タイトル:救助犬訓練マスター:九頭葉 巧

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/07 00:36

●オープニング本文


「今回の依頼は、四国は香川県のとある町で起きた事件です」
 UPCオペレーターは依頼について説明を始めた。
「山の付近の町なのですが‥‥突如獣型のキメラに襲われてしまい、村人たちは一斉に避難をしました。幸いにも死者は出なかったようですが、三名の行方不明者が出ています。傭兵の皆さんにはその捜索に当たって欲しいのですが‥‥」
 ここでオペレーターは言葉を区切った。
「今回はその救出に同行して欲しいものがいます」
「そこからは私が説明しよう」
 オペレーターの横にいた白衣の男が前に出た。
「私の名前はシビリウス。研究員だ。主に生物化学を研究している」
 白衣の男はそう名乗った。
「今回は私の研究室で飼育している犬を連れて行って欲しい。様々な訓練や研究を重ねた二匹の犬だ。ようは救助犬だな。その犬たちをつれて、あなたたちには行方不明者の救助に当たって欲しい」
 シビリウスは説明を続ける。
「これは実験でもあり、訓練でもある。この実験が成功すれば、この先キメラに襲われた町があっても救助が迅速に行なわれることだろう。人類の未来のための第一歩だ」
「犬たちの実地訓練とはいえ被害者もいますし、現場にはキメラもいます。気を抜かずに救助に当たってくださいね」
「その通り。うちの犬たちも訓練中の身とは言え、足手まといにはならないと思う。戻ってきたら、犬たちの成果を報告してくれ。よろしく頼む」
 シビリウスは軽く頭を下げた。
「ここに依頼のデータと犬たちの特徴を記しておきました。目を通しておいてください。それでは、よろしくお願いします」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
正木・らいむ(gb6252
12歳・♀・FC
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG

●リプレイ本文

●L.H.
 依頼を受けることになった八人は、現場へ行くための準備を進めていた。そこへシビリウスが二頭の犬を連れてやってきた。
「お待たせした。この子たちが今回お世話になるダルメシアンのケリーとゴールデンレトリバーのニサだ」
「よろしく、だ。相棒」
 UNKNOWN(ga4276)はしゃがんで頭をわしゃわしゃと撫でる。
「宜しく頼むぞ、ニサ、ケリー。ところで、シビリウスさん。少し聞いておきたいことがあるのだが」
 白鐘剣一郎(ga0184)は犬たちに声をかけた後、シビリウスに尋ねた。
「なにか?」
「ニサはキメラに敏感と言うが、キメラを感知した時と、人の気配を捉えた時の反応の違いはあるのか?」
「そうだな。訓練時だと、キメラが近付くと興奮して唸るのが大きな特徴だな。人の気配を捉えたときは、興奮せずに吠えて知らせる。これはケリーも同じだ。ケリーは救助者の位置まで動いていくが、ニサはそこまでいかない」
「わかった。ありがとうございます」
「よろしく頼む」

●事件現場
 現場の村についた衛兵たち。そこで、事前の打ち合わせの通りケリー班とニサ班に分かれる。
ケリー班はUNKNOWN、風代 律子(ga7966)、ファタ・モルガナ(gc0598)、正木・らいむ(gb6252)。
ニサ班は白鐘剣一郎(ga0184)、木場・純平(ga3277)、ムーグ・リード(gc0402)、時枝・悠(ga8810)だ。
「出発前に、先ほどオペレーターに確認した救助者の詳細とキメラの情報を伝えておこう」
 UNKNOWNは黒革手帳を開いてメモを見る。
「子供の名前は青村 健太。女性の名前は境 響子。そして、老人の名前が桐島 竹彦、だそうだ」
 ページをめくり、続けて言う。
「キメラの特徴なのだが‥‥山から大きな獣が集団で襲ってきたという証言がある。複数のキメラがいると予測される‥‥だそうだ。気をつけてかかろう」
 黒革手帳をしまうUNKNOWN。
「了解した。それではニサ班の俺たちは村の西側を捜索しよう。無線連絡も忘れずに、な」
 純平はそう言いながら歩き始めた。
「被害を出さず、成果を上げる。いつも通りだ」
 悠も純平について行くような形で歩く。
「それじゃームーグ君、ここでお別れだねぇ。頑張ってねー」
 フードを目深に被った女性、ファタ・モルガナは軽く声をかけた。
「ハイ。もるがなサンも、キヲツケテ。ソレデハ、ニサ、サン‥‥夜露死苦、御願イ、シマス」
 片言の日本語を喋りながら、ムーグはニサの手綱を持ちながら歩いていった。剣一郎もその後をついていく。
 ニサ班が行ったところで、ケリー班は逆の東側の捜索を始める。こちらで手綱を持つのは、モルガナである。
「やー。ヨロシクね、ケリー。一端の救助犬への道は険しーぞ!ガンバレッ」
 任せて、と言わんばかりに返事をするケリー。その返事に安心をした面々は、無人の村を進む。
 モルガナとケリーを中心に、UNKNOWNが前、正木が左側、そして律子がやや斜め右側だ。律子は方位磁石で方角を確認し、建物に目印をつけながら進んでいく。その間にもケリーの様子に気を配る。救助犬見習いはふんふんと鼻を鳴らしながら慎重に進み、人の気配を逃がさないように気を配っているようだ。
 十字路に差しかかる。そこでケリーは立ち止まり、それから急にぐいぐいとモルガナを引っ張り始める。
「なにか掴んだのかな?」
 律子は方位磁石で確認をしながらケリーの様子を窺う。傭兵たちは素直についていくと、ケリーは無人の民家に向かっていった。その家の門を前足で軽く押す。が、犬の足では上手く開かない。モルガナが開けてやると、隙間からするりと入っていった。
 そのまま家には入らず、外の小さな庭の方へと向かう。
 そこには小さな物置があった。ケリーはもう一度確かめるように鼻を鳴らすと、その物置に向かって一直線に向かっていった。
 わんっと一声吠える。
 物置の中から小さな物音が鳴った。
 UNKNOWNが前に出て、注意深く物置の扉を開ける。
 すると‥‥そこには男の子が小さな体を震わせていた。
「よし。もう大丈夫だぞ」
 UNKNOWNは優しく声をかける。しかし、男の子はいきなり現れた見知らぬ大人に対して警戒しているようだった。そこに、ケリーが体を滑り込ませた。
「あ!わんこだ!」
 ケリーの姿を見ると、安心したように声を出す。
「青村健太くん、かな?」
 律子は優しく声をかけた。
「う、うん。お姉ちゃんたちは?」
「君を助けにきたんだよ。もちろん、このわんこもね」
 その言葉を聞いて、健太は安堵したようだ。UNKNOWNの差し出した手をしっかりと握り、物置を出てきた。
律子は健太が落ち着いたのを見ると、持っていたリンゴジュースを与えた。
「はい、これ飲んでね」
「ありがとう!お姉ちゃん!」
 隠れていて喉が渇いたのだろう。健太は勢い良く飲み干した。
「ユクエフメー、発見じゃな!今までよく生きていた!ほめてつかわずのじゃ」
 子供が無事だったこともあり、らいむも安堵の声を漏らす。
 傭兵たちはニサ班に連絡をし、ひとまず健太を安全な場所まで保護することにした。

「ふむ。ケリー班は早速、子供を保護したらしい」
 無線連絡を受け取った純平は警戒を続けながらも安堵の笑みを浮かべる。一刻も早く、他の行方不明者も見つけなければならない。
 だが、ニサはまだ反応らしい反応を見せてくれない。こちらからも呼びかけを行なってはいるのだが、まだ見つからない。
「ニササン、ドウデスカ?ナニカ、気配ハ、シマセンカ?」
 ムーグは積極的に声をかける。ニサは所在なさげにキョロキョロと周りを窺っていたが‥‥急に一点を見つめ始めた。
「ん?どうした?」
 悠が声をかけると同時に、ニサの表情が険しくなる。低い声で唸った後、急に走り出した。
「ドウ、シタンデスカ?」
 ムーグは手綱と共に引っ張られた。他の傭兵たちもニサのただならぬ様子に何かを感じ、走り出す。
 ニサが向かうその先の道路には、必死に走るスーツ姿の女性と‥‥女性を襲う大型の猿キメラの姿があった。
 傭兵たちは即座に覚醒し、武器を構えた。
「天都神影流・虚空閃!」
 剣一郎はそう叫び、剣を振るう。剣圧が衝撃波となって飛び、女性とキメラとの間の空間を裂いていく。猿キメラは突然現れた斬撃に驚き、動きを止める。
 その隙に、悠の放ったもう一つの衝撃波が猿キメラを襲う。一度動きを止めた猿キメラは、衝撃波の直撃を受けて血を流した。
 猿キメラが体勢を立て直したときには、すでに傭兵たちが女性を庇うように陣形を整えていた。
「大丈夫か?!」
 純平は女性に声をかける。女性は疲弊しきっていてまともに声を出せなかったが、かろうじて首を立てに降る。だが、女性は体のあちこちに傷を負っているようだった。
 猿キメラとニサの唸り声が同時に響く。
 純平とムーグは女性とニサを守るように前に立つ。猿キメラは叫び声をあげながら襲いかかってきたが、剣一郎と悠の剣が猿キメラの爪を止めた。
 そこですぐさま悠は二段撃を放ち、二振りの斬撃を与える。猿キメラの動きが止まったところで剣一郎は、
「天都神影流・鍔鳴閃!」
 と叫び、剣閃の煌かせる。後には真っ二つになった猿キメラだけが残されていた。
「サ、コレヲ飲ンデ、落チ着イテクダサイ」
 安全を確認し、優しい口調で烏龍茶を手渡すムーグ。女性はゆっくりと飲み物を飲む。一口飲んだところで、やっと落ち着き始めたようだ。
「ありがとうございます。お陰で助かりました。えと、私は境 響子と言います。突然化け物が現れて、それで隠れたんですけど‥‥」
 襲われたことを思い出して、だんだんと怯えた様子になってしまう。悠は救急セットから包帯を取り出して、響子の傷に手当てを施しながら言う。
「大丈夫。落ち着いて話して。それで、他の人は見なかった?もう一人、桐島竹彦っていうご老人がまだ行方不明なんだけど」
「竹彦さんが?」
「知っているの?」
「ええ。私は介護士なんですけど、いつもお世話をしている人です。今日も竹彦さんの自宅に行こうとしたところで襲われて‥‥」
「竹彦さんの自宅の場所は?」
 純平が尋ねたところで、ニサが短く唸る。どうやらキメラの気配を察知したようだ。傭兵たちも警戒を怠ってはいないが、傭兵たちよりも遥かに敏感に気配を感じ取れるようだ。
「‥‥この場所に留まるのは危険だな。すみやかに護送したいが‥‥仕方ない。響子さん、その家に案内してくれ」
「わかりました。竹彦さんの自宅はこの村の北の方にあります。こちらです」
 剣一郎の問いに、響子は力強く答えた。一行はケリー班に連絡を入れ、進み始めた。

「村の北の家?そこに竹彦さんはいるかもしれないんだね?了解、そちらの方に向かうわ」
 モルガナはニサ班からの無線連絡を皆に伝える。ケリー班の面々は無事健太を送り届け、すぐさま村へと戻ってきていた。ケリーに従い、捜索を続けている。
「ということなんだけど、律子さん。自分等は今どの方向に向かってるの?」
「‥‥すごいわね、ケリー。ちゃんと北を目指してる。やっぱり、そこに竹彦さんがいるみたいだわ」
 ケリーの歩みに迷いはない。しっかりとした足取りで一行を先導していった。
 警戒しながら進んでいくと、小さな平屋が見えてきた。表札には『桐島竹彦』の文字がある。
 モルガナは平屋の扉を開ける。建てつけが悪いのか、力を入れないと扉が開かなかった。ぎしぎしと音を立てて扉が開き、薄汚れた内部が姿を現す。
傭兵たちが捜索しようとすると、部屋の奥からか細い声が聞こえてきた。
「た、助けてくれ‥‥」
 声のする方に向かうと、老人‥‥桐島竹彦の足が小さめの本棚の下敷きになっていた。
 すぐに本棚をどけて、怪我の具合を見る。
「た、助かった‥‥。おぬしたちは?」
「自分等は、あなたを助けにきた傭兵です。もう安心ですよー。自分等がきたからにはねー」
 救急セットで手早く治療を施すモルガナ。その横で、水筒から水を取り出したらいむが声をかける。
「ほら、水じゃ。今までよく生きて頑張ったのう」
「ああ、ありがとう。お嬢さん」
 素直に水を飲むも、痛みで顔をしかめる。
「どうやら骨が折れているみたいだね。早く病院に移したほうがいいわ。肩を貸すので、早くでましょう」
「すまないのう」
「さ、行こうか‥‥ケリー?どうしたの?」
 手綱を持ったモルガナだったが、ケリーがその場から動かない。よく見ると、ケリーの体が震えている。
 明らかに怯えていた。
 UNKNOWNが異変を感じて窓の外を見ると‥‥家の周りにキメラが集まってきていた。猿や熊や巨大鳥‥‥様々な動物キメラが獲物を待ち構えている。
「まずいな‥‥囲まれてしまった」
(自分一人で外に出て笛を吹き、キメラをおびき寄せるという方法もあるが‥‥)
 そこへ、頼もしい犬の声が凛と響く。
 ニサ班の面々がやってきたのだ。
 剣一郎と悠は先ほどと同じくキメラの迎撃に、純平とムーグは響子とニサに被害が及ばないようにしながら、援護射撃を行なった。
 キメラの注意が逸れたのを確認すると、UNKNOWNとらいむは家を飛び出してすぐさま戦闘に参加した。
「わらわの実力を見せてやるのじゃ!」
らいむは「迅雷」を使い、眼にも止まらぬ速さでキメラを翻弄し、UNKNOWNは静かに二丁の銃を駆使して次々キメラを撃破していく。
「さ、自分等は早く逃げよう‥‥って、ケリー!」
 モルガナと律子は救助者を安全なところまで逃がそうとするのだが‥‥ケリーが怯えてしまって全く動かない。
「律子さん!竹彦さんをお願いします!」
「わかったわ」
 律子は竹彦に肩を貸し、モルガナはケリーを抱き上げて家を脱出する。
 無事に家を脱出した‥‥かと思ったそのとき、家の庭に隠れていた猿キメラが襲いかかった。
 モルガナはとっさにキメラの攻撃を背で受け、庇った。
「っつ‥‥ゲホッ。命を守るのが私達の仕事!ケリー。あんたは賢い。分かる筈だよ」
 傷を負いながらも、抱きかかえるケリーの目をしっかりと見つめながら言う。言葉は通じあわなくとも、心で通じ合う何かがあった。
 猿キメラは更に攻撃を加えようとする。が、そこでモルガナは片手でケリーを抱き、片手で銃撃を加えた。
「このっ!今いい話しの途中だろ!空気読め!」
 律子も竹彦を庇いながら拳銃で攻撃を加える。しかし、律子の狙いはあくまで無力化。猿キメラが動きを止めたところで攻撃を止めた。モルガナも深追いはせずに避難する。
 二人が響子を守る純平、ムーグ、ニサと合流したときには、もうほとんどのキメラが退却をしていた。

 傭兵たちは無事、避難場所の村に救助者を送り届けた。村人たちの笑顔を見て、傭兵たちも自然と笑みを浮かべる。村人たちは何度もお礼を言った。
「うはははは♪もっと、もっとほめてたも!」
 らいむの高笑いが響く。
「わたし達だけの成果じゃありませんよ」
「救助犬たちも頑張ってくれましたから」
 剣一郎と律子は謙遜しながらそう答える。
「うむ。キュージョケンたちよ。よく頑張ったのじゃ。ほめてつかわすぞ」
 と言いながら乱暴に二匹のことを撫でた。
その横では悠も「お疲れ様」と二匹に声をかけている。
 UNKNOWNも仕事後の至福の一服を吸い、ケリーをわしゃわしゃと撫でる。
「ほら撫でるだけじゃなくて抱いてみなよ。黒い御仁」
 モルガナはケリーを抱き上げ、UNKNOWNに渡した。ケリーはUNKNOWNの顔をペロペロと舐める。クールなUNKNOWNの顔にも笑みが浮かぶ。
「律子もらいむもファタも、ごくろうさん」
 手をファタの頭をぽんっと乗せ、軽く撫でながらそう言った。
 平和な光景を見て、うどんでも食べていくか‥‥などと考えている純平だった。

●シビリウスの研究室
「任務は達成したみたいだな。ご苦労様」
 シビリウスはねぎらいの言葉を送った。
「それで、この子たちの様子はどうだった?」
「ニサはよくやってくれたよ。ただ、キメラの気配を見つけるとすぐに走っちまうのはちょっと困りもんだな。全体的に落ち着きがないといったとこかな」
「ケリーはキメラに遭遇すると怯えて動かなくなっちゃた。そこはちょっと訓練不足、かな。でも人を見つける能力はすごいよ。ばっちり見つけられるみたいね」
 純平とモルガナはそう報告した。
「ふむ‥‥そうか。もう少し訓練を積む必要がありそうだな。報告ありがとう」
 無事二匹をシビリウスに引渡し、依頼は完了した。
「マタ、イツカ、ゴ一緒、シタイ、デス」
 ムーグは最後にニサを撫でつつも名残惜しそうに言った。
「負けるなケリー、ニサ!次に会った時は一人前になってるんだよ」
 モルガナの言葉に、二匹は声をそろえて返事をした。
「わんっ!」