●オープニング本文
前回のリプレイを見る『夢子さん』
ある学校に、とても寝ぼすけな少年がいました。その少年はいつもいつも寝ていました。授業中も休み時間も。登校時も下校時も。先生に怒られることなど多々ありましたが、怒られたあと、先生が黒板の方を向いた瞬間にはもう寝ていました。
そんな彼に友達が出来るわけも無く、彼は独りで睡眠を続けました。
ある時、その少年の母親がいつも通り少年を起こしに行くと、珍しく少年はベットから体を起こしています。珍しいわね、と母親は少年に問いかけると少年は元気よく、
「夢子さんに会いに行くんだ」
と言いました。そして少年は、少年らしくないほどに元気よく家を出て行きました。母親は、少年にガールフレンドが出来たのだと喜びました。
しかし。少年が学校に行ってすることと言うと、今まで通り寝ることでした。
いえ。今までよりももっと睡眠に貪欲になっていました。
朝は誰よりも早く学校に来ては机に突っ伏して寝て、給食では食べ物も摂らずに寝て、放課後は夜遅くに先生が見回りに来た先生が発見するまで寝続けました。
例外なく、少年は起こそうとすると激しく怒りました。一度は同級生を殴り倒して問題になったことがあるほどです。その時、彼はこう口走っていたそうです。
「夢子さんとの邪魔をするな夢子さんとの邪魔をするな夢子さんとの邪魔をするな夢子さんとの邪魔をするな夢子さんとの邪魔をするな夢子さんとの‥‥」
そしてある日。静かに眠る少年にちょっかいを出そうと、ある男子生徒が彼の座る椅子を思いっきり引きました。
彼はなんの抵抗もなく、そのままの形で床に倒れてしまいました。少年はぴくりとも動きません。寝すぎだよ、とさらにちょっかいを出そうとしたところで、少年の体が全く動かないことに男子生徒は気付きました。
少年は永遠の眠りについていたのです。
それからというもの、彼が死んだとされる席で授業中に眠ると、夢子さんが現れると言われています。
四年四組、左から四番目、前から四番目のその席は、永遠の眠りに繋がっているそうです。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■六不思議の前の映像
「とまぁ、これがここら辺の七不思議の最後の話ってわけ。そんで私はその研究をしているの」
洞窟の檻の中。白城早季子は目の前の少年に向けて語った。話を最後まで聞いた少年は、純真そうな目を邪悪に見開き、興味深そうに目の前の人間を見つめる。
「‥‥なるほどねぇ。人間にはそんな性質があるのか。自身がわからないもの、得体の知れないものに対して、話を媒介にして関連付けるわけだ」
「未知に対する防衛ってだけじゃないわよ。教訓や歴史なんかもこういう噂話に該当するわ。とは言っても、土地によって特色があるから一概には言えないんだけどね」
「なるほど。ますます面白いね」
クスクスと笑う少年に合わせて、早季子も楽しそうに笑う。
「そして、今の世の中で一番身近な『未知』は、君たち『バクア』よ。幽霊よりも超常現象よりも簡単に見つかるのに、一番説明がつかない『未知現象』。全く、興味をそそられっぱなしだわ」
「ふふふ‥‥そうかぁ。人間はそんなことに興味を持つんだね。じゃあお望み通り‥‥」
「ちょっと何ぶつぶつ言ってるのよ。私が話したんだから、今度は君たちのこと教えてよね」
目を輝かせる早季子だったが、少年は彼女の話を聞かずにただただ笑みを浮かべる。そしてふと思いつき、檻から離れて洞窟を出て行った。
彼はただ退屈だった。上司に言われてこんな場所に飛ばされた彼は、すっかりとやる気を無くしていた。戯れに人間を攫ったりキメラを適当に放っていたのだが、それもただ惰性でしかなかった。彼の退屈を埋めるものなど無かった。
しかし、最近になって自分の放ったキメラが何者かにやられているのに気付いた。適当に思いついたキメラだし、放ったあとも適当に放置していて忘れていたのだが、それが次々とやられていったのである。どういうことかと様子を見に行ったとき、能力者たちがなにやら調査をしているのを発見した。こんな場所にどうして、と思ったが、たまたま攫った先ほどの女の話を聞いて納得した。
「面白い。実に面白い」
ならば、と彼は思い、廃校へと足を向けた。大量のキメラを用意して。
■七不思議の映像
「ふふふ‥‥あの能力者たちはちゃんと僕の話を創ってくれるのかな?おーい、サキコ。聞いてくれよ」
能力者の1人との会合を終えて洞窟に戻ってきたのだが、檻にいるはずの早季子はいなかった。檻が壊されている様子を見ると、能力者はこちらにもやってきて早季子を救出していったようだ。
「逃げられちゃったか。せっかくこれから洗脳して、一緒に七不思議とやらを創ろうと思ったのにな。あいつの知識も欲しかったのに‥‥残念」
独りで呟くバクアの顔は、言葉とは裏腹に笑顔が張り付いている。
「ま、いいや。あいつにもいろいろ語ってもらえばいいし。さぁて。僕はこれから本格的に始めるか。やっぱり最初は‥‥僕が作らないとな」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「今回は呪いって感じなのねぇ‥‥得体の知れない呪いってのも、七不思議の醍醐味よね。夢だなんて、なんかロマンチック臭いけどさ」
宮原ルイカは最後の話を確認しつつ、ぽりぽりと頭を掻く。
「しっかし、バクアかー。七不思議に興味があるバクアなんて、変なバクアよね」
保護した白城早季子の話だと、どうやらキメラ関連の七不思議は全て、洞窟に研究所を構えていたバクアの仕業だったらしい。しかもそのバクアは、この七不思議に多大な興味を持っていたらしい。
「またキメラを作られて、住民に被害が出ちゃたまんないわよ。七不思議もこれで最後なんだし、バクアも倒して全部解決してすっきり終わらせるわよ!」
ルイカはそう言うと、大きく振りかぶって依頼を聞く傭兵に指差して言う。
「そこのあなた!最後の七不思議を解明してみない?!」
●リプレイ本文
■廃校前の映像
とある少女から依頼された『七不思議』。それも今回で七つ目。その舞台の廃校へとやってきた。
「バグアが興味を持ったのは『七不思議』そのものなのか‥‥?ま、考えても仕方ないな」
那月 ケイ(
gc4469)は初めて訪れる廃校と、背後にいるとされるバグアに対して思案を巡らせる。
「科学は暮らしを良くしたり、人の幸せのためにあるもの。こんな使い方は許せない!」
茅ヶ崎 ニア(
gc6296)も初めて廃校に足を踏み入れるのだが、この事件の背後にいるバグアに怒りを向けた。
「しかし、不思議の正体の大半がバグアとはな。ヤツはわかっていないようだ」
天野 天魔(
gc4365)は深くため息をつく。
「本当だよ!今までの不思議は全部あの兄ちゃんの仕込みだったなんて!絶対に許さないよ!あたしのドキドキワクワクを返せー!」
月読井草(
gc4439)もぷんすかと怒りの同意をする。
「ああ。恐怖の根源は未知だ。知らないから対処できない、なす術がない。故にいくら力を持とうと正体を知られれば対処不能な未知の恐怖は対処可能な既知の脅威に堕ちる。その程度の事も解らんか。演出家として三流を通り越して失格だな。そんな演出家気取りの素人が舞台に上がるのは不愉快だ。早々に退場してもらおう」
天魔は怒りを含めた目で廃校を睨みつけた。
「これが最後の不思議かぁ‥‥さて、気合入れていこかぁ!」
キヨシ(
gb5991)は顔をぱしりと叩き、目の前にそびえる廃校を見る。
「名残惜しいがこれで幕引き、だな」
ヘイル(
gc4085)は今ではすっかりと馴染んだ様子でカメラを回している。
「頑張っていきましょうカ!」
峯月 クロエ(
gc4477)も同じく気合を入れ直す。しかし、いつもの調子が出ない者もいた。
(あの姿はやり難いね。でも、少年に同情はしても‥‥迷いはしないよ)
Letia Bar(
ga6313)は悲しそうに顔を歪めながら、廃校へと歩を進める。すると、
「ちょっと待ってくれ!」
キヨシが走り寄ってきた。Letiaが振り向くと、キヨシは珍しく真面目な顔で、勢いよく言う。
「あの‥‥Letia!この依頼が終わったら結婚してくれ!返事は後で‥‥」
キヨシの突然のプロポーズに驚くが、先ほどの悲しげな顔がキヨシの言葉で笑顔に変わる。
「返事は今するっ‥‥喜んで!」
キヨシの言葉を遮り、思わず抱きつきながら返事をした。キヨシはその場で返事をもらえた事に驚きを隠しきれなかったが、Letiaの感触が本物と分かると固く抱擁を返した。
「検証会以外にもこのビデオは使えそうだな」
2人が振り返ると、ヘイルがビデオカメラでプロポーズの様子を撮影しながらにやにやと笑っていた。後ろでは他の仲間たちもにやにやと笑っている。
2人は顔を見合すと、笑顔で返事を返した。
改めて、全員で廃校を目指す。
キヨシとLetiaは固く手を繋ぎながら。
■廃校の映像
足音が妙に甲高く響く静寂の中、立て付けの悪い教室の扉をガタガタと大きな音を震わせて、開けた。
「やあ。待ちわびたよ」
異界のような空気の中で、妙に現実味を帯びた少年の声が聞こえてきた。黒板の前、教卓に手をついた少年は、にやにやと不気味な表情を浮かべている。
「ちゃんと僕の用意したモノを語ってくれたかい?君たちには語り部になってもらわなきゃ。そう、語り部にね」
うんうん、と1人で勝手に頷く少年。教室の後ろ側、黒板から離れた扉から入ってきた傭兵たちは、件の『4番目』の机を間に挟んで睨みつける。
(この場所を荒らされたらいろいろとまずいですネ‥‥)
クロエは少し考えてから、少年へと声をかけた。
「ねぇ君。怪談話に興味があるんなら、ここではなくて屋上なんかはどうですカ?学校の屋上って場所にも、怪談話はたくさんあるんですヨ」
クロエの放った『怪談話』という言葉に、少年は口をさらに歪ませる。
「なるほどねぇ。話によるとここはもう使われちゃってるようだし、新しく話を作るなら、新しい場所の方がいいかもね」
瞬間、少年の気配が消える。と同時に、ドアががらりと音を立てた。
少年の姿が消えている。
傭兵たちが急いで屋上に向かうと、少年は何事もなかったかのように屋上で空を仰いでいた。
「さぁ、聞かせておくれ?」
少年は問うたが、その問いを井草が遮る。
「あの時、裏山に居たお兄ちゃんだよね?お話聞かせて!‥‥今までのお兄ちゃんの仕掛けで一番楽しかったのって何?」
少年はん?と顔をしかめたが、井草の純真な声と表情を見てすぐに不気味な笑顔に変わる。
「あぁ、君は竹林であった子だね。勘違いしてるようだけど、僕は自分で仕掛けたつもりはないんだ。だが、結果として僕の仕掛けたつまらないキメラは『怪談』に昇華している。その意味では‥‥全部面白いよね」
くつくつと笑う少年に対し、井草は言い知れぬ怒りを覚える。が、表面はあくまでクールに少年の言葉に耳を傾ける。
「‥‥他の行方不明者は、どうなったの?」
Letiaは静かに少年に聞いた。
「確かキメラの実験に使ったんじゃないかな?覚えてないや。あいつらは怯えるだけでサキコみたいに面白くなかったし。前の体にボロが出てきたから、1人の少年は改造して、体をいただいたけどね」
少年の非情な答えに、Letiaは怒りと少年への「ゴメンなさい」の気持ちで無言になってしまった。少年はその様子に気付かずに続ける。
「キメラの実験に使ったんなら、彼らも少しは七不思議の役に立ったのかな。ほら、あの地蔵キメラだって‥‥」
「ふん。実にくだらんな」
さらに語り始めようとする少年を遮る天魔の声。
「‥‥なんだい?」
「悪いが俺達の目的は七不思議の調査でな。演出家気取りの素人の学芸会に付き合う暇はないのだよ」
天魔の挑発に、少年は笑顔のまま固まる。
「怪談を創る?お前では無理だ」
さらにヘイルが語る。
「怪奇に必要なものを教えてやろうか。
1つ、言葉が通じてはならない
2つ、正体不明でなければいけない
3つ、不死身でなければ意味が無い
‥‥お前では全て落第だな?」
しん、と静寂が支配する。
数瞬後には少年の狂笑が支配の座を奪った。
「あはははは!なるほどぉ!確かに僕は怪奇の条件を満たしてないや!でもでもでも!だぁいじょうぶ!解決方法がわかっちゃったよ!」
ぴたりと、笑いが止まる。支配は再び静寂。通るのは、静寂よりも冷たい少年の言葉。
「君たちを殺して、僕の七不思議になればいい」
少年は声を変えず、表情だけを笑いに変える。
「そうすれば、
僕の言葉は誰も知らず。
僕の正体は誰も知らず。
僕の物語は永遠だ。
やっぱり、君たちは語り部じゃない。七不思議の登場人物になって、僕と一緒に不思議を共にしよう」
そう言うと、少年は傭兵たちに飛びかかってきた。そこにあるのは不思議でもなんでもない現実的な暴力だった。
天魔は即座に覚醒し、盾を構えて少年の拳を受ける。少年の勢いに腕が軋む。少年の姿をしても、その中は人類の敵、バグア。得体の知れない力はまさに現実であった。
ヘイルとクロエは前に出て少年と真っ向から対峙し、Letia、キヨシ、井草、ケイ、ニアは少年から距離を取り、援護の構えを取る。
「みんな!やってくれ!」
ケイはまず前衛に『練成強化』をかけて味方の力を上げる。
Letiaは少年の顔面に狙いをつけて撃つ。少年の顔を撃つことにもう躊躇しない。
「さぁて、どこから飛んでくるかわかるかなぁ?」
キヨシは『跳弾』を使い、少年の死角から弾丸を撃ち込んでいく。銃撃を受けた少年に対し、ヘイルは少年に張り付いてリューココリネで体勢を崩し、天槍で『急所突き』を放つ。クロエも刀を抜き、少年を容赦なく切りつける。
「あははは!やるねぇ!でも‥‥こういう戦闘は七不思議っぽくないねぇ。残念残念!この話はボツかなぁ!?」
少年の強烈な攻撃に、傭兵たちは顔を歪ませる。
「回復は任せて!」
井草は即座に『練成治療』を使って直撃を受けた仲間を癒していく。
不気味な強さを誇る少年に、傭兵たちは苦戦を強いられた。
しかし形勢が一気に変わる。
「3!」
とニアが力強く叫ぶ。その言葉を合図に、皆は衝撃に備えた。唯一少年だけが無防備をさらす。
ニアは『先手必勝』のスキルを使いながら、アンダースローで少年に閃光手榴弾を投げた。
闇夜も月明かりも消し飛ばし、科学の光が少年を包む。
「くっ!」
目がくらんだ少年に、傭兵たちは一斉に攻撃をした。
ケイは『練成弱体』を少年に放ち、仲間にも『練成強化』を行なう。その後、キヨシは貫通弾を装填し『援護射撃』で味方の援護。Letiaとニアも銃弾を装填して少年へと弾を放つ。
中衛の援護射撃を受け、クロエ、天魔、ヘイルが波状攻撃を繰り出す。
「‥‥ここですね」
クロエは『迅雷』で瞬間的に少年の背後にまわり、『刹那』と『円閃』で連続攻撃を与え、天魔は『紅蓮衝撃』で攻撃力を上げた妖刀「天魔」で切りつける。
ヘイルは『猛火の赤龍』『ファング・バックル』を同時に併用し、最大限の力で槍を突き抜いた。
少年の体に力が失われる。
衝撃を吸収する暇も無く、少年の体は屋上の床に投げ出された。
「ははは‥‥なんだよ。これじゃあ、僕が作るんじゃなくて、僕が、登場人物みたいじゃないか‥‥」
少年は力無く、しかし最後ににやりと笑う。
「それも‥‥いいか。せいぜい‥‥語ってくれよ」
歪んだ七不思議を求めた少年は、そこで事切れた。
「‥‥ホントの君は、どんな子だったのかな?」
Letiaはもう戻らない本物の少年のことを思い、そっと涙を流して祈った。
「キツイな‥‥でも、これで、家に帰してやれるな‥‥」
ケイはLetiaの頭を軽くぽんぽんと撫でながら、沈痛な思いで少年の亡骸を見た。
「亡くなった人の体は操れても、心まで自由にすることができないのよ‥‥」
ニアも悲しそうに言う。
「怪談の最後は『夢子さんに憧れた少年が死ぬ』というものだったな。気に入らない。俺達もこいつも、何かに操られていたみたいじゃないか?」
ヘイルの呟きは見えざる何かに通じたのだろうか。それは誰にもわからなかった。
■廃校の映像、弐
傭兵たちは、今度こそ七不思議の検証をするために4年4組の教室へと戻ってきた。
「準備OK!いつでも来い!」
キヨシは巨大ハリセンを手に持ち、準備万端の様子である。隣ではヘイルがビデオカメラを構え、机の周りを念入りに撮影している。
「席に変わった様子はねぇよな。それじゃあ‥‥よいしょっと」
ケイは4番目の座席を調べた後、椅子を引いて座る。
「重かったらごめんね」
と井草はケイの膝の上に乗った。
「あはは。構わんよ〜」
軽い様子で承諾し、机に突っ伏して寝てみる。
「怪談では寝るのが条件だったよな。こんな感じ、か‥‥?」
井草も同様にしてみる。2人で同じ机に突っ伏している様子はどこか妙であったが、しばらくその姿勢で様子を見てみる。
「何も起こらないようだが‥‥ん?」
気付くと、いつの間にか2人は眠ってしまっていた。しかも‥‥。
寝息が聞こえない。
まるで息をしていないようだ。
「ち、やはりか。これ以上は危険だな」
ヘイルは無理矢理席から引きずり起こす。不思議なことに、席を離れた2人はすぐに起きた。起きた2人は即座に顔を見合す。
「つ、月読さん。もしかして‥‥見えた?」
「う、うん。夢の中で女の子が手を振ってた‥‥」
ぞくりと背筋が凍る。
「見えたんですカ?夢子さんはどんな方でしたカ?」
クロエだけは嬉々としながら2人に聞こうとしたのだが、少し震え気味の天魔が遮る。
「これで検証は出来たんだし、帰ろうじゃないか。な!」
同意を求めると、Letiaも青ざめた顔をしながら首をぶんぶんと振った。
□検証会の映像
恒例の検証会の様子が映されている。そこには傭兵たちと宮原ルイカの姿だけでなく、黒宮佐貴子や白城早季子の姿もあった。皆で映像が見終わり、談笑している様子が記録されている。
「バグアも倒してくれたのね!最後の夢子さんにも会えた人がいるみたいだし、これにて一件落着かしら!ねぇ、キヨシくん!」
ご機嫌の様子で映像を見ていた宮原ルイカが振り返ると、
「Letia&ルイカちゃん、覚悟しとき‥‥えっと、見逃してもらえ‥‥ませんよね」
ハリセンを構えたキヨシの姿があった。
「‥‥これも最後かぁ〜。でも容赦はしない。怪奇・廃校の漬物男ー!」
後ずさるキヨシに、Letiaはどこから用意したのか塩樽の中にキヨシを突っ込んだ。思わず手から離してしまったハリセンを拾うと、ルイカに渡す。ルイカは大きく振りかぶってハリセンでキヨシを殴る。すぱーん、と景気のいい音が聞こえた。
「おお、これが噂の塩!」
とケイは嬉々としながらキヨシの死体を眺めていた。
「そういえば黒ちゃんは能力者適性、どうだったの?」
Letiaが尋ねると、佐貴子は少し残念そうに、
「適性なし」
と答えた。
「そう‥‥。何かあったら言ってね?出来る限りの事はするよ」
とLetiaは自分の連絡先を佐貴子に教えた。どちらの結果にしろ、複雑だ。
「全部調べ終わったけど、やっぱり全部が全部バグアの仕業じゃないのかも。他の不思議の時も何かを感じたし、上手く言葉には出来ないけど、きっとそうなんだと思うよ」
井草は懐かしむように七不思議を思い出した。
「これで七不思議終わりましたネー」
クロエも少し寂しそうに言う。歓談をしている様子が映る中、ヘイルがカメラの前にやってきた。
「以上、七不思議の調査は完了だ。
『七不思議』は残り『彼女達』はいまだ廃校に。
――『貴様』ももう戻れ。ひとまず幕、だろ?」
――プツン。
検証会後。天魔は佐貴子の家を訪れていた。
「突然すまないな。今からデートをしないか、黒宮?」
佐貴子は言葉の意味が分からずにぽかんとしていたが、脳が理解をすると彼女には珍しく大きなリアクションで手をブンブンと振った。
「冗談だ。この事件をきっかけに、廃校が解体されることは知っているか?その前に各不思議の現場を案内しようと思ってな。迷惑でなかったらどうだ?」
天魔が続けると、佐貴子は元の調子で、
「いく」
とだけ答えた。
2人は廃校の中の図書館、4年4組、家庭科室、大時計のある倉庫を回り、外の井戸。裏山の竹林、首なし地蔵を歩いて回った。佐貴子は天魔の解説を黙って聞いてる。
全ての不思議を回り、再び佐貴子の家まで送った。
「最後に聞くが、君は俺達の調査に満足できたか、黒宮?」
天魔の問いに、佐貴子は即座に、
「満足」
と答えた。無機質ではない、感情のこもった返事だった。
「そうか。じゃあまたな、佐貴子」
天魔がそう言うと、佐貴子はぺこりと頭を下げた。顔を上げた時に見えた表情は、確かに笑っていたと天魔は記憶している。
――プツン。
「ふふふ‥‥いいこと思いついちゃった!」
――プツン。
<終‥‥‥‥‥‥?>