●リプレイ本文
●カンパネラ幼稚園
「みんな!おはようございます!」
「おはよ〜ございます!」
早朝。子供たちの元気な声が園内に木霊する。
「今日もみんな元気そうね。うんうん」
百地・悠季(
ga8270)先生は園児たちの様子を見て嬉しそうに頷いた。今日も今日とてやんちゃな子供たちの面倒を見ていくのだが、好きだから問題ない。
「‥‥まぁ、微妙にひねた子は‥‥ねぇ」
視線の先には、幼稚園生らしくない格好をした幼児が厚い本を小脇に抱えていた。UNKNOWN(
ga4276)である。ロイヤルブラックのウェストコートにハーフパンツ。パールホワイトの立て襟カフスシャツ。赤い蝶ネクタイに黒のボルサリーノ。ハーフパンツはベルトでなく吊しており、白のタイツが気品さをかもしだしている。さらに口元にはシガーチョコレートを携え、子供なのにダンディズムさを感じてしまうようないでたちである。
「ま、いいわ。それじゃああたしは昼ご飯の支度をしないとね」
そう言うと、悠季先生はぱたぱたと食堂の方へと走っていった。
「きょうもいっぱい、みんなとあそべるといいな。ね、あおねこしゃん」
舌足らずな口調で蒼い猫のぬいぐるみをぎゅっと抱くのはリゼット・ランドルフ(
ga5171)。パパとママは仕事で忙しいけど、幼稚園は楽しいから寂しくない。今日もみんなと元気に遊ぶつもりだ。
「‥‥‥」
朝の挨拶のときからジュリア先生の隣にちょこんと座って、そっとスカートの端をつまんでいるのはソウマ(
gc0505)だ。人見知りで甘えん坊の彼は、まだ幼稚園に慣れていない様子。
「今日も戦いや!失敗は許されへんで!」
元気よく叫んでいるのは蚕(
gc4459)である。彼にとっては遊ぶことすなわち、戦いなのである。
朝の挨拶も終わり、これからは各自とにかく、元気に遊んでいくだけである。
「さあ!行くで〜!」
蚕と数人の子供たちは勢いに任せて外へと飛び出していった。
「やれやれ‥‥」
その姿を確認し、ガイツ先生は子供たち追いかけて外へと出て行った。ガイツが追いかけてくることも子供たちはわかっているようで、「ガイツ!はよこんかい!」などと促す声が外から聞こえてきていた。
「さぁ、リゼット!なにして遊ぶ?」
ルイカ先生が元気よく聞くと、リゼットは少し恥ずかしそうに答える。
「りぜねー、ごほんよむのすきだよー」
「ごほんか!えらいねー、リゼットは!‥‥っと、UNKNOWNくん。それ、本だよね?なに読んでるのかな?」
UNKNOWNが持っている本に気付き、横からこっそりと覗きみると‥‥その内容はおおよそ幼稚園児には似つかわしくない、難しい学術書であった。
「うお!なーんか難しい本読んでるね!すごいなぁ」
「ルイカも興味があるのか?」
「うーん、あたしにはちょっち難しいかな〜」
ルイカがぽりぽりと頬をかくと、リゼットは少し不安そうな顔をした。
「りぜ、むずかしいおはなしは、よくわかんない‥‥」
「そうね〜。それじゃ、こっちはもうちょっちわかりやすいお話でも読んであげよう!」
「うん!りぜ、おはなししてもらうのも、だいすき」
「よしよし!任せとけ!」
ルイカが昔話を読み始めたとき、ソウマはジュリア先生の姿を追ってぱたぱたと走っていた。
「ジュリア先生〜、まって〜」
スカートの裾を握り、上目遣いをする。その姿が妙に愛らしい。
「なぁに、ソウマくん?」
「えっとね、あのね、今日もお歌を一緒に歌って欲しいの」
「ええ。いいわよ。それじゃあちょっと待っててね」
ジュリア先生はピアノの前に行き、すぐに美しい音色を奏ではじめる。ジュリアが自然と歌い出すと、ソウマも一緒に歌い始めた。さっきからのオドオドとした表情から一転し、天使のような微笑で楽しく歌っている。
すぐに他の園児たちも集まってきて、大合唱となった。
「ガイツ!今日はどこ行くんや?」
蚕と共に外に出たガイツ先生は辺りをきょろきょろと見回し、手ごろな場所を発見する。
「そうだな‥‥あそこなんか、いいんじゃないか?」
ガイツ先生が指差した先には小さな山があった。園内にある小さな山を突き抜けるようにしてトンネルがあり、山の向こう側に行けるようになっているようである。
「あそこか。なかなか難しいとこ選びよるな。あそこはまだ攻略しとらへんのや」
「なるほど」
「で、作戦はどうするんや?」
「え?作戦?」
「そうや。きちんとした作戦を練らへんとやられるで。ま、蚕は援護射撃をしようとは思うてるが‥‥」
などといろいろ作戦を立てている。まぁ今回はあくまで傭兵ごっこなのだが‥‥。
そんな風に外で遊んでいると、リゼットやソウマ、UNKNOWNも外に出てきた。
「どうぶつしゃん」
リゼットは幼稚園の隅にある動物小屋までちょこちょことやってきた。そこではシビリウス先生が動物小屋の掃除をしていた。柵越しにじーっとうさぎを見つめるリゼット。
「君は動物が好きなのかな?」
シビリウスが声をかけると、リゼットはにっこりと笑う。
「うん!かぁいいよね、うしゃぎしゃん、ふっかふかなの」
「そうか」
リゼットの答えに、表情は変えないまでも嬉しそうなシビリウスは、1匹のうさぎを捕まえてリゼットに手渡した。リゼットは壊れやすいものを扱うようにそっと、ぎゅっとうさぎを抱き締める。
「わぁ〜。ふっかふか〜」
嬉しそうにうさぎを抱くリゼットの頭を少し撫で、シビリウス先生は掃除を再開した。
「おーい。ソウマとUNKNOWNも一緒にサッカーしないか?」
外で元気にサッカーをする園児たちに誘われた2人。UNKNOWNは本を置いて輪に加わるものの、ソウマは不安そうにジュリア先生に上目遣いをする。
「いってらっしゃい」
ジュリア先生が優しく微笑みながら言うと、ソウマにも笑顔が移り、元気よくサッカーの輪に加わる。
ところが‥‥
「ジュリア先生〜、痛いよ〜」
ソウマはサッカーをし始めてすぐに転んでしまい、ジュリア先生に泣きついていた。
「あらあら。大丈夫?」
駆けつけたジュリアに擦りむいた膝を見てもらう。その間、UNKNOWNはボールと悪戦苦闘していた。
「むぅ‥‥球技は苦手なんだ‥‥」
ひとしきり遊んだところで、悠季先生が大きな声を張り上げる。
「みんな〜。お昼ごはんできたわよ〜」
園児たちはお昼ごはんと聞き、教室に殺到する。
悠季先生の作ったメニューは、牛乳とバナナ。それと野菜のスープカレーだった。暑い夏なら定番のメニューである。
野菜が苦手な子のため、ピーマンなどの苦い野菜は省き、しっかりカレーと混ぜて野菜を煮込んである。野菜全般が苦手な子も、大好きなカレーと一緒だといけるようだ。
「シェフを呼びたまえ」
難しそうな顔をしながらカレーを食べていたUNKNOWNは突然、悠季先生を呼び出した。
「はいはい。UNKNOWNくん、どうしたの?」
「これは悠季が作ったのかね?」
「そうだよ」
「このカレーは‥‥非常に美味だ。絶妙な辛さに、野菜がとろけて混じっていて‥‥」
と、またまた幼稚園児らしからぬ舌の肥えたUNKNOWNの講釈を聞く悠季。
「‥‥というわけで、おかわりだ」
とUNKNOWNが言ったのに続き、他の園児たちも続いておかわりの合唱を唱えた。
「はいはい、皆どんどん食べてねー」
嬉しそうに器によそっていく悠季先生。あっという間にカレーを入れた鍋は空になってしまった。
食後の休憩を少し挟み、その後悠季先生の提案で水遊びをさせることになった。プールの準備をし、園児たちに涼を楽しんでもらう。
蚕は思い切ってプールに飛び込み叱られたりしていた。ソウマは恐々と水に入り、ジュリア先生と遊んでいる。UNKNOWNは、これまた幼稚園児離れした身体能力でクロールや平泳ぎ、バタフライまで決めていた。そんな中、
「ぷーる‥‥あんまり、すき、じゃない‥‥」
リゼットはプールに近付かず、大量の水を見て怖がっていた。
「あら。リゼットちゃん、プールは苦手なの?」
「うん‥‥まえにね、おぼれたことあるの、ふかいぷーる、いや‥‥」
ふるふると体を震わせ、目には涙を浮かべている。
「大丈夫よ〜。プールも深くないし。ほらほら、こうやって入ってみなって」
悠季がズボンをまくって水に入り、誘導しようとするも、ついに‥‥
「ふえぇ、おみず、いや〜〜!」
と泣き出してしまった。
「ああ〜!ごめんごめん!怖かったね!いいよいいよ、入らなくても」
悠季はこれ以上無理強いはせず、よしよしとリゼットをなだめながらプールサイドに座らせて見学をさせた。
そのあとは、園児にびしょぬれにされながらも気にせず一緒に遊び、楽しんだ。
十分遊んだところで子供たちにシャワーを浴びさせて、教室に戻ってきた。教室には、他の先生が用意した布団が広がっている。そう、このまま昼寝の時間である。
すでに園児の中には眠い目をこすっている者もいる。やはり、思いっきり遊べば眠くなるというもの。UNKNOWNもさすがに眠くなったようだ。悠季先生は子供たちにタオルケットをかけてあげながら眠りにつかせていく。
子供たちが全員眠りにつくと、喧騒に満ちたこの幼稚園にも少しだけ静寂が訪れる。
純粋無垢な寝顔を見ていると、だんだんと‥‥。
「あら。豪人先生。ちょっと見てください」
子供たちが寝ている教室をたまたま通りかかったジュリア先生と豪人先生は、教室の様子を見てクスクスと笑った。
悠季先生も子供たちにつられて、一緒に寝てしまっている。
「いつも頑張っているから、今日くらいは許してあげようか」
「ええ。そうですね」
むにゃむにゃと寝言を言う悠季先生を置き、2人は教室を去っていった。
昼寝が終わるともう夕方。そろそろ子供たちは家に帰ることである。
子供たちの親が次々と訪れて、子供の手を引いて帰っていく。
「ジュリア先生あのね。僕ね、夢を見たの。宇宙人が地球に攻めてくる夢!僕はね、ちょうのうりょくで宇宙人と戦うの!それでね、僕がジュリア先生を守ってあげるの!」
ソウマは先ほどの昼寝で見た夢を熱心に語っていた。
「あら。それは頼もしいわね。それじゃあ、明日から私を守ってね」
「うん!」
「あ、ほら。お母さんが向かえにきたわよ」
「ほんとだ〜。ジュリア先生、さようなら!また明日ね!」
「はい。さようなら」
ソウマが母親に手を引かれて帰っていく。リゼット、蚕の親も幼稚園にやってきて、子供たちの手を取りながら帰っていった。UNKNOWNは幼稚園の前に止まった黒塗りの高級車に乗り、どこまでも優雅に去っていった。
「悠季先生!また明日!」
「うん。また明日ね」
最後の園児を帰し、ふぅと一息つく悠季先生。
「どうしたの?ため息なんかついちゃって」
ルイカ先生が聞くと、悠季先生は少し寂しそうに言った。
「いや、ちょっと名残惜しいかなって。あんなに騒がしかったのに、こんなに静かになっちゃったしね」
「何言ってるの!また明日会えるじゃない!」
「そう‥‥ね。明日もまた子供たちに楽しんでもらわないと」
「ほら!そうと決まったら片付けと明日の準備しないと!」
「‥‥了解」
明日もまた子供たちと楽しく過ごせることを信じて、悠季先生は夏の夕焼けに微笑を向けた。
<了>