タイトル:保護活動マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/28 09:40

●オープニング本文


「あの希少動物が住処が見つかったんですか?‥‥はい。はい。そこにはキメラが?それはまずいですね。‥‥はい。大丈夫です。それでは‥‥」
 シビリウスは研究室の電話の受話器をゆっくりと下ろした。
「んー、どうしたんですか?シビリウスさん」
 呑気に菓子をつまんでいたノールは、上司の様子を見て声をかけた。
「いや‥‥他の研究所から連絡があってな。なんでもヤマツチドリの生息地域がわかったらしいんだが‥‥」
「えっ?!あの希少生物のヤマツチドリですか?!」
 思わず声をあげるノール。彼らはカンパネラの地下の研究所で生物化学を研究している研究者だ。言わば、様々な生物のスペシャリストだ。その2人が目の色を変えるのから、かなりの希少生物と言っていいだろう。
「ああ。だが、その無人島に行った調査団体がキメラに襲われたらしい。さっきの電話はそこの関係者からの電話だ」
「またキメラですか‥‥」
「ああ。そこで、我々は傭兵にその無人島にいるキメラを退治してもらうように頼んだ。そこまではいいのだが‥‥肝心の同行者がいないと言うんだ」
「ああー。調査団の人たちはキメラに襲われちゃったんですよね?」
「そうだ。どこかに同行者はいないかという用件だったのだが、幸いここには暇そうな人間がいるからな。うちで引き受けることにした」
「そうそう、うちには暇そうな人間が‥‥え?」
「ノール。お前行ってこい」
「ええー?!また俺ですか!」
「またとはなんだ、またとは。この前はお前のせいだろうが」
「それは‥‥そうですけど‥‥ええー?!」
 ノールは頭を抱えた。
「私は忙しいんだ。いつも暇そうにしてるお前しか行くやつがいないだろう」
「俺だって忙しいですよ!」
「嘘をつけ。さっきまで暇だと言いながら菓子を食べてただろう。いいからさっさと仕度しろ」
「そんな急なー」
「大丈夫だ。いざとなったら傭兵が守ってくれる。ちゃんと生態も調査してくるんだぞ。いいな」
 上司の有無を言わさない圧力に、ノールはただ屈するだけだった。

●参加者一覧

夕風 悠(ga3948
23歳・♀・JG
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
緋月(ga8755
17歳・♀・ST
ブロッサム(gb4710
18歳・♀・DG
白藤(gb7879
21歳・♀・JG
アンナ・キンダーハイム(gc1170
22歳・♀・SF
セリム=リンドブルグ(gc1371
17歳・♀・HG
ネオ・グランデ(gc2626
24歳・♂・PN
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
相賀琥珀(gc3214
21歳・♂・PN

●リプレイ本文

●動物講座
「皆さん、集まってくれてありがとう!」
 ノールは研究所に集まった傭兵たちを見て感謝を述べた。
「いえいえ。こんなご時世でも、希少な動物が見つかるのは良いことですよね。そのヤマツチドリのためにもしっかりとキメラを駆除しないと」
 夕風悠(ga3948)は研究所を見回しながら言う。
「ヤマツチドリ‥‥。一度、この目で見てみたかったんです」
 緋月(ga8755)は書物の中でしか知らないヤマツチドリを観察できるチャンスに、心躍らせていた。その一方で、希少なヤマツチドリを捕食する可能性のあるキメラに怒りを抱いている。
「ヤマツチドリって聞いたこと無い名前だな。まぁだからこその希少動物か。ブロッサムの胸が何故こうも膨らまないかと同じくらい調査の必要がありそうだ」
「なんだとてめー。てめーだってそんなに大きくねーじゃねーか」
「残念だったな。最近はもっぱら成長中なんだよ」
 サヴィーネ=シュルツ(ga7445)とブロッサム(gb4710)は早速口喧嘩を始める。もっとも、彼女らにとってはこの程度は挨拶代わりであるが。
「キメラの脅威にさらされてるんだよね‥‥。どんな命だって平等‥‥保護がどうこうじゃなくて、無為に亡くなる命はあっちゃいけないって思うよ」
 セリム=リンドブルグ(gc1371)も緋月と同じ気持ちだった。
「きしょーどーぶつって珍しい動物さんの事?ユウ、良く分かんないケド、大事なんだよね‥‥その鳥さん。じゃあ鳥さんに危険なキメラはやっつけちゃわないと‥‥ねっ☆」
 ユウ・ターナー(gc2715)はよくわかっていなさそうだったが、皆と気持ちは同じのようだ。
「希少動物‥‥減らしたのは人間なのでしょうね‥‥。だからこそ、護らなくては」
 相賀琥珀(gc3214)は悲しそうに呟くも、護るべきものをしっかりと心に刻む。
「それでノールさん。これから行く島の地図やキメラの数などはわからないのでしょうか?」
「うーん、地図はもらったんだけど、キメラの数とかはよくわかってないんスよね。調査隊がやられたのは数匹の獣型キメラが襲ってきたって話だけだし」
 ノールはキメラの存在を思い出し、身震いをする。
「それじゃあノールおにいちゃん。調査団の駐屯地とか調査地区ってわかんないかな?」
 ユウにおにいちゃんと呼ばれたノールは、何故か少しは恥ずかしそうにしながら答えた。
「え、えーと、たしか山の近くにある水場を駐屯地にしていて、そこで襲われたとかなんとか聞いたッスね。キメラも水場を住処にしてるかはよくわかんないッスけど」
「なるほど。それじゃあ、ヤマツチドリについて注意するべき点とかってありますか?」
 緋月が替わって質問する。
「そうッスねぇ。たしかヤマツチドリは‥‥」
「もぐらのように土の中で生活する鳥類で、食料調達のときにしか地上に姿を現さない。地中といっても浅いところに住んでいるため、地上の影響を受けやすい。性格は好奇心旺盛‥‥だったよな?」
 ネオ・グランデ(gc2626)は事前に読んできたヤマツチドリに関する本の内容を思い出し、ノールの言葉を遮って言った。
「そ、そうッス。だから俺が危惧してるのは、地上から掘り出されたりしないかってことッスかね。相手は獣型のキメラだって言うんで、もしかしたらと思って」
「そうか‥‥そんなことがあってはまずいな。よし、早速出発しよう」
 皆が出発の準備を進めるなか、
(獣型キメラ‥‥か。大暴れしたぁてうずうずする‥‥っ♪)
 白藤(gb7879)はキメラとの戦いを想像して心を震わせていた。

●保護戦闘
「良い風‥‥これでキメラが居なかったら良い場所だったんだろうね‥‥」
 セリムは無人島の海岸で思わずそう呟き、AU−KVを装着する。
 辿りついた島はセリムが呟くのも無理はないほど美しく、平和だった。
 いや、平和のように見えた‥‥か。
 この美しい島には確かに、人類の敵であるキメラがはびこっているのである。
 傭兵たちはA班とB班の二つの班に分かれて、それぞれA班は東から、B班は西から島を回り、キメラの駆除とヤマツチドリの保護を目指す。
「‥‥‥」
 準備をしている最中、仮面の女性アンナ・キンダーハイム(gc1170)はおもむろに海に近付くと、海水で靴底と髪を洗い始めた。彼女なりにこの島の生態を守ろうと、菌や種子を洗い落としていたのだ。
「アンナさん、どうしたんや?はよ行くでー」
 白藤の呼びかけに気付いたアンナは声の方を向くと、少しだけうなずくような仕草を見せてB班に加わった。

 B班のサヴィーネ、白藤、セリム、琥珀、アンナは西側を回りながらキメラとヤマツチドリを探していた。
 海岸沿いを歩いて行くと、崖に突き当たった。そこで傭兵たちは島の内部にある森の中に入って行く。
 森の中でサヴィーネは食事痕、排泄痕、足跡、周囲から聞こえてくる獣の鳴き声などに注意し、出来るだけメモに取っていった。
「こういうのは、白藤。面倒だけど意外と馬鹿にしたものでもなかったりするんだよ。斥候の基本だし」
 と、後輩の白藤に向けてアドバイスをする。
「‥‥1つの足跡は、10の拷問より多くのことを私達に語る」
「なるほどなー。さすがサヴィや」
 素直に感心しメモを取る白藤。他の傭兵も同じように警戒しながら森を進む。
 よく見ると、周りには獣が通ったあとや糞などの痕跡が多数ある。はたしてそれらはここに住む動物のものなのか、それとも‥‥。
 獣の痕跡が色濃く残るところで、琥珀はレーション「ビーフシチュー」を取り出した。
「これでキメラをおびき寄せてみましょう」
 準備が終わると、周囲に美味しそうないい匂いが広がってきた。その中、傭兵たちは警戒を続ける。
 すると、周囲の草木を踏み鳴らす音が聞こえてきた。だんだんと、近付いてくる。
 姿を現したのは、狼だった。しかし地球の生物にしては明らかに‥‥大きい。紅い眼をらんらんと輝かせ、鋭い牙からは醜悪なよだれが滴り落ちる。
 こいつがこの島にはびこるキメラだ。傭兵たちは直感した。
さらにもう一つの足音が近付いてきた。合わせて2体の大型狼キメラが姿を現す。
「でよったなぁ‥‥」
 白藤はにやりと笑いながら覚醒した。
「こちらB班です。キメラと遭遇しました。これより撃破します」
 琥珀は無線機で素早くA班へ連絡を行なった。そしてすぐに覚醒。他の傭兵も早速覚醒し‥‥戦闘が始まる。
「キメラにかける情けはありません」
 琥珀は敵の姿を確認したと同時にスキル『迅雷』で瞬時にキメラの懐に潜り込み、斬撃。先制攻撃を行なった。
「全頭突撃(アル・シュトゥルム)だ」
 サヴィーネはそう言いながらスキル『影撃ち』を放ち、敵の足並みを乱す。と同時に白藤も『強弾撃』でキメラを撃ちぬく。
 さらにアンナも超機械で電磁波を放って敵の動きを止めた。
 キメラが怯んだところに、琥珀は更に『刹那』を使用して一気に畳み掛ける。
「ボクもっ!」
 セリムも負けじと『竜の瞳』を使用して集中力を高め、天剣「ウラノス」で攻撃を行なった。
 1匹のキメラは倒したが、もう1匹はまだ動きを止めない。それどころか、銃弾にも負けず傭兵たちに襲い掛かってくる。
 キメラが近付いてきたところで白藤は武器を小銃「バロック」から壱式に変え、接近戦を試みる。
 攻防のなか、大きな爪が3人に襲いかかる。セリムはとっさに防御を取り、白藤も攻撃を受ける覚悟をしたが、琥珀は敵の攻撃に合わせて『円閃』を放った。
 見事にカウンターが決まり、キメラが吹き飛ばされる。そこへサヴィーネの銃弾が突き刺さり、キメラは動きを止めた。
「なんや〜、もう終わりかいな」
 白藤は少し物足りなさそうに覚醒を解く。他の傭兵たちも覚醒を解いていった。
「‥‥‥」
 アンナはキメラに興味を無くし、すぐに周囲への警戒を始めたが、どうやら近くにキメラの気配はないらしい。
「こちらB班です。キメラを先ほどキメラの襲撃に会い、これを撃破しました」
 琥珀は再度A班への連絡を行なう。無線機を手にしながらも、
「キメラを捜しましょう。まだいるかもしれません」
 と傭兵たちを促す。B班の面々は先に進み、キメラの索敵を再開した。

「どうやらB班はキメラに遭遇、駆除に成功したようですね」
「やっぱりいるんだよなぁ、キメラ‥‥」
 悠の報告にノールは身震いする。
 A班の悠、緋月、ブロッサム、ネオ、ユウ、そしてノールは島の西側を進みながら同じくキメラとヤマツチドリを捜していた。
 西側を進んでいくと川に突き当たった。
 緋月がノールに話を聞くと、ヤマツチドリはその名の通り小高い山に生息することが多いらしい。そこで面々は川の上流へと進んでいった。
 川を上っていくと自然と森の中に入っていく。しばらく進んでいくと、小さな泉に突き当たった。どうやらここが先の調査隊の駐屯地のようだ。証拠に、まだ調査隊がいた形跡が残っている。
「さて、ノール。何か痕跡はあるかな?」
 ネオが聞くと、ノールは辺りを見回しながら答えた。
「そうッスねぇ‥‥。ヤマツチドリは土の中で生活するんで、地面に穴があればわかりやすいんスけど‥‥うーん」
 腰を屈めて地面の穴を捜すノールであったが、ヤマツチドリの痕跡は見当たらない。
「それよりも、この爪痕の方が気になるッス。これはきっと、キメラだろうなぁ‥‥」
 ノールは嫌な顔をする。
「そう遠くないな。数は‥‥」
 ブロッサムも同じことに気付いたらしく、キメラの痕跡を丁寧に調べている。
「ノールおにいちゃんでもわからないのかぁ。でも、ここらへんにキメラがいるのは間違いなさそうだねっ!よし、おびき寄せちゃおう!」
 ユウはそういうと、骨付き肉を取り出して地面に置いた。
「ええっ?!おびき寄せちゃうんスか?!」
「大丈夫ですよ。私たちが必ず守りますから」
 心配するノールに向けて、緋月は優しく言った。
 骨付き肉を置き、周囲の警戒を強める傭兵たち。すると、茂みの奥から何かが近付いてくる音が聞こえてきた。
 キメラかと、より一層警戒を強める。
 しかし、茂みから現れたのは小さな鳥であった。ちょこちょこと短い足を動かしながらこちらへやってくる。
「これはもしかして‥‥」
「ヤマツチドリッスよ!俺も実物は初めて見ました!」
 ヤマツチドリは骨付き肉の前までやってくると、肉をつんつんとつつきはじめた。
「どうやらヤマツチドリも骨付き肉につられてやってきてしまったみたいッスね」
 ノールがヤマツチドリに近付こうとしたその時、大きな音を立てて近付いてくるものがあった。
 巨体を翻して現れたのは大型の狼キメラ2体だった。
「うわわ!」
「ノールさん!下がって!」
「ピー!」
 緋月がとっさにノールの前に出る。ヤマツチドリも突然の音に驚いてどこかに逃げてしまった。
「怪我はないですか?!」
「あ、ああ。なんとか大丈夫ッス」
 キメラは威嚇するような唸り声を上げている。傭兵たちはすぐさま展開し、キメラの撃退に当たる。
「皆さん、頑張ってください!」
 緋月はノールの護衛をしつつ『練成強化』で味方の攻撃力を上げた。
 援護を受け、ブロッサムとネオはキメラの前に出て攻撃を開始する。
「ケルベロス‥‥全頭突撃(アル・シュトゥルム)!狩りの時間(ヤクト・ツァイト)だ!」
 ブロッサム自慢の稲妻模様の塗装が施されたAU−KVを駆り銃撃を放っていく。
「一手先でも、二手先でもなくもっと先を読む!」
 ネオはキメラの動きを自分の動きの流れに組み込み、攻撃と回避とを連動させるように立ち回る。その動きはまるで舞闘のようであった。
ユウも『援護射撃』で2人をサポートしつつ『強弾撃』で攻撃をする。
「穴だらけにしちゃうよ!」
 覚醒状態となり、好戦的な笑みを浮かべながらとめどなく銃弾を放つ。
「『光の矢』の威力、とくとご覧あれ‥‥っ!」
 悠はノールに攻撃が通らないように前衛気味に位置を取り、『先手必勝』と『即射』を発動させて一気に攻撃をする。
 最初は少々体勢を崩されたものの、なんとかキメラを倒すことが出来た。

●観察調査
「ヤマツチドリは無事ですか?」
 緋月は先ほどのキメラの強襲で逃げてしまったヤマツチドリの様子をノールに聞く。
「えーと、あそこにいるみたいッス」
 ノールが指差した方向を見ると、一度隠れたヤマツチドリがまた茂みから顔を出していた。周囲を警戒しながらも骨付き肉の元へとまた近づいて行く。
「お、いたいた」
「まったく、どんだけ食い意地はってるんだって話ッスよね」
 ネオとノールは顔を見合わせて苦笑する。
「‥‥はい。了解です。あの、B班の方々が先の戦闘音を聞きつけてこちらに向かってきているようです。せっかくなので、合流してから観察しませんか?」
 悠の提案に皆も同意し、B班を待つことにした。

「で、ノールおにいちゃん。生態調査って何をやるの?」
「基本的には観察ッスね。どんな生活をしているのか。巣はどこに作るのか。餌は何か。どのくらい繁殖しているか、といったとこッスかね」
 ヤマツチドリをこっそりと追いながらノールは答えた。後ろには傭兵たちもついてきている。
 ヤマツチドリは先ほど手にした骨付き肉をくわえながら住処へ向かっているようだった。どんどんと山の方へと登っていく。
 だんだんと斜面が急になってきた。かなりの角度がある場所まで来たところで、ヤマツチドリは落ち葉の山の中へと潜り込んでいった。
「なるほど。落ち葉を利用して穴を隠しているんスね。どうりで見つかりにくいわけだ」
「へぇ、少し…いや、かなり変わった鳥ですねっ」
 悠は珍しそうに双眼鏡で様子を見ていた。
「このような習性は今まで確認されていたのですか?」
 緋月はわくわくしながらノールに質問をする。
「いや、土の中で生活するのは聞いていたけど、穴を隠したりするのは聞いたことがないッスね」
 ノールは質問に答えながらメモを取るのを忘れない。
「あっ!見てください!他にもたくさんいるみたいですよ!」
 琥珀がそういうと、落ち葉の山から別のヤマツチドリが出てきた。さらに、先ほど骨付き肉をくわえていたヤツも出てきて、他のヤマツチドリに骨付き肉を差し出していた。
「集落で共同生活してるみたいッスね。なるほどなるほど」
 その後もノールと傭兵たちは観察を続けた。

「いやー、今日は収穫がありましたよ。ありがとうございました」
 ノールは帰りの高速艇で傭兵たちに改めて礼を言った。
「こちらこそ、なかなか良い体験だった」
 ネオは珍しい動物が見れて満足そうだ。
「何かわかったらまた教えてくださいね」
 対して緋月はまだ質問し足りないようだ。
「白藤。どうだった?キメラとの戦闘、というのは」
 サヴィーネは後輩の白藤に今日の感想を聞いた。
「いやあ、まだまだやわ。もっと‥‥白藤は強うならなあかんのや‥‥」
 白藤は去りゆく島を見つめながら、強くなると誓った。