タイトル:人類の勝利パレードマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2013/04/12 15:59

●オープニング本文


●道場

 視力が極端に落ち、目の前にいる相手がぼんやりとしか見えない。それでも神経を張りつめ、腰を落した冴木 玲(gz0010)は待ち構えた。
 ――と、相手の全体が微妙に動く。

(来る!)

 感覚的に捉え、玲は攻撃が来るよりも早くかわすべきところに身を置き、予定調和の如く伸びてきた腕を掴んではその勢いを利用し、相手を高く宙に舞わせ、床に叩きつける。
 ハッとした玲が慌てて手を離し、床に倒れている人物に声をかけた。

「すみません、おじい様。大丈夫ですか?」

 初老の男性は床から玲を見上げ、そして身を起こす。

「見事だ、玲――」



 板の間の道場に、玲は自分の祖父と向かい合わせに正座。道着に袴姿である。
 2人の正座は実に様になっており、凛とした空気をかもし出していた。

(初めて、おじい様から一本取れた)

 能力者になってからも、時折、こうやって稽古をつけてもらっているのだが、パワー、スピード、スタミナ。
 どれをとっても勝っているはずなのに、今まで一本を取った事がなかったのだ。

「不思議そうな顔をしているの。視力が低下して万全ではないのに、わしから一本取れた事が」

 こくりと頷く。

「モノは見えすぎるよりも、少し見えないくらいの方がよく見える事もある。
 見てから動くではなく、読んで動く――ですらなく、感覚で動ける。それがわしらの領域じゃな」
「これが達人の道の入り口、と言う事ですか」
「うむ。だがこんなものだけでは、お前の様な集団戦においてあまり役には立たん。
 仲間がいるならば、時にはすべてを委ねる事も必要となってくる。それを心しておくがよい」
「はい。ありがとうございました」

 深々とお辞儀をして、立ち上がる。この後すぐに戻らなければいけないからだ。
 自分のゆるんでいた精神を叩き直してもらうためだけに、ここに来たのだから。
 立ち去ろうとした玲の背中に、玲の祖父が言葉を投げかけた。

「気持ちはわかるが、あまり気落ちするでないぞ。玲」

 メシアの事だとすぐにわかった玲は少しだけ振り返り――微笑んだ。

「大丈夫です。皆が心配してくれましたから」

 そしてそっと戸を閉める。
 1人道場に残った玲の祖父は目を閉じ、玲と同じ表情を浮かべた。

「よくよく成長したものだな、アレも」






●インドのとある都市・上司の事務室

「人類の勝利パレード?」
「我ら人類が勝利した事は我々の間では浸透しているが、全く無縁な一般人にとって、今ひとつピンとこないらしいな。
 まだ多少続く小競り合いに、キメラの存在があるせいで」

 そういうものかもしれないと、口元に指を当て民間人の様相を思い返してみて納得する。
 日常風景だが、どことなく常に緊張感があふれていて、覇気はあるけど活気がない、とでもいうのだろうか。生きる事に意欲的ではあるが、精神的にはゆとりがない様な気がしたのだ。

「そこでひとつ、大々的な勝利パレードで終戦したのでご安心をというのを広めたい‥‥というのが表向きだ」
「表向き、と言う事は、やはり裏があるのね」

 カチャリと、刀の鍔を鳴らす。
 自分に話が降られる以上、必ずそういう何かがあるとは思っていたので、別段驚きはしない。

「現状では親バグア派や強化人間のほとんどがこちらの呼びかけに応じ、投降はしているが――それでもやはり少数は残っている。
 得た情報を総合した限り、もっとも脅威的と感じるスナイピングに特化した強化人間が6人、この地域にまだ潜んでいる模様でな」
「それは‥‥今までからすれば少ないけど、十分に脅威になりうるわね」

 ブラインドをがっちりと閉めている理由はそれかと、日の光を一切遮断しているブラインドに目を向けていた。

「そこで炙り出すための、パレードと言う事だな。餌は――君だ。
 直接的に戦争を終結させたのは傭兵達の働きが大きい、というのは彼らもわかっている。
 そこで露出も知名度も高い君が傭兵代表として参加し、狙うであろうポイントにいる強化人間達を他の能力者で制圧する、というわけだ」
「なるほど」
「パレードゆえに撃たせる前に制圧したいところだが、できなかった場合‥‥」
「私が撃たれるだけで済む。場合によってはそのまま死んでほしい、というわけですね」

 沈黙する上司。その沈黙が答えだ。

「言っておくが――」
「俺は反対した、ですよね。だけど逆らえきれないのが組織というもの、と」
「すまんな」
「いえ、ちょうどいいかもしれませんので」

 何がと首をかしげる上司を前に、玲は微笑んでいた。
 不満げな表情か無表情ばかりを見てきた上司は少しだけ落ち着かなくなる。

「ちょうどおじい様に、全てを委ねろと言われたばかりでしたので。
 全てを信じ、任せる。決して容易な事ではないですが、それでも頼ってみたいのです」
「ほう」

 ここ最近になって色々な人と出会うようになった。
 そしてその全員が、玲は好きである。嫌悪感を抱く相手など、1人もいなかった。


 皆、仲間だから。

「みんな、私なんかよりもずっと頼もしいですから」

●参加者一覧

新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●インドのとある都市
 パレードが始まる数日前。
 多くの人でごったがえしているメインストリートに新居・やすかず(ga1891)、錦織・長郎(ga8268)、クレミア・ストレイカー(gb7450)、夢守 ルキア(gb9436)、レインウォーカー(gc2524)が集まっていた。
 そこに少し遅れて冴木 玲(gz0010)が、ゼロ・ゴースト(gb8265)を連れて姿を見せる。
「遅れてごめんなさい。こちらゼロさん、少し前に知り合った方で、たまたま近くにいるから協力してくれるのよ」
「宜しくお願いします――人気者は大変ですね、元エースさん」
 苦笑するゼロを前に、肩をすくめ、つられたように苦笑いを浮かべる。
「ところで玲君、囮になるのは確定なのカナ」
 ルキアが親指でメダルを真上に弾きながら、そんな事を尋ねた。
「ええ、そうよ。決定事項ね」
「そっか」
 落下してきたメダルを指で挟むと、それを玲の前に差し出す。
「コレ、お守り。生きるコトダケを考えて、もうカードは配られたんだ」
 メダルを受け取った玲は微笑むと、それを胸ポケットへ。これでたまたま銃弾を防いでくれる、とかそんな事は考えてはいないが、それでもそのお守りは十分、玲に安心感を与えてくれる。
「ええ。だから強化人間の事は全て任せたわ」
「任せてよ。お互い生きていたら、チャイでも楽しもうよ」
「是非に、ね」
 2人のやり取りを眺め、長郎が口元を手で隠しながら薄く笑っていた。
(成程、名が売れているという事はこういう場合、囮にされると)
 影仕事に生きる人間としてはもはや、表舞台に興味はないのだが、それでも表舞台に立たされるという意味合いをまざまざと理解させられる。
(確かに彼女は甘んじて受けざるを得ないだろうが、だからとは言え本当に撃たれてしまっては申し訳ないのでね)
「気づかれず、尽力して襲撃を封じ込めようね。くっくっくっ‥‥影働きとはそういうものさ」
 肩をすくめ、小さい笑い声をもらしている。不謹慎かもしれないが、余裕とも取れる頼もしさがあった。
 そして笑みを浮かべている者がもう1人。
(懐かしい状況だ。帽子の男と初めて出会い、殺し合った状況に似ているじゃないかぁ)
「今回も阻止させてもらうよぉ」
 レインウォーカは誰に聞かせるでもなく、独りごちた。
「全く、諦めが悪いというか何というか」
 下見と言う事もあり、念のため正規兵を装ったやすかずが、この場にはいない強化人間に向けて溜め息交じりに言葉を放っていた。
 そして空を見上げてから、道行く人々に視線を落しては再び溜め息。
「終戦と言っても、一般人にとっては赤い月がなくなっただけでしかありませんか」
 伏し目がちに、言葉を続ける。
「きっと、それすらも大したことではないんでしょうね」
「そうなのかもしれないわね‥‥でも、その方が幸せなんじゃないかしらね」
 クレミアがニコリと微笑むと、「そうかもしれませんね」とやすかずも微笑み返す。
「あたしはこの通りを歩いて狙撃ポイントの割り出しをするけど、みんなはどうするのかしら?」
「僕もこの通りをメインに、歩きながら狙撃ポイントを予測していこうと思います。それと地図で選定した逃走経路を合わせることで、さらに候補を絞り込むつもりです」
「ボクは建物群を重点的に探してみるかねぇ」
 UPCの軍服姿で、これみよがしに勲章までぶら下げているルキア。
(私って言う囮はやっぱり、見劣りするな。顔を見られないとすれば、逆光になる東側が怪しい――なら)
「私、西側見てくるね!」
 そう言い残して、すでに駆け出していったルキア。
「なら僕は取りこぼしが無いよう、皆の見ないであろう部分を重点的に探りを入れてみようかね」
 ルキアが動き出したの皮切りに、長郎も歩み出すとそれぞれ行動を開始する。
 さすがに資料までは受け取っていないゼロは、視力の衰えている玲をやや遠巻きから護衛する事にしたのであった。


「さて、ポイントになりそうな所っと‥‥」
「ポイントだけでなく、不審者にも注意しませんとね」
 自然に歩きながらも、その目は常に周囲全体をくまなく確認していた。
(あそこらへんは隠れやすそうで、この角度だとあのあたりからの狙撃がしやすいか)
 地図を取り出し書き込みながらも、逃走経路を照らし合わせては次へと向かう。

「狙撃、か」
 手ぶらのレインウォーカーが建物を見上げながら独りごちた。
 コートの中にはチラリと布で巻かれたものが2本、見え隠れする。
(自分が狙撃手ならばどこから狙うか、相手の立場にたって考えるのもひとつの手かなぁ)
 そんな事を考えながら、ぶらりと歩き出すのであった。

 建物の中、ストリートからの死角、曲がり角を自分の目で確認し、ふと建物の中に目を向け、視線を上へ。
(高度差を考えると、建物内)
 そして道行く人々に視線を戻す。
(囮がいるとすれば、群衆に紛れている可能性もある)
 群衆の中に長郎の姿が。どうやら東側を確認しているようである。
 ただその群衆から時折、視線めいたものを感じる。それがなんなのか――自分という囮が生きているかもしれないとルキアは頷くのであった。
「うん、あらかたの目星はついたカモね」




●パレード当日
 パレードが始まる前から、道の脇にはいい場所を取ろうと人々がせめぎ合い、熱気にあふれていた。
 今回のこれが、人類が勝利した事を示すパレードだと言う事を本当に理解しているかはともかく、彼らにとってパレードは、久しぶりに見る娯楽なのだ。
 カメラを構えていたり、身を乗り出していたりと、始まる前からすでに興奮は最高潮に達していた。
 そんな民衆に紛れ、西側の歩道を歩いているルキア。
 ときどき「パレードどう?」とか「変わったことない?」と、現地語で質問を投げかけて2、3言話したのちに手を振ってその場を後にする――ふりをして、さりげなく相手の様子をうかがっていた。
(どっかに連絡してたら怪しいしね)
 もっとも、これで見つけられればラッキー程度であって、本来の目的はもう一つあった。
(こっちのガードが固いコトを示して、東に誘導しないとね)
 そうすれば、探るべき範囲は半分に絞られる――そういう狙いだ。
 ハンズフリーにしていた無線から流れてくる、玲の声。
「みんな、命預けるわ」
 言い終わらぬうちに始まりを告げる祝砲。
 バイク隊による、1台のバイクに何人いるんだというような組体操パフォーマンスが始まると、人々の熱気がさらに膨れ上がり、声を上げて前へ前へとひしめきあい、窓からも身を乗り出している。
(さて、ここからが本当に本番なわけだね。一般人への被害を広めず、出来うる限り、保護対象が想定射程内に到るまでに見つけ出したいところだね)
 街路から建物を監視している長郎。人が身を乗り出していない窓に注意を払っていた。もちろん、狙撃の射線を想定して、ある程度絞ってはいる。
 目を細めねめ回す彼の視線は、まさしく蛇そのものであった。
 ひしめき合う群衆から少し離れの後方、警備を装いパレードに合わせて動く、1人の正規兵がいた。ゴーグルで確認しにくいが、正規兵の姿をしたやすかずである。
 望遠機能を使いつつ、街路樹や群衆を警戒していた。
(狙撃手が群衆に紛れているとすれば、連絡を取ろうとするだろうし、もしかしたら爆発物や拳銃を使ってくる可能性もありますからね)
 鞄や懐に手を入れている者がいないか、そこに注目している。
 日の輪をくぐったりと派手なパフォーマンスのバイク隊が通り過ぎ去り、やっと歩兵部隊による普通の行進が建物の密集地域に差し掛かるかといったところで、とうとう動きがあった。
「‥‥ターゲット、1km後方に確認」
 そんな声がルキアの無線から流れてきた。
 西側の群集、その後方でパレードの後方を眺め、手を口元に当てている男がいた。しかも服装は観光客風ではあるが、女性服のサリーと勘違いしているのか顔に布まで巻いている。
 どう見ても怪しい姿だ。
「了解、待機する」
 東側の建物に目を向けると、2階の窓――ちょうど街路樹とかぶって道路からは見えにくそうなその窓、がっちりと閉められたカーテンが少し揺れ動いて隙間を作っていた。
 とにかく暑いインドでは日差しが入らないよう、昼間でも遮光のためにカーテンは珍しくないが、わざわざ隙間を作る行動はどう考えても、怪しい。
 無線機の周波数を変え、はっきり「ダウト」と発見の合図をルキアは流すのであった。
 ルキアの位置を確認したやすかずも、後方を眺めている男に気付き後ろを通り過ぎる瞬間に小石を弾き、反応の有無を確かめる――当たりだ。
「こちらやすかず、狙撃手を確認。距離を保ち待機します」
「こちら道化。いくつか怪しいのを見つけた」
 やすかずの言葉に続いてすぐ、レインウォーカーの声が流れてくる。
 窓から身を乗り出している人物に注目していた彼は、双眼鏡片手にパレードの後方を確認しながら電話を使っている男数人に目を向けていた。
 彼らがみなそうだとは思わないが、怪しい事には変わりないとおおよその位置を伝えると、しばしの後、長郎が低い笑い声をあげる、
「くっくっくっ‥‥位置を確認。レインウォーカー君が言っていたうち、1階が喫茶店のアパートと、外壁が赤と黄色のアパート、そのどちらもすぐ下、2階の窓でカーテンを閉め切っている部屋から銃口らしき照り返しを確認したね」
 気づかれないように移動していたクレミアが、長郎の情報を目で確認し、その2つの場所が見えて一番距離の近い向かい側のアパートへと潜入。
 管理人にパレードの関係者ですと、あながち間違っていない説明をして鍵を借り、狙撃手がよく見える部屋へと踏み込むと双眼鏡で様子をうかがう。
 カーテンの隙間からは、確実に銃口が見える。
「こちらクレミア、いつでも狙撃を阻止できるわ」
(最初の奴はルキアがやってくれるだろうから、ボクは最後の奴を狙うかねぇ――緊迫した状況だというのに、愉しいと思うのは不謹慎かな)
 狙撃手の真下で壁にもたれかかるレインウォーカーは、決して崩す事の無い笑みを浮かべたままそっと、懐の小太刀を握りしめるのであった。
「退路で待機中だね」
「それならもう始めちゃおうか。あと5分もしたら玲君がきちゃうからね」
 銃口の真下で紫色の銃身をした拳銃を真上に構えるルキア。
 クレミアも目を細め集中し、スナイパーライフルをぴたりと銃口に狙いを定めた。
 そして祝砲と共に2人とも、発砲。片や先端が潰され、片や銃身が花開く。
 同時にレインウォーカーは壁を一気に駆け上がり、ベルトのバックルからワイヤーを射出、銃身を固定すると抜身に布を巻いただけの小太刀で切断。
 窓枠に足をかけ、笑みを浮かべたまま狙撃手に声をかけた。
「大事な手札がひとつ減ったねぇ。それで、どうする?」
 部屋に置かれている無線機から「罠だ!」と誰かの叫び声。その瞬間、狙撃手は背を見せ廊下へと逃げる。
「逃がさないよ」
 レインウォーカが廊下に出ると、狙撃手がこちらに拳銃を向け発砲したが、壁を蹴り、天井に着地した愉しげに嗤う道化は、その首に小太刀を振るうのであった。

「狙撃した奴が逃走を図ったわ! 先回りしてっ」
 ライフルをその場に投げ出し、拳銃に持ち替えたクレミアが駆け出す。
 対岸の相手は諦め、やすかずの近くにいるであろう観測手の退路へと向かうと、ちょうど正面から鉢合わせる形になってしまった。
「観念しなさい。どこにも逃げられないわよ」
 クレミアが銃身を向けたその直後、祝砲の音に合わせ観測手の頭部から血飛沫が舞い、正面に崩れ落ちていく。
 その後方には、白銀の銃身を構えた正規兵――やすかずの姿が。
「爆発物でも出されると、厄介ですからね」

「それももっともカモね」
 銃身を撃ちぬいた後、レインウォーカーと同じように壁を駆け上がると狙撃手の足を電磁波で焼き、動けなくなった狙撃手。
 他に武器がないのか、ナイフを取り出しわめきながらなんとか腕だけで後ずさっている。
 彼の前でルキアは、いつもとかわらぬ冷ややかな瞳の笑顔で、告げた。
「君タチは私のセカイに必要ないんだよ」

 クレミアの連絡を受けた時点ですでに予測されていた退路で待っていた長郎が、姿を見せた3人の男達に有無を言わせず頭部を撃ちぬいていた。
「被害は最小限、かつ未然に防ぐものだからね」


 これらが、パレードに熱狂している裏側で行われていた彼らの知られざる活躍であった――




●パレード終了後
「どう? 怪我は無かった?」
「お陰様でというか、こちらは何事もなかったのだけど上手くいったってことかしら」
 ひとまず安堵の表情を浮かべたクレミアが、「ええ」と微笑んで答える。
「じゃあ玲君、約束通りチャイを堪能しに行こう」
「あら、他の方達は?」
「長郎君は会えるうちに会っておくとかで、オクサンの所にトンボ帰り。レインとやすかず君は事後処理だね」
 話しながら近くの屋台で何かを頼むと、玲の前にそれを差し出した。
「クルフィもよろしく。インドのアイスクリームって、美味しいんだよ」
 受け取った玲はただのアイスだというのに恐る恐る口にすると、顔をほころばせる。
「美味しいわ。甘い物はおばあ様の作るおはぎとか、ただのチョコくらいだったから、新鮮な感じがするわね」
「あなた、LHに住んでもうだいぶ経ってるはずよね‥‥」
 やや呆れているクレミアだが、「らしいといえばらしいかしらね」と苦笑を浮かべるのであった。
「それじゃ、次はチャイだね。通訳は任せてよ」
「ええ、存分に楽しませていただくわ――ゼロさんもいかがかしら?」
 パレードの間中もずっとひっそり護衛をしていたゼロが、ほんの少し考えたのちに「すみません、予定がありまして」と当たり障りのない返事をして行ってしまった。
(さすがに女性に混じって歩くのは、気恥ずかしいですからね‥‥)
 そんな事を考えつつ。
 こうして女性3人は男達に後片付けを任せ、平和となったインドを楽しんだという。




 そしてこれは後日談になるが、冴木 玲の視力は生活に支障がないレベルではあるが、完全には戻らなかったという。
 だがそれは、彼女を次なるステップへと押し上げただけにすぎなかったというのは、いつか語られるお話であろう。
 まだまだ能力者の戦いは、残っているのだから――


『人類の勝利パレード 終』