タイトル:【初心】春先の蝶マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/11 22:28

●オープニング本文


 春、である。
 寒い寒い冬が終わり、暖かい日差しと風が頬を撫でる。
 春に優しく撫でられた人や、動物や、植物は、ゆっくりと起き上がり春の訪れを喜ぶ。
 そんな輝かしい時間である。

 とある草原にも、春が訪れていた。
 ここは地元でも有名な場所であった。
 春になると一面に花が咲き乱れ、それはとても美しい光景を作り出してくれる。
 黄色や赤やピンクや白の花々が咲き乱れ、まるで花の絨毯のようだと見る人は言う。
 そこでは春になるとたくさんの人々が訪れては、散歩をしたり昼寝をしたり恋人や家族と過ごしたりとのんびり過ごしていた。

 しかし、今は春真っ盛りだというのに人の気配がない。花々が寂しそうに風に揺れているだけである。その周りを、たくさんの真っ青な蝶が飛びまわっている。
 とても幻想的な光景なのだが、この蝶が人を寄り付かせない原因となっていた。
 この青い蝶は実はキメラである。
 この蝶が放つ鱗紛は体に毒であり、一息吸い込むと途端に体が痺れて動けなくなってしまう。
 幸い死に至るということはないようだが、しかしこの草原一面にこのキメラが動き回っているのは危険である。一般人が近付くことが出来ない、まさに天国のような場所となってしまった。
 このままでは春の訪れを感じることが出来ない。この草原でのんびりと過ごすことが、この近くで住む人たちの生きる力になっているのだ。
 住人はUPCにこのキメラの駆除を依頼した。

●参加者一覧

蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
アレクセイ・クヴァエフ(gb8642
15歳・♂・DG
和 弥一(gb9315
30歳・♂・FC
アリシア(gb9893
17歳・♀・SF
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
ロイ・マッケンジー(gc3281
18歳・♂・DG

●リプレイ本文

●事前準備
「折角の行楽地なのに、それを占領してるなんて許せないね」
 蒼河 拓人(gb283)は言った。のんびりまったり好きの彼にとって、春の草原などは格好の場所。そんなところをキメラに汚されてしまっては困るというものだ。
 傭兵たちは高速艇で件の草原の近くにある町に行き、準備をする。拓人は町で草原の地図を調達した。地図といっても観光案内のような簡易的なものだが、ないよりはマシであろう。人数分を用意し、皆に配る。あとは鱗粉対策のマスクとゴーグルだが、こちらはUPCで支給されたものを持ってきた。どちらも普通の物だが、無いよりはいいだろう。個人で用意できなかった者に予備の分も含めて配った。
「各エリアをアルファベットと数字で分けておこう。地点を知らせるときに便利だからね」
 そこで各自の作戦を立て、準備を整えて草原へと向かった。

 草原には草花が咲き乱れ、春の暖かな風がゆったりと流れていた。足元くらいの長さの緑の草が、まるで小波のように揺れ動く。
「綺麗なとこだ‥‥こんな無粋な格好で踏み込むのが申し訳なくなる」
 緊張をしながらアレクセイ・クヴァエフ(gb8642)は言う。彼は学園の外で活動をするのが初めてで、当然キメラ退治も初である。AU-KVに身を包みながら武器の用意をする。念のため、AU-KVの下の生身にもマスクを着用している。
「‥‥ま、やるだけやるさ」
 そう答えたのは同じく初任務のロイ・マッケンジー(gc3281)だ。灰色を基調とした都市迷彩の施されたリンドヴルム装着し、左側頭部にコンバットナイフのエンブレムが施されている。彼も念の為、AU-KVの下にマスクを着用している。
 初任務のため、足を引っ張らないようにと気合を入れなおす。
 草原に少し入ったところで、キラキラと青く輝くモノが見えてきた。ひらひらと風に舞っているが、そこにいるモノは人類の敵であり、今回のターゲットである。
「わ!あれかー。きれいな蝶々さん!だけど、倒さないとダメなんだよね〜」
 少々呑気な回答をしたのはアリシア(gb9893)だ。
「一頭、もって帰っちゃダメかなぁ?」
 彼女は本気で考えているようだ。その証拠に、彼女の肩にはUPCより支給された簡易型の虫かごがかけられている。
「うーん、見た目がよくてもあれじゃあねぇ」
 オルカ・スパイホップ(gc1882)はとても残念そうにそう言った。彼は実はかなりのかわいいもの好きなので、今回の依頼を聞いたときは蝶々を捕まえて鑑賞しようと思っていた。しかし、鱗紛に毒があると聞いてガッカリ。でも諦めきれないので小声でぶつぶつと呟いている。
「綺麗なことは綺麗だが人を近づけないんじゃ、排除以外の選択肢は無いな」
 ジャック・ジュリア(gc0672)も少し残念そうに答える。
「確かに幻想的な光景だな。キメラでなければそのままにしておきたい処だけど。まぁ、そういう訳にも行かない訳だ。さっさと片付けてしまいますか」
 和 弥一(gb9315)がそういうとほぼ同時に、バイクの音が近づいてきた。先に草原の様子を見に行っていたリア・フローレンス(gb4312)はヘルメットを外しながら言う。
「探索してきたけど、かなりの数がいるみたいだね。しかもふわふわと好き勝手に飛んでるから、広範囲に広がってるみたい」
「そう。それじゃあ作戦通りに班ごとでどんどん撃破していくことにしようか。僕があの高台から指示するから、みんなよろしくね」
 拓人は草原の中でも比較的高い場所を指差して言った。
「あそこに行くまで、どこかの班に同行してもらいたいんだけど‥‥」
「じゃあ僕の班が同行しようか?ロイさん、いいかな?」
 リアの提案にロイも賛同する。
「よし、それじゃあよろしくね。他の班の人はそれまでキメラを追って撃破しておいてください」
 他の班員たちも頷くと、それぞれ班ごとに草原へと散っていった。

 拓人、リア、ロイは3人で高台を目指して進んでいた。リアを前衛に置き、あとの2人が後衛となって進む。ロイはもちろん、拓人とリアもマスクとゴーグルを装着して鱗粉への対策は忘れない。
 高台へ向かうまでの道のりに蝶キメラの姿は見当たらなかった。いつ飛んでくるかわからないので警戒をしつつ進んでいくが、蝶キメラを相手にすることは無かった。
「よし。ここまでくればもう1人で大丈夫だ。2人は他の場所でキメラの相手をしてくれ。すぐに僕が指示を出すからさ」
「わかった。気をつけてね」
 リアとロイと別れた拓人は、1人階段を上って高台を目指す。すぐに高台にたどり着いた拓人だったが、そこには蝶キメラが3匹、舞っていた。
 拓人はすぐに『狙撃眼』を発動、そして銃で射程内の蝶キメラを撃つ。
 少し大きめの蝶くらいの大きさしかないためなかなか狙いづらかったが、羽を撃ってキメラを落とす。一度当ててしまえば、蝶キメラはあっさりと落ちてしまった。
 キメラを撃ち落としてこの地点を確保した拓人は、早速双眼鏡と無線機を取り出し、高台から蝶キメラを狙い定めた。
「さあ、皆。張り切って撃ち落とせ」

 拓人からの無線連絡を受けたオルカとアレクセイは、蝶キメラが集まっているポイントへと移動した。
「お!いたいたー!!」
 拓人から支給されたマスクとゴーグルをつかたオルカは、蝶キメラを見つけて思わず声をあげる。反対に、アレクセイは少し緊張気味だ。
「よし、2人で回り込んで追い詰めよう!風下にいかないように注意な!」
 オルカの指示にアレクセイは頷き、2人で武器を構えて数匹の蝶キメラに襲い掛かる。
 アレクセイはオルカと共に回り込みつつ、互いの武器が当たらない程度に注意してキメラに攻撃をしかけた。スキル『竜の翼』を使い、一気に間合いを詰めて槍を振る。しかし、ひらひらと舞う蝶に攻撃を当てられない。
「あんまり逃げ回るなよな!」
 当てるのが難しいと判断し、さらに『竜の瞳』を発動させて集中力を高め、突く。
 蝶の羽が貫かれ、キメラはあっさりと落ちる。
 その間、オルカは一気に覚醒して蛇剋で『流し切り』を行い、さらに七首で追撃する。
 はらはらと、蝶が地面に向かう。
「ふー‥‥いっちょあがりーっと♪がんがんいくよー!」
 2人で追い詰めたお陰で、他の蝶キメラも2人の攻撃範囲に集まる形となった。2人とも続けて攻撃を開始し、蝶キメラを落としきる。
「ふぅん、キメラじゃなかったら…このまま自由に飛ばせてやりたいんだけどな」
 アレクセイの呟きにオルカも同調する。
「ホントホント。捕獲して鑑賞したいくらいなんだけどねー」
 と話していると、拓人からまた通信が入る。
『B‐4にキメラが集まってる。至急退治してくれ』
「了解!よーし、アレクセイ!どっちが多く倒せるか勝負だ!」
「え?!マジかよオルカ!」
 走っていくオルカに負けないように、アレクセイも走り出した。

 アリシア、ジャック、弥一の3人班もまた拓人の指示を受けて蝶キメラの討伐を行なっていった。
 指示された場所に行ってみると、確かに蝶キメラはたくさんいたのだがそれぞれが若干離れて動いている。
 3人は、それぞれがキメラを誘導し、一気に殲滅する作戦を取った。
「数は多いけど、少しづつ包囲を縮めていけば、自然と全部片付けられる」
 ジャックは風上側から接近しようと移動を開始する。
「ん〜風向きおっけ〜。ちゃ〜んと気をつけてるから大丈夫だよ〜」
 同じく風向きを気にしていたアリシアと共にまずは包囲を広めに取りつつガトリングガンを放つ。しかし、ただ撃つだけではなく、なるべく草原を壊さないように上目を狙って撃つ。
「包囲の隙間を抜けるやつには注意してくれ。下手に逃がすとまた増えかねない」
 注意を促しながら撃つジャックと同じく、アリシアも超機械でけん制しながら包囲網を縮めていく。
「はーい、ちゃんとあっちに行くのよ〜」
 2人は攻撃によりキメラを誘導していたが、弥一は少し違った方法を行なっていた。
「ふむ‥‥なんとかしてキメラを誘導して集められないだろうか?」
 弥一はまずシグナルミラーで光を反射させ、その光を当てて蝶キメラが集まらないかどうかを試した。しかし、キメラは光に反応しないようだ。
 次に、水を撒いて集まってこないかどうかを試す。
 すると、他の2人に追い込まれてきた蝶キメラが水に近付いてきた。
「よし、今だ。ジャック、頼む!」
 キメラの様子を見て集まってきたと判断すると、弥一は水場から少し離れてからジャックに向けて告げた。
 ジャックは『ブリットストーム』を発動し、扇状に一気に制圧射撃を撃ち抜く。
 命中率は下がってしまったが、その分数で圧倒する。
 たくさんの青い羽が地面を埋めたが、それでも当たらない蝶キメラが鱗粉を放ちながら飛んでいく。
「ん〜きれいな蝶々だからあんまり殺したくないけど‥‥ほかの人たちの迷惑になっちゃうもんね。ちゃんとやるよ」
 アリシアが銃撃を逃れたキメラに向けて超機械を放ち、弥一も接近して『刹那』を使い、着実に倒していく。
 この一帯のキメラは全て倒し終え、3人班はすぐさま拓人に報告した。
『お疲れ様。キメラも残り少なくなってきたみたいだ。着実に倒していこう。次は‥‥そうだな。D−5辺りに行ってくれ』
 拓人の連絡を受け、3人はその地点へと向かった。

「あー、リア。すまないが改めて宜しくな?頑張るよ」
「うん!こっちもよろしく!」
 リアと班を組んだロイは、拓人と別れたあと改めて挨拶を交わした。2人はバイクで草原を駆けながら指示された敵へと迫っていた。
 蝶キメラの姿を見つけると、リアはバイクを近場に停車してキメラに近付いた。ロイはもちろん、AU-KVを装着して戦闘に挑む。
 リアがまた前衛として前に出向き、ロイはリアの死角をカバーするように展開する。
 まずはリアが小銃でキメラに牽制攻撃を当てようと試みる。が、攻撃は当たらなかったが、牽制にはなったようだ。そのまま近付き『抜刀・瞬』を発動させ、一瞬でイアリスを抜いて切りかかる。
 攻撃を加えているリアの死角が狙われないように、ロイがリアのサポートを行なう。スコーピオンで射撃をするが、当たりと外れは五分五分のようだ。
「しかし、こうも的が小さいと当てにくいな?あんまりこの場所を荒らすわけにもいかないし」
 流れ弾で周囲の景観を壊し過ぎないように注意をしながら、射撃を続ける。
ロイのサポートを受け、リアも肉弾戦を要にキメラを切り倒していく。
 キメラをあらかた倒し、バイクで索敵をしようとしたところで、
『どうやらもうキメラはいないみたいだ。みんな、お疲れ様』
 拓人からの連絡が入った。どうやら他の班も順調にキメラを倒してまわっていたらしい。
 怪我人もなく、任務を終えられたことにロイはほっと一息ついた。

 草原が開放されたことを町の人たちに報告すると、町の人たちは感謝と共に早速草原へと繰り出した。幸いなことに、天気は快晴。町の多くの人たちが春の陽気と共に行楽を楽しんだ。
 傭兵たちも、LHに戻る前にこの草原で少しゆっくりすることにしていた。
「ああ〜疲れた〜」
 アレクセイはAU-KVを脱ぎ、草原に大の字になって寝転んだ。初めての戦闘という緊張状態から解放された気分は最高だ。爽やかな風がそよそよと流れる。
「さて、おつかれさん。まぁ、何とかなったかな?」
 ジャックは隣に座りこむ。ふと、銃弾が草原に転がっているのを見つけ、弾拾いをする。
「おつかれさま。さっき買ってきたんだが、食べないか?花見でもしよう」
 ロイは先ほど、軽い食べ物と飲み物を購入していた。みんなありがたくいただき、草原に揺れる草花に心を寄せる。
「それにしても蝶々、かわいかったのにな‥‥って、アリシア!どうして持ってるの?」
 オルカがぶつぶつと言いながら食べていたが、アリシアが虫かごに先ほどのキメラを入れているのを見て思わず吹きだした。
「うん〜。さっきどさくさにまぎれて1頭捕まえておいたの〜」
「へ、へぇ‥‥そ、それ、どうするの?飼うの?」
 オルカの羨ましそうな視線に対し、アリシアは首を振りながら答えた。
「ううん。ちゃんと研究してるおじさんたちに渡すのよ。飼いたくてもえさとかわからないし、キメラはキメラだもん」
「そうかぁ。そうだよなぁ」
 オルカは感心したように言った。
 そんな平和なやりとりを見て、拓人は微笑を浮かべつつ、この光景を忘れないように心に刻んだ。束の間の平和だが、こういうものが明日への力になる。
(もしかしたら、しばらくこんな光景は拝めないかもしれないしね)
「なぁ、みんなで写真を撮らないか?あれだ、初任務の成功の記念にな?」
 ロイは持参したインスタントカメラを持ってきて、こう提案する。

 パチリ。

 撮った写真には、みんなの笑顔と小さなモンシロチョウが写っていた。