●リプレイ本文
●勇者一行
魔王討伐のために立ち上がった若者が1人と、様々な思惑を持った仲間たちが7人。魔王の城の近くの森を歩いていた。
「そろそろ魔王城ですかねぇ」
神官のフレデリック(辰巳 空(
ga4698)の今回の役名である)は笑顔でそう言った。
「昔観光しに行ったコトあったっけ。確か少し前に先代倒されてるハズだから、今の魔王は‥‥どんなだろ?楽しみだねー♪」
フレデリックと共に笑顔を振り撒きながら飄々と話すのは魔法銃士のラウル・カミーユ(
ga7242)だ。
「でも住民の皆さんは困っているみたいですから。ちょっとお灸を据えなければいけませんね」
もう1人、穏やかな笑みを浮かべながら歩くのは佐々木 絵馬(
gb8089)。巫女装束の、三味線を使う吟遊詩人だ。
「ま、あたしはお宝がもらえればいいんだけどなー」
盗賊の北条・港(
gb3624)はぼそりと言った。彼女は世界の平和目的ではなく、初っから財宝狙い。
だが、実はお宝狙いの冒険者はもう1人いた。
「‥‥楽しみですね」
忍者の獅月 きら(
gc1055)は少年の姿でにやりと笑う。きらは女性なのだが、隠密のため今回は本来の姿を偽っている。
(はぁ‥‥本当に魔王の城に行くのか。にしても、こんな人数でとか‥‥やりずらいなぁ)
魔法剣士のユウ・ナイトレイン(
gb8963)は1人ため息をもらす。大勢で行動したりするのは苦手な彼なのだが、今回は依頼の関係で勇者と行動を共にしている。
「魔王ねー。魔神の私より強いのかしらねえ?強くなかったら私が魔王になっちゃおうかしら?」
背中の小さな羽根と尻尾を揺らしながらエイミー・シーン(
gb9420)は言う。このパーティの中でも特に異質なのが魔神の彼女。魔王の次に強いはずの彼女が何故か今回は勇者の方についている。‥‥ほとんど暇つぶしに。
さて、こんなパーティを束ねているはずの勇者はというと‥‥
「よしみんな!魔王城に向けて出発だー!!」
と一歩目を踏み出したところで‥‥コケた。
いてて‥‥とぶつけた頭を掻きながら立ち上がったのはヒーロー勇者の陽山 神樹(
gb8858)だ。
彼は昔、変身アイテム『サンライトコア』を偶然手に入れてしまい、それからは悪と戦うヒーロー勇者となって世界を旅していた。そしてついに、悪の元凶である魔王のところに辿りついたというわけだ。‥‥まぁ一歩目からつまずいたわけだが。
「ははは‥‥。さて、気を取り直して行くか!」
おーという掛け声が聞こえたり聞こえなかったりしながらも、一行は道を進んだ。
「ちょっと待つニャ!勇者ども!」
突然勇者たちに降りかかる、かわいい声。それと同時に草むらから数十匹ほどのネコ兵士が現れた。
「こ、ここから先は魔王様の領地ニャ!そう易々と通すわけにはいかないニャ!」
と先頭のネコ兵士が勇ましく言ったのだが、ピコピコと尻尾を振って近付いてきたエイミに、
「えい」
「ニャアー?!」
とばかりに空に蹴り飛ばされてしまった。憐れなネコ兵士はキラリと星に変わる。
「にゃん吉!おのれ!よくもにゃん吉を!みんな!やってしまうニャ!」
掛け声を合図にネコ兵士たちは一斉に勇者たちへと襲いかかった。
「望むところだ、魔王の手先め!いくぞ!サンライト・ゴー!」
お返しとばかりに神樹は『サンライトコア』を空へと掲げる。するとまばゆい光が神樹を包み、光が収束した場所にはヒーロー衣装に身を包んだ勇者【破暁戦士ゴッドサンライト】がポーズを決めて立っていた。
勇者に続き、他の者も続いて攻撃を開始する。が、1人だけ‥‥
「く‥‥魔王め‥‥!」
と攻撃を出来ない者がいた。きらである。彼女はすでにネコ兵士のキュートさにやられているようだ。
ラウルはネコ兵士の無力化に努め、睡眠弾を撃つ。ネコ兵士は次々と安らかな寝息を立てていくが、その数はなかなか減らない。
そこでラウルは一旦銃をしまい、迫りくるネコ兵士に向けて、
「あっちむいてホイ!」
を行なった。
「ンニャ!?」
つられてしまったネコ兵士に向け、手刀を放つラウル。直撃を食らったネコ兵士は見事に気を失った。
「少し痛かったカナ?ごめんねー」
と言いつつも次々と撃退していく。
絵馬は商売道具でもある三味線を取り出し、音波攻撃をしかける。
「一曲如何ですか?」
彼女の弾く陽気な祭囃子に、ネコ兵士は思わず踊り出してしまう。
「あははー、やめてくれ絵馬君ー」
その影響は味方である勇者の神樹にも及んでいた。ヒーロー姿のまま思わず踊り出してしまう。
「あら、すみません」
と謝りながらも演奏は止めない。ようやく一曲終えた頃には、ネコ兵士も神樹もへとへとになっていた。
「しかし、俺は負けん!喰らえ!サンライトフラッシュ!」
いち早く体勢を立て直した神樹は邪気払いの技を放った。
「ニャニャニャ〜〜」
ネコ兵士の邪気が消え、ただのネコへと変わってしまう。が、そこで神樹の変身も解けてしまう。彼はたった3分しか戦えないヒーロー勇者なのだ。強烈な負荷が神樹を襲い、動けなくなってしまう。
「うう‥‥みんな〜、5分だけがんばれ〜」
なんとか這ってフレデリックの背後まで移動し、ちょっと情けない声を出す。
「仕方ありませんね」
フレデリックは治癒魔法を使い、神樹を回復させながら皆をサポートした。
「ちょっとー!こっちもサポートしてよね!?」
港の叫び声が聞こえる。彼女は戦闘能力が皆無である。得意の縄使いで数匹の兵士を捕らえたものの、数に圧倒され始めて逃げるしかなくなっていた。
突然、港へと襲いかかっていたネコ兵士の足元が凍りつき、身動きが出来なくなる。ユウがの操る氷雪魔法だ。しかし、その魔法にもほとんどやる気は感じられない。
「ありがとう!助かったわ!」
港が礼を言うも、ユウは片手を軽く振るだけだ。
(‥‥普通の動物?魔物とかはおらんのか‥‥本当に気が引けるなぁ)
それとは対照的に、魔神エイミはネコ兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。多くのネコ兵士が星となった。
ネコ兵士たちは勇者たちの敵ではなかった。数十匹いたネコ兵士も、残すところはあと1匹。その1匹ももはや戦意を喪失して逃げようとしていた。が‥‥
「ちょーっと待った。あんたには道案内をしてもらうわよ」
「フニャ?!」
エイミに踏んづけられて逃げ道を失った。
「こらこらエイミ。そんなに乱暴をするもんじゃないよ」
ラウルがネコ兵士を立ち上がらせる。ネコ兵士がほっとした束の間、
「でもほら、罠とかあって痛いのヤだからさ。安全に魔王のトコまで行きたいなーと」
笑顔で銃を突きつけるラウル。どこが勇者だと思いつつ、ネコ兵士は自分の不運を呪った。
●魔王城潜入
「‥‥こっちですニャ」
すっかり観念したネコ兵士は素直に魔王城の中を案内した。城の中を進んでいく勇者たちだったが、港だけはこっそりと違う通路に入り、魔王城の中を進んでいく。
「ふふふ‥‥ついにこの時がやってきたわ!」
城には定番であるお宝を目指して通路を走りながら、エイミは今までの長い旅を思い出していた。勇者一行に取り入るため少しづつ接触を重ね、ようやく同行を許された。いろいろあったが、それもこの時のため。
「さーって、いただくわよー。待ってろお宝!」
気合いを入れ、港は長い通路をひた走る。
「あれ?港さんは?」
港がいなくなったことに気付いたきらは神樹に問いかける。
「さぁ。あいつのことだ。きっとお宝でも探しに行ったんじゃないか?」
どうやら勇者には港の目的はバレていたようである。
「あら、そうなんですか?‥‥私も行けばよかったかしら」
小さい声で付け加えるきら。お宝を先取りされ、つい本音が出てしまった。
「何か言いましたか、獅月さん?」
フレデリックが声をかける。
「あ、いえ、なんでもありませんわ。ほほほ‥‥」
「そうですか?しかし、いよいよ魔王との戦いの日々が‥‥終わるのですね」
フレデリックは感慨深そうに言う。そこには普段の彼からは想像できない重みがあった。
「そうだな。必ず魔王を倒し、この世界に平和を取り戻してみせる!」
神樹の掛け声とともに一行は魔王の玉座へと向かった。
「よく来たわね!勇者たち!」
魔王ラムルールは何故か玉座の上に立ち、びしりと指を指した。
「って、何よこいつら。あんまりカッコいい人いないじゃない。もっとワイルドな勇者はいないの?」
「ラムルール様、もっと魔王らしくしていただかないと‥‥」
勇者が来たというのに、目の前で内緒話をするラムルールとキルト。
「魔王が‥‥こんなかわいい少女だなんて‥‥!」
さすがの勇者神樹でも動揺を隠しきれないようだ。しかし、気を取り直しての勇者のセリフである。
「魔王よ!どうして人々を困らせたりするんだ!」
「えー。何いってんの?魔王なんだから当たり前じゃない。私は魔王なんだから、何をしてもいいのよ」
えっへんと胸を張るラムルール。その言葉を聞いて、フレデリックは苦笑を浮かべながら言う。
「魔王様‥‥あなたがそうですと、先人達に失礼では‥‥」
「なによあんた?」
「私は‥‥かつて勇者と共に何度もあなたの先代の魔王と戦ったブラックドラゴンです。魔王よ。もう無益な争いは止めにしませんか?私達もあなたの先人達に散々痛めつけられましたので恨みは無いといえば嘘ですが‥‥もう嫌なのです。憎しみは‥‥」
涙ながらに魔王の説得をするフレデリックであったが、
「昔の人がやったことなんかどーでもいいの。私は私。私の魔王をやらせてもらうわ!そして、もっとカッコいい勇者が来るまで魔王を続けるの!」
まだ幼いラムルールには通じなかったようだ。
「くっ!最後のセリフがなんだか気になるが、こんな女の子でも立派な魔王か‥‥だがしかし!お前のせいで困っている人たちがたくさんいるんだ!必ず俺が‥‥俺達が‥‥改心させてやる!」
「う、うるさいわね!やれるもんならやってみなさいよ!」
勇者の言葉を受け、ラムルールは身構える。
「それではまずは私が!」
忍者のきらがまず初めに先行。影分身の術を使って一気にラムルールへと近付く。
「あ、あれ?」
きらの分身に翻弄されるラムルール。そしてあっさりときらに羽交い絞めにされたしまった。きらはラムルールに‥‥全身くすぐり攻撃をしかける。
「きゃはははは!やめて!やめてー!!」
「ほらほら。まいった、もうしません、の一言で解放しますよ?」
ふふりとほくそ笑みながらくすぐる。他のメンバーもあっさりと捕らえられた魔王の姿に驚いている。実はラムルール、実戦は今回が初めてなのである。これまで厳しい旅をしてきた彼らには到底敵わない。
「わかった!わかったからやめてー!」
きらが手を離すと、ラムルールは涙目になりながら距離を取った。
「うう‥‥よくもやったわね!こうなったら、私の友達を呼んじゃうんだから!ドラちゃん、助けてー!」
ラムルールが叫び声を上げると、急に城が揺れた。そして扉からこの世界で最強最悪と言われている魔物、ダークドラゴンが姿を現した!
「どうしたの、ラムちゃん?」
「こいつらが私のことをいじめるの!やっつけちゃって!」
「ぬぬ‥‥ラムちゃんのことをいじめるなんて許せない!ぶったおしてやる!」
セリフとは裏腹に凶悪な叫び声をあげ、勇者たちに襲い掛かった。
「仕方ありませんね、それではこちらも本気になりましょう」
そう言うと、フレデリックは鱗と尻尾が生え、半人半獣の姿を変えた。
「‥‥やっと魔物らしいのが出てきたな」
ユウはやっとやる気を出し、両手に氷と水の剣を出現させて構える。
「はい!勇者の出番だよ!」
ラウルはダークドラゴンの前にぽんと神樹を押し出した。
「よし!みんな行くぞ!サンライト・ゴー!」
サンライトコアを高く掲げ、【破暁戦士ゴッドサンライト】に変身する。
ついに最後の戦いが始まった。
「やれやれ、一時はどうなることかと思いましたが‥‥」
勇者とドラゴンが戦いを始めたその横でキルトはため息をついた。と、そこへエイミがやってきた。
「あんた、さっきから胡散臭いのよね。私の障害になりそうだし‥‥退治しちゃっていいわよね♪」
「ひいっ!?」
そんなことを微塵も思っていないキルトは恐怖の声を上げる。
「まぁまぁエイミさん。キルトさんも大変なんですって。あ、お茶でもどうです?」
絵馬はいつの間にか用意していたお茶をエイミとキルトに勧める。
「ありがとー」
「すみませんねぇ。私は敵だっていうのに」
なんだか隣ではまったりとした空間が広がっていた。
その頃隣ではなかなかの死闘が繰り広げられていた。フレデリックのドラゴンブレス、ユウの氷水双剣攻撃、きらの影縫いとラウルの援護射撃が加えられているが、ダークドラゴンは倒れない。
神樹の変身もすでに解けてしまっている。だが、今回は引かない。負けられない勇者の戦いであった。
「ぐわ!」
しかし、弱い生身で勝てるほど甘い相手ではない。
「覚悟しなさい!」
いつの間にかダークドラゴンの背中に乗ったラムルールが、勝ち誇ったように言う。
「ちくしょう‥‥だが、負けるわけにはいかないんだ!くらえ!これが俺の心の光だぁー!」
最後の力を振り絞り、神樹は超必殺『ゴッドサンライトフラッシュ』を放った。
まばゆい光が城全体を包み込む。
「グワー!」
「きゃあー!」
光が収束していくと、そこには倒れたダークドラゴンとラムルールの姿があった。
神樹はよろよろになりながらも魔王に近付き、優しく抱き起こして言う。
「君に魔王は似合わない‥‥普通の少女として生きていく気はないかな?」
「はい‥‥」
悪の心を浄化されたラムルールは、目をハートマークに輝かせながら言った。
「そ、そんな!ラムルール様!」
「あ、キルト。私は勇者様についていくことにするわ!あとはお願いねー」
神樹の腕をぎゅっと抱きしめながらラムルールは幸せそうに言った。
「ちょ、そんな意味で言ったんじゃ‥‥」
神樹の声も聞こえていない。
「ああ‥‥これからどうすれば‥‥」
「あ、それじゃあ私が魔王になってあげる。ほら、私魔神だし」
エイミがかるーく言う。
「エイミさんならきっと素敵な魔王ちゃんになれますね。ほら、キルトちゃん。新しい魔王の誕生ですよ。おいしいご飯でも用意してくださいまし」
ほくほくと応援するきら。
「ええ?!」
「やれやれ‥‥まだ私の旅は終わりそうにありませんね」
フレデリックはやれやれといった様子だ。
「いいじゃんおもしろそうで。ね、ユウくん」
「‥‥今度のは手ごわそうだな」
ラウルとユウはボロボロになりながら言った。
「えーと‥‥どうなってんの?」
まんまとお宝をゲットして戻ってきた港は、この状況を全くつかめないようだった。
「ふふふ、今回の冒険も良い詩に出来そう」
絵馬は満足そうに三味線を取り出した。
こうして、世界は平和が訪れたとさ。めでたしめでたし?