●リプレイ本文
KV訓練を受けることとなった能力者たちは、早速カンパネラ学園地下のKV演習場へと足を運んだ。
「本当に何も出ないかね〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)は演習場を見回す。人類側の場所なのにキメラが不法投棄されているカンパネラを、彼は余り信用していなかった。
ぶつぶつと呟くウェストを尻目に、今回の訓練参加者が乗る自前のKVたちがぞくぞくと運び込まれてきた。
「流石に私の様な旧型はありませんね。何しろ今では第一線を退いた初期型支給のKVですからね。愛着があるのですが、そろそろこのスペックでは難しいですね」
水鏡・珪(
ga2025)は同じ参加者の面々のKVを見て思わず言ってしまった。と同時に、愛機との思い出も思い出しているようだった。今回は訓練の目標は『機体に被弾しない』ことであった。自分の機体を存分に眺め、改めて気合を入れ直す。
同じく『出来るだけ被弾しない!』を目標にしている高梨 未来(
gc3837)もこの訓練で出来るだけ多くを吸収して今後に備えようと、真剣な面持ちだ。
「皆さんよろしくお願いしますっ‥‥プーカも、頑張ろう」
ジョエル・フィンドレー(
gc3701)は皆に挨拶をし、そして自身の機体を眺め、声をかける。
「ん〜。今回我は教官という立場になるのか?それとも聴講生という立場になるのか?」
歴戦の猛者である漸 王零(
ga2930)は、KV初心者の皆が緊張と期待を膨らませるなか若干の余裕を持ちつつ、ふと呟く。その呟きを耳にした今回の授業の教官の轟 豪人は近寄って言う。
「どちらでも自由にやるがよい。教官も教官なりに、学べることが多いぞ」
豪人の言葉を聞き、熱心そうなKV初心者たちに自分がこれまでに学んだことをしっかり教えてあげようと王零は思い直した。
「さて、そろそろ準備はできただろう。それでは訓練を始める‥‥といっても私は何もしないので、自由に演習を行なってくれ」
豪人の合図と共に、KV訓練が始まった。
参加者たちはまず初めに、新人同士の模擬戦闘から行なうことにした。
Aチームは奏歌 アルブレヒト(
gb9003)とシルフィミル・RR(
gb9928)、御鑑 藍(
gc1485)、ジョエル・フィンドレーの四人。
対するBチームは水鏡・珪と八尾師 命(
gb9785)、ハーモニー(
gc3384)、高梨 未来の4人である。
8機の機体は都市を模した訓練場の東西に配置され、始まりの合図を待つ。ウェストと王零は教官と共に高台で初心者たちの戦いを見守る。
「それでは皆さん、よろしくお願いしますね〜。‥‥説明書は何処かな〜?」
命は新しい機体に乗り換えたばかりなのでまだ操作方法に慣れていないようだ。KV内蔵の説明書を取り出し、機体の操作方法から確認する。
「よし。両チームとも準備はいいようだな。それでは、始め!」
豪人の力強い声がマイクを通して響き、第一戦目が始まった。
●初心者戦
「よっし!まずは索敵ですね!」
未来のレーダーにAチームの配置が記された。その情報を即座に仲間に伝える。
「さあ、訓練でも戦いは戦いです。たのしみましょう」
ハーモニーはそう言うと、情報を元にスナイパーライフルD−02での遠距離射撃を狙う。
「弾幕支援と電子戦は任せてくださいね〜」
命はジャミング中和と集束スキルを使いながら、こちらの回避と命中率を上げていく。
「きました‥‥ね」
Aチームの奏歌は相手チームの銃撃が来たのを見るとすぐに装備を展開させて迎撃する。
奏歌の攻撃を境に、藍はビルを利用しながら相手への接近を試みる。銃撃の境目を見ながら距離を測り、相手の位置関係を他の3人に伝えていく。
そのとき、未来の煙幕銃が放たれ3人は煙幕に包まれてしまった。
そこで一気に畳み掛ける‥‥のではなく、珪はあくまで慎重に距離を詰めていった。
「奏歌さんの追う敵には気を付けないといけませんね。思わぬ所から狙い撃ちされない様にしませんと‥‥」
その警戒通り、奏歌は未だに正確な射撃を続けている。アテナで防御を取りながら射程に気をつけて接近してきた相手の迎撃を行なう。
「さぁ、勝負です。‥‥一撃で退場なんてなりませんように‥‥」
ジョエルは煙に視界を遮られながらもガトリングで牽制する。藍とシルフィミルはジョエルの牽制に当たらぬように細かく避けながら前進。Bチームの懐へと歩を進め、攻撃をしていく。
未来は相手の接近に合わせてガトリングを放ち、近付いてきたところで距離を取りながらのランス攻撃を繰り返す。
が、そのときシルフィミルのルプス・アークトゥスが槍を弾き、そのままの勢いで近付き相手の機体を掴み取る。
未来がしまったと思うよりも早く、シルフィミルはフォトニック・クラスターを放った。
ゼロ距離で放たれた攻撃を受け、未来の機体はかなりのダメージを負ってしまった。
接近を許してしまったところで命はスモーク・ディスチャージャーで煙幕を張り、さらに盾を構えてカウンターを狙った攻撃を繰り出していった。
「そこまで!」
豪人の声が響き渡る。結果、Aチームが優勢で一回戦目が終わった。そのまま休憩と共に先ほどの反省会が始まる。
「どう‥‥でしたか?なにか改善点はあるでしょうか?」
藍が尋ねると、見学をしていた王零が気付いた点に答えていく。
「遮蔽物を存分に利用して接近を試みたのはよかった。しかし、煙幕を使われたあとの対応と味方の連携がまだ甘いように思えたな」
ひとしきり反省会をしたあと、次は王零とウェストの機体を東西に配置された。
「さて王零君、そろそろいくかね〜」
「そうだな」
王零とウェストはそれぞれの機体のもとへと移動していった。
●経験者戦
「先輩方はどんな戦い方をするのでしょう?たのしみですね」
ハーモニーは2人が乗り込む姿を見ながらそう呟く。他の者たちも先輩方の戦いから学び取ろうと目を輝かせている。
「それでは、始め!」
合図とともに両機が動き始めた。まずはウェストがディフェンダーを盾に飛び込みつつ、ガトリングで牽制攻撃を放っていく。
王零はウェストの突撃を確認すると、機体をやや半身にしつつ距離を保つ。ガトリングの弾を建物を使いながら回避し、さらにスラスターライフルで足を狙いながら攻撃する。
ただ無作為に距離を取るだけでなく、建物を盾にしながらウェストを誘導するように回避していく。
「流石ですね。両者共に動きに無駄が無く、怖いくらいの気迫で見ているだけでも圧倒されます」
珪は思わず感嘆の声をあげる。
直線道路に出た。王零はそこで一旦動きを止める。ウェストは相手が足を止めたのを確認すると、バニシングナックルを準備して突撃をかける。
王零は突撃のタイミングを見計らい、ブーストジャンプ。ウェストの突撃をかわす。
すぐに各部スラスターとスタビライザーで姿勢制御しつつアグニで攻撃。ウェストは直撃を受ける。
「凄いですね〜。本当に同じKVには見えないですよ〜‥‥」
命は感激した様子でKVの華麗な動きに見とれていた。
着地した王零は武器をジャレイトフィアーに変え、まだバランスを崩したままのウェストへと接近攻撃を行なう。まともに攻撃を喰らってしまったウェストは、一度立て直そうと距離を取ろうとするが王零は退路を塞ぎ、ハンズ・オブ・グローリーで射程を延ばしての攻撃。他にもソードテイルでの攻撃も加える。
「そこまで!」
決着がついたとみて、豪人が演習を止めた。文句なく王零の勝ちであった。
戻ってきた王零とウェストに声をかけつつ、先ほどの戦闘の反省と考察を行なう参加者たち。そうして休憩を取ったあと、次の演習へと移った。
●混合戦
次は初心者と経験者の混合チームでの演習である。
Aチームはウェスト、シルフィミル、未来、命、藍。
Bチームは王零、奏歌、ハーモニー、ジョエル、珪となった。
「さあて、それでは早速指導といこうかね〜」
ウェストはそう言うと、少々先行気味に機体を進めていく。そこへ王零の機体が現れた。先ほどの対ウェスト戦とは違い、雷電改2からディアブロへと機体を変えている。
王零はディアブロで、ウェストを十字路に誘い込むように攻撃。
「う、ウェストさん!危ないです!」
情報収集と相手の位置の分析を重点的に行なっていた藍は、相手の意図に気付いてウェストに注意を呼びかける。
ウェストが十字路に入ったところで、王零が煙幕銃でウェストの視界を奪う。その隙に四方の道に王零以外の四人が散開。中心にいるウェストに向けて集中砲撃を加えた。
弾幕が広がり、ウェストの姿が見えなくなる。倒したか‥‥と思われた瞬間、王零が声をあげる。
「まだだ!」
ウェストは集中砲撃を受ける前にブーストで回避していた。さらに超伝導アクチュエーターで姿勢を制御し、ジョエルの機体へと一気に近付く。
「わ!」
そのまま相手の機体を建物に押し付け、バニシングナックルと板ばさみにした。ジョエルに強烈な一撃を叩き込んだ後、包囲網を突破。一度距離を取り、チームの元へと戻った。
Bチームの面々は、集中砲撃は強力ではあるがその分一度破られると建て直しが難しい、という有効性と難しさを肌で味わうこととなった。
「このように、ピンチのときでも自分が優位な位置に立ち回ることを常に考えるのも大事だ〜」
近くに集まったチームの面々にそう指導する。
「大丈夫か?」
王零はバランスを崩したままのジョエルに声をかける。
「うう‥‥ギリギリ大丈夫そうです」
なんとか機体を立て直すも、無理はできないようだ。
「それでは次は『常に数的有利を作るように心がける』という敵と戦う時の定石を実戦してもらおう。このように味方が負傷したときなどは、特に意識しておかなければならないからな」
王零の言葉にBチームの面々はうなずくと、多対個で戦うように意識をしつつ行動を開始した。
「ハーモニー、ジョエル‥‥奏歌と一緒に、援護砲撃を願います‥‥」
奏歌はそう指示すると、2台のショルダー・レーザーキャノンを交互に砲撃し、片方で砲撃中に片方をリロード。弾切れの隙を減らし、砲撃を絶やさないようにする。さらにアリスシステムを起動。命中と回避を上げて迎撃に挑む。
「‥‥さぁ‥‥奏歌を相手‥‥どう動きますか?」
ハーモニーも同じように遠距離の射撃を行い、相手の隙を作る一端にでも成れるように戦う。ジョエルもガトリングで応戦した。
王零と珪は2人で、援護砲撃を受けながら敵へと近付いていく。
「珪。共に『市街戦ならではの戦い方』を実践してみよう」
「わかりましたわ」
2人は積極的に建物を盾にし、相手の攻撃を防御・回避して進んでいく。
王零と珪の接近が見えてきたところで、命は少し焦りながら自分自身に言い聞かせていた。
「えっと、同時に攻撃されそうな時の対処法は〜‥‥?」
慣れないKVを必死に動かし、建物や相手のKVが相手の斜線上になる様に位置取りをする。2人で挟み撃ちされないよう、気をつけながら対処していく。
敵が近付いてきているにも関わらずこちらがなかなか近づけないことにやきもきしていたシルフィミルは、ブーストジャンプでビルの屋上に飛び乗った。そこから移動し、相手射撃部隊の真上から急降下。奇襲にて一気に制圧を掛ける。
奏歌は途中でシルフィミルの意図に気付いた。確かに上空からの奇襲は遠距離特化型への相応しい対策だ。ここはあえて打開せず、付き合うことにした。武器をドラゴン・スタッフへと持ち替え、接近戦の準備をする。
シルフィミルは上空から多連装機関砲を撃ち、援護部隊の連携を崩す。さらに連続で使用して牽制。距離を取ろうと動く3機に向けてわざと外側へ外し、正面に3機を集めるような射撃を行なう。
3機が並んだと同時に、シルフィミルは叫ぶ。
「ブラックハーツ、オンライン。フォトニック‥‥クラスター!!」
ブラックハーツで強化されたフォトニック・クラスターを受け、3機は多大なダメージを受けた。
「ツヴァイ‥‥良くできました。後でご褒美‥‥ですの」
シルフィミルは思わず操縦桿を撫でながら呟いた。
後衛の援護が無くなってしまい、なかなか勢いに乗れなくなってしまった王零と珪は、ウェストの指示で動く未来、命、藍の3機に翻弄され、身動きが取れなくなってしまった。
●初心者VS経験者
次は最後の戦闘である、経験者の王零とウェスト対残る8機との演習試合である。
「人数差はありますけど、油断はできませんねぇ〜」
命は並んで立つ歴戦を潜り抜けた2機のKVを見ながら言う。王零の方は先ほどに引き続きメイン機体ではないディアボロではあるが、それでも強いことに変わりはない。
「ねぇ‥‥みんな。ちょっと‥‥」
奏歌が女性陣に声をかける。
「何してるかね〜?さっさとかかってきなさいよ〜」
ウェストは余裕の表情で待っていたのだが、次の言葉で体を凍らせる。
「あの2人‥‥どっちが攻め‥‥だろう?」
「漸さん×ウェストさんじゃないですか?」
「いや、逆も十分考えられる‥‥」
などど女性陣は突如BL談議を始めてしまった。
王零は少し顔をしかめているだけであったが、ウェストは‥‥
「BLは勘弁〜‥‥」
と操縦席で口から魂を出してしまっている。
「今‥‥だ!」
「隙あり!」
と、全員でウェストに集中攻撃をかけた。全ての攻撃が重なり、ウェストの周りに大きな土煙があがる。
「どう‥‥だ?」
「えっと、いいんですかね‥‥」
どうしても攻撃に混ざれなかったジョエルが誰にでもなく聞く。
土煙が収まってくるとそこには‥‥それほどダメージを受けていないウェストの機体があった。
「よ、よくもやってくれたね〜」
ウェストは怒りとショックで震えているようだ。
「む‥‥そろそろいいか?」
王零は何故か律儀に待ってくれていた。ウェストを助けようとはしなかったが‥‥。
「それじゃあ‥‥仕切りなおしで」
と奏歌が言うと同時に、ウェストが動き出した。
●訓練終了
やはり最後の演習では経験者チームに軍配が上がった。数的有利を使った集中攻撃の作戦を取ったのだが、1人に集中してしまうとどうしてももう1人の方には意識がいきにくい。それがただのザコならまだよいのだろうが、どちらも猛者であり、1人を無視して戦えるほどまだ経験も技術も足りていなかった。
「充実した訓練でした。大変良いお勉強になりました」
珪は訓練が終了したのちに皆に礼を言った。
「先輩方、ご指南ありがとうございました。これで私はもっと戦いをたのしめます。」
ハーモニーも指導をしてくれた2人に心からの礼を言う。
それらの様子を見て、豪人は全員が無事戦場から生き残ってくれるのを心から願っていた。