タイトル:【朗読】正義の行方マスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2014/06/16 17:57

●オープニング本文


 一筋の光線が地上をなぎ払う。
 閃光と爆発――武器と呼ぶにはお粗末な物を持っていた人々が、ほぼ無抵抗のまま蹂躙されていく。
 引き裂かれる『武力縮小・廃止』の横断幕。
 そしてあたりが火の海に包まれ、抵抗の気配が完全になくなったのを確認してから、火の海を作り上げた張本人『地上モデル・フィーニクス』のパイロットが、通信回線を開く。
「こちら『アメンドセイバー』。暴動鎮圧完了。これより帰還する」

 放送されたニュースでは、武器を持ってそこらへんの壁を叩いている様子、解散を呼びかけている兵の画像、そしてまだ攻撃を開始していないKVの画像のみで編集されていた。
 一方的な戦闘は完全にカットである。
「……やりすぎだな。やつら」
 ノーカットの生映像と見比べ、膝の上で手を組んだ女性が呟く。
 負傷者0となっているが、そんなはずはない。
「これでいいのですよ。我々こそが正義。正義は暴力を使って勝った側のことを言う。――かつての大戦も、結局人類は暴力に頼ったわけですからな」
 慇懃な口調のずいぶん若い男が悲惨な映像を前に、他人事のように語る。まるで罪の意識を感じさせない口調だった。
「あの時代に我々がいれば、もっと早く勝てた事でしょう」
(彼らを知らずに、よくもぬけぬけと……)
 ずいぶんと冷たく鋭い視線を投げかけているのだが、若者は全く気にもかけていない。自分の背後にある力と己の正義を信じているのだろう。正規軍でも政府でもないだろうが、まかりなりにもKVを運用できるだけの組織力は侮れない。
 もしくはそのような力関係の計算などは念頭になく、中年に差し掛かった民間人の女など、正義の為に力を行使する『アメンドセイバー』の隊長である自分よりも劣る存在だと見ているだけなのかもしれない。

(いや。かもしれないではないな。そういう態度がありありと見える――なめたものだな、世界を知らぬ小僧めが)
 実際の所、『アメンドセイバー』は複数の(正体すら明かさない小心者の)出資者が独自に結成した私設部隊だ。活動地域であるオーストラリアのごく一部ではそれなりに知られているし、歪められた情報による「正義の精鋭部隊」像は、賞賛や共感を受けてもいるのがややこしい。ただ官憲に実体を知らせて潰しても、一か月もすれば名前だけ挿げ替えた類似の団体が出てくるだろう。

 ふと何かを思いついたのか、女はニンマリとあくどい笑みを浮かべた。
「ならば少し、君らの『正義』を使って貰いたい」


 ずいぶん閑散としたUPC本部に、民間人との演習依頼が並んだのはその数日後のことだった。詳細は、依頼を引き受けた者だけに知らされる、と付記がついている。

 ――その内容とは、以下のような物だった。
 依頼内容は遊撃隊『アメンドセイバー』との演習。ただし、実戦を想定した演習であり、相手には今回の依頼については知らされていない。
 アメンドセイバー側には、元傭兵の不穏分子が戦力を蓄えて不穏な行動を企てている情報を伝え、鎮圧依頼がなされている形だ。正規軍ではなく民間組織である彼らへの直接依頼になった理由として、その元傭兵が軍に一目置かれている為にもみ消しの恐れがある、とも伝えてあるらしい。
 数機のKVの撃破が目的ではなく、彼らへプライドを失うような敗北を提供し、背後のパトロンたちに出資に見合わぬ事を理解させる事こそが最大の目的だ。その為に、アメンドセイバーはあくまでも生かして撃破する事が必要条件としてあげられている。

 なお、関係各所へそれなりに手回しが必要であろう、この回りくどい依頼の依頼主の名前は伏せられていた。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
マキナ・ベルヴェルク(gc8468
14歳・♀・AA

●リプレイ本文

 クルーエル『羅喉』で、煉条トヲイ(ga0236)は重々しく口を開いた。
「――あれから、20年、か。大戦を知らない世代が増えて来たとはいえ‥‥惨い事をする。
『恐れ』を知らない者は、何処までも残酷になれるもの。『天敵』が去った結果が、これか‥‥」
「青いですね。懐く理想もなく、蹂躙するだけで覚悟もない――ならば此処はひとつ、先達として教授しましょうか」
 通信から流れるマキナ・ベルヴェルク(gc8468)の声には抑揚が無く、冷ややかに続けた。
「弱い者の、立場と言うモノを」
「ああ――そうだ。
 誰かが教えるしかあるまい。本当の恐怖と言うモノを。
 ――羅喉よ。お前と共に駆けるのも久方振りだな。今日だけは存分に、力を振るえ‥‥!」
「以前にも、こんな依頼があったなぁ――まあ、もうずいぶん昔の話だが」
 ヴァダーナフ『ダーナヴァサムラータ』の漸 王零(ga2930)が、ややのんびりとした口調で呟く。
「いつの時代も、変わらないね」
 コックピットハッチを開けたまま、煙草を咥えた鷹代 由稀(ga1601)が、輸送機の解放で固定した側面ハッチに、狙撃姿勢で愛機のガンスリンガー改『ジェイナス・リペア』を固定していた。
「やれやれ、相変わらず我が妻は人使いがあらいのう」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)が愚痴を漏らすと、雷電『忠勝』の足に腰を下ろしていた榊 兵衛(ga0388)が、苦い笑いを浮かべていた。
「妻、か――そうなると、『社長』がわざわざ動いた依頼か」
 ハヤブサ『紫電』と、アンジェリカ『修羅皇』が今、到着した。
 身を乗り出して見渡した狭間 久志(ga9021)は、その顔触れに苦笑する。
「はは‥‥敵に回したら逃げたくなる顔ぶれだ。また会えて嬉しいよ」
「壮観なメンツが集まったものだね〜」
 久志同様に、修羅皇から身を乗り出していたキョーコ・クルック(ga4770)までもが、苦笑していた。
 クラーク・エアハルト(ga4961)が皆の顔を見渡し、目を細める。
「懐かしい顔だ、本当に」
「戻って来たか、クラーク。もう、仕込みは終わったのか?」
「トラップを仕掛けるのが、上手いのが職場に居てね――助かったよ、ボマー」
 通信で礼を述べると、ちょうどスレイヤーが高速で通り過ぎ去った。
 旋回し、先ほどより少し低空飛行で戻ってくると、通信越しに懐かしい声が響く。
「ドラゴン1より各機、また懐かしい面子がそろっているな。こんな所で同窓会か?」
 たまたまここへ来ただけに過ぎない伊藤 毅(ga2610)へクラークが笑って返すと、今回の依頼について端的に説明する。
「なるほど。どうりで、いきなり撃ってくるおかしなやつらがいるはずだ――」
 再び上空で旋回――かと思いきや、急上昇。一筋の閃光がスレイヤーを追いかける。
「やっと来たか‥‥今時の自称正義の味方はのろまなんだな」
「王零。こうしていると【天衝】に居た頃を思い出すと言うもの‥‥大空では無いのが残念だ」
「そうだな。他の皆は元気にしているだろうか――まぁ、今時の若いのじゃ天衝のことを知ってる奴も少ないだろうがな」
 由稀のジェイナス・リペアは、輸送機と共に高空へ。雲に隠れ、ガンカメラでアメンドセイバーの貧相な装備と陣形を、皆に伝える。
「我々も、ずいぶんと舐められているようだな。増長しきった若造達に、本物の戦闘というものを、叩き込んでやる事としようか」
「蹂躙する事しか知らなかったというのなら、その身に徹底して教え込ませましょうか」
 不敵な表情の兵衛とマキナ。
「一緒に戦うのって、何年ぶりだったかな?」
「リミッター解除でとなると、20年ぶりくらいにはなるんだろうね」
 嬉しそうなキョーコの言葉に、久志も嬉しそうな顔をする――が、すぐに表情を引き締め、大きく息を吐き出して集中力を高める。
(今日のノルマは『無被弾』。大丈夫、お前とならできる)
「なるべくなら、若いお嬢さんの相手をしたいね? 少し、怖い目にあってもらおうか」
「好きにするんじゃな」
 クラークと美具が走り出すと、スレイヤーがやや高度を下げ、アメンドセイバー達へと向かう。
「ドラゴン1より参加各位、状況開始する」


 スレイヤーが挑発するかのように、ミサイルで足元の地面を狙って撃つ。
 徐々に加速して旋回でバルカン砲をかわし、町へ向かって弱々しく飛んで攻撃を誘い、その攻撃を悠々と回避してみせた。
「おう、こんなロートルの爺様にも当てられんのか?」
「レッツパァァリィィィ」
 スレイヤーに気を取られていたアメンドセイバー達だったが、その咆哮で、真正面に立って待ち構えている美具に意識を向ける。
 その上、低空にまで高度を下げた輸送機が速度に緩急をつけながら、ハッチを下に向けた姿勢で旋回していた。
「ジェイナス、目標を狙い撃つ‥‥!」
 発射された3発の高分子のレーザーが、フィーニクス・レイを貫く。
 即座にリロードし、だいぶ間延びしている隊列の中央へ撃ち、さらに分断してみせた。
「さあ、遊んでやろうかルーキー。ボマー、頼んだよ」
 分断を見計らって出したクラークの合図に、ビルが爆発。崩れ落ちる瓦礫によって、部隊は寸断される。
 そして激しい掃射音と共に、量産型フィーニクスの膝関節が火花を散らす。
「あの頃のバグアは、生身でKVに挑んできたもんだぞ?」
 クラークがまだ空転を続ける重機関銃を担ぎ、傾いたビルの壁を駆け上がっては跳躍し、瓦礫と煙の中へと姿をくらました。
 気を取られている間に、その背中へ高分子のレーザーが直撃する。
「せいぜい逃げ回りなさい。鷹の目から逃げられれば、だけど」
 その直後、量産型の前に土煙と煙幕を突っ切って突如、羅喉が猛スピードで懐へと潜りこむ。
 ロンゴミニアトが量産型の右腕へ突き刺さり、炸裂。
 止まらずに右へ回り込むようにターンして通り過ぎ去ると、ダーナヴァサムラータが姿を現し、レーザーの射出口をゼロ・ディフェンダーで切り落とした。
 それから左へと回り込むようにターン、その逆サイドから羅喉が挟み込むと、左手のバルカン砲と右肩を同時に破壊。
「どうした? お前の力はその程度なのか? アメンドセイバーの名が泣くぞ……!」
「大戦の亡霊どもめ!」
 パイロットが叫ぶと、量産型の頭部にゼロ・ディフェンダーの刃が突きだされた。
「自分より弱い相手としか戦えない汝らが、あの戦いを語るな」
「手加減は忘れるなよ? 王零‥‥」
「あぁ、わかってるよ。殺さないように、へし折ればいいんだろう?」
 頭部に突き出した刃が引かれ、地面に突き立てられる。
「ほら、取れよ。正義の味方――余興だ、遊んでやる」
 ジャイレイトフィアーを構えた王零が声をかけると、それを引き抜き、振りかぶって襲い掛かってくる。
 身を低くして左へと急加速、振り下ろされる刃をかいくぐり、出力を上げ、スラスターによって最適化された動きで、瞬きする間に量産型の四肢を破壊する。
 そしてコックピットへ、左腕に装着した篭手の電極を寸止めで突きつける。
「よかったな、戦時中じゃなくて。あの頃だったら汝ら死んでたよ。
 そして、次同じ状況になったら‥‥我は容赦なく穿つからな――覚えておけ」

「ウィルコ、CASを開始する」
 PDレーザーをかわし、毅のスレイヤーが地表付近にまで高度を落とすと、ミサイルで腕を狙った。
 そして通り抜けざまに人型へと移行して振り返り、真スラスターライフルで火花をあげている膝を撃ちぬく。
 膝をついたところで、その頭部を電磁ナックルで強烈に打ちつけた。
 コックピットは、あえて狙わない。
「ねえ、どんな気持ち? 旧式機に手加減されるってどんな気持ち?」
 そこで突如、コックピット内部に火花が散り、ハッチが強制的に解放される。
 小銃を突きつけたまま、クラークが覗きこむ。
「こんにちは、ルーキー。どうした驚いた顔をして? 敵を間近で見るのは初めてかな?
 なんだ、武器を抜かないのか? 生身の敵と対峙するのも初めてか? 撃つべき敵は、目の前だぞ――さあ、かかって来い」
 はっとし、銃を手探りで探し始めるパイロット。
 しかし無情にも「さよならだ、ルーキー」と、引き金を引く。
 銃声。
 そして、コックピットが赤く染まる。
 ――ゴム弾を受けたパイロットは、泡を吹き、気絶していた。
 コックピットには、ペイントの臭いが立ちこめるのであった。

 流れ弾のPDレーザーで、僅かに被弾した輸送機へ離脱を指示し、シールドを切り離すジェイナス・リペア。シールドを撃ちぬき弾薬を爆発させると、その爆炎で身を隠しつつも降下を開始する。
 フレスヴェルグが残像を残しPDレーザーを回避すると、お返しにPDレーザーを撃ち返す。直撃させるも、さすがの最新鋭機とでもいうべきか、耐久性だけは高かった。
「旧型と思って、甘く見てもらっては困ります――と言っても、他の皆の方が別格ではありますが‥‥」
 そこへジェイナス・リペアが降り立つと、バルカン砲を高機動で避けつつプラズマライフルで応戦する。
 腕を穿ち、フレスヴェルグのフィーニクスレイが足を穿つ。一方的に当てるばかりで、一発も当てられることはなかった。
「‥‥弱すぎる。話にならない。
 どんな姿であっても、フィーニクスは戦士の乗る機体よ‥‥治安維持の皮を被ったテロリストに、乗る資格があると思うな!」
 激昂する由稀に気圧されていたパイロットが、「テロリスト、だと」と不満げに呟く。
「力を使った治安維持の、何が悪い! かつて人類が正義を勝ち取ったのも、暴力のおかげだろうが!」
「“正義は暴力を使って勝った側のことを言う”――ええ、その通りですね。戦が道理のひとつですし、否定はしません」
 残った足の膝も撃ちぬき膝をつかせると、支えようとした腕の肘を由稀が撃ちぬいて、地面に頭部をつけさせる。あたかも土下座をさせる様に。
「――しかしならば、貴方達は“悪”ですね‥‥否定出来ますか?」
「力で勝てば正義? それじゃ、やっぱりアンタ達が悪ってコトね」
 2人の言葉が被さり、頭部のメインカメラも撃ちぬくと、量産型に背を向ける。
「行きましょう、マキナ」
「マキナ、だと‥‥? あの『レオンハルト』の『デウス・エクス・マキナ』なのか‥‥!」
 通り名を口にしたパイロットは、現役の戦士の前に恐れおののくのであった――

 分断された後ろの3機へグレネードが撃ちこまれ、加速した紫電が跳躍。滑空しながら牽制射撃を続ける。
 散り散りになったアメンドセイバーのうち1機が、修羅皇を見つけるなり、そちらへと距離を詰めていく。
「見た目で判断しちゃダメってことを、教えてあげるよ♪」
 追いかける1機だが、紫電の牽制に怯んだ隙をつき、グングニルのブースターで修羅皇が一気に距離を詰め、腕を切り落とす。
「知覚機の物理攻撃なんて、新鋭機様にとってはへでもないだろ?」
 通り抜け、プラズマライフルで足を止めさせると、着地した紫電が前進して距離を縮めた瞬間、察知し、身を捻ったその直後、閃光が通り過ぎ去った。
「レーザー撃つのに、射線見え見えなんだよね!」
(奥の手を使うまでもないな)
「何者だ!?」
「メイド・ゴールド推参っ‥‥なんてね♪」
 久志の方は「音速騎士・ハヤブサ」と、はぐらかす様に返す。
「現役のハヤブサ乗りなんて、調べりゃわかるだろ? ただまぁ‥‥僕はそんなに腕の立つ方じゃないね」
 言葉を返しながらも集中力を切らさず、バルカン砲を向けられるよりも早く離脱する。
 2機が姿をくらますと、量産型は焦り、見まわしている。
「さて、力の差ってものを見せてあげるよ!」
 2機が挟み込みながらゆっくりと姿を現し、じりじりと近づいていく。
 近寄らせまいとバルカン砲で牽制するのだが、銃身の動きに合わせて動く事で、ゆったりとした動作のまま無造作にかわしてみせる。
「自分達のやってきたことを、その身で味あわせてあげる」
 零距離まで詰めると、2機がほぼ左右対照で舞う様に、ソードウィングで関節部分を順番に、連続で切り刻む。
「死にたくなければ、ベイルアウトしろっ!」
 強制脱出装置でパイロットが吐き出されるのとほぼ同時に、2機が雪村を、振りおろし斬り上げ、量産機をただの残骸へと変えるのだった。

「自らを高貴なる者と嘯くのなら、義務を果たすがよい」
 そう伝えた美具を、閃光が包み込む――が、盾を構え、事もなげに立っていた。
「小童めが。温いわ!」
 そして機体を美具が駆け上がり、ハッチに張りついて外部の開閉装置で開けると、中にいた女性パイロットの胸倉をつかみ、無言のまま片腕で抛り出す。
 そのままコックピットに座り、適当な方向にPDレーザーを放つと、レーザーで破壊されたビルの瓦礫に埋まる前に機体を乗り捨て、再び姿をくらますのであった。
 呆然と見上げる女性パイロットだったが、その肩を叩かれ、びくりと肩をすくめた。
「撃破されたら終わりだと思ったのかい?
 君の様な美しい御嬢さんが敵地に放り出されたら……どうなるか、想像はつくかな?」
 青ざめる女性の両手を片手で封じ、実に愉しそうな笑みを、クラークは浮かべるのだった。

「死にものぐるいで避けろよ。当たって大破しても知らないぞ」
 長距離バルカンで適度に弾幕を張り、必死で回避させる忠勝。
 それでも何とか間合いを詰めながらも、PDレーザーの反撃――しかし、そんな攻撃に当たってやるつもりはない。
 かわりにレーザーライフルで、四肢を狙い撃った。
「胴体部分を狙う方が簡単なのだが、万が一の事があるからな。これは結構面倒くさい」
「なんで当たらない! 当たりさえすれば、こんなやつ‥‥!」
 アメンドセイバーの隊長がそう叫ぶと、「ほぉ」と目を細めた兵衛が忠勝の足を止めた。
 PDレーザーが放たれ、閃光に包まれる忠勝――だがそれなりに損傷はあるものの、平然としていた。
「ご要望通り当たってやったが、何がしたかったんだ。お前は?」
 急接近し千鳥十文字で、そのレーザー射出口を、四肢を、寸刻みでこれでもかというほど、完膚なまでに叩きのめす。
「あの戦争の事も知らずに大きな口を叩くのは、恥をかくだけだぞ」
 背を向ける忠勝。
 そしてコックピットだけになった量産型のハッチが、外部から開かれる。美具がのそりと入ってくると、顔を隠していた布をはぎ取った。
「余の顔を、忘れたか?」
「あ、あなたは‥‥!?」
「そなたらの覚悟は見せてもらった。追って沙汰あるまでは控えるがよいぞ」

「おっつかれさま〜♪」
 キョーコが久志に抱きつくと、一気に空気が和らいだ。
「ドラゴン1より参加各位、状況終了、繰り返す、状況終了」
 スレイヤーが再び大空へと舞いあがり、終了を示す通信を残し、遥か彼方へと飛んでいくのであった――



 世界はいつも、いつまでも変わり続けるだろう。だがそれでも、間違った方向へ進もうとするたびに、修正される。
 そう、いつまでも変わらぬ君達がいるのだから――

【朗読】正義の行方  終