●リプレイ本文
集合場所には子供の集団と老人達、そして引率係として西枝葉音少年が待っていた。
「今日一緒に遊んでくれるお兄さん、お姉さんが到着したよ」
「みんなー! 今日は楽しもうね!」
明るい笑顔で元気よく菜姫 白雪(
ga4746)が挨拶する。
テレビの中のお姉さんのような親しみやすさに、子供達も安堵を感じたようだ。
「はーい!」
と、子供達が手をあげて返事する。
続いて、子供達よりも少し上の年齢層である姫藤・蒲公英(
ga0300)とリオン=ヴァルツァー(
ga8388)、姫藤・椿(
ga0372)が挨拶をして、子供達の緊張を和らげ、リズナ・エンフィールド(
ga0122)、ティーダ(
ga7172)、リリア・柊(
ga8211)、五十嵐 薙(
ga0322)が自己紹介し、暁・N・リトヴァク(
ga6931)、ラルス・フェルセン(
ga5133)、二階堂 審(
ga2237)らが挨拶を済ますころには、子供達も遠足気分で盛り上がっていた。
そしてその高い身長に、子供達はポカ〜ンとしながらダニエル・A・スミス(
ga6406)を仰ぎ見た。
ダニエルはゆっくりと子供の目線の位置までしゃがみこみ、人懐こい笑顔を向ける。
その1つ1つの動作に、子供達‥特に男の子の目は釘付けだ。
「ようチルドレン、よろしくな」
警戒心よりも好奇心を持たせるような明るい笑顔と陽気な声音に、子供達の関心も向けられた。
出だしは好調だ。
子供達がワイワイと騒ぎながらバスに乗り込む。
「あ! お姉ちゃんにお兄ちゃん!!」
知っている顔を見つけて、花音がリズナやティーダ、ラルスの元へと転がるように走ってきた。
「葉音君、花音ちゃん久し振り、二人とも元気そうね」
そうリズナが声をかけると、花音が嬉しそうに笑顔を見せた。
「お久しぶりです、葉音くん。傷はもう大丈夫ですか?」
同じく顔見知りのティーダの言葉に、前回の礼を述べた葉音も「もう平気です」と笑った。
点呼を取り、全員が乗り込み出発したバスは、ふれあい牧場へと向かって走り出した。
白い柵で囲まれた芝生地帯。
周りには細い木々の隙間から光が差し込む森林が広がっている。
バスに揺られて数時間。目的地へと到着した。
牧場の全体地図を見ながら、まずは審が警戒任務に当たる事にした。
子供達の護衛は他の者に任せて、周囲を見渡し、野生動物の気配を確認する。
木の幹にはリスが走り、小枝には小鳥が止まりさえずっている。
緊張した様子もなく、のんびりと暖かい春の陽射しを満喫しているようだ。
「キメラの気配はない、か」
それでも気を引き締めつつ、審は警戒を続ける事にした。
ボールやフリスビーなどのグッズは牧場が貸し出していたので、それを借りつつ早速子供達との交流を始める。
「みんなで‥一緒に、遊びましょう」
薙が小さなボールを手に取って、地面にコロコロと転がすと子猫がじゃれついてきた。
女の子達も集まって、ボールを投げて子猫達と遊ぶ。
そんな様子を見ていた暁の元にも、ビーグル犬が尻尾を振ってやってきたので、ボールを投げてやると嬉しそうに追いかけ、くわえて持ってきた。
リリアもフリスビーを手にして、子供達の前へと足を進めた。
「よーし。あたしがまず見本を見せるっすよ。てぃっ!」
いくらリリアが運動音痴とはいえ、フリスビーは空中でヘロヘロな動きをしながらも空を舞った。
それを見たコリー犬は芝生を駆け抜けて力強くジャンプし、見事にフリスビーをくわえ取る。
そして地面に着地すると、トコトコと歩いてきてリリアにフリスビーを返した。
はち切れんばかりに尻尾も振っている。
よしよしとコリーを褒めて、リリアは近くで見ていた子供に話しかけた。
「一緒に褒めてあげてくれるっすか?」
リリアが促すと子供も元気良く頷き、コリーを撫でてあげた。
「じゃあ、君もやってみるっすよ」
「うん!」
フリスビーを子供に渡して投げさせると、コリーも元気よくフリスビーを追いかけた。
その隣の敷地では、小さな子供達が遠巻きにウサギを観察していた。
「うさぎさん‥」
まだ幼い子供達には、自由に動くウサギや子猫には一歩踏み出せないでいるようだ。
「私が抱きかかえても大人しいから、この子、触ってみる?」
ウサギを抱きかかえた椿が子供に安心感ある距離を保ちつつ、子供達が自らこちらへ進んでくるように待つ。
ゆっくりと遠巻きに見ていた子供達も近寄ってくる。
姉である椿の隣で、同じようにウサギを抱きかかえた蒲公英も共に待った。
「怖く‥ないから‥頭‥撫でて‥あげて‥?」
蒲公英の言葉に、子供が恐る恐るウサギへと手を伸ばす。そしてそーっと撫でた。
「‥怖く‥ないでしょ‥?」
ふわふわとした微笑みを見せると子供も頷き、子供達は愛らしい笑顔を見せた。
木陰の下のテーブルでは老人会のメンバー3名と、ラルス、リズナ、そしてリオンがそれぞれ待機していた。
その近くにはダニエルが地面に座りながら子供達の様子をしっかりと見ている。
緑茶ポットを持参したラルスが、牧場で借りてきた湯呑にお茶を注いで、老人3人と待機している他の傭兵達にもお茶を振る舞った。
「うむ。青年。なかなかにわびさびの心を理解して‥」
「何を難しい事を言ってるんじゃ。素直に旨いと言え」
「これから言おうとしておったんじゃわい」
「だったら初めからそう言えばいいじゃろう」
「なにおぅ?」
「やるのかい」
「これこれ、じいさんたち。ハッスルしすぎじゃて」
会話を聞いていたもう一人の老人が、2人をたしなめる。
そんなやりとりに、お茶を勧めたラルスも、待機しているリズナ達もクスっと笑った。
「あの‥おじいちゃん、って、呼んでもいい‥? 僕‥おじいちゃんとか、おばあちゃんとかって‥憧れ、なんだ‥」
大人しく会話を聞いていたリオンがおずおずと老人達に尋ねた。
養土は何も言わずに優しい表情で、リオンの頭の上に手を置く。
伝わる暖かさ。
「孫は何人いてもいいもんじゃのう」
呟いた養土の言葉に、リオンも嬉しそうな笑顔を見せた。
子猫が甘えた声を出しながら、ラルスの足元に擦り寄ってきた。
その子猫を怖がらせないようにそっと両手で抱き上げて、自分の膝の上に乗せる。
ふわふわの毛並みを十分に堪能しながら喉元を撫でていると、子猫も安心したようにウトウトと眠りだした。
座りながら子供達の様子を見ているダニエルやリズナの側にも、小鳥やリスが集まっていた。
「‥お兄さんやお姉さんはすごいな。動物さんとすぐに仲良くなってるね」
葉音が感嘆し、その言葉に子猫達をさわっていた子供達も頷く。
「アニマルとフレンドになる秘訣は相手を怖がらないことさ。あとは相手が驚いたりしないように穏やかにしていれば自然と相手の方から近づいてきてくれる。要はハートだな」
ダニエルはそう言いながら、親指で自身の心臓を指差し、片目を閉じて子供達に笑顔を向けた。
姫藤姉妹が、花音や子供達に連れられて老人達の元にやってきた。
「素敵な所にお誘い頂きまして、ありがとうございます」
椿がペコリと頭を下げる。
「ふぉふぉ。そんな固い事は言いっこなしじゃ。みんなの笑顔を見とるだけで満足じゃわい」
「そうじゃのう。そうじゃのう」
養土の言葉に、うんうんと老人達も相槌を打つ。
「さぁさ、子供は元気に遊ぶのが、わしらの目の保養じゃぞ」
「‥あ、でも‥。西枝の、おじいちゃん‥‥僕達も遊んで‥いいの‥?」
リオンがおずおずと聞く。
「もちろんじゃ」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも一緒に行こ!」
養土がそう口を開くと同時に、花音がリオンの手を引っ張って連れて行った。
「ふぉふぉ。孫がたくさんいて楽しいわい」
爺さんたちが豪快に笑う。
「良いものですね、こういう風景って」
リズナもふわりと微笑んだ。
花音や子供達に連れられて、眠る子猫を抱くラルス、ティーダ、リオンが葉音と共に、小動物小屋の中へと足を運んでいた。
フェレット達が広めのスペースに区切られて放し飼いになっている。
茶色の毛並みのフェレットが布製のハンモックに寝そべったり、追いかけっこをしていた。
「‥!」
その時、一人の少女が顔色を変えて、ピタリとその足が止まった。少女の視線の先には、白いフェレットがいる。
少し前、雪のような色のカマイタチのキメラが葉音や子供達を襲った事があり、その幼い女の子には未だにトラウマが残っているようであった。
「怖いのがいるよ!?」
女の子がティーダの後ろに隠れる。葉音から女の子がフェレットを怖がるのではないかと聞いていたので、ティーダは女の子を庇いつつも、葉音にそれとなく合図した。
葉音も頷き、にこりと女の子に微笑む。
「この子はフェレットっていう動物で、前の怖い動物さんとは全く違う子なんだ」
そう言って、葉音が白いフェレットを怖がらせないようにそっと抱き上げた。
「で、でも‥」
ティーダの後ろに隠れながら女の子が怖々と顔を覗かす。
葉音から話を聞いていたリオンも、葉音の腕に納まっているフェレットを撫でてあげた。
「‥触っても平気だよ。‥君が怖がると‥この子も、不安になっちゃうんだ‥。大丈夫‥きっとこの子も、君と友達になりたいよ?」
フェレットを優しく撫でながら、リオンも微笑む。
くるんとしたつぶらな瞳のフェレットが女の子を見つめていた。
おずおずとティーダの後ろからフェレットの元へと近づき、そっと背中を撫でる。
フェレットは気持ちよさそうに目を瞑った。
「‥ほら‥怖くない、ね?」
「うん。かわいい」
リオンの言葉に幼い女の子が頷く。
お腹を向けつつハンモックで寝転がるフェレットを眺めていた子供達も、段々と笑顔でフェレットを観察するようになっていた。
「もう大丈夫そうですね〜」
見守っていたラルスも微笑む。
「良かった‥。葉音くんも協力ありがとう」
優しく微笑むティーダに、葉音もドギマギしながら「あ、はい全然大丈夫ですこれくらい!」と返事を返した。
昼食時は子供達も傭兵も全員集まって食事を取ることにした。昼食はサンドウィッチだ。
ナイロンシートを芝生に広げて、ピクニックのような雰囲気を楽しみながら、子供達を座らせる。
いざという時に動きやすいように、数名の男性陣が木製のテーブルに座って昼食をとる事にして、あとは子供達と仲良くシートに座ることにした。
周囲を見張っていた審も、この時間帯は子供達に囲まれて根掘り葉掘り聞かれる事となる。
うっかりテレビゲームの話題に口を挟んだからだ。
男の子達の攻略に対する鬼のような質問攻めに遭ったのは言うまでもない。
お昼時間も終わり、子供達の護衛をダニエルや審達に任せて、薙と暁は牧場周辺の見回りをする事にした。
優しい木漏れ日が地面を照らしている。
小鳥のさえずりと、さらさらと風に揺れて擦れる緑葉の音。
「日差しも温かくて‥とても穏やかな気分、です‥」
心地よい風に、薙が目を細めた。
「ああ。時間が少しでも止まればいいって思ったよ。‥なんてセリフは似合わないかな」
照れ隠しでそんな言葉を付け加えながらも、暁が想いの丈を伝える。
「い、いいえ。あたしも、暁さんと‥一緒に‥居られて‥嬉しい、です」
2人でいる時間に頬を染めて言葉に詰まりながら、薙も一生懸命に言葉を繋げた。
「良かった」
そんな様子に、暁も穏やかな笑顔を向ける。
「もう少し歩こう」
暁が薙の手をそっと握って、ゆっくりと牧場を見回リ歩いた。
限られた時間ではあったが優しくて穏やかな時間を2人は過ごす事が出来た。
すっかり動物達と打ち解けた子供達は、子犬達と追いかけっこをしていた。
牧場の外にまで駆け抜けるほどの勢いだ。
「もっきゅ! まっ、まちなさぁぁいっ! あんまり遠く行っちゃだぁめぇぇー!」
柔らかい髪を揺らしながら、猫耳しっぽ装備の白雪が子供達を追いかける。
そして、見事にすっ転んだ。
「きゃうん! 鼻うったぁ‥」
半分涙目の白雪に、女の子が駆け寄ってきて「姫ちゃんの痛いの飛んでけ〜」とおまじないをかけた。
「か、可愛いですの〜」
そんな女の子の様子に、すっかり痛いのも忘れて白雪がほのぼのする。
子犬を追いかけて白雪と同じように転んだ子供達の怪我を、リズナや蒲公英が駆け寄って治療した。
「みんな元気で‥楽しいな‥」
リオンも子供達と子犬の輪に入って楽しんでいる。自然と笑顔が零れていた。
「子犬も子供も元気すぎて目が回るっす」
一緒に子犬とじゃれあっていたリリアもヘトヘトとなって、地面に座り込む。
子供達の元気には果てが無いようだ。
「ねーねー? 遠くにいったら美味しいお菓子を食べに戻るの大変よ〜?」
椿が持参したクッキーを見せると、子供達の動きが止まった。その辺りは現金だ。
「そうですねー。おやつの時間にしますか〜」
「そうしましょう」
ラルスとティーダも、手作りの動物クッキーを取り出す。
「あ! 動物さんの形してる!」
子供達がわらわらと集まってきた。
「あ‥フェレットさん‥」
先ほどの白いフェレットを怖がっていた女の子も、フェレット形のクッキーを見つけて笑みをこぼした。
「ネコさんやー、リスさんもありますよ〜」
そう言ってラルスが微笑する。
「ドーナツもあるからな。おやつタイムだ」
ニカッと笑い、ダニエルも持参した色々な種類のドーナツを、紙皿へと盛り分けた。
一瞬で華やかなおやつの時間となる。
子供達は手を洗い、おやつを美味しそうにほおばった。
「こういう平和な時はいいっすよね。これからも傭兵としてこの笑顔を守っていこうって気になるっすよ」
体力も尽きてヘトヘトしながらも、リリアが満足そうに笑う。
「うんうん。あ! 皆の写真も撮っちゃおうね!」
椿が持ってきたカメラで、写真を撮り始めた。
ウサギと一緒に写る子供。
ダニエルの腕にぶら下がり、ニッと白い歯を見せて笑う子供。
再びフリスビーを追いかける子犬と子供。
転んで泣きかけたが、レンズを向けられて泣きやむ子供。
何故か迷子になった蒲公英とウサギのしょんぼり反省図。
楽しい時間を、次々と写真に収めていく。
ふと、白雪は足元に黄色いタンポポを見つけた。
「あの人も、白雪はタンポポみたいだって言ってくれてたな‥」
明るいタンポポは、優しい陽だまりの中で見守られていたのだと、思う。
「あの人の分まで子供達の笑顔、守っていかなくちゃね」
綿毛のタンポポを摘み取り、ふっと息をかけると、ふわりと風に乗って大空へと綿毛が飛んでいった。
自分の想いが空へと届くように、と。
子供達が呼ぶ声に、白雪は空に笑顔を向けてその場を離れた。
こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
帰る時間となり、子供達は名残惜しそうに動物達に別れを告げた。
いつかまた、ここへ遊びに来ることを誓いながら。
子供達の記憶に追加された今日の楽しい1ページを、傭兵達はその笑顔と共に胸に刻んだ。