タイトル:武器商人もただの人さマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/30 06:26

●オープニング本文


●郊外の平屋
 ガガガガガッガガガガガガッガガガッガガガガガガガガガ――
 防弾の建物の外では激しい銃撃をされながらも、腰ほどまで伸びた銀髪の少女は、のん気にスティックキャンディの包み紙を取り、口に含む。
 その口元には、笑みさえ張り付いている。
「はてさて、困っちゃったね」
 全然困ったような口ぶりではないが、彼女の冷や汗がかろうじて事実だと告げていた。
「彼らの武器ではここは破壊できないにしても、こちらが反撃できないとわかれば、いずれ乗りこんでくるだろうなぁ。
 てかあれ、うちで卸した武器じゃんか。これだから徒党を組む馬鹿に、武器は売りたくないんだよねぇ」
 両手で頭を抑え、頭を振りかぶりながら身体をねじって謎のポーズをとる。
 彼女なりの苦悩の表現なのだろう。
「我が優秀なる部下たちを先に逃がしたのは、マズッた。まさか私にむかって大集合とか、大誤算だよ〜」
 ゴロゴロと、床を転げまわる彼女。部屋を転がりまわって一周して、ピタリと止まった。
 静かだ。
 銃撃の音がしない。
 ムクリと起き上がって、スタスタとドアの覗き穴から外をうかがう――と。
 ギロッ
 巨大な目と、目が合ってしまった。いや、覗き穴越しだから向こうはさすがに気づかなかったようで、偶然目が合っただけのようだった。
 外の『彼』は気づかずに、その場で座り込んでしまった。
 彼女は覗き込んだ体勢のまま、静かに一歩、二歩と後退し、腕を上に伸ばして伸びをするような謎のポーズをとる。
「なかなかな大型キメラさんでいらっしゃいますね‥‥ってもっとサイアクじゃん!」
 頭を押さえ、しばらくうーうー呻いていた彼女だった、が。
「まあしかたない」
 と、晴れやかな表情で床にどっかりと座り込み、ポケットから携帯ゲーム機を取り出して、スイッチオン。
 緊張感にそぐわぬ、ほのぼのした曲が、室内に流れる。
「しばらく使ってなかったセーフティーハウスが、まさか外にキメラが住み着いて、デンジャーハウスになっていたとはね。まったく、笑える」
 笑えると言っているが、彼女はずっと笑みを作りっぱなしだった。
「こうなってくると、武器商人もただの人さ。まーゴハンはないが、水も電気もあるし、のんびりゲームでもやりながら救助を待つとするかね」

●市内ホテル
「どうよ、我らが主さまの様子はよ」
 ところどころ白髪の男が、部屋に入ってきた鼻に傷のある黒髪の男に尋ねる。
「いやー救出はムリッすね。身柄を確保されたとかなら、全然問題なかったんですけど‥‥」
 カメラの画像を、見えるようにかざす。
 その画像を見ようと、部屋にいた数人の男女が集まってくる。
「おー、でっけー。数もいるなぁ」
「ライオンっぽいけど、角はヤギっぽいから、キメラって言い方はしっくりくるな」
「なかなか大型キメラさんでいらっしゃいますね」
「それ、お嬢も言ってそうだな」
「言えてる」
 ゲハハハハハと、深刻さとは裏腹に陽気に彼らは笑う。最後にその画像を見た白髪の男は、咥えていたタバコを手に持ってから告げた。
「あれだな、商品使えば倒せるかもしれんだろうけど、お嬢も建物ごと木っ端微塵だな――ップ」
 男が噴出したのを皮切りに、全員が大爆笑。
「おーいおい、俺ぁマジ言ってるんだぜ? こうなると俺らじゃだめだな」
「じゃあどうします?」
 黒髪の男の言葉に、白髪の男はスパーとタバコを吸い、続ける。
「あれだ、あそこに頼るしかないな。キメラ相手のプロってやつによ」

●ブリーフィングルーム
「えーっと、今回の依頼は結構大きい貿易会社『バーウェン貿易』からですね。なんでも幹部クラスの社員が郊外の一軒家で地元マフィアから銃撃を受けて、立て篭もっている最中だとか」
「それ、地元の警察の仕事でいいじゃん」
 傭兵の言葉に、オペレーターは苦笑いを浮かべる。
「いえ、問題なのはその後。どうやらその建物の周囲を根城にしている、大型キメラが複数いるとの情報。大型と言っても体長3mくらいですから、ライオンくらいですね。
 その建物から無事に女性社員を保護してほしいとのことです。
 ただ問題は、地元のマフィアも社員の身柄を狙っているようでして、キメラとの交戦中に社員の身柄を確保される恐れがあります」
「貿易会社の幹部クラスといえど、マフィアが社員を?」
 一人の傭兵が首をかしげる。
「‥‥どうやら彼女――ええと、ミル・バーウェン氏は社長のご息女でありながら、一般人向けの武器を卸す部門の代表なんですね。
 目的は不明瞭ですが、彼女を利用するつもりなのは確かでしょう。
 ですから、交戦中だろうと構わずなるべく早く、彼女の保護をとのことです――あと世間話ですが、バーウェン貿易はうちにそこそこ投資して下さっている会社だと言う事を、覚えていただけたら幸いです」
 何を言わんか察した傭兵は、複雑な顔をして溜息を漏らす。
「調査によるとこのキメラはあまり建物から離れないみたいで、この手のは極度の空腹か、興奮状態でなければ離れようとはしないと思います。
 今回はまあ‥‥あいにく、空腹状態ではありませんが‥‥とにかく、社員さんの身柄の確保を優先して下さい。修羅場慣れはしているとの事なので、こちらの指示には素直に従ってくれるそうですから」
 へーいと傭兵達が返事をする。
「くれぐれも、怪我はさせないで下さいね。
 確保した後は、近くに彼女の部下たちが待機しているとの事なので、そちらに引き渡してください。
 キメラの詳細は書類で確認をお願いします。以上で説明、終了です」

●参加者一覧

時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
不破 炬烏介(gc4206
18歳・♂・AA
カノン・S・レイバルド(gc4271
18歳・♀・DF
結城 桜乃(gc4675
15歳・♂・JG
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD
D‐58(gc7846
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 すぐ脇に整備された道があるにもかかわらず、鬱蒼とした林の中、身を潜めながら移動している傭兵が3人。
 時雨・奏(ga4779)、キリル・シューキン(gb2765)、エドワード・マイヤーズ(gc5162)の3名である。
 終始無言で歩く中、キリルがポツリともらす。
「バーウェン貿易‥‥ずいぶん、物騒なところからの依頼だな‥‥。しかもミル・バーウェン‥‥世界悪女ランキングがあればトップ10に入るぞ、あいつは」
 少々個人的に苦い思い出のあるキリルは、毒づかずにはいられなかった。
「だが、まだ年端もいかないお嬢さんなんですよ? 助けて然るべきだよ」
「それにまあ、イザという時に優先的に動いてもらわにゃ、何のために投資してるんだって話やな」
(とはいえ部下の名前とか出さへんとか、割と非合法な連中か。まあどうでもええわ)
「さて、そろそろ見えるはず‥‥あれかな?」
 木々の間から建物が見え始める。もちろん建物だけでなく、ヤギ角のライオン型キメラが寝そべっているのも確認できた。
「圧倒的に情報不足やな。見取り図もないから、対象のいそうな部屋もわからん始末や」
「入り口は正面に1つ。ここからでは裏口が確認できないが、1階に窓が一切ないようだから、恐らくないな」
「正面から、か。まー周囲にマフィアの気配がないのが、救いやな。キメラもしっかり5匹おるし」
 目を細めて眺める2人を尻目に、エドワードは無線機を取り出して呼びかける。
「こちらエド、建物確認したよ。入り口は一箇所のみと推測、キメラ5匹は建物に寄り添って就寝中さ。マフィアの影はこちらからは確認できないが、とりあえずこちら配置につきましたよ、どーぞ」

「わかりました、エドさん」
 通信を終え、無線機をしまう結城 桜乃(gc4675)。
「救出班、配置に付いたそうです。キメラは5匹、しっかりと建物周辺にいるようです」
「了解しました――しかし護衛対象がまだ子供だったとは‥‥」
 資料を思い出し、セレスタ・レネンティア(gb1731)は声に出していた。
 子供と言う単語に、ピクリとカノン・S・レイバルド(gc4271)は反応する。
(‥‥子供。子供が危ないね)
 失った右目を押さえ、右目を失った日のことを思い出す。
 バグアの襲撃から、妹の手を引いて逃げていたあの時。
(あの時、手を離さなければ今は違っていたのかしらね)
 もしもの仮定話を振り払うように、頭を振り、残った左目には決意が溢れていた。
(助けが必要な子供がいて、その手を引けるくらい、私は強くなった)
 決意を決心に変え、1人静かに闘志を湧き立たせるカノンであった。
「子供とはいえ武器商人ですから‥‥侮らない方がよさそうですね。マフィアすらも相手にしているようですし」
 D‐58(gc7846)の言葉に、今度は不破 炬烏介(gc4206)が反応を示す。
「――まふぃ、あ‥‥武器、商人。死‥‥を売る、商人――共に‥‥影‥‥の、住人――傭兵、も。同じ‥‥な、のか‥‥?」
「我々も普通の一般人から見れば、同じにしか見えないでしょうね‥‥」
 機械的ながらも、どこか、もの悲しげに目を伏せるD‐58。
「今回の保護対象者はかなりの大物みたいだね‥‥と、依頼に集中、集中っ」
 ペチペチと自らの頬を叩く桜乃――しかし一向にその表情が緊張しない。
「でも、色々見てみたいし‥‥開発してる武器とか気になるな‥‥」
「桜乃君、武器を売る人間であって、作っているわけではないのでは?」
 カノンの言葉にハッと目を覚ます、桜乃。
「ところで、早期にキメラを排除してしまうと、マフィアが接近するのが容易になってしまうかもしれませんね‥‥」
「そうね、安全を考えて丁寧に掃除しない? ‥‥時間をかけるのは面倒だけど」
(子供に能力者と同じ感覚で無茶はさせられないものね)
「速やかに排除するか丁寧になるかは、キメラの力量次第でしょう」
 先行くセレスタの一言に、一同納得する。
「‥‥どちらにせよ、手を抜いて勝てるキメラだと思うのは危険ですか‥‥」
「そのようね。倒せる時に倒すべきなんでしょうね。‥‥面倒だけど」
 ピタリと、先頭を歩くセレスタが足を止めた。
「セーフハウス確認、行動を開始します」
 アンチマテリアルライフルを取り出し、地面にセットし自身も寝そべり、貫通弾を装填する。その左腕には蛇が這ったようなアザが浮かび上がっている。
 突然の戦闘態勢移行であったが、そこは歴戦の傭兵達。
「任務確認‥‥キメラを攻撃します。‥‥戦いが全ての私にとっては面倒がなくていいですね‥‥」
 D‐58の言葉を皮切りに各々覚醒し、頷きあうと一斉に駆け出す。
「一撃で仕留めます」
 1匹の頭部に照準を合わせ、引き金を、引く。
 すさまじい反動と轟音と共に、貫通弾が撃ち出される。
 その一撃は見事にキメラの頭部を撃ち抜き、1匹、目を覚ますことなく永遠の眠りについた。
 アンチマテリアルライフルが開戦の狼煙を上げ、キメラ達は一斉に起き上がる――が。
「遅い、もう一発!」
 通常弾を装填し、建物には当たらぬよう胴体を狙い、引き金を引く。
 先ほどより小さな轟音をあげ、キメラの腹部に着弾する。
 流石にその一撃では仕留めきれはしなかったが、深手には違いない。明らかによろけていた。
 立ち上がり、サブマシンガンに切り替え、皆に遅れて突撃を開始する。
 走りながら牽制程度にS‐01を撃っていた炬烏介は、弾が切れると即座にパイロープへと切り替え、さらに加速した。
「――餅、は。餅屋‥‥コエは‥‥言う――『裁キ‥‥ヲ。存在、ガ‥‥罪、故ニ』――死ね、よ‥‥バグア」
 他の3匹を無視し、弱っているキメラに詰め寄る。
「死ね、よ‥‥みっともなく‥‥『虐鬼王拳』‥‥!」
 紅蓮衝撃を乗せたスマッシュを頭部に叩き込む!
 炬烏介の全力攻撃を受けたキメラは短い悲鳴の後、昏倒し、動かなくなった。
 牽制攻撃で散らばっていたキメラが、突然の来訪者に牙を剥いて威嚇を始める。
 そこに疾風で距離を詰めたD‐58の、ロートブラウが走る。
 不意を付いた攻撃ではあったが、3匹とも傷が浅い。が、注意をそらすには十分だった。
 隠密潜行で背後に忍び寄った桜乃が、機械剣αで連続で切り刻むと、カノンが両手のS‐01で牽制射撃を続ける。
(私たちがキメラを引きつけている今、彼らも潜入しているのかしら?)
「‥‥混乱を避けるためにしばらく動かないでと言ったのだし、大丈夫よね?」
 D‐58と背中を合わせるカノン。
「大丈夫、でしょう」
 互いの背中を押し合って反動をつけ、キメラに突撃をする2人。
 D‐58の攻撃にあわせて、桜乃が陰から斬りつけ、カノンの牽制でひるんだ所に炬烏介の拳が繰り出される。
 そしてセレスタの到着。たちまち建物周辺は混戦となってしまったのだった――。
 
 二発目の銃撃の直後、1人入り口に近づく影がいた。キリルである。
 彼は隠密潜行を使用し、入り口の安全を確認すると手をこまねいて、時雨とエドワードを呼び込む。
 室内は窓がないだけあって、照明が点いていても薄暗かった。
「‥‥そういやマフィアは、何処や」
 建物に侵入した時雨がもらす。
「ふむ、少々待ちたまえ」
 眼が金色に輝くエドワード。探査の眼を発動させたのだ。
「調度品の陰などには、気配を感じない。撃退系のセキュリティも特になさそうだ――ただ、扉がなにか臭いな」
 覚醒を解き、指し示した扉に慎重に近寄る3人。扉は頑丈なだけでごく普通のものだったが、中からは開けれず、容易に壊せない作りだった。
「悪知恵の働くヤツだけあるな。トラップではない罠とはね」
「やな。扉は閉めないでおこか」
 ミルの人となりを理解しつつある3人。
 微かに2階から電子音がする。
 警戒する2人をよそに、エドワードはぐんぐんと2階を進み、電子音のする部屋へと入っていく。
「迎えに来たよ! お嬢さん!」
 エドワードのテンションとは裏腹に、ベッドの上で寝転がってゲームをしていた銀髪の少女が、ゆっくりと振り返る。
「うむ、ご苦労だね。傭兵の諸君」
 感動的な状況を思い描いていたエドワードの肩が、がくっと下がる。ほっそりとした彼女を見て、エドワードが気を配る。
「もしかして栄養失調かな?」
「あえて言うならおいしいもの不足」」
 固形の携帯食料をポリポリとかじる。
 そこに時雨達も到着した。
「はいどもー割と24時間サービスな傭兵やで、宅配物の引取りに来ました、お荷物のご用意お願いしまーす‥‥ってなんや、えらいノンビリしとるやんな。警戒とかしないんかい」
 時雨の指摘に、ゲーム機を閉じて懐にしまうと、ベッドの上で胡坐をかく少女。
「これでもセンサー過敏なものでね。チンピラ達とは気配がまるで違うよ。ま、見てたし」
 窓を指さす。そこから見ていたのであろう。
「狙撃される心配はしないのか?」
「彼らの武器にここを突き破れるほどのものは無いさ。で、君は私に何か個人的に恨みのありそうな目をしているね」
 キリルがスッと前に出る。
「‥‥実物を見るのは初めてだよ。ミル・バーウェンで間違いないな? 昔、お前のおかげでエライ目に遭った者だとだけ、告げておく」
「ふむ。私のせいか。たぶんそれは、君だけではないだろうけどね」
「なんや、ごっつい神経しとるな。そんな神経逆なでて大丈夫かいな」
 時雨が呆れていると、キリルが無言で近づき――ボディアーマーBをミルに着せる。
「‥‥気休めだが、着ていないよりは遥かに安全だろ。お前の売った『商品』なら、容易くぶち抜いてしまう可能性も有るが」
 それだけを言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。
 ニっと口元をさらに吊り上げるミル。
「君らはプロだからね。依頼を優先するだろうさ」

「こちらエド、お嬢さんは確保したよ。入り口の裏で待機しているから、外のキメラは宜しくだ!」
 通信が聞こえたカノンが、1匹のキメラを誘うように二丁拳銃で牽制する。
「‥‥キメラは殺すわ、当然じゃない。とどめを刺すのも面倒だから‥‥」
 誘いに乗り、マーシナリーアックスに持ち替えたカノンめがけ、飛びかかってくる――そこを流し斬りで側面に回りこみ、さらに両断剣を乗せたスマッシュを叩き込んで1匹を屠った。
「一撃で死になさい」
 牽制しつつ、要所要所で当てているセレスタへ、カノンの時同様に飛びかかってくる。
 だが、予備動作で読んでいたセレスタはナイフに持ち替え、紅蓮衝撃を使用し、流し斬りで側面に回り込み、渾身の一撃を振るい、深手を負わせて叫んだ。
「不破さん、今です!」
「死ね‥‥よ!」
 炬烏介が隙を突き、頭部へと一撃お見舞いしてそのキメラも撃沈する。
「‥‥あちらは終わったようですね。敵の残存戦力は‥‥」
 キッと残り1匹を睨みつけたところで、突如D‐58が迅雷でキメラの前から姿を消す。
「ぐわぁ!」
 悲鳴と共に、入り口には手足から血を流した男が転がっていた。
「侵入は、させません」
 機械的なD‐58の言葉に、のた打ち回っていた男が青ざめて黙り込む。
 D‐58と共にキメラにまとわりついていた桜乃だったが、1人になった事でキメラに感知されてしまう。
 あわやピンチといった時、セレスタが援護する。
「カバーします! ご無事ですか?」
「感謝します、セレスタさん――やはり接近は少々厳しいですね」
 離れる桜乃。セレスタのサブマシンガンで足を止めているキメラに、炬烏介が飛び込んで脚をすくいあげる様に殴りつけ、キメラを転倒させる。
 そこに、迅雷で戻ってきたD‐58のロートブラウが、突き立てられるのだった――。

「キメラ排除完了、周辺警戒に移ります」
 いたって平静なセレスタが周囲を警戒しつつ、建物の側によっていく。キメラ討伐組も集結する。
 カノンが動けずにいた男に銃口を向けて立っている。
「‥‥人間を殺す趣味はないけど、邪魔をするなら容赦する理由もないわよ」
「もはや戦力もあるまいよ」
 中から入り口を開けて、ミルが出てくる。
 時雨、キリル、エドワードも出てくる。転がっている男を見て、時雨がミルに提案する。
「‥‥マフィア連中、サービスで始末しとこか? それとも持って帰る?」
「いや、始末は結構。狙撃の心配ももうないだろうし、これはこの場に捨てて行くさ。さて、帰るとするかね」

 ハウスからやや離れたところに車が止まっていた。
 時雨が近づき、コンコンとガラスを叩く。
「宅配便でーす、お届け物の確認と受領書にサイン頼むでー」
 聞いていた人相と違う。ミルのほうに目配せをする。表情に変化はない。
(うーん、このお嬢さんの部下にしては人相が悪そうな?)
 いかにもガラの悪そうな外見に、首をかしげ、少々胡散臭げにエドワードが見る。
(人は見かけによらずっていうけどさ、かえって疑ってしまうんだね?)
 ミルの表情を伺う。常に張り付いた笑みからは表情が読み取れない。
「何だか引っかかるね‥‥?」
 車から出てくる男2人。傭兵達の間に緊張が走る。
「まあご苦労様だね」
 ミルが2本指で自分の喉を押さえる。
 ザッと茂みから人影が飛び出し、途端に2人の男がボンネットに押さえつけられ、ナイフを喉元に突きつけられていた。
「よう、お嬢。ワリと元気だな」
「狙撃手は無力化しておきました」
「ご苦労。そして、傭兵の諸君もご苦労だったね。報酬はちゃんと振り込んでおくので、さらばだ」
 押さえつけた男をトランクに詰め込み、3人は車に乗り込む。
「待て――怖く、は。無い‥‥のか‥‥? ――死、をモノとも、しない。心‥‥傭兵、ら――と。似ている‥‥」
 車で走り去ろうとする3人に、炬烏介が呼び止める。
 興味が湧いたのか、ミルが窓から顔を出して答えた。
「死も売り物だから、商人が商品にビビッてちゃお話にならない。君らのとは覚悟の方向性が違うだけさ」
「――死を売る‥‥商人。――死、とは‥‥何、だ‥‥」
 その質問に少し考え込む、ミル。
「そうだな‥‥逆に問おう。何故わからぬものを問う?」
「質問、の意図‥‥わか、ら‥‥無い。――ヒト、が。分から、ない‥‥から。訊いた」
「ならば、意図がわかるようになった時、再び同じ質問をしてくれたまえ。その時、改めて答えよう」
「俺にも言わせてもらおう‥‥もう、お前が死んだ方が世界平和の為なんじゃないか? 恨み抱えすぎて移動する火薬庫状態だろ」
 キリルの言葉に、嘲笑をまじえる。
「一部に平穏はあるだろうが、平和はないよ。私ほど人類の平和を愛するものは、いないだろうしね」
 ミルの言葉に部下の2人が吹き出す。
「死神が言うな」
「ほう、では君達はさしずめ『死神を助けた者』というわけだ」
 窓を閉め始めるところに、時雨が手で止める。
「待った。わしも一言――またのご利用まっとるでー縁があればな」
 その言葉に、ミルは親指を立てて答えた。
「ああ、今後も贔屓させてもらうよ。傭兵諸君」

『武器商人もただの人さ・終』