タイトル:沖縄の小さな祭マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/14 09:15

●オープニング本文


 かつてはリゾート地とされていた日本の沖縄は、現在ではそのリゾート地としての面影はほとんどないと言っていいかもしれない。
バクア占領下のこの場所で大々的に商売を行なうことはかなり難しい状態であるのだが、それでも生きてくためにはなんとかやっていかなくてはならない。それに、これからの季節の沖縄は魅力的だ。その魅力が、誰にも知らされずに季節とともに流されていってしまうのは非常にもったいない‥‥。
 沖縄は今、梅雨も明けて毎日のように眼の覚めるような青空が展開している。
 まだ台風の季節も訪れていないので、実は一年のうちでこの時期が一番沖縄を満喫できるのである。

「どうしたんだ?」
「あ、ガイツさん。おはようございます」
 沖縄のとあるホテルのオーナーがロビーで首を捻っていると、このホテルに宿泊していたガイツ・ランブルスタインが声をかけてきた。その格好を見ると、どうやらこれから外へ出るようだ。
「どこへお出かけになるのですか?」
「今日は海の方でも見て回ろうかと思っているところだ。この場所はサンゴ礁がとても綺麗だと聞いたのでね」
 海という言葉を聞くと同時に、オーナーは慌て始めた。
「海の方へは近付いてはなりません!‥‥あ、すみません。実は今、海岸にキメラが発生していまして、海岸には一切立ち入り禁止となっております」
 キメラ、という言葉を聞いたガイツは不機嫌そうに顔をしかめる。また、キメラか。世界中を旅している自称冒険者のガイツにとって、旅の邪魔になるキメラは一番腹が立つものであった。
「それでさっきは首を捻っていたのか」
「‥‥はい。いつも傭兵さんに依頼して退治してもらうのですが、この時期に出たことはないのでまだ依頼をしていないんですよ。しかも、よりにもよってこんな日に‥‥」
「ん?何かあるのか?」
「はい。いつもこの時期に、浜辺で小さな祭りを行ないます。地元の方々と共同で、私どもも料理などを用意して祭りに参加をするのですが、その祭りを明日行なう予定だったのですが‥‥これでは祭りの準備もままなりません」
 がっくりと肩を落とすオーナー。
「ほんの小さな祭りですが、この場所で生きている私どもにとってはこの環境を生き抜くためのささやかな楽しみなのです。それが今回、このような形になってしまうとは‥‥」
 オーナーの悲しそうな顔を見て、ガイツは厳しそうな顔をする。そして、おもむろにこう言い出した。
「まだ諦めてはダメだ」
「え‥‥?」
「祭りは明日なのだろう?それなら今すぐにUPCに依頼して、傭兵を派遣してもらい、そのあとすぐに祭りの準備をしようじゃないか。なに、傭兵たちなら夕方にはこっちに来てくれるはずさ。それで、すぐにキメラを倒してくれる。なんとか皆で準備をすれば大丈夫だろうって」
「でも‥‥」
「オーナー。キメラが現れたからといって諦めては駄目なんだ。そこで諦めてはバクアとかいうわけのわからんやつらの思惑通りだ。こういうときこそ、あいつらに負けないように踏ん張らなきゃな」
 ガイツは先ほどと変わり、力強い笑顔を見せた。
「‥‥そうですね。すぐにUPCに連絡をします!」
 オーナーの瞳に宿った力を見て、ガイツも自分に何か出来ることはないかと考え始めた。

●参加者一覧

風閂(ga8357
30歳・♂・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
亜(gb7701
12歳・♀・ER
レイド・ベルキャット(gb7773
24歳・♂・EP
有村隼人(gc1736
18歳・♂・DF
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
如月 葵(gc3745
16歳・♀・DF
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
海原環(gc3865
25歳・♀・JG

●リプレイ本文

●第一部 海岸戦
 ホテルで依頼人のオーナーと簡単な挨拶を交わし、傭兵たちは早速キメラがいるという海岸に向かった。
「人前で肌を見せるのは、恥ずかしいですね‥‥」
 砂浜に来た傭兵たちの中で、如月 葵(gc3745)だけが水着姿でいた。キメラとの戦闘で海に引きづり込まれた時のことを考慮しての姿だ。
 事前に用意した作戦をもとに、傭兵たちは布陣を組む。砂浜で闊歩しているキメラたちに対し、海と平行するように展開。海洋生物の姿をしたキメラを、海に逃がさないようにする作戦だ。
「よし‥‥行きましょうか」
 レイド・ベルキャット(gb7773)はそう言うと『閃光手榴弾』を取り出し、あらかじめピンを抜く。炸裂までの時間を時計でしっかりと確認し‥‥
「皆さん!目と耳を!」
 キメラが集まっているところへと思いっきり投げた。傭兵たちは合図を受け、衝撃に備える。
『閃光手榴弾』がキメラたちの目の前に転がった瞬間、強烈な光と音が周囲に響いた。夕方の海が一瞬だけ、昼間の明かりを取り戻す。
 轟音と閃光のあとには、突然の攻撃に混乱するキメラたちの姿があった。
「続けていきますよ」
 海原環(gc3865)は混乱したキメラたちに対し、まず海に近い位置にいるキメラの一団に対して『制圧射撃』で牽制を行なう。混乱しているキメラたちは、避ける術もなく攻撃を受ける。射撃が終わった瞬間を見計らい、他の傭兵はキメラと海の間に割って入る。これで、キメラたちの得意フィールドへの逃げ道を塞いだ。
 仲間たちが作戦通り動いたのを確認し、今度は海から遠い陸側のキメラの一団に『制圧射撃』を加える。間違って陸側に逃げ、被害が拡大しないようにキメラを留める。
 砂浜にキメラたちを包囲し、キメラへの直接戦闘へと移る。

「のろまな亀さん、こちらですよ」
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)は亀キメラを挑発しながら、一対一で立ち回れるように注意して動きながら攻撃をしかける。
 祭の準備に影響がないように、一気に倒そうと惜しみない攻撃を加えていく。
『急所突き』で甲羅以外の柔らかそうな部位に向けて攻撃。傷を受け、亀キメラが暴れて攻撃をしかけようとしたところで、カウンターで『流し斬り』をする。カウンターを受けて大きな隙が出来たところで、すかさず『二段撃』で斬りつけていく。

 同じく亀キメラを倒そうとするのは亜(gb7701)とオルカ・スパイホップ(gc1882)だ。2人ペアでキメラ撃退に挑む。
「俺は武闘派じゃないんだよねぇ。オルカ、お願いしますよっと」
「おっけ〜♪」
 亜は『練成強化』をオルカにかけて援護し、オルカは弓を放ちながら牽制。距離を詰めたところで、オルカは二刀流に武器を持ち替えて近接攻撃をしていく。
「いっくよ〜!乱心乱舞〜!」
 オルカは頭に機械剣βを真っ直ぐ突き刺して剣首に忍刀を更に突き刺すように、斬る。更に、そのまま刺したまま亀の周りをぐるっと一周。
「いっちょあがり〜♪」
 見事亀キメラは捌かれてしまった。そのまま珍味になりそうな出で立ちである。
「ナイスだねオルカ!それじゃあ、他の人たちの援護に行きましょうか」
「おっけ〜!」
 2人で早々にキメラを撃退したオルカと亜は、まだ戦いを行なっている仲間の下へと走っていった。

 最後の1体の亀キメラの撃退をするのはレイドだ。環の制圧射撃後、スキル『自身障壁』とソードブレイカーで防御を固めつつ亀キメラの至近距離まで詰めていく。キメラの攻撃に耐え、『強弾撃』を使用しながらキメラに狙いを定める。狙うは甲羅ではなく、甲羅の隙間。
 銃弾を撃つ。しかし、すぐには倒れない。
 次なる攻撃を放とうとしたところに、先にキメラを撃退したオルカと亜だった。
「大丈夫ですか?」
 亜は早速『練成強化』を放って援護する。
「僕に任せとけ〜!」
 オルカが勢いよくキメラに向かう姿を見て、レイドは安堵と共に自身も攻撃を放っていった。

 風閂(ga8357)は亀キメラではなく、もう一つの脅威である魚人キメラに向かっていった。
「美ら海を汚すことになるのは気が重が‥‥なんくるないさ」
 スキル『両断剣』で攻撃力を上げ、二刀流で近くの魚人キメラへ攻撃をする。
「沖縄に仇なすキメラ共、貴様らを海の藻屑にはさせん。砂浜で朽ち果てるが良い!」

「速やかに‥‥ですね」
 有村隼人(gc1736)は制圧射撃が放たれたことを確認すると、速やかに覚醒し魚人キメラへと向かう。小銃で牽制しつつ接近。
(全力でいきます‥‥)
『両断剣』と『流し斬り』を併用し、武器に力を込めて敵の側面に一瞬で回り、斬る。一撃でとはいかないものの、大きなダメージを相手に与える。
 無言のまま、隼人はさらに続けて攻撃を放っていった。
「魚なら魚らしく、ビチビチと跳ねてな!」
 悠夜(gc2930)も覚醒し、七色に輝く瞳と妹の魂を背負って、魚人キメラにブラッディローズで弾丸を浴びせかけていく。
 その近くでは、葵が水着姿で戦う姿が見えていた。戦闘前の恥じらいはなく、魚人キメラとの戦いに集中している。
 魚人の攻撃を左手の剣で受け流そうとするも、銛の攻撃が予想以上に速く、なかなか捌ききれない。しかし、葵の方も右手の武器で着実に攻撃を与えていく。
 何回かの接触の後、少し距離を取って正面から対峙する。魚人が銛を突いてきたところでフェイントに『流し斬り』を使って横に回り込み、『両断剣』を放つ。
「断罪します!」
 その攻撃が決め手となり、魚人キメラは倒れた。ふぅ、と一息ついたところで、
「ブブブブブブブブブォー」
 という強烈な音が鳴った。びくりと体を震わせて音の鳴った方を見てみると、犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)がブブゼラを吹いていた。犬彦は、先に魚人キメラを倒した仲間に手伝ってもらって敵を倒し、そのあとにブブゼラを鳴らした、というわけだ。
 その音が、戦闘の終了の合図となったようだ。魚人キメラも全て倒れ、レイドとエイミーも仲間の援護で亀キメラを倒していた。
 脅威は去った。だが、これからもやることがまだまだ残されている。だが‥‥
「砂浜の清掃をしておかないと‥‥俺が好きな海を汚さぬためにもな」
 風閂は戦闘の跡を見ながら、そう呟いた。

●第二部 祭の準備
 キメラを倒してくれた傭兵に感謝をしつつ、オーナーと住民は早速、祭の準備を始めた。キメラを倒し終わったのは、すっかり日が暮れた頃。しかし、時間としては予定通りくらいの時間であった。
 傭兵たちも、祭を盛り上げるため行動を開始した。
「こういった事の方が性に合ってるんですよ。全力でお手伝いしますね」
 レイドは嬉しそうに腕をまくり、準備を進めている住人たちに加わった。
「俺はチャンプルーでも作るか」
 風閂はホテルの調理場を借り、祭で出すチャンプルーを作り始めた。琉球の血が騒ぐらしく、妙にそわそわとしているが、何とか冷静を装っているようだ。
 エイミーは祭の準備を手伝いながら地元の女性に聞いていた。
「琉装に興味があるのだが‥‥貸してもらえないだろうか?」
「えぇ、構いませんよ。どのような色にします?」
「そうだな‥‥青系の紅型のものがあれば、お願いしたいのだが」
「わかりました。用意しておきますよ」
「俺も着たいなぁ」
 同じく準備を手伝っていた亜が少し羨ましそうに言う。
「いいですよ。二着用意しておきます」
「本当ですか?ありがとう」
 亜はにこりと笑う。
「私は普通の浴衣を貸して頂きたいです‥‥大丈夫ですか?」
 葵も少し控えめにお願いする。
「わかりました。用意しておきますよ」
 女性の答えを聞いて、葵は丁寧に礼を言った。
 少し離れたところで、隼人は初老の男性に声をかけていた。
「未熟ではありますが、琉球舞踊をさせて欲しいのですが‥‥」
「ほう!感心なことだ!祭までちと時間が少ないが、みっちり稽古をつけてやろう」
「ありがとうございます。あと、そのために衣装と舞台をお願いしてよろしいでしょうか?」
「衣装も貸してやるし、舞台も作ってやるよ。よし、早速稽古開始だ」
 そう言うと、男性は隼人を連れて行った。
 犬彦も忙しそうに走り回っている。どこで手に入れたのか、背中に大きく『海人』と書かれたTシャツを着て、自分で出すかき氷屋の準備のため、村から機材と資材を借りて設置していた。そのときふと何かを思いつき、近くにいた地元の人に声をかける。
「なぁなぁおっちゃん」
「なんだい?」
「ごにょごにょ‥‥」
「‥‥!なるほど、確かにそれは祭に欠かせない!すぐに準備しようじゃないか」
「せやろー!うちも手伝うわ!」
 なにやらこそこそと会場から抜け出していった。
 もう、祭はすぐそこだ。

●第三部 沖縄の小さな祭
「なんとか終わったなぁ」
 ガイツは感慨深く祭の会場を眺める。昨日の夜まで何も無かったはずの砂浜が、すっかり祭の雰囲気となっている。装飾や出店の数は多いとは言えないが、それでもしっかりとした賑わいを見せていた。
「‥‥綺麗な模様だ‥‥嬉しくなるな」
「ふぅむ、普通の浴衣とはまた違うんですねぇ」
 そこへ、琉装を着たエイミーと亜が現れた。エイミーは海のように青い生地、亜は逆に夕焼けのような深い赤だ。
「お祭りって初めてですけど‥‥なんだが楽しいですね」
 葵は南国風のハイビスカス柄の浴衣を着て来た。
 3人のお陰で会場がぐっと華やかになった。
「おお〜いいね〜!かわいいかわいい!」
 オルカは3人の姿を見て純粋な感想を漏らす。
「ありがとう。なぁスパイホップ。一緒に回りません?」
 亜のお誘いにオルカはいいよ〜、と答えた。他の参加者もそれぞれ祭を楽しむ様子だ。
「ヤスイヨー、ウマイヨー、モリモリタベテネー」
 犬彦はカキ氷屋でがしがし氷を削って売りまくっている。夏の定番ともあり、大盛況のようだ。
「当たっただけじゃダメよ〜落ちないとね〜」
少し離れた射的屋では、環の元気な声が聞こえてくる。
「姉ちゃん、これインチキじゃねーの?」
なかなか落ちない景品に郷を煮やし、少しガラの悪そうな男が突っかかってきた。
「失礼なアタシはこれでも真っ当な商売で名が通っているんですよ!」
 と胸を張って一蹴する。
「それでもおかしいだろぉ〜!あんなに当てても落ちないなんてよぉ」
 なおも引き下がらない男に対し、悠夜がずいと前に出て、
「お客さん〜困りますね〜。ウチの商売はマトモなんだぜ。それに対してイチャモンつけるちゅーのは、いったいどいう用件なんだ?アァン!」
 煙草を咥え、不良特有の睨みと口調で男に凄みを効かせる。すっかりビビッてしまった男は、そそくさと逃げてしまった。
「ったく‥‥お!オルカ、オルカー!一丁、俺等の射的屋で遊ばないか?サービスしとくぜ♪」
 先ほどとは全く違う明るいトーンで、カキ氷を食べていた友人のオルカに声をかける。もちろん、亜も一緒にカキ氷を食べている。
「マジで〜?やるやる〜♪」
 悠夜から銃を手渡され、弾を詰める。
「落としたら景品もらえるんだっけ?んじゃぁ‥‥」
 と言うと、
「ぎゃっ!」
 弾は見事悠夜の眉間に当たり、彼はバランスを崩してこけてしまう。
「よっし!悠夜さんゲットだぜぇ〜♪」
「オルカ‥‥てめぇ〜!」
「あはは〜!逃げろ〜!」
 オルカは亜と一緒に走って逃げてしまった。
「ちくしょ〜‥‥」
 悠夜が額をさすっていると、
「へい姉ちゃん、射的やらせてもらおうか」
 ブブゼラを鳴らしながら、犬彦が射的屋にやってきた。
「あ、犬彦ちゃん。どうぞどうぞ」
 環が銃を渡すと、犬彦はブブゼラを片手に覚醒状態になり、
「スーパースペシャルデラックス犬彦ショォッット!」
 と叫んでもの凄い勢いで景品を落としていく。
「あ!ちょちょっと犬彦ちゃん!覚醒して射撃したら落ちちゃうじゃないの!」
 環が慌てて叫んでしまう‥‥自分の店のインチキを。
「うちはさすらいのガンマンでさぁ、この程度は朝飯前よ」
 ブブゼラを鳴らしつつその場を立ち去る犬彦。残されたのは大きな音と、客の冷ややかな目線だった。
「あ〜あ」
 悠夜は頭を抱える。隣の環は冷や汗が止まらない。数秒後、環は覚悟を決めて、
「ええい!今日は大盤振る舞いです!タダでいいですよ!皆さん楽しんでいってください!」
 住民はタダと聞くと冷ややかな目線を暖かくし、射的屋に殺到した。
「ありゃりゃ‥‥これじゃ儲け分の差額があんまりネェーかも。まぁいいや、今回ばかりは楽しさ優先ということで」
 環の後ろで煙草を吸いながら微笑する悠夜。環も忙しそうにしながらも楽しそうだ。
 そこへ、拡声器から大きな声が聞こえてくる。
『えぇー、今から傭兵さんたちによる催しが始まりますー。皆さん中央のステージにご注目くださいー』
 ステージを見ると、男性用の琉装に身を包んだ隼人と三線を持った風閂と葵がいた。
(みんなが活気付くように‥‥)
 隼人が心を込めると、それに気付いたように風閂と葵の三線の音色が始まった。それに合わせて、隼人がゆっくりと、そしてだんだんと荒々しく琉球舞踊を踊り始める。
 この祭で、この踊りで、この村がより一層繁栄するように願う、創作の舞踊。
 2人の三線に合わせたその舞踊は、エネルギーが溢れていた。
 隼人の踊りに乗せられるように、そこに居た人たちは自然と、自由に踊り始めていた。エイミーも楽しそうに音楽に合わせて手拍子をする。
 舞踊が終わり、隼人は一礼をした。
(喜んで‥‥もらえたでしょうか?)
 隼人のその思いは、人々の表情を見れば一目でわかった。
 舞踊が終わり、エイミーは拍手をしながら隼人に激励をした。
「お疲れ様。すごく格好よかったぞ」
「ありがとうございます」
 隼人はにっこりと笑った。
「そうだ。犬彦嬢のカキ氷でもご馳走しよう‥‥?犬彦嬢は?」
 犬彦がやっていた屋台を見たが、そこには誰もいない。キョロキョロと周りを見回していると。

 どーん。

 星空に花火が上がった。人々の歓声が上がる。
「たーまやー」
 犬彦は打ち上げ場所の下で大きく叫んだ。準備のときに住人とこっそり用意した花火が今、夜空に大きく広がっている。
「うーん、いいですねぇ」
 チャンプルーと泡盛を両手に持ち、酔った心地で言うレイド。
「これぞ夏、祭って感じだね!」
 亜も満足気に花火を眺める。
「ところでガイツ殿、この祭の様子を記事にするのか?」
 風閂は近くで一緒に花火を見ていたガイツに尋ねた。
「そうだな‥‥これはぜひ記事にして、世界の人に知ってもらいたいな」
 ガイツは笑顔でそう答えた。
「ねぇ、ランブルスタインは冒険家なんだよね?世界にはどんな祭があるんです?」
 亜もガイツに聞いてみたかったことを尋ねてみた。
「たくさんあるぞ。牛追い祭とか、街中でトマトを投げ合う祭とか、ロケット花火で‥‥おおっ!」
 最後に一際大きな花火が舞い上がった。
 こうして、小さな祭は人々の心に大きく残って、終演を告げた。

<了>