タイトル:攻城取材マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/15 22:50

●オープニング本文


「やばい‥‥」
 世界を旅する自称冒険者のガイツ・ランブルスタインはピンチだった。とは言っても、いつものごとくキメラに命を狙われている訳でもなく、道に迷って帰れなくなっているわけでもなく、ただ単純に‥‥
「金がない」
 そう。もっと根本的で、もっと切実な問題であった。
 この前までボリビアを旅していたガイツであったが、突然始まったバクアと人間との大きな抗争に巻き込まれてしまった。傭兵たちにまたもや命を助けられたのだが、その後根無し草だと分かったガイツはボリビアからの退去を命じられた。安全な地域へと輸送されたのだが、その場所で滞在している間に所持金に底が見えてきてしまったという訳である。
 一人旅の根無し草にとって、金が無くなるということは死に直結する。ある意味、バクアやキメラよりも怖い事態であった。
 野宿にも慣れているガイツではあるが、それにも限界はある。今がその、限界の状況であった。
「どうにかしないと‥‥そうだ。あそこに頼むしかない」
 共同寝室の安ホテルの中でガイツはあるツテを思い出し、ボロボロになった鞄の中身をひっくり返した。
「えーっと‥‥あったあった。これだ」
 ガイツが取り出したのは、くしゃくしゃになった一つの名刺であった。皺を伸ばしながら書いてる電話番号を確認し、なけなしの金で電話をかける。
『あー!ガイツさんですか!お久しぶりです!』
 電話をかけた先は、とある雑誌の編集部であった。以前、ガイツに旅行記を頼んだあの雑誌社である。
「久しぶりだな。今回はちょっと、頼みがあるんだが‥‥」
 ガイツは相手の編集者に事情を話し、どうにか記事の仕事が出来ないか頼んでみた。
『そういうことなんですか。ちょうどよかった!ウチの雑誌でちょうど空きが出ちゃったんですよ!どうしようか困っていたところなので、その部分の空きページをガイツさんの記事にしましょう!ガイツさんの旅行記、実はけっこう人気があるんですよ』
 どうやら、編集者も困っていたようである。ガイツは金の当てが出来たと胸を撫で下ろす。
「そりゃよかった。で、今回は何を書けばいいんだ?」
『えっと‥‥そうですね。日本にある城についての記事なんてどうですか?実は最近、建造物の特集を組もうなんて話がありましてね‥‥』
 編集者が言うには、日本の四国にある城の記事を書いて欲しいとのことだった。この戦争でたくさんの歴史ある城が壊されてしまい、それについての特集を組んでいるのだと言う。そこで、四国にある城についてはガイツに調べて欲しいのだそうだ。
 ガイツは日本の城など特には知らないし予備知識もなかったのだが、背に腹は変えられない。二つ返事で記事を引き受けることにした。
『わかりました!それでは移動費などはウチで負担するので、ガイツさんは早速その城に向かってください!それでは、いい記事を待っています!』

 だが、そう上手くいかないのが現実である。
 指示された城に、キメラが現れたというのだ。

●参加者一覧

フィオナ・フレーバー(gb0176
21歳・♀・ER
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
天羽・夕貴(gb4285
22歳・♀・FC
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
音無 音夢(gc0637
19歳・♀・PN
有村隼人(gc1736
18歳・♂・DF
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
ゲンブ(gc4315
18歳・♂・CA
福山 珠洲(gc4526
21歳・♀・FT

●リプレイ本文

●攻城準備
「あー‥‥皆さん、本当にありがとう」
 ガイツ・ランブルスタインは申し訳なさそうに頭を下げる。命のかかっていない状況なのに傭兵たちを呼び出してしまって、さすがの彼も少し申し訳のない気持ちでいた。ある意味、命はかかっているのだが。
「ガイツさん、今回もよろしくお願いします。お城に行くのは初めてですからね。楽しみです」
 有村隼人(gc1736)は挨拶をしつつ城を見上げる。
「日本の城ね。一度は観光に来てみたかったのよねぇ」
 フィオナ・フレーバー(gb0176)もうっとりとしながら、先にある城を見つめている。
「フィオナ‥‥人様に迷惑だけはかけるな、いいな」
 その様子を見て、リヴァル・クロウ(gb2337)は静かにたしなめる。フィオナは聞いていない様子だが。
 その後ろではジョシュア・キルストン(gc4215)が謎のテンションで、
「オシーロ! ニンジャー! サムラーイ!!」
 などと叫んでいる。
「私はお城に来るのは久しぶりですね。とは言っても、私が知っているのは熊本城くらいですけど‥‥」
 と言いつつ城を見上げるのは水無月 蒼依(gb4278)だ。
「お城にキメラですか。被害が広がらないように早々に退治しておいた方が良さそうですわね」
 ガイツさんの取材の護衛という仕事もありますし、としっかり言い放つのは天羽・夕貴(gb4285)。
「そうですね。お城の取材ですか‥‥。キメラがいるというのに大変ですね」
 ゲンブ(gc4315)は同情ぎみにガイツを見つめる。
「まぁ、金が無いんだからしょうがないさ」
「ガイツさん、金欠だって?‥‥仲間だね、うん」
 ガイツと共に金欠に嘆くのは飲兵衛(gb8895)だ。2人とも自分の財布を思い出してがっくりと肩を落とす。
「四国かぁ〜。手打ちうどんとか食べたいなぁ」
 とマイペースに言う福山 珠洲(gc4526)。
「うどんもいいな。取材が終わったら食べに行こうか。‥‥よし。そろそろ行こう」
「ガイツさん、ちゃあんと僕ら能力者のカッコイイ活躍、記事にして下さいね♪」
 ジョシュアのウインクに、ガイツは笑いで返す。
「ふふ‥‥楽しみですね‥‥」
 音無 音夢(gc0637)は自前のラブルパイルを撫でながら、皆と城に向けて歩き始めた。

●攻城取材
 城とは権力の象徴であると同時に城主を守る『盾』であり、敵へと攻め入る拠点である『剣』であったという。だが今のこの城は権力も無く、敵に攻め入られた脆き『盾』。攻め入る力を持たない憐れな折れた『剣』。
 門を抜け、傭兵たちとガイツは城の内部に入った。
「すまないが、この城内の危険が排除できるまでは我々から離れるような行動は慎んでもらいたい」
 リヴァルの言葉にガイツはしっかりと頷く。
「ああ。わかっているさ。金はかかってるが、命は惜しいしな」
「ゲンブ君、サボっちゃ駄目ですからね〜?」
 ジョシュアが肩を叩きながら言うと、ゲンブはしっかりと答えた。
「む。大丈夫です。私が必ず守ってみせる。ランブルスタインさんには快適な取材をお約束します」
 その言葉を聞いたガイツは、安心して歩き始めた。
「さて‥‥しっかし、不思議な建物だなぁ」
 門を潜り抜けたガイツはキョロキョロとしながらメモを取っていく。
「御殿‥‥のような感じですね。天守ではない分、いろいろと部屋がありそうですね」
 蒼依はガイツに説明を加えながら一緒に歩いていく。
「まずは庭園ですわね」
 夕貴はあらかじめ入手しておいた、観光用の地図を広げながら言う。同じく地図を見ていた飲兵衛は頭を掻きながら、
「んじゃまぁ‥‥庭園から回ってみるかい、ガイツさん?」
 と聞いた。
「ああ。城の庭ってのは風情があるって聞いたんでな。楽しみだ」
 傭兵たちはまず、庭園を回ることにした。
 庭園は白い砂利が敷き詰められており、そこには一本だけ松の木が植えられていた。木の下には小さな池があり、静かな水面を保っていた。その景色は門から直接見ることが出来るだけでなく城からも見ることができるようで、庭園に沿って廊下が作られていた。
「やはり風情がありますね‥‥ん?あれは‥‥」
 隼人がじっくりと庭園を眺めていると、松の木の陰からガシャガシャと音が聞こえてきた。
 骸骨武者キメラ3体の登場である。
「なんというか‥‥この景色に似合っているのが皮肉だな」
 ガイツは庭園のどこか寂しげな風景と骸骨武者の姿をメモに取りつつ、呟いた。
「ロマンチックなのか地味なのか‥‥うふふ♪じゃあ僕らが行きましょうか。有村さん、今回もよろしくお願いしますよ。女性のお二方もよろしくね」
 ジョシュアは嬉しそうに、同じ迎撃班の蒼依と夕貴に声をかけ、覚醒する。他の3人も覚醒して骸骨武者に攻撃を仕掛けていった。
 蒼依は『迅雷』で骸骨武者との距離を一気に詰め、居合い抜きの要領で『刹那』を使って骸骨武者の首を落とす。
「‥‥思わず首を獲りましたが‥‥これでは死なないですよね?」
 蒼依の呟き通り、首を斬られた骸骨武者は刀を振り上げて襲いかかってくる。
 そこへ夕貴も『迅雷』で接近し、刀の柄で殴る。バランスを崩した骸骨武者に向かって『刹那』で斬りつけてバラバラにし、今度こそ再起不能となる。
 隼人は近付いたのちに『両断剣』と『流し斬り』を使って斬撃を与える。
(手数で勝負‥‥)
 そこへジョシュアも攻撃に加わる。『迅雷』で一気に外壁を駆け上がると、壁を蹴って敵の背後に着地。『刹那』と『円閃』で攻撃した。
「こういうのをニンジャって言うんでしたっけ?うふふ♪」
 だがジョシュアはその後、敵と離れて見ているだけであった。隼人と蒼依、夕貴で戦うも、それほど時間はかからずに敵を倒すことができた。

 一行は次に、庭園を抜けて城の1階に入っていった。
「本当はここで靴を脱ぐんだよ。でも今回は危ないから止めておいたほうがいいかもね〜」
 とガイツに教える珠洲。その先の襖を開けていくと、広い間に続く。その先には大きな階段があり、そこから2階へと続いているようだ。
「城かぁ‥‥カメラとか持ってくればよかったな」
 飲兵衛は珍しそうに周りを見回しながら、少し後悔しているようだった。
 まずはすぐに階段を上らず、1階の捜索に当たる。蒼依が畳の間で縁を踏まないように歩くのを見て、ガイツが聞いた。
「どうしてそんな風に歩くんだ?」
「土足の段階であまり意味がありませんが‥‥いわゆる作法というものですね。」
「そうなのか。知らなかったよ」
 メモを取るガイツを見つつ、蒼依は周囲への警戒を忘れない。
「あと‥‥まぁあまりないのですが、城内にも仕掛けがあったりします。注意するに越したことはないかと‥‥」
 同じような考えで、城内の壁を調べる音夢。
「このような部屋には大抵‥‥」
 音夢が目星をつけて壁を押すと、壁がくるりと回った。同様に隠し扉に警戒をしていた蒼依、隼人が隠し扉に近付く。
 すると、扉の向こうからボロボロになった刀が突き出された。
 骸骨武者である。
「遅い‥‥」
 その場に居合わせていた音夢が覚醒し、攻撃に転ずる。蒼依と隼人も後に続き、骸骨武者を倒した。
「ランブルスタインさん、こんな所に隠し扉が!」
 ゲンブが興奮してガイツを呼ぶ。ガイツも同様に押してみる。
「ほう。こりゃすごいな。これが噂に聞くカラクリってやつか」
「こういう場所は暗殺に備えるために隠し通路とかがありますからね」
 蒼依が補足して説明をする。
「こういった造りになっているのですね‥‥」
 隼人も珍しがって見に来ていた。ガイツは面白がって隠し扉を回しながらメモを取った。
 他に仕掛けも無さそうだったので、一行は2階へと向かう。2階も1階とほぼ同じような形で作られていた。
 迎撃担当の2班の人達が他のところを見回っていたとき、ガイツと護衛班の目の前に骸骨武者が2体、音を立てて徘徊してきた。
「ひとつ面白いものを見せよう。先ほどジョシュアも言っていたが、これは日本の暗殺集団『忍者』と呼ばれる人間が使う武装の一つ、苦無という」
 リヴァルはガイツに解説したあと苦無を逆手に持った。骸骨武者の1体がこちらに気付いて刀を振り上げてくるが、リヴァルは正面から冷静に刀で避けつつ攻撃をし、骨をボロボロにしたところで『瞬天速』で骸骨武者の背後に移動。苦無で首を刎ねてバラバラに壊した。
「こんな風に使っていたそうだ」
「な、なるほど‥‥実演ありがとう」
 ガイツは華麗な動きを見ながらメモを取る。そうしていると、もう1体の骸骨武者もこちらに気付いて刀を振りかざしてきた。
 珠洲は相手の攻撃を剣で受けて、至近距離の拳銃でカウンター攻撃を放つ。
「ほねっこの癖に邪魔するな、鬱陶しい」
 珠洲はさらに『豪破斬撃』で攻撃。リヴァルも攻撃に加わり、ゲンブはガイツの護衛を緩めなかった。
 2階は2体の骸骨武者だけだったようだ。そのまま探索を続けるが、目立つものは特になかった。
「ガイツさん、お腹空いてませんか?何か買ってきましょうか?」
 2階の探索が終わったところで珠洲が聞く。
「いや、大丈夫だよ」
「そうですか。それじゃあ代わりにコーヒーをどうぞっ!」
 珠洲が出したコーヒーを丁寧に受け取るガイツ。
「ありがとう。これで少し落ち着けるよ」
 ガイツがコーヒーを飲む様子を見て、満足そうに頷く珠洲。一息ついたところで、3階へと階段を上っていった。
 3階は下の階と少し様子が違い、襖や壁、屏風などに豪華な絵が描かれていた。
 上った先に待ち受けていたのは骸骨武者が4体であった。
まずはフィオナと飲兵衛が遠距離からの攻撃を加える。
 飲兵衛は味方が射線に被らないように移動し『制圧射撃』を行なう。その際、なるべく建物に被害を与えないように慎重に狙いを定めた。
「無駄弾は、懐にも響くし‥‥」
 敵の動きを止めた後は、骸骨の間接部分を狙っていく。
「無機物っぽいのは何処撃ったら致命傷なのかがよく分からないよなぁ‥‥間接なら確実なんだろーが」
「鬱陶しい‥‥」
 音夢は覚醒して敵に向かい『豪破斬撃』で敵を斬りつけていく。が、全ての敵を倒すには至らなかった。生き残った3体の骸骨武者が一斉に攻め込んでくる。
「銃のエネルギーが切れちゃった。ゲンブくんお願いっ!」
「私には護衛の任務があるのですが!」
 渋るゲンブに対し、ゲンブいじり仲間のジョシュアに援護を頼もう‥‥と思ったのだが、ジョシュアがいない。どうやらいつの間にか、任務に飽きて1人でどこかに行ってしまったようだ。
 仕方ないのでフィオナは再度ゲンブに言う。
「わっ。あんなに一杯攻められたら避けられないし!ゲンブくんパス!」
「もう!クロウさん、福山さん!ガイツさんのことお願いします!」
 ゲンブは仕方なく前に出て骸骨武者たちの攻撃を受ける。『弾き落とし』と『自身障壁』で身を守っていたので、大きなダメージを受けることは無かったが、それでも3体は厳しい。
「ゲンブくん〜!がんばって〜!」
 さすがに任せきりはひどいと思ったのか、ゲンブに『援助の手』を使い、さらに、
「それに、やられっぱなしは性に合わないのよ」
 と『先見の目』で援護をする。
 飲兵衛と音夢、ゲンブの攻撃で骸骨武者を殲滅することに成功した。

 10体の骸骨武者キメラを倒したところで、再度生き残りがいないかどうかを皆で確認したが、どうやら全てのキメラを倒すことができたようだ。
「ふぅ。どうやらこれで落ち着いて取材が出来そうだな。みんな、ありがとう」
 ガイツは礼を言うと、ゲンブが飲み物を差し出した。
「ランブルスタインさんもお疲れ様でした。はい。烏龍茶をどうぞ。日本の城にはお茶があいますよね」
 ガイツは再度礼を言い、今度は自由に城の中を歩き回ってメモを取っていった。傭兵たちもガイツの記事のためにと、城の内部を事細かに説明してあげていた。
「どうですか、お城の感想は?」
「いい記事が書けそうですか?」
 隼人と珠洲が聞くと、ガイツは満面の笑みを見せた。
「ああ。わからないことだらけだったが、みんなに教えてもらったお陰でなんとかなりそうだ」
「ふむ‥‥お城もいいものですね‥‥」
 と音夢も満足そうだ。
「しかし、出てきたキメラが武者の格好ってのが、皮肉だなぁ‥‥バクアの趣味は分からん」
 飲兵衛は複雑な顔をしたが、無事終わってほっとしているようだ。
「ガイツ氏。資料になるかはわからないが持って行くと良い」
 リヴァルは先ほど城の中で見せた苦無をガイツに渡した。
「ありがとう。これで俺もニンジャだな」
 ガイツは大切にバッグの中にしまった。
「やっと終わりましたか〜」
 どこに行っていたのか、ジョシュアがふらりとやってきた。
「ゲンブ君。リヴァルさんは福山さんに色目つかいませんでしたか?」
 と、にやにやとしながらゲンブに聞く。
「そ、そんなことありませんでしたよ。ねぇ、リヴァルさん」
 ゲンブが何故かしどろもどろなのに対し、リヴァルは当たり前だときっちり答える。
「ふぅん。リヴァルさん、そういえばフィオナさんとはどういったご関係で?」
「あ、私も気になります。お二人は恋人同士なんですか?何だか特別な雰囲気が‥‥」
 ゲンブとジョシュアが尋ねるとフィオナは、
「ふ〜ん、そういういうことが気になるお年頃なのねぇ」
 にやりと笑って頭を撫でた。
「ちょっ‥‥!やめてください!」
「そんな君にはこれをあげよう!」
 とフィオナは牛乳を押し付け、逃げ出した。
「くっ!バカにしないでください!自分で買って毎日飲んでるんだからな!」
 とフィオナに牛乳を突き返すために、ゲンブも全力で追いかけ始めた。
 城の中に笑い声が広がる。
 この城の中でも、こんな風に笑い声が広がる時があったのだろうか?きっとあったに違いない。悠久の歴史を世界中の人に伝えよう。そんな風に、ガイツは思った。

<了>