タイトル:キメラレポートマスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/22 11:01

●オープニング本文


「ぐぁ!やばい!」
 研究室に響く苦悶の声。続いて、髪をぐしゃぐしゃとかき乱す音。発するのは、カンパネラ学園の地下にある研究所で働く青年、ノールである。シビリウスという上司の下、生物化学を研究している。
 ノールは髪の毛をかき乱したままの状態を維持しながら、上司の方をちらりと見る。
 上司のシビリウスも同じ研究室にいたのだが、苦悶のノールのことをちらりとも見ずに自分の研究に没頭している。
「シビリウ‥‥」
「うるさい」
 取り付く島もない。
「ひ、ひどい!苦悶する部下の悩みを聞いてやろうとは思わないのですかい!」
「お前の苦悶なんて毎月のことだろうが。もう飽きた。うるさいだけだ」
「そんなぁー。今回こそやばいんですってばぁ‥‥」
 シビリウスの腕をがっしりと掴む。
「離せ」
「だからそんなこと言わないで!今回の論文が全く進まないんですよぅ。助けてください」
「だから毎週のことではないか」
「今回は今までよりもっとやばいんです!」
 泣き言を言うノールには慣れている。この男はいつもそうだ。シビリウスは何度この男に対してため息をついただろうか。
「ああどうしよう‥‥これじゃ研究費用が止められちまう。今度こそおしまいだ‥‥」
「‥‥どのくらい進んだんだ?」
「‥‥まだ白紙ッス」
「期限は?」
「来週ッス‥‥」
「終わったな」
  やはり自分の研究に打ち込んだほうが良さそうだ。しかし、そこでノールは捲くし立てる。
「ああ!待って!どうにか!どうにかネタを!ネタをください!」
「お前は研究をなんだと思っているんだ」
「失礼しました!何か課題をください!」
「自分で見つけろ」
「そこをなんとか!」
「しらん。自分でキメラでも見てきて探してこい」
「自分でって‥‥僕戦えないですよ」
「それなら、傭兵の依頼に同行でもしてくればいいだろう」
 はっ、と何かに気付いたノール。
「その方法がありましたね!早速UPCに行ってきます!」
 まさに飛ぶ勢いで部屋を飛び出してった。やれやれと頭を振りながら、シビリウスはコーヒーを入れた。

「ぜぇぜぇ‥‥と、いうわけで、今回の依頼には俺も、ついて、いきますので、よろしく、頼みます‥‥はぁはぁ‥‥」
 オペレーターと傭兵の前で、息を切らしたノールはなんとか挨拶を交わした。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
安藤ツバメ(gb6657
20歳・♀・GP
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

●現場事前
「助けてくれて本当にありがとう!」
 高速艇に乗り込みながら、ノールは同行を許してくれた傭兵たちに感謝を言った。ノールにとってはまさに首が繋がった、といったところだろう。
 が、傭兵たちも研究者が同行するとあって、この際だからキメラの研究をしようと思っている人も多いようだ。
「キメラの生態?まぁ、興味はないが私も研究者。協力しようではないか〜」
 と言うのはドクター・ウェスト(ga0241)だ。
「なんと。あなたも研究者ですか?ちなみにどんな研究を?」
「我輩の研究は主に、キメラの攻撃能力やFFの強度といったものを中心にしているね〜」
「ほほー。それはすごい。研究課題に事欠かなさそうですね」
 などと話しているところに、もう一人の研究者UNKNOWN(ga4276)が紫煙をくゆらせて近付いてきた。
「うむ、きちんと研究するといい。研究とは、初めはとっぴもないところから始まるもの、だ」
「おお!あなたも研究を?」
「まぁそうだ。私の場合はいろいろな研究を行なっているのだがな。それはそうと、私も研究をしてみよう」
 と目をきらりと輝かす。
「キメラの生態調査?生体兵器の生態って十中八九は一定していないと思うんだけど、それを調査する意味ってあるのかね?」
 ぶっきらぼうに言い放つのは鹿島 綾(gb4549)である。その言葉に二人の研究者はぴくりと反応をしたが、ノールはそれ以上に不安な表情を見せる。
「そ、そんなこと言わないでくださいよー。俺も必死なんですから。ま、それも研究してみないとわかんないですって」
(捕まえて解剖した方が早い気がするけども‥‥ま、いいか)
 綾はノールの言葉を聞き、声には出さずに肩をすくめる。そんなノールの様子を見て安藤ツバメ(gb6657)は、
(んー、中々のどじっこと言うかウッカリさんと言うか‥‥今まで何してたんだろ)
 と思いながら心配そうに見つめていた。
「生態調査‥‥ただ全部撃ち倒しちゃダメなのか。変なハンデが付いたもんだ」
 銃の手入れをしながら呟くのはジャック・ジュリア(gc0672)だ。とは言いつつも、キメラの研究には興味があった。
「んで、ノールはどんな研究をしたいんだ?」
「えーと‥‥それがまだ考えてないんスよ」
 ノールの軽い口調に思わずずっこけるジャック。
「とりあえず、今回は亀キメラがいるみたいなので、普通の亀との違いを研究してみたいかなと。俺んとこでも亀は飼っていますしね」
「砂浜に‥‥卵があったりしてな」
 須佐 武流(ga1461)も戦闘の準備をしながら思案する。卵があったら被害はもっと拡大してしまうだろう。もっとも、重要な研究材料になるだろうが。
「研究、トヤラハ、ヨク、ワカリマセンガ、トニカク、のーるサン、マモリマショウ」
 先ほどから首をかしげながら会話を聞いていたムーグ・リード(gc0402)だが、自分の役割を把握したようだ。

●実験戦闘
「けひゃひゃ、いるいる。実験材料たちがいるぞ〜」
 怪しげな笑い声をあげながら砂浜に佇む亀キメラを見るウェスト。もはや研究というよりも狂気すら感じられる。
「よし、さっそく生態調査を‥‥って、ムーグさん。この縄はなんですか?」
 見てみると、ノールとムーグの体がしっかりと縄で繋がれていた。
「安全ガ、確認サレルマデ、前ニ、行ッテハ、ナリマセン」
「え、でもそれじゃ研‥‥」
「…良イ、デス、ネ…私、ヨリ、先、ハ、死、アル、ノミ、デス」
 片言の言葉にも有無を言わさない迫力があった。ノールはそれ以上何も言えなくなり、ぐったりと肩を落とす。
「ま、まぁ、守ってもらえるのは嬉しいッス。でも安全になったらキメラにも近付かせてくださいね。そうしないと論文が‥‥」
「ワカッテ、マスヨ。ソレデハ、あんのんサン。アノ、作戦ノ、準備ヲ、シマショウ」
「うむ」
 そう言うと、UNKNOWNとムーグは砂浜に穴を掘り始める。ノールは彼らの行動を見て首を傾げた。
「じゃあ我輩も行こうかね〜。ツバメ君、ちょっと手伝ってくれ」
「はいよ、ナカマツ」
「‥‥なんで我輩がナカマツなんだ?」
「フフフ、そこはヒミツかな?」
 にやにやと笑いながらツバメとウェストと共に亀キメラへと近付いていった。

 ウェストはまず、小石を亀キメラに投げつけた。キメラに当たる瞬間に、キメラの周りにFFが張られ、小石を弾く。
「ふむ。FFはしっかりと張られているようだね。強度はまだわからんが、なかなかに固そうだ」
 FFの分析が終わると、今度は四本のアーミーナイフを取り出した。それぞれに属性が付与されており、順番に突き立てていけば自ずと亀キメラの属性も判別される。
「久しぶりにこれを持ってきたね〜」
 ウェストはツバメと共にキメラの動きに注意しつつ、一匹の亀キメラに向かっていった。ツバメは亀キメラに取り付き、動きを抑える。その隙にウェストはアーミーナイフを次々と突き刺していった。
 その結果、雷属性のアーミーナイフは効果が大きかったが、逆に火属性のナイフではほとんどダメージを与えることができなかった。
「ということは、こいつは水属性ってわけだね〜。やはり海に住んでるからだろうかね。それにしても‥‥硬いね、こいつは」
 雷属性のナイフだと効果的だが、それ以外の水や無属性の武器でもほとんどダメージを与えることはできない。これは、この亀キメラ自体の防御力とFFの硬度が高いのであろう。力の弱いウェストでは物理攻撃が通じない。
「ふむ。やはり見た目通りといったところだろうね。しかし、バクアも地球の生物をよく知ってるみたいだね〜」
 と思案する。
「おーいナカマツ!もういいの?!こいつ暴れるから抑えるの大変なんだよー!」
 ツバメの声を聞き、ようやく我に返った。自分のエネルギーガンを装備しつつ、スキル『練成強化』を放ってツバメの武器を強化する。
「属性の確認は終了したね。あとはFFの具体的な強度を見たいから、思いっきりやっちゃってくれ〜」
「了解!さて、どれだけ硬いかな?ゼロ!ブレイカァァァ!」
 ツバメの必殺技『ゼロブレイカー』を亀キメラに叩きつける。ゼロ距離からの強烈な打撃を受け、亀キメラの巨体が吹っ飛んだ。しかし、高い防御力に加えて生命力もなかなかのものらしい。亀キメラはまだ命があるようだった。
「あちゃー。とどめをさせなかったかー。じゃあ、次は作戦その二だ!」
 と言いながら亀キメラの足元に走り、足元の砂を殴ってかき出し、亀キメラの転倒を狙う。
 ツバメの意図を汲み取った綾は『ソニックブーム』を放って亀キメラのバランスを崩し『二段撃』を駆使してとひっくり返すように攻撃を与える。
 二人の攻撃が合わさり、亀キメラは見事にひっくり返った。

 その頃、UNKNOWNとムーグはちょうど罠を作り終えていた。ちなみにムーグと縄で繋がっているノールは、ウェストたちの実験と戦いを遠くから見てメモを取っている。
 二人の作った罠というのは、落とし穴だ。砂浜に穴を深めに掘り、新聞紙広げて穴を隠しておいた。近くには集めておいた乾いた木々や葉を集めて置いてある。
「よし。あとはこれでおびき寄せるだけだ」
 UNKNOWNは自前の釣竿を取り出した。先には大きめの鶏肉がぶらさがっている。一体のキメラに狙いを定め、餌をキメラの眼前に差し出す。キメラは美味しそうな肉を目の前にし、誘われるように罠の方へとやってきた。
 UNKNOWNの誘いにうまく乗り、亀キメラは落とし穴へと落ちていった。
 素早く木々や葉っぱを放り込み酒を流し込む。さらに、火を付けた木片を穴の中へと入れた。アルコール濃度99%の『スブロフ』は一瞬にして燃え上がる。
「おおっ!」
 ノールは思わず声をあげる。罠はこのために作られていたのだ。
 亀キメラはなんとかして這い上がろうとするのだが、UNKNOWNはその度にブレイクロッドで突き落としていた。
「さて、後はじっくりと蒸し焼きだ。ここは私に任せておきなさい。出来上がるまでは他のキメラの研究をしておけばいい」
 煙草を燻らせてのんびりとUNKNOWNは言った。ノールはその手際の良さに感心しつつ、メモにキメラが焼かれていく様子を記載した。

 武流は近付いてきた亀キメラに向かい、蹴り技主体で連続攻撃をしかける。
「硬いなら効くまで叩き込むまで!」
 さらに武流は『急所突き』を使い、勢いをつけるため一旦距離を取る。そして、ダッシュして加速をつけ、ジャンプして上空から襲い掛かる。
 空中で手首を捻り、相手の体に食い込む様にねじり込む掌ていを喰らわす。
「名づけて、螺旋掌‥‥か?」
 武流の一撃を受け、警戒した亀キメラは頭と足を引っ込めて防御体制をとった。そこでジャックは一旦射撃を止め、弾を貫通弾に入れ替える。さらに『強弾撃』を使用して狙いを定め、防御体制のキメラへと弾丸を撃った。
 鈍い音が辺りに響く。が、まだキメラは倒れない。
「それにしても甲羅が硬い。ガトリングガンを使ってるんだけどな‥‥」
 ジャックは若干呆れつつ銃を構えなおす。どうやらこのままやり続けるには骨が折れそうだ。
「武流。実験も兼ねてこいつをひっくり返そう」
「そうだな。古典的だが有効な手段だろう」
 二人は殻に篭っている亀キメラのそばに行き、力を合わせて持ち上げてひっくり返した。
 砂浜に二体の亀キメラがひっくり返された状態となった。
「おーいノール。こっち来てみてくれ。これなら危険は無いだろうからさ」
 ジャックがノールに声をかける。その言葉を聞き、ノールはもう一体の亀キメラを相手にしていたムーグに声をかける。
「ムーグさん。俺あっちに呼ばれてるんスよ。あっちの方に行ってくれませんかね?」
 ムーグは射撃を続けながらも様子を窺う。視線の先にはひっくり返っている二体の亀キメラの姿があった。
「危ナイ、デス‥‥ヨ」
「大丈夫ですって!ってか俺に研究をさせてください!」
 ほとんど半泣きで訴えるノール。しかし、こちらには相手にしているキメラもいる。
「俺がもう一匹は引き受けよう」
 武流がキメラの相手に名乗りをあげてくれた。ムーグは感謝をしつつ、ノールと共にひっくり返ったキメラの下へと向かった。
「そういや、子供の頃さ。亀をひっくり返して観察した事って無かったか?」
 綾はノールにそう聞く。
「確かにそうッスね。こう観察すると安全です。へぇ、こんな間近でキメラを見たのは初めてだけど‥‥ふーん」
 すっかり研究者の目つきになったノールは、じっくりと観察しつつメモを取る。
「海亀の一種で甲羅が平たいなら普通は戻れるはずだけど・・どうかな?」
 そう言うジャックの目の前で、亀キメラはじたばたと手足を動かしている。どうにか勢いをつけて元の状態に戻ろうとしているのだが、傭兵たちの攻撃を受けているためその動きにも力がない。甲羅の上からでもダメージは与えられていたようだ。
「この甲羅、組成がさっぱりだけど硬度はあるみたいだし、武器とかに加工って出来ないもんだろうか?」
 ジャックは続けてノールに尋ねる。
「もしかしたらいけるかもしれないッスね。俺はそっちの専門じゃないからよくわからないけど、この甲羅は有効活用できるかもしれないなぁ」
 などと一緒に分析する。
「我輩もサンプルを採取しておこうかね〜」
 ウェストもついでにとばかりに観察し、亀キメラの体の一部を採取する。
「よし、大体は分かりました。もう大丈夫ッス」
 ノールは調査が終えたことを傭兵たちに伝えた。
「さて。じゃぁ、そろそろ裏側の強度検査といこうか?残念ながら、非破壊検査ではないけどな!」
「ご協力かんしゃしまーす♪」
 綾とツバメはそれぞれ一体ずつ、トドメの一撃を加える。やはり甲羅で覆われていない裏側は防御力が低いらしく、二体のキメラは見事に倒れた。
 その後、武流が相手をしていたもう一匹のキメラも集中攻撃を加え、撃破をした。

「そっちはどんな感じですか?」
 三体の亀キメラの撃破を確認し、傭兵たちはみなUNKNOWNのもとへと集まっていた。UNKNOWNは落とし穴の中を見ながら言う。
「ふむ。先ほどから這い上がることもなくなってきたし、もう大丈夫だろう」
 ノールは落とし穴の中を見た。するとそこには、こんがりと焼けた亀キメラの姿があった。いくらFFが効いているとはいえ、こう何度も炎の中でドツかれては、倒されざるを得なかったのだろう。もしかしたら、元々体力が低かったのかもしれない。
「おもしろいことをやってるね〜」
 ウェストも感心していた。UNKNOWNは微笑を浮かべる。
「この方法だと、普通の者にも出来るだろう?」
 皆で協力をし、亀キメラを穴から引き上げた。こんがりと焼けた亀キメラからは、なんだか香ばしい匂いがする。
「この亀って、味付ければ喰えそう?」
 ジャックは尋ねる。最近、食えるキメラを倒す依頼に行ったので、興味があった。
「さ、さぁ?俺もキメラを食べるなんて聞いたことないし‥‥」
 ノールはメモを取りながらも困惑しているようだ。
「研究したらどうだね?」
 UNKNOWNは微笑を絶やさずにノールに言う。
「‥‥え?え?」
「ほら。これも研究の一端だと思って、さ」
 なんだかだんだんとその笑顔が怖いものに思えてきた。
「マ、マジッスか?」
「ああ、マジだ」
「ううー」
 ノールが悩んでいると、隣でムーグが当然のように、
「ドウ、シタン、デスカ?早ク、食ベマショウ、ヨ」
 と言い放った。
「ええー?!」
「ほらほら。ムーグもそう言ってることだし」
「わ、わかりましたよ!食べてみます!」
 ナイフで切り分けた肉をもらい、ノールは思い切って肉を頬張った。
「どうだい?」
「‥‥あ、れ?ちょっと固いけど、これは‥‥」
 ふむふむと言いながらもう少し味わうように食べてみる。決して美味いとは言えないが、食べられないとも言えない、微妙な感じだ。
「どうだい?いいレポートは書けそうかい?」
「は、はい。皆さんのお陰でなんとかなりそうです。今日はありがとうございました」
 ノールは感謝の言葉を言った。

●実験結果
 砂浜の戦闘実験後、綾はノールを尋ねていた。どの程度の成果が出たのか確認しておきたいからだ。
「やぁ、お疲れさん」
「あ、綾さん。お疲れ様です」
 研究所にいたノールは、大きな隈を目に宿していた。
「で、論文は上手くいきそうなのか?」
「ええ。今回は驚くくらいいろんなことが研究できましたからね。キメラの属性からFFの硬度。間近での生態調査に‥‥キメラの味も、ね。ただ、この成果をまとめるのが大変で‥‥もう三日寝てませんよ」
 ははは‥‥と力なく笑うノール。
「そうか。役に立てたみたいでよかった。がんばれよ」
「は、はい。また何かあったらよろしくお願いしますね。皆さんにも伝えておいてください」
 と言い、二人は別れた。綾は、研究者も大変なんだなと思いつつ研究所の長い廊下を歩いていった。