タイトル:アンダルシアの奇襲マスター:京乃ゆらさ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/11 22:47

●オープニング本文


 スペイン、アンダルシア地方。
 戦線がアフリカに移動していくにつれ、ここに駐留する軍の数も縮小していく。そんな中でアロンソ・ビエル(gz0061)は、軍に帯同して巨木に擬態したキメラを探しながらアンダルシア各地の復興作業やキメラ退治に従事していた。
 ――【AC】も結構上首尾に終わって欧州も随分楽になった。俺はどうすべきか‥‥。
 アロンソが装甲兵員輸送車の後部に腰掛け、パンをかじる。小さなカップになみなみと注がれたココアで流し込み、深呼吸した。
「まずは取り逃したデカブツを片付けてから、だな」
 欧州の安全がかなりまで確保できた今、話題の宇宙進出に向けて1人の傭兵として何か手伝うのもいいかもしれない。あるいは現在は停戦しているものの、いつまた戦火を交えるかも知れないアフリカに渡るのもいいかもしれない。だが、それよりも何よりもまずは。
「おい、アロンソ。俺達が恋焦がれてケツを追い掛け回した女と、ようやっと再会できそうだぜ」
「了解。いい加減本気でオトさないと男の沽券に関わる」
「ハ、最初にヤツに特大のアレをぶち込むのは俺だけどな」
 M1戦車を操る同僚が下卑た笑みを見せ気勢を吐く。
 アロンソは自らが立ち止まって世界から取り残されるような焦燥感を胸の奥深くに仕舞い込むと、自らの愛銃を手に取った。

 大隊司令部。
 アロンソが指揮向けに改造された輸送車に乗り込み、広げられた地図を覗き見ると、幕僚が迸るように説明を始めた。
「今回発見できたのは残念ながら偶然としか言いようがない。よって我々は可及的速やかにこれを撃破せねばならん」
 場所はラ・マンチャとの州境、シエラ・モレナ山中。
 一際険しい一帯に潜伏していた巨木――兵卒による俗称『バーブ』は、秘かに少しずつ北上していた。それを討つという。時間はない。付近にいる傭兵を緊急招集して作戦を行う為、やはりKVを準備する余裕もない。有利な点と言えば奇襲できる事と、いつかの偵察で発見した敵弱点と思しきコアだった。
 ――敵は巨木だけに、懐にさえ入れば‥‥いや懐に入って慎重に戦えば。
 豊かに茂った敵の内部。幹を登った先の空間にあったという赤い核。過日そこを狙った傭兵は、敵の防衛機能とも呼べる攻撃の嵐に圧されて退却したが、前以てそれを知っていればきっと何とかなる筈だった。
「必要とあらば多少の空爆を要請する事もできる。無論、我々の戦車隊も全面的に戦闘に参加しよう。そこで君をはじめとした傭兵はその隙に敵へと肉薄し、ピンポイントに敵のコアを叩くのだ!」
「‥‥了解」
 自分に酔っているかのように喋る幕僚には感情的に若干引っ掛かるものがあるが、かといって敵を放置しておく事もできない。このまま行けば、敵はほぼ間違いなくラ・マンチャに侵入するのだから。
 ――俺の、故郷に‥‥!
「‥‥了解!」
 アロンソはもう一度返答して敬礼すると、足早に指揮車を後にした。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
幸臼・小鳥(ga0067
12歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
舞 冥華(gb4521
10歳・♀・HD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 樹が林立し、地が隆起した斜面。そんな斜面を戦車は排気煙を上げて進む。20輌による鉄の獣の横隊はそれだけで見る者を圧倒した。
「今作戦では、宜しくお願いします‥‥」
 指揮官の戦車無線を借り、ラナ・ヴェクサー(gc1748)が司令部と連絡を取る。相手は傭兵嫌いを隠す事なくにべもない態度で返した。
『うむ』
「空陸の‥‥協力要請の件ですが‥‥」
 空爆と戦車隊の方針を伝えるラナ。視界がチカチカする。懐に手をやるが、いつもの薬はない。爪を噛んで動悸を抑える。
『了解。諸君の健闘を祈る』
 ぶつ切りされる無線。ラナは荒い息を呑み、指揮官に目礼した。

「アロンソ、久し振り! 一緒に頑張ろうね」
 戦車の間、草を踏み分け勇姫 凛(ga5063)が声をかけると、アロンソは手を挙げて応えた。そのアロンソを、月影・透夜(ga1806)が「また頼む」と背を叩いて追い越していく。
 林に溶け込むように少しずつ北上しているらしい敵。この山を越えればラ・マンチャだけにアロンソも緊張を隠せなかった。
「必ず此処で仕留めるわよ‥‥北には貴方の故郷もあるし、ね」
「心強い、ロッテさん」
「心強い‥‥じゃないですぅー。変なフラグ立てたアロンソさんは‥‥後で折檻ですぅー」
 アロンソの肩に手を置くロッテ・ヴァステル(ga0066)と、唇を尖らせる幸臼・小鳥(ga0067)。舞 冥華(gb4521)が、
「ん、だいじょぶ。ちじょーさいきょーのせんしゃーがいっぱいいるから。あと冥華もちゅーいしとく」
 戦車があれば何でもできるとばかり薄い胸を張る。アロンソが苦笑した。
「いや、自分の身は自分で面倒見れるさ」
「でもあろんそけがさせるとこわい人いるー」
「‥‥それは私の事を言ってるのかしら」
 チラ見した視線がロッテと見事交錯し、がくがく震える冥華である。
 笑い声が響く一行。
 その声すら遮断し、鐘依 透(ga6282)は歩きながら自らの掌を見つめていた。魔剣が装備に当り、その音だけ透の耳に届く。
 ――デカブツ、か。‥‥ティルフィング‥‥力を、貸してほしい。
 己を見失わぬ力。不幸を振り払う力。その為に強くなりたい、それを忘れぬよう、深呼吸して胸の奥底に信念を落し込む透。智久 百合歌(ga4980)はそんな透を柔らかく眺めると、微笑してロッテ達に視線を向けた。
 ――皆若いわねぇ。
 人生の先輩ぶってみる百合歌だが、彼女こそ前回の雪辱を果たさんと秘かに誰よりも燃えているのは内緒だ。
「この辺で三方に散りましょ。報告によるとそろそろ判別できる筈」
 百合歌がパンと手を叩いて気を引き締めた。

●地上の攻防
 戦車隊が徐に停止する。葉の擦れる音が波のように伝播し、静かな山中に彩りを添えた。動物の声はない。あるのは戦の臭いだけ。
 木漏れ日の先の巨木。幹が異様に膨らんでいた。
「流石に前吹っ飛ばした部分は回復しているか」透夜が不敵に笑う。「なら、今回もぶち抜いてやるだけだ」
「魔弾が揃えば‥‥怖い物はないのですぅー!」
『各員砲撃用意』
 無機質な合図が無線に響く。

『‥‥5、4』
「せんしゃーの見せ場だから冥華すみっこでみてる」
「俺達もすぐ突入だけどな」
 アロンソが苦笑して冥華を立たせる。百合歌が左手のSMGを前に向けた。右の鬼蛍が剣呑に煌く。
「遅れないようにね♪」
 百合歌の翼が滑空するが如く畳まれる‥‥!

『3、2‥‥』
 腰を落す凛と透。ラナのイヤリングが彼女を守るように木漏れ日を反射した。無線が一瞬途切れ、直後、
『ッてぇー!』
 臓腑震わす轟音が沈黙を打ち砕いた。
 大気を揺らして迸る砲弾。19の鉄塊が巨木へ殺到する!
「行きます!」
 間髪入れず木陰を飛び出す3人。地響きのような敵の唸り声をBGMに、盛大に落葉を巻き上げて。
 ラナが眼前の蔓人間に銃弾を浴びせ、怯んだ敵を凛が大鎌で刈る。その空間に透が潜り込むや、魔剣で前方120度を薙いだ。凛の爆発的な脚力が地を縮め、小跳躍からの一閃が早くも頭上から飛来した萌芽の凶弾を引き裂く。
「どけっ、どんなに大きな相手だろうと、凛達は絶対に負けないんだからなっ!」
「目標‥‥まで‥‥」
 ラナの瞳が幾つかのルートを映し出す。うち、根の少なそうな方へ。蔓人間を適当にいなして空へ銃撃、破裂した萌芽から粘液が溢れた。それを浴びながら、波を打って肉薄してきた根を爪で払う。合せて透の斬撃が飛び、根が切断された。
 敵の呻き。オーボエの低音のような声が敵の動きを一気に活性化させた。
 根が畝ねる。葉が乱れ舞う。半身ずらして萌芽を躱したラナの脚を根が打ち付ける。凛がそれを断ち、3人は前のめりに進み続ける。
「お前の相手はこっちだ!」
 敵の攻撃が殺到する!

「舞さん、アロンソさん、大丈夫?」
 優美な調べを表現するかの如き百合歌の剣舞。近づく根が弾かれ、葉は刻まれ、枝は先端を贄に捧げる。萌芽弾をアロンソが撃ち落すと、バハムートを頼りに冥華が先頭で竜斬斧をぶん回した。
「ん、あぶない木は冥華がばさーい」
「巻き添えは勘弁してくれよ?」
「んー?」
 ずばんと凶悪な斧がアロンソ――の背後の蔓人間を両断した。渇いた笑みを漏らすアロンソである。
 が、今はとにかく前へ。蔓人間が2、3と集まるのを無視し、百合歌がガンガン敵の懐へ。3人を中心に大きくトグロを巻く根。その一角を百合歌は強引に唐竹割りでこじ開けた。冥華が水平に払って押し拡げる!
「ざくざく道づくりー」
「締められる前に外へ!」
 3人がトグロを抜けた直後、根が収縮した。それを見届ける事なく百合歌は駆け続ける。
「何というか‥‥実はムカついてたのか、百合歌サン」
 アロンソが再装填、2時方向の枝の根元に連射した。百合歌は正面にSMGをぶっ放すや、微笑を湛えて振り向いた。
「あら、心外ね。私は借りを返しに行くだけよ」
 その時、蠢く根の隙間から漸く幹の根元が見えた。敵の攻撃が目に見えて激しくなる。
 直後。
「さぁ、Vivacissimo!!」
 百合歌の合図が響き渡る!

『Vivacissimo!!』
 その声が無線に乗った瞬間、3つの影は爆ぜた。
 先頭ロッテ、真ん中が透夜。後尾を小鳥が追い縋り、それでもロッテと透夜は前を行く。
「透夜さん‥‥続けて私も‥‥行きますねぇー」
「前よりも大火力且つ連撃。今度こそぶち抜く!」
 最低限の迎撃以外、ただ愚直に敵の懐へ。ロッテが前に短剣投擲、蔓人間が怯んだ隙に脇を抜ける。小鳥の放った弾頭矢が枝の1本で小爆発した。ロッテが速度に乗る――寸前、前方、網目に組まれた根が嫌な音を立て突如変形した。
「散開!」
 左脚ミドルを敵先端に合せるロッテ。勢いを殺しきれず、しかし宙に固定された脚を軸に跳躍した。横っ飛びで躱す透夜。小鳥の左腕が削られる。ロッテは宙から短剣投擲、前宙からの踵落しで根を切断した。
「小鳥!」「ここを‥‥抜ければぁー!」
 射法を敢えて遵守した魔創の一矢。その一点が網目を突き破る!
「援護するわ。ぶちかましなさい、透夜‥‥!」
「おぉぉおおおぉおおおおお!!」
 両手の連翹を交差させ、体当りの如く突き進む透夜。ロッテの短剣が萌芽を打ち落す。網目に突っ込む直前、透夜が槍を十字に払った。
 斬。そして眼前に聳える、巨木の幹!
「盛大に吹き飛べ!!」
 連翹を1つに。透夜の刺突が幹に吸い込まれ――いや、もはや1つの砲弾となった透夜が幹に着弾した!
 轟音が辺りに木霊する。裏当ての如き紅の奔流が幹を突き抜け、直後、内側から爆ぜた。が。止まらぬ透夜。連翹を再度切り離し、目にも留まらぬ連撃が敵を襲う。3、4。半転して薙ぎ払う。小鳥が手一杯に弾頭矢を構え、流れるように射る射る!
「お釣は‥‥いらないぜ、なのですぅー!」
 連続する小爆発。断末魔の如き風の呻きが聞こえる。そして爆煙が晴れた時、目前には皮1枚で上部と根を繋げるだけの塵芥があるだけだった。
「粒子砲‥‥お願いしますぅー!」
 遂に樹上への道が拓かれる‥‥!

●樹上の攻防
 戦車から立ち上る硝煙が漂い、薄暗くなった山中。
 そこでじっと息を潜めてきた彼は、小鳥の合図に胸を躍らせた。やっと、出番だ。
『ん、べつにたおしちゃってもいーのよ?』
「ハ、それはあんたらに任せるよ」
 冥華に答え、彼は銃眼から敵を見据える。目標は敵中上部、仰角いっぱい。
「粒子砲、発射」
 むしろ慈悲すら覚えつつ、彼はそれを解き放った。

 断末魔を思わせる砲声と共に放たれた一条の光が一瞬で敵を貫き、空へ消えていく。
 山中の誰もがその光景を仰ぎ、同時に自身のスイッチを入れた。
「行け、ロッテ!」「了解」
 透夜の腕を踏み台に、ロッテが大きく跳躍する!

 透夜達、そして粒子砲の攻撃は敵編成にも多大なる衝撃を与えた。分散させられていた敵の攻撃目標が小鳥と透夜に向けられ、それはつまり他班の進攻をも容易にした。
「みちがひらいたー」
「良い子にしてるのよ、舞さんにアロンソさん」
「俺もかよ」
 薄く笑い、加速する百合歌。根が引くのを追うように根元まで到達するや、僅かな足場を頼りに跳ね上がった。一足遅れて凛、透が上っていく。
「頼む!」
「凛が絶対真っ二つにするからっ!」
 冥華とアロンソが根元に着き、小鳥と透夜に合流する。
 先にそこへ辿り着いていたラナは4人の前でカデンサに弾頭矢3本を巻くと、体を鞭のようにしならせて頭上へ投擲した。
 枝葉の間で光る赤球と、そこに吸い込まれる槍。着弾、小爆発。手元を離れただけに威力は期待できないが、先制攻撃としては上々だろう。
「さ、任務遂行‥‥させて頂きましょうか‥‥」
 ラナが幹を駆け上がる!

 なまじ先んじて跳躍しただけに、枝葉の乱舞がロッテに集中する。肩を貫かれ、辛うじて途中の枝に掴まった。葉が体を刻む。前後に体を振るロッテ。その横を百合歌、凛、透が駆け上っていく。
 ロッテが枝のしなりを利用して大車輪に移行し、そのまま上へ跳ね上がらんとする。枝がぐるりと伸びてきた。その枝を、やや上から百合歌が撃ちまくる!
「これでおあいこね」
「一気呵成にいきましょう!」
 銃声銃声。百合歌に続き透の斬撃。
 間隙。ロッテがそこに飛び込む。
「最後の‥‥詰め、です‥‥」
 ラナも加わり、5人が核を目指す!

「行ってしまい‥‥ましたねぇー」
「おいてけぼりー」
 冥華が心なしかしょぼんとしつつ、小鳥に同調する。それを見て取った根が足元からせり上がってきた。AU−KVごと絞め殺す勢いで冥華に巻きついたそれは、彼女が苦悶の声を上げるより早く透夜の餌食となった。
 一閃。紙一重で根のみを寸断される。
「油断するな。退路の確保は最も重要と言ってもいい。それに」透夜が幹を背に、次第に増えつつある蔓人間を睥睨した。「アロンソをやられるとロッテが怖い」
「わ、わた私もこ‥‥」「小鳥、伏せろ!」「にゃぁ!?」
 透夜が小鳥の頭を無理矢理押し下げるや、萌芽弾が真上で爆ぜた。粘液を浴びる4人。
「ッ‥‥酸か」
「根は根絶できるとして、枝がな」
 加速度的に増える蔓人間に加え、頭上からの攻撃は若干面倒だった。4人が至近の敵を倒した時、無線が響く。
『空爆、要請‥‥しますか‥‥?』
 ラナの声。上から様子を見たのだろう。が。
「まだいーかも? 冥華のばはむーとがひをふく」
 竜に騎乗した冥華がアクセル全開で駆け抜ける!

 枝葉に覆われた小さなドームに、粒子砲で穿たれた穴から一条の光が差す。幹に埋まった紅球が頭上で煌いた。
「二度目は」
 何の感慨もなくただ倒す為、百合歌が徐に跳んだ。合せてロッテが下から突っ込む。百合歌の銃撃がドーム周辺へばら撒かれる。
「油断しなくてよ」
 透の斬撃が乱れ飛ぶ。その牽制に枝が侵入できない。辛うじて射出した葉が次々飛来するが、その程度の傷など放置すればいい。百合歌が核の真上へ到達し、重力に任せて刀を振り下す!
「先日のお返し、たっぷりどうぞ!」
「力を貸して‥‥いや、使いこなす! 応えろ、ティルフィング!」
 百合歌と透、2つの斬撃が十字に交差する。口もない筈の敵から、悲鳴の如き思念が聞こえた。ロッテが下からサマーソルト、頂点で体を捻って前宙の要領で両脚の踵を敵に落した。
 枝4本が伸びてくる。ラナが即座に引鉄を引く引く引く。核の発した紅の照射が5人に降り注いだ。雷の如き垂直跳躍で緊急退避した透が宙で魔剣を袈裟斬り、転じて逆袈裟。斬撃が核に触れ、何かがパッと散った。
「いける!」
 後少しの感触。ラナが透の着地をフォローせんとして、急激に脳内が揺さぶられた。敵照射の影響か。いやこれは。
 ――此処、まで‥‥ですか‥‥。
 精神安定剤はない。揺れる視界と腕で必死に狙いをつけ、何とか引鉄を引く。弾丸は過たず透の周りの枝を穿った。百合歌とロッテが核へ攻撃を集中する。
 その、合間を縫って。ずっと精神を研ぎ澄ましてきた凛が、動いた。
「皆の想いを1つにして」
 縮地からの跳躍。大上段に大鎌を掲げた凛が、むしろ力を抜くように振り下す!
「これで終りなんだからなっ!」
『――■■‥‥』
 斬。断末魔の如き思念が頭に轟く。
 5人が振り仰ぐと、覆われていた枝葉が粉となって消えていく。
「偉大な森の肥料になりなさい――ラ・ソメイユ・ペジーブル」
 ロッテが独りごちた時、巨木の終焉を表すように足場がぐらりと揺れた。

●お勉強会開催のお知らせ
 大隊司令部。
 小星章を持参して昇進を願い出た凛とラナに、幕僚は露骨に顔を歪めた。
「彼の傭兵嫌いは筋金入りね」
 百合歌が観察するうち、仕方なく付近の基地に連絡を取る幕僚。凛とラナももはや苦笑しか出なかった。
「ところで」
 透夜がアロンソに向き直り、口を開く。
「焦ってなかったか。俺にはそう見えたが」
「‥‥」
 今さら隠しても無駄か、とアロンソが曖昧な表情で首肯する。とててと歩み寄り、静かに見上げる小鳥。透夜が「細かい話は後にするとして」と咳払いし、
「‥‥まぁ。お前が感じる事は皆も常に思っている事だと思う。だからお前は素直に行動すればいいんだ。一人前の傭兵として、な」
 圧倒的な経験の差。男は年ではなく経験で語られる。それをアロンソは実感した。
「‥‥あぁ」
「という訳で‥‥アロンソさんには地元で‥‥ご飯を奢ってもらいますぅー」
 ぐぐっと話に割り込む小鳥である。アロンソ、呆然。
「え。さっきまで良い話だったよな。あるぇー?」
「作戦開始前に‥‥変な事を言った‥‥お仕置きですぅー」
「それに、貴方もラ・マンチャに暫く帰ってないんでしょう。ほら、行くわよ」
「ん、ら・まんちゃいくー」
 ロッテが肩を掴んで引っ張ると、アロンソがひぃと悲鳴を上げた。
 笑みが零れる彼ら。そんな彼らを透は遠目に眺めていると、無性に、友達に会いたくなった。
「――」
「混ざらないの?」
「何にですか?」
「アロンソさんを狙って」
「えぇえ!?」
 クスと百合歌が笑う。と、そんな時。
 今までアロンソ達の傍で耳を傾けていた冥華が、一点の濁りもない純真な瞳でのたまった。
「でもら・まんちゃってどこ? うちゅー?」