部の一角も、とりあえず見た目だけはかなりのところまでまともになっていた。
 とはいえその一帯を通過させるあらゆるインフラ設備を整備しながらの再建の為、まだ完成には至っていないのだが。
「さて。これからどう反撃していくものか」
 中庭。破壊から再生へ向かう作業が見えるそこで、数人の軍人が顔を突き合わせていた。
 上は中佐から下は少尉まで。参謀畑の連中だった。彼らは皆、前線部隊に自ら志願しており、その為、意思疎通に余念がない。
「まず現状を整理すると‥‥」
 少尉が備忘録を読む。
 前線全体は押されつつも粘り強く抗戦している。またその中で、中央アフリカ付近にて孤軍奮闘を続けるジークルーネは非常にありがたい存在だった。が、それもいつまで続くか解らない。孤軍奮闘したおかげで、前線から若干突出気味になりやすいそうなのだ。戦力の目減りや補給等といった点が気になってくる。
 一方で海に目を転じると、大西洋はアメリカでの大規模作戦や他の何かにも起因しているのか、敵の警戒が薄いらしい。罠という可能性も考えられなくはないが‥‥。
「基本は北から面で抗戦しつつどこか一ヶ所で突破、敵内部をかき乱して押し返すとの方針で現在進んでおります。また海よりの迂回、上陸作戦も検討中ではあります」
 少尉が締めくくる。中佐が咳払いして言う。
「敵は――いや我が方もだが、広大な地の全てにひしめいている訳ではない、筈だ。まず前線で取っ掛かりを作りさえすれば、後は潮が引くように失地を回復していけるだろう」
「取っ掛かり‥‥電撃的に突っ込むか? 傭兵を含めて」
「うむ‥‥」
 眉を寄せ、思案する彼ら。中尉が愚痴っぽくため息をついた。
「海軍はどうなるか‥‥我々の誰か1人でも向こうに行けたらよかったのだが」
「少将も戦死なさり、上級士官の数がいよいよ足りなくなってきたのでは? となれば陸から人材を出す訳にいかん」
「人材不足か。確かに『ネーリング』少将が戦死したとなるとな」
「我が軍にバイエルラインだのロンメルだのというファミリーネームの者がいるか調べておくか。死なんよう警告してやらねば」
 疲れたような乾いた笑いが中庭に響く。中佐がともかく、と手を叩く。
「ともかく、我々がここにいられるうちにもっと詰めねば。然る後に前線へ向かえば、幅広い連携ができるだろう」
 彼らは頷き合い、再び議論に入った。

 要塞の一角に慰霊碑――と呼ぶには簡素すぎるそれがあった。
 先の襲撃で命を落とした者達の魂を導く、という名目で、生きている者達の心を慰め、奮い立たせる為の慰霊碑。
 誰かがいつの間にか個人的に建てたらしいが、上層部もそれを黙認していた。
「一段落したら俺がより立派なものにしてやるからな」
 その前で、正装した1人の軍人がきびきびと敬礼する。
 騒然とした外壁再建の声が、こちらにまで聞こえてくる。そんな、雰囲気も何もあったものではない場所。それなのに石の前に立つと何故か肌に電流が走るような感覚を覚えてしまうのだから、人間とは不思議なものだ。
 腕を下ろし、踵を返す軍人。
 彼は靴の音を高く鳴らし、外壁の方へ駆け足で向かった‥‥。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA

●リプレイ本文

 控えめな作業音が響く黎明。愛梨(gb5765)は独り小さな慰霊碑の前に佇んでいた。
「誰が作ったんだろ。こんな」
 こんな、ここに来れば『赦された』と言い訳できてしまう物を。
 ――なんて、ね。
 夜明け前の冷たい風がスカートを弄ぶ。黒髪が揺れた。
 勿論自分が全てを背負ってるとか守れなくてごめんとか、そんな大層な事、思える筈がない。でも自分が居合せた戦闘で、また人が死んだ。その事実が、心を蝕む。軍人でもなければ大人でもない、能力者以上オトナ未満の自分だから。
 能力者だから抗えて、オトナ未満だから割り切れない。だから慰霊碑すら素直に見れない。
 そんな自分を自覚して、愛梨は口角を歪めてみた。同僚の植松・カルマ(ga8288)がやるような、自分を敢えて貶める、そんな自嘲。
「『心安らかに眠れますように』」
 ――忘れない、絶対に。
 愛梨はじっと碑を見つめ、露悪的な棒読みで祈りを捧げた。

●外のお仕事
「生身でやるには面倒だけどKVじゃ手が届かない、そういう部分は遠慮なく私達に回して。その為にいるんだから‥‥」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)が声を張り上げると、付近の作業員がうーいと返事した。ロッテは周囲を見回し、KVに駆け寄る。
「ざっと大まかにやって。細かい所は私が処理するから」
『了解』
 プロトン砲で半ば蒸発するように消し飛んだ外壁が崩され、朦々と煙を上げる。ロッテは瓦礫を砕いて担ぐと、トラックの荷台に乗せた。
 その脇を幸臼・小鳥(ga0067)がせっせと通り過ぎる。体操服で台車を押して走る姿は青春ドラマのけなげな少女のようだ。
「あ、小鳥‥‥」
「っ!? 何‥‥ですにゃぁあぁっ!?」
 ごづっ。
 咄嗟に止まろうとして台車に引っ張られ、盛大に前へダイブする小鳥である。何かこう、剣や銃より生々しい音がした。
「‥‥あ、ごめんなさい」
「っ、ぅううぅー‥‥! 折角‥‥転ばないように‥‥してたんですよぉー‥‥!」
 涙目で訴える小鳥にロッテも苦笑を隠せない。しかし小鳥はめげない子。立ち上がって懐のオヤツが無事なのを確認すると、再び台車を押して駆け出した。
「前回の‥‥責任もありますし‥‥頑張ってお仕事するのですぅっ」
 そんな小鳥を見、ロッテも気合を入れる。
 頬をひくつかせて苦手な「笑顔」を無理矢理作ると、片手を挙げて近くの軍人に、
「お疲れ様」
「ひ‥‥つかれっす」
「‥‥」
 一瞬びくぅっと軍人が顔を強張らせたのを感じ、秘かに凹むロッテ。気を取り直し、彼女は瓦礫を持ち上げた。
「手伝うわ。少しでも早く万全の状態にして戦えるようにしないと、ね」

 サイズで仕分けされた大量の瓦礫を前に、月影・透夜(ga1806)は数人の兵と話していた。
「そういえば」
「ん?」
「先日の礼を言ってなかったからな。‥‥ありがとう。空で『共に』戦ってくれて」
「あー、まぁ。こ、ここの皆が不信感持ってる訳じゃねえし。皆が信頼してる訳でもねえけど」
 端正な顔立ちで鋭い眼光の猛者。そんな透夜に頭を下げられ、軍の能力者も居心地が悪いらしい。頭を掻き、そんな事よりと話を変えてきた。
「コレ、どうすんだ」
「ああ。バリケードか何かに使えないかと思ってな」
 透夜が工兵に向き直る。
 折角だから外壁のさらに外に積み上げるか何かすれば、一度砕いて再成形するよりいいのではないか。
 工兵が思案する。そして、再利用という観点で透夜の提案は日の目を見た。
「幸いこの辺は礫砂漠。南面の所々に堀を作り、そこで利用するのはいいかもしれん」
「了解。ではこの瓦礫は一ヶ所に纏めておこう」
 透夜は言うや、袖を捲って豪力発現した。

 一方滑走路の方では2機のロジーナが踊るように修復作業していた。
「ご指名あッりがとうございまッすイケメンですフゥ――ッ!!」
「うぇーい植まっちゃん、こっちゃこっちゃ!」
「うぇーい! 斜め45度! 斜め45度!」
「ォライ! ォライ!」
「うぇいうぇーす!」
「うぃー」
「う」『煩いぞ貴様らァ!!』
 バケツリレーの如く何かを手渡ししていた2機が途端に固まる。ロジーナがそちらを向くと、そこには。
『黙って仕事、しましょう』
 敢えて優しく微笑むララがいた。逆に怖い。
「‥‥あ、はい、サーセン」
 意気消沈したように操縦桿を傾けるカルマ。
 のろのろ動くロジーナは、底知れぬ哀愁を漂わせていた‥‥。

●中のお仕事
「ロジーナ。ロジーナか‥‥」
 機内でエイミー・H・メイヤー(gb5994)が心なしか上ずった声で呟く。
 エイミーが操縦桿を傾けると、彼女が普段聞く音とは少し違う粗暴な駆動音が響き、無骨な腕がコンクリを持ち上げた。その間に片手で管を設置。水道や電気、通信等を詰め込んだそれは意外に大きく、まさにKVの出番だった。
「愛梨嬢」
「解ってる。少し待ってて」
 設計図に従い、愛梨が通路の下に潜って目視で管の位置を確かめる。暗く埃っぽい空気が陰鬱な雰囲気を醸し出す。が。
「冥華ちっちゃいからそっちのがとくい。愛梨、こーたい」
 背後にひょーいと降り立つ舞 冥華(gb4521)。AU‐KVを装備していてさえ一目で解る言動は正直凄い。
 冥華が来た途端に埃が雲散霧消したような感覚を覚えた愛梨は、温かい何かが胸に芽生えるのを自覚して振り返った。
「じゃあお願い。管の中も破損がないか見といて」
「まかされた。愛梨は上できょーいてきなばかぢからをはっきしとけー」
「ばっ‥‥え、あたし貶される流れ!?」
「みるからに」
「あたしのあったかい気持ち返して! てかさっさと作業!」
「ん」
 掴み所のない冥華。愛梨は投げやりに上へ戻った。

 通路では四つん這いで待機させたロジーナの脹脛にエイミーがちょこんと腰掛けていた。天井は未完成の為、柔らかい日差しが辺りを照らす。
 目を細めて愛梨が訊く。
「作業は?」
「監督が設計図と睨めっこ中だよ。こっちは早さより正確さが求められるからね。ところで」
 覚醒を解き寛ぐエイミー。愛梨が足元に来ると、エイミーは飛び降りて愛梨に触れそうな程近付く。
「普段と違う機体に乗るのは面白いよ! ロジーナの安定感、かな。反応は鈍いけどそこが可愛いんだ」
「う、うん?」
「まぁあたしのRosen Ritterが1番だけどね。でもこれはこれでいいんだよ」
「ちょ、くっつかない!」
 KV愛を語りながら愛梨に絡みつくエイミーである。
 愛梨はエイミーを引き剥がせないまま、現場監督の許へ行く。そして怪訝そうな監督に愛梨が提案した。
「地下シェルター‥‥は、流石にある、かな。じゃあ予備通信網とか作れば?」

●おやつの時間
 赤ずきんもとい猫ずきんちゃん宜しく、体操服に猫耳ふーどで菓子を配る小鳥。飴玉やチョコ等の小物だが、少女が配るだけでその価値は数倍に跳ね上がる。
「この前怪我した‥‥お詫びですぅー。皆さん‥‥どうぞぉー」
「チビ嬢ちゃんじゃなくてよ、俺の母ちゃんみてぇな良い女はいねぇのかい」
「ちび‥‥」
 凹む小鳥である。
 ともあれ丁度良い頃合だと大休止に入る外壁組。フラフラと小鳥が歩くのを透夜が見つけ、後を追う。
 あっちで菓子を配ればこっちで飴を頬張る。目的もなく小鳥が彷徨った先にいたのは、顔馴染みの傭兵だった。
「アロンソさん‥‥ですぅー!?」
「ぅげほっ!?」
 突然の再会に咽せるアロンソ。小鳥と透夜が歩み寄ると、彼は手を挙げて再会を喜んだ。透夜が労う。
「来て早々大変だったな」
「まあ、来た甲斐があるというか」
 アロンソは苦笑し、小鳥に「すっかり怪我も治って良かった」と声をかけた。小鳥がえへんと薄い胸を張る。
「日々のごはんの‥‥おかげですぅー」
「そ、そうか」
「で、お前は今後どうするんだ。このまま軍に帯同するつもりか?」
 何気なく訊く透夜。アロンソが首肯すると、途端に透夜は双眸を細めた。
「スペインとは違った覚悟がいるぞ。解ってるな」
「‥‥ああ」
「そ‥‥」「だったら、頼りにさせてもらうわよ」
 透夜が返すより早く、3人の後ろから声が聞こえてきた。振り向くとそこにはロッテの姿。
 正面から交錯する視線。ロッテが銀糸の先をくりくりと指で弄る。アロンソが「よし任された」としたり顔で宣言すると、ロッテと透夜が同時にツッこんだ。
「「調子に乗るな」」

「良ければ相談に参加させて下さい‥‥」
 要塞中庭。
 傾きかけた太陽の下で会議していた参謀達に、終夜・無月(ga3084)が声をかけた。傭兵大尉の階級章が襟元で煌く。参謀が軽く敬礼して迎えた。
「随分とご活躍のようですな」
「仲間と共に得た勲章、ですが」
「ではその経験によると閣下、もといバリウス相手にどう戦いますかな」
「‥‥まずは戦線を押し上げる必要があるかと」
 無月が自身の考えを披露する。
 曰く、戦線全体をジークルーネの線まで持っていく。曰く、その間にUK級かそれに準ずる戦力を以て南アフリカのどこかに揚陸し挟撃する。
 成程それは確かに理想ではある。が、
「して、どのように戦線を押し上げる算段が」
 その理想の為の具体的方策を出すのが、参謀の会議だ。無月にはその案が欠けていた。
 顎に手を当て思案する無月。と、そこに、
「あたっ」
 どべちゃーと頭から転んで突っ込んできたAU‐KV。参謀の目前で資材をぶちまけた。
「むむ、冥華はなしのこしおった?」
「いえいえ。君も加わりますかな」
「ん、よく分かんないけどきくだけきーてもいー」
 厳つい参謀と無月に、冥華。その妙な組合せは作業中の愛梨達の興味も引き、かくして不思議な青空会議が始まった。
 現状を再度説明する参謀少尉。話が終る前に冥華が訊く。
「じーくるーね? がお腹へってるってこと?」
「ま、まぁ、そうですね」
「じゃあ冥華がごはんはこべばいー?」
「それはそうですが、もしかしたら敵中を突破する事になるかも」
「せんしゃーでとっぱする。せんしゃーはちじょーさいきょー」
「は、はぁ」
 苦笑する少尉。エイミーが「あたしもよく解らないけど」と口を開く。
「あたしは‥‥普通の学生だったから。警察の人とか軍人さんとか、ヒーローだったよ。だからどんな事をするにしても、やっぱりヒーローであってほしい。市民の為の、絶対のヒーロー」
 少女の無垢な思い。それは鼻で嗤おうと思えば簡単な事で、だからこそ見失いがちな原点でもある。
 中庭に自然な笑い声が溢れた。僅かに唇を尖らせるエイミー。その肩に愛梨が触れた。
「イイ事言ったんじゃない? 相手がそんな綺麗事に付き合うとは限らないけど」
 純粋な分析として、愛梨が言う。
 敵の1人、ドゥアーギは確実に搦め手でくる。他にバリウス腹心の部下もおり、一筋縄ではいかない筈だと。
「例えば強烈なトップダウンを敷けてない隙を衝くとか」
「意思決定の遅れやブレ?」
「具体的には解らないけど。そういう裏をかかれた時の備えは必要だと思う」
 会議は踊る事なく続く。
 そして気付いた時には、茜色の太陽が彼らを照らしていた。

「少尉サーン、俺とティータイムでうぇいうぇいし」「結構です」
 相変らずばっさり切られるカルマである。
 夕空の下、作業を指揮するララ。カルマの方は滑走路でのKVの仕事が一旦なくなり、休憩中だった。変らず絡んでくるカルマに、ララが胡乱な視線を向ける。
「や、この前も模擬戦ン時も世話になったんで、お礼でも言っとくかーって」
「それはお互い様です。礼には及びません」
「ぐぬぬ」糸口も掴めずカルマが臍を噛む。「‥‥で。やっぱ少尉サンは『ヒメ? 小娘が、一発シメたる!』とか思ってんスかね」
 挙句、ストレートに切り出した。ララが唖然としてファイルを落しそうになった。首を横に振った上で返す。
「そこまでは。ただ、一度痛い目に遭った方がいいとは思います」
 何か思うところがあるのか、目を細めて嘆息するララ。カルマがうんうんと尤もらしく唸ってみる。
「アー、まー。でもなんつーか。そーいうのがあるからこそ理想に突っ走れるってのもあると思うんスよね。若さ? 的な?」
「時としてそれが必要な事はあります。しかしそれの行き着く先は大概が破滅でしょう」
「え、破滅とか俺がぶった斬るし。なんつって」
「なんつって、をつけずに言えれば少しは安心できますが」
 ジト目でカルマを睨むララ。
 作業音が響く。夕闇が迫る。そんな狭間だからこそ、カルマは言葉を紡ぐ事に成功した。
「‥‥俺ァあの人に生きる意味を貰ったんス。目の前しか見れねーチンピラでも、あの人を守れりゃあの人の描く未来まで守れたって事になるんスから」
 こんな事直接言っちゃ怒られそうスけど。
 カルマが頭を叩いて苦笑する。じっと見定めんとするララの視線。目を逸らしたくなるのを辛うじて堪え――瞼を閉じた。
 堪え切れずへらへら笑う自分になりたくなかったから。
「俺はあの人と同じ地平に立ちたい。描く未来を一緒に見たい」
 そんな弱さと強さはきっとララに見透かされたに違いない。彼女は言った。
「それならまず、目を開けてそう言えるようになる事です」

●永き休暇
 日没し、作業を夜の者と交代する時間。彼らは小さな慰霊碑と対面していた。
 弔いの花を持参したのは小鳥、透夜、エイミー。エイミーが昼のうちにこんな事もあろうかと作っておいた献花台を傍に置く。
 少し、歪んでいた。
「先にお掃除しよう。それまで待っていてほしい」
 小石が散乱した周辺を掃き、埃を被った碑を拭く。そして1番に、台に白い花束を横たえた。小鳥、透夜が続く。
 ささやかすぎる慰霊碑。夜目にぼんやり浮かぶそれを前に、彼らは十字を切った。
「なむなむ。冥華あいどるだから、これでもきーてねむれー」
 舌足らずな声で紡がれる子守唄。入祭唱なんて知らない冥華の、精一杯の鎮魂歌。
 お母さん。
 溢れる歌詞の一節に、エイミーは思いを馳せる。
 ――母なるアメリカも、父のドイツも、勿論ここアフリカも。全て、何もかも‥‥取り戻すよ。
 慰霊碑は静かに佇む。透夜がゆっくり近付き、ペットボトルの水を碑の前に置いた。
「酒でなくて悪いが、ここなら水だって同じくらい美味いだろう? 酒は、アフリカを奪還してからだ」
「1人でも犠牲になる人を減らして‥‥早くきちんとした慰霊碑を建てる為に‥‥必ず戦いを‥‥終らせますぅー」
 小鳥が胸の前で合せた両手を抱え込むように祈る。その頭をぽふと撫で、ロッテは決意を新たにした。
「貴方達の想いを胸に、往くわ‥‥」
 異星の脅威に曝されなくなる、その時まで。

 風に乗って舌足らずな子守唄が聞こえてくる。
 愛梨は要塞の外、木陰に慎ましく作られた小さな墓を、屈んだまま、まんじりと見ていた。
 大罪人が死刑執行を待つようなその姿は、彼女をよく知る者が見ればきっと声をかけただろう。彼女が自分を殺し、枷をはめる時はいつもそうやって脳裏に焼き付けているから。
「あたしの顔、見たくないかな」
 ごめん。でも、必ずこの地は奪還するよ。
 それだって償いにならないと知りながら、愛梨は祈る。
 今、止まる事は、できないから。