●リプレイ本文
●開始前
「先生、こちらをお納めください。そしてなにとぞ、お力を」
菓子折りを差し出したミル・バーウェン(gz0475)の前には、秋月 祐介(
ga6378)が正座して向かい合っていた。
「いいでしょう。この哭きの祐、ご期待に応えるとしますか」
(お嬢またアルナイ決戦て‥‥何してんだか。そこまでして、ナイってのを強調して世間に広めたいのかなぁ?)
やや呆れつつも蒼 零奈(
gc6291)は浴場に形状が様々な3色のコインをばら撒いていた。
「零奈君。ただ平均的に撒くのではなく、撮影も考慮して写線上に気持ち、まとめておくといいよ」
甚平姿の錦織・長郎(
ga8268)がそんな指示を出すと、言われたとおりに所々まとめていた。
蒼 琉(gz0496)と津崎 海は各部屋のセッティングに名簿の作成と忙しそうである。
「それにしても錦織さん、今回は裏方なんだね」
「遊戯関係は手慣れなくてね」
(ましてや秋月君が参戦するとなれば、稚拙な戦いを見せるわけにはいかないだろうしね)
まだ誰にも知らされていないはずの情報だが、まさしく蛇の道は蛇。
勝てない試合を挑まない長郎にとって、情報こそ命なだけはある。
「裏方ならば得意中の得意なのだし、それに――」
「それに?」
肩をすくめた長郎が、こう続けた。
「くっくっくっ‥‥その分、妻に優しくできるのでね」
思わぬ惚気に零奈は朴念仁の顔を思い浮かべ、「いいなぁ」と呟くのであった。
「ここにこいつで来るのも、2回目ですか」
黒いフィーニクスの足をゼロ・ゴースト(
gb8265)が感慨深げにさすっていた。
その手には小さなボストンバッグとカメラ装備一式に、端末となかなかの重装備である。
(さて、今回は色々と楽しむとしますか)
薄暗い格納庫の中で、不吉な笑い声が響いていた。
ダーク・ゼロ、降臨。
フェリーの上で海を眺めていた冴木 玲(gz0010)がぶるりと身を震わせる。
「何かしら、今の悪寒‥‥」
「風邪ッスか?」
今回の発端その1が声をかけると、頭を振って答えた。
「違うわ。ところで社長さんはどこかしら? 今回のことでちょっと言いたいことがあるの」
「誰かに会う約束があるとかで、一足お先に上陸してるッス。お嬢もなかなかはた迷惑なことするッスよね」
いけしゃあしゃあ――まさしくそんな言葉がぴったりである。
「胸のアルナイで対決。以前にもやったけど、惨敗だったものねぇ。お嬢」
定期健診があったので長郎とは一緒に行けなかったシスターが、ボマーの横で唇に人差し指を当てていた。
「それでアルナイ最終決戦、なのね」
「緊急事態と呼ばれて来てみれば‥‥何ともはや」
宇宙に浮かぶステーションにいるはずの藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)は一瞬だけ肩を落としたが、すぐにいつもの柔和な笑みを浮かべ扇子で口元を隠す。
「まあ、少し骨休めといこうかの」
「そんな意気ですよ。騙され仲間としゃれ込みましょう」
銀髪をスポーティーにカットしている、似合わない茶系のスーツを着た男が藍紗の頭の上でそんな事を言っていた。
いつもながらの無表情で、本気か冗談かも読み辛い男である。
「カカ、それもよいのうライン殿」
「歳も近いですからね」
「ふむ?」
見た目が幼い事を自覚している藍紗が首をかしげると、「26くらいでしょう」と事もなげに言いのけられ、それには藍紗の方が驚いてしまった。
「驚かれましても。大人の女性くらい、溢れ出る魅力でわかるというものです」
それではまた後ほどと、グレイ達の元へと戻るライン。そんな彼の背中をしばし、藍紗は目で追っていたのであった。
めっきり長くなってしまった髪を揺らしながら、日野 竜彦(
gb6596)が目を細め、大きくひと伸び。
「せっかくのバカンスだし、のんびりするか」
「メイがいないのが残念だけどね‥‥」
船酔いしたわけではないが顔の青いクレミア・ストレイカー(
gb7450)は、かじりつくように柵にもたれ、指で撫でながら呟いていた。
「仕方なかろう。アレはまだ学校開きたてで、そうそう休んでもおられんじゃろうて」
つい先ほどまでミルに置いてかれたとぶーたれていた美具・ザム・ツバイ(
gc0857)だったが、落ち着きを取り戻したらしい。
ふと進行方向――ミルのいる屋久島に視線を向けた。
「ミルよ‥‥アルとかナイとか、まだこだわっていたんじゃな」
あいもかわらずだと自分の伴侶に苦笑していたが、当然、全力で力になるつもりでいた。そのためにも今回はなかなか大人げない手を考えていたりもする。
視線を甲板に戻し、自分の姉妹達を目で追った。
いつも不機嫌そうな顔の美紅・ラング(
gb9880)に、口をへの字に結んで何やら教材と戦っている美海(
ga7630)。
そしてこの場にはいないが、麻雀最終兵器である美空・緑一色(
gc3057)まで呼び出していた。
「これならアルチームにあ奴がいても、勝てるじゃろう」
「ふふふ‥‥ある人? そんな方々に負けるわけにはいかないのです」
美具の呟き、黒を基調としたゴシックロリータ調の服に身を包んだシルヴィーナ(
gc5551)がぴょこんと反応する。
どことなく、犬耳が見える――本人的には狼耳か。
「しかも今回はおとーさんと一緒なのです! 勝ちます! 勝てます!」
妙に熱くなっている娘の頭に、ポンと手を置くクラーク・エアハルト(
ga4961)。優しく撫でて微笑んだ。
「ん、久しぶりに親子で遊べるね? シルヴィー」
「えへへー、そうなのです」
「なかなか、遊びに行くこともなかったからね」
「俺達も楽しもー」
「ですね」
おそろいの指輪を光らせたクラフト・J・アルビス(
gc7360)とモココ・J・アルビス(
gc7076)が顔を見合わせ、微笑みあう。
「モココのために頑張っちゃうぞー!」
「本っ当にお願いしますよ、クラフトさん。昨日言ってた麻雀で代わりに私が脱ぐなんて、冗談ですよね」
モココはさらに、そんなことしないよねと念を押す。
「そりゃあ流石に妻の裸を見られて黙ってられる夫じゃないかなー」
しかし、ふと閃く。
(あ、いつもより恥ずかしがってるモココが見られると思えば)
「‥‥あえて頑張らないのも、ありか」
「今何か言いました!?」
「別に―。ただ面白くしよーねって言っただけー」
眩しい笑顔で誤魔化すクラフト。
そんな彼らを日陰のベンチに腰を下ろし、楽しげに眺めている来栖・繭華(
gc0021)であった。
●昼の決戦!
温泉宿『海の家』で皆を出迎えたのは、まず現在女将代理となっている零奈、それに海と琉、そしてミルの4人。
「遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」
「集まったな、戦士たちよ! さあ戦いの始まりだ!」
零奈を押しのけやけくそ気味なミルが手を掲げると、賛同したシルヴィーナも手を掲げる。
「ある人よりも無い人が運動面などの機能性において、はるかに優れている所を証明してみせますです、同士!」
やる気に満ち溢れている2人が駆け出すと、美具が続き、めんどくさそうな美紅に怪訝な表情の日野など、ぞろぞろ動き出す。
「厨房に案内していただきたいであります。さわち料理長一級免許資格保持者の美海にお任せあれなのであります」
「どんな資格なんだか‥‥作ってくれるの? 美海さん」
「料理人に指示を出すだけの資格でありますから、作るわけではないのであります」
あまり役に立たなそうな資格で胸を張る美海を前に、零奈は眉根を寄せ首をかしげはするが、何も言わないでおく事にした。
「まあ暖かいものでも用意しようと思ってたし、それの手伝いってことで‥‥」
零奈は一応、美海を引き連れ、厨房へと姿を消す
「や、モココ。結婚式ぶりーって、そんなにたってないか」
「ですね」
笑顔で出迎える海に、微笑みで返すモココ。だがすぐに申し訳なさそうな顔をする。
「それで、今回もそんなに話せないかも‥‥」
「いいよいいよ、新婚さんだし。今を大事にして、余裕ができたら改めてね」
笑顔の海が手を振って見送ると、モココはクラフトに手を引かれながら幸せそうに手を振りかえして行ってしまった。
ほんの少し寂しそうな表情をする海。その背中に声がかけられた。
「にゅ、お久しぶりですの海お姉ちゃん」
「繭華ちゃん、お久しぶり。今日は楽しんでってね――あ、そろそろ着替えなきゃ。行こうか」
フロントファスナーで袖ぐりにギャザーの付いた、ピンクパープルと白のボーダー柄ワンピース水着。
それに着替えようとしてファスナーで苦戦している繭華を海が助けると、2人仲良く大浴場へと向かう。
繭華や海が着替えてるときからずっと、腕を組んだまま目をつぶり、壁に背を預けていた竜彦が冷や汗を流していた。
ちょっとトイレを済ませ更衣室に行こうとした時、海に「女性用はこっちです」と手を引かれるまま、今に至る。
色々危険な状況の中、竜彦はただひたすら人の気配がなくなるのを待っていたところに、ぺったぺった浴場に向かっていたTシャツに海パンの美紅が竜彦の存在に気づく。
「おや、たっくん。とうとう身だけでなく、心も女に成り果てたであるか」
明らかに落胆し大きなため息を吐き出すと、竜彦がくわっと目を開いた。
「ないから! というか身もなった覚えはないし、俺はれっきとしたおと――」
「おと?」
たまたま通りがかった玲が尋ね返すと、竜彦は言葉をぴたりと止めた。
今、自分は男だと言えば良くても半殺しだと、背筋にびっしり汗をかきながら、こう続けた。
「おと――乙女です」
「んなもん、知っとるわい」
涼しい顔で何をいまさらと美具が通り過ぎ去ろうとした時、美紅とポットを片手にやってきた美海がその肩に手を置き引き止めた。
柔らかな肌ではなく、無機質な感触。
「何してんだ、馬鹿かお前。今日は海溝何mの予定ですかと、聞かれたいのか?」
「それは大人げないという以前に、防御は完璧でも動きにくいであります」
2人して宇宙服姿の美具に冷静なツッコミをいれるのであった。
もう吹っ切れたのか、白いスクール水着を着用した現在のナイムネ代表とも言えるシルヴィーナが、天を撃ちぬかんばかりに腕を高く掲げる。
「このゲームにおいてっ! 機能面で遥かに有利な我々が負けるはずがないっ!」
仰々しくナイムネ陣営に手を振りかざした。
「この勝負は我々の勝利が決まっているのだっ!」
「水着、良く似合っているのですよ。頑張って点を獲得するのです」
絶好調に熱くなっていたシルヴィーナだが、クラークが褒めると一転、「わふ、がんばりますです」と素直に喜ぶのであった。
「にゅ、なんか楽しそうですの。繭華も混じりますの」
「さて、頃合いだね」
かなり広い大浴場に、ホイッスルの音が鳴り響く。
一斉に動き出す参加者達――だが、まるっきり事態がのみこめていないスクール水着の乙女1人、困惑していた。
「なあ、美紅、美具子‥‥なんだ、これは?」
「今説明受けた通りじゃろ。どう見てもナイムネ側だし、ナイムネの一員として頑張るのじゃぞ」
「いや、俺にあったら恐いからね。それよりも、俺が入っても男子比率上がらない事に疑問を投げかけたい」
地道にコインを拾い集めている美具が、「そこはもう諦めれ」と投げやりで返した直後、派手な水しぶきを上げて前のめりにすっ転ぶ。そして鈍い音。
プカリと美具が湯船に浮かび、漂っていた。
さっきまで竜彦の横にいた美紅が、お湯の中からゆっくり姿を現す。
「シスターズのブラスアームワームと言えば美紅の事である」
「獅子身中の虫ってところか」
言わんとしてる事を察し解説を入れ、やれやれと竜彦は美具を助け出す。
次なる獲物を求め、再び湯の中へと消えていく美紅であった。
ホイッスルが鳴る前までは、クラフトの前で「や、やっぱり‥‥こんな恰好するんじゃなかった」と恥ずかしがっていたモココだったが、勝負が始まると真剣になって銅コインばかりをせっせと集めていた。
集めては水着に手を潜りこませ、鎖骨の下あたりにコインを溜めている。
色々警戒して常に両手をフリーにさせるための行為だが、ただでさえ去年の水着できつかった胸元がさらにきつくなっている事に、本人は気がついていない。
クラフトは気づいていたが、面白いので黙っていた。
「よし、飽きるまでがんばろう」
なんとなく銀コインだけを狙って集めている――と。
「もらいましたぁぁぁぁぁあ!」
突如、白い影が横合いからダイブ、大きな水飛沫を作り上げコインをごっそり奪っていくと、ついでと言わんばかりに警戒していなかった『滑り込みアルムネ・モココ』を背負い投げで湯船に叩き込む。
「滅!」
大活躍中のシルヴィーナが、次なる標的として桶にコインを溜めていたクレミアめがけて突進し、同じように背負い投げで湯船に沈めると、コインを強奪していくのであった。
「酷い目にあったわ‥‥!」
クレミアが全力で、はっしと自分のブラを押さえる。寸前でポロリは防がれた。
(今の衝撃でほどける、なんてはずもないし‥‥?)
ふと、水面に掌を当て目を閉じている玲に目を向けると、その背後で玲のブラ紐に手を伸ばしているTシャツがいた。
(後で呼び出しね)
そう思った直後――玲の周辺に天井まで届くような水柱が。巻き込まれ天高く舞い上がる美紅。
玲は空中に舞い上がったコインを掴みとり、落下してきた美紅を抱きとめる。
「ごめんなさい、巻き込んじゃったわね」
獅子身中の虫、脱落。
白き狼は危険を察知していたらしく、難を逃れていた。
気を失った美紅を長郎に託すと、あまり人のいない端の方でせっせと1枚ずつ拾っている繭華がぼんやりとした視界の中に入った。
湯船に潜ろうとして、胸の浮力に苦戦しながら両手いっぱい集め、桶に入れて運んでいる。
殺気立っている皆と違い、ほのぼのとしたその光景に微笑む玲――と、繭華がふらつきへたり込んでしまったので慌てて近寄り、お姫様抱っこで助け出す。
「のぼせてしまったですの‥‥コインは全部差し上げますの、ですの」
「大変――海さん、部屋を用意してもらえるかしら?」
「用意できてますから案内します」
繭華に玲と海までいなくなり、鬼、ではなく狼の猛攻まであるとなると、アル陣営はもはや絶望的であった。
「なんだかな‥‥」
クレミアが投げ飛ばされたあたりで呆れた口調の琉がもらすと、クレミアに見惚れていた(ような気がした)零奈がむっすぅとしていた。
「むぅ‥‥あたしだって、水着になれたらあれぐらい‥‥」
その直後、クレミアの紐をほどいた美紅の姿が目に入り、全速で琉の目を塞ぐ。
「見ちゃダメっ!」
(見る気は別にないが‥‥このシャッター音は放置してていいのか?)
どう考えても今この瞬間、ゼロが激写しているのだが、そこはいいらしい。
イチャってる横でバスタオル一枚の藍紗が、最初から参加する気のないスーツ姿のラインに声をかけた。
「ライン殿は参加しないのかね」
「私は命を大事にする主義なのですよ」
はっはっはと無表情のラインだったが、ミルの「あぢー!」という悲鳴で途端に真顔を作り、視線を向け――何事もない事を確認すると少しだけ微笑んで、また無表情に戻ってしまう。
「ふむ‥‥?」
藍紗はそんなラインの横顔を、じっと見つめていた。
「ぼーがいこーさくー」
負けムードを察したのか、飽きたのか(多分後者)クラフトがホースで火傷しない程度の熱湯をナイ陣営に向け放水していた。
「あぢー!」
逃げ惑うミルに巻き込まれる形で竜彦も狙われたが、そこはさすがに冷静にかわしてみせると、後ろから美紅にやられた報復なのかクレミアが水着をひんむきにくる。
「やらせるかっての!」
それすらも振りほどき、湯船から逃げ出そうとしていた。必死であっても覚醒禁止のルールだけはしっかり守るあたり律儀な竜彦らしい。
「逃がさないわよ!」
「やかましい! くさっても歴戦の傭兵なんだよっ!」
湯船から脱出して大理石の床を駆け抜けようとして、盛大にすっ転んで後頭部をしこたま打ちつける。
ただでさえ滑りやすい大理石の上に、ボディーソープがまきちらされていたのだ。クラフトラップ見事に成功。
歴戦の傭兵、脱落。
だがもはや、すべてが手遅れだ。
再びホイッスルの音が響き渡り、終了を告げるのであった。
「くっくっくっ、集計に手間がかかるかもしれないと思ったが、一目瞭然だね」
言葉通り、アル陣営とナイ陣営の差は歴然だった。もちろん胸がではなく、コインがだ。
「お嬢達ばっかり、必死だったからねぇ」
こうして昼の部は、ナイ陣営の勝利で収めたのであった。
●夜の部!
海は繭華と、それに学校の友達も交えて外食に行ってしまった。保護者と言う事で、玲とクレミアもおまけに。
手すきだった琉が単品ものならすぐにできるからと夕食の準備を始めると、竜彦も手伝いを申し出た。
準備は慣れたものだし、抜き打ちで美紅達の嫌いなものが食べれるかチェックがしたかったのもある。
「ほい、おまっとさん」
皆の待つ部屋を開けると、すでにピリピリとした空気が漂いつつあった。
勝負はすでに始まっていると言わんばかりに、アル陣営の主戦力っぽい零奈とクラフトが牌の感触を確かめている。
多少具材豊富なカツ丼を各自に回していく竜彦と琉。
部屋の端でシルヴィーナともども座っているクラークの前にも、琉がカツ丼を差し出しながら首をかしげた。
「クラークは参加する気がないのか?」
「麻雀とかのルールはわからないので――シルヴィーはわかるかな?」
声をかけたが返事はなく、グラグラと頭が揺れているのでクラークは微笑み、横に寝かしつける。
「昼間、はしゃぎすぎましたからね。
ああ、蒼さん。忘れる前にコレ渡しておきます」
スーツケース2つ、ずずっと手元に引き寄せては琉の前にドンと置いた。
中を確認してみた琉は思わず、「何だこれは」と呟いていた。
「何って‥‥見てわかりません? コスプレ用の衣装。零奈さん用の。
サイズは多分あってるはず‥‥少しピッチリするくらい」
「これをどうしろというのだ」
どうしろと問われ、あはーと少々砕けた表情を浮かべるクラーク。しばし悩んでから、口を開く。
「まあ、お楽しみ用と言う事で」
コスプレ衣装に混じって『元気になる』漢方などもちらほら。何のお楽しみなのか、言及せずとも察しはつく。
「一応、蒼さんよりも経験あるはず? なので、聞きたいことがあれば聞いてくれて‥‥」
「‥‥おとーさんえっちいです」
むくりと起き上ったシルヴィーナがその一言だけ告げると、また横になって寝息を立て始める。
咎められた男2人、苦笑するばかりであった。
そこにガラッと戸を開けて入ってきた美空・緑一色(
gc3057)。この時の為だけに来たのだ。
「シスターズの麻雀秘密兵器であります。名前は美空・緑一色なのであります」
「こんばんは」
その後ろからエドワード・マイヤーズ(
gc5162)が紙袋を片手に登場。
「まあこれでがんばってくれたまえよ」
鰻の臭い漂うお菓子を皆に配っていると、勝負が麻雀であるのに気付いたのか「ポーカーとかブラックジャックだったら出てやってもいいんだがね〜」と肩をすくめて残念そうに眉根を寄せる。
「さあさあ諸君、夜も我らが勝つぞ! 最強の代打ちを用意したぜ!」
パイをかじっているミルが意気揚々としていた。
「先生、お願いします」
その言葉にふらぁ‥‥と姿を現した哭きの祐。
最強の龍、ここに降臨――それに驚いた零奈が立ち上がってミルを指さし叫ぶ。
「ちょっ! お嬢ズッコイ!」
「へへーん、これこそが人脈というものだ! 文句があるなら倒してみやがれ、アル者達よ!」
こうして熱き戦いの火蓋が切られた――。
「火花が散るこの勢いは如何なものかね」
スーツに着替えた長郎が、全体の実況を伝えるべく歩いていた。
(代打ち申し出るような人は警戒すんの当たり前―)
ということで、クラフトは祐介を避け1人でボマー、美具、美紅の3人と囲み、シスター、グレイが美海、美空・緑一色と、そして大本命の祐介は藍紗とともに、迎え撃つはこちらもまた有力な零奈に、よくわからないラインだ。
(ふふ、秘密兵器まで投入、そして我ら以上に息の合う存在などいないのじゃよ)
得意満面でいた美具。意思を通すためにも視線を合わせようとするが、美紅は全く見向きもしない。
(美紅、なにをしておる。今こそ我らの心を1つにして――)
さくっと北を捨てる。
「あ、まさか当たるとはね。ロンだよー」
大三元・字一色を立直単騎待ちしていたクラフトが美具を直撃する。
美紅に気を取られ過ぎて、全くクラフトの手を見ていなかった罰である。
「な、なんでじゃー」
涙ながらも、速攻でまっぱ(下着姿まで)にされ、壁際で正座させられる美具。
その様子を美紅はほくそ笑んでみていた。ここでも獅子身中の虫は大活躍。
「目的も果たしたので、美紅はこれでリタイアするのである」
満足した美紅は点棒を置いて、さっさと行ってしまった。
その後、基本門前のクラフトだが、親となった今は鳴きまくりの早上がりで、そこそこやる程度のボマーでは手も足も出なかった。
「むむむ、なんか勝てそうにないッス」
「そりゃあねー。一応ね、夫としてどうかってことになるかんねー、堅実に? 脱ぐのはモココだしさ」
「ク、クラフトさん!? 冗談だったんじゃ!?」
「あははー。絶対に負けないからだいじょうぶー」
冗談と言ってほしかったモココはがっくりとうなだれ、絶対に負けませんようにと願うばかりであった。
「自分ではなく相方の姿を賭けてる者も居るのだけれど、そこはどうだろうか。
しかしながら更に掛け金を釣上げる為に、肯定しておくかね」
楽しそうに笑う長郎は別の卓に顔をのぞかせる。
「おやおや、じゃっかん僕の奥さんが有利か――」
「ポンであります」
美空・緑一色が鳴く。
「おっと、ここで勢いで乗って出した牌が返された」
「生存戦略ー! ロンであります」
グレイの捨て牌に美海が宣言。
「和了る平和ドラ6であります」
「くっくっくっ、1人が鳴いて1人がダマでくるとはなかなか巧いコンビのようだね」
(もっとも、彼にはまだ遠く及ばないのだろうが)
彼――哭きの祐卓に目を向けると、零奈の手を掴んでいる祐介の姿があった。零奈の手に5枚目の牌が握られているのを見ぬいたのだ。
「‥‥勝負するなら技にしときな。面白くもない」
「えー? 証拠はないしぃー。多かったから抜いただけだよ」
無言で祐介は積まれてあった未開封の牌を開封し、全てを入れ替える。
(印もばれちゃったか。隙がないなぁ)
思惑が外れ、純粋に勝負するしかなくなった零奈はとにかく鳴きまくりで早上がりをするのだが、祐介が振り込む事はない。
かわりに浴衣1枚(下着は当然つけていない)で挑み、鳴かず静かにその場を動かす『できる感じに見える』藍紗が主に引っかかっていた。
詳しそうに見えるが、実は麻雀を打つのは初めてだったりする。
すでに1回目の脱衣で肩を出し、2回目で帯をほどいて今にも見えそうなギリギリのラインを保っていた。
だがそんな藍紗にも幸運がやってくる。
「ふむ、ここかの? 立直じゃ」
(打ち筋が無茶苦茶で読みにくいけど、危険な気がする――変えるか)
別に持っていた新品の牌を手の中で転がしていると、祐介がパイポを指に挟み、零奈を睨み付ける。
「やめときな‥‥勝負が白けるぜ」
見透かされている――こうなってくるとイカサマはできない。
(通れ!)
「それでロンじゃ」
「うそーん!」
「同じ牌を3枚ずつ集めればいいのじゃろ? これは何という役じゃったかの」
立直一発、しかも四暗刻と役満直撃コースであった。
「あ、あっぶなー‥‥なんとかハコいかなかったケド」
「すみません、私もロンだったりします」
味方であるはずのラインが満貫であがっていた。
「あれー!? ラインさん、味方でしょ?」
「はっはっは、勝負の世界は勝つ者が勝つ、それだけなのですよ」
「‥‥その通りですね」
祐介の眼光が鋭さを増す。
「打ち筋は解りました――ここからは本気ですよ」
ちょっと負かせて脱がせてくる的な軽いノリだったが、最強の龍が今ここで完全に目を覚ました。
そこからの祐介は、平和や七対子など確実性を求めながらも、手が狭くとも高い手は鳴きを仕掛け速攻勝負と貪欲に勝ちを狙いにいく。
それこそ敵味方問わず。
ラインが2回の脱衣をくらい、危険を察知してリタイヤ。
そうなると次に食われるのが初心者、藍紗であった。
「むう、これで3度目。残念じゃが脱落じゃな」
すっくと後ろ向きで立ち上がり、浴衣を滑らせ白くて綺麗な背中を見せつけてから振り返ってみせる。
すると真正面のラインとばっちり目が合い、何故か少し気恥ずかしく感じてしまった。
(生娘じゃあるまいてのう)
「ああ、思った通りにお綺麗ですね」
無表情ながらもそんな気のきいたセリフを投げかけ、自分のジャケットを藍紗の肩にかけると行ってしまった。
「ふむ‥‥我も失礼するとしようかの」
残された零奈。目の前の龍を相手にするには点数が心許ない。
「脱ぎたくないからリタイヤするね」
「それが許されるほど、勝負の世界は甘くないぜ」
「やーん、あたしの柔肌も下着姿も琉さんのなのー!」
クラークと談笑していた琉の所にまで逃げ込むと、その背中に隠れる。
何事かはよくわからない琉だったが、「まあ勘弁してやってくれ」と頭を下げた。
不完全燃焼の祐介は無言で立ち上がり、一息ついていた海空コンビの卓にどっかと腰を掛けサイコロを振り始める。
もはや誰が相手だろうと、勝負以外はどうでもいい。
それは海空コンビも似たようなものらしく、その勝負に乗った――が、運の尽き。
(これを捨てれば、美海ともども立直であります)
美空・緑一色が牌を捨てようとしたが、ぎくりとする。
言いしれぬ不安。先にかけられた祐介の単騎立直が何待ちかさっぱりわからないからだ。
(どうしたでありますか、早くそれを捨てるであります)
美海の目がそう訴えている。
だが結局、手を崩してでもその牌を捨てる事が出来なかった。
「臆病者は流れ弾に当たるであります。通らば立直!」
美空・緑一色がためらった牌を捨てる。
――だがしかし。
「そいつだ‥‥ロン」
「親役満!? ぶっとびであります!」
驚きのあまり口を三角にして固まってしまった。
「あんた‥‥背中が煤けてるぜ‥‥」
煤けた美海はもそもそと、心ここにあらず状態で脱ぐのであった。
「ある意味目の保養ではあるのだけれど、さすがに自重しておくかね。あとで存分に妻の姿を味わえば良いのだし」
長郎がシスターに流し目を向けると、琉の横でぶるぶる震えている零奈が目に付いた。
「だいぶ脱落者が増えたなぁ」
横並びの美具と美海をしげしげ眺めていると、突如零奈が大声を張り上げる。
「むぅぅ‥‥そんなにみたいなら、あたしの見てよぅ!」
服を脱ごうとしていた零奈を慌てて押さえつけ、「すまんがちょっと失礼する」と2人して廊下へと消えていった。
その間にも勝負は進んでいく。
というよりはほぼ一方的で、美空・緑一色は振り込まない逃げの一手で何とか1枚も脱がずに迎えたオーラス。
親の祐介はおもむろに蓮荘のツミ棒を追加しつつ、冷ややかながらも燃える目でブツブツと呟いていた。
「まだだ――まだ終わっていない‥‥まだまだ終わらせない!
地獄の淵が見えるまで、限度いっぱいまでいく‥‥!」
1本、また1本と増えるツミ棒。
「どちらかが完全に倒れるまで‥‥勝負の後は骨も残さない‥‥!」
「じゃ、俺とやろっかー」
もはや心で負けている美空・緑一色を押しのけ、クラフトが正面に座った。
アルナイ頂上決戦が、とうとう始まってしまったのである。
だが今の波に乗り切った祐介を相手では、クラフトと言えど厳しい。お互いの手の内を読みつつ、早上がり対決となると運を引き寄せている祐介には一歩及ばない。
あれよあれよで、すでに2回の脱衣刑(モココが)。
「‥‥さすがに笑えなくなってきた」
いつも眠気眼なクラフトだが、この時ばかりはマジな顔をする。後ろでオロオロしているモココが見れたのは良い事だが、モココの肌まで晒す気はない。
「俺頑張るから安心して後ろから見てなってー」
(怒ったモココはやばいかんね)
「私は絶対脱ぎませんからね! 缶ですけど、コーヒー飲んで頑張ってください!」
コーヒーを受け取り、一口――ただそれだけなのにさっきよりも集中できそうな気がするし、勝てそうな気がしてきたクラフトである。
そこからクラフトの猛追が始まり、点数的にはほとんどイーブンで迎えたオーラス。子である祐介は跳満以上でなければ逆転できない状況だが、最後の最後で波が途切れたのか今1つな引きで安い手しかできない。
(このままでいくと3飜止まり。さて、どうするか)
絶体絶命で祐介がとった行動は――
「立直」
宣言と共に、手牌を全て表にさらけ出す。
「オープン!?」
ロンを完全に諦め、残りたったの1手でツモ上がりの大勝負に全てを賭けたのだ。
そして祐介最後の1手。
息ができなくなるほど、ひりつく空気。唾を飲みこもうにも、喉がカラカラである。
「来ましたな――海底摸月、平和、開立直、一発。跳満です」
大きく息を吐きだし、いつの間にか落していたパイポを再びくわえた。
「自分が求めていたのは、完璧さじゃない――忘れかけてたよ‥‥」
眼鏡を外し、胸ポケットに差し込む。
「自分が求めていたのは手に汗握る緊張感‥‥ヒリつくような勝負だ!」
「だが、脱衣はもうやめて服を着ておけ。未成年集団がそろそろ戻ってくる時間だぞ」
廊下から戻ってきた琉と、顔を上気させた零奈。
何があったかは聞かないが、ミルは大きく頷いた。
「そうだね、我が陣営の大勝利だ!」
●勝負の影で
皆が麻雀に興じている頃、配膳が終わった後すぐに1人、外で星空を眺めていた竜彦。
数年間、赤い月を確認する様にいつも見上げていた空。見るたびに手を伸ばし、掴みとろうとしていた。
今やその赤い月は、ない。
これまでずっと、あの月に手を伸ばす事ばかりを考え仲間達と戦場を歩んできた。
それがなくなった今、何を目指せばいいか。少し迷った。
「Catch the Sky‥‥どんなに雲も星も遠くにあるように思えても、空は何処までも繋がってる。だから俺達は翼なんかなくても空をつかめる」
だから焦らなくてもいい。できない事などないのだから。
今はただ、多くの傷跡が残る地球の空の下で、この時間をゆっくり過ごしていたかった
「やぁ、負けた負けた――隣、失礼するぞ」
庭に出る縁側で黄昏ていたラインの隣に、ジャケット一枚を羽織っただけの藍紗が腰を下ろす。
その手にはしっかりとお猪口が2つに熱燗を持っていた。
「なにやら寂しそうじゃの、肩の荷が少し下りたような、そんな感じじゃが」
「そう見えますかね」
お猪口を受け取るライン。
酌をして、自分のお猪口をあおる藍紗は、ふっと笑ってみせる。
「お主は時々、ミル殿を見る時、妹を見るような目になるの」
「でしょうねぇ。事実、妹ですし」
あっさりと白状する。というよりは本人として、隠しておく気はあまりないようだ。
「あの子には言わないでくださいね。兄と知れば、私を使いにくくなるでしょうし」
「なるほどの、確かにミル殿の気性を見ておると無意識のうちにそうなるかもしれんの」
「きっと。それならば、言わない方がいいのですよ」
月明かりに映し出される、無表情ながらも寂しげな男の横顔をじっと見つめていた藍紗。
――少しの沈黙。
不意に身体を震わせると、ぴったりと身体を寄せほんの少しだけ白い息で甘い言葉を囁いた。
「今宵は少し冷えるの、ちと人肌が恋しい気分じゃ‥‥寂しい者同士、慰め合わんかの?」
「喜んで」
布団の中、寝そべっているラインの上に肌を重ね体温を感じながら藍紗は尋ねた、
「ライン殿、本当の名はなんという?」
「これも隠しているわけではないのですけれどね――アンス。アンス・マコーミックですよ。
あの子がそう呼んで以来、結局はラインで名乗るようにしましたが」
「そうか‥‥ならば2人きりの時はそう呼ばせてもらおうかの、アンス殿」
「では私は藍紗さんで」
背中に回した腕に、少しだけ力をこめる。
「ついでにもう少しお話させていただくと、私は母の連れ子なのですよ。ですからあの子とは半分しか血が繋がっていないし、旦那様とはまるでつながっていない。
けれども旦那様は私を可愛がってくれました。その恩に報いるためにも、あの子の力になりたいのですよね」
顔を上げ、胸の上の藍紗と視線を合わせた。
「あの子は色々な人から愛されている。ですから貴女も、あの子をこれからも愛してあげてください」
「‥‥ふむ、よかろう。じゃがな」
身体を起こし、ラインの顔を両手で包み込むと長い、長い、口づけ。唇を離して、ニコリと藍紗が微笑む。
「目の前にとびきりいい女がいるのじゃ、他の女を愛せよという話はご法度じゃろう? アンス殿」
「‥‥そうでしたね。失礼しました」
そして今度はラインの方から、唇を重ね合わせるのであった――。
海の友達と共に帰ってきた繭華はトランプなどで遊び倒していた。
寝る前に温泉で背中の流しっこをして浸かり(その時海にお母さんより大きいとか言われたとかなんとか)、胸が半分しか収まらない浴衣に着替えほっかほかで廊下を歩いている。
すると薄暗い部屋、ゼロの不気味な笑い声と闇に浮かぶ眼鏡、そんなものに出会ったが気にせずに部屋へと向かうのであった。
●決戦後
「よよいのよい! まけたぁ!」
「ごめんなさい、筋肉の動きで出る手がわかっちゃうのよ‥‥」
代表戦ということでアル側代表クレミアとナイ側代表にされた玲の野球拳一騎討ちはクレミアの惨敗に終わり、潔く脱いでいた(ただし大事な部分はちゃんとあらかじめ保護)。
近くではエドワードが「野球の試合で負けたチームが旅館で行われた対戦相手との夜の懇親会における宴会芸で‥‥」と野球拳うんちくをたれているが、誰も聞いていなかった。
ガラリと戸が開き、ただでさえこぼれそうな浴衣の着方なのに着崩した繭華が眠気眼で「うるさくて眠れないですの」と一言文句を言ってすぐに帰っていった。
そのあと、談笑しながらも麻雀を続けている横で、ミルがやや小声で叫ぶ。
「先日、やっとUPCと話がまとまった。ハンターライセンス制度が近々大体的に発表されるだろう。まあ野良キメラを退治しても小銭が稼げるって制度なのでな、興味が有れば調べてみてくれたまえよ」
「ああ、ミルさん。今後故郷で家族と共に暮らすのですが、ミルさんの所で非常勤の保安要員として働かせてもらってもいいですか?」
「前言ってたことだな。OKさ」
シルヴィーナをおんぶしたクラークは「ありがとうございます」とその場を後にした。
「ミルさん」
「ん、どうしたモココよ」
「‥‥今まで色々ありがとう。貴女がいなかったら今みたいなオーストラリアにはならなかった」
クラフトともども頭を下げる。
「私達の故郷をありがとう」
「よせやい、半分は女狐の意志だ。しかも利害あっての行動だ、感謝されるわけにはいかないね」
「それでも――ありがとう。感謝しても、しきれません‥‥」
涙ぐむモココ。
そんなモココに耳打ちをすると、美具と共に廊下へと消えていった。
残されたモココは、耳まで真っ赤である。
「なんだってー?」
「‥‥外のコテージ開放してるから、自由に使えって。あそこなら、その、声が出ても大丈夫だろうからって」
「わー楽しみ。今日は一杯がんばっちゃったかんねー、モココにご褒美貰わなくちゃー」
こくりと、クラフトの袖をつかんだままモココは頷くのであった。
どんなご褒美だったかは、2人の秘密である――。
2人して布団の上で正座し、向かい合って真剣な顔をしている美具とミル。
「美具の目的じゃが、姉妹達の居場所を見つけてやること。
戦争から平和へと能力者達を軟着陸させること。そしてバグアと平和的な再交渉を持つことじゃが――」
ほんの少しだけ視線を落し、指でもじもじしている。
「そのために政治家を目指すつもりであるのじゃ。ミルの大望のためにも、その、政治面からも必要じゃろうし‥‥」
「協力しろってことだね? 喜んでだよ――君の姉妹達の先は私の系列から向いていそうなところを選んだり、私の支援が必要な新事業であれば、出資しよう。無論、利があればと判断した時の話だがね」
「うむ、今は口約束でもそれだけ言ってもらえれば十分じゃな」
「その見返りを求めてもいいかね?」
「む‥‥?」
身構える美具に、今度はミルの方がもじもじしてしまう。
「なんというかだ。君との関係をもう一段階上げたいかなーと、そろそろ思うわけだよ」
眼鏡を外し、頭を深々と下げる。
「今宵は、よろしくお願いします」
「お、おーう‥‥」
こうして本当の最終決戦は、なくても勝つる! そんな教訓を残し、終わりを告げたのであった。
ちなみになんか女性陣の激写が各男性の枕元に置かれていて、混乱を招いたとかとか。
『アルナイ最終決戦 終』
お疲れ様だ、諸君。ありがとう。