●リプレイ本文
●孤児院を狙う敵
いつ孤児院が襲われるかわからない。傭兵たちはすぐに現場に急行したのだが、孤児院は無事のようだった。
「よく来てくださいました。本当にありがとうございます」
孤児院の代表のシスターは安心した声で傭兵たちに感謝を述べた。
「すみません、演奏会の依頼だったのにキメラ退治までしていただけるようで‥‥」
「いえ。私たちはそれが本業ですから」
ジュリアはにこりと笑って答えた。
「ゴブリンなぞに周囲で暴れられていては、心休まるまい。しっかりと退治して安心させないとな」
宵藍(
gb4961)は閑散とした孤児院を見て言う。外に子供の姿は見当たらない。子供たちも怖がって外に出れないのだろう。
「演奏会の方も任せてくださいね」
田中 アヤ(
gb3437)は元気良く言った。
「ガキンチョ共、楽しみにしてやがんだろうなァ‥‥気合入れて行くかぁッ‥‥とくらァな」
シャラク(
gc2570)は豪快に言うと、シスターも笑顔を見せながら答えた。
「ええ。子供たちは演奏会をとても楽しみにしています。そちらの方もぜひお願いしますね」
シスターとの挨拶も済み、傭兵たちは早速ゴブリンの討伐へと向かった。
傭兵たちは二班に分かれてゴブリンを迎撃する作戦を取った。孤児院の正面を守るA班の前衛は宵藍とオルカ・スパイホップ(
gc1882)と朝倉 舞(
gc2786)、後衛はシャラクだ。
「演奏会に出るって話だったのになんで戦闘しないといけないんだよ!」
オルカはにくまれ口を叩きながら配置に着いた。といっても、彼は戦闘に不慣れなため、オドオドしないようにこうして自分を保っている。
「オルカさん、そう言わずにしっかりやりましょう」
舞はオルカをたしなめるが、彼女自身も初の依頼で緊張を隠せない。
「そうですよゥ。お歴々、一丁気合入れていきやしょう」
シャラクは煙草を口にくわえながら言う。彼も緊張のためか、煙草を吸って気を落ち着けている。
孤児院の背面を守るB班は前衛が田中 アヤ、白露(
gc1451)、有村隼人(
gc1736)後衛がジュリア・コープスだ。
(初めて受ける依頼が孤児院絡み、ねぇ‥‥まぁ、俺らしいと言うかなんと言うか)
白露は背後にある孤児院を見ながら昔を少しだけ思い出す。彼も昔は孤児院で育った。そのため、どうも他人事には思えない。気合を入れなおして武器を構える。
その横では隼人が心を落ち着けようと空を見上げている。初めての戦闘に緊張気味だが、それよりも彼は演奏会を楽しみにしていた。LHでジュリアのピアノの噂を聞き、今回演奏会があるというので同行をした。自分は演奏が出来ないので他の人の演奏も楽しみにしている。
皆が警戒心を強めるなか、ソノラ(
gc2788)から無線連絡が入る。
『きましたよ!』
「私に銃を撃たせろ、って言っても流石に初陣だと柄にもなく緊張するわね。‥‥ま、口癖を言ってれば落ち着くってものだけど」
他の班が孤児院の周囲に展開している最中、ソノラは孤児院の屋根に登りながら独り言を呟いていた。索敵の担当となった彼女ははしごを借りて屋根によじ登っていた。斜めになった屋根の上でバランスを取り、双眼鏡を手に周囲の状況を探る。
「魚みたいに跳ねてくれれば見やすいのですけど」
『ソノラの姐さん! 何ぞ見えやしたら教えてくだせェ!』
ソノラが屋根に上がるまで警戒し『疾風脚』を使っていたシャラクだったが、無事屋根に上り終えたのを見て無線を入れる。ソノラは無線越しに頷き、周囲を見回す。
孤児院の周りはなだらかな丘が続いており、その起伏の影響で少々把握が難しい。
ソノラは丹念に索敵を続けていると、起伏の影から小さな影が見えた。遠くから見るとまるで子供のような外見だが、近付いてくると凶悪で醜悪な姿かたちが見えてくる。さらに、手には大きな鉈。
ゴブリン、だ。
「きましたよ!」
ソノラはすぐ無線機を取り出して各班に連絡する。
「正面に7体、背面に3体です。対処をお願いします!」
無線連絡後、ソノラも銃を取り出した。
「こちらには3体みたいね。早く倒して正面の援護に行きましょう」
ジュリアは銃を構えて正面を見据える。肉眼でも確認できるくらいにゴブリンたちは迫っていた。
「私が銃で牽制しますから、3人で一気に攻めてください」
ジュリアは覚醒し、狙いを定めて弾を放った。不意打ちを喰らったゴブリンは一瞬怯んだが、敵対者がいるとわかるとすぐに攻め込んできた。
「子供たちに無用な不安を与えたくない。なるべく孤児院に近付けないようにしよう」
白露は一気にゴブリンに近付き大身槍「零落」で突く。
「ここは通さない!」
隼人もマシーナリーアックスを構えてゴブリンに切りかかる。大きく薙ぐように斧を振り回し、ゴブリンの攻撃を寄せ付けない。その隙に白露は槍のリーチを活かした攻撃が続く。フェイントを入れた巧な槍さばきに、単純な思考しか持たないゴブリンは翻弄される。
ゴブリンのバランスが崩れたところを見計らい『円閃』と『刹那』を組み合わせ、攻撃。ゴブリンを倒した。
隼人はやや力任せの攻撃でゴブリンを攻めていた。鉈で防御しようとしたゴブリンは、斧の勢いを抑えきれずに吹っ飛んでいく。
そこへアヤがすかさず『瞬天速』を使い、ゴブリンに一撃を加えて離脱。目にも止まらぬ速さにゴブリンはやられたことも気付かずに倒れる。隼人はアヤの華麗な戦い方に感心しつつ、礼を言う。
「助かります!」
「いえいえー。それよりもさっさと片付けちゃおう!」
「はい!」
ジュリアの援護射撃も組み合わせ、もう一体のゴブリンも撃破した。すぐにソノラへ無線連絡を行なう。
「こちらB班。こっちのゴブリンは倒したよ」
『了解しましたわ。背後にはもう敵の姿が見えないので、正面に向かってA班の援護を頼みます』
「よし、行きましょう!」
隼人の掛け声と共に、B班の面々は孤児院の正面へと走り出した。
ソノラは敵の数の関係から、正面の敵に向けて『援護射撃』を行なっていた。
「貴方達はお客様ではないわ。ここで門前払いよ」
射撃を受けて、ゴブリンたちは怯んでいく。そこへA班の面々が次々と攻撃に移る。
「生憎、演奏会には招待してないんでな」
宵藍はゴブリンの懐に飛び込むと、深く踏み込んで敵の胸部を刺突。一撃でゴブリンを仕留めた。
オルカは長弓「桜姫」に武器を持ち替えて攻撃しながら接近、敵との間合いを計りつつ武器を持ち替えてスキル『両断剣』でゴブリンを切り裂く。
「何でも器用に出来るよっと♪」
先に出た宵藍とオルカを支援しようと舞も攻撃を開始する。敵の行動力を削ぐように、2人へ攻撃をしようとするゴブリンへ目掛けて超機械で攻撃を放ち、電磁波で痺れさせる。
「よし!」
「オルカ、舞、ナイス!」
宵藍はすかさず声掛けする。先輩傭兵の声を受けて2人のモチベーションも上がった。
「わしも負けてられませんねェ!」
シャラクも射程に入ったゴブリンに対して超機械を放つ。大抵の敵は前衛の皆が抑えてくれるのだが、3人の攻撃を抜けて孤児院に近付いてくる敵には容赦ない攻撃を浴びせかける。
何よりも、孤児院の子供たちに被害を出したくない。彼の想いは一つだった。
次々と攻撃は加えてゴブリンを仕留めていくが、それでも数には多少の不利がある。
少しづつ孤児院へと攻め込まれてきてしまったそのとき、B班の面々が合流してきた。
「すみません!遅れてしまいました」
「よし、一気に倒そう!」
全員が協力したら、ゴブリンなぞ敵ではなかった。無事ゴブリンを全滅させることに成功する。
「ふぅ‥‥」
オルカは全滅を確認すると『活性化』で自信の傷を癒しながら、初めての戦闘を噛み締めるように一息つく。
「他に敵はいないか?」
宵藍は残敵がいないかを確認するため、周囲を見渡す。
『ええ。こちらからもこれ以上の敵は見えませんわ』
ソノラも宵藍の様子を見て改めて双眼鏡で周囲を確認するが、敵の様子は見当たらない。
「終わりました、ね」
ジュリアが改めて言い、武器をしまう。これで孤児院の平和は取り戻すことができた。
あとは、楽しむだけだ。
●演奏会
子供たちの元気な声が孤児院中に広がる。
演奏会は孤児院の中でも一番広い部屋を貸し出してくれた。そこに子供たちが集まっている。キメラがいなくなったと知ってか、子供たちはさらに元気が出たようだ。
「ほーらガキンチョ共!マシュマロ食べるかァ?」
演奏会に参加する人たちが準備を進めるなか、シャラクは事前に用意していたホワイトマシュマロを配っていた。子供たちが嬉しそうにシャラクの元へと集まる。
「おーおー、そんなに好きかァ。それじゃあもっと用意しときゃあよかったな。あっ!そこっ!喧嘩するんじゃない!」
他の傭兵たちも子供たちと楽しそうに遊びながら、演奏を待つ。
「はーいみんなー。これから来てくれたお兄ちゃんとお姉ちゃんたちが演奏会をしてくれますからねー」
シスターが大きな声で言うと、その声に負けないくらい大きな声で子供たちが返事をした。
子供たちの返事で登場したのは宵藍とオルカとソノラだ。宵藍は自分の二胡【碧霞】を持ち出し、オルカはフルートを、ソノラはピアノをそれぞれ借りて演奏に望む。
「最初はみんなも知ってる童謡だ。わかったらみんな歌ってくれ」
宵藍が簡単な挨拶をし、演奏を始める。
子供たちは二胡という珍しい楽器から奏でられる、よく歌う曲が流れて不思議な気分を味わっている。そこにオルカのフルートとソノラのピアノが響きあい、とても懐かしい気持ちにさせる。
いつの間にか、子供の一人が童謡を口ずさんでいた。だんだんと伝染し、すぐに孤児院全体の大合唱へと繋がる。シスターたちも楽しそうに歌っている。
曲が終わり、みんなでパチパチと拍手をする。子供たちは存分に楽しんだようだ。
「次はクラシック‥‥って言っても分からないかな?ともかく、今度はゆっくりと聴いてみてね」
ソノラが言うと、ピアノの伴奏からスタートする。有名なクラシックのアレンジだ。
すぐにオルカと宵藍の演奏が入り、優雅な空間が広がる。心地のよい音色、だが楽しそうな音色。まるで音が社交ダンスを踊っているようだ。
それぞれのダンスの見せ場がやってくる。
まずは宵藍の二胡によるソロパートだ。不思議な音色が頬を撫でる。ゆったりとした音の演舞から、早弾きによる魅せる演舞まで。早弾きには思わず子供たちから歓声が起こる。
次にオルカのフルートソロ。軽快なメロディーが、まるで子供がはしゃぐように響き渡る。子供たちもうずうずと体を揺らして聴いている。
最後にソノラのピアノソロ。跳ねるスタッカートが心地よい。ピアノはシスターがよく弾いてくれているが、このような演奏は見たことがなかった子供たちは、滑らかに動くソノラの指に翻弄されていた。
ソノラのソロが終わったあとに宵藍とオルカがメロディーに加わり、演奏が終わった。
子供たちは素直に感動し、精一杯の拍手を送る。
「聴いてくれて有難う」
宵藍は微笑で返事を返す。
「ありがとうございました〜。楽しかった〜!」
オルカも大きく礼をする。ソノラも同じように礼をした。
「みんな、こんにちは!お姉さんたちの演奏、楽しんでる?」
次の出番のアヤは早速ノリノリで子供たちに挨拶をする。演奏前に服を着替えており、親友からもらったアクセサリがキラリと光っている。
反対に白露は少し恥ずかしそうだ。
「じゃ、早速歌うね。曲名はRainbow。虹って意味だよ。それじゃあよろしくね!」
アヤはアコースティックギターで伴奏を始め、歌が始まると同時に白露とのデュオとなる。白露はアヤを盛り立てるように、語りかけるように歌う。
この澄んだ大空 蒼く高く
隣のキミと手を繋いで きれいな虹を掛けよう
もしもキミが 迷ったときは
キミの隣を 見てごらん?
例えそこには 見えなくたって
大事な絆(もの)が きっとある
もしもキミが くじけた時は
キミの周りを 見てごらん?
例えそこには 見えなくたって
素敵な仲間(ひと)が きっと居る
この澄んだ大空 蒼く高く
隣のキミと手を繋いで きれいな虹を掛けよう
きっときっと ボクらの虹は
明日へ繋がる橋になって 素敵な未来に辿り着けるよ
2人の歌声がさわやかに響き渡り、曲が終わった。子供たちは2人の綺麗な歌声にうっとりとしながら聴き入り、はっと気付いたように拍手を奏でた。
「みんなありがとー!」
アヤは子供たちに大きく手を振り、白露は小さく礼をした。
「みんなすごいなぁ。演奏ができるって羨ましい‥‥」
隼人は思わず気落ちして呟いてしまった。
「みんないい曲ね。私が最後でいいのかしら?」
最後にジュリアがピアノの前に立ち、長い髪を軽く揺らして礼をする。
「それじゃあ、よろしくね」
細長い指で鍵盤を撫で、軽い力で弾いていく。滑らかな指の動き、なのに音色は力強い。
アップテンポのジャズのようなメロディーに、ジュリアの綺麗な声が楽しそうに鳴る。
歌詞は英語であった。もちろん、子供たちには歌詞の意味がわからない。しかし、それでも意味は伝わっていく。
楽しく、強く、たくましく。
夢のように素晴らしい日々を。
星のように輝く日々を。
大丈夫、これは夢じゃない。
だってキミがそばにいるから。
そう、歌っていた。
いつまでも楽しそうな表情で、ジュリアの音色が孤児院に響き渡った。
「噂どおりの人‥‥すごいなぁ」
演奏も終わり、隼人は噂が本当だということを確信した。
演奏会も終わり、子供たちと楽しく遊ぶ傭兵たちの姿があった。
アヤは子供たちに囲まれて歌を教えていた。その横で宵藍も二胡を子供たちに聴かせている。
「可愛い〜!!はっ?!こ、子供が可愛いって事だよ?」
オルカは孤児院に飾ってある可愛いぬいぐるみを見て思わず叫んでしまったが、慌てて隠そうとする。
「え〜。兄ちゃん、男なのにぬいぐるみが好きなの〜?」
「う、うるさいな!」
「なんだと〜。みんな!やっちまえ!」
オルカはそのまま子供たちにもみくちゃにされてしまった。
「コラー!僕のほうが年上なんだぞ!」
その様子を見て、子供を肩車していたシャラクは大きな声で笑った。
「いたずら‥‥よくない」
隼人は女の子をいじめていた男の子を優しくたしなめていた。
白露はすみっこで1人遊んでいる子を見つけ、昔の自分と重ね合わせて優しく声をかけた。
「孤児たちがこれ以上増えないように頑張らないと。」
子供たちの様子を見て、舞は決意を固める。
「そうね。これ以上子供の夢を壊すのはよくないもの。夢を守るのが、私達の一番の仕事ね」
ソノラも頷き、この光景をしっかりと心の中に焼き付けた。