タイトル:【BD】一般人と避難民マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/09 21:51

●オープニング本文


●ボリビアの不安
 バグアの突きつけてきた脅しと共に、ボリビア領内へはキメラが侵入を開始していた。本格的な侵攻ではなく、これも脅しの意味合いなのだろう。
「‥‥でも、この国にはそれに抗う力がない」
 国王ミカエル・リアは項垂れる。中立を標榜するボリビアの主権を尊重し、UPCは駐留していない。援助という形で持ち込まれた僅かなSES武器や能力者らの力では、長大な国境線はおろか、人里を守ることすら困難だ。それゆえに、彼は。
「ULTへ依頼を出す。それならば国是を犯してはいない‥‥。そうだとでもいうのか? それで納得させるにも限界はある」
 一歩を踏み出した若き国王に、摂政のマガロ・アルファロは不快げに眉をしかめてみせた。

●ガイツの不満
「くそっ!なんつーときに来てしまったんだ俺は!?」
 ボリビアの喧騒に巻き込まれてしまい、自分を呪うガイツ・ランブルスタイン。自分がこの国にやってきた数日後、バクアの攻撃が開始された。元々安定していなかった国内の情勢はさらに悪化。今ではバクアが送り込んできたキメラも放たれてしまい、かなり危険な状態であった。
「‥‥って言っても、タイミング良く旅が出来たことなんてないけどな」
 自嘲的な笑みを浮かべる。彼の旅はいつも危険と隣り合わせだ。今の状況も‥‥彼にとってはそれほど珍しいものではない。それでも、いつ命を失ってもおかしくはない状況なのだが。
「ほ、本当に大丈夫なんだろうね、ガイツさん」
 全身に恐怖を感じながら、ホテルの従業員はガイツに尋ねた。町がキメラに襲われたとわかると、ガイツはすぐに町の人たちを集めてこのホテルに避難させ、しっかりと鍵をかけた。
「ああ。きっと能力者たちが助けに来てくれるはずだ」
 ガイツは、どちらかというと自分に言い聞かせるようにしっかりと答える。この町の人たちはキメラのことを全く知らないわけではないだろうが‥‥それでも自分の方が潜り抜けている戦場の数が違う。なるべく町の人たちを安心させなければいけない。
「‥‥くそっ!まだなのか!」
 しかし、内心は焦っていた。このホテルから政府に助けを求めてからかなりの時間が経過している。本当にこの救助連絡は届いているのか?
 そこへ一本の電話が鳴る。
「が、ガイツさん!ULTから連絡が!た、助けに来るそうです!」
 その場にいる全員が安堵と歓喜の声をあげる。まるでもう助かったかのようだ。確かに光明は見えてきたのだが‥‥。
「まだだ!」
 ガイツは鋭く言うと電話の近くに歩み寄り、受話器を自分に渡すように言う。そして、受話器の相手に言葉をかける前に、周りの人たちに一言だけ言った。
「これからが、大変なんだ」
 ガイツは受話器を耳に当て、現在の状況をてきぱきと説明していった。

●参加者一覧

秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
片柳 晴城 (gc0475
19歳・♂・DF
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
クロノ・ストール(gc3274
25歳・♂・CA
海原環(gc3865
25歳・♀・JG
和泉 恭也(gc3978
16歳・♂・GD
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA

●リプレイ本文

●町の攻防
 ガイツ・ランブルスタインの救助要請を受け、早速町へと飛んだ傭兵たち。そこで見た光景とは、決して裕福とは言えなさそうな町がさらにボロボロになっている姿だった。いたるところにキメラの爪あとが残されている。
 傭兵たちは惨劇に顔をしかめつつも作戦通りに行動を開始した。

 傭兵たちはA(アタック)班とD(ディフェンス)班に別れて行動を始めた。まずはA班の面々がキメラをおびき寄せるために動く。
「じゃあ俺は先に行くぜ!はっはー!鬼さんこちら、銃の鳴る方へ♪」
 そう言って守剣 京助(gc0920)は愛車ナーゲルを駆り、轟音をとどろかせて走っていった。
「ブブゼラは勇気の印です」
 と海原環(gc3865)は建物の間を行き来しながらブブゼラを取り出し、吹く。さらにブブゼラから出た音をマイクで増幅させる。
「こっちでの戦闘は初めてだからなぁ‥‥。アタックタイミングとかうまく掴んでいかないと‥‥」
 初めての実戦となるミコト(gc4601)は持っている装備を確認しつつ呟く。
「今までだったら、こうすることもなかったのになぁ‥‥」
 体験したことのない生と死の感覚に身を震わせつつ、身を隠さずに敵が近付くのを待つ。
「陽動だから目立つのはいいことだが‥‥隙を見せてはいかんな」
 ネイ・ジュピター(gc4209)も武器を構えてキメラとの戦闘のため、歩を進めていった。
 明確な敵意のある人の気配と環のブブゼラを音が舞い、京助のバイクと銃の音が駆け抜ける。
 ジャガーキメラと大ワシキメラは、明確な気配を察知して標的に向けて牙と爪を研ぎはじめた。
 A班の面々の狙いが成功したのか、キメラたちはホテルからどんどんと離れ、獲物の四人を求めて動いていく。
 環は自分達に十分注意が向いたのが分かると、ブブゼラを吹きつつ照明銃を構えて空に放つ。光の玉が上がると、2つの存在が一気に行動を開始する。
 ホテルに救出に向かうD班の面々と、
 獲物の位置を把握したキメラたちが。

「‥‥守剣は大丈夫か?」
 陽動を買って出た自分の隊の隊長を案じつつ、片柳 晴城(gc0475)は皆と共にホテルへ向かう。
「さーて、頑張って行くとしますか」
 クロノ・ストール(gc3274)は一言呟き、覚醒。
「幸運の女神は僕に微笑みかけるってね」
 パチンと指を鳴らし、スキル『GooDLuck』を使い、ホテルへの道を進む。
「大丈夫、今度は助けられる。こんなときのために生き延びてきたんだから!」
 そう自分に言い聞かすのは和泉 恭也(gc3978)。もう誰も、親友のような目に遭わせたくないという強い意志が現れている。
「一般人を危険にさらすわけにはいかない。絶対に助け出す‥‥1人の怪我人も、出したくないな」
 生真面目な軍人、エメルト・ヴェンツェル(gc4185)も同じ気持ちであった。
「無辜の民に手をかけようとは‥‥魔王の手先どもめ、許せん!未来の勇者が成敗してくれる‥‥!」
 自称勇者のジリオン・L・C(gc1321)も、どうやら自分の中の使命感に燃えているようだ。
 その横では秋月 九蔵(gb1711)が狙撃兵としての名誉挽回に燃えていた。今度こそは、外さない。
「今度外したら‥‥そうだな。ドイツで狩人にでも転職するか‥‥動物も仕留めれない狩人ってね‥‥ふん」
 自嘲気味に笑いながら、獲物への注意を忘れない。
 6人はホテルへと急ぐが、その中でもクロノは死角に留意しながら敵の気配を探っていった。
「こういう所に気を配る。出会い頭にイニシアチブを無くすのは時間的にも痛いからね‥‥ほら」
 クロノの視線の先には、ジャガーキメラの姿があった。運良くこちらにはまだ気付いていない。
「皆さん、此処は任せてホテルへ急いで!」
 恭也は先にキメラを倒しておこうと自身の盾を構える。
「早くホテルに向かう。安心させる、釘を刺す。やる事は解っているだろう?」
 クロノも同じく盾を構えながら、味方に先に行くように促す。
「とにかく、素早い行動が大事です。ホテルの人々は今も恐怖に震えているのですから」
2人の言葉を受け、エメルトは大きく頷く。他の面々は先にホテルの方に行くよう、急いだ。
「さて、それでは早速‥‥一撃ッ、貰った!」
 仲間が先に進んだのを確認すると、キメラの早期撃破のためスキル『シールドスラム』を使って一撃を叩き込む。まともに攻撃を喰らったキメラに、恭也も加えて攻撃をする。
「邪魔、だッ!!」
 多少の反撃は受けたものの、ジャガーキメラを倒すことが出来た。後続のキメラが来る気配もない。2人は注意をしつつまたホテルに向かった。

 先にホテルへと辿り着いた4人は、ホテルの周囲を確認する。どうやら誘導作戦に効果があったのか、ホテルにはほとんど被害が見えない。傭兵たちは安堵と共にホテルの内部に声をかけて中に入る。と同時に、
「俺様は未来の勇者ジリオン!ラヴ!クラフト!
 改!(びしっ)
 激!(ばしぃっ)
 烈!(どごぉっ)」
 そして、荒ぶる勇者のポーズ。
「待たせたな!彷徨える魂たちよ‥‥!」
「‥‥お、おう」
 思わぬ形での救助に住民たちとガイツ・ランブルスタインはどう反応していいかわからず、とりあえず頷いてみせた。
「皆さん、大丈夫ですか? 我々が来たからにはもう安心です!」
 今度はエメルトの普通の言葉が耳に入り、改めて人々に安堵の表情が広がる。
「来てくれたか。ありがとう、本当に助かるよ」
「まぁな。それより、皆にやってもらいたいことがある」
 九蔵は早速、窓のカーテンを閉め、電気を消して隠れるように指示した。人々は素直に指示に従って行動していく。
 人々を見つつ、春城はホテル館内で侵入されそうなところはないか見回りをしていく。
「気をつけてくれよ」
 客室で隠れている客にも声かけをするのを忘れない。
 と、ホテルで人々を支持している間にクロノと恭也もホテルに到着した。
「一先ず安全確保が先決、キメラ殲滅まではお互い気を抜けないって事だ」
 クロノは避難民たちに事態収拾まで必ずホテル内で大人しくしているように頼んでいった。
 人々が皆、ホテル内の安全そうな場所に隠れたところで傭兵たちはホテルの外に展開した。ホテルの周囲は塀に囲まれているため、突破してきそうな場所は正面の門くらいだろう。そこを中心に守りを固めていく。
「‥‥やってるみたいだな」
 ホテルから離れたところで戦闘音が聞こえてくる‥‥。

 D班が無事ホテルに到着したとの連絡が入り、A班の面々はキメラの誘導から殲滅へと行動を移していた。
「ナーゲルお疲れ。後で回収してやるからな」
 京助は引き付けたキメラをフルスロットルで引き離したあと、愛車から降りて離れる。大剣を担ぎなおし、迫るキメラを睨んだ。
 ジャガーキメラが3体にワシキメラが4体。
 明確な殺意と本能を持って襲ってくる。
「れすきゅーみー♪」
「おー ていく みー いんゆあ あーむず♪」
「れすきゅーみー♪」
 そんな殺意を受け流すように、建物の屋上から環の歌が聞こえてきた。さらにその後、大量の銃声も。
 環の『ブリットストーム』が火を噴き、ジャガーと大ワシともども銃弾の餌食となる。
 銃声が止まったところで京助と駆けつけたネイ、ミコトがキメラに斬りかかる。
 京助は『豪力発現』を展開し、『流し斬り』でジャガーを攻撃。反撃にも怯まない。
 ネイは二本の日本刀を構えて『疾風脚』を展開。速さで敵を撹乱させつつ『二段撃』で敵を斬る。
 ミコトも先輩たちに続いてキメラの正面に立ち、攻撃をする。が、まだ仕留めるには至らない。ジャガーと大ワシの攻撃を受けてしまう。
「‥‥多少は痛いけど、まだまだ。剣を持って立っている限りは‥‥負けてない」
 仲間たちの攻撃を受けたキメラに狙いを定める。
「ここは一発、仕掛けてみるかな」
 ジャガーキメラに『スマッシュ』を放ち、大ワシキメラには『流し斬り』を利用して羽を狙う‥‥。

「今回は何とか勝ったみたいだね。まだまだ、慣れるには程遠いか‥‥」
 結果、4人はキメラの攻撃を受けながらも全てのキメラを倒すことに成功した。ほっとした様子でミコトは呟き、剣を振る。キメラの血で汚れた剣が少しだけ、元の姿を見せた。
「ん、剣の上に血が残らないのはいいな。耐久度とかもなさそうだし‥‥」
 新たな発見をしながら成長をしていく新兵の姿があった。
「まぁ、鞘に入れてずっと持ち歩くのだけは慣れないなぁ‥‥」
「さて。ホテルの方は無事だろうか?」
 ネイも剣を納めながら仲間たちに言う。
「そうだ!ガイツさんがピンチかもしれないよ!」
「こっちにはもうキメラが来てないみたいだ。誘導を逃したキメラもいたのか‥‥。よし、行こうぜ!」
 環と京助も同意し、A班の面々はホテルへと急いだ。

 全てのキメラが誘導に乗ったわけではなく、獲物の多さを敏感に感じ取ったキメラたちもいた。そのキメラたちは確実にホテルに近付いてきていた。
(ぬ、ぬぅ!此処まで来ては後には引けん‥‥引けんぞ!未来の勇者よ!)
 そう自分に言い聞かせて、奮い立たせるジリオン。
 キメラの姿を確認して、狙撃兵の九蔵はまずは大ワシキメラの羽を狙って飛べなくしようとする。
 だが、銃弾一発では羽を機能停止にするまでには至らなかった。どうやらバクアによって強化されているようだ。
 そこでペイント弾を装填し、大ワシキメラの顔面を狙う。
 見事にヒット。突然前が完全に見えなくなった大ワシキメラは、急降下をしてくる。
「俺には気付いてないか?良い的だ、鳩撃ちと変わりねぇ」
 その急降下してきた大ワシキメラは、ジリオンの頭上へと迫ってくる。制御を失っての急降下と、大ワシキメラの予想以上の大きさに、ジリオンの恐怖心が大きくなってしまう。
 そして、さっきの気持ちはどこへやら。
「ふんぬりゃあ!」
 恐怖心が勝ったジリオンは『瞬天速』で大ワシキメラの突撃を避けた。そのままワシキメラはホテルの塀にぶつかって動かなくなる。
「あ、あぶないじゃないか!俺様が勇者の必殺技、勇者よけで避けなかったら‥‥怪我をしていたぞ!」
 そして大ワシキメラにトドメをさす。
 そう言っている間にも、九蔵は大ワシキメラに確実なダメージを与え続けていた。
地上では最後のジャガーキメラがホテルに向かって一直線に駆けてきていた。
 先ほどと同じように、クロノと恭也の2人は盾を構えてジャガーキメラの突進を止める。
「通しません!絶対に!」
 恭也は盾を軸にジャガーキメラを投げた。大きな隙が出来たところで、春城とエメルトがトドメを刺しに攻撃を加える。
「ふん。これで終わりだ」
「ここから先には行かせない」
 地上の総攻撃でジャガーキメラはすぐに生命を失った。
「Sweet Dream!」
 そこに九蔵の声が響く。見事、大ワシキメラにヘッドショットを決め、大ワシキメラの死体が転がっていた。

●解放
「ふぅふぅ、はぁはぁ‥‥無事か!彷徨える魂たちよ‥‥!魔王の手先は俺様達が‥‥はぁはぁ‥‥」
 ジリオンの何故か息も絶え絶えな報告を聞き、ようやく本当の笑顔と安堵を見せた町の住人たち。口々に傭兵たちとガイツにお礼を言ってきた。
「良かった、本当に‥‥生きていてくれた」
 恭也は住人の元気な姿に安堵し、床にへたり込む。
 今度は、しっかりと守ることが出来た。守りぬくことが出来た。それがどれだけ大変なことを誰よりも知っている彼だからこそ、見せた安堵の姿がそこにはあった。
 ミコトはたくさんの人たちに礼を言われ、少し困惑していた。初めての戦闘。初めての命のやり取り。そして、命が助かった人たちからの初めての感謝の言葉。
「とりあえず、慣れていくしかないか‥‥」
 しかし、悪い気はしない。これから心身ともに強くなろうと思うミコトだった。
「おつかれさん、ナイス判断だぜ。ガイツが居なけりゃ被害は凄かっただろうな‥‥」
 先ほど回収した愛車を押しながら、京助はガイツに労いの言葉をかける。
「まったく見事でしたよ。よく迅速に市民の皆さんを誘導してくれました。被害がなかったのは、あなたの冷静な対処のお陰です」
 エメルトも同じくガイツに声をかける。
「いや、そんなんじゃねぇよ。たまたま知ってただけだ。普通の人よか経験が豊富なだけさ。ま、それでも戦えはしないけどさ」
 ガイツは笑いながら言う。
「これに懲りて危ないことはしないでって言ってもきっと無駄なんでしょうね?」
 環はガイツに、ちょっと怒ったように言う。
「うーん‥‥きっと無理なんだろうなぁ」
 予想通りの返事に環はため息をつきつつ、こう続けた。
「だから、死なないでとだけ言わせてもらいます」
「ああ‥‥それだけは約束するよ。必ず」
 環の言葉で、自分はなんとか生きられたんだと実感するガイツだった。

<了>