●リプレイ本文
■昼の映像。
「受ける依頼間違えたかなぁ」
キヨシ(
gb5991)は頭を掻きながら呟いた。
「‥‥私しゃホラーは苦手だよ」
大人だから我慢しようと思うもののどうしても体が震えてくる。Letia Bar(
ga6313)は素直な気持ちを自然と口にしてしまっていた。
Letiaの隣では沢渡 深鈴(
gb8044)がペアのペンダントをぎゅっと握り締めながら震えていた。
(幽霊など存在しない。なので今回の噂もフィクションか誰かが噂を隠れ蓑に何かしているに違いない。‥‥だから俺怯えるな!冷静になれ!)
そう自分に言い聞かせているのは天野 天魔(
gc4365)。
「学校の七不思議なんて夏らしくて良いですね。存分に楽しませてもらいましょう」
ニコラス・福山(
gc4423)は怪奇現象や七不思議なんて本当に在るわけないが、もしかしたらと心の中ではワクワクしている。
「死ねば皆仏よ。時期も時期だし、供養してあげないと〜」
月読井草(
gc4439)は最初から幽霊の可能性など考えておらず、亡くなった人がもしいたら供養してあげたいと考えていた。
「さて、夕方まではいろいろと調べてみようか。『君子は快刀乱神を語らず』‥‥思考停止するな、って言うしな‥‥ん?あってるか?」
ヘイル(
gc4085)はビデオカメラを片手に言った。店の近くでは買うことができなかったので、ここに来る前に借りてきたものだ。しかしそれほど良いものではなく、中古の安物である。本当は3台借りたかったのだが、1台しか借りることが出来なかった。仕方ないのでヘイルが主にビデオカメラの担当を務めている。
かくして、それぞれは夕方まで情報収集をすることとなった。
七不思議の舞台、廃校の散策をおこなうのはLetia、深鈴、ヘイルの3人である。
「じゃ、じゃあ、私は体育館で巻尺を探してくるさね」
生ぬるい風が廃校を流れた。
「これが彼女を見た最後の姿だった。なんてな」
「ちょっ!やめてよね!」
言葉とともにビデオをまわすヘイル。そこにはLetiaの怖がる姿がしっかりと記録されていた。
「まったくもう‥‥」
そしてぶつぶつと言いながら体育館へ向かっていった。ヘイルたちも廃校の中へと足を踏み入れていく。
「現時刻は14時32分。撮影者はヘイル。同行者沢渡深鈴。廃校内調査開始」
まずは屋上を目指す。
階段を上る足音が妙に響く。昼間なのにも関わらず薄暗く、空気は淀んでいる。
「ううう〜」
想像していた夜の廃校とは別の気味悪さを感じ、深鈴は体を震わせている。何故こんな依頼を受けてしまったのか‥‥と過去の自分を責めたくなる。
そんな後悔の念に苛まれている深鈴に、ヘイルはセントクロスを取り出し、手渡した。
「持っておけ。単なる気休めかも知れんが効果はあるだろう」
素直に受け取り、ペアペンダントと共に握り締める。少しは落ち着いた‥‥だろうか。
屋上に出る。いつの間にか空はどんよりと曇ってきていた。
ヘイルは屋上から周辺を撮影しつつ覚醒し『GooDLuck』を発動させた。
「この場合、どうなるのが運が良いと言うんだろうな?」
そのまま少し調査をしていたのだが、結局何も起こらなかった。
「さて、次は中の調査をしようか」
「わかり‥‥ました」
ついにきてしまった。廃校の中という状況が深鈴の恐怖を誘う。
屋上から4階、3階‥‥と階段を降りながら各教室・廊下・トイレの順番で撮影を行なっていく。
「わ、私も撮るんですかぁ?」
「そうだ。頼む」
「はい〜」
ヘイルが撮影者を変えながら捜索したいと言うので、深鈴も恐々とビデオカメラを構える。自分が何か変なものを撮ってしまったらと思うと‥‥。
「ん?」
「ひゃあ!なななな、なにかでたんですか?!」
ヘイルがある教室に入ったところで声をあげたので、深鈴は思わずビデオを落としそうになった。
「いや‥‥なんだかこの教室だけは妙に散らかってると思ってな。ここは‥‥家庭科室か」
深鈴も中に入ってビデオカメラを回してみる。その家庭科室だけは物が妙に散乱していた。
「本当ですね‥‥」
「でも何もないみたいだ。先に進もうか」
「はい‥‥」
2人は家庭科室を後にし、廃校の探索を続けていった。
廃校の中ではなく、周辺の聞き込み調査を行なったのはキヨシ、天魔、井草の3人である。
キヨシは廃校の周辺の人たちから怪談や怪奇についての目撃情報を集めていた。どうやら七不思議の話が流行っているのは本当らしく、子供たちの間では知ってる者がたくさんいた。逆に、高校生以上となると知らない者の方が多いようだ。
しかし、子供たちが知っているのも自分達が知っていることと似たようなもののみ。結局思っていたような情報を得ることが出来なかった。
天魔はまず、警察や役所で井戸の怪の調査を行なった。
「七不思議‥‥知りませんねぇ」
警察や役所で尋ねても、知っている者はいないようだった。そこで天魔は、行方不明者と廃校絡みの死者を時期問わず洗い出してみる。
すると、行方不明者が少しだがいることがわかった。廃校絡みの死者‥‥という特定はできないが、少なくとも行方不明者はいるようだ。
「ふむ、わかった。ありがとうございます。‥‥あ、そういえば、こういう人について何か知りませんか?」
と、天魔はルイカから聞いた今回の依頼者の名前を言った。
「いえ、そのような人は知らないですね。特に事件も起こしていない一般の方ならば、我々も調べることはありませんし」
天魔は感謝の言葉を述べ、次に図書館へ向かった。そこで保存してある古新聞や資料から井戸の怪や廃校に関する事件がないかを調べる。
「記録は複数を検証して初めて事実となる。一つなら記録者の主観に過ぎん。幽霊も同じ。観測者の見聞違いさ」
古新聞を調べてみると、やはり行方不明者について書かれている記事はある。共通点は子供達――七不思議の噂を知っている小学生から中学生くらいの子供達の行方不明が多いようだ。
「やはり何かあるのかもしれんが‥‥この行方不明事件が井戸の怪だという証拠はないな。核心を突く記事がない。警察関係者も知らないようだし‥‥うーん」
集合の時間が来るまで七不思議のことを調べることにして、天魔は新しい資料を探しに席を立った。
「おばあちゃん。ちょっと昔の話を聞きたいんだけどいいかなぁ?」
井草は廃校の周辺に住んでいる老人たちに、戦前から現代までの井戸や廃校についての話を聞いていた。
「あの井戸ねぇ。水を汲むのが大変だったわ。休み時間になると当番の人たちが水を汲みにいってねぇ‥‥」
「そういうんじゃなくて、なんか井戸にまつわる怖い話とか不思議な話とか‥‥」
「はいはい。不思議な話ねぇ‥‥。河童が住んでいるってのは聞いたことがあるかねぇ」
「河童?」
「そうそう。井戸と山から流れる川が繋がっていて、その川に住んでいる河童の家があの井戸なんだってねぇ。男の子たちがそう噂しとったよ」
「なるほど‥‥それが今回の話の元になっていそうだな‥‥。ありがとう、おばあさん」
「いえいえ。お気になさらずに」
他の老人からも話を聞いてみると、昔からこの地域には妖怪や不思議な生物の言い伝えのようなものが数多く存在するらしい。その昔話が派生して七不思議になったのだろう。
「そろそろ夕方か‥‥戻らないと」
井草は少しだけ闇が深くなった道を歩き始めた。
「あッー暑い、いつ融けてしまってもオカシクナイよ私は」
ニコラスは皆が周囲を散策している間、ずっと井戸の付近をかなり重点的に調べていた。周辺10m付近を調査し、不自然な痕跡がないか確認していく。
「あ、ドングリめっけ」
しかし、周りにもそれほど不自然なものは見当たらない。続いて井戸の本体を調べていく。内側はあとで全員で調べるので、外側を入念に調べる。人工的な細工がされていないか‥‥。
「うーん。よく見ても、変わったところは見受けられませんね。ごく普通の、古びた井戸のようだ」
レンガを積み上げて作られた井戸は、苔と草が絡まって見事に『古ぼけた井戸』を演出していた。井戸に付けられた木製の屋根と滑車も長年外にさらされたせいで色が変色し、灰色になっている。
「死んだ人間が中から出てきたらシャレになりませんね」
井戸の蓋を眺めながら笑顔で言うニコラス。
「ちょっと〜。そういうのやめようよっ!」
ニコラスが振り向くと、Letiaが半泣きで現れた。手には体育用の巻尺が握られている。どうやら、かなり怖い思いをしながら見つけてきたようだ。
「ごくろうさま。そろそろ時間かな?」
それから続々と調査を終えた人たちが戻ってきた。それぞれが調査の内容を報告し、ついに本命の井戸へと目を向ける。
これからが一不思議の時間。
■夕方の映像。
「‥‥うん、気のせい気のせい」
キヨシのテンションは下がっていた。聞き込みを終えて廃校に戻ってきたとき、なんとなくデジカメで周りを撮影していたのだが、撮影をすると必ず、その写真に光る玉のようなものがたくさん写っている。それは人の魂と称される『オーブ』と呼ばれるものだった。
このままではダメだ。霊に飲み込まれてしまう。そう思った彼はあろうことか急に、
「この依頼が終わったら‥‥Letiaにプロポーズするんや!」
と声に出して叫んでいた。
「いいっ!それ今言っちゃう!?」
それはこの場合、嬉しいとか恥ずかしいとかそういうものは問題ではなく‥‥フラグだ。
「あ、あははは‥‥。つい口に出してもーた。そんな気にせんといてくれ。それに、何かあったら俺が命に替えても守ったるさかい」
「それもまた新しいフラグな気がするんだけど‥‥HaHaHaっ怪談なんて子供騙しDA・YO・NE☆」
まさにフラグ乱立状態である。
「Letia、頼んだぞ」
ヘイルはビデオカメラとライトを手渡す。Letiaはしっかりとビデオカメラを握り締め、井戸の方へと向かった。井戸には仲間たちが用意してくれたロープがかかっている。それに、体育館で自分が苦労して手に入れた巻尺を持ち、井戸の内部へと潜入する。
井戸の内部は冷気に包まれていた。ひんやりとした空気がLetiaの頬を撫でる。
「GhostなんてNothing!GhostなんてFakeさっ♪」
なんとか自分を奮い立たせようと歌いながらロープを降りていく。
「ヌルヌルした何かに掴まれたら嫌だなー」
続いて井草も井戸の中に降りていく。
「うう‥‥い、いってきます〜」
さらに深鈴も井戸の内部へと侵入していった。
「わくわくするね!」
最後にニコラスがロープを降り、4人は姿を消した。
残された四人は井戸の周辺の警戒を行なう。
「幽霊などいないと思うがまぁ、一応警戒しておくか」
「物音!?‥‥って何だ猫か」
「気配!?‥‥って虫か」
「ちょっと落ち着け」
天魔の落ち着きのなさに、ヘイルが思わずツッコミを入れる。
「‥‥早く終わらんかな」
天魔はしれっとそんなことを言う。そのとき、
『なんか怪しげな横穴を見つけたよ。これ、入れるのかな‥‥ん?変な音がする‥‥それに生臭‥‥うわぁぁ!なんか出たぁぁっ!!あげてあげてぇぇえっ』
Letiaの叫び声が通信機に響き渡り、さらに少し遅れて井戸の中から叫び声が木霊してきた。
「のわ!ほんまか!ぬおぉぉぉ!!」
命綱担当のキヨシは全力でロープを引き上げる。ヘイルと天魔も手伝い、ロープを引き上げると、這い出るようにして4人が出てくると同時に、奇妙な生物が同じように井戸から現れた。
その姿はまるで河童のようなのだが、頭の皿から黒く長い髪を垂らしている。全身は緑というよりもヘドロのような色。大きな手は水かきになっており、テラテラと光っている。
「どわ〜!出た出た出た!」
キヨシは引き上げた4人をなんとか抱えながら井戸から距離を取りつつも叫び声をあげた。
「結局貴様らか。下らん」
ヘイルは武器を構える。
「これはキメラだ!キメラに決まっている!そうだよな?!」
予想以上に動揺しているのはやはり天魔である。
「ミイラ取りがミイラになっちゃ洒落にならないっしょ」
引っ張り出された井草はすぐ武器を構え、皆の援護体勢を整える。
「死のワルツを踊るがいい」
ニコラスの超機械が攻撃をしたところで、河童キメラも口から水鉄砲を吐いて攻撃してくる。
傭兵たちは一気に攻撃を加えていく。全員の総攻撃に長く耐えられるはずもなく、河童キメラはすぐに生命を失った。
どうやらこの井戸はキメラの巣になっていたようだ。行方不明の事件も、この井戸を調べた一般人がこのキメラに襲われて、そのまま行方不明扱いとされてしまった者もいるようだ。井戸の底からは数体の人間の死体が発見されてしまった。
「般若波羅密多〜」
井草は数珠と線香で死人の供養をしてあげていた。
「‥‥どんな人だったんだろうねぇ」
キメラの犠牲になった人たちを思い、そっと祈りを捧げた。
□鑑賞者
これはおそらく、先ほどの依頼で撮ったビデオの鑑賞会なのだろう。
「今回の犯人はキメラだったみたいだね〜。なるほどなるほど〜」
主にヘイルと深鈴、Letiaが撮った映像を見て、ルイカは満足そうにうんうんと唸っている様子が撮影されている。
「ところで、さっき井戸の底に見えたのはなんだったのかな?」
「えっ!だからそれはキメラ‥‥」
「違うよLetiaちゃん!アレは明らかに人の顔‥‥」
「ふぇぇ!やっぱりムリさねぇぇっ!」
我慢できずに井草に抱きつくLetia。その横では覚醒状態で感情を消している深鈴がいた。その目には何も映っていないように無表情だ。‥‥それほど怖かったのだろうか。
「それに宮原、これを見てくれ。これはキメラを倒したあとに井戸の前で写真を撮ったんだが‥‥」
ヘイルが何枚かの写真を見せると、ルイカは嬉しそうな声をあげた。
「むむっ!井戸の中から手みたいなものが出てるわね!」
写真をじっと見つめるルイカに対し、天魔が声を荒げる。
「ト、トリックだ!もしくはバクアの仕業だ!!ゆ、幽霊な筈がない!」
「そうそう。幽霊なんてそんなものいません。これは科学的に考えると‥‥」
とニコラスが近寄り、写真の解説を始めた。皆が近寄って写真の検証をしていると急に、
「ひゃわぁぁっ!」
とLetiaが妙な叫び声をあげた。さすがに全員がびくりとする。
が、犯人はLetiaの後ろにいたキヨシであった。Letiaの背中に氷を入れたのである。
「あっはは、可愛らしい反応‥‥ゲッ!!!」
Letiaは引きつった笑顔を浮かべながら大量の塩をキヨシにぶちまけた。
「‥‥怪奇・呻く塩人間!」
などと最後はわいわいとなってしまっていた。
「次の不思議にれっつごー!!」
などと井草は騒いでおり、楽しそうな雰囲気の映像が記録されていた。
すると突然、ヘイルがこちらに近付いてきた。
「以上が井戸の怪についての調査記録になる。
‥‥ちなみに、このビデオの映像は廃棄予定だ。
さて、『これを見ている貴様は何だ?』」
ぷつん。
<続>