タイトル:【共鳴】後輩の目覚めマスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/29 12:01

●オープニング本文


●目覚めの時
「‥‥っと。これでこいつも目覚めるはずだな」
「しかし‥‥いまさらこいつらを増やして何になるんだ?こいつらは本当に有効なのか?近々廃棄されるって聞いたことあるぞ?」
(‥‥うるせぇな)
「まだ決定じゃないそうだ。どうなるかはわからんが‥‥まぁ、それほど重要視するものでもない。どうせこいつらは‥‥」
「捨て駒だしな」
(‥‥うるせぇって言ってるだろ)
「そういうことだ。使えるならば使う。使えなかったら捨てる。それだけの話だ。ま、せいぜい人間どもを少しでも減らしてくれれば、上もこいつらの有効性を見直すんじゃないか?」
「そうだな。せいぜい頑張ってもらうとしよう」
(‥‥なんだよ。どっちなんだよ。めんどくせぇ)
 そして、1人の少年が目を覚ました。
「おはよう。よく目覚めたな。早速だが、お前に来てもらいたいところがある。そこにある服を着て、着いてきてくれ」
 少年は目つきの悪い眼を白衣の者たちにむけた。ぽりぽりと頭を掻きながら、指示された服を着る。どこか制服のように堅苦しいその服は、目覚めたばかりの彼には少し窮屈だった。
「‥‥よく似合っている。それではこっちに来い」
 長い廊下を歩いていく。コツコツ、という無機質な足音だけがだらだらと続いた。
 しばらく進んでいくと、白衣の者はとある部屋の前で足を止めた。一呼吸置いてから、扉を開けて、中に入る。少年も続いて入ると、中には少年と同じくらいの年の者たちが数人、椅子に座っていた。白衣の者は黒板の前に立ち、座っている少年たちに言う。
「おい、お前たち。今日からこいつも新しい『仲間』だ。いろいろと教えてやれ。じゃあ‥‥あー、ほら。自己紹介しろ」
 白衣の者が少年に促した。少年はまるで喧嘩を売るような目つきで部屋の中を見回す。特に彼が意識してそのような目つきをしているわけではないのだが、生まれた頃からの顔つきと眠りから覚めたばかりの状態で、さらに目つきが悪くなっている。
「‥‥クォレル」
 まさに顔つき通りのぶっきらぼうな返事をする少年――クォレル。教室からはまばらな拍手が聞こえてきた。
「よし。それでは早速授業に入る。これから人間の軍備施設を襲うぞ。それほど大きな施設ではないが油断は禁物だ。クォレル。お前も行ってもらうぞ。細かいことは周りの『仲間』に聞け。では、各自準備しろ」
 そういうと白衣の者は部屋から出て行った。黒板の前で呆然と立つクォレルに、部屋にいる皆が口々に言った。
「ようこそ、ハーモニウムへ」
 クォレルはそう言われると、再度鋭い視線を周りに向けて、言った。
「‥‥よろしくな、先輩たち」

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
まひる(ga9244
24歳・♀・GP
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
有村隼人(gc1736
18歳・♂・DF
朱鳳院 耀麗(gc4489
28歳・♀・HG
ユメ=L=ブルックリン(gc4492
21歳・♀・GP
結路帷子(gc5283
18歳・♂・FC
キロ(gc5348
10歳・♀・GD

●リプレイ本文

■白の会議
「またグリーンランドにやって来たぜ!」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)は極寒のグリーンランドでも暑苦しく言い放った。前の依頼ではかなり危険な目に遭ったそうだが、今回はキメラ退治ということもあり、多少安心はしているが‥‥油断はできない。
「キメラを連れてるのは強化人間か。こんな寒いのにわざわざご苦労なこった」
 結路帷子(gc5283)は身を震わせて言う。
「ハーモニウムですか‥‥まだ僕はよく分かりませんが」
 有村隼人(gc1736)は得体の知れない強化人間集団、ハーモニウムについて考えるが、やはり彼らを理解しなければ始まらない。善悪の判断も、まずは相手を理解することからだろう。
「そんなに悪い人達なのかなぁ?」
 相澤 真夜(gb8203)も同じようにハーモニウムのことを思う。
(何、あいつら高みの見物とか、ふざけないでよ)
 逆に雪代 蛍(gb3625)はイライラをぶつける。あいつらハーモニウムが何を思っているのかわからないが、とにかく気に入らず不機嫌にしていた。
「なにやらよくわからんが、悪役がいるからどうにかしろということじゃな。うんうん」
 キロ(gc5348)は頷く。初めての依頼のようだが、緊張している様子は見られない。
「さ、寒いよ!」
「むぅ。実はわしもじゃ。どうしてかのぅ」
まひる(ga9244)と朱鳳院 耀麗(gc4489)は2人揃って首を傾げる。
「まひるもよーれいも寒いのに薄着はいけない」
 とユメ=L=ブルックリン(gc4492)は2人を抱き締める。3人で揃って抱き合えば暖も取れるというものだ。他の2人も気持ち良さそうに温かな時間を噛み締める。このようにしていられる時間は少ない。もうすぐ戦いの時間になってしまうのだから。
「ハーモニウム‥‥。その存在‥‥気になる所ではあるけど‥‥。まずはキメラから片付けていこう‥‥」
 幡多野 克(ga0444)が締めくくると、傭兵たちは戦場へと進んでいった。

■白の戦場
「とまぁ、こんな風に人間の軍事施設を襲えばいいのさ。デカイ施設だと能力者がたくさんいて結構大変なんだけど‥‥こんくらいの施設ならば簡単なものさ」
「ふぅん‥‥」
 施設を見下ろすことが出来る小さな雪の丘。人間の軍事施設から煙が立ち上るのを興味なさげに見ながら、クォレルは先輩に返事をした。ハーモニウムに入ってやらされる『授業』は『人間の排除』。キメラを使って人間を、殺すこと。
 彼は『人間』のことをよく知らない。目覚める前の記憶が曖昧で、霧がかかったように思い出すことが出来ない。だから『人間』というものがどういうものなのか正直なところよくわかっていない。
 だが、軍事施設でキメラに襲われている『人間』の姿は、自分や先輩たちの姿と似ていると思った。
「ん‥‥?」
 隣にいる先輩が妙な声を上げ、軍事施設を見た。クォレルも視線を向けると、キメラに立ち向かっていく集団の姿が見えた。
「おい、クォレル。あれが俺たちの本物の敵、能力者だ」
 敵と明確に言い放つ先輩。その視線の先にいる『敵』もまた、先輩と同じ姿に見えた。

白虎キメラの3体は施設の破壊を続けており、傭兵たちに気付いている様子はない。
「開戦合図がペイント弾か。ちとしょぼいなぁ」
「同感じゃが、そうも言ってられん」
「にがしませんよ!」
 帷子、耀麗、真夜の3人は銃を構えて『ペイント弾』を放った。白い毛皮で雪に擬態するはずだった白虎キメラは、色とりどりのペイント弾の嵐を受け雪上で最も目立つ存在となる。
「よっし!ナイス!さぁ、行くよ!」
 まひるは散弾銃を取り出して発砲しつつ、キメラとの距離を詰めていく。そこへ耀麗は『援護射撃』を繰り出して、キメラの注意をこちらに向けて一般人の方へ行かないようにした。
 そこへユメも銃撃を加えつつ、近付く。白虎キメラを引き付けてから耀麗の元へ『瞬天速』で戻る、ヒット&アウェイの要領で攻撃していく。
「そーれっ!よけれるかなー?」
 真夜も早速『クロッカス』で電磁波を放つ。
「目立つようになったか!早速やるぜ!」
ガルはペイント弾で目立つようになった白虎キメラを見ると『竜の角』を使用して一気に攻撃をしかける。機械剣の輝く刃を出して、白虎キメラを切り裂いた。
「先ずは一撃!」
 ガルに追随する形で帷子は『ラサータ』で虎の足を狙い、機動力を奪う。動きを奪われた白虎キメラはそのまま爪で帷子を狙ってきた。避けようとするものの、予想以上の速い攻撃に何回か攻撃を受けてしまったが、その後帷子は『刹那』と『迅雷』を発動させてとどめを刺す。
 ガルも白虎キメラの攻撃に耐え、味方の援護射撃を受けつつ接近戦で白虎を切り倒す。
 残る1体は援護射撃をする傭兵たちに向けて牙を向けてくる。徐々に近付いてきた白虎キメラに対し、
「ストーップ!」
 と真夜は鼻面に『クロッカス』を放ち、意識をそらした。その一瞬を突き、まひると耀麗は集中砲火を浴びせる。
「虎‥‥私は小さい猫の方が全然いいですねぇ」
 白虎キメラの眼前まで近付いてたユメはぼんやりと呟き、白虎キメラの口に義手型硬貨射出装置を突っ込む。
 そのまま連続発射。
 口の中に直接射出されては白虎キメラも流石に成す術がなく、最後の敵も倒れた。
 だが、息つく暇もない。まだもう一方の班の方では戦いが続いているようだ。
 傭兵たちは白熊キメラと戦っている仲間の下へとひた走った。

「見た目はたいして変わらぬのぉ」
 キロは仲間たちがキメラと戦闘をしていく中、少し離れた場所からその様子を監視するハーモニウムたちを、観察していた。今でも戦闘音は響いてくるのだが、キロは気にしない。襲われた方も軍人なのだから、覚悟を持っているはず。そいつらのことを気にする必要はない。
 白虎型のキメラがやられたのを見ると、2人いた強化人間のうちの1人が何かをはなしかけ、その場から立ち去って行くのが見えた。もう1人はいまだに、煙が上がる戦場をぼんやりと眺めている。話しかけるには絶好のチャンスだった。
「そいじゃ、戦闘が終わらぬうちに話しかけに行くのじゃ」
 キロは双眼鏡をしまうと、悪役らしき者への会合をしに行動を開始した。

 白熊型キメラは施設の倉庫を中心に狙っていた。物資を守ろうと兵士たちが必死の攻撃を行なっているが、並の兵士がキメラに敵うわけがない。
「派手にやってくれるな‥‥これ以上被害は出させない。一気に片をつける」
 克は覚醒し、刀を構える。
「はぁ‥‥、はぁ‥‥、その図体八つ裂きにしてやるんだから」
 蛍は息を切らせながら鋭く白熊キメラを睨んだ。
白熊キメラは銃撃をしてくる施設の兵士に対し、群がる虫を払うように大きな腕と爪を振り上げた。
 そこへ黒色のエネルギー弾が白熊キメラに襲い掛かった。
(あなたの相手はこちらです‥‥)
 無言で睨みつける隼人たち3人に気付いた白熊キメラたちは、攻撃目標をこちらに変えてきた。こちらにやってくる白熊キメラに対し、隼人は『シャドウオーブ』の攻撃で応戦する。
(真っ向からは勝負しません‥‥)
 白熊キメラが徐々に接近するのに合わせ、克も接近して白熊キメラの側面に回る。
「無心にて斬る!」
 『急所突き』を発動させ、敵の横腹に鋭い一撃を浴びせる。数撃の交差の後、白熊型キメラは叫び声をあげながら倒れた。
 蛍、隼人の2人にも白熊型キメラが近付いていた。
「くそっ!くそっ!」
 蛍は体長の3m以上もある斧を大きく振り回して応戦するものの、まだ完璧に使い慣れていないため上手く致命傷を当てることが出来ていなかった。思うように動かない斧と、ハーモニウムへの怒りがごちゃ混ぜとなり、呪詛の言葉が漏れる。
 白熊キメラが大きく腕を振りかぶった。蛍は相手の攻撃を読み、敵の攻撃を避けられる場所へと斧を傾ける。斧の重さで強引に自分の体勢を崩し、攻撃を避けた。キメの攻撃を避けられ、白熊キメラのバランスが崩れる。
 蛍はそこへすかさず『竜の咆哮』を使い、敵を吹き飛ばした。巨体が音を立てて倒れる。
 隼人は近付いてくる敵を確認すると『紫苑』を手に持って身構える。
(そんなに接近戦がしたいですか‥‥)
 敵の攻撃を鎌で受けると、次には『両断剣』を使って攻撃に転じた。
 だが、攻撃を加えても止めにはならない。白熊型キメラが反撃をしてこようとした、その時、
「うおりゃー!」
 紅と黒の稲妻が現れる。
『竜の翼』で隼人と白熊型キメラの間に立ったガルは、『竜の鱗』で守りを硬くして敵の攻撃を受けた。
「大丈夫か!?」
 AU−KVの中から聞こえる声に、隼人は無言で首を縦に振る。
「お手伝いしますね!」
『瞬天速』で蛍の前に現れた真夜は頼もしい声を上げた。他の仲間も合流し、残りの白熊キメラに援護射撃と攻撃を与えていく。
「白熊さん、悪いけどあたしの勝ちだよ」
(止め‥‥覚悟をして下さい‥‥)
 蛍と隼人の2人が白熊型キメラに止めを刺した。これで施設への攻撃は止んだはずだが、
「‥‥あれは?」
 克が刀を納めて周りを見ると、小高い丘の上に人の姿が見えた。1つは小柄な少年。もう1つは、キメラ退治に参加をしていなかった者。
「あれはキロじゃねぇか!超絶やべぇぞ!」
 帷子がそう言って走り出すと、他の傭兵たちも仲間のところへと急いで向かった。

□白の会合
「カカカッ♪ 我はキロじゃ、宜しくぞ」
 こいつはなんなんだろう、とクォレルはまず思った。戦況が悪そうだと分かると、先輩は「ここらで潮時だな‥‥」と呟いた後、クォレルには能力者の様子を監視するように言って少し離れたところに行ってしまった。クォレルはキメラと戦う能力者をぼんやりと眺めていたのだが、そこへこの女が現れた。
 こちらの怪訝な顔にも関わらず、キロという女は楽しげに話しかけてくる。
「まずは笑うといいぞ。何事も楽しまなくては損じゃからなぁ。うんうん」
 と1人で頷くも、自分は同意が出来ない。楽しいとか、そういう人間みたいなことなど分からない。
「なんなんだ、てめぇは?」
 ただ疑問に思った感情を言葉に出す。
「だからキロと言っておるじゃろ?まったく、こちらが名乗ったのならそちらも名乗るのが礼儀というものじゃろ」
「話すり変えてんじゃねぇよ。一体なんの用だ?」
 もともと悪い目つきをさらに鋭くするが、目の前の女は軽々と受け流し、
「そうじゃなぁ。しいて言うなら‥‥話をしてみたいといったところかの」
 クォレルの疑問がさらに大きくなる。敵の俺らと話したい‥‥だと?
 敵は、殺すんじゃないのか?
「さぁ、何か言ったらどうじゃ‥‥ん?来よったか‥‥」
 キロが残念そうな声を上げると、丘の下から他の能力者たちが彼女の名前を言いながらやってきた。
「キロ!無事か?!」
「‥‥なにしにきたんじゃ?」
「悪い、仲間が傷つくのは見過ごせなくてな」
 帷子はそう言いながら、クォレルを睨みつける。
(あれが、ハーモニウムですか‥‥)
 隼人は無言のまま目の前の強化人間を観察する。
「ほあ?‥‥あんまり私達とかわんないみたい?」
 真夜はかくりと首をかしげながら言う。彼女自身、強化人間に対して悪意は持っていない。能力者とそんなに変わらないのではないかと思っているほどだ。
「こんにちは‥‥?」
 だからこそ、真夜はにこりとしながら挨拶を交わせる。
「寒いねぇ‥‥美味しいコーヒーなんかあるんだけどさ、一杯どう?」
 自分の信念――敵味方関係なく、1人でも多く、この争いの被害者を減らしたいという思い――のもと、好意的に話しかけるまひる。
 クォレルの疑問が加速する。
「クォレル!行くぞ!」
 先輩の声が聞こえ、クォレルの正気を取り戻す。そうだ。今日の『授業』はこれで終わり。ここに居続ける理由も、ない。クォレルは能力者たちに背を向け、先輩の方へと歩き出す。
「あ!おいこら!逃げる気か!俺達に勝てる自信がねぇからってそりゃねーぞ!!」
 ガルは激しく挑発を飛ばすが、クォレルは聞く耳を持たない。
「高みの見物をした挙句、用が終わったらさよならってわけ‥‥」
 蛍は怒りに体を震わせる。あいつらみたいな奴のせいで父親も母親も、死んだ。
 許せない。
「こっのぉぉぉー、ふざけるなーーー!!クソハーモニュームが」
 怒りに身を任せて持っていた斧を投げる。しかし、クォレルは一瞬だけ振り返ると、ひょいと体を少しだけ傾けて斧を避けた。地面に突き刺さる音が鈍く響く。蛍はあまりにも軽く避けられたのを見て、強く唇を噛む。
「‥‥おい」
 ユメはこちらを向いたクォレルに義手を向けて、硬貨を射出する。が、クォレルはこれもあっさりと掌で受け止めた。
「‥‥土産だ」
 クォレルは無言のまま硬貨をポケットに押し込めた。そこで、克が声をかける。
「‥‥これからも‥‥戦うことになりそう‥‥だから‥‥。1つ質問‥‥。ハーモニウムってどんな‥‥どんな所‥‥?」
 クォレルは目を細める。まだハーモニウムに入って一日も経過していないが、好意的に話しかけてくれる先輩たちの顔を思い出して、口の端を少しだけ上げて、
「まだわかんねぇが‥‥悪いところじゃなさそうだ」
 克はこのハーモニウムの表情を見て、満足そうに頷く。
 なんて顔してやがるんだ、と思っていると別の能力者‥‥帷子が親指をぐっと立てて笑顔でサインを送っていた。何事かとクォレルが睨むと、帷子も睨み返して親指を勢いよく下に向けた。明らかな挑発であったが‥‥クォレルは動じることなく雪の中へと消えていった。

「結局逃げやがった‥‥。あの先公とどれくらいの差があるか確認したかったのによぉ‥‥」
 ガルは悔しそうに呟く。ハーモニウムの実力を確かめたかったのだが、今回は相手にやる気がなかったようだ。
「不思議だね‥‥姿は同じ人間なのに‥‥。同じ生き物では‥‥ないように振舞う‥‥。‥‥ま、その点は‥‥人間も大して変わらないのかも‥‥しれないけど‥‥」
 克は対峙したハーモニウムのことを思う。しかし、質問のときに少しだけ見せた感情は‥‥やはり人間のそれのようにも思えた。
「次は、キメラなしでお話できたらいいな‥‥」
 真夜は希望を捨てず、静かに呟く。
「脅威は去りましたし、僕は施設の修復でもしますね」
 隼人は家庭用工具セットを取り出し、壊された施設へと向かっていった。
「‥‥ねぇねぇ!乾布摩擦でもしようか!」
 まひるは少し陰った表情を無理矢理明るくして、仲間の耀麗とユメにタオルをぽーんと投げた。
「まぁ途中で邪魔が入ったが、少しは話せたからよしとしようかのぉ。カカカッ!」
 キロは満足そうに、ハーモニウムたちが去って行った雪原の向こうに向けて笑いかけた。
 彼の最後の表情は、確かに笑っていたのだから。

<了>