●リプレイ本文
クルーエル『羅喉』で、煉条トヲイ(
ga0236)は重々しく口を開いた。
「――あれから、20年、か。大戦を知らない世代が増えて来たとはいえ‥‥惨い事をする。
『恐れ』を知らない者は、何処までも残酷になれるもの。『天敵』が去った結果が、これか‥‥」
「青いですね。懐く理想もなく、蹂躙するだけで覚悟もない――ならば此処はひとつ、先達として教授しましょうか」
通信から流れるマキナ・ベルヴェルク(
gc8468)の声には抑揚が無く、冷ややかに続けた。
「弱い者の、立場と言うモノを」
「ああ――そうだ。
誰かが教えるしかあるまい。本当の恐怖と言うモノを。
――羅喉よ。お前と共に駆けるのも久方振りだな。今日だけは存分に、力を振るえ‥‥!」
「以前にも、こんな依頼があったなぁ――まあ、もうずいぶん昔の話だが」
ヴァダーナフ『ダーナヴァサムラータ』の漸 王零(
ga2930)が、ややのんびりとした口調で呟く。
「いつの時代も、変わらないね」
コックピットハッチを開けたまま、煙草を咥えた鷹代 由稀(
ga1601)が、輸送機の解放で固定した側面ハッチに、狙撃姿勢で愛機のガンスリンガー改『ジェイナス・リペア』を固定していた。
「やれやれ、相変わらず我が妻は人使いがあらいのう」
美具・ザム・ツバイ(
gc0857)が愚痴を漏らすと、雷電『忠勝』の足に腰を下ろしていた榊 兵衛(
ga0388)が、苦い笑いを浮かべていた。
「妻、か――そうなると、『社長』がわざわざ動いた依頼か」
ハヤブサ『紫電』と、アンジェリカ『修羅皇』が今、到着した。
身を乗り出して見渡した狭間 久志(
ga9021)は、その顔触れに苦笑する。
「はは‥‥敵に回したら逃げたくなる顔ぶれだ。また会えて嬉しいよ」
「壮観なメンツが集まったものだね〜」
久志同様に、修羅皇から身を乗り出していたキョーコ・クルック(
ga4770)までもが、苦笑していた。
クラーク・エアハルト(
ga4961)が皆の顔を見渡し、目を細める。
「懐かしい顔だ、本当に」
「戻って来たか、クラーク。もう、仕込みは終わったのか?」
「トラップを仕掛けるのが、上手いのが職場に居てね――助かったよ、ボマー」
通信で礼を述べると、ちょうどスレイヤーが高速で通り過ぎ去った。
旋回し、先ほどより少し低空飛行で戻ってくると、通信越しに懐かしい声が響く。
「ドラゴン1より各機、また懐かしい面子がそろっているな。こんな所で同窓会か?」
たまたまここへ来ただけに過ぎない伊藤 毅(
ga2610)へクラークが笑って返すと、今回の依頼について端的に説明する。
「なるほど。どうりで、いきなり撃ってくるおかしなやつらがいるはずだ――」
再び上空で旋回――かと思いきや、急上昇。一筋の閃光がスレイヤーを追いかける。
「やっと来たか‥‥今時の自称正義の味方はのろまなんだな」
「王零。こうしていると【天衝】に居た頃を思い出すと言うもの‥‥大空では無いのが残念だ」
「そうだな。他の皆は元気にしているだろうか――まぁ、今時の若いのじゃ天衝のことを知ってる奴も少ないだろうがな」
由稀のジェイナス・リペアは、輸送機と共に高空へ。雲に隠れ、ガンカメラでアメンドセイバーの貧相な装備と陣形を、皆に伝える。
「我々も、ずいぶんと舐められているようだな。増長しきった若造達に、本物の戦闘というものを、叩き込んでやる事としようか」
「蹂躙する事しか知らなかったというのなら、その身に徹底して教え込ませましょうか」
不敵な表情の兵衛とマキナ。
「一緒に戦うのって、何年ぶりだったかな?」
「リミッター解除でとなると、20年ぶりくらいにはなるんだろうね」
嬉しそうなキョーコの言葉に、久志も嬉しそうな顔をする――が、すぐに表情を引き締め、大きく息を吐き出して集中力を高める。
(今日のノルマは『無被弾』。大丈夫、お前とならできる)
「なるべくなら、若いお嬢さんの相手をしたいね? 少し、怖い目にあってもらおうか」
「好きにするんじゃな」
クラークと美具が走り出すと、スレイヤーがやや高度を下げ、アメンドセイバー達へと向かう。
「ドラゴン1より参加各位、状況開始する」
スレイヤーが挑発するかのように、ミサイルで足元の地面を狙って撃つ。
徐々に加速して旋回でバルカン砲をかわし、町へ向かって弱々しく飛んで攻撃を誘い、その攻撃を悠々と回避してみせた。
「おう、こんなロートルの爺様にも当てられんのか?」
「レッツパァァリィィィ」
スレイヤーに気を取られていたアメンドセイバー達だったが、その咆哮で、真正面に立って待ち構えている美具に意識を向ける。
その上、低空にまで高度を下げた輸送機が速度に緩急をつけながら、ハッチを下に向けた姿勢で旋回していた。
「ジェイナス、目標を狙い撃つ‥‥!」
発射された3発の高分子のレーザーが、フィーニクス・レイを貫く。
即座にリロードし、だいぶ間延びしている隊列の中央へ撃ち、さらに分断してみせた。
「さあ、遊んでやろうかルーキー。ボマー、頼んだよ」
分断を見計らって出したクラークの合図に、ビルが爆発。崩れ落ちる瓦礫によって、部隊は寸断される。
そして激しい掃射音と共に、量産型フィーニクスの膝関節が火花を散らす。
「あの頃のバグアは、生身でKVに挑んできたもんだぞ?」
クラークがまだ空転を続ける重機関銃を担ぎ、傾いたビルの壁を駆け上がっては跳躍し、瓦礫と煙の中へと姿をくらました。
気を取られている間に、その背中へ高分子のレーザーが直撃する。
「せいぜい逃げ回りなさい。鷹の目から逃げられれば、だけど」
その直後、量産型の前に土煙と煙幕を突っ切って突如、羅喉が猛スピードで懐へと潜りこむ。
ロンゴミニアトが量産型の右腕へ突き刺さり、炸裂。
止まらずに右へ回り込むようにターンして通り過ぎ去ると、ダーナヴァサムラータが姿を現し、レーザーの射出口をゼロ・ディフェンダーで切り落とした。
それから左へと回り込むようにターン、その逆サイドから羅喉が挟み込むと、左手のバルカン砲と右肩を同時に破壊。
「どうした? お前の力はその程度なのか? アメンドセイバーの名が泣くぞ……!」
「大戦の亡霊どもめ!」
パイロットが叫ぶと、量産型の頭部にゼロ・ディフェンダーの刃が突きだされた。
「自分より弱い相手としか戦えない汝らが、あの戦いを語るな」
「手加減は忘れるなよ? 王零‥‥」
「あぁ、わかってるよ。殺さないように、へし折ればいいんだろう?」
頭部に突き出した刃が引かれ、地面に突き立てられる。
「ほら、取れよ。正義の味方――余興だ、遊んでやる」
ジャイレイトフィアーを構えた王零が声をかけると、それを引き抜き、振りかぶって襲い掛かってくる。
身を低くして左へと急加速、振り下ろされる刃をかいくぐり、出力を上げ、スラスターによって最適化された動きで、瞬きする間に量産型の四肢を破壊する。
そしてコックピットへ、左腕に装着した篭手の電極を寸止めで突きつける。
「よかったな、戦時中じゃなくて。あの頃だったら汝ら死んでたよ。
そして、次同じ状況になったら‥‥我は容赦なく穿つからな――覚えておけ」
「ウィルコ、CASを開始する」
PDレーザーをかわし、毅のスレイヤーが地表付近にまで高度を落とすと、ミサイルで腕を狙った。
そして通り抜けざまに人型へと移行して振り返り、真スラスターライフルで火花をあげている膝を撃ちぬく。
膝をついたところで、その頭部を電磁ナックルで強烈に打ちつけた。
コックピットは、あえて狙わない。
「ねえ、どんな気持ち? 旧式機に手加減されるってどんな気持ち?」
そこで突如、コックピット内部に火花が散り、ハッチが強制的に解放される。
小銃を突きつけたまま、クラークが覗きこむ。
「こんにちは、ルーキー。どうした驚いた顔をして? 敵を間近で見るのは初めてかな?
なんだ、武器を抜かないのか? 生身の敵と対峙するのも初めてか? 撃つべき敵は、目の前だぞ――さあ、かかって来い」
はっとし、銃を手探りで探し始めるパイロット。
しかし無情にも「さよならだ、ルーキー」と、引き金を引く。
銃声。
そして、コックピットが赤く染まる。
――ゴム弾を受けたパイロットは、泡を吹き、気絶していた。
コックピットには、ペイントの臭いが立ちこめるのであった。
流れ弾のPDレーザーで、僅かに被弾した輸送機へ離脱を指示し、シールドを切り離すジェイナス・リペア。シールドを撃ちぬき弾薬を爆発させると、その爆炎で身を隠しつつも降下を開始する。
フレスヴェルグが残像を残しPDレーザーを回避すると、お返しにPDレーザーを撃ち返す。直撃させるも、さすがの最新鋭機とでもいうべきか、耐久性だけは高かった。
「旧型と思って、甘く見てもらっては困ります――と言っても、他の皆の方が別格ではありますが‥‥」
そこへジェイナス・リペアが降り立つと、バルカン砲を高機動で避けつつプラズマライフルで応戦する。
腕を穿ち、フレスヴェルグのフィーニクスレイが足を穿つ。一方的に当てるばかりで、一発も当てられることはなかった。
「‥‥弱すぎる。話にならない。
どんな姿であっても、フィーニクスは戦士の乗る機体よ‥‥治安維持の皮を被ったテロリストに、乗る資格があると思うな!」
激昂する由稀に気圧されていたパイロットが、「テロリスト、だと」と不満げに呟く。
「力を使った治安維持の、何が悪い! かつて人類が正義を勝ち取ったのも、暴力のおかげだろうが!」
「“正義は暴力を使って勝った側のことを言う”――ええ、その通りですね。戦が道理のひとつですし、否定はしません」
残った足の膝も撃ちぬき膝をつかせると、支えようとした腕の肘を由稀が撃ちぬいて、地面に頭部をつけさせる。あたかも土下座をさせる様に。
「――しかしならば、貴方達は“悪”ですね‥‥否定出来ますか?」
「力で勝てば正義? それじゃ、やっぱりアンタ達が悪ってコトね」
2人の言葉が被さり、頭部のメインカメラも撃ちぬくと、量産型に背を向ける。
「行きましょう、マキナ」
「マキナ、だと‥‥? あの『レオンハルト』の『デウス・エクス・マキナ』なのか‥‥!」
通り名を口にしたパイロットは、現役の戦士の前に恐れおののくのであった――
分断された後ろの3機へグレネードが撃ちこまれ、加速した紫電が跳躍。滑空しながら牽制射撃を続ける。
散り散りになったアメンドセイバーのうち1機が、修羅皇を見つけるなり、そちらへと距離を詰めていく。
「見た目で判断しちゃダメってことを、教えてあげるよ♪」
追いかける1機だが、紫電の牽制に怯んだ隙をつき、グングニルのブースターで修羅皇が一気に距離を詰め、腕を切り落とす。
「知覚機の物理攻撃なんて、新鋭機様にとってはへでもないだろ?」
通り抜け、プラズマライフルで足を止めさせると、着地した紫電が前進して距離を縮めた瞬間、察知し、身を捻ったその直後、閃光が通り過ぎ去った。
「レーザー撃つのに、射線見え見えなんだよね!」
(奥の手を使うまでもないな)
「何者だ!?」
「メイド・ゴールド推参っ‥‥なんてね♪」
久志の方は「音速騎士・ハヤブサ」と、はぐらかす様に返す。
「現役のハヤブサ乗りなんて、調べりゃわかるだろ? ただまぁ‥‥僕はそんなに腕の立つ方じゃないね」
言葉を返しながらも集中力を切らさず、バルカン砲を向けられるよりも早く離脱する。
2機が姿をくらますと、量産型は焦り、見まわしている。
「さて、力の差ってものを見せてあげるよ!」
2機が挟み込みながらゆっくりと姿を現し、じりじりと近づいていく。
近寄らせまいとバルカン砲で牽制するのだが、銃身の動きに合わせて動く事で、ゆったりとした動作のまま無造作にかわしてみせる。
「自分達のやってきたことを、その身で味あわせてあげる」
零距離まで詰めると、2機がほぼ左右対照で舞う様に、ソードウィングで関節部分を順番に、連続で切り刻む。
「死にたくなければ、ベイルアウトしろっ!」
強制脱出装置でパイロットが吐き出されるのとほぼ同時に、2機が雪村を、振りおろし斬り上げ、量産機をただの残骸へと変えるのだった。
「自らを高貴なる者と嘯くのなら、義務を果たすがよい」
そう伝えた美具を、閃光が包み込む――が、盾を構え、事もなげに立っていた。
「小童めが。温いわ!」
そして機体を美具が駆け上がり、ハッチに張りついて外部の開閉装置で開けると、中にいた女性パイロットの胸倉をつかみ、無言のまま片腕で抛り出す。
そのままコックピットに座り、適当な方向にPDレーザーを放つと、レーザーで破壊されたビルの瓦礫に埋まる前に機体を乗り捨て、再び姿をくらますのであった。
呆然と見上げる女性パイロットだったが、その肩を叩かれ、びくりと肩をすくめた。
「撃破されたら終わりだと思ったのかい?
君の様な美しい御嬢さんが敵地に放り出されたら……どうなるか、想像はつくかな?」
青ざめる女性の両手を片手で封じ、実に愉しそうな笑みを、クラークは浮かべるのだった。
「死にものぐるいで避けろよ。当たって大破しても知らないぞ」
長距離バルカンで適度に弾幕を張り、必死で回避させる忠勝。
それでも何とか間合いを詰めながらも、PDレーザーの反撃――しかし、そんな攻撃に当たってやるつもりはない。
かわりにレーザーライフルで、四肢を狙い撃った。
「胴体部分を狙う方が簡単なのだが、万が一の事があるからな。これは結構面倒くさい」
「なんで当たらない! 当たりさえすれば、こんなやつ‥‥!」
アメンドセイバーの隊長がそう叫ぶと、「ほぉ」と目を細めた兵衛が忠勝の足を止めた。
PDレーザーが放たれ、閃光に包まれる忠勝――だがそれなりに損傷はあるものの、平然としていた。
「ご要望通り当たってやったが、何がしたかったんだ。お前は?」
急接近し千鳥十文字で、そのレーザー射出口を、四肢を、寸刻みでこれでもかというほど、完膚なまでに叩きのめす。
「あの戦争の事も知らずに大きな口を叩くのは、恥をかくだけだぞ」
背を向ける忠勝。
そしてコックピットだけになった量産型のハッチが、外部から開かれる。美具がのそりと入ってくると、顔を隠していた布をはぎ取った。
「余の顔を、忘れたか?」
「あ、あなたは‥‥!?」
「そなたらの覚悟は見せてもらった。追って沙汰あるまでは控えるがよいぞ」
「おっつかれさま〜♪」
キョーコが久志に抱きつくと、一気に空気が和らいだ。
「ドラゴン1より参加各位、状況終了、繰り返す、状況終了」
スレイヤーが再び大空へと舞いあがり、終了を示す通信を残し、遥か彼方へと飛んでいくのであった――
世界はいつも、いつまでも変わり続けるだろう。だがそれでも、間違った方向へ進もうとするたびに、修正される。
そう、いつまでも変わらぬ君達がいるのだから――
【朗読】正義の行方 終