●リプレイ本文
●船内
今回の合宿に参加した八人はカンパネラ学園に集合後、高速船に乗って島を目指していた。
船内では、轟 豪人によるサバイバルの講習が行われている。
(暑苦しい人だなぁ)
と思いつつも真面目に返事をするナンナ・オンスロート(
gb5838)。
「ふむふむ。美味しい野菜は痩せた土地で育ちます。過酷な環境は、強い人間を育てる。‥‥そうですよね、先生」
講習を受け、素直に感心しているのはベラルーシ・リャホフ(
gc0049)だ。他の参加者もいつもの環境とは違った場所で過ごすことを楽しみにしているみたいだ。そんな中‥‥。
「先生!お願いです!武器の他に照明銃の携帯許可をお願いします!」
必死に懇願している者がいる。日野 竜彦(
gb6596)だ。彼は昔、同じようなサバイバルを行ったのだが、その時には大変な思いをしたのだ。‥‥仲間の手によって。
「もし万が一!大変なことがあったら大変です!すぐ先生たちに助けを求める意味でも!照明銃を!」
豪人に対して、男性にしては綺麗な顔を潤ませ、上目遣いで懇願する。豪人には色仕掛け(?)は通用しないのだが、学生の言うことも一理はある。
「仕方ない。緊急時のみ、使用を許可しよう」
「ありがとうございます!」
ほっと胸を撫で下ろす竜彦。
(うーん。今回の合宿‥‥無傷ではすまへんやろなぁ)
竜彦の様子と集まったメンバーを見て、キヨシ(
gb5991)はそう思った。
こうして、合宿は始まった。
●一日目。
参加者は無事、島の南に位置する砂浜に降り立った。
「それでは、健闘を祈る」
豪人はそう言い、船と共に去っていった。
「まずは野営地を探そうか」
過去の旅の経験から柳凪 蓮夢(
gb8883)そう言った。他の参加者にも異論はない。
「船に乗ってるとき‥‥川みたいなのが見えました。まずは‥‥そっちの方に行ってはどう‥‥ですか?」
南桐 由(
gb8174)はたまたま見つけた光景を報告し、提案する。当ても無く移動するより少しは指針があった方がよい。一行の行く先は決まったようだ。
「コールサイン『Dame Angel』、無人島での指定滞在訓練にて、滞りなく体験実習に務めるわね」
アンジェラ・ディック(
gb3967)は負傷した体を抱えながらそう言い、仲間と共に歩み始めた。
由の見つけた川を上流に向けて歩いていたところ、小さな滝にぶつかった。水しぶきが辺りに舞う。
一行は川登りを一旦止め、その周辺を探索した。すると、水場から少々離れた場所に良い具合に開けている場所を発見した。背後には崖がそびえ、周囲は樹木に覆われている。ところどころに木が倒れており、座ることもできそうだ。
「ここらへんでしょうか?」
その場所を発見した相澤 真夜(
gb8203)が言う。
野営地の場所は決まり、そのまますぐに野営地の設営を開始した。
探索中に各自採取したものを使い、力を合わせ組み立てていく。竜彦が器用に蔦を組み、その上に大きな葉っぱを合わせて雨をしのげる屋根を作る。また、同じようにして風を避ける壁を作る。
ある程度の設営が終わると、今度は食料の調達を始めた。事前に決めていたペアごとに行動を開始する。
アンジェラとナンナは食料となる動物を探していた。アンジェラが培ってきた軍歴からのサバイバル技術を生かし、動物の痕跡を見つけては丁寧に追跡していく。
動物の痕跡を辿っていくと、前方に泉に一匹の鹿がいた。まだこちらに気付いた様子はなく、呑気に水を飲んでいる。アンジェラはすぐさま風向きを調べた。
「ナンナ殿。ワタシは風上からロングボウで狙う。ナンナ殿はあの鹿の背後に回って、あの鹿の注意を逸らしてくれないかしら?」
「わかりました」
一瞬で打ち合わせをすると、アンジェラは早速移動をした。ナンナも気配を消しながら、鹿の背後の草むらに姿を隠す。アンジェラがロングボウを構えたのを確認すると、アーミーナイフを手に構えて一気に獲物へと向かった。
草むらからナンナが飛び出す。鹿は振り向きナンナの姿を視認すると、すぐに逃げようとした。
アンジェラは一瞬の隙を見逃さなかった。狙いを定め、矢を放つ。が、傷の痛みでほんの少しだけ集中力が欠けていたらしいく、矢は鹿の太ももに突き刺さった。
突然走った痛みに、鹿のバランスが崩れる。が、そこへナンナのアーミーナイフが鹿を襲った。ナンナは覚醒をしてナイフの威力を上げる。観念したように、鹿は冷たく動かなくなった。
「すみません、ナンナ殿。一撃で仕留められると思ったのですが」
「いえ。なんとか仕留められたのですから、大丈夫ですよ」
表情の乏しい顔で、ナンナはそう言った。二人は力を合わせて獲物を野営地に運んだ。
その頃、由と蓮夢は野営地の周辺の森を探索していた。彼らの目的は果物や野菜だ。キノコ類は避け、なるべく見たことあるような果実を探す。また、野生の動物の食べかけの実があったらその実も確認し、採取する。
そんな中、二人は共通の果物を探していた。ココナッツである。飲み物としてもイケルし、器としても使える。出来れば採取しておきたものであった。
「‥‥あ。ココナッツ」
由は目当ての物を見つけた。森の切れ目から、海をバックに大きなココナッツがなっている木を発見した。探索している間に、海岸の近くまで来ていたらしい。由は持ってきた槍を器用に使い、実を落としていった。
「‥‥よいしょっと」
計四つのココナッツを採取し、蓮夢と手分けして持った。
「うーん。これ以上は持てないな。まぁ、これだけあれば十分でしょう。それじゃあ、戻ろうか」
蓮夢がそう言ったので、由も野営地に戻ることにした。二人で歩いていると、由は蓮夢の採取したものの中に見慣れない薬草があるのを目にした。
「蓮夢君、それは?」
「これは薬草だよ。アンジェラが怪我をしていたから手当て用の傷薬と‥‥日野と相澤ペアが心配だから、日野に気付け薬の材料をね」
「‥‥確かに、心配だ」
「南桐が持ってるそのつるみたいなのと小さな実は何に使うんだい?」
「‥‥鳴子みたいな警報装置を作ろうと思って。これがあれば‥‥夜の時かなり楽になると思う」
「それは名案だね」
二人は雑談をしながら野営地へと戻った。
ベラルーシとキヨシのペアは川辺で釣りをしていた。キヨシは移動中に餌を確保し、ベラルーシは川辺の岩の下から虫を取り、準備をした。
「どんな魚がいるのでしょうか?」
「うーん、俺もよくわからへんなぁ。ま、釣ってみりゃわかるやろ。さぁ。大物狙うでぇ!」
キヨシは気合を入れて釣槍を振った。餌はひゅーんと遠いところまで飛んでいき、ぽちゃっと小気味のいい音を立てた。反対に、ベラルーシは手前の方へと餌を投げ入れた。
数時間後。ベラルーシは四匹の魚を釣り上げ、キヨシの方はまだ一匹も釣れていない。
「な、なんでや!?」
「ふふ‥‥」
実はベラルーシ。こっそりと『GooD Luck』を発動させていたのである。彼女はまじない代わりに発動させていたのだが、その効果は抜群であったようだ。
「うう‥‥明日こそは負けへんで」
ベラルーシの釣果を見て、闘志を燃やすキヨシの姿があった。
野営地に戻る途中の森で、ベラルーシはふと立ち止まった。
「あ、すみませんキヨシさん。ちょっと魚を持っててもらえますか?」
「ええけど‥‥なにするん?」
「焚き火用の枯れ枝と調理用の香草を集めておこうと思いまして」
慣れた手つきで枯れ枝と香草を集めるベラルーシ。農作業に慣れているだけあって、手際が良い。目的のものを集めながら二人は野営地へと戻った。
竜彦・真夜ペアもなんとか食材を集めて戻ってきた。
食材が集まったところで、参加者たちはサバイバル料理を開始した。まずは蓮夢が食べられる食材を選別し、メニューを組み立てた。そのメニューをもとにして調理が進められた。
動物はアンジェラと竜彦が血抜きを行い、鮮やかな手つきで捌いていった。魚の方はベラルーシが捌いた。その魚の腹に香草を詰め、葉で包む。料理が得意でない参加者たちも、指示をもらいながら手伝う。
また、ベラルーシは火を起こしを始めた。ヒキリ棒とヒキリ板を作り、ヒキリ棒を回転させる。始めはゆっくり回す。すると、徐々に煙が出てきた。そこでベラルーシは覚醒をし、一気に発火させる。
火種が出来たら、あらかじめ用意していた火口に移して空気を送る。すると、見事に火がついた。参加者からは歓声が上がる。
その火を消さぬように、蓮夢の用意した立ちかまどに入れて、枯れ枝を組む。
かまどが完成したことで、調理も一気にはかどった。魚と肉を焼き、大きめの葉っぱとココナッツの実に取ってきた野菜や果物を添える。
サバイバル料理とは思えないほど彩りの鮮やかな料理が揃った。
「無人島でもほかほかなものが食べられるなんて、うれしいです!いっただきまーす!」
真夜の掛け声と共に食事が始まった。自力で調達し自力で調理したものとあってか、格段に美味い。あっと言う間に全て食べ終えてしまった。
食事の片付けが終えた頃にはすっかり夜も更けてしまった。参加者たちはそのまま、夜の番の用意を始めた。
「あ、その前にちょっといいかな。トイレに関してだけど、水場から離れた所に穴を掘って済ませるようにして欲しいんだ。汚染は出来るだけ避けたいしね」
蓮夢がそう注意を呼びかける。旅に慣れた彼らしい提案だ。参加者たちは了承した。
「それと‥‥アンジェラ。もし良ければこれを使ってください。傷によく効く薬草です」
蓮夢は先ほど集めた薬草をすり潰した薬をアンジェラに手渡した。
「ありがとう、蓮夢殿。ありがたく使わせてもらうわ」
アンジェラは素直に礼を言った。そして、最初の火の番である由と蓮夢以外は眠りについた。
火の番は由・蓮夢ペア、竜彦・真夜ペア、キヨシ・ベラルーシペア、アンジェラ・ナンナペアの順で行われた。由の提案で野営地の周囲に松明を設置したお陰で、野生の動物も近づかなかったようだ。アンジェラ・ナンナペアが火の番をしていると、だんだんと空が明るくなってきた。二人は何も起こらなかったことにほっと胸を撫で下ろし、他のみんなを起こした。
●二日目
全員が起きると、まずは朝食の準備に取り掛かった。といっても、昨日に残こしておいた果物と野菜のみだ。簡易的な食事が終わると真夜が、
「水浴びしましょう!水浴び!」
と言った。
「私は遠慮しておこうかな‥‥」
ベラルーシがやんわりと断ろうとすると‥‥
「いいからいいから!一緒に行きましょうよ!」
真夜にがっと手を掴まれた。どうやら断ることは出来なさそうである。
「ほな、女の子から行ってきてええで」
キヨシがそう言い、女性陣は水場へと向かった。
(ふふふ‥‥)
男性陣は朝食の片付けを開始する。だが‥‥
「あれ?キヨシさんは?」
「そういえば、いつの間にかいないなぁ」
「ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん♪」
真夜は一番乗りで泉に入り、泳ぎながら水浴びをしている。その様子を他の女性陣は微笑ましく見ていた。
他の女性も服を脱ごうとしたとき、女性陣に近づく怪しい影があった。『隠密潜行』を使い、徐々に泉に近づいていく。しかし、
「だ、誰?!」
ナンナは奇妙な気配に気付き、声を上げる。女性たちも同様に辺りを見渡すと、草むらに隠れようとしていたキヨシの姿があった。
「いや、ほら、魅力的な人が多いから‥‥あははは」
誤魔化そうと必死のキヨシ。時が、凍る。
そして、男性陣の水浴び。
「キヨシさん、どうしてそんな傷だらけなんですか?」
どこか女性っぽい仕草で水浴びをする竜彦が聞く。
「‥‥聞かんといて」
そこには先ほど女性陣につけられた傷を痛そうに水で流すキヨシの姿があった。
水浴びも終わり、先日と同じペアで食料の調達をし始めた。昨日の経験から、効率よく食料を調達していく。そんな中‥‥。
「よし!今日は負けへんで!!」
ポイントを海に変え、気合いを入れなおして釣りに励むキヨシ。ベラルーシの視線がちょっと痛いが、構わず釣槍を握る。ベラルーシは今日も『GooD Luck』を発動させて釣りに望んでいる。
釣りを開始して数十分‥‥。
「お!き、きたー!!」
キヨシの釣槍が勢いよくしなる。
「これは大物やで!」
暴れる魚と格闘し、キヨシは勢いよく釣槍を引き上げようとした。その時。
「どーん!!」
「わぁ!!」
いきなり現れた真夜がキヨシの背中を押し、海へと突き落とした。
「ふふふ、油断大敵です!」
そう言うと、ものすごい速さで逃走していった。あっけにとられるベラルーシ。
「‥‥注意しててもこれなんや」
海の中でキヨシはそう言ったという。
「どこ行ってたの?」
「えへへー。ちょっとね」
真夜の満足そうな顔に、竜彦はちょっと不安になる。が、すぐ考え直して食料調達へと戻る。すると、
「わ!イノシシ!」
真夜の叫び声がした。見ると、丸々太ったイノシシが現れていた。縄張りに入った彼らに向け、敵意を剥き出しにしている。
「よし!あいつが今日の食料だ!」
竜彦は二刀小太刀を構える。殺気が辺りの空気を包む‥‥
「きゃー、危ない!」
そこへ突然、真夜のスパークマシンΩが炸裂した。‥‥竜彦に。
「ぎゃあ!」
直撃を喰らい、倒れる竜彦。イノシシは驚いて逃げてしまった。
「‥‥日野さんったら目の前に立っちゃだめですよ!」
何か抗議をしようとするが、竜彦は痺れてしまって上手く喋ることができない。ちなみに、竜彦は目の前に立っていなかった。
「おきて!日野さん!生き返ってください!」
心臓マッサージの要領で、竜彦にまたスパークマシンΩを近づける。竜彦が死んでないと必死で訴えかけようとしたところで。
ばちっ!!
竜彦は動かなくなった。
「‥‥今助けを呼びますからね!柳凪さーん!」
動けない竜彦を草木で隠して、真夜は森を駆け抜けた。
「‥‥っ?!」
竜彦が気が付くと、辺りはすっかり暗くなっていた。
「気が付いたみたいだね」
「よかったー」
蓮夢と真夜の声が聞こえる。どうやら完全に気を失っていたようだ。
「あれ?さっき俺の家族が川の向こうで手を振ってたような気がするんだけど‥‥」
「‥‥蓮夢さんの薬草が無かったらやばかったかも‥‥」
ナンナがそう言ったところで、竜彦は自分がかなり危険な状態だったことを思い知った。おそらくあの川は‥‥。
「ほれ。メシ食えるか?」
何故かパンツ一丁のキヨシがココナッツの器に入ったスープを手渡す。
「ありがとうございます」
温かいスープが身に染みる。
「生きてるって素晴らしいね」
竜彦の言葉には計り知れない重みがあった。
二日目の夜も無事に明かすことができ、参加者たちはなんとかサバイバル合宿を乗り切った。