タイトル:BlackBoxOpen!マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/14 06:36

●オープニング本文


●孤島の基地
「待っていたよ、諸君」
 リズ=マッケネンたちを出迎えたのは、山岳基地で別れたはずの長身の研究員だった。
 一部、不思議がる傭兵もいたことを察した研究員は、鼻で笑う。
「私は箱の運搬を依頼した後、安全な空からこちらへ着させてもらったのだよ。諸君らは大変だったようだがな。私が乗って来たこれで、諸君らを帰す段取りはできている。今すぐ帰りたい者は乗って行くといい」
 傭兵達とリズに視線を向ける。
 視線を向けられたリズは、まっすぐに見つめ返す。
「私は残ります。まだ、箱を最終目的地に届けたわけではありませんから」
「ふむ‥‥まあ好きにしたまえ」
 箱を同行させた小柄な研究員から受け取った男は、ばっとひるがえして建物の内部へと向かう。
 ついでと言わんばかりに、顔だけを傭兵に向けて手をヒラヒラさせる。
「傭兵諸君は帰るんだな。もう依頼は終えたんだろ? ‥‥まあ興味本位で残るのも自由だが、私はこれからこれの修理に取り掛かるので失礼するよ」

●基地・通信室
「すいません、本部へ連絡したいんですけど‥‥」
 リズがおずおずと通信員にお願いすると、若い男の通信員は笑顔で快く許してくれた。
「ほい。本部へ回線つないどいたから、どうぞ」
 通信員が横に避けて、マイクの前に促す。
 リズはペコリとお辞儀をして、マイクのスイッチをONにする。
「こちら連絡将校エリック=マッケネンの代理、オペレーターのリズ=マッケネンです」
「ああ、リズっち? 変なとっから通信してるわね」
 普段聞き慣れた、澄まし声の女性オペレータのあまりにも素の返信に、通信員が思わず噴出す。
 噴出されたのが己のように顔を赤らめる、リズ。
「メイさん、仕事中なんだからちゃんと応対してくださいよ。隣の通信員さんに笑われちゃいましたよ」
「はーいはい。で、何? 経過報告とかそういうの?」
「そうです。ちゃんと記録してくださいよ」
 リズがたしなめ、ここに来るまでの経緯をメイに伝えた。
「ほーナルホド。リズっちがなんか変わったと思ったら、そういう世界を見たからか」
「変わった、かなぁ。でも、見聞は広まりましたね」
「そっか‥‥で、今なんか雲行きが怪しい気配」
「雲行き?」
 リズが首を傾げて聞き返したが、しばらく応答がなかった。
「メイさん?」
 まだ反応がない。
「――リズ=マッケネン。今から重要機密事項を伝えます。
 音声通信から文字通信に切り替えを、お願いします」
 突然の仕事モードの彼女に、リズは顔を引き締めてキーボードを操作する。
 そしてリズは「事実」を伝えられるのであった――。

●UPC本部・斡旋所モニター前
『某孤島の基地にいる研究員を連行する事。キメラとの戦闘も予測されるため対キメラ装備にて30分後集合、出発。詳細は現地のオペレーターより説明』
 連行とキメラの関連性が思いつかない傭兵達は、ただ、ただ、首をひねるだけなのであった。
 そんな中、数人の傭兵は興味が湧いたらしく、準備を整えて集合場所へと向かった――。

●孤島の基地・内部
 窒素で満たされた部屋で、酸素供給式防護服に身を包んだ2人の研究員が作業に没頭している――それももう6時間ほどたった時の事。
 小柄な方の研究員が、小さな青い紙を近づける――変化なし。
「‥‥よし、なんとか修繕できたな」
「作りは人類の物とだいぶ違いましたが、基本的な機構が近かったのが救いですね」
「ああ、まったくだ」
 笑いながら黒い箱を手に取り、洗浄ルームを通り抜け、防護服を脱ぎ捨て通路に出た研究員達。
 その2人の前にリズを先頭とした傭兵たちが、ずらりと、包囲するように待っていたのだった。
「‥‥何か私に用かね?」
 長身の研究員が、苦々しくリズに向けて質問を投げかけた。
「先ほど、本部から通達がありました。お二方を拘束して、本部につれて来るようにと」
「――バレてしまったわけだな?」
「はい」
 リズが一歩前に出て、説明を続ける。
「そちらの黒い箱、破棄されたバグアの基地から発見されたものだそうですね。調査の結果、人類ではよくわからない、なにかしらの揮発成分的なものを生成して大気中に散布。
 そして野良キメラはそれに引き寄せられるという、大変危険なものだそうで」
 傭兵の中には、やはりやはりといった声がチラホラ聞こえる。
「その結果を受け、本部は廃棄を命令していたそうですが、調査した方が廃棄に見せかけ極秘に研究を続けていたそうですね?」
 研究員は沈黙したままだ。
「その方たちを連行するようにと、本部からのお達しです。そして、箱の廃棄処分も任されました」
 すっと手を出すリズ。
「箱をこちらに渡し、一緒に来ていただけますね」
 突然、バッと小柄な研究員がリズに飛びかかる。
 さすがに数々の修羅場を潜り抜けた傭兵は対応が早く、一斉に動き出す――が、その隙をついて長身の研究員が全力で逃げ出した。
 逃げながらちゃっかり非常ベルを押し、リズたちを閉じ込めるように防煙シャッターが下りる。
 もちろん、その程度で傭兵達を閉じ込める事などできないが、まんまと時間を稼ぎ、彼は基地の外へと逃亡したのだった‥‥。

●孤島の基地・外
 逃げたはいいが、しょせん技術屋の体力と知識。
 実践だけでなくさまざまな経験を積んだ能力者に全ての面でかなうわけもなく、大木の下で休んでいる間にあっさりと追いつかれ、捕らわれてしまった研究員。
 森の中を蛇行し、基地から1キロほどまで逃げただけでも、彼のレベルでは快挙である。
 息を切らしたリズが、傭兵に手を引かれてやってくる。
 研究員の前でしばらく息を整え、そして背筋を伸ばす。
「さあ、おとなしく箱を渡してください」
 なかなか渡そうとしないことに業を煮やした傭兵が1人、箱を研究員からむしりとるとリズに手渡した。
「‥‥くそ、それを研究すればキメラを操れるかもしれないというのに」
「キメラはどんなものでも退治するものであって、人類が使うべきではありません。それに、操れても敵に操られ返されたら意味ないですよ」
 リズは手の中の箱を色々と探っている。
「ですからこれは、この場で無力化させてもらいます」
 パカンッと、黒い箱が開いた。その瞬間、研究員が動揺する。
「空気に触れたら劣化してしまう!」
「と言ってましたよね」
 よくわからない中の構造をじっくり吟味し、地面に置くとハンドガンを取り出し、銃口をピタリと中に押し付ける。
「待て! 破壊すれば確かに生成の機能は止まるが、生成して溜まっていたものが噴出してキメラを呼び寄せるぞ!」
「わかってますよ。ですがこの島は、定期的なキメラ狩のために島の規模のワリに極端に生息数が少ないのも、基地の人から聞きました。それに――」
 パァン!
 乾いた音ともに、ハンドガンが硝煙を撒き散らす。
「傭兵さん、頼みますね。信じていますから」

●参加者一覧

美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
荊信(gc3542
31歳・♂・GD
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
蒼唯 雛菊(gc4693
15歳・♀・AA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
明神坂 アリス(gc6119
15歳・♀・ST
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN
高坂 永斗(gc7801
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

 ザワザワザワ‥‥――。
 リズが黒い箱を壊した瞬間から、周囲の不穏な空気を傭兵達は感じ取っていた。
「狩りの時間である」
 そう淡々とつぶやいた美紅・ラング(gb9880)は振り返り、高坂 永斗(gc7801)と見つめあった。
「永斗、力無き者達の護衛は任せる。守ってやれである」
「ああ。厄介だが仕方がない。守りを固める」
 永斗の言葉に美紅は安心したようにうなずくと、周囲の偵察のために駆け出していった。
 くるりと、永斗はリズに向き直る。
「無茶な事をする。無駄に仕事が増えてしまった」
「すいません、高坂さん」
 やってしまったリズはすまなそうな顔はするものの、その表情そのものはスッキリとしていた。
「ハハッお前さんも、なかなか無茶してくれるじゃねぇか。仕方の無ぇ馬鹿だな」
 多少なりとも縁のある荊信(gc3542)が、リズの背中を叩いて豪快に笑う。
 背中を叩かれたリズは軽く咳き込むが、荊信にニッコリと笑って返す。
「ええ、馬鹿になるのも必要だなって思ったんです。おかげでスッキリしました!」
 誇るようなリズの態度に、少し意外そうな顔をしたのちニヤリと荊信も笑って返す。
「だがそれがいい。ハハッ、嬢ちゃんが意気を見せるってんなら、それに応えにゃあならんな」
 コンと自らの鎧を小突く。
「俺も、コイツでの初陣だ。皆遮盾の名にかけて、しっかり守らせて貰うぜ」
「ところでさ、リズ。ここらへんのキメラだけど、犬と狼、あと猪がいて熊は恐らく居ない、だったよね。鳥型や猿型のような、上から来るキメラはいないのかな?」
 多く箱とリズに関わってきた明神坂 アリス(gc6119)が、親しげに声をかけた。
「それは基地の防衛上、熊以上に重点的に殲滅したようですね」
 アリスは少し考え込んでから、口を開く。
「じゃあお2人には、ここからちょっと離れた木の上にでも避難してもらおうよ。それで僕とかも木の上で護衛すると」
「おう、いいんじゃねぇか?」
「そうだな。その方が護衛しやすい。地上にいて、近づかれたらアウトだ。流石に死なせる訳にはいかんだろ」
 アリスの提案に、荊信と永斗が承諾し、リズもうなずいた。
「まずここから離れるぞ」
 永斗が研究員を立たせ、アリスがリズの手を引く――その背に、荊信が声をかけて苦無を差し出した。
「ほれ、持って行け。気休め程度だが、幹に刺して使えば簡単な足場程度にゃあなる」
「ありがとうございます、荊信さん。どうかご無事で」

 ハンフリー(gc3092)滝沢タキトゥス(gc4659)蒼唯 雛菊(gc4693)立花 零次(gc6227)が視界を開くために、枝や草を伐採していた。
「自然を傷つけるのは気が進みませんが‥‥」
「この際、仕方ないですよ。それにしても、こんな武器で枝を切り落とすなんて、捨てたもんじゃないですね」
 マチェットで枝葉を切り落としているタキトゥス。
 他3人は斧や大剣に無理なく切れる木を短時間で伐採している。
「やれやれ、面倒な事になりましたね。ですが、その信頼に応えないわけにはまいりませんか」
「そういうことだな」
「やることが豪快ですの。でも嫌いじゃないなぁ」
(何か裏があるとは思ってはいましたが‥‥思ったとおりでした。それにリズさんの想いも、わからなくもないですね)
 箱への縁が、アリスと同じく深いタキトゥス。伐採をしている最中に、リズ達が通りかかる。
「キメラは我々に任せ、リズさんは彼の監視をお願いしますね。妙な動きをするようならお知らせください」
「了解しました、立花さん」
 零次の言葉に会釈して立ち去ろうとするリズに、思い出したように再び声をかける。
「ところで、この辺りの木って、切っても大丈夫なのでしょうか? いまさらなんですけど」
「それは‥‥ちょっとわかりかねます。ただ、この島全体が開発予定区域なので、伐採予定ではあると思います」
「まあ、ここまで切っちゃったんですから、あとは流れに身を任せるとしますか」
 肩をすくめた零次は、伐採を再開する。
「‥‥私の行動は、浅はかだったんですかね」
 リズの独白が聞こえたアリスが、口元に手を置いて先ほどの光景を思い出している。
「まさかリズがあんな思いきったことするとはねー。最初に会った時に比べて、気持ちが強くなったのかな?」
「そうですね‥‥父を‥‥養父をあんな目にあわせた箱を壊してやりたいとは、最初っから思ってはいました。ですけど、箱を壊してもどうにかなるって思えるようになったのは、アリスさん達のおかげです」
「そっか。ま、それだけ僕らを信頼してくれてるなら、期待を裏切るわけにはいかないね――あと、僕はアリスだけでいいよ。境遇も似たようなものだからさ、僕ら姉妹みたいなもんだよ」
 ニッコリと笑って自らの胸を叩くアリス。
「わかりました、アリス。宜しくお願いしますね」

「中身って気体だったんだねー。ちょっと意外」
 ガッカリしたようにつぶやくクラフト・J・アルビス(gc7360)。クンクンと匂いを嗅ぐが、火薬の臭いくらいしかしなかった。
 箱をつまみあげ、体中にこすり付けてからもとの場所に戻して立ち上がると、近くの手ごろな木を『キアルクロー』で伐採していく。
 残された箱の元に、トゥリム(gc6022)がたたずんでいた。そして、黒い箱を観察する。
「あ、あの箱だ‥‥」
 危険なものとは知らずに、つい先日に開けちゃダメと言ってしまったトゥリム。責任を感じてしまい、彼女は思いつめた表情をしていた。
「あれって危険な物だったんだ‥‥じゃあ僕の罪は‥‥」

「そろそろ気配が強まってきた。全員、一度木の上に避難して欲しい。箱に群れてきたところで、コイツをくらわせてやるのである」
 偵察から戻り、箱の近くの大木の上で双眼鏡を使っていた美紅が、閃光手榴弾をとりだして皆に警告した。
 美紅の警告に傭兵達は伐採作業を中止し、荊信の提案でなるべく一箇所に纏め上げてキメラのための通路を作ると、丈夫そうな木に各自登り始めた。
「俺はちょいと登るのは難しそうだからな」
 纏め上げた木の隙間に、身を潜ませる荊信。
「そうだ。誰かあの箱の揮発性物質を地面に広げてはくれまいか? 蒸散を促し、短期決戦にするのである」
「了解した」
 ハンフリーが箱に近づき、箱を拾い上げてまじまじと見つめる。
「何とも探求心と功名心を擽りそうな玩具だ。薬になりえぬ毒でも座視できんのは、研究者の性か」
 箱をひっくり返し、地面に何度も叩きつけてから木の上へと急ぐ。
「来た‥‥」
 美紅の登っている大木の下で、草に身を潜ませているトゥリムがつぶやいた。すでに目を赤紫色に輝かせ『探査の眼』と『GooDLuck』を発動させていた。
 纏め上げた木の通路から計6匹の犬型が走ってきて、箱の臭いをかいでいる。
 美紅は黙って閃光手榴弾のピンを抜く。
(26‥‥27‥‥28‥‥)
 ひゅっと箱にめがけ、投げつける。
 ぽとり。
 ――カッ!
 強烈な閃光と音がキメラ達を包み、キメラはその動きを完全に止めてしまった。
「今である」
 眼帯の奥の瞳が鮮紅色のオーラで燃え上がり、『スカーレット』で犬型キメラを1匹撃ち貫く。
「おっしゃあ!」
 盾で閃光を防いだ荊信は瞳の色を真紅に染め飛び出すと、『S−01』で発砲。
「攻撃を開始する」
 深緑のオーラをまとったハンフリーが荊信と同じ犬めがけ、閃光の届かない木の上から『NGーDM』を発砲し、1匹を仕留めた。
 そしてハンフリーが木から飛び降り、着地する。
 眼を青くしたタキトゥスが、木の上から『鋭覚狙撃』で犬に狙いを定める。
「当たれ――いや、当てる!」
 彼の『ヘリオドール』から放たれた一撃は、見事に犬の眉間を貫き、タキトゥスも地面へと降り立った。
 目を閉じて閃光をやり過ごした零次が、闘争本能に静かな火を灯し静かに魔創の弓を構え、頭部めがけて1射。たったの1本で、犬を仕留める。
「一射絶命――意味合いは少し違いますが、言葉的にはぴったりですね」
 弓をしまい、木から降りるとリズ達のいる大木へと急いだ。
「無駄撃ちはしないぞ? 弾が足りなくなる」
 左目から顎にかけて赤いラインが走る永斗が『狙撃眼』を使い『真デヴァステイター』の射程を引き上げ、かなり遠めにいる犬に狙いを定め発射。
 三発直撃を受けた犬は絶命する。
「上からキメラを見下ろす気分はどうだ? リズ氏」
「さすがにコレだけの距離があると、安心感がありますね――それに、アリスたちがいますから」
 ニコリとリズに微笑みかけられ、二カッとアリスも笑顔で返す。
 草葉に隠れていたトゥリムが立ち上がり、残った1匹の犬めがけ『クルメタルPー56』を発砲し、足を止める。
 そこへ地上に降りた雛菊の『氷牙』が牙をむき、一撃のもと屠りさる。
「警戒し、散るのだ。犬と狼多数、遅れて猪が8匹向かってきているのである」
 美紅の言葉に、ハンフリーと荊信、そしてクラフトが箱の周囲に固まった。
 タキトゥスはそこから少し離れ、木に身を寄せる。
 雛菊は伐採した木で出来た通路に立ち、『氷牙』を構える。
 トゥリムは美紅のいる大木の下で待ち、零次はリズ達のいる大木の下で待ち構える。
 アリスや永斗は木の上だが、警戒は怠らない。
「きたな!」
 雛菊が真っ先に跳びかかってきた犬の正面から『急所突き』で突き刺すと、横なぎに振って後続の犬ともども切り裂く。
「お前らの足よりも氷牙の刀身の方が長いんだよぉ!」
 雛菊の横を他の犬や狼が通り過ぎる。
 その前にクラフトが躍り出ると、爪を一振りし注目を集めると『疾風脚』でスピードをあげて、箱から少し離れておびき寄せる。
「こっちだよー。俺の相手してねー」
 何匹かの狼をクラフトがひきつける。
「お前らは私が相手だ!」
 誘いに乗らなかった犬達にハンフリーが大声で気勢を上げ、1匹めがけて『雷遁』を直撃させると、複数の犬がその足を止めた。
 そこへ足を狙い、発砲。
「的だらけか‥‥望むところだ!」
 完全に足を止めた犬に、タキトゥスが射撃を繰り返し肉薄すると『オーラブルー』を抜き放つ。
「ズタズタにしてやる、ありがたく思え」
「俺も見せ場をつくらねぇとな!」
 まだ残っていた犬と狼たちに荊信は『制圧射撃』を行い、縫いとめる。
 そこへ雛菊が肉薄し、突き、切り払っていく。
「猪、来るのである!」
「ならばこの皆遮盾荊信が盾となる」
「私も忘れてもらっては困る」
 ずいっと荊信が箱の前に立ち盾を構え、ハンフリーが『弾き落とし』を使用すると、猪が6匹、荊信めがけて突進してくる!
「おおお!」
 気合一閃、猪の突進を受け止めきる荊信。
 動きが停止した猪に、クラフト、雛菊、タキトゥスが肉薄し、一瞬にして3匹屠り、美紅とトゥリム、そして近距離からの荊信の銃撃で残りも倒れた。
「はぁ!」
 同じく2匹、猪の突進を受け止めたハンフリーは、裂帛の気合と共に猪の眉間を『ノコギリアックス』でかち割る。
「‥‥あれは何であろうか」
 怪訝な表情の美紅。それもそのはず、何かが木々をなぎ倒し、こちらに向かってくるのである。
 その地響きがどんどん近づいてくる――と。
 ズガァァァン!
 木々が弾けるように吹き飛び、一匹の巨大な猪が荊信めがけて突撃してきた!
 不意を突かれ、盾で受けることが出来なかった荊信――だが。
「チッ‥‥調子に乗るなよ、盾は沈まねぇッ! 」
 気合と共に『渾身防御』でダメージこそはなかったものの、そのまま圧されてリズ達のいる大木に激突させられる。
「ぐぅ‥‥」
 さしもの彼も呻き、膝をついてしまう。
 そして最悪の事態が。
「キャァァァ!」
 自分達が落とされない事で手一杯だったアリス達が、落ちそうなリズをつかみ損ね、リズが大木から落下する。
 ジャッ!
 落下した瞬間から零次は『迅雷』を使い、リズを地面に叩きつけられる前に拾い上げた。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ‥‥大きいですねぇ。相手にとって不足は無し、とでも言っておきましょうか」
 距離的に不利を悟っている零次は冷や汗を垂らし、刀に手を伸ばす。
「おい、無視するんじゃない‥‥俺が相手になってやる!」
 タキトゥスが挑発するも、あまり意味はなさなかった。
 ガンガンガンッ!
 主の眉間に上から撃ち込まれるが、さほど効いた様子がない。
 ザッと永斗が降り立つ。
「堅い。俺じゃ撃ち抜けないか‥‥あんたの安全が最優先だ。大人しくの俺達の後ろに隠れてろ」
「俺も混ぜてー」
 クラフトが『瞬天速』で主に一気に肉薄し、ペイント弾を目にぶちこみ、一瞬で離脱する。
 視界をふさがれた主は、天を向いて怒りの雄叫びを上げる――そこに。
 ズドン!
 主の眉間に風穴が開く。木の上からアリスが『練成弱体』美紅が貫通弾で『部位狙い』を使い、そのたった一撃で、主はゆっくりと倒れるのだった。
「任務、終了である」
 
「無事か? ‥‥五体満足なのは確かだし、無事に決まってるか」
 それだけ言い残し、美紅の元へと向かって歩いていった。
 研究員に手を貸しつつ木から降りてきたアリスが、リズに抱きつく。
「ゴメン、リズ。危ない目にあわせちゃって」
「いえ、いいんですよ、アリス。こうして無事だったわけですから」
「まったく、もったいない‥‥」
 しれっとした研究員の喉元に、氷の視線を投げつけながら雛菊が氷牙を突きつける。
「もしキメラを操って何かしようものなら‥‥私がキメラごと叩き斬る。例えそれが人類のためと言っていても、だ‥‥」
「研究員の人に罪があるなら、開けるなと言った僕にも非があるのでは‥‥」
 トゥリムが心の内を独白する。制裁も覚悟の上でだ。
「そんなら運んできた俺だって非があることになっちまう。安心しな、トゥリムの嬢ちゃん。お前さんは悪くないさ」
 ダメージが抜けないのか、荊信は座り込んだままタバコに火をつける。
「そうですよ。トゥリムさんは立派に仕事をしてくれただけなんですから」
「‥‥ありがと」
「で、何でこれからキメラ寄せの臭いがでてたのー?」
 箱を持ち上げるクラフト。
「たぶん、わからないままですよ」
「ふーん‥‥写真撮っていいー?」
「いえ、それはだめです」
「チェー」
「機密事項‥‥おっと、元機密ですかね。まさか運んできたものを破壊する事になるとまでは、予想できませんでしたが」
 タキトゥスがハハハと、さわやかに笑う。
「多少は刺激的な日でしたけどね」
 零次も穏やかに笑う。
「全くもって浅はかであるぞ! 今度からはもう少し考えるべきである!」
 まだ木から降りてきていない美紅が、大声で叫んでいる。
「だが確実に破壊せねば、他に好奇心を持つ輩がこれをどうにかするかもしれんからな。これもまた正解の1つだ」
「ありがとうございます、ハンフリーさん」
 ハンフリーが箱を拾い上げ、リズに手渡す。
 壊れた箱をみつめ、リズがぽそりとつぶやいた。
「父さん、あたし頑張ったからね‥‥」

『BlackBoxOpen! 終』