●リプレイ本文
●遺品の行方
一同はまず、遺品を渡してくれた兵士を捜すことにした。戦後の処理に追われる兵士たちの中を潜り抜けて、大きめのテントへと向かう。そこに渡してくれた兵士がいるはずだ。
「お忙しいところすみません」
「おお。あなたはガイツさんじゃないですか。どうしたんですか?」
ガイツは1人の兵士に近付き声をかけると、その兵士は疲れきった顔に小さな笑みを浮かべてガイツを迎えてくれた。いかにも人の良さそうなこの人が、ガイツに遺品を託した兵士だ。
ガイツは早速、手短に事情を説明した。
「なるほど。確かにここには、その遺品の持ち主と同じ部隊で戦った兵士がいるかもしれませんね。いいでしょう。ここで存分に情報を集めてください。私としても遺品はぜひ、遺族の下へ返してやりたいですしね」
兵士は快く承諾してくれた。
「よし、それでは手分けして情報を集めよう」
事前に決めておいた班に分かれ、それぞれが遺品の情報を集めに散っていった。
遺品のタグを担当するテトラ=フォイルナー(
gc2841)と藤宮 エリシェ(
gc4004)はタグに記載されているナンバーをもとに捜そうと、駐屯所の人事担当を尋ねていた。同じく方丈 左慈(
gc1301)も、時計に刻印されていたイニシャルと一致する人がいないか捜すため同行した。
人事担当は理由を聞くと、快く名簿を見せてくれた。
テトラとエリシェはタグナンバーを確認しながらページをめくっていった。同じように、左慈もM・Kのイニシャルを頼りに持ち主を捜す。
「M・K‥‥か。けっこう多いな。こっから捜すってぇと、けっこう骨が折れそうだな」
と言いながらも、一人一人丁寧に調べあげて、メモに名前や所属部隊などを書き込んでいく。
「‥‥この人だ」
テトラは二冊目のファイルをめくったところで、タグナンバーと同じ数字を見つけた。エリシェも駆け寄り、隣でファイルに書かれた名前を見つめる。
「ハースト・ミルヴァ。出身は‥‥」
と、テトラは記載された情報を一つ一つ読み上げていく。
「ハースト‥‥さんですか」
エリシェは心に刻むように呟いた。自分と同じように戦い、自分とは違う世界に旅立ってしまった者の名前を。
「さて‥‥それじゃあ俺たちはハーストさんのいた部隊を探してみるけど、方丈はどうする?」
「う〜ん。俺はもうちょい調査してみるよ」
方丈は残るみたいなので、方丈を残して2人はテントを出た。
「この銃の持ち主の方を、待っている人がいらっしゃるでしょうにね‥‥」
「ああ‥‥」
ナイア・クルック(
gc0131)は守剣 京助(
gc0920)と共に遺品の銃の持ち主とその遺族を知る者を捜していた。
ナイアは未来研で銃のペイントについて尋ねていたのだが、知っている者はいなかった。未来研の人によると、普通に売られているハンドガンに個人的にペイントを施したのではないか、という話であった。
こうなっては仕方がない。現場で足を使って捜すしかないのだ。
「どうしても、この銃の持ち主を知りたいんです。些細なことでもいいので、何かご存知ありませんか?」
ナイアは銃の写真を見せ、丁寧に根気強く聞き込みをしていく。銃と同時に、同じく遺品のペンダントの写真も見せていく。
京助は駐屯所で怪我を治療中の兵士たちにも、看護師たちの許可を取って、銃とペンダントの聞き込みを行なった。
「‥‥ん?その竜‥‥」
ナイアはが聞き込みをしていると、一人の兵士が反応した。
「知っているのですか?」
「いや、直接知ってるわけじゃないけど‥‥その竜と似たようなペイントをした武器を持った部隊を昔見たことがある。部隊のやつらが全員、武器のどっかにそのペイントをしてたんだ。珍しかったからよく覚えてるよ」
「その部隊の名前はわかりますか?」
「確か‥‥竜祈兵団とか言ってたかな」
「ありがとうございます。すぐにUPCに問い合わせてみます」
ナイアはお礼を言い、すぐに京助と合流した。ペンダントの方の足取りは掴めなかったが、銃については銃については有力な手がかりが見つかった。2人は早速、UPCへと連絡を取りに行った。
ペンダントの持ち主のことを捜すリゼット・ランドルフ(
ga5171)と高梨 未来(
gc3837)は、ガイツと共にとある医療施設へと向かっていた。そこには以前、ガイツが戦場跡の街に行ったときに助けた兵士が今も治療を受けている場所であった。2人の希望で、まずはその兵士から話しを聞くことにしたのである。
「よぉ。元気にしてるかい?」
「ガイツじゃないか!‥‥元気もくそもないだろ?ここは病院だぜ?」
そうだったな、と笑いながら兵士に近付くガイツ。どうやら冗談も返せるくらい元気になったらしい。
「実は、今日は聞きたいことがあって尋ねたんだ」
「ほう?」
「こんにちは。実は、このペンダントについて聞きたいんです」
未来は手にしていたペンダントを差し出す。
「これはあなたが助け出された戦場の街に落ちていた‥‥遺品だそうです。この方に心当たりはありませんか?」
そう言うと、ペンダントを開けて中の写真を見せる。そこには幸せそうに笑う男女の写真があった。
「‥‥っ?!」
兵士の顔色が一気に変わる。
「知って‥‥いるのですか?」
リゼットは悲しそうに尋ねる。
「‥‥ああ。この男は、俺の戦友だ。‥‥そうか。あいつ、先に逝っちまったのかよ‥‥」
兵士の顔が悲しみで歪む。3人は、彼の言葉を待つことしかできなかった。
「あいつはいつもいつも、彼女の自慢ばっかりしてた。メシのときも、少ない休憩のときも、作戦の直前だって‥‥いつも彼女の話ばっかりしてたんだ。それがうっとおしくて、でも羨ましくてな。あいつが彼女の話をする度に、早いとこ戦争を終わらせなくちゃって、そう思ったんだ。でも‥‥そうか。死んだのか」
兵士は項垂れる。沈黙が病室を支配した。
どれくらいの時間が経っただろうか。リゼットは勇気を出して、言った。
「彼女さんのいる場所を、教えていただけませんか?亡くなられた方の安らかな眠りと、このペンダントが『帰るべき場所』に帰るために‥‥」
兵士は顔を上げる。そしてゆっくりと、ペンダントが『帰るべき場所』を告げた。
1人だけ駐屯地に向かわなかったイレイズ・バークライト(
gc4038)は、遺品の時計メーカーを目指していた。世界的にも有名な高級時計メーカーであり、連絡先はすぐにわかった。しかし、そんな高級時計の、しかもシリアルナンバー入りというのだから、もしかしたら教えてもらえないかもしれない。
しかし、イレイズはどんなことがあっても時計の持ち主を探そうと決意していた。
その決意を胸に、電話をかける。
「もしもし。実は聞きたいことがありまして‥‥」
イレイズは丁寧に事情を説明した。しかし、返ってきた答えは、
『お客様の個人情報ですので、申し訳ありませんがお答えすることは出来ません』
という返事だった。だが、イレイズはそこでは引き下がらない。
「この時計は生きた証なんだ!持ち主が、遺族や、友人達に残した最後の!これを届けられなかったら俺は一生後悔する!だから‥‥」
イレイズの力強い説得に、メーカーの担当も折れたようだ。シリアルナンバーとイニシャルから、持ち主の情報を教えてくれた。
「ありがとうございます!」
電話を切ると、イレイズは方丈に連絡を取った。
●証の在り処
写真の女性の居場所を聞いた3人は、女性の住む街へとやってきた。
小さなマンションにある一室のベルを鳴らす。すると部屋の奥からバタバタという音が聞こえ、勢いよくドアが開いた。
「おかえり〜‥‥あれ?どなた?」
リゼットたちは名前を名乗り、話しがあると言って部屋に上げさせてもらった。
「実は‥‥あなたに渡したいものがあります。‥‥これです」
リゼットは女性にペンダントを渡した。
「あれ?これは私がバルトにプレゼントしたペンダントじゃない?どうしてあなたたちがこれを?」
未来が重々しく口を開ける。
「これは、彼の遺品です」
「へぇ、遺品ねぇ‥‥え?」
「彼は戦場で命を落としました。これは彼が生きていた証です。これをぜひ、あなたに持っていて欲しいんです」
ペンダントを手で玩んでいた女性は、ペンダントを床に落とした。
「うそ‥‥うそでしょ?ねぇ、うそって言ってよ」
誰も返事が出来ない。
「うそよ‥‥だって、だって、次帰ってきたら結婚しようって、そう言って笑顔で出掛けていって‥‥それで、それで‥‥」
3人は何もできない。
「うそよ‥‥いやぁぁぁーーー!!!!」
悲しみを和らげるすべを持たない。ひたすらに無力さを噛み締めるだけ。
泣き崩れる彼女に出来るのは、そばにいることだけ。
大粒の涙が、ペンダントに零れ落ちていった。
時計メーカーから持ち主の情報をもらった左慈とイレイズは、大きな屋敷の前にいた。ここが時計の帰る場所らしい。
ベルを鳴らして来意を告げると、メイドが客間へと通してくれた。
客間で少し待たされると、そこに現れたのは、身なりをきちんと整えた男性だった。眼鏡の奥に鋭い眼光を光らせている。
「君たちかね。私の息子の遺品を持ってきたというのは」
「はい‥‥こちらになります」
イレイズが時計を渡す。男性はじっくりと時計を見た。裏面にあるシリアルナンバーとイニシャルを確認すると、深いため息をついた。
「どうやら本物らしいな。こんな形で帰ってきおって‥‥。だから私の会社の跡を継げと何度も言っただろうが‥‥バカモノめ」
「おい!そんな言い方ないだろ!」
イレイズが叫ぶ。だが男性は、きっとにらみ返した。
「バカモノはバカモノだ。3年前に家を飛び出して何をやってたと思えば、戦争だと?そんなものよりも大切なものがあるだろうが」
「こいつっ!」
イレイズが思わず飛びかかろうとしたところを、左慈が止める。
「やーめーろって。ほら、もう行くぞ」
イレイズを取り押さえながら、客室から出る左慈。怒るイレイズを先に廊下に出したところで、左慈は男性に向けて言った。
「おっさん、一つだけ言わせてくれ。この時計の持ち主は生前、ずっとこう言ってたそうだ。『親父が安心できるような世界にするんだ』ってさ。ま、どう思うが勝手だが、これだけは伝えておくぜ。じゃあな」
左慈は立ち去り、男性は1人となった部屋でこう呟いた。
「‥‥バカモノめ‥‥」
テトラとエリシェはタグを届けようと、小さな町を歩いていた。目的の場所が丘の上に見えてきたところで、テトラが言った。
「藤宮。悪いがちょっと待っててくれるか?入れ物を買ってくる」
雑貨屋に入った彼は、小箱を抱えて戻ってきた。そこに遺品のタグが納められている。
2人が向かった場所は、孤児院だった。子供たちが大きな声を上げて遊んでいる声がする。彼らは孤児院に入り、そこの院長を呼んでもらった。
「あの‥‥どちら様でしょうか?」
院長は不審な顔をして2人を見つめている。
「俺たちは、UPC所属の軍人です」
「実は‥‥ハースト・ミルヴァさんの遺品を届けに来ました」
2人の言葉に、院長は目を丸くした。
「え‥‥?は、ハーくんが?」
テトラはそっと小箱を渡した。院長は驚きの表情のまま、小箱を受け取る。
「ど、どうして?どうしてハーくんは軍人に‥‥?」
「彼は、この孤児院のために戦ったそうです。自分みたいな人を増やさないために、孤児院にいる年下の子たちが安心して暮らせるようにと、いつもそう言っていたそうです」
院長の目に涙が溜まる。テトラは最後に、こう言った。
「‥‥彼は勇敢に戦い、命を賭けて我々に勝利をもたらしました」
院長の涙が溢れた。テトラの隣のエリシェはその姿を見て、涙を抑えることが出来なかった。
「彼のために‥‥葬送曲を、弾かせてください」
エリシェは泣きながら、優しいヴァイオリンの音色を奏でた。風に乗った涙とメロディーを胸に刻み、テトラは誓う。
「この戦い、早く終わらせたいな。いや、終わらせるんだ。俺たちの手で‥‥」
「娘たちにはこんな形で帰ってきて欲しくないと思うのはエゴでしょうか」
ナイアは銃を握り締めて、京助に問う。
「そんなことないさ。誰だって思う、ありふれた願いだよ」
京助は努めて明るい声を出す。ナイアはその答えを受け、小さな笑みを返す。
2人はUPCから『竜祈兵団』の兵舎の場所を聞き、そこへ向かっていた。
少しためらいながら、兵舎の扉を叩く。
「はーい」
女性の声が聞こえてきた。2人は扉を開け、中に入った。部屋の中央の床に、女性が1人でぼんやりと座っており、その周りにはたくさんの武器が並べられていた。どの武器にも、銃と同じ竜のペイントがなされている。
「えーと、どちら様?見たところ、同業者っぽいけど」
女性が首を傾げる。ナイアは落ち着いて渡せるように深呼吸をして、言う。
「依頼されて、この遺品をお届けにあがりました」
と言って、銃を女性に差し出す。
「あなたの戦友の生きておられた証、どうかお受け取りください」
女性はナイアの言葉を聞くと、悲しげで、でもほっとしたような奇妙な表情を浮かべた。
「‥‥うん」
立ち上がり、ナイアから銃を受け取る。すると女性は、トリガーに指をかけてくるくると銃を回し始めた。そして、ぽつぽつと語り始める。
「この辺にある武器はね、全部遺品なんだ。この前の作戦でね、私達の部隊、全滅しちゃった。生き残ったのは、私だけ」
銃を構える。
「すぐに仲間の武器を集めようとしたわ。でも、どうしても団長の銃だけどうしても見つからなかった。もしかしたら生きてるのかなって思ったよ。そんでもって、この銃が、団長の」
見えない敵を撃つように、引き金を引いた。しかし、壊れた銃はカチカチと虚しく音を立てるだけ。
「あーあ。これからどうすりゃいいんだろ‥‥」
女性は空虚な目で銃を見た。ナイアは彼女の目をじっと見つめる。昔の自分と、同じ目をしている。
「私も同じように夫を亡くしていますからお気持ちは分かるつもりです。けれど亡くなった方はあなたが哀しみ続けることを望んでいなかったと思います。今すぐには無理だと思いますけれど大切な方の為にも笑顔でいてあげてください」
ナイアは昔の自分に言い聞かせるように、言葉を紡いだ。
「そうだぜ。あんたが兵団の最後の希望なんだろ?そんなやつが曇った顔をしてたら、団長たちに笑われちゃうぞ」
京助はそう言って女性に笑いかける。
「そうかもね。あんたたちの言う通りだ。団長たちの仇もとってやらなくちゃね!‥‥ありがとう」
女性は微笑を浮かべた。
帰り道、京助は呟く。
「これは‥‥悲しい行為だな。俺は必ず生き残ってやる」