●リプレイ本文
■昼の映像
「やあ、少女。こんにちは」
「こんにちはですヨ」
天野 天魔(
gc4365)、峯月 クロエ(
gc4477)、月読井草(
gc4439)の3人は玄関に出てきた黒宮佐貴子に向けて挨拶をした。
「‥‥こんにちは」
軽く髪を揺らして返事をする佐貴子。
「実はまた話したいことがあるのだが、お邪魔してもいいだろうか?」
天魔が聞くと、佐貴子はすっと玄関の戸を開けた。
「そういえば、あなたはどうして七不思議に興味を持ったの?」
井草がそう聞くと、佐貴子は声のトーンを若干上げて、
「白ちゃん」
と言った。
「白ちゃん、というとそれは白城早季子のことか?」
「そう。白ちゃんは怪奇談や噂話、言い伝えや不思議な話の伝承を研究している人。喋りすぎなときもあるけど、とても愉快な人。その白ちゃんが最近よく話してくれたのが、今回の七不思議」
珍しく怪談話以外に饒舌になる佐貴子。
「‥‥少女。実は伝えなければならないことがある」
天魔は前回の調査で早季子の財布を洞窟で見つけたことを話した。
「これから俺達は白城嬢のマンションで手掛かりを探すつもりなんだが手伝ってくれないかい?部屋の鍵とかを持っていたら助かるのだが」
天魔が続けて聞くと佐貴子は、
「いく。でも鍵はさすがに持っていない」
とはっきり答えた。
「フフフ‥‥クロエさんが開けますヨー!」
白城早季子の家の前で楽しそうに言うクロエ。開錠スキルを思う存分発揮できるチャンスと思っていたようだが、
「まぁ待て。まずは管理人に鍵を借りれないか聞いてみよう」
親族の佐貴子もいることで、管理人はあっさりと扉の鍵を開けてくれた。
先に天魔が警戒しつつ部屋に入る。部屋の状態に驚きつつも、危険が無いことを確認してから3人を部屋の中に呼んだ。
「さて少女。君は白城が持つには不自然・違和感がある物も探してくれ。これは彼女を良く知る君にしか出来ないから、頼んだぞ」
「でもこの中から探すってのはそうとう大変だよね‥‥」
井草がそう呟くのも無理ない。部屋の中には大量の本が雑多に散りばめられており、歩くスペースもほとんど無い状態だ。様々な種類の本が置いてあるが、中でもオカルトや怪奇話、地域伝承の本などが特に多いようである。
「どうだ少女?何か変わったものはあるか?」
「特にない。白ちゃんらしい」
そこら辺に散らかっている本をパラパラとめくりながら佐貴子は返事をした。どうやら特に変わった様子は見られないようだ。
「ふむ‥‥しかし、机の上に廃校近くの地図やら郷土資料やら地元の新聞が固まっているのは気になるな。やはり七不思議のことを調べていたのか」
天魔の言う通り、本の山の一番上には廃校周辺の情報が何かしら記載されている本や雑誌が溜まっていた。
「これ以上はあまり意味が無さそうだ。そろそろ行くとするか。ほら、クロエ。オカルト本ばっかり読んでないでそろそろ行くぞ」
本に噛りついているクロエを何とか引き剥がし、管理人に礼を言ってマンションを去った。
「今日ありがとう、少女。またビデオを撮り終えたら渡しに行こう」
「じゃあクロエさんが家まで送るですヨ」
クロエと一緒に歩き出した佐貴子であったが、ふと立ち止まり、振り返って言った。
「白ちゃんを宜しく」
■洞窟の映像
傭兵たちは今回、二手に分かれて調査を行なうことにしていた。
「白サキコ‥‥何とか見つけて連れて帰りたいよ」
Letia Bar(
ga6313)は身内が行方不明の自分と重ね合わせて不安そうに呟く。
「もし洞窟にいて生きてるんなら、引きずっても連れ戻す。‥‥残されるもんの気持ちを考えたらな」
「命が、かかっていますしね。白城さん‥‥ご無事だといいのですが‥‥」
相賀翡翠(
gb6789)、沢渡深鈴(
gb8044)の2人も早季子の身を案じて裏山を見つめた。
「すまん、遅くなったか」
そこへマンションの捜索を終えた天魔がやってきた。
マンションで見つけたものの報告を行ないつつ、天魔は自分の見つけた洞窟まで3人を案内していった。
「こいつぁ予想以上に広いみてぇだな‥‥足元気ぃつけろよ」
「あ‥‥ありがとうございます」
翡翠はランタンで洞窟内を照らしながら、もう片方の手でヘルメットを被っている深鈴を誘導してあげた。Letiaもその後に続き、天魔は『探査の眼』を使いながら警戒を行う。翡翠は『GooDLuck』を使いつつ、迷わないように曲がり道ではスプレーで印を付けつつ進んでいった。
どれほど進んだだろうか。奥に進んでいくと、明かりが見えてきた。
傭兵たちは警戒しながら明かりの方へと進んでいく。
明かりの先にあったのは、不気味な装置の立ち並ぶ‥‥研究所のような場所であった。大きなガラスの容器には、キメラのような生き物が入っている。
皆は警戒を強めながら研究所の更に奥の方へと踏み入れていく。
「ん?帰ってきたのかな。ねぇねぇ。早く話の続きをしようよ」
するとそこに、無邪気な女性の声が聞こえてきた。
「誰かいるのか?」
声のする方向に行ってみると、そこには檻のようなものがあり、その中に茶髪の女性が入っていた。
「あなたは‥‥もしかして白城早季子?」
天魔は免許証の顔写真を思い出す。写真に写っている彼女と目の前にいる女性は間違いなく同じであった。
「あれ?なんで私の名前知ってるの?ってか誰?人間?」
「詳しい話はあとだ」
次々と質問をしてくる早季子をとりあえず置き、翡翠は檻の破壊を試みる。なんとか檻をこじ開け、早季子の様子を見る傭兵たち。
「怪我は無いみたいですね」
「これを着てね。あったまるよ」
「ほら、これ飲んで落ち着きな」
外傷がないことを確認し、Letiaは防寒シートで早季子を包み、翡翠は自作のスープを水筒から取り出して渡した。
「ありがとう‥‥うわ!美味しい!」
どうやらかなり元気そうである。暑いのにも構わずにスープを勢いで飲み干してしまった。
「ところであんた何してんだ?」
翡翠が同時に質問をすると、早季子は答えた。
「この地域の伝承とか怪奇話の調査のために廃校とか裏山とかを見て回っていたの。その時にこの洞窟を発見して‥‥気付いたらここ。目が覚めたとき、檻の外には1人の少年がいた。でも、それは少年ではなかった。そいつは自分のことを‥‥バクアだと名乗ったわ」
何故か目を輝かせる早季子。
「これが地球への侵略者だと思うと心が躍ったわ。実際、彼もけっこう変わった人でね。それで最近はよく喋っていたんだ」
「バクアと会話‥‥ね。あんたも随分変わった人だ」
運良く、洗脳前だったのだろう。下手をすると、親バグア派と取られない行動に、翡翠は頭を抱えている。
「何もされてないのね。よかった‥‥でももう大丈夫。さぁ、帰ろう?」
Letiaが言うと、早季子はためらうような表情をした。
「でもこんな機会、滅多にないし‥‥」
「黒宮佐貴子も待ってるぞ」
天魔がそう言うと、今度は驚いた表情となる。
「ど、どうして黒ちゃんのことまで知ってるの?」
これまでの事情を話すと、早季子は申し訳無さそうに言った。
「そうかぁ‥‥さすがにそこまで心配かけると帰らないわけには行かないわね。うん、早く帰りましょう」
早季子の意思を確認すると、早季子を保護しながら山を下りていった。
■学校の映像
「にしても、今回はエライ単純な行動に出よったなぁ」
キヨシ(
gb5991)は廃校の前でため息をつく。
「しびれを切らしたのか、それとも他の目的があるのか‥‥」
ヘイル(
gc4085)は腕を組みつつ言う。
「まぁ、まずはキメラを倒さないとな。それでは行こう。火の手があがりましたら、お願いしますね」
万が一のために呼んでおいた消防隊員の人達に声をかけ、キヨシ、井草、クロエと共に廃校の内部へと入っていった。
「先ほど調べたのだが焼却炉があるんだ。一応見ておこう」
ヘイルたちはまず焼却炉へと向かった。
「どうやら昔はこの焼却炉でゴミを処理していたそうだが‥‥結果としてこの焼却炉は使わなくなったそうだ」
ヘイルはもう一度焼却炉を確認するが、どうやら何も無いようだった。調査を終え、廃校の内部に向かおうとすると、
「‥‥出たな」
空中を漂う青い人魂が現れ‥‥突然、炎を吐き出した。
ヘイルが盾で炎を受け、攻撃に転ずる。が、物理攻撃はそれほど大きなダメージを与えることが出来ない。
「ならばこれやな」
キヨシは冷静に武器を『エネルギーガン』に変え、攻撃をしかける。今度はまともにダメージを与えることができた。
井草とクロエも攻撃を与えていくと、人魂はふっと消えるような形で倒れた。
「どうやらあちらさんはやる気のようだ」
見ると、人魂がだんだんと姿を現してきたようで、あちこちに青い炎が見えるようになってきた。やれやれ、とキヨシはため息をつきながら再度覚醒した。
廃校内をくまなく歩き回り、全ての人魂キメラを倒したことを確認した4人は、地獄の本を探しに図書館へとやってきた。
「さてと。まずは試してみたいことがあるんだ」
ヘイルは保健室から持ってきた姿見を図書館の中に置き、鏡を背にして机にこっくりさんの紙を広げた。カメラは鏡が映る様に設置する。
「みんな、鏡は絶対に見ないようにしてくれ。‥‥それでは始めるぞ」
広げた紙に十円玉を置き、そっと指で触れて目を閉じ、ヘイルは頼む。
「夢子さん、もし聞こえていたらYesの位置にお越しください」
しん‥‥と静寂が場を支配する。
だが、少し待っても十円玉に動きは無かった。
「‥‥ふむ。夢子さんはこのような類のものではなかったか。仕方ない。普通に本を探すとするか」
ヘイルは残念そうに紙を片付けた。各自もバラバラになって本棚を探していく。クロエはオカルト関連の本棚に直行し、井草は本棚の中で妙に新しかったり、埃の被っていない本を探す。キヨシはフンフンと歌いながらも、妙な違和感や気配がする場所を探していく。
「‥‥ん?」
ふとキヨシは足を止める。図書館の奥、日の当たらない暗い場所に、真っ黒な本があった。背表紙には何も書いておらず、手にとっても表紙も真っ黒で何も書かれていない。妙なことに、表紙だけでなく、閉じたときに見える外側のページの紙の部分まで黒く塗りつぶされていた。
「怪しいなぁ。もしかしてこれか?おーい、みんなー」
まだ本は開かずに、皆に報せるキヨシ。
「ほ、ほら、キヨシクン。早く開けるですヨ」
クロエは待ちきれない様子だ。ヘイルもカメラを構えながらキヨシに促す。
「それじゃあいくで」
キヨシはごくりと唾を飲んだあと、意を決して本を開けた。
「ぬおっ!これは‥‥」
中には赤い色の文字がびっしりと書かれていた。その内容は、あらゆる不幸な話や残酷な運命を辿った者たちの様子が書かれた、日記のようなものとなっていた。過去の拷問から陰惨な戦争、学校でのいじめの日々までが書かれ、文字通り『地獄』を集めたような話ばかりであった。しかも何故か、ところどころのページの端には血のような跡が見える。
「確かにこれは呪われそうやな‥‥」
キヨシは一通り読んだあと、他の人達にも回した。
「これ、クロエさんのコレクションにしてもいいですカ?」
クロエは嬉々として本を読んだあとそう言ったが、
「いや、念のため止めておいた方がいいだろう。ここで眠っているといい」
ヘイルは本を手に取り、そっと本棚に本を戻した。
■裏山の映像
その後、洞窟班と廃校班は裏山の入り口で合流を果たした。それぞれ報告をし、最後に皆で裏山に向かってキメラの掃討を行なうこととなっていた。
それぞれが裏山の各地に散っていく。皆の予想通り、人魂キメラは裏山のあちこちにも出現していた。それぞれが戦いつつ、キメラの数を確実に減らしていった。そんな中、
「何か有るとしたら、誰かが来るとしたら、ここが一番可能性が高い!」
井草は過去に調査した井戸、地蔵、道場の各地を回り、変化が無いか見て回っていった。すると、竹林の奥で何か人影のようなものが見えた。井草も中に分け入ってみる。
「これで七不思議にも彩りが出たかな。せっかく今回は用意したんだ。ちゃんと語ってくれないと困るよなぁ。この調子で彼らには理解できない『怪談』とやらを増やし続けるのも面白いや。いっそのこと僕が七不思議とやらになってみるか。ふふ‥‥これで退屈せずに済みそうだ」
「だ、だれ?!」
井草が声をかけると、声の主が井草の方を見る気配がした。が、竹林が邪魔で姿までは完全に確認できない。
「おや。能力者の方じゃないか。今回の『話』は楽しんでくれたかな?残念だけど今日はここまで。次の話は僕が用意するから、楽しみにしててね」
と言うと、声の主がどこかに去っていった。井草も慌てて追いかけようとするものの、すでに姿が見えなくなっていた。
井草は裏山から戻ってきた皆に先ほどのことを伝えたが、もう時間も遅くなってしまい、これ以上の探索は危険だということで今日のところは引き上げることとなった。
「あの‥‥」
廃校の正門付近でキヨシがLetiaの肩を叩き、声をかける。Letiaも言いたいことがあったようで、顔赤くし指先を弄びつつ上目でモジモジさせている。
「その‥‥」
「えっと‥‥」
とやりとりしつつ、2人に、
「ゴメン!」
「この間はゴメン!」
と同時に謝った。顔を上げて見合い、2人でクスッと笑いあう。
「仲直り‥‥だねっ」
「そうやな‥‥」
ご機嫌な様子で先に歩いていくLetiaを見つつ、ついキヨシは、
「‥‥カワイイなぁ」
と口走っていた。
□検証者
「ルイカちゃんこの間はゴメンなぁ、お詫びに今度一緒に食事でも‥‥」
「ちょっとキヨシ君!なに手ぇ握ってるのよ!」
ルイカに謝りつつ手を握ったキヨシに、今回も、
「させないっ!この、ロリコ〜ンっ!怪奇・廃校に舞う塩手裏剣!」
「げげっ!」
Letiaの塩が突き刺さるのであった。
「ロリコンって、ルイカちゃんに失礼‥‥でもないか?」
「キヨシ君。何か言った?」
「‥‥いえ‥‥何も」
「地獄の本ね‥‥ちょっと読んでみたかったな〜‥‥とはいえ、もっと得体の知れないもんが現れたみたいだけど」
そのまま検証会が作戦会議になりそうになったとき、ヘイルは画面に近付き声をかける。
「以上で『地獄の本』の調査は完了だ。―――今度は君に逢いに行く。待っていてくれ」
―――ぷつん。
□依頼者
「これが今回のビデオだ。残る不思議は後一つだな、少女。どんな終わりを迎えるにしろ最後までよろしくな、少‥‥いや黒宮佐貴子」
今回の話を収めたビデオを渡す天魔。佐貴子は無言でビデオを受け取る。
それじゃあ、と背を向けて歩き出したところで、
「天野さん」
「ん?」
天魔が振り向くと、
「白ちゃんのこと、ありがとう」
とほんの少し笑顔を見せた佐貴子の顔があった。
<続>