タイトル:【AL】歩兵小隊と貴族娘マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/24 02:20

●オープニング本文


 太陽が燦々と輝き、優しい陽光がピエトロ・バリウス要塞に駐屯する人々に等しく降り注ぐ。
 軍港には地中海を渡ってきた輸送艦が並び、その中身を次々と吐き出していく。作業員達の掛け声が十重二十重と連なり、軍港はさながら市場のような活気に包まれていた。
 そんな中で輸送艦から降りてきた男は、まず最初に何をするか決めていたかのように深呼吸した。
「‥‥しかし、初めての本格的な渡航がチュニジアとは」
 大規模作戦に参戦する為に一時的に他国へ行った事はあるが、それは単なる遠征といった感覚でしかない。まさに「他国へ渡った」のは、彼にとって初めての事だった。
「ともかく、俺にできる事をやろう」
 故郷の為に。
 彼はそう独りごちると、相乗りさせてもらうべく、緊張した足取りで兵員輸送車に向かっていった。

 ◆◆◆◆◆

 ヒメ――リィカ・トローレ(gz0201)は柔らかな金糸を揺らして要塞の通路を歩いていた。フランスから取り寄せた菓子を要塞の一角に慎ましくまとめ置いた後、シャワーを浴びて身嗜みを整えて。
 そうして歩いていると、向かいの角に女性兵士が見えた。一分の隙もない所作で曲がってきたその兵士はそのままこちらに来て、普通にすれ違う――と思った直後、不意に声を掛けてきた。
「貴女は、確か菓子商の」
 立ち止まる。咄嗟に相手の襟元を見て、ヒメが如才なく微笑で応じた。
「‥‥、えぇ、そうですけれど。少尉さんに知られているとは、店の将来は安泰のようですね」
「ふふ、甘いものは大好きだから軍とは別のお店があるとありがたいわ」
 女性少尉はそう言ってショートボブの黒髪を撫でつけ、頬を緩めた。
 歩く姿はまさに「兵士」といった様子だったが、話してみるとなかなかどうして可愛らしい。おそらく27歳前後と思われるが、微笑む姿は普通の女子大生としか見えなかった。
「そう言っていただけると私も嬉しいです。‥‥では、少尉さんも頑張って下さいね」
 ヒメが軽く目礼して立ち去ろうとした、その時。女性少尉は何とも申し訳なさそうに口を開いた。
「ところで。折り入ってお願いがあるのですが‥‥」

 翌日。ピエトロ・バリウス要塞より南方数十km地点。
 夕刻。橙の陽光が西から差し、人間や砂丘の影を色濃く伸ばす。
 そんな中で女性少尉――ララ・ブラント少尉が自身の所属する小隊の兵達の前に立って訓辞を垂れるのを、ヒメと傭兵達はじっと眺めていた。直立姿勢で部下を激励する姿は、ヒメが通路で雑談した時とは別人のようだ。
 ――それにしても、よくもまぁこんな事をお願いできたものね。
 彼女のお願いとは、お菓子のような甘いものではなく模擬戦の相手となる傭兵を雇ってほしいというものだった。それだけでも割と神経を疑うものだが、それに加えて彼女はヒメを神輿に指定してきた。つまり、ヒメがやられれば負け、という事だ。
『軍属の能力者等、ある程度偏った相手とばかり訓練しても、小隊の戦闘能力は向上しませんから』
 彼女の言葉は確かに正論のように思えるが、それならどこかの教導隊にお願いすればいいのではないだろうか。
 ヒメは脳内で疑問を覚えるが、とはいえ一度受けたものは仕方ない。こうなってはこの模擬戦を一心不乱に頑張るだけである。
「では‥‥開始時刻は1時間後の1700時。勝利条件等は説明の通りですので」
 ララ・ブラント少尉は振り返って敬礼すると、足早に離れていった。

▼周辺の略図(1km四方)
                     北
       ■×××■
     ■■××     トーチカ(傭兵側本営)
    ■■■
   ■■     ■■     ×
          ■■▲▲▲××
    ■■■    ▲▲▲××××          ■■
     ■■■    ××××       ▲▲  ■■■■
      ■■■  ××××××      ▲▲   ■■
            ×××                      ■■
            ××                      ■■
     ■■■   ×××       ▲▲ ××××
     ■■■             ××××××
                     ★

                     南
■:砂丘(移動・戦闘行動自体は可能)
▲:茂み(1m程度。移動・戦闘行動自体は可能)
×:岩盤(進入不可・攻撃も貫通不可)
★:一応相手小隊の本営とされる場所(開始時点でM1戦車1輌のみ辛うじて見えている)

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 衣擦れの音。熱い吐息。夕日が銃眼から差し込み、トーチカ内は蕩けそうな空気に満たされていた。
「たいそーふくなら‥‥動きやすいですぅ‥‥」
 幸臼・小鳥(ga0067)がブルマと腿の間に指を入れ、ぱつんと整える。隣でヒメが頬を染めた。
「おっきい」
「少々寒いかも、しれませんが‥‥」
 しゅる、とストールを手に取るラナ・ヴェクサー(gc1748)。むず痒い空気が3人を包み、誰ともなく喉を鳴らした。
 次の、瞬間。
「ヒっメさんもう終ったッスよねじゃ俺入――」
「入れない」
「ッひぎぃ!?」
 突入せんとした植松・カルマ(ga8288)を、予想済みとばかりヒメが銃床で殴り飛ばす。小鳥とラナはそれを眺め、思った。
 何故結果が解りきってる事をやらかすのか、と。

●状況開始
 開始3分前。
 ラナとヒメが互いに変装し、配置につく。
 クラリア・レスタント(gb4258)はそれを見届け、敵陣を見晴かした。
 ――何でリィカさんに依頼を‥‥腑に落ちない、けど‥‥単に何度も傭兵を雇ってるのを見ただけかも‥‥でも。
 堂々巡りを続けるクラリアの表情は固い。が、その疑惑はロッテ・ヴァステル(ga0066)、小鳥、ラナ、そして龍深城・我斬(ga8283)も同様に感じていた。
「クラリア、またアフリカで一緒の班なんてな。よろしく頼むぜ」
「あ、はい。しっかり強化人間役を務めましょう」
 クラリアよりやや東に我斬。我斬は「強化人間?」と訊き返した。
「はい。対強化人間を想定してるのでは、と」
「ああ、確かにな」
 我斬が頷いたその時、南から号砲が響いた。次いで南西から砲声。南は開始の合図。西は‥‥適当に撃ったのか?
 警戒する2人。担当は、2人で当るには広すぎるトーチカ正面だ。
「なら最強の強化人間を演じてやるか」
「です」
 クラリアが淡く笑い、覚醒する。懐から闇色の仮面を取り、徐に顔を覆った。
「‥‥我ながら悪役っぽいなぁ」
 クラリアがある種余裕を感じさせる苦笑を見せた。が、その笑みは凍りつく事になる。何故なら。
『Attacke!』
 戦車1輌しか見えなかった南の地平線から、加えて全てのIFVが突撃してくるのが見えたからである。

「ララ少尉可愛かったなー、うん。是非ともお付き合いしたい」
 東を迂回しつつ、黒木 敬介(gc5024)。砂漠仕様の遮蔽ネットを羽織り周辺警戒する姿はまさにプロなのだが、言葉は妙に軽い。
 前を行くロッテが足を止めた。
「‥‥」
「?」
「‥‥いえ。頑張」
 言い差した直後、銃砲声が一面に木霊した。砂丘の影で見えないが、他班で戦闘が始まったらしい。ロッテと敬介が無言で駆け、稜線から中央を覗く。
 20名程の歩兵と6輌の車輌が入り乱れて突撃する光景が、そこにあった。
 我斬とクラリアが遠めから撃つ。歩兵が数人倒れた。IFVが機関銃弾をばら撒く。2人が砂を蹴って避けると、それを追って砂塵が舞った。
「流石激戦区の住人、歓迎が手厚いね」
「私達の役割を果たすわよ」
 加勢に行きたいのを堪え、2人が黙々と東を回って南下する。
 そうして暫く。2人は目論見通り、前方に敵を発見した。
「案の定、ね。此処からは進ませないわよ」
「4人か」
 さて個人の練度はどんなもんか、と敬介が不敵に笑い、窪みに屈んで敵を待つ。
 9、8‥‥鼓動を鎮め、雷光を溜める。4、3‥‥ロッテが短剣を握り、脚を引いた。1‥‥!
「Aller!」
 敵が踏み込んだ直後。ロッテの短剣が飛び敬介の銃が火を噴く。それらは正確に敵の胸を朱に染め、4人は残らず砂に倒れ伏した。
 あまりに呆気ない交戦。敬介が4人の傍に寄り、苛立たしげに目を細めた。
 ――この程度なのか?
 敬介の落胆を表すように銃口が真下を示す。直後。
「ッ敬介‥‥!」
 ロッテの警告。振り返った敬介の瞳に映ったのは、下段から伸び上がる白銀の一閃だった。

 砲声が轟き、砂丘が弾ける。
 開幕早々放たれた敵榴弾は、南西砂丘を赤く染めた。カルマが北西砂丘で即席の穴にヒメを隠し、口を開く。
「試射ッスかね」
「いや」
 その砂丘の麓――砂丘の谷底に仁王立ちする時任 絃也(ga0983)が無線で返す。視線の遥か先には戦車1輌と歩兵達。再び主砲が瞬き、榴弾を砂丘に降らせた。
「洗い出しだ。潜伏可能な場所に先制攻撃を仕掛けている」
「危険かも‥‥ですねぇー」
 砂塗れの小鳥がカルマ達と向かいの砂丘で身を起す。粛々と進む敵。絃也1人が姿を晒して敵を待つ。むしろ中央の喚声が気になる、そんな奇妙な緊迫感。
 そして主砲を小鳥の砂丘に向けた戦車が200m内に進入し、歩兵11人が追随して絃也と対峙した。
 刃の上を歩くような空気の中、絃也が機関銃を腰に据えた。
「1人相手に警戒するな。数で押せば1人2人は抜けられるだろう」
 その挑発には反応しない。が。
 砲炎!
「にゃっ!?」
 突如放たれた主砲を合図に、歩兵が絃也に殺到した。
 榴弾が小鳥の至近で破裂する。横殴りの塗料を浴びた小鳥が魔矢4本を引き絞り、戦車の前進を待ち続ける。蠢く無限軌道。戦車が距離を詰めた、瞬間。
「狙撃なら‥‥まかせろー、ですぅー。体操服の‥‥恨みですよぉー!」
 4本の魔矢が同時に天に放たれる。榴弾がもう1発。
 塗料まみれ。が、小鳥は意に介さずさらに射る。それは過たず戦車に朱を刻む!
「戦車‥‥撃破ですぅー!」
「了解」
 小鳥の報告に絃也が動く。
 今まで押されるまま後退してきた絃也が盛大に応射したのである。右から左、左から右。弾雨が砂漠を赤く染め、次々敵を屠る。敵が死の間際に放った手榴弾が4発破裂し、絃也の脚を染めた。
 白煙。それが晴れた時、そこに立っていたのは、
「無策で仲間を突っ込ませるとは、随分な真似をするのだな」
「上官の命令に従うのが、俺達だ」
 敵能力者2人と絃也。共に被弾は5。砂塵が風に舞い、絃也の視界を遮る。直後。
 敵が膂力に任せて手榴弾を左――ヒメ達の砂丘へ投擲した‥‥!

●中央突破
『Feuer!』
 ララがIFV内で無線に叫ぶ。
 傭兵2人は左右に散開して執拗にIFVを狙ってくる。隣の車が3、4と男の銃撃を浴びた。車載機関銃が唸るも男は車へ肉薄して回避。別のIFVが男を狙う。初弾命中。が、女がそのIFVに回り込み引鉄を引いた。
「我斬さんっ」
「心配すんな! っかしルール上仕方ないといえ手応え‥‥」
 咄嗟に交した会話が漏れ聞こえる。外の18名による弾幕が2人を追うが、2人は巧みに躱し、盾で防いでくる。男が何かを放ると、数秒して塗料の雨が叩きつけられた。が。
『全IFV、突撃開始!』
『Jawohl!』
 ララの号令で5輌のIFVがトーチカへ押し寄せる!

 手榴弾で外の歩兵の殆どを倒した我斬は、クラリアとの間隙を衝くIFVを睨みつけた。残った歩兵は捨て置き、迅雷で車に迫る。左を見るとクラリアは瞬く間に岩盤を駆け上って高所から閃光弾を投下し、歩兵を牽制。即座に岩盤を飛び越え車の追跡に回るところだった。
「クラリアは前へ、俺はこのまま突っ込む!」
「はい!」
 我斬がSMGを撃ちまくる。最後尾が赤く染まった。トーチカまでまだ150m。いける。
 そう思った時、車から影が飛び出してきた。影は中空で回転し、こちらに何かを向――!?
「うお!?」
 間一髪。銃声と同時に横に飛んだ我斬の斜め後ろの砂が朱に染まった。影が着地し、大口径を我斬に向けた。影――ララの黒髪が西日に映える。
「小隊各員へ。これより私は戦闘に入る。各員は全力を以て敵本営を占拠せよ」
「‥‥計算づくの団体行動を相手すんのは苦手なんだがな」
「では付き合って頂きます」
 1輌が動きを止め、残り4輌がトーチカ一直線。我斬は眼前のララと背後の戦車に意識を集中した。
「ハ、少尉サマに相手してもらえて」舌打ちするや、徐に飛び込む! 「光栄だぜ!」

 ラナは銃眼からライフルを突き出し、確実に先頭車を朱に染めていた。黄の塗料弾も用意していたが、この展開では使う必要もない。
 ――敵の狙いは‥‥端から此処。ヒメ君に変装‥‥したまま私が飛び出しても‥‥分散しない‥‥か。
 4発目を撃ったところでラナはいちいちボルトを引かねばならない長物を放り、超機械を手にトーチカから躍り出た。
「機動戦‥‥嫌いでは、ありません‥‥」
 白鴉から迸る雷光が先頭のタイヤを破裂させる。先頭車脱落。それを押し退けてくるIFV3輌。クラリアが西から追い縋ってくるのが見えた。ラナはトーチカ正面で白鴉を構える。夥しい量の銃弾が敵機関銃から吐き出され、蛇の如く砂を巻き上げラナに迫った。半身ずらす。2歩右へ。上半身を屈め砂を踏み締めた。
「ここは‥‥通しません」
「間に、合え‥‥!」
 ラナに次々撃ち込まれる塗料。ラナは最小限の挙動で正面から敵を止める。被弾6。クラリアが西に膨らんだ車を撃ちまくる。咄嗟にラナが合せて1輌撃破。さらに被弾。クラリアが漸くラナと合流した。
 本営前に並び立つ2人。IFV2輌が逡巡したように速度を落す。ラナが練成治療する間に車から2つの影が飛び降りてきた。
「‥‥絶体絶命、ですね」
「‥‥接近戦が領分、ですので‥‥。少し、本気を出しますか‥‥っ」
 IFV2輌と影――おそらく能力者2人。
 クラリアとラナは近接武器をいつでも抜けるよう意識し、能力者を牽制しながらIFVを優先撃破するという難題に挑もうとしていた。

●両翼奮闘
 一筋の煌きが敬介を朱に染める。翻って二閃三閃!
「ッ!」
 呼気鋭く迫る刃。敵は流れるように体を揺らし、刃を繰り出してくる。4連撃をまともに喰らい、敬介は堪らず獅子牡丹を抜き様に一閃する。ロッテが敵背後から回し蹴りを叩き込むと、敵は砂を滑って距離を取った。
 敵が逆手の小太刀を体で隠す。ロッテが腰を落して脚を溜めた。
「死体に擬装、ね。その善悪は置くとして。流石に優秀だわ」
「‥‥」
「でも!」
 ロッテが爆ぜる。敵が沈む。両者の刃が激突激突、ロッテが砂ごと敵を蹴り上げる!
「敬介!」
 回り込んで銃撃する敬介。5つの紅が敵に咲き、ロッテがさらにラッシュをかける。
 小太刀と体で受ける敵。大跳躍から手榴弾をこちらに投下してきた。伏せる2人。敵が着地、立て直す暇なく敬介に肉薄する!
「次は俺かい。わざわざサムライの国からその子孫が来たんだ。折角だし存分に斬り合おうか!」
 獅子牡丹を振り下す敬介。敵が左腕で受けたと思うや金属音が響き、袖から鉄の棒が見えた。敬介がしゃがむ。頭上スレスレを過る小太刀。敬介が刹那の一撃を斬り上げ、下す。乾坤一擲、敵が左と右を同時に繰り出した。敬介が刀で受け――
「なんつって」
 る、寸前。
 盾を手放すと同時に左手を懐に入れ、再び動いた時には至近から敵の胸を撃っていた。
「‥‥ま。何をしてでも目的を果たす。そんな気概は伝わってきた、かもね」
 敵が倒れ、敬介が立ち上がる。飄々とした彼の表情を見、ロッテは苦虫を噛み潰したように言った。
「いい性格してるわ」

「リィカちゃん!」
 カルマは宙に何かが投擲されたのを見た瞬間には、ヒメを押し倒していた。
「植ま‥‥っ」
 ヒメが口を開くより先に、敵手榴弾が砂丘上空で破裂した。
 砂を染める赤。頭を、背を濡らすカルマ。一瞬の爆発が収まりカルマが目を開ける。そこには、窪みに押し込められたままじっと見上げるヒメがいた。
「大丈夫スか」
「ええ」
 吐息が首筋にかかる。アプリコットの香りが鼻腔を擽る。カルマが視線を外して立ち上が――れなかった。ヒメの手がカルマの襟を掴み、引き寄せられる。
「‥‥私、自分で伏せられた」
 先日も覆い被された。今回は仕方ないかもしれない。でも、そんな世話焼かないで。
 ヒメの双眸は雄弁にそれを語る。カルマは視線を戻し、額をつけた。唇が触れそうで、鼓動が伝わる距離感。
「解ってるスよ」
「信じてない」
「信じてる。だから今俺、敵に背ぇ向けてんじゃん」
「‥‥」
「俺の背中は任せた! ‥‥やっべ、俺カッコよすぎね?」
「‥‥ばーか」
 額を離し、口角を歪めるカルマ。ヒメは微笑して手榴弾を渡した。
「ん、仕事」
「うぇーい」
 身を起し、カルマはそれを投擲した。

 手榴弾が敵2人の頭上で炸裂する。絃也を牽制していた2人は敢えてそれを受け、絃也を迎え撃つ。
「良い判断だ」
「そりゃどうも」
 絃也の爪が煌く。敵の剣が踊る。小鳥が砂丘から敵後衛を狙うも、後衛は前衛と共に絃也を挟み込む。電磁波が絃也の脚を掠めた。絃也が後衛に体当り、蹴り上げミドル。転じて背後の剣を爪で受け、返して後衛を削る削る!
「いき‥‥ますよぉー!」
 小鳥の矢が前衛の腕を穿つ。敵が崩れた。その隙に絃也が後衛を攻める。超機械が絃也の腕を拘束。絃也は無理矢理ソバットの如く蹴り込んだ。敵がくずおれる。
 絃也が迅雷で距離を取り、機関銃を据えた。
「終りだ」
 小鳥の矢と絃也の弾幕。
 2種の攻撃に身を曝した敵は、絃也に接近するより先に被弾15を越えたのだった‥‥。

●決着
 盾の紋章が敵――ララの胸の前で輝く。我斬はそれを貫くように短剣を突き出した。
「ガーディアンね。厳ついクラスやってんな」
「隊員全ての命に責任を持つ。私に相応しい適性です」
 ララが銃剣を払う。躱す我斬。ステップの終端をララが狙った。神速の3連射が我斬を朱に染める。我斬が再度突撃――寸前、ララが跳び退った。同時に我斬を襲う榴弾。たたらを踏んだ我斬にララの銃撃銃撃。我斬が物ともせずララの着地点へ。短剣で払い、突き、肘打ちから左に持ち替え一閃。
 ララの体に幾筋もの朱が走る。我斬が止めを放ち、同時に戦車が機関銃を乱射した。振り向き様に我斬が撃ちまくる!
「‥‥私の勝利です」
「ま、俺は仲間を信じて待つさ」
 我斬、ララ、戦車。ほぼ同時に被弾限界を越えた彼らは苦笑して称え合った。

 何度目になるか。ラナは自身とクラリアの被弾を回復して敵を見据えた。
 IFV1輌撃破、1輌あと3発。能力者2人共あと10発前後。クラスはAAとPN。
 間合いを詰める敵。クラリアが車に銃撃するもPNが身を挺してそれを防ぐ。ラナがAAに向かう――と思わせタイヤに超機械を翳した。AAの斬撃がラナを吹っ飛ばす。体勢を崩したラナの電磁波は車上部を抉るに留まる。AAとPNが各々ラナとクラリアを抑えた。
「くっ‥‥」
 IFVが這う這うの体で本営へ走る。2人が眼前の敵を刃で薙ぎ、斬り上げ、弾く。IFVを見る2人。IFVはトーチカを壊して突っ込む勢いで加速し、突入――直前。
「敬介!」「人遣い荒いなぁ」
 間一髪救援に駆けつけた敬介の銃弾が、IFVに集中した‥‥!
『全壊』する車。クラリアとラナが相対する敵へ向かう。そして30秒後。
 2人は危なげなく敵を撃破したのだった。

<了>

 状況終了の号砲が響く。それを聞きつつ我斬はそういえば、とララに向き直った。
「何でこんな依頼を? 皆不審がってるぜ」
 尤もな疑問に、ララは悪戯がバレた少女の如く微笑んだ。
「お転婆な娘がいると聞き、凹ませてあげようか‥‥どうやら失敗のようですが」
 ララがトーチカの方に目を向けると、丁度貫禄充分の傭兵達がこちらに歩いてくるところだった‥‥。