タイトル:土砂の中に棲むものマスター:樟葉

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/09 10:40

●オープニング本文


「昨日の地震は結構ゆれたからなぁ・・・・だがこれ位の土砂崩れなら俺達でどうにかなるだろう」
 大きめのスコップを手にしたアジア系の中年男が、自分の村の光景を眺めて言った。
 地震により、その小高い山に隣する村の舗装された道の一部が土砂崩れによって塞がれていたのだ。
 民家に被害などは無いが、このままでは不便なので、男達は早急に土砂崩れを取り除く事にした。
「スコップでちまちま作業するより、作業用の機械で取り除いた方が早くないか?」
「隣町に連絡を入れて作業してもらうのに数日掛かるだろ。そんな深刻な土砂崩れでもないし、ぼちぼち取り除こうぜ」
 そんな軽口を叩きながら、男達はスコップで土砂を取り除く作業を始めた。

 そして作業を始めて30分後。
「・・・・何か・・・・振動を感じないか?」
 作業していた男が、ふと顔を上げた。
 地震で崩れた小高い山側の土の側面から、パラパラと土が落ちていく。
「まだ山側の地盤が不安定かもしれないな」
 隣で作業していた男もそう言って、他の者達にも注意を促した。
「また地震か?」
「そうかもしれない。用心した方がいいな」
 作業する手を止め、男達は一旦後ろに下がった。
 ゴゴゴ・・・・。
 その時、突然地響きが聞こえ、パラパラと落ちていた土砂が一気に地面に崩れ落ちてきた。
「うおお!」
「ぬわっ!」
 男達は危機一髪で土砂崩れから逃げ切る。
 ホッとしたのもつかの間、男達はその目の前の光景を見て唖然とした。

 崩れた土の中から現れたのは、薄茶色の長い生物。
 地面にダラリと垂れ下がっているが、見たかぎりでも4メートル近くはありそうだった。胴回りもドラム缶ほどの太さがある。
「う、ミミズ!?」
「でかいぞ!!」
「キ、キメラだ!」
 男達は口々に言い、更に後ろに引き下がった。
 遠巻きで見る余裕があったのは、そのミミズ型キメラの体の4分の1ほどが土と岩石に挟まっており、後ろ部分が固定されていたからだ。
 しかし、その薄茶色のミミズ型キメラがいつ土の中から這い出でてくるかもしれない。
 男達は急いで長老宅へと押し入り、ミミズ型キメラを退治してもらうべく、ULTに連絡を入れた。

●参加者一覧

八田光一郎(ga0482
17歳・♂・GP
フォーカス・レミントン(ga2414
42歳・♂・SN
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
歪十(ga5439
22歳・♂・FT

●リプレイ本文

「此度の依頼で御一緒させて頂く水無月魔諭邏と申します」
 柔らかな物腰の女性、水無月 魔諭邏(ga4928)が顔合わせの挨拶をした。
「リゼットです。よろしくお願いしますね」
 両手剣を携えた少女、リゼット・ランドルフ(ga5171)も続いて自己紹介する。
 赤い髪の少年、八田光一郎(ga0482)もニヤリと笑って、自分に親指の先を向けた。
「俺は八田光一郎。よろしく頼むぜ!」
 続いて、のほほんとした雰囲気の青年ラルス・フェルセン(ga5133)や、青い瞳を持つ少年、愛輝(ga3159)、最も傭兵らしい姿のフォーカス・レミントン(ga2414)、ハンドガンを装備している女性、雨霧 零(ga4508)と、右頬にトライバルの刺青のある少年、歪十(ga5439)も、それぞれ名を名乗る。
 それぞれに顔合わせも済んだ所で、足並みを揃えてキメラが出現した村へと向かう事にした。

●作戦会議
「思ったよりでかいな‥‥」
 遠くからミミズキメラの様子を見て、フォーカスが呟いた。
 見る限り、巨大ミミズは普段見かける普通のミミズが大きくなっただけの外見だ。
 特に外見的に変わった様子も無い。
「ミミズもー、オケラもアメンボも皆生きてますけど〜、キメラとはお友達になれそうもないですね〜」
 その巨大ミミズを見ても纏う雰囲気は変わらずに、ラルスがのほほんと素直な感想を述べた。
「外見はその辺のミミズと変わんねぇし、狙うとしたら頭周辺の白いヤツかな」
 同じように遠くから様子を眺めながら、光一郎がミミズの頭部付近を指差して言う。
「環帯ですね〜。キメラの弱点だと良いのですが〜」
「ともあれ‥‥キメラの後部が固定されているのは幸運ですね」
 ラルスの言葉に続いて、歪十もキメラの様子に少しだけ緊張を解す。
「ああ。岩を崩さぬよう、キメラを出来るだけ動かさないようにするのが得策だな」
 その点は重要だと零も頷いた。

「さて作戦だが‥‥一斉射撃でダメージを与えてから、前衛の攻撃に移るというのはどうだろう。キメラも体力が削られれば反撃するにも力が入らなくなるからな」
 フォーカスが場慣れしている様子で、テキパキと作戦を立て始めた。
「そうですね。後衛から前衛への連携で良いと思います」
 魔諭邏が同意する。光一郎や歪十も相槌を打った。
「しかし、いざという時にキメラの体が動き回られても困るな。まぁキメラ自体が大きい的だから危惧する事も無いとは思うが」
 グネグネと動いているキメラを遠くから眺めながら、零が言う。
「‥‥それならキメラの注意を引きつける、というのはどうだろうか。陽動して動きを留めた瞬間を見極めて合図を出し、射撃班の攻撃開始となる形だが‥‥俺でよければ陽動を買って出たいと思う」
 それまで黙って作戦を聞いていた愛輝が射撃班に提案を出した。
「ああ、その方法なら狙いやすいかもしれないな。合図には手を上げて示してもらう方がいいだろう」
「その方法で構いませんよ〜。お願いしますね〜」
「私も異存は無い。よろしく頼む」
 フォーカス、ラルス、零の同意を得て、射撃前の陽動役が決まった。

「射撃でひるんだ隙にキメラの頭部辺りも固定すると前衛も戦い易くなるかもです。自由になっている部分さえ動けなくしてしまえば、反撃される確率も低くなりますし」
 と、リゼットが提案する。
「でも‥‥なるべくはキメラに触りたくないですけど‥‥」
 提案はしたものの、キメラの姿を再度見てリゼットが苦笑した。
「俺が固定しますよ。刀なら2本ありますから、残った1本でも戦えます。俺に任せてもらえませんか?」
 その提案に、歪十が名乗り出た。
「それならー、私が持ってきたフロスティアをお貸ししますよ〜。しかもこんな時の為にー、2本持ってきましたから〜」
 そう言って、ラルスは民家に立て掛けて置いていた槍を布から取り出した。
「貸してもらえると助かりますが‥‥いいんですか?」
 美しい穂先の槍を見て、歪十が気遣う。
「もちろんですー。私も後衛に専念できますからね〜。お願いします〜」
 歪十の気遣う様子にラルスはそう言ってにこにこと微笑み、フロスティア2本を歪十に手渡した。
「気をつけて頑張って下さいね〜?」
「ありがとう。必ず、成功させてみせます」
 2本のフロスティアを受け取り、歪十がしっかりと頷いた。

「俺達前衛も連携したり声を掛け合った方がいいよな?俺も出来るだけ連携に持っていけるようにしてみるぜ」
 光一郎の言葉に、魔諭邏も頷いた。
「そうですね。その方がいいと思います。刀を扱うわたくし達も十分注意しながら攻撃する方が宜しいでしょうね」
「私は大剣ですから最後に斬りつけて、後衛さん達の射撃にもっていくようにします」
 大剣を扱うリゼットがそう言って、前衛攻撃の順番を纏めた。

 作戦が纏まりかけた頃、キメラと岩盤を眺めていたラルスが村の避難所へと視線を向けた。
「もしもの時の為に〜、迅速に避難が出来るルートをー、村の皆さんに把握してもらっておいた方がいいですね〜」
「ああそうだな。それと無駄な混乱や不安要素を避けるために、村長や村人を束ねる力量のある者達だけに話をつけておいたほうがいいな」
 ラルスの提案にフォーカスも頷く。
「では私が話をつけてきますね〜。すぐに戻ってきますのでー、作戦を進めておいて下さい〜」
 そう言ってラルスは村人が身を寄せている避難所へと、用心しながら向かって行った。

「さて‥‥突き刺さるか、突き刺さらないかは‥‥賭けだな‥‥」
 槍を手にした歪十が緊張の面持ちで呟いた。
 ここで固定出来れば有利に働くが、失敗すればキメラの逆鱗に触れるかもしれない。
 足場が悪いと怪我を負う可能性もある。
 緊張気味の歪十に、愛輝が少しの言葉を掛けた。
「危険が迫った時は俺が支援に回る。焦らず狙えばいいと思う」
 そしてそのまま配置場所へと歩いて行く。
「‥‥ありがとう」
 歪十は少しだけ肩の力を抜き、成功させる事を心に決めた。

●戦闘開始
 ミミズ型巨大キメラは、その体をくねらせて何とかその場から出ようともがいていた。
 狙うのは環帯だ。
 ショットガンを構えてフォーカスが照準を合わた。ラルスと零もハンドガンを構える。
 そして愛輝の合図を待つことにした。
「‥‥」
 全員の攻撃準備が整ったのを確認し、愛輝が力を込めて小石を投げつける。
 キメラの環帯に小石が当たり、キメラはピタリとその動きを止め、小石の来た方向を向いた。
 少しの隙が出来る。
 その瞬間を見極めて、愛輝が射撃班に向かって手を挙げ合図した。

 合図と同時に、瞳をダークブルーに変化させたラルスが強弾撃を発動させ、貫通弾を装填したハンドガンでキメラを銃撃し、左手の甲に燐光する青い六芒星が浮かび上がっている零も、鋭覚狙撃と強弾撃を発動させたハンドガンでキメラの体を狙撃した。
 そしてショットガンを構えていたフォーカスも、狙撃眼と鋭角狙撃で攻撃力を増幅させた弾丸をキメラの環帯めがけて叩き込んだ。
「俺のショットガンの1発は重いぞ!」
 そのダメージにキメラが大きく仰け反る。手応えを感じ、フォーカスは口端を吊り上げた。
 同時に射撃が一段落する頃を見計らい、歪十と前衛に合図の声を張り上げる。
「今だ!」

 その声を聞き、覚醒して全身に御経の様な文字が浮かび上った歪十がすばやく行動を開始した。
 キメラの動きがダメージによって沈静化しているうちに、その体に飛び乗り槍を構える。
 足場は悪いが滑り落ちること無く、歪十は全力を注ぐように槍に力を込めて突き刺した。間を入れずにもう一本のフロスティアも突き刺す。
 そして、すかさず反撃されない位置に飛び退けた。
「よし、なんとか‥‥上手くいったな‥‥」
 一斉射撃と固定の槍で、キメラはひるんでいるようだった。だが、地面からの束縛を解こうとキメラが再び暴れ始める。
「こっから動かれる前になんとかしねーとな、んじゃ行くぜ!」
 覚醒し、髪が獅子の鬣を思わせる形状に浮き上がっている光一郎が声を掛けて動き始めた。キメラの胴体部へとストレートを仕掛ける。
 そしてダメージを与えるとすぐに後ろへと回避した。
「オラッ、ブチかませッ」
 回避すると同時に発せられた光一郎の声に、真紅の瞳に変化した愛輝がテンポよく接近戦用の武器でキメラの内部を急所突きで抉る。そして内部から手を引くと同時に後ろへと下がって、魔諭邏に合図した。
 先ほどまでのおっとりとした雰囲気が消え、冷徹な雰囲気を纏う魔諭邏が素早く走りこみ、刀でキメラの頭部を横へと切りつける。
 固定されているキメラは反撃も出来ずに、なすがままになっている。
 そして魔諭邏の合図を聞き、ツーハンドソードを両手で構えたリゼットが、キメラの体を横へと薙ぎ斬るように大剣を操った。
 一撃を入れ、すかさず後ろに下がる。覚醒し黒く変色した髪が軽く揺れた。
「後衛、お願いします!」
 リゼットの声に、ハンドガンから長弓「鬼灯」に持ち代えたラルスが強弾撃を発動して弓を引く。
 確実にキメラの体に命中した。そのダメージにキメラが胴部をくねらせる。
「抵抗すれば苦痛が長引くだけです」
 その様子を見て、ラルスが淡々と言い放った。その同時期に零もハンドガンでキメラを狙い撃つ。
「ミミズは大きくなってもミミズだな!土に還って地球に貢献しなさい!」
 弱っていくキメラに、容赦なく弾丸を撃ち込んだ。

 ミミズキメラは体が大きい分、与えるダメージは小さいようだが、連携しダメージを重ねる事によって確実にキメラの生命を削っているようだった。

 もうひと踏ん張りだ。
 誰もがそう思った瞬間。

 大地が揺れた。

「‥‥‥な!? 地震か!?」
 フォーカスが呟く。足元がぐらつき全員に緊張が走った。揺れに構える。

 しかし地震の揺れはすぐに収まった。震度もたいした事は無いようだ。
 だが‥‥。
 ミミズキメラと後部を押しつぶしていた岩盤に、隙間が出来ていた。
 スルスルと後部が抜け、ミミズキメラの体は自由になろうとする。
 固定していたフロスティアもキメラには刺さったままだが、地面からの束縛が解けていた。

「俺達が全力で食い止める!! 後衛はもしもの時に備えてくれッ! いくぜっ!!」
 光一郎の声に、愛輝、歪十、魔諭邏、リゼットが頷き武器を構えなおす。
 フォーカスと零、ラルスは射撃範囲ギリギリのところまで下がり、避難所を守り固めるような配置に付いた。

 頭部を持ち上げ移動しようとするキメラに、光一郎が頭部打ち上げを狙ったアッパーをかます。
「行ったぞ、ブチかませッ」
 ズリズリと体を引きずるキメラに、光一郎が声を張る。
「そちらへ行かせるわけには参りません」
 冷酷な瞳をキメラに向け、魔諭邏も刀で応戦した。
 地面から少しだけ持ち上げられたキメラの頭部が魔諭邏に向けられる。
 その瞬間、愛輝がアーミーナイフを素早くキメラに投げつけた。
 ダメージはそれほど期待できなかったが、キメラの気を逸らすには十分な効果を発揮したようだ。
 その隙を突いて、歪十が横に斬りつける。
 攻撃するチャンスを見極め、リゼットも大剣を横へと薙ぎ払った。
 キメラの体が痙攣したかのように小刻みに震え、そしてゆっくりと地面に崩れ落ちてゆく。
 リゼットは自分の大剣でキメラを固定しようと考え、一歩足を踏み出した。
 キメラの攻撃に備えて緊張が走る。

 だが、地面に崩れ落ちたまま、それ以上キメラが動きだす気配は無かった。

「終わった‥‥か?」
 照準をキメラに合わせたまま、フォーカスが呟く。
「石を投げて反応が来るか見てみます」
 そう言って、リゼットが動かないキメラに小石を投げて反応を見た。

 コツンとキメラの体に小石が当たる。
 ピクリともしないキメラに、もう一度小石を投げてみる。
 しかし、キメラに生命反応は無かった。
 よく見れば、致命傷となったであろう傷が何箇所も付いている。
 確実にダメージを与えていたようだ。
「死んでいるようですね」
 リゼットの言葉に、全員がようやくホッとした表情を浮かべた。
 

●戦闘終了
 歪十は刺さったままの2本のフロスティアを引き抜き、ミミズの血を振り払った。
 そして、借りた時よりも綺麗にするような心がけで、槍に付いた汚れを丁寧に拭き取った。
 愛輝もキメラの頭部に突き刺さったままのアーミーナイフを引き抜く。

 魔諭邏とリゼットは攻撃を避ける時に少し掠った様だが、怪我と言う程でも無かった。
 村人にも混乱などは無く、怪我人もいないようだ。
「皆さんご無事でー、何よりです〜♪」
 覚醒を解いたラルスがのほほんとした雰囲気で、村人への報告を終えて戻ってきた。
「ありがとうございます。無事任務成功‥‥やりましたね」
 槍の汚れを拭き取り終えた歪十が、ラルスに2本のフロスティアを返した。
「見事でしたよー」
 それらを受け取り、ラルスがにこにこと微笑んだ。

 ミミズの死骸は、燃やして処分することにした。
 巨大なので火が全体に回るのにも時間が掛かりそうだったが、かすり傷の治療や武器の手入れをしている間に燃えていくだろう。

「本当にありがとうございました。無事でなりよりです。怪我などがあればこちらで休んで下さい」
 村長が代表して礼を述べに来た。
「ま、地震で土砂崩れが一気に広がっちまったけどな。ミミズが燃え終わるまでここにいるし、撤去作業でも手伝うかな」
 そんな光一郎の言葉に、意外そうな表情をして、だが次の瞬間には口元に笑みを浮かべたフォーカスもその言葉に賛同した。
「ああ。俺も土砂崩れ撤去作業の手伝いをしよう」
「私も手伝いますね」
 2人の会話を聞いていたリゼットも名乗り出る。
 しかし村長が慌てて首を横に振った。
「いやしかしキメラを倒して頂いた上に撤去作業まで‥‥それに女性の方に手伝ってもらうのも‥‥」
「人手は多い方がー、早く終わりますよ〜。しかしお嬢さん方に撤去作業も忍びないですのでー、お茶に合うお菓子などを作ってもらえるとー、作業後が楽しみになります〜」
 村長の言葉に、にこにこと微笑みラルスが言う。
 撤去作業を手伝ってもらうよりは、と、村長もラルスの提案に賛同した。
「台所や材料は用意できます。もちろん休憩してもらっていても構いませんので‥‥」
「それならば、少し休憩した後で、わたくしはお茶菓子作りを致したいと思います」
 おっとりとした口調で魔諭邏が申し出た。
「なら私もお菓子作り班で頑張っちゃいますね!零さんも一緒に行きましょう」
「‥‥私もか?まぁ手伝うくらいなら構わないが」
 リゼットの誘いに、零も頷く。

「お茶を入れるのはー、私に任せてくださいね〜?緑茶から紅茶まで美味しく淹れますから〜」
 そう言い残し、ラルスも撤去作業の手伝いへと向かって行った。

 <了>